第六章 再会と仲間
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ナレーさんから、軽いパスを受けて今度は私が語り部ね……(っていうか、本当に誰?)。
内心は物凄くドキドキだった……。ばれたらどうしようとかそんなんじゃない! 心臓が爆発するんじゃないかってくらい、それ位、危なかった!
門を通りすぎしばらくしてから、湊さんが話しかけてきた。
「お疲れ様彩夏ちゃん。大丈夫だった? まぁ、顔見れば、相当緊張していたことが分かるけどね……」
それ程はっきりと顔色に出ていたのだろう。私は少し情けなく感じた。
「良いのよ。それ位あの場では気を張っておかないと、嘘だと見抜かれてしまうからね。でも、悪くなかったよ。ちゃんと教えた通りの言葉は言えたんだから、大丈夫だって」
「そんなものですかね……」
しかし、今一つ自分の中に煮え切らない問いがあった。
――なんで、あんなにあっさりと私を入れたのだろう……。
ついぞ疑問に思ってしまう。普通ならこんな怪しい奴、入れることはないだろうに、何故かすんなりと通ってしまった。
「不思議かい?」
その様子を察したのか、湊さんがこちらに顔を向けて笑顔で語った。
「これが信頼というものよ。本来であればありえないような状況でも、私達が築いてきたものがあれば、少しの異常事態位はなんとでもなるってこと。特に日置とは三十年近くの付き合いだから、互いが互いを分かっているのよ。そこのアホに至っては飲み友達になるしね」
「おいちょっと待て、さっきからアホアホって誰のことだ!?」
「あんたしかいないだろう。毎回、飲み過ぎて自分の店の前で風邪ひく寸前の状態でいたら、アホとしか言えんわ! 毎回待っている私の身になれっての!!」
その発言を聞いて、友彦さんは黙ってしまった。恐らく図星なのだろう。
「まぁ、ここまで築き上げるのに相当時間を要したと思うよ。私達の爺さんの代からだから、少なくとも九十年近くは関係を持っているんじゃないかな。流石にここまで長い間信頼されているのは珍しいね」
「とてつもない時間ですね……」
内心、本当に感心した。そんなに長い間関係を保つには、一つのミスも許されない状況にあるということ。それでも、この人達にはその関係を保つのが当たり前で、品質や安全を保証するのは普通のことなのだ。
そんな風に思いを巡らせていると、車の動きが止まった。どうやら目的の場所に着いたみたい。
「さぁ、もう一踏ん張りね。頑張ろっか!」
快活よく湊さんが声をあげ、立ち上がる。
「はいっ!」
私もつられて立ち上がった。
そこは私達が入って来た門からは見えない場所にある、小さな扉だった。人が二人通ろうとすれば、たちまち通れなくなりそうなくらいに小さい。そんな感じ。
重い荷物は二人に運んでもらって、私は比較的軽いものを運んでいた。運び入れる際、これで三日分という食料に、私は最初、呆気にとられていたけど、大人数が働いているこの場所でこの量は納得がいった。
全ての荷物を扉の前に置いてから、友彦さんがノックをする。すると中から……割烹着姿の女性が出てきた。
「お待ちしておりました、鎌足様。本日も野菜の調達依頼を承っていただき、本当にありがとうございます」
「おう、和将の奥さん。相変わらず美しいねぇ……」
ドスッ――
鈍い音がしたと思ったら、湊さんが肘鉄を喰らわせていた。
「……」
友彦さんはまたもや沈黙する羽目となり、代わりに湊さんが話を進める。
「聡美ちゃん、今日のところはこれだけのものを用意したけど、どうかな?」
手に持っていた紙を割烹着姿の女性――日置聡美に渡し、反応を窺う。パラパラとめくって確認し、そして、細かく頷いた。
「了解しました。いつもこれ程の量の食材、ありがとうございます。ただ……」
と躊躇いがちに友彦さんを見つめる。
「また、私達が頼んでいないものが入っておりますが、これはなんでございますか?」
指で示した先を見ると、そこには箱一杯の林檎が入っていた。あれ、チェック表にはきちんと記載が……、と思ったけど、よくよく考えたら他のと違って少し字が汚かったから、もしかしてとは思っていたけど……。
「あぁ、いつも贔屓にしてもらっている御礼ですよ。今日良いものが入ったので、殿下にお裾分けをしたくて、失礼は承知で持ってきました」
友彦さんは満面の笑みで見つめ返した。
隣の湊さんは、やれやれと溜息を吐いてはいるものの、顔は何だか嬉しそうだった。
観念したのか聡美さんも諦めの表情でこちらを見た。
「分かりました。では、本日の精算分は奥の部屋で行いますので、少しお待ちください」
そう言って一旦、扉を閉めて奥の方へと引っ込んでしまった。
扉の前には三人だけが残り、寒風が静かに吹く中を待っていると――
「あら、鎌足さんお久しぶりですね!」
右側から聞いたことのある声がして、そちら側を振り向いた。
――その声の主に私は唖然とした――
湊さんが慣れた様子であいさつをする。
「沙恵皇女、お久しゅうございますね。昨今は如何お過ごしでした?」
そんな他愛もない会話だが、私には違う。
そこにいたのは、あの夢の中、そして、ここに飛ばされた時に一緒になった女の人だった。
――ここに来いって言ったのは、そういうことなの?
彼女のこれまでの発言を全て考えてみれば、自ずと解は分かっているはずなのだが、当時十二歳の私には、到底理解のできるものではなかった。
――さっき、皇女って言ってたけど、まさか……。
湊さんと女の人が話している声は遠く聞こえる。私の脳内は戸惑いの渦中にいた。
でも見間違い様がない。着ている服はだいぶん楽な格好だけど、目の下の泣き黒子、私が見上げるくらい高い身長、何よりその雰囲気。まさしく探していた人だった。
そんなことを考えていると扉が開き、聡美さんが出てきた。
「大変遅くなり申し訳ございま……。あら、沙恵皇女殿下、お早いお帰りですね」
「もしかしたら、鎌足さんたちがいるかもと思って、早めに切り上げたんだ。気付いてよかったぁ!」
そう語る笑顔はとても眩しいものであった。
一方、湊さんはというと、怒りが張り付いたような笑顔で「沙恵皇女」を見下ろしていた。
「私も皇女様にちょうど聞きたかったことがあったので、お会いできて良かったと思っております」
その雰囲気は、隣にいた友彦さんをも慄かせた。その笑顔にある怒りが分かるのだろう沙恵皇女はいつの間にか、引き攣った表情を浮かべていた。
中に入って奥の部屋に入ろうかというところで湊さんが
「父ちゃん、精算は任せても良い? 少し用事があるから」
「あぁ、良いぜ。任せときな」
友彦さんがそれ以上、何も言わないと分かると、おばさんは沙恵皇女の方を向き、さっきの笑顔よりも堀が深い笑顔を作る。
「申し訳ありませんが、沙恵皇女。お先にお話があるので少々付き合っていただいても構いませんでしょうか……?」
彼女には拒否権があるはずなのだが、何故か行使せず。
「え、えぇ。よろしいですが……」
としどろもどろに返事をしていた。
「ついでにこの子もついてくるけど、ご同行は構いませんでしょうか?」
「……はい……」
何か諦めた様子の沙恵皇女に、私は何故か憐れみを覚えた。
行きついた先は、宮殿の階段を上って右側奥。扉の横の壁には、金属のプレ――トに『沙恵様のご寝室』と彫られているが、目の前の扉には手書きで木の板に『沙恵の部屋 注意 勝手に入らないで!!』と書かれてあった。
その扉に彼女は手をかざし、呪文のようなものを唱え始めた。
《汝よ、この声に、この姿に、信じ疑わぬものがあるなら、その扉を開け放て。》
すると、カチリ、という音と共に扉が開かれる……訳もなくて、ただ音がしただけ。でも、その扉を沙恵皇女が開けると、中は広々としていた。
広々としているものの、その中のものは簡素で、本棚と調理場と、それから中央に椅子とテーブルが置かれていた。奥には布団とソファーもあったけど、それ以外に余計なものは何もなかった。
とりあえず、みんな入り、振り返って私が扉を閉めた直後だった。
ガシッ――
何の音と思って二人の方向を見てみる。すると――
「うわああああああああああああああ!! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!! もうしませんもうしませんもうしませんから~!!」
……さっきまでの皇女の姿はどこへやら……。
その光景はあまりにも理解ができずに本当に驚いた。頭を掴んでいるのは湊さんで、その頭を掴まれて泣いている方は沙恵皇女だった。
「あ・ん・た!! また、変なことしたでしょう!! 話は彩夏ちゃんから伺っているわ!! 異世界から全く関係ない人を引っ張り出して、こっちに呼び込み、あまつさえ危険な目に合わせたんだからね!!! 覚悟はできているんでしょう? 今すぐ、懺悔くらいは出来るわよね……!!」
「分かったからおば様、もうしないから離してください!! 謝るから、謝るからぁ~~!!」
「その言葉回しを幾度となく聞かされてきたけど、あんた全く変わってないじゃない!
そんなんで、国の代表が務まると思わないでちょうだい!! いいね!?」
しばらく私は置いてけぼりを喰らい、そのやり取りを唖然とした表情で見つめていた。
そのやり取りが終わったのは、部屋に入ってから五分くらいだっただろうか?
その時の沙恵皇女が深々と頭を下げ、私に発した第一声は――
「本当にすみませんでした!!」
であった。
その反応に私は混乱した。何と返せば正解なのか、いまいち分からない。
ただその横で腕組みをし、未だに怒りの表情を見せているのは、何を隠そう、さっきまで沙恵皇女を言葉で叩きのめしていた湊さんであった。
「全く……。予想通りったらありゃしない……。こんな突拍子もないことを思いつく女の子と言ったら、沙恵、あんたしかいないからね!」
はぁ~~~、と溜息を吐き、まるで我が子のした失敗を咎めるかのように接していた。とその前に――
「あの、さっきまで沙恵皇女と呼んでいたのに、何で急に呼び捨て何ですか?」
そう、さっき湊さんは「沙恵」と言ったのだ。これは確かに気になるところである。
二人は顔を見合わせてから言葉を選び、湊さんが種を明かしてくれた。
「それはね、私達は伯母と姪の関係だからよ。詳しい事情は言えないけど、正真正銘本当に血の繋がりはあるからね」
……さらりとすごいことを言われてしまった。王族と血縁関係があったなんて思っても見なかった。
でも、よくよく見たら確かに面影があるような気もしないでもない……。とまぁ、詮索してもしょうがないか。
そして、両方が落ち着いたところで湊さんが話を進める。
「さて、じゃあお互い自己紹介をしなさい。そして、沙恵はもう一度謝ること!」
はい……、と涙目になりながら沙恵皇女は私と向かい合った。
「生身で会うのは初めてね。私の名前は神隼沙恵。気軽に沙恵で良いよ。歳は十四。このカンゲン国の第二皇女を務めているんだ。よろしくお願いします。それと、本当にこの前から申し訳ありませんでした……」
もう一度、頭を下げる。彼女は相当律義なのかもしれないなぁと思いつつ、私も自己紹介をすることにした。
「私は川上彩夏と言います。歳は今日、十二になったばかりです。地球という星の日本という国からやってきました。えっと、よろしく? 沙恵、でいいのかな?」
恐る恐る尋ねると、沙恵は頭を上げてこちらを見ていた。その様子はまるで、宝物を拾った子供のような表情をしていた。
「うん、うんそれでいいよ! 良かったぁ! 沙恵皇女とか呼ばれなくて!! もうあれ物凄く嫌いだったから、やっと解放された気分だよ!!」
皇女とはこの国の国家元首である王と女王との間に生まれた女の子のことで、順番に第一皇女、第二皇女と呼ばれることが多い。沙恵は、第二なので上から二人目の女の子になるということだ。
そんなこんなで自己紹介も終わり、正直何も話すことはないから黙ろうかなと思っていた。けど、沙恵はそれを許しはしなかった。
「ごめんね、急で悪いんだけど、もう一回さ、あなたの力を開放しても良い?」
一瞬言っている意味が分からなかったけど、夢の中で受けたあれかと思いだし、こう思った。
――あの時の感覚は凄かったけど、今度はコントロールできるかなぁ……。
一抹の不安が、私の脳内をよぎる。不安が私の顔に出てきているのが自分でもわかる。
「大丈夫、私も今度はちゃんと抑えられるくらいの力にはするからね」
ちらりと湊さんの方向を向く。何故か驚いた表情を見せていた。そしておもむろに口を開く。
「ちょっと待って沙恵、力の開放ってどういうこと? この子からは何も感じ取れなかったんだけど……」
その疑問にして、沙恵はサラッと答えを出した。
「私もびっくりしたんだけど、彼女今の状態では、本当に微量でしか感じないのよね。まるで、何かから隠しているような感じがする……」
そう言われてもなぁ……と思った。
「まぁ、どうなるか分からないけど、とりあえず、開放してみるね」
何とも軽い口調で私に告げてきた。湊さんは心配そうな顔で私を見つめる。
そして、夢の中での動作と同じことを、ここでもして見せた。例の呪文が部屋に響く。
《汝の魂に問う。そなたが我が力を感じるのであれば、その秘めし力を我が元に再び示せ……!》
そして、夢の時とは違い、今度は穏やかに力が溢れてくる感じがした。
――心地いい……。
あの時と違うのは爆発的な解放感じゃなく、沁みる様な力の開放だった。あの時のような興奮や衝動はなく、ただただ静かに力に身を任せている感じである。
どれくらいたったのだろうか、再び現実世界の感覚に戻ってくると、湊さんが目を丸くしているのが分かった。
「まっ、まさか本当にあったとは……」
何が? とは聞くまでもなく、『物操力』のことである。私も今は手に掴んだようにその力を感じることができる。
少しだけ力を使ってみた。
――何になるかは分からないけど、エイッ!
指先に水の玉が浮かんだ! ということは――
「彩夏ちゃん、私達と同じだったんだ……」
そう、湊さんと同じ水属・水種の能力を持っていたということでもあった。
――まるで偶然じゃないような……。
そして、改めて沙恵の方を見てみる。
かざしていた手を降ろし、私の顔を見つめてきた沙恵の表情が明るかった。
「よし、やっぱり私の見立ては間違っていなかった。これで既定の四人の護衛もきまったね!!」
――?? 今なんておっしゃいました?
その疑問を口にしようとした瞬間、湊さんが先にその言葉へと突っ込みを入れた。
「沙恵、護衛の奴、まだ決めていなかったの? それに彩夏ちゃんもって……」
そのフレーズを聞いた瞬間、沙恵は「あっ」という表情になった。
「ま・さ・か、その為に呼んだのかい……。あんたは……」
再び湊さんの表情が鬼に変わる。今度は殺されそうな勢いだった。
「だってだってだってだって、もうすぐ約束の日時になりそうだったもの! この広大なカンゲン国から探してたら、女の子見つかんないし、どうしようもなかったんだもの! だから、思い切って力使えば見つかるかなと思っただけ。そしたら本当に見つかって思わずうれしくなって……」
最後の方は涙声になっていた。相当、状況は良くなかったらしい。
何だか年上だけど、可愛そうになってきた。この場で私がノーと言えば、たぶんこの話はなかったことになるんだろうけど、何だかそうするのは気が引けてしまった。
怒る湊さんと文句を言う沙恵に聞こえるよう、私は今までで一番大きな声だと思う声で彼女らに告げる。
「あの、もしよかったら、私、護衛やりますよ!!」
その発言に二人の女性が驚いた。特に湊さんはなんで? と疑問符が頭の上を回っている。
「彩夏ちゃん、急にどうしたの? 良いんだよ、こんな姪っ子のことなんか放っておいてさ。あなたは地球に返って、元の生活に戻る権利があるのよ」
確かにその通りなんだけど……、私は首を振って答えた。
「私、生まれて初めてだったんです。誰かの役に立てる能力があることに気付いたの。そして、その力で誰かを助けることができるのであれば、私はここにいたい」
それは、紛れもなく本心だった。あのくそみたいなクラスで日がな一日中過ごすよりも、こっちの世界の方がまだ救いがあるなぁと思った。だからこそ――
私は湊さんに向き直り、懇願した。
「私に力のいろはを教えてください湊さん! まだ役には立てないかもしれないけど、力を付けていけば、何かがきっと変わるかもしれないから! だから、お願いします!!」
頭を下げる。これは本当にお願いしたいことだった。あの時の戦いを見て、あの時私を無償で助けてくれた湊さんに、私ができる精一杯のわがままと、その先にある希望。それを一緒に乗せた言葉でお願いした。
沈黙が続く……。と――
ポンッ――
頭の上に優しい感触が伝わってきた。顔を上げると湊さんが前にいて、私の頭を撫でてくれていた。
「全く、君はどうしようもなくアホなのかなぁ? どんな危険な道を行くか、見当はついているの?」
「いえ。でも、
私は誰かから否定されながらの安全な人生よりも、肯定される危険な人生を歩んでいきたいと思っています」
その言葉が胸に届いたのか、撫でる手がワッシャワッシャと大きくなっていった。
「分かった。それなら彩夏ちゃん……いや、彩夏、あなたに協力しよう。肯定される人生を歩めるように、ね!」
湊さんの顔がやれやれという感じだが、どこか笑顔を含んでいる表情となった。
「はい! ありがとうございます!!!!」
私は満面の笑みで答えることができた。
ところで――
「そういえば、後の三人はどこにいるんですか? これから仕事をするのであれば、顔合わせくらいはした方が良いのかもしれないですけど……」
そう言うと、沙恵が「あぁ」と感嘆し――
「そうだったね。じゃあ、こっちにいるから、会ってみようか!」
「えぇっ!? ちょっと!!」
私の手を引っ張り、後ろから湊さんもついてくる。
廊下を右往左往しながら進んでいく。私は沙恵のされるがままになっていた。
着いた部屋は沙恵の部屋よりも少し狭い場所。その扉を沙恵が勢いよく開ける。
「お~い、みんな! 新しい仲間連れて来たよ!」
沙恵の後ろから私、湊さんの順番で入っていく。
そして私は、初めてあいつらの姿を見た。
見た目は私とあまり変わらない。身長の大小はあるけど、歳は一緒なのかなとは思った。
「おっ沙恵、そいつが新しい仲間……。女の子じゃん!!!」
――んっ!?
その発言に慄いた。その方向に目をやると、窓際の椅子に私より一回り背の高い優男がそこにいた。今にも起立しそうな感じと、目がとてつもなく輝いている。というか、気持ちが悪い。
「こら村中、あなたはその女好きを少しは治してちょうだい! その年で結構でかいんだから、恐がらせることになるのよ」
「えっ、本当? それは女の子に申し訳ないな。ごめん!」
両手を合わせ、こちらへ拝むようにして謝ってきた為、ちょっと拍子抜けしてしまった。意外とまじめな人。
「あ、まぁ、大丈夫です。私は別に何とも思っていないから」
そう言い返すのが無難だろう。
その空気をぶち壊すように沙恵が間に立ち、説明を始めた。
「ちょっとちょっと、まずは自己紹介が先でしょ。ほら、村中から挨拶をして」
そう言われて、窓際に座っていた奴が、やれやれといった感じで話し始めた。
「初めまして、かわいいお嬢さん。僕の名前は『村中康一』。歳は十二。風属・気種の力を持っている。以降お見知り置きを」
やけに畏まった態度で話しかけてきた。意外なくらい律義だと思う。
「やぁ、僕の名前は『槙原久寿』だよ。十一歳で、雷属だよ。よろしく!!」
今度は明るく元気な声が私達の左の椅子から聴こえてきた。見ると、私より明らかに小柄な男の子が座っていて、右手を高々と上げ仲良くしたそうな顔をしながらこっちを見ている。
「……『西平境』だ。歳はこいつらと変わらない。火属。それだけ」
最後に紹介した奴は、私から見て右側に座っており、最も嫌な感じがした。身長は私の方が若干高い。こっちを観察するかの如く睨みつけ、まるで、お前なんかお呼びじゃない、と言わんばかりの険しい表情をしていた。
――何だかやりにくいなぁ……。
最初の印象はやりにくそうな面子だった。一人は明るくて良いんだけど、他の二人の内一人は私を変態的な目で見ていたし、もう一人は疑いの目を持って見ていた。
「彩夏、次はあなたの番よ」
と、ここで沙恵が私を思考の海から引き上げる。私は慌てて自己紹介をした。
「えっと……。私の名前は『川上彩夏』。歳は今日十二歳になりました。それと、力は……」
「力は水属・水種です」
沙恵がフォローを入れてくれた。ありがたい。
「そ、そうです。これからよろしくお願いします」
そう言ってから、私は頭を深々と下げた。
「ささ、挨拶も一通り済んだところで、こうして四人揃ったんだけど、一旦解散にします」
沙恵が言葉を発した。私達四人+湊さんは首を傾げた。どういう意味で言ったのか図りかねたからである。
「あなた達を呼んだのは他でもない。私の護衛をしてもらう、ということだったよね?」
それについてはみんなが知っているのか、縦に首を振る。
「そこについては変わらないんだけど、年齢的にまだ無理があって、全員が十二となり、しかも丙種以上の任級を取ってもらわないと正式には採用されない仕組みなのよね。だから、あなた達にはこれから半年、もしくはそれ以上かけて鍛錬を積んでもらいます。特に彩夏には!」
「えっ!? は、はい!!」
突然振られたから変な声になっちゃったけど、意図が読めて良かったと思った。ただし、突き付けられた条件に私は疑問を抱かずに入れなかった。
「あの~、『任級』って?」
その言葉に仲間になる? 三人が一斉にこっちを見る。その表情には、そんなことも知らないのか? と書かれてあった。私の方は分からないものは分からないということで、キョトンとしている。
それを聞いて沙恵がハッとなり、そういえば、と言いながら私に話した。
「任級というのは、この国に存在する特別な……まぁ、言うなれば制度ってところかしら。
私達神族を守護する者や、事件を依頼されて解決する『自警団』と呼ばれる者達は、階級によって仕事が分けられる。その一番下が丙級と呼ばれるとこ何だけど、みんなまだ受けられるだけの力がないし、私を確実に守れるところまで持っていきたいから、最短猶予は半年後の認定試験が目標ってことで。流石に今から一か月後の試験に向けて、なんてことは無理だからね」
何だか分かったような分からなかったような……。でも、言いたいことは分かっていた。要するに私達はまだ弱いのである。だから強くなって一日でも早く沙恵を護衛して欲しいとのことだった。
そして、沙恵がもう一言付け加える。
「それから、三か月後に一回、みんなで手合わせしてもらうわ。自分の実力と相手の力量差を見て、参考にしていってちょうだい。全員、全力でお願いね」
他の三人は納得しているが、私は納得できなかった。
――えっ?ということは……。
私は恐る恐る質問した。
「それって、彼らと戦うってこと?」
全員の顔を見てみる。目が「当然」と言いたそうな感じで見てきているのを感じ、頭を抱えた。
――つまり、三ヵ月で戦えるくらいの力は付けておけということなの?
何もしてこなかった、何もできていなかった私に、そんなことができるのか? 疑問符が頭上を回転し始めた。表情も硬くなる。
「そんな顔をするくらいなら、やめちまえよ」
――んっ?何、今の……。
声のした方向は私の右側にいた奴だった。確か名前はケイといったか?
「お前のような弱々しい奴がいたってな、無理に決まってんだろ。見たところ、戦いも知らないお子ちゃまの様な感じだしな。さっさかお母さんのご飯でも食って寝てろっての」
ぐうの音も出なかった。確かに私は、未だ戦いというものを知らずに育ってきた。それは当然なのだけど――
――やっぱり私ってどの世界に行っても必要ないのかなぁ……。
と、ネガティブ思考を発動させてしまった。余計に表情が暗くなる。
パンッ!!
不意の拍子に驚いたのか、一斉に顔を上げる。その視線は湊さんに注がれていた。すると、私に近づき、面と向かって話し始める。
「彩夏、あなたはもっと自信を持っていいと思う。確かに今までは、戦いの世界に身を置いてなかったから、知らなかったことも多かったでしょう。でも、私がついている! 私があなたを三か月後、変貌させてあげるわ。大丈夫! 心配しないで!」
その言葉に私は驚いた。更に湊さんはこう付け加える。
「それにね、路地裏で見せたあなたの勇気。あれを見たときに思ったの、この子は良いものを持っていると。物怖じしない、強い心を持っていると。だから、安心して私に鍛えられなさい! そして、このあんぽんたん三人衆に一泡吹かせるのよ!」
そして私は、湊さんの言葉によって再び強い力を宿すことができた。それに呼応するかのようにもう一度深々とお辞儀をして――
「すみません! もう一度、よろしくお願いします!!」
「うん! いいわよ! 手加減なしで厳しくいくけど、あなたの変わる未来のためにと思って、頑張っていこうか!!」
「はい!!」
私と湊さんはどちらともなく両手をがっしりと握った。それを見ていた沙恵が、この場を収集させる。
「じゃあ決まりね。また三か月後、再びこの部屋で集合。その間の鍛錬場所として、彩夏は湊さんの所で、他の三人はこの宮殿内を使ってちょうだい。では、解散!」
そう言って、私達はこの場での解散となった。私と湊さんは仕事を終えた友彦さんを見つけ、再び暗くなった道を馬車に揺られながら、帰路についた。
途中で馬車を止め、湊さんと一緒に私がこの世界に入って来たところまで来てもらい、私の帰りを見届けてくれた。
沙恵の話ではその場所は現在、地球とつながりやすい状態になっており、あちらの世界の(要は地球の)住人は本来、行き来が自由となっているらしい。ただし、そのためには操力を持っていないといけないため、恐らく私以外は通れないだろうとのこと。
目を瞑っていると、自分の体が浮く感じがした。そしてそのまま、体が上空へと引っ張られる感覚があり、私は再び、暗い世界を旅した。
数分すると、元の戸隠岩の前に戻ってきていた。不思議な出来事だったなぁ、とか思いながら家に帰ると、両親が心配していた。
時計を見ると、時刻は午後七時半。なるほど、確かに心配する時間だこと。しかも服も変わっているから、そりゃそうだと思った。
その後、両親から質問攻めされたが何とか誤魔化し、今日は誕生日ということで、私の誕生会が開かれた。ケーキや唐揚げ等、美味しそうなものがずらりと並んだ食卓には今年もこうして迎えられて良かったねと、そういった雰囲気が流れていた。
しかし、今考えればよくこんな顔できたなぁと思ったりもする。何せこれから体験する過酷な運命と、人生を考察すれば、やっぱりこの道、行かない方が良かったかな、と後悔すると思うしね。まぁ、小学六年生にそこまでのことを考えさせることは、出来ないだろうけど……。




