悪役令嬢リナ①
個人的には悪役令嬢は純愛だけど、思い付きで書いてみました。
ハーレム要素は後になってからで最初は個別かな?
「もうダメかしら・・・・」
魔物が蠢く魔の森でリナは絶望してそう呟いた。
もともとリナはとある国の公爵令嬢だった。
王子の婚約者としてふさわしくあるようにと、日々、勉強や礼儀作法などを学び、次期王太子妃として誰もが認める存在だった。
結果として王子本人との関係はあまり良好とは言えなかったが、信頼関係はあると思っていた。
しかし、それは魔法学園に入ってから大きく崩れることになる。
魔法学園に入学してから王子はとある男爵令嬢に恋をしてしまった。
そして、それまで聡明なはずだった王子は徐々に恋に溺れて愚かになっていき、次第に王子はリナの存在を疎ましく思うようになった。
それでもいつかはと、リナは必死に自身を磨くことに努力した。
そんなリナを嘲笑うかのように事件はおきた。
ある日の夜会での出来事。
ここ最近、婚約者の王子はリナをエスコートせず、恋した男爵令嬢ばかりをエスコートしていたので、リナは仕方なく友人とともに会場に向かった。
会場に入ると、リナは突然王子から婚約破棄を言い渡された。
突然の出来事にリナは放心するが、それで終わりではなかった。
リナが王子お気に入りの男爵令嬢に嫌がらせをして、なおかつ殺人未遂なことまでしたと、言われた。
さらには、リナは他国の間諜だという冤罪までかけられてしまった。
当然違うとリナは否定するが誰も耳を貸さなかった。
周りの視線は好奇の視線からいつしか侮蔑のものへとかわり、友人には心ない言葉で罵られた。
実の父や弟にも信じてもらえず、家を追い出されて、さらにはリナは国外追放された。
金品など何も持たされず追い出されたリナの悲劇はそれで終わらず、リナは男爵令嬢の信者らしき兵士に魔の森へと棄てられた。
魔の森は国から距離があるうえに、周りには街はない。
さらに、辺りには魔物が多数存在している。
魔物とは化け物のような力をもった生き物。
様々な種類の魔物がいるが、多少魔法を使えるだけのリナではどうしようもないほどの力の差がある。
リナは少しでも棄てられた場所から離れようとするが体がうまく動かなかった。
実は、兵士に捕らえられたときに、リナは足を捻ったらしき、まともに歩くこともできなかった。
リナは絶望して諦めた。
どう頑張ってもリナは助からないだろう。
人が通ることはなく、魔物はリナを見つければ襲い掛かってくるだろう。
事実上の死刑だった。
「なんで・・・こんなことに・・・なったのかしら・・・」
思考はどうしてこんなことにとそればかりがまわり、リナの心は黒く染まっていく。
ふと、そんなリナは絶望からか妙な考えが浮かんでしまった。
「物語の王子様が助けに来ないかしら・・・なんて・・・」
あり得ないことを妄想してしまう。
リナには隠れた趣味として童話が好きというものがある。
特にリナが好きな話は王子様がお姫様を助けてくれる物語でリナは最後にそんなあり得ないことを願ってしまう。
そんなことを考えていると近くの草むらが動いた。
《グルル・・・》
出てきたのは狼の姿をした魔物。
狼の魔物はリナを見つけると獲物を捉えたとばかりに低く呻いた。
《グウ・・・ガウ!》
ゆっくりとリナに接近していた狼の魔物は距離が半分になったところで跳躍してリナに襲い掛かってきた。
(さようなら・・・)
リナは様々な思いを巡らせて涙を流してから、そっと目を伏せて死の瞬間を待った。
しかし、しばらくしても襲ってくるはずの衝撃や痛みはなく、変わりに聞こえてきたのは男の声だった。
「大丈夫か?」
目を開けると、そこには見覚えのない男が立っていた。
背丈が180㎝くらいはある大きい男で、筋肉質な体をしていた。
顔つきは少し怖くも見えるが、整った顔立ちでいかにも危険な男という感じのどことなく魅力的な顔立の美男子だった。
男の手には血で濡れた剣があり、足元には先程リナに襲い掛かってきた狼の魔物の死体が転がっていた。
リナはとっさに言葉が出ずに首を縦に動かしてなんとか男に答えた。
すると、先程まではりつめていた男の表情は安心したように柔らかくなった。
「そう。よかった・・・」
心底安心したような笑顔にリナは場違いにも見惚れてしまった。
そのあまりにも純真な笑顔に。
あれだけはりつめていた表情をこんなにも柔らかくできる男にリナは胸を高鳴らせてしまった。
王子の時には感じなかった不思議な胸の高鳴りに戸惑いながらも、リナは男に思わず聞いていた。
「あの・・・何故私を助けてくださったの?」
お礼を言おうと思ったのにまずそう聞いてしまいリナは後悔する。
しかし、男は気にしてないのか不思議そうな顔で逆に聞いてきた。
「えっと・・・迷惑だった?」
「ち、違います!でも、こんな場所にいる女なんて罪人くらいでしょ?なのにどうして・・・」
自分でいってて悲しくなってくるリナ。
助けてはくれても男はもしかしたらこのあとリナに何かしらするかもしれない。奴隷にされる可能性もある。
よしんば、親切心だったとしてもリナが罪人としれば切り捨てるかもしれかい。
リナはそんなことを思いながらいつのまにか男にすべての胸のうちを語っていた。
男は黙って聞いていたが、最後までリナが話おわると目線をリナに合わせてリナの頭を撫でた。
「えっ・・・・?」
突然の出来事にリナは戸惑ってしまう。
そんなリナを男は優しく見つめていた。
「君はよく頑張ったな。俺なら壊れてたよ。」
「そ、んな・・・こと・・・」
頭に乗ってる手から伝わる熱とその言葉に涙が出そうになるリナ。そんなリナに男は優しく言った。
「君は最後まで自分の冤罪を主張した。それは誰でもできることではないよ。ましてや一人で今まで頑張ってきたなんて凄いよ。だから・・・」
そこで男は真っ直ぐにリナを見つめたわ。
その瞳の強さにリナはまたしても胸が高鳴ってしまう。
そんなリナに構わず男は続ける。
「俺は君を信じるよ。君の瞳は嘘を言ってない。だから信じる。」
「あ、あ、わた、わたしは・・・」
涙を堪えきれなくなったリナは俯いてしまう。
信じるという言葉をはじめてもらった。
誰もがリナを罵り、見捨てるなかで彼だけはリナを信じてくれる。それは何も残ってなかったリナの心に暖かな光をもたらして、リナは涙を流した。
そんなリナを男は黙って優しく頭を撫で続けた。
そして、これが悪役令嬢リナの初恋の瞬間であり、リナと男・・・勇者と呼ばれるカインとの出会いであった。