序章 我ら、不殺を誓う者なり
私には、心に誓う二つの決意がある。
一つが不当な殺しを排除すること、もう一つが無意味な差別を撤廃すること。
前者の不当な殺しとは、病死や事故死の類ではなく、罪の大小に関わらず、殺してしまうことを指す。
そういえば、バトル主体の小説の多くは、基本的に人を殺すことが前提となっているけど、私はあれについてずっと苦言を呈していたいと思っていた。何で戦うたびに人を殺さなければならないのか、甚だ疑問に感じていた。
その疑問は未だ、この世界にいても払拭されずにいる。悪=死んで当然、というのは些か単純で短絡的すぎる気がする。
だからと言って、罪を犯した者を許せということでもない。罪を犯せば、然るべき報いは受けて当然だと思う。そりゃ、人の命を奪ったら殺されてもそれほど文句はない。けど、例えば物を盗んだり、ちょっと何かをもしくは誰かを傷つけただけですぐに殺されてしまっては、せっかく作った規律もへったくれもない。いくら自警団や警察が現場での権限が大きいとはいえ、犯罪者に対してもせめて、妥当な判決は下した方が良いんじゃないのかな?ということ。
こう書いてしまうと、加害者擁護の立場か!と言われかねないけど、そうじゃなくて、法が整備されているならばそれに沿って相手の行動をきちんと精査し、活用すべきだと思う。命を奪うまでの行為をしていないのならば、刑罰をそれに応じて適用するのが当たり前だと考える。これが私の主張の一つ目になる(まぁ、殺人に手を染めたとしても、個人的にはしっかり裁く方が良いんだけどね……)。
じゃあ、後者の無意味な差別とはどういう意味か?それは私達が社会的弱者と呼んでしまう人達を、とりわけ人種的差別を限りなくゼロにしていきたい。そして彼らを不当な地位から、しっかりとした権利を主張できる社会に導くことを指す。
どこに行っても、どの世界に行っても差別とはなくならないもので、私にはなぜこういった思考が世に蔓延っているのか、理解ができない。確かに、この世の全員が同じ感情を共有できる訳がないのだけれど、それでも主張をやめてしまうと彼らはまた、光の当たることのない世界へと帰ってしまうことになる。彼らの心の痛みを少しでも分かっているからこそ、彼らの境遇や感情を少しでも多くの人に理解してもらいないのだ。
主張の話はここまでにしておいて、これから話すのは、現在私の勤める仕事の確認と、これまでの私の経緯でも説明しようかなと考えている。そして、何故この思想になったのかも説明していこう。少し長くなるかもしれないけど、最後まで付き合ってちょうだい。
さてと、じゃあまず、最初に私の仕事から話すことにしよう。何も分からない状態で話を進めるのは、無茶というにも程があるしね。
あっ、そういえば自己紹介を済ませていなかった。ごめんごめん。
私の名前は川上彩夏
歳は十四
日本生まれ日本育ち
そして、現在進行形で特殊な環境下で育つ、ちょっと変わった女の子
……とでもしとこうかな(自分で女の子って言って、ちょっと恥ずかしい……)。
とある国の暦で一一六四年(日本では二〇〇八年)六月八日。この日、私達の事務所に一つの依頼が速達の手紙として舞い込んできた。今時メールじゃないの?と思う人も多いかもしれないけど、この世界での情報手段は手紙や掲示板が主流となっている。依頼主はその地区を担当している警察の署長からだった。しかも直筆である。内容はこんな感じ。
〈炎貂の火都にて六月四日より三夜連続、複数の通行人からの強奪傷害事件発生。至急、応援を願いたい〉
炎貂とはこの国の南西に位置し、火属と呼ばれる火を操る種属が土地を治めている。国の中でも大規模な穀倉地帯を有し、その中心都市である「火都」には、国内最大級の穀物取引市場が据えられている。
詳しい事情はこう。
今現在、火都には国中、いや、この大陸中の商人達が穀物の買い付けにやってくる。その為、周辺の宿泊施設のほとんどは商人たちに埋め尽くされ、宿屋の主人達は今が一番の書き入れ時となる。更に街中では収穫祭や商人同士の情報交換が盛んに行われ、本来静かな街並みは通常の風景とは異なった姿をし、賑やかな空気が流れ、活気があった。
事件はその賑やかな風景を一変させる。
六月四日の火曜。火都の中心からおよそ二離(約二km)の所にある宿泊施設群。この一帯は特に商人が好む宿が多く点在している。この日も夜遅くまで、街は商人達の賑わいに包まれていた。人々は酒を飲み交わし、世間話に花を咲かせていた。ちょうど、下弦の月が空の頂点に頂こうとした時……。
突然、街中に目を眩ます光が走った!!
人々は惑い、奪われた視界を庇う様にして手で目を覆う最中、何者かが電気を体に流し、その隙をついて金品を盗む。盗まれた相手は感電し気絶、そのまま病院へと運ばれるのだが命に別状はなかったという。
そして、その盗まれた相手は二人であった。
翌日は、犯人の手口から種属を割り出し、実行犯は雷の力を利用できる雷属であることが判明。
それを基にして街全体に外出禁止令を敷き、地元の警察が巡回を増やすことで、警備を強化していた。
ところが、今度はその警察が狙われる羽目となった。帯刀していた警察専用武器「守護刃」を盗まれたのである。
この国の警察に支給される武器の一つである守護刃は、彼らにしか持つことが許されない代物であり、一般の人が持つ武器よりも少し高価なものとして有名。その為、裏取引専門の骨董屋で取引すると、額はどれだけ下の価格でも三十二両(一両=約四千円程度)もする。因みに普通の刀の取引価格は十両程だから、相当の高値であることは確かだ。(えっ、何でこんなこと知っているかって? ヒ・ミ・ツ・だ・よ……!)
そしてこの時も、盗まれる相手はやはり二人であった。
事件発生から三日目にして、警察は彼らに対抗すべく雷属を持つ警官たち全員に巡回の命令を出した。しかし結果は、前日よりも人数が少なくなったせいかその裏を掛かれ、逆に店の中に侵入を許し、金品を奪い去ったという。
三日の間も犯人に翻弄され、逮捕に至らなかった署員を見越したのか。火都警察署所長である「是前定之助」が直々に依頼を出したのだろう(顔が割れていない時点で探すのもどうかと思うけどね……)。
これを受けて私達は、手紙を受け取ったその日の内に必要な用品を揃え、選抜された二人で火都へと向かった。因みに今回の依頼で選ばれたのは私と村中康一こと「イチ」。他に二人いるメンバーには今回の依頼上、街中故に街の破壊だけは避けなければいけなかったため、大きな技を使う二人には待機をしてもらった。
最もこの二人は「雷属だったら、仲良くなれそう!!」とか、「俺は未だに捕まえられない警察に対して文句を言いたい!!」と、犯人を捕まえることなんかそっちのけで、別のことを考えていたから、置いてかざるを得なかったんだけど……。
まぁ、そんなことはほっといて話を進めようか。
火都へは馬を使うことにした。私達の住んでいる所から依頼場所までは東京から長野くらいの距離があり、山も越えなきゃいけなかったというのがある。しかし、街に入る前には馬から降り馬預所に預け、歩きで向かうことにした。
日差しが辛うじて差し込む山道の中、もう一人のメンバーであるイチがこんなことを話し始めた。
「今回の事件の犯人……、かわいい子だったらいいなぁ……」
「あんた一体何を想像してんのよ」
小声で突っ込んでみたものの、本人はいたって真顔でこう返してきた。
「女の子といちゃつきたいのは男の欲望として当然だろうが! 何も分かってねぇな彩夏よ! おっぱいが大きくて腰つきも良く、その上○乱だったら男は――いや、漢はそれだけで最強に、そして、凛々しくなれるんだよ!! ったく、これだから女は――」
ドスッ!!――
「うごっっっ!!」
そんな発言をしたこの馬鹿の腹に、歩ける程度のボディーブローをかます!
「あんたみたいな【脳内エロ成分充満の変態野郎】はそうそういやしないわよ!! しかもわざわざ、言い直してくるあたりが気持ち悪いっての!! ぼこぼこにされなかっただけ感謝しなさい!」
男は狼というけれど、こいつはただ、女の子への欲望が強い――正に、変態の権化という言葉がよく似合う……。私は汚物を見るような目でイチを一睨みする。
はぁ、と溜息を一つ吐いて、話を違うところへと持っていくことにした。
「そういえば、神都以外は久々よね。ずっとそっちでばっかり仕事していたから、この国を回るなんて発想はなかったけど、そろそろ私達も国中に仕事圏を広げた方が良いかしら」
予てからの構想を話す。因みに神都とは私達が普段暮しているこの国の首都である。しかし、本来の話の趣旨はそこではなく、この依頼に関しての疑問であった。何故なら――
「私達よりも絶対に腕のいい自警団がいる筈なのに、どうしてこっちに依頼してきたんだろう?」
そう、神都でしか仕事をしていない私達には国中の知名度がない。だからこそ、私達への依頼はほぼありえないのである。
「あっ……あぁ……そういえば……、こんな所に住んでいる人達から依頼は今まではありえなかったよな、確かに……」
どうやら、何とか立ち上がったイチが返答してくれるようだ。呻きながらも、という接頭語付きで。と――
「まぁ、恐らくそうなんだろうけど……」
「えっ??」
ぼそぼそっと言われたため聞き取れなかったけど、どうでも良いことかなぁ、と思って無視することにした。そんな私のことを気にしない素振りで、イチが別の質問を投げかけてきた。
「後どれくらいで着くんだい?」
「二十分歩けばたぶん普通につくと思うけど……。んっ?あそこじゃない?」
森の奥の方から街並みが見えてきた。ここら一帯は四・五階建ての煉瓦造りの建物が多く、近くにはちょうど金の稲穂が広がる穀倉地帯があり、農夫の街として栄えてきた証がその存在を示していた。
「流石にこの一帯は農業の色が強くなるな。こんな長閑な場所で、事件なんて起こりそうにもないのだけどね……」
何気ないイチの一言に、私はただ頷いた。
そんな動作も一つで終えて、私達はまた並んで歩くことに。
街に入ると余所者ということもあるが、警戒や疑心暗鬼の気配が濃くなる。街の入口ではチェックが行われ、武器を持ってはいるものの今回の犯人とはまるきり違うと認められ、私達はそれなりにすんなりと街に入れた。
火都の警察署は入口から二百脚(一脚=二m、この場合は四百m)の所にあり、多少歩いただけで着くことができた。
煉瓦造りの街の中に目立つかの如く、木製の四階建てが姿を現す。入口は引き戸となっており、私達は何となく恐る恐る開けて中を確認するようにしながら入っていく。
案の定、中は警戒態勢が蔓延り、誰しもが犯人を捕まえんと躍起になっている状態を肌で感じた。こんな中で話すのもなんだと思ったけど、寄越した本人から話を聞かない限りは私達も何も進まないと思い、受付の女性に話しかけてみた。
「すみません。今回の連続強盗事件について、依頼をいただいたものですが……」
するとその女性は怪訝な顔をしてこちらを見てきた。
「依頼……ですか? いいえ、私達はそのようなものは出しておりませんが……」
(へっ?)
あれっ? でも間違いなくあの文書にはここの名前が……。そう思っていたら、横からイチが話に割り込む。
「すみません、これをご存じないでしょうか? 是前署長が出したかと思っているのです」
そう言って懐から取り出したのは、例の文書だった。それを見た女性は更に眉間にしわを寄せる。
「このようなものを、私共の署長は送っておりません。ここ三日間は自宅にも帰らず、こちらで仕事をしていたのですから。何かの間違いじゃないですか?」
少しキレ口調な感じが物凄く鼻についた。一瞬、暴れてやろうかとも思ったけど――
「分かりました。お取込み中、差し出がましいことをしてしまい、申し訳ありませんでした。行くよ、彩夏」
腕を掴まれ、その場から逃げるようにして私達は警察署を後にした。
「何よ、あの態度!! あんな言い方しなくたっていいじゃない!!」
小言ながらも、ぶつくさ文句を言っている少女が火都の道をいかり肩で歩く姿がそこにはあった。
というか私である……。
先の受付嬢の発言があまりにも納得いかず、頭の中はそのことでいっぱいになり、すっかり周囲の警戒を怠っている。
「落ち着きなよ。そんなこと言ったってしょうがないんだからさ。今はその気持ちを犯人にでも向けて、発散しときな」
こんな所で目ざとく発言するのがイチであり、しっかりとしたアドバイスをくれるのも彼の良い所である。とは、思うだけでいうことはない。
「はぁ、ごめん、ありがとう」
「それにしても、さっきの子、意外とかわいかったなぁ……。あぁいう子と付き合えれば、俺のお株も相当……」
ごすっっっ!!
「ぐふっ!!」
強烈な膝蹴りをこいつの鳩尾に喰らわせることで、発言を止めることにした。こんなことを言うから、絶対に賛辞を口に出したくないのである。周囲が少しざわついたけど、気にせずイチを睨みつける。
「な、何……を……する……」
「当然のことながら、とは思っていたけど、ここに来てまでまだそんなことを言うとは思わなかった! 今のでさっきの怒り全部があんたの腹に向いたよ!!」
物凄い蹴りを入れてしまったからか、イチは中々動こうとはしなかった。その代わりに、苦し紛れに何か一言を吐く。
「暴力女……」
その一言は図星であるため、しょうがないから見逃すことにし、ただ立っているのもつまらないので、さっきのことについて話を進めた。ただし、先程のような怒りは、すっかり消えた状態で。
「そういえば、何であの人はあんなことを言ったのかな? 惚けてる様な感じではなかったしなぁ」
「あ……あぁ。あれって実は、俺の中で予想通りだったんだよ……」
(んっ?)
「それは一体どういう意味……?」
そういえば、ここに来る道中に何かをぼそぼそっとしゃべった気がしたけど。
何とか起き上がれるようになったのか、イチが立ち上がり膝を払った後、ふらふらと歩みを進めた。
「それはな、まずあの文書が俺らの所に来た時点で怪しいだろう。それはまぁ、お前も同様に思っていたんだろうけど、更に言えばあいつらの文書ならあれだけ詳しい説明は不要なんだよ。必要とあらば警察署に呼んで話を聞けばいいだけだからね」
その説明に私は合点がいった。警察をあいつらと呼ぶのは、こいつの悪い癖だけどそこはどうでもいい。そんなことより――
「じゃあ、誰なんだろう、この文書を寄越したの。明らかに私達を知っていないと送ることはないよね?」
「んなことが分かれば苦労はしないわなぁ……」
そんな訳で考えても仕方のないことは仕方がないと割り切り、今は事件の方に頭をシフトさせることにした。今夜中にでも捕まえてしまって、早いこと街を賑やかにしておきたいものだ。
まぁ、イチの話を聞いたときに誰が寄越したかは予想を付けていたけど……。
それから時間が経って午後九時二十分を過ぎた頃。普段であればこの時間帯の火都は、祭りの影響で飲めや歌えやの大騒ぎをしつつも、商人達がしっかりと情報を交換する場所として機能しているのだけれど、そんな雰囲気が一切なく、シーンと静まり返っている。
この五日間の事件のせいか、収穫祭すらできない街は、少し寂れた空気を醸し出し、気分的にもこっちを沈ませてしないかねない空気を漂わせていた。
(なんだか、寂しいなぁ……)
そんな印象を受けてしまった。普段の活気ある街を見たかったから、尚更その印象が顕著に表れてしまったのだろう。言ってもしょうがないけれど。
あの後、私達は時間になるまで宿に待機し、夜が更け始めた位から活動を始めた。この世界では武器の携帯を許可されており、私の愛用であるライフル銃を二丁装備した。しかし、イチが長弓を背負った瞬間、私は思わず「目立ちたがりか!」と突っ込んでしまった。
当の本人は暢気に「これしか武器がないから」と苦笑混じりに反論していた。
速射できる短弓と違い、長弓はしっかり引かなければ飛んではいかない。弓使いであるイチはそのことを理解しているはずであり、現に短弓も持ってきているのだが……――
(わざわざ長弓を使うとか……。こだわりなんだろうな……)
とは、言わないでおいて、宿屋を離れた私達は事件現場付近へと急いだ。到着してから離れて行動することにして、狙われやすいような風貌を取りつつ相手の出方を窺うという作戦でとりあえず決行することに。
そして現在、それから一時間が経過。犯行時間までは少し時間があり、私は警戒するようでもない感じで街中を歩いていた。これはもちろん相手に油断させるための作戦の一つだ。
部屋に明かりはあるものの、息を潜める様にして街は静まり、静寂が街を支配していた。
みんなこの事件の早期解決を望んでいる。だとしても、中々相手のしっぽが掴めない状況じゃ、早期となるかは分からない。とりあえず、自分達の立てた作戦がうまくいくことを願うしかないんだけど……。
頭上を見上げる。下弦の月の明かりが秋の空気を通し、私を優しく包んでくれている。こんなことにならなかったら、綺麗だ、というところだけど、相手が分かりやすくなるから、感謝の光だなとか、これってでもかなり相手からしたら、見つけやすい状況だよねぇ……、と思っちゃうところがもう既に自分がおかしいと思う今日この頃だ。
そんなことを考えていると、目の前の路地から一人の警察官がやってきた。こんな時間までお勤めご苦労様です!……とは口が裂けても言えないから、ただ横を通り過ぎるだけにした。ところが……――
ポン――
突然肩を叩かれた!びっくりした拍子に回し蹴りを喰らわせてみたものの――
スカッ――
という音が似合うくらい入った感触がなかった。見てみるとさっきの警官が警戒しつつも驚きの形相でこっちを見ていた。意外と若く、まだ二十代に満たない位だった。その警官が険しい顔でこっちに話しかけてくる。
「びっくりした~! いきなり蹴りを喰らわせてくるとは思わなかった」
こんな感じの前置きをされてから――
「まぁ、突然肩を叩いてしまったことにはお詫び申し上げたい。しかしお嬢さん、ここで一体何をなさっているのですか?」
こう聞かれた。ただの巡回中の自警団です。と、真面目に答えることはないので、誤魔化すように言葉を紡いだ。
「えっ? ちょっと、何なのですか??」
「何ですかじゃないよ! こんな所にいたら、犯人に目をつけられてしまうだろ? それにそんな派手な格好じゃあ、余計に狙われてしまうだろうが」
「いえ、私は大丈夫ですので……」
と言って、立ち去ろうとしたら、素早く腕を掴まれた!
「そんな訳にはいきません! あなた見たところ、まだ若いじゃないか! そんなお嬢さんを危険に巻き込むわけには……」
(ありゃりゃ……、まさかこのタイミングでこう来るとは)
彼の反応は当然と言えば当然だが、これでは仕事にならない。こうなると押し問答になってしまうだろうなぁ、と考えてたら……。
ピシャッ!!――
突然、辺りを目映い閃光が走った!! 明るい夜ではあったものの、一瞬で昼の明るさが戻ってきたみたいな感じだ!
(というか、明るすぎじゃない!?)
まさかこれ程とは思わなかったけど、確かにこれでは普通の人は動けない。現に私の腕を掴んでいた警官は、目を両手で覆ってしまっている。
途端、警官の向こう側から人の気配を感じた! 一気に距離を詰められ、警官の方に近づく! 気配には気づいたのか、警官は周りを見渡しているが、距離感までは分からないみたいだ。
彼の体に犯人の手が届くまで、あと数十cm!!
私は右手で彼の襟を掴み、私の後ろに下げさせる!掴み損ねた相手は悪態を吐きながらも、気を取り直してこっちに向かってきた。
そんなこったろうと思って、後ろに下げた警官を軸にバク転しながら蹴りを入れてみる! 流石に気づいたのか、残念ながら避けられてしまった。
(結構やるねぇ……)
こちらの悪態はこんなもんにしといて、次の一手を考える。でもとりあえず、右手に持っている警官を安全な場所に運ぶのが一番かと思い、犯人から目を離さず彼を抱えて建物の端へ行く。犯人の方は追いかけてくる気配はない。
「ちょっと! 何が起きてるんだい!!」
叫ぶ彼をそこに置き、私はもう一度、犯人を見据える。
油断しているのか、はたまた警戒しているのか、風貌だけでは分からなかったけど、近づいてくる気配はない。
さて、どう出てくるのだろうか……。
あれ、誰か来たような……。
***
初めまして!! この物語で彩夏視点以外を代わりにナレーションする通称:ナレーだよ! よろしく!(必要ないなんて言わないでね……)
さて、今回彩夏達を襲った犯人の方はこんなことを考えていた。
(何故だ? 何でこの強光の中で、俺の姿を捉えることができるんだ……)
この光の強さでは全体を捉えることができないため、どういう仕組みで自分のことを見ているか分からないが、背格好と声から少女であることは間違いないことは分かっているようである。
(しかもあの蹴りの鋭さはなんだ? 少女の蹴りとは思えない)
腕っぷしには自信があるだけに、避けられたことが信じられず、少し同様してしまっている。
だがそれでも、自分の方が優位にあるのは間違いないと、確信を持ったのか――
(ふっ、所詮は小娘だろう? どうせ俺と戦えば、泣いて許しを請うに決まっている……。あいつからは盗むもの盗んだら、すぐに帰って来いと言われている、が!)
そして良からぬことを考えだした。
(ふうぅむ。身長は小さいものの、まぁ、こいつを持ち帰ると怒るかもしれないが、たまには良いだろ)
もう一度、彩夏を一睨みしてから、彼は口の端を持ち上げた。
(いいなぁ、さぞその顔が凌辱に泣くのを見たいものだ……!)
さて、彩夏はどうするのやら……。
***
……誰なの今の? まぁ、気にせず話を進めようか。
私からは残念ながら、そこまで思考をトレースできなかったけど、考えていることの大体があっていたから良しとするか。
――しかし、そこまで考えているなんてどんだけなのよ。
まるでどこかの変態さんみたいとは、思うだけにしておこう。
さて、現実に戻ってこちら側のこと。私はというとさっきの動きを見て、一つの案を思いついていた。
(一か八かにはなるけど、予想通りだとすれば……)
私は犯人に向き直り、相手と対峙する形を取った。辺りは未だ、目映い光に包まれてはいたものの、輪郭が分かる程度にはなっている。
そういえば、何で私達はこんな光の中で、相手の輪郭とはいえ分かるのか疑問に思わなかった?
強光と聞いて、私が真っ先にMUSTアイテムとして選んだのは、サングラスだった。ある程度の光なら防いでくれるし、強くとも相手の動きが分かればいいからね。この案はすぐにメンバーの中で了承され、今回のことにつながるという訳。その際、買い出し班には強光に強いサングラスを買って来てちょうだい、金に糸目は付けないつもりだから、と念押しはしておいた。
ただしこうなるともう一つ疑問が浮かび上がる。相手はどうやって私達を見ているのか?この世界にはサングラスなんて、進歩的なものはないはずだから、一体……?
とまぁ、そんなことを考えている場合ではなく、まずは目の前の犯人に集中集中。
私は相手との距離を測りながら、頭の中で少し考える。そして、一息吐いてから体勢を低くし、脱兎が如き速さで相手との間合いを一気に詰める!! 相手は待ってました、と言わんばかりに逃げようともせず、構えて私の攻撃を受けるみたい。しかも、あえて素手で。
だけど私は懐へは飛び込まず、四・五m手前でライフルを二丁引き抜き――
パンッ!!――
相手の足元に向けて両銃を揃えて撃つ!それに気付いた相手も後ろに跳び下がり、この攻撃を躱した……何てことは無い!
ドッッ!――
「くっ……! ぐわああああああああああああああああああああああああ!!」
(ヨシッ! ビンゴ!!)
計算通りいって良かったと心の底からそう思った。足元に撃った銃弾は、そのまま石畳に食い込むことはなく、逆に跳ね飛び、相手の両肩にヒット! これは私の銃弾が超弾性の高いゴムを使っているからこそなせる業なのである。相手はそれに気付かず、後ろへと後退ったから、肩口ほどに広げて撃った銃弾がそのまま肩に入ったという次第だ。
呻いている間に私は、距離を詰めてさらに体勢を低くし、相手の左側へと飛び込んだ瞬間、手を着いて軸とし、左足で相手の脚をすくう様にして蹴りを入れた! 案の定、前倒しになった彼の背中にすかさず飛び乗り、両手を背中に回して紐で手早く、しかしきつくなるように縛った。
辺りを見渡してみると、いつの間にか光は収まり、元の月明かりがその場を支配していた。警官の方を見てみると、未だ視力は回復していないのか、起き上がってはいるものの背中を壁に預けて座り込んでいる。見えない内は動かない方が良いからそれで正解だろう。
犯人の顔を覗き込むと、私達と同じような感じで眼鏡をかけているが、どうやらそこには黒いすすが付いており、それで自分達の作る光を遮っていたということが理解できた。
とりあえず、ほっと息を吐く。これでまず、第一関門は突破出来たかなぁ、と考えていた――と、その瞬間!
「舐めんじゃねぇぞ! 小娘があああああ!!」
下から叫び声と共に、捕らえた犯人が起き出した!
「キャアアッッ!!」
私は力を抜いていたため抵抗できず、後ろに転がる!
「どうしたんだい!?」
悲鳴を聞いて、さっきの警官の気遣う声が聞こえてくるが、応じる余裕はなかった!
何とか体勢を立て直して相手を見ると、上半身だけで起き上がり、既にこちらへと向かってきている!!
(しまった! 捕まえたと思って油断した!)
こうなると同じ手は二度食わないだろう。腕も縛っているとはいえども、脚力は相当だ。蹴りを一発喰らうだけで、こっちがノックダウンしかねない!
私は十二分に引きつけてから、左へ避けつつ銃を構える!しかし、相手の反応も速い!私が左へと跳んだ途端、同じ方向へと向きを変え先回りし、確実に入るようにか、右脚で脇腹めがけ蹴りをかましに来る!
(だったら……!)
相手の蹴りが入る寸での所で、私は一気に前傾姿勢となり、地面近くまで身体を倒す!頭上を脚が通り過ぎたのを感じ、背筋に悪寒が走ったのを感じた。そしてそのまま、両手を地面に着いて、体を命一杯使い、軸足となった左脚めがけ蹴りを喰らわす!
「くそっ!」
相手はまさかの攻撃に驚き、避け切れずに前倒しになる。その瞬間を狙い、私は再び身体を起こし、銃を構え直して犯人のふくらはぎに狙いをつけ――
パパンッ!!――
銃弾を二発、的確に放った!そして――
ドスドスッッ――
「があああああああああああああああ!!」
絶望に似た声をあげながら倒れる。その瞬間を逃さず、今度は相手の後頭部めがけ銃の持ち手を思いっきり打ち込む!
ゴスッ――
鈍い音が聞こえ、少し嫌な感触が手に伝わってくる。
「ガハッ……!」
その一言が口から洩れ、それ以降はピクリとも動かなくなった。
(あれ……、やりすぎた……かも?)
私は恐怖の念に駆られ、息を確認してみる。
スーッ、スーッと息が手に当たり、何とか杞憂に終わってくれたようだ。確認後、更に足を丁寧に縛り、起きても完全に動けないようにしておく。
これで本当に相手は何もできない……と思う。流石にとは思うけど、一応警戒しながら事に及んでいた。縛り終えてからも大丈夫か確認し、私はさっきの警官の元へと駆け寄った。
「大丈夫ですか? お怪我は? 意識は朦朧としていませんか?」
肩を叩きながらまずはざっと、相手の調子を尋ねる。
「あぁ、大丈夫」
未だに視力が回復していないのか、目は瞑ったままだったけど、元気に応えてくれた。良かったぁ、と心の底から安堵する。
「それよりも、そちらの方が大丈夫かい? さっき、悲鳴が聞こえてきたけれども……」
(えっ?)
意表を突かれた。まさか、心配してくれるとは思っていなかったからだ。気遣いのできる警官は初めてだった。
今まで接してきた警官は、仕事を取られたことに悪態を吐き、多かれ少なかれ罵倒を浴びせてきていたが、この人はそれをしないんだなぁ、と心から感嘆した。
「ご心配ありがとうございます。大丈夫ですよ。怪我はしてませんから」
そう言って彼を安心させる言葉をかけると、ほっと安堵の溜息を吐いていた。
時刻を見ると九時四十分を過ぎている。光が収まっているということは、向こうの方も何とか抑え込んだのかなぁと思ってると――
ピピッ、ピピッ――
耳につけてるインカムから、特定の発信者を知らせる音が鳴る。
実は、警官が派手な格好と言ったもう一つの理由はこのインカムにある。本来はこの国にないもので、私達位しか持っていない。だけど、こういった任務中に色々と情報共有することが重要となるので、私達は構わず付けている。ダイヤルを回すと、発信先ごとに音が決まっており、その音を頼りに発信する。受信の時も同じ要領である。因みにさっきの発信者はというと――
「やぁ、そっちも終わったかい?」
声の主は例の変態野郎――ではなく、イチであった。
「おかげで何とか一人捕まえたよ。一瞬危なかったけど、とりあえずは大丈夫かな」
「こっちも一人は捕まえたんだけど、発光源である人物は捕まえ損ねた。ごめん」
「そう……」
正直言うと、捕まえて欲しかったと思う気持ちはある。でも、そこまで求めるのは酷というものだ。だから、しょうがないと嘆息をついて、明日また捕まえるかと諦めようとしていたところ――
「だけど、とりあえずは発光性の粉末をそいつにかけといたから、追いかけられるっちゃあ追いかけられるけど。どうする?」
「ホントッ!? ナイス、イチ!」
こういう時に本当に頼りになる男だこと。仕事が早くて助かる。これで何とか、今晩中にこの事件を決着させられる手筈は整った。
「さっきまでは少し追っかけっこしていたけど、今は相手を油断させるためにあえて追うのをやめて、お前と合流してから行動しようかなと思っている。まぁ、少しずつは動いていくけど、それでいいかい?」
「了解! じゃあ、そういうことで、後程ね」
その後、現在の位置情報をイチに伝え(ギャグじゃないよ……)、どこへ向かえばいいかを聞きだした。しかし最後に――
「でもさぁ、ほんとは男のけつを追いかけるより、女の子の尻を追いかける方が良いよね。気分が全く乗……」
――――ブツッ!――――
アホみたいな発言をしようとした為、インカムの会話を一方的に切った。こんな仕事をしていても、そんなことを考えられるあいつに、私は頭を抱えた。どこまでも欲望に忠実すぎる男である。ある意味やるなぁ、と感心してしまう自分がいるのもまた、この流れに慣れてきてしまっている証拠でもある。慣れって怖いものね……。
それは置いといて、話からほっとしたものの、相手はあと一人いる。油断すれば命を落としかねないこの仕事。もう一度、気を引き締めてイチの待つ方向へと向かうことにした。すると――
「ちょっと待って! 君は一体、何者何だい??」
さっきの警官が制止させるかのように声をかけてきた。
(そういえば、さっき私のことを話していなかったね……)
そう思い立ち、私は周りに響くような声でこう応えた。
「私の名前は川上彩夏
歳は十四
国指定自警団『我誓不殺』の頭領であり
今回の依頼請負人です
以降、ご贔屓にしていただけるとありがたい所存でございます」
そう言い残して再び、イチの待つ方向へと歩き出した。
***
その後、視力の戻った警官こと「麻枝聡」は驚くべき光景を目にした。
(一体これはどういうことだ……)
目の前に倒れているのは、自分よりも一回り大きい男で、恐らく麻枝を襲った張本人であろう。しかし、驚愕すべきはそこではない。
(あの少女は何者なんだ??)
そうこの男を倒したのが、さっき彼が声をかけ、そして、心配をかけさせてしまった少女であるということだ。
他に可能性がないか考えてみたものの、気配も声も明らかに二人のみ、弓弦の音すら聞こえないし、遠くから銃撃の音も聞こえなかった。そして、それが何よりも確証であることを麻枝は理解していた。ただ――
(あの小さい子が、こんなでかい奴を倒したってのか……)
理解はしているが、理解し難い事実に彼は頭を抱えた。明らかに三周り以上は小さい少女。それが一人で倒したということと、彼女よりも自分の方が力量的に劣っているということに、情けなさを感じていたのである。
しばらくすると、仲間が駆けつけてきた。しかし麻枝は、自分の体験したことを彼らに話すことはせず、いつの間にか戦いは終わっていたということにして収集を付けることにした。
これは彼自身が負けてしまったことにより、情けなさを感じてのこともあったが、何よりも彼らに話しても信じてもらえないだろうし、彼女のことは内緒にしておいた方が良いだろうという判断だった。そして麻枝は――
(また、あの少女に会ってみたい。今度は、きちんと真正面から対面したい)
そう心に誓って、彼は今回の事件の後始末を行った。
ちなみにこの後、麻枝聡は彩夏達と別の形で会うことになるけど、それはまだ先の話である。
という感じで短いけど、進行はナレーでした!! また後ほど!!
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本当に誰なんだろう? 架空の人物とはいえど、こんなにしゃべるとは思わなかった。
……気にせず進めよう。
とまぁ、私の概略はこんなもんで良いかな? どんなことをしているかくらいは、理解してくれたと思うし、一旦、ストップするね。後半、気乗りしたら話してあげる。
そう、この通り私は全く別の世界で前述までのような生活を送っている。
自分で語っていてなんだけど、結構危ないことしているんだなぁ、と今更ながらそう思った。
ここは地球とは――多分――違う世界の惑星ヒラヤスにある大陸「アヤマ」。その西側、ミチクダ半島の付け根から半分を支配する王国「カンゲン」。そして私は、国の中心「神都」にて日常の危険から人々を守る自警団として日々仕事をしている「我誓不殺」のリーダー。この国の言葉で頭領と呼ばれる地位にいる。
ただし、日本にいない訳ではなく、日本と異世界とを行ったり来たりしており、普段の私は日本で普通(?)の中学生をやっている。それでも学校から帰ってくると、筋トレ・馬術・体術等、向こうの世界で生きるために必要な技術を身に付けるために鍛錬している(青春は……謳歌できていないかも……)。
因みに他の三人も私と同じように日本の中学に通ってくれている。これは、彼ら発っての希望であり、この方が何かと都合が良いのだという。彼らは元々カンゲン国の住人で、本来であればそっちの方の中学に通うのが当然であり、向こうにも法律で定められている決まりがあるのだが、特例を受けてこっちの授業での卒業を認められている。
メンバーのことは後ほど話すことにしよう。
自警団の仕事は、国内の大小を問わず事件が発生したら、駆けつけて処理をすることである。と言っても、この世界にも警察はいるから、事前に防いだり、結構解決されたりすることも多い。しかし彼らの範囲はあくまでもその地区だけであり、一帯の日常の安全を守ることしかできない。故にその地区以外には関与できない立場にある。
その代わり、私達自警団は垣根なく、どこでも仕事をすることが可能であるため、依頼さえあればどんな場所でも動くことができる。ただし、腕がもがれようが脚がもがれようが、最悪死のうと、その仕事に身を投じた本人の責任のため、手当や保険なんかは一切出ない。要するに勝手にやっとけ状態なのである。まぁ、報酬は仕事内容にもよるけど、もらえる時は額が半端ないことになるのは確か。
更にいえば、仕事をするにもランクがある。(この国では任級と呼ばれる)依頼に関しては管理局が精査し、街の掲示板に張り出されるのだが、その時のランク以下の仕事以外は受けてはいけない決まりとなっている。ランクを上げるには、一年に二回ほどある試験に受かるしか方法がないのである。当然、上に行けば行くほど試験も難しくなり、命の危険に関わる仕事も多くなっていく。(階級は下から丙、乙、甲、星となり、星からは数で表され、私達はその中でも現在、乙級に所属している)
特定の人宛に出された依頼に関しては、自分達で精査し、遂行可能かどうかの判断ができる。今回受けている依頼は、正にこの類。
そして私達は、自警団以外でとある任務を背負って生活している。
要人警護、って言う言い方が正しいのかな? 実際はそんな堅苦しいものじゃないんだけど。要するに、この国の主要人物も日常的に警護している訳で、こっちは複雑な事情があって一般には隠している職業なの。これも今回の話の中で触れることにしているから、まだ待ちということでお願い。
さて、ここまでサクッと? 概要を話してきたから、本題に入ろうかな。
とは言ったものの、このまま話すとたぶん、鬱展開は確実なのよね……。まぁ、これを話さない限り、今後が展開できないから話すけど……。
まぁいいか。すっきりすると思って、進めていきましょうか。
そう、あれは今を遡ること二年前――




