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第七章 鍛錬と結成

 自分の誕生日の次の日から、私は湊さんの元に通い始めた。幸いにも道覚えは悪い方じゃなかったから、鎌足さん達の店はすぐに分かった(因みに親には、「図書館に行ってくる」と嘘を吐いている)。

 私が来るとおばさんは早速、私に課題を課した。

「まず一時間私と一緒に走ろっか。ゆっくりでいいからさ」

 そう言われて私は、自分の練習着物に着替えると足袋を履かされ、とある場所へと連れて行かれた。

 そこは八百屋かまたりから一km程度離れた山中。そこには人が三人分走れるくらいのトラック(砂)があり、真ん中の草地には何でか物騒なものが多くあった。刀、大剣、短刀、鎌、弓矢、銃等々……。何だろうと思って観察していると湊さんが答えてくれた。

「ここは、私達が鍛錬するために作られた特注の修練場なの。真ん中にある武器は好きに使っていいけど、今はまだ早いから駄目ね」

 その言葉を聞いて思わず――

「えっ、何でですか?」

「だって、あなたはまず基礎体力を身に付けないといけないでしょう。私達のように幼少期から鍛錬を積んでいたって言うなら話は別だけど、そんなことはなさそうだし、まずは走ったりして体力と筋力を最低限のところまで上げることが重要なの」

 流石にいきなりはないと思っていたけど、まさか走ることからスタートするとは思ってなかった。

「と言っても最初の内は流石にあまり疲れさせることはしないから安心して。武器を扱わせるのは早くて一か月半後くらいになるけど、まぁ、気楽に行こうか。

 あいつらを見返す一歩だと思って!」

 その言葉を聞いて、私は改めてやる気を(みなぎ)らせた。


 それからの二週間はひたすらに体力と筋力のトレーニングの繰り返しだった。休みは多かったけど、内容はこんな感じ。

 来たらまず準備運動をして、一時間トラックを走る→二十分休憩→腕立て伏せ十回×三→腹筋十回×五→背筋十回×五(矢印の間、休憩五分程度。インターバルは一分)→十分休憩→再度一時間走るといったのを、学校終わりは一回のみ、休みの時はこのセットの間に一時間休憩を取り、しっかり休んでから三回繰り返す。

 正直、きつかった。何度も弱音を吐きそうになったけど――

「彩夏、今までの自分を変えたいのでしょう! だったら、しっかりしなさい! あなたは彼らを見返せるだけの力を持っているのだから!」

 その言葉に励まされ、めげることなく湊さんの訓練について行った。


 二週間が経過して湊さんが一旦、訓練を切り上げた。理由はというと。

「そういえばあなたに『封力印』を刻んでいなかったわね。それをしないと物操力がだだ漏れになるから、今日はそこに行きましょう」

 そうして連れていかれた場所は――

「あれ? ここって……」

 ……宮殿だった。

 ――何故に宮殿なの??

 そう思うのも不思議ではない。全然イメージが結びつかないからね。

 そんな心情はお構いなしに、湊さんは宮殿へと向かう。受付に着くなり――

「予約していた鎌足湊と川上彩夏です。本日は封力印の授印に参りました」

 そう言うと門兵がすんなりと入れてくれた。湊さんは堂々と入っていくが、私はおどおどしながら入っていった。そして、宮殿の入口で待っていたのは――

「お待ちしておりました鎌足湊さま、川上彩夏さま」

 沙恵だった。何というか拍子抜けしたというか……。

「本日はお忙しい中、私達のためにお時間を空けていただき、ありがとうございます」

 しかしそこは大人な湊さん。ラフな言葉は使わず、形式的な言葉を使って話し始めた。負けじと?沙恵も上品に返した。

「いえいえ、構いませんこと。では、こちらにお越しください。少し休んでいただいてから、授印を行っていきますね」

 こうして大人しい話し方をしていると、顔立ちも相まって気品が溢れていた。あの時の沙恵は偽物だったのか?そう思ってしまった。

 しかし、その幻想はものの一分で壊滅した。部屋について早々、沙恵は椅子にどっかりと腰を下ろし、背もたれにもたれかかり、怠そうな顔をしてこっちを見てきた。

「こんな形式ばったことなんかしたくな~い! おば様も、何で堅苦しい口調で言ってきてるの? いいじゃん、別にさ……」

 ゴスッ――

 すかさず、湊さんのチョップが沙恵の頭を捉える。さながら、子供を叱る親みたいな感じだ。

「…………!」

 結構痛かったのだろう。沙恵は、頭を覆うようにしてその場にしゃがんだ。

 そして、湊さんは静かに実の姪っ子を諭す。

「あのね……。言っとくけど、あんたとあたしの立場をしっかりと弁えなさい! あんたは王族、あたしは一般市民。地位も待遇も、雲泥の差と言っても過言じゃない位のものがあるのよ。あんたいずれは、次代の王に見初められることだってあるんだから、十分に花嫁修業と王族修行に励みなさい! いつまで経っても、ご両親から怒鳴られてしまうよ。主に国王の方にね!!」

 その言葉を聞いて、へぇ~、と内心で思った。沙恵は王族そのものであり、その両親は国のトップということに、普通に驚いてしまった。

 ――あれ? ということは……。

 私はとある事実に気付いた。

「じゃあ、私……、沙恵……いえ沙恵さんに敬語で話さなければならないじゃないですか? すみません! 今すぐにでも……」

 そう言いかけた瞬間。

 ポスッ――

 軽いチョップが私に襲い掛かった。見ると沙恵が目の前に来ており、少し怒ったような顔をしながらこっちを見ていた。

「だからやめてって言ってるでしょ! 私は堅苦しいのが大っ嫌いなの。同年代の子供達にまで気を遣われてしまったら、本当にやりづらくてね。それで、私のことを特別扱いしないような人が欲しかったのよ。勿論、力に惹かれて、っていうのも理由ではあるけど、大きな理由はそれで彩夏を呼んだんだから」

 それを聞いて私ははっとした。王族には王族の悩みがあり、沙恵の場合はあまり尊敬されたくない一心で、同年代+特別扱いしない人を条件に護衛を探していたんだと、この時初めて知った。

 私は何だか申し訳ない気分で、沙恵を見つめてしまった。それを目敏く見つけた沙恵は、更に一言付け加えた。

「もう、そんなことで一々落ち込まないでよ。私は気軽に話せる人が欲しかったから、それでいいのよ。これからも気軽な感じでよろしくね」

「……うん」

 そうして改めて、私は彼女の護衛として、そして、友達として――それでいいのかはさておいて――のスタートを切ったのだった。


「そういえば、授印だったね? ちょっと待ってて」

 そう言うと、沙恵は一旦部屋を出ていった。しばらくすると戻ってきて、私達を呼ぶ。

「準備ができたみたい。行こうか」

 沙恵、湊さん、私の順で廊下を歩く。部屋を出て右方向に曲がり、向かった先は――

「うわぁ……。何て大きい所なんだろう……」

 思わず言葉が漏れた。

 上は一面ガラス張りで、柱や床は大理石が円形の場所にひしめいていた。さながら大聖堂といったところだろうか。目を見開いて見とれてしまった。

「相変わらず馬鹿でかい所ね。どうやって作ったのやら」

 湊さんもつい口を漏らしてしまうくらいだった。しかし、沙恵は別段どうでもいいという感じでこの場所を見つめる。通い慣れているからかな? と考える。

「さて、おば様、彩夏。時間もないから儀式に移ろう。訓練の時間も惜しいだろうし」

「そうだね。じゃあ、始めてもらっても良い?」

「大丈夫だよ!」

 そう言って、沙恵がこっちに近づいてくる。そして私の両肩に手を置いて――

「よし彩夏、まずは全裸になっていただこう!」

 …………。

「えっ!?」

 思わずこう答えてしまった。あまりの唐突なことに、私の理解のキャパシティが限界を超えた瞬間だった。

「えっ、ぜ、全裸??? 何で????」

 ますます疑問符が付いていくが、沙恵は涼しそうな顔で返答した。

「しょうがないのよ。儀式を受ける時は生まれたままの身で、あの中央へ行ってもらわなければいけないのよ。別にすぐ終わるから大丈夫だよ」

「いや、そういうことじゃなくて……」

 ――恥ずかしいよ……。

 まさか人前で裸になる瞬間がいきなり訪れるなんて、思いもしなかった。渋る私に沙恵が諭す口調で話しかけてくる。

「今のままこの世界で過ごしていると、物操力の不足で瀕死の状態に陥るよ。封力印はそれを防ぐために必ずなくてはならない印なの。今この空間は完全に女性だけにしているから大丈夫よ。それとも、私を守るって言った言葉は嘘だったの?」

「いや、それは……」

 嘘ではないから余計に断れなくなった。

 一分後、私は腹を括って渋々全裸になることにした。

 正直、この頃のプロポーションはあまり良くない。胸もまだちっさいし……、くびれはないし……、お尻が少し大きかったからね……(今はどうかって? 聞くのは野暮すぎでしょ!! べ、別に、普通位だよ……)。

 そういえば、沙恵は何故か苦々しい顔をしていたけど、何でだろうとは思うだけで聞くことは出来なかった。理由はあとから分かったけどね……。

 そして建物の中央に進む。床には半径三m程度の円の中に、不思議な模様が刻まれていた。その更に中央には、円で囲まれた部分が存在し、そこには何も書かれていなかった。

「そこに立っていてね」

 沙恵がそう伝える。私は指示通りにそこに立って、次の動作を待つ。

 そして沙恵が、円の外側、私の真正面に立ち、目を閉じる。

「今から、封力印の授印式を始める」

 すると、模様が光り出した! 私は思わず後退ろうとしたけど――

「ダメよ彩夏!! 動いちゃダメ!!」

 湊さんの言葉が私の行動を制した! 何とか思い止まる。

 沙恵を見てみる。目を瞑り、前で合掌しながら、呪文を唱え始めた。

 《汝の力よ そなたの力は汝の宿主を食い殺さんとす その力を隠し抑えるためにこの力を用いてお前を御す 出でよ水の封力印 彼のものが宿す力の扉となりて その者の生きる道を正しく示せ》

 模様の輝きがますます増していき、心なしか青みを帯びていた。あまりの眩しさに私は目を瞑るしかなかった。その時――

 左手に何かが入りこんだのを感じた!!

 光が収まり、目を開いて左手を確認する。

 ――あっ、湊さんの印と一緒。

 そこには水の字が印字されていた。まるで墨で描いたような文字に驚く。

「もっと痛いものだと思ってた……」

 思わず、当初思っていたことを口に出してしまっていた。何せ刺青と一緒のような感じで、彫って入れているのだと思っていたのだから、当然と言えば当然なのだけど……。

「大丈夫? 気分はどう?」

 さっきまで円の外にいた沙恵が、いつの間にか私の元へと駆けつけてきていた。私は心配を掛けまいと笑顔で応じる。

「大丈夫。眩しかったけど、それ以外は何ともないから」

 その言葉を聞いて安心したのか、沙恵がほっと息を吐いた。

「これでようやく、私達と一緒の魔人(まびと)だよ。改めてよろしくね!」

 そう言ってから右手を差し出してきた。私もその手を握り返し、これから付き合っていく相手の顔をしっかりと確認する。

「こっちらこそ、精一杯あなたのことを守れるよう頑張るよ」

 こうして、私の授印式、そして、魔人として生きる道が本当の意味でスタートした。


 宮殿を後にして、私と湊さんは再び訓練に戻った。そこで湊さんはこんなアドバイスをしてくれた。

「筋肉を鍛えたり、体力を鍛えたりする時には、操力を使わずにした方が良いよ。その方が筋肉の負荷が大きくなって、より鍛えられるからね。すると、かなり大きな操力にも耐えることもできるから、一石二鳥なんだ。これは因みに、私と旦那くらいしか分からないことなんだけど」

 なるほどと思いながら、自らの力を封じる印を撫でる。つまり、まだこの力も無暗に使ってはいけないということだった。

 そしてこの後、二週間やってきたことと同じメニューを繰り返し、今日はお開きとなった。


 帰途についた私はその最中、重大な問題に気づく。

 ――そういえば、この印見えるんじゃないかな?

 明らかに大きな文字。しかも肌色とはほぼ真逆の黒色で描かれている。目立ってしょうがないのである。

 大丈夫かなぁ、どう言い訳しようか、と考えながら玄関を開ける。早速リビングへと向かい、帰ってきたことを知らせる。

 お父さんが返答してこっちを振り返るが、左手の文字には気づいていないみたいだ。今度はお母さんのいる台所へと向かって、分かりやすく示してみる。しかし、こっちも気づかない。下の姉弟達にも聞いてみたが、首を振って答えてくれた。

 どうやら、この封力印は物操力を持っている人以外には見えないみたいで、こっちとしては好都合だった

 とりあえず、そういうところを確認したところで、私は自室に向かう。自分の部屋に入って最初にすることは、物操力を試すことだった。

 水の文字をなぞってみる。そして、技をイメージする。指先に神経を集中させ発動させる!

 …………。

 何も起きなかった。

 ――あれ? おかしいな?もう一度!

 しかし何度やっても、何度なぞっても、水の玉は出てこない。訳が分からなくなってきた。

 とりあえず、ご飯だよー、との声が聞こえてきたから、しょうがない為、諦めることにした。そして、疑問符を頭一杯に溜めながらご飯を食べることとなってしまった。


 次の日、再びカンゲンに向かった私は、着いて早々力を使ってみることにした。

 文字をなぞってイメージを作り、指先に水の玉を作る。

 今度はうまくできた。でも何故だろう??

 そんなことを考えると、一つの答えに行き着いた。この力はこっち側の世界でしか使えず、地球では使用不可能なことが分かった。

 そのことを湊さんに伝えると、待っていたのは――

 ゴンッ!――

 げんこつだった。

「勝手に力を使おうとしてはダメ! 開放して力が制御できなかったら、自分じゃどうしようもないのよ! 使えなかったから良かったけど、私が許可を出すまではダメだからね!」

「……はい……。ごめんなさい……」

 相当痛かった。これの何倍もの力で友彦さんをぶん殴っていると思うと、何となく友彦さんが可愛そうに思えてきた。

 そして、それからの二週間は少し訓練がハードになった。

 いつも通り準備運動後、一時間半のマラソン→休憩二十分→腕立て伏せ十五回×三→腹筋二十回×五→背筋二十回×五(矢印間の休憩五分程度 インターバル一分)→休憩二十分→一時間半のマラソン(少し早めに)という感じ。

 流石にしんどくなってきたけど、フォローがうまいのか、湊さんは優しく声をかけながら私のことを見守る。そのおかげで、少しハードになってもついていくことができた。

 また私はこの頃、カンゲンから帰って来た後も、宿題をして食事が終わってしばらくしてから走るようにしていた。時間は一時間。スピードは速めず、一定に保ち、近所をぐるぐるしていた。

 するとその成果が出てきたのか、体育の授業が楽になってきた。と言ってもこれは二学期の話になるから先も先なんだけど、日常生活でも長時間歩くことに抵抗がなくなり、駅まで十km道のりを歩きで行こうとか思うようになっていた。

 更にそこから二週間は、こちらが夏休みに入ったのと同時に、訓練をハードにしてもらった。

 具体的にはマラソンを二時間、腕立て伏せのセットを五回に、腹筋・背筋を十回にしてもらい、朝は八時半から夜六時までみっちりやるといった感じである。たまに店が忙しい時は一人で出向き、一人でトレーニングを行う。時計という便利品はないけど、いつも湊さんが計ってくれている位の時間でインターバルや休憩を取っている。

 ほとんど毎日出向き、練習できなかった場合は、自宅で鈍らない程度の運動をして過ごした。


 訓練を初めて一か月半後、いよいよ武器を使う練習が入ってくる。その際に湊さんがこんなことを聞いてきた。

「彩夏、何か使いたい武器はある?希望があるならそれを優先させたいからね」

「そうですね……」

 そう思って武器置き場を見てみる。するとあるものが目に留まった。

「銃?」

 それはライフル式の銃だった。シルバーの銃口にグリップの良く利く持ち手。何故か私はこれがとても気に入った。

「湊さん、これ使っても良いですか?」

「まぁ、あなたが気に入ったなら、全然構わないわよ。それを使うならもっと特殊な所に行かなきゃね」

 そうして私と湊さんが向かったのは、街中にある射撃訓練場だった。

 耳栓と弾薬を借りて、的の前に立つ。

 湊さんや店の主人からアドバイスをもらい、銃を構えてみる。

 ――引くのは右手の人差し指、左手は添えるだけ……。

 そして、引き金を引いた!

 パァンッ!!――

 乾いた音が耳栓をしていても耳に響いた!銃口は上を向いてしまったけど、的には辛うじて当たった。何というか――

 ――面白い……!

 そう感じた。そのまま湊さんに首だけ向け――

「私、これ使っていきたいです!」

 そう提案した。湊さんも満足気に頷いた。

 それからの一か月半は基礎練習もやりつつ、銃の扱い方や戦いの方法、実戦訓練等、忙しい日々となった。彼らを見返すために、彼らと共に戦えるように……。


 こうして、あっという間に約束の三ヵ月がやってきた。


 ***


 あぁ、長い休憩だった……。おっ、結構進んでいるねぇ。じゃあ、またナレーさんが話し始めますか。


 その約束の三ヵ月。例の三人『村中康一』、『槙原(ひさ)寿(のぶ)』、『西平境(にしだいらけい)』は約束の時間まで互いに実戦練習をしていた。一対一、一対二、はたまたバトルロワイヤル形式でこの三ヵ月、自分達を鍛えてきた。勿論、勉強をしながらだが、それでもかなりいい感じに仕上がったと自分達は思っているようだ。

 約束まで残り一時間の鐘が鳴った所で、彼らの練習は終了した。後は彩夏の到着を待つだけ。

 その間、彼らはこんなことを話していた。

「正直どう思う、あの川上彩夏って奴。使えると思うか?」

 そう口にしたのは、出会って早々で彩夏に啖呵を切った境であった。それを聞いて康一は少し反論をする。

「確かに、不安な要素はいっぱいあるけど、人はやってみないと分からない所があるよ。まぁ、使えなかったら沙恵が自ら手放すだろうさ」

「それもそうか……」

 だが、それに反対する奴が一人いた。

「え~っ、でもあの子強そうだったよ。三か月あれば、俺達位にはなっちゃいそうな素質があると思ったんだけど」

 久寿である。彼は彼女が強くなっていると信じて疑わないらしい。しかし、そこに境がかみつく。

「いやいや、何の根拠があってそんなこと言えるんだよ。弱そうな奴だったじゃん」

「何となくだけど、あの子の強い意志は凄かったよ。だから、死に物狂いで練習しているんじゃないかなぁと思ってね」

「全然、理由になってねぇじゃねぇか」

 はぁ、と溜息を吐いたその時――

「みんなお待たせ! 彩夏来たわよ」

 沙恵が声をかける。三人がのろのろと立ち上がり、沙恵の呼ぶ方向へと向かう。

 行ってみると確かに、三ヵ月前に見た彩夏の姿がそこにはあった。

 しかし、雰囲気は同一人物と思えなかった。

 筋肉はそこまでついていないが、目には闘志が、立ち姿には隙をほとんど見せない凛とした雰囲気が漂っていた。

 着ている服装も、自分達とは違う。下は袴を真ん中で裂いて脚の部分を巻いたような、上は布に穴を空け着ている感じと、上から更に羽織を着ているような感じだった。足元は足袋ではなくこれまたよく分からない奴だった。

 第一印象からがらりと変わっていた彼女を見て、彼らは若干驚いた。

 ――まさか、あいつの言った通り、本当に強くなったのか?

 境は、その三人の中でも特に驚愕していた。明らかにあの弱々しい面影は消えており、今目の前に対峙しているのは、一戦士として立っている少女だった。

 対峙したまま黙っている四人に対してシビレを切らしたのか、沙恵が声を出す。

「コホンッ。えっと、誰が最初にやる? 誰とでもいいけど……」

「俺が、相手してやる」

 その言葉に反応したのは、一番敵対心を剥き出しにしていた境であった。


 勝負の準備が整い、二人を残し一同は宮殿の二階から観戦する。

 そして沙恵が大きな声で合図を送る。

「準備は大丈夫?」

 二人が手を振って答えた。それを見届けて沙恵が声を発する。

「じゃあ、始め!」

 こうして、戦いが始まった!

 ――ふん、所詮三か月程度の付け焼刃。圧倒してやる!

 境はそんなことを考えながら、相手との距離を測っていた。

 彼の攻撃の特徴は、短刀を用いた素早い斬り込みである。一瞬の隙をつき、相手の懐へ飛び込み、一気に斬り付ける。一見、無軌道のように見えるが、ナイフを何本も持っているため投げたりしながら、相手の注意を逸らしつつ、最後に一発をかますのが彼の持ち味である。

 だからこの場合も彩夏と自分との間を見つつ、どうやったら相手が隙を見せるかを考えていたのである。

 ――さて、動くか?

 少しの挙動に注意して、観察している。すると――

 彼女がおもむろに銃を構え始めた! そして、構えたと同時に――

 パンッ!――

 撃ってきた! これにはさすがに驚き、左に避ける境。それを見逃すまいと彩夏が近づいてくる。受け身を取りつつ、立ち上がりしなナイフを放つ! しかしこれは、あっさりと避けられてしまう。その代わりに、彩夏が銃を構え直し、再度発砲する!

 これも寸での所で避け、これじゃ敵わないと判断した境は、脱兎の如く走り出した!

 彩夏はそれを見失うまいと、必死になって追っていく。だが、彼はすでに彩夏の背後を取ろうとしていた。

 ――これで勝ちだ!!

 そう境は確信した。短刀の切っ先はあと数十cmで彼女の脇腹に届こうとしていた。しかし――

「まぁ、背後取るのが妥当だよね」

 そう言うと彩夏はひらりとバク宙し、その攻撃を避けた! そして、彼女の下を通り過ぎた彼の頭に銃口を向け――

「チェックメイトです」

 引き金を引こうとした、その時――

「そこまで!!」

 大きく発せられた声に、彩夏の手が止まった。声の方向を見ると、沙恵がいつの間にか下に降りてきており、こちらに走って向かってきていた。

 はぁはぁ言いながらきた沙恵はおもむろに口を開く。

「危な……かった……。危うく……殺して……しまいかねない……勢いだった……わね……」

 その発言を聞いた彩夏は目を丸くした。この引き金を引くと、相手を殺してしまいかねないことに、今更ながら気づいたのだ。

 もう一度、彩夏は自分の向けた銃を見やる。その手に持っているものの正体を改めて理解した瞬間、彼女は頭の中が真っ白になり、その場に倒れ、気絶してしまった……。


 ***


 再び、私のパートです。今のところは、そういえばこんな感じだったなぁと思いながら聞いていました。


 気が付くと、私はまた見知らぬ布団に寝かされていた。目を開けて周囲を確認する。

 すると、湊さん、沙恵、そして、例の三人が心配そうな顔で私を見ていた。

「あの……、私、今度はどうしたんですか?」

 その言葉を聞いて、他の五人は目を丸くする。そのうちの一人、槙原久寿が簡単に説明してくれた。

「君は何故か勝負がついた後、倒れちゃったんだよ。何が原因かは知らないけど、君はあれから三時間くらい眠っていたんだよ」

 それを聞いて、私の脳内に記憶がフラッシュバックしてきた!

 ――そうだ! あの時私は、あいつを殺そうとして……。

 慌てて起き上がって確認する。そして、私の右にいたそいつに声をかけた。

「あなた、怪我はない!? 私殺していないよね!?」

 唐突に聞かれたものの、彼は落ち着いて対応した。

「大丈夫だ。どこにも怪我はしていないし、ましてや死んでもいない。安心しろ」

 その言葉で、私は安堵の溜息を吐いた。でも――

「本当は殺すつもりじゃなかったの。ただ、あなたから先手を取れれば、あなたを見返せると思っただけなの。ごめんなさい!!」

 起き上がって頭を深々と下げた。これには流石に困惑したようで、おろおろしていた。

「良いんだって、彩夏。そいつも結構同罪のことしているんだから、おあいこ様だよ」

 そう言って湊さんは私を諭した。

「で、どうだった?彩夏と戦ってみてさ」

 その質問はさっきの彼に向けられたものだった。そして彼――西平境は、こう答えた。

「正直、なめてかかっていた節はありました。結果、俺は殺されそうになる。それは俺の油断が原因でもありました」

 その言葉を聞いて私はうな垂れた。けど――

「ただ、一番は彼女の成長と予想もつかない作戦でしょう。あそこで宙返りをするなんて思いませんでしたから。それに見のこなしや攻撃の素早さは、凄まじいと思いました。完全に俺の負けですよ」

「じゃあ、仲間と認めてくれるのね?」

 湊さんが人の悪い笑みを浮かべ問うた。それに対して境は苦笑交じりに答える。

「認めるしかないじゃないですか。これだけの戦いを見せられて、認めないなんてことはないでしょう。しかも、殺すことを嫌っている。俺はもう反対できる権利を持っていませんよ」

 ということは……。

「よろしくお願いするぜ」

 その言葉に私は、感動のあまり涙を流してしまった。流石にみんな「どうした!?」という表情になってしまっていた。

 今までの人生良いことが無く、ずっと周囲から蔑まれて暮らしてきた私にとって、認められることがどれだけ嬉しいことか……。彼らは知らない。

 だから、彼らのことはきちんと認めてあげよう。彼らを仲間として迎えるなら、私も相当な覚悟を持って動くべきだと、そう感じた。

 こうして私は試練を無事、乗り切れたのであった。


 その三か月後の任級認定試験で私達は丙級を獲得し、正式に(と言っても非公式的だが)沙恵の護衛として就くことが決定した。

 また沙恵に進言して、自分達の自警団を持ちたいと直談判した。理由としては、とある日にこんな会話をしたからだ。

 発端はこんな情報だった。

 〈二月十二日、神都中心で起きていた連続強盗事件の容疑者が今朝、○○○団によって見つけ出され、その場で殺されました。〉

 既に仮の詰め所を与えられた私達の所に、新聞が投函されており、このニュ――スを見ていた私は、憤りを覚えた。

「ねぇ、この見出し何なの! こんなこと良い訳? ただ強盗しただけで、容疑者が殺されるなんてさ。人も殺していないのに、これはいくら何でもあんまりじゃないかな!」

 それに対して西平境こと「ケイ」はこういった。

「う~ん、そうだよな。正直、やりすぎではあると思う。まぁしかし、世の中これを容認しちゃっているから、どうしようもない所ではあるよなぁ……」

「どうしようもないで片づけるのはダメだと思うけどね!」

 そう言って仮本部の椅子に座る。すると今度は、村中康一こと「イチ」が発言をする。

「一応、刑法はあるんだけど、多くの連中がこれを無視して活動できるからな。そりゃ、こういった事も多くなるわけなんだよ。憤りを感じるのは分かるが、少しは落ち着きなよ」

 私は何とかならないのかなと考え始めた。これじゃあ、まるで「勧善懲悪」の意味を歪曲してしまったようになってしまっているのが、堪らなく気に入らなかった。

 ――だけど、どうすればいいんだろう……?

 そう思っていると、今度は槙原久寿:通称マックス(まきはらひさのぶ="ま"きはら"久" "寿"=マックス)からこんなことを言われた。

「じゃあさ、俺らで自警団作らね?」

「「「えっ?」」」

 三人が一斉に振り向いた。

「確かに沙恵の護衛任務も重要だけど、その任務って多くはないんだよね? だったら、空いてる時間に俺達で、警察の手に負えない事件を追って、そいつらを捕まえればいいじゃん」

 しかし私は一つの疑念があった。

「殺人犯は殺さなきゃいけないのかな……。それだけはちょっとなぁ……」

 そんな弱気なことを言った瞬間、マックスは更にこんな提案を提示してきた。

「だから、捕まえた犯罪者全員を裁けば良いんだよ。殺人罪だってあるんだし、刑の重さもきちんと整ってはいるんだから、それで行こうよ。幸いにも俺達、誰も人を殺すことを望んじゃいない奴らばかりなんだから。それを売りにしていこう!」

 その提案に、イチも賛成の意を表する。

「そうだな。その方が全員の任級を早く上げることができるし、何より俺はそんな人助けをしてみたい。やるんなら、やろうよ」

 その考えを聞いて私はこう思った。

「つまり、

 犯罪者も被害者も第三者も、そして私達さえも殺さず、誰も死なせないことを目的とする集団

 ということ?」

「そういうことになるね」

 相槌を打ったのはケイであった。ということは、これって――

「全員、マックスの意見に異論がないってこと?」

 私はもう一度三人の顔を見る。その顔には、当然、という答えが刻まれていた。

「はぁ、あんたらあたしの無鉄砲さに付き合っていたら、命いくつあっても足りないかもよ」

 そう言ってもう一度、確かめてみる。すると――

「「「別に気にしてない。俺たちは彩夏についていくって決めたんだから!」」」

 三人が一斉に同じセリフを口にした。更に――

「何だかんだ言ってよ、彩夏、お前といると楽しいんだよ。ケイもマックスも」

 イチがそう言って締めくくった。

 何というか恥ずかしい……。

 じゃあ、と前置きをして私はもう一つの問題を発した。

「名前どうしようかね……」

 ここにきて全員がう~んと唸ってしまった。

 頭を悩ませていると、ふとこんな言葉が浮かんだ。

「我ら殺さずを誓う者……」

 そう口にした途端、イチが――

 パァン!――

 と膝打ちをしてあたかも閃いたかのような感じになる。そして聞こえるように言った。

「我ら殺さずを誓う者、略して『我誓不殺(がせいふさつ)』っていうのはどうだ!」

 それに異を唱えるものはなかった。

 こうして、私達は後の国認定自警団「我誓不殺」を立ち上げたのであった。


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