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終 章 後の記録

 さぁ、時は戻しに戻して現在に至ろう。


 再び私は生来の女誑し――要するに奴に連絡を取ることにした。耳元のダイヤルを回し、イチの受信音と同じところでプッシュした。五秒くらいで繋がる。

「彩夏、いきなり切るなんて酷いよ。きちんと後で連絡することの有無を伝えないとね……」

「そうせざる負えない状況にした張本人が、どの口叩いて私に文句を言っているのやら……」

 まぁ、そんなことを考えても仕方ないか……。

「で、どう? 犯人はどの方向に進んでいるか分かる?」

「見ている限りでは、南の方向に進んでいるみたいだけど、どうだろう。とりあえず、少し追跡してみるけど、ある程度したら彩夏の合流を待つわ」

 ということは――

「さっきの指示通りで良いてことね?」

「そう、それでAll for nothing!!」

「言語覚えるの早過ぎ。羨ましい限りだわ……」

 そう言って、再び回線を切る。必要なことは聞けたし、急ぐ必要があったため、ここは真っ直ぐ進むことにした。

 私は困った表情をしつつ、心なしか微笑していた。普段は変態発言ばかりで私から相当酷い目で見られているけど、齢十四にして「特級学力保持者」――地球でいう、博士クラス以上の学力を有するイチに、英語の勉強は容易いものだった。だからこその信頼度は高い。あの一点を除けば……。

 そんなどうでもいい感傷に浸っていると、突然――

 ピーッ、ピーッ――

 今度は違う音が聞こえ、またもや無線が掛かってきた。何だろうと思って繋いでみると……、

「よしっ! 繋がったぁ!! お~い、彩夏!! 聞こえて……」

 ブツッ――

 再度、面倒くさそうなのが連絡してきたから、即行で回線を切・断!!

 よし残り一人を捕まえに行こうかなぁ。

 ピーッ、ピーッ――

(……)

 もう一回繋ぐとか、こいつあほなのかな? と内心で罵りつつ、仕方がないので繋ぐことにした。

「ごめんごめん。調子に乗りすぎた……。要件があって連絡したんだけどね」

「……だったら、初めから真面目にしなよ! 緊急の用事ならちゃっちゃか必要なことを言うのは当然でしょ!!」

 回線の主は、西平境(にしだいらけい)こと通称「ケイ」。普段は相手の裏の裏を読む力に長けており、相手を誘うのはうまいけど、何故か空気を読まない発言ばかりで、空気を凍らす、全員からの突っ込みが入る等、普段は余計なことしかしない。さっきの発言も何のためなのか私達には理解ができない……。

「それはとりあえず、過ぎたことだから頼むから勘弁して。それよりその三人の情報欲しくない?」

 ……まさかの情報源に、絶句してしまった。

「えっ? どこで手に入れたの?」

「図書館行きゃあ、情報はなんでもあるって」

 そう発言をして、ニコッと食えない笑顔をしたであろうという想像に、内心イラッとしつつも、聞くことにしてみた。

「でっ、情報の開示を要求する。簡潔にはしなくて良いから」

「了解。そいつら、雷属の三人だろ?」

「そう」

「文面見たときに気になって、過去の事件履歴を遡って見たわけ。そしたらそいつら、一回捕まってんだわ。四年前位にな。その時は三人で、一斉に通行人を感電させて金品を奪ってたんだけど、顔がばれていたから、最終的には居場所割り出されて捕まったんだってさ。で、判決で懲役三年を言い渡されて、そのまま三人で豚箱行き。そして三年してから出所。その後の行方は知れていなかったけど、どうやら犯行相手を絞ってやり方も変えて、同じようなことをしているみたいだねぇ」

 ここまでの情報は別段無意味だと思うんだけど、何でこんなことを話してくるのか分からなかった。

 そう考えているとサラッととんでもないことをこいつは口走った。

「追尾のために粉を付けても無意味だよ」

 思わず眉をひそめた。

 ――どういうこと?

「そいつたぶん、光の発生源だろ? 皆川(みなかわ)(はじめ)って言うんだけど、こいつがこの三人の参謀で、当時十六歳ながら警察から"五年も逃げつつ"、"合計百四十三人もの通行人の金品を盗み去った"主犯格と言っても過言じゃない。どんなに多くの策を練っても、見事な判断能力と勘の良さで警察の包囲網を掻い潜り、二人の逃走経路を確保しつつ、自分も合間を縫って出し抜いたくらいだからね」

 ケイの言葉を吟味する。

(五年間逃げ続け、その上百四十人以上もの人から窃盗を繰り返しているなんて……)

 他の二人はともかく、そいつだけは相当な手練れだと考えた方が良い。そりゃ警察も手を焼くわけか……。

「因みに、四年前捕まった理由は……」


 その理由を聞いて私は、もしかしたら、やり直させることができるかもしれないと思った。

「情報ありがとう。流石に仕事が早くて助かるわ」

「ご期待に添えて何よりだよ、頭領」

 そう言ったのを最後に、私は回線を切ることにした。

(さて、何となく落としやすくなったよ……)

 彼がそういった経験をしているのであれば、もしかしたら、説得は可能なのかもしれない。もちろん可能というだけであって、成功するとは到底思えない。まずは捕まえ、自分のしたことについて懺悔させることが大事だと思う。これは最後に切るものだ。

(時刻はもうすでに二十一時五十分を過ぎた……)

 明日は休みとはいえ、早めに帰りたい。そうはいかないかもしれないけど、平穏な街に戻すには一刻も早くこの事件の解決が望まれている。それにしても――

(彼らは何故、このような行動を取ってしまうのか……?)

 疑問を出したら先には進まないから、まずはイチの元へ向かうとしよう。その前に連絡を取って、さっきの話を伝えないといけない。本当に油断大敵だってことを……。


 指示された通り山手へ向かうと、なるほど言っている意味が分かった。確かに山には光の道筋が描かれており、さながら、地面に模写された天の川みたいだった。進路をそっちに修正し、急いでイチのいる場所へと向かう。

 山の入口に入り、二百m位の所でところでイチと落ち合うことができたが、何故だろう?複雑な表情で私を見てきた。

「参ったねこりゃ……」

「どうしたの?」

「いや、普通の窃盗犯かと思ってたら、相当の手練れだった。後で追跡できるだろうと思って高を括ってたんだけど、全くのはずれだった」

「撒かれた訳ね……」

「しかも、ただ撒かれたわけじゃなく、俺が付けた追尾用発光粉末を一瞬で見抜いて、川に入ることで全部流してしまったんだ。くそ、不覚だった」

 ほぅ、と本当に感心した。ケイからの報告とプラスすると、難しそうな案件だなぁと確信した。

 ただ、ふと疑問に思ったことを口にする。

「でも、それだったら水滴の後を追えるんじゃないの? いくらなんでもその位ならできないこともないような……」

「そう思って目を凝らして探してみたけど、どうやら電気を使って瞬時に粗方の水分を蒸発させて、追跡されないようにしたみたい。こんなの聞いてないんだけど……」

 頭の回転が速すぎる。警察なんかじゃ手に負えるものじゃない。水を電気分解すれば水素と酸素が発生し、気体となるから実質服は乾く。それを知っているとは――

「きちんと勉強してるのねぇ」

「どこに感心してるんだよ……」

「良いじゃない。それだけすごいことをやってのけているんだからさ。それよりイチ、さっきケイから連絡が入って……」

 私はさっきケイから受けた報告を概略で話すことにした。

 話し終えてしばらく俯いて考えた後、イチは頭を上げて私に告げる。

「どう? 説得はできそうか?」

「無理じゃないとは思うけど、基本、戦闘がメインとなる可能性が高いのは間違いないね。そして、その戦闘もこちらが勝てる保証は正直ないよ」

 さっきの機転の利く行動といい、警察の包囲網を一人で突破した話といい、ちょっと厄介な奴を相手にしてしまったなぁ、という感じで鼻息を鳴らした。恐らく、追っていったところで何か罠を用意しているであろう。それにイチは気付けるけど、私はそこまで予知は得意じゃない。故に罠を受けて防ぐことは出来ても、避けることは難しい。

(さて、どうするか……。)

 時刻を見てみた。十時五分。なるべく急いで事を運びたいところだけど、それは難しいだろうなと考える。

「とにかくまずは、追うことが先決かな? 多少力を使ってしまうかもしれないけど、こうなったらばれることは別にいいでしょう?」

「そりゃ、相手にはもう既に、こちらの存在が気付かれている訳だし、こればかりはどうしようもないから、使ってくれ」

「了解」

 そして私は左手の甲に印字してある文字「水」をなぞる。

 因みにさっき戦っていた時は全く力を開放していなかった。つまり、相手の攻撃が当たると私は死ぬ可能性を持っていたわけね。超ギリギリだったけど……。

 これで私は力を思いっきり使えるようになったわけだけど、その代わり見つけられやすくもなったことになる。イチも市民として紛れるために力を開放していなかったから、同じく手の甲に書いてある「気」の字をなぞる。

 二人とも解除したのを確認して、森の中へと踏み出す。その際私は、鼻に神経を集中させていた。

 私の場合はどうやら嗅覚が発達するようで、どの位臭いが強くなったかは分からないけど、少なくとも彼の向かった方向が分かる位には、発達している。

 イチも敏感になった聴覚を使って、周囲を確認する。流石に戻ってきてはいないみたいだから、奥へ進むことにした。

 なるべく急ぎ目に、しかし慎重さを欠くことなく犯人を追っていく。

 臭いを辿っていると、相手がいかに複雑なルートを進んだかが分かる。撒くためとはいえ、ここまで複雑なルートを使うことに疑問を持つが、警察の包囲網を掻い潜って逃げ出せるほどだ。それ位やらないとできる所業じゃない。

 それを念頭において、小走りになりながら進んでいくと、私の鼻が段々と、においが強くなっていくのを感じ取った。それを小声でイチに知らせる。

「近いよ。まぁ、もしかしたらわざと、服を脱いでそこに置いたのかもしれないけど。逃げている可能性もあるね」

「いや、近くで人間の鼓動の音が聞こえているから、多分、あっている」

 とにかく、可能な限り近づいて相手の位置を確認するしかない。私達は更に歩みを緩め、これ以上ないってくらい慎重に足を進ませる。

 見えてきた臭いの発生源を追っていく。そこは、ちょうど木々が生えていない直径三mの空間。少し窪地になっている。そして、発生源は今私たちがいるところから、反対側の木の裏であった。

(向こうは既に気付いているはず……。ここから先は二手に分かれた方が良いね)

 私は指さしと目配せでイチに指示を出した。本人もそれで了承し、いざ逮捕しようと足を少しずつ、緊張しながらも近づけていく。

 私は犯人の右側から、イチは犯人の左側から捕まえる作戦だ。そして、徐々に距離を詰めていく。いよいよ、相手の近くまであと二m。あと少しというところで気が付いた

(流石に気づいて行動しているはずなんだけど……)。

 そう、流石に二mの距離、いや、もう少し前から気づかれて話しかけるか、奇襲を仕掛けてくると思った。それなのに、その素振りすらない。

 その様子にイチも気づき、二人して一気に近づいて行く。そして、木の裏側を見てみる。

 ……が、その場所に人がいない。あったのは……、

 脱いだ服だった。

「嘘だろ……。近くでは心音が聞こえていたはずだが……」

 こんなことでイチが嘘を吐くとは思えなかったから、本当に驚いた。そして、本当に頭の切れる奴の厄介さに、ここへきてぶち当たった。と――

 ヒュンッ――

 弓弦の音が右側から聴こえた! 咄嗟に前方に回転しながら避け、近くにあった木に隠れる。

 イチはもっと早く気付いていたのか、木の陰に身を隠し、相手の様子を窺っていた。

 私は体勢を整え直してから、放たれた方向を見やる。すると、三つ向こうの木に人影が薄っすらと見えた。距離にして二十メートルあるかないか、その場所から右手甲を向けているのが見えた。使った道具は腕装着型短弓、略して「腕弓」――地球では「ボウガン」と呼ばれている――を向けている。そして、その格好は……。

「……いくら私達を騙したいからと言って、ふんどし一丁はないんじゃないのおおおおおおー!!」

 思わずその場で思ったことを叫んでしまった……。というか突っ込んでしまった。

 ブルーのふんどし(最近の流行らしい……)が一枚だけは、流石にない。やめてほしい……。

 ただ、敵である皆川はそんなことお構いなしで、敵意をむき出しにしていた。

「ちっ! まさか、この作戦を破れる連中がいたとは、さすがに驚いたよ。ばれないと思っていたのにな……」

 それはどっちの作戦の話だ! と言いたかったけど、突っ込む気力すら起きない。

 どちらにせよ、早く捕まえないと目のやり場に困るし、町の人達にも迷惑をかけるし、二重の意味で色々とことを終わらせたかった。

 しかし、彼にはあまり隙が無い。鍛錬は欠かせないタイプなのだろう。攻撃しても、怪我せずに帰って来れる可能性が低かった。

 少し沈黙が流れる。

 そして、互いに一呼吸を置いて……、一対二のバトルが始まった!! 彼はボウガンの使い手。威力こそ少ないものの連射が可能なため、早打ちで攻めつつ、落ちた矢を拾って再度利用するという高等テクを持っていた。

 対する私達は、私が皆川の注意を引きつけ、隙ができたらイチが矢を放ち、相手の動きを止めるという戦法で戦う。

(なんて速さなの! これが、警察の包囲網から逃げ切ったという攻撃力と判断力……)

 皆川は私達を交互に見つつ、距離を測っていた。私は二丁撃ちを諦め、早々に一丁だけで攻めていたが、森の中で中々に当てるのは、至難の業だった。

(木々が多いと、こちらも隠れやすいんだけど、あっちも同じ条件なんだよね……)

 しかし、私は当てるのが目的ではない。イチがたった一発を当てさえしてくれれば、こちらにとっては大きなチャンスとなる。しかし、それはこちらの誘導がうまくいったときの話であり、正直この状況下では厳しいものである。

 とにかくこっちの注意を引きつけたいところだけど、作戦に気付いているだろうか、彼は絶対に両方を確認しながら攻撃を仕掛けている。まんべんなく両方に攻撃がいくよう、攻めているからだ。

(誘導作戦はとりあえず、諦めるか……)

 私は意を決して、皆川の元に突っ込む! 木の根が剥き出しになっていたから、それを発射台として用い、一気に距離を詰める! 顔に向けて放たれる矢を銃で薙ぎ払い、それ以外はかすらせる程度の最低限の傷で抑える。

 ついに一mを切った! 私は銃を構え、彼の右肩に向けて撃つ! 気づいていたのかそれを避けてこちらにボウガンを向ける!

(かかった!!)

 私は自分の左脚を前に出し、右へと跳ぶ! と見せかけ、今度は右脚をその前に出し左へと跳んだ! そのついでに左脚を軸足として、右脚を勢いよく振り抜き、右手に持っていたボウガンを離させる!

「くっ!!」

 彼から呻き声が上がった! 私は軸足を中心に一回りをし、もう一度相手を視認してから右脚で地面を蹴り、再度詰め寄る! 左手に銃をもう一丁持ち、ゼロ射程距離で相手の肩を捉えた!!

(これで、いける!!)

 そう思った瞬間、私は後悔した……! 撃とうとしたその瞬間――

 彼が笑ったのが分かった。

「雷浴!!」

「へっ!? き、きゃああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ……」

 全身を痛みが走る!! 一瞬何が起こったのか理解ができずにいた。更に、

 ドスッ――

 何かが……いや、脇腹に矢の刺さる音が聞こえた。

「ぐぅっ!! っっ痛っっ!!」

(しまった! 油断した!!)

 彼は雷属、電気を操り、大きな一発を狙ってくる種属でもあった。だから、確実に一人一人を仕留められるよう、隙を作らせていた。矢も、近くにあった自分が撃ってそのままにしておいたものを、左手で掴み、私の右脇腹に刺したのだ!

(これが狙いだったのか……)

 流石にこれ程とは思わなかった。予想を上回る予想で相手を圧倒し、逃げおおせるのだから、この位を覚悟していなければならないはずだった。そこまで予測できていない時点で、こちらの方が分は悪かったということだった。

 だからと言って諦めるわけにはいかない! まだ、チャンスはある。そう考え、私は一か八かで賭けてみることにした。

 まず距離を取らせるため、技を繰り出す。

「水波!!」

 水の衝撃波。この距離では避けることは不可能な技を撃って相手を上空に飛ばす! 次に――

「噴水!!」

 大量の水を手から勢いよく飛ばす。より遠くへ相手との距離を取るのと同時に、私はある目的を持ってこの技を使った。

「はんっ! 水種如きが雷属に敵うわけないだろうが!! もう一度、雷浴!」

 電気が体を走る感覚があった。

「くうっ! きつい……!」

 そして、私の水を電気分解しつつ、私にもダメージを与え、尚且つ、自分の飛ぶ勢いも減る。確かに効果的な策だと思う。しかし、私の狙いはこれでよかった。

「ぐわあああああ!! す、水球!!」

 痛みに耐えながらこう叫んだ瞬間、皆川に行っていた水が後ろに回り込み、中が空洞の球体を作った!

 これには皆川も驚いたが、怯むことはないようで……。

「こんな小細工、無駄だぁ!!」

 ありったけの雷浴を炸裂させていた。しかし私はあえて、中を空洞にすることにしていたのだ。そして、イチに指示をする。

「今から私がボウガンの矢を撃つ。それがあの球体の中に入ったら、その矢で撃ってくれない?」

「分かった」

 私は腹に刺さっていた矢を抜き、私と皆川の間に放り投げた。そして、左手に持っていた銃をしっかり支えて、矢を撃ち抜いた!!

 回転しながらも、矢は予想通りの軌道を描いて皆川へと向かっていく!! 当の皆川はそれに気付き弾く準備をしていた。

 ボウガンの矢が球体の中に入っていく。

 彼は手で弾いたものの、弾いた先を見て悔しさに表情をにじませた。弾いた先はイチの放った矢の軌道上で……ちょうど、球体の中で接触するポイントだった。

 ここで少し解説。ボウガンの矢は鉄製、矢の鏃も鉄製である。更に、球体の中は電気分解により水素と酸素で充満している。さて、そこにもし矢と鏃がぶつかり火花が散ったとしたら……。

 ズドンッ――

 轟くような爆発が起きた!!

 あまりの衝撃に、目を逸らしてしまう!

 一瞬のうちにして、爆発は終わった。しかし、私はそれ以上のことを考えていた。

(しまった! 皆川の落下地点が……)

 それを捕捉しないといけないが、どこに行ったか見当もつかない。いや、それより、本当に生きているのだろうか? もし殺してしまっていたら、私達の前提が崩れてしまう。

(やりすぎてしまったかも……)

 不安が拭い切れない! 私はとにかく探さなきゃと思い、爆発の起こった方面へと進んでいこうとしたその時……

 ピピッ、ピピッ――

 突然、インカムから受信音が鳴った。音から察するに、イチからの連絡だ。


 ***


 ここに来てのナレーはどう? びっくりした?

 ……まぁ、有無を言わさず進めるけどね……。どうせ短いし……。


 爆発する数秒前、イチは彩夏をちらりと見やって

(彩夏は爆発の衝撃で落下地点を予測できる状態じゃないな)

 あれだけの電気量で組成された水素と酸素の量から発生する爆発は、相当なものだ。それを一瞬で見抜き、イチは皆川の位置と爆発する位置を概算し、走った。

 そして走り出してから三秒後、鏃同士が当たり、爆発が起こる!

 予想通り、彼は右方向へと吹っ飛ばされる。しかし、それに伴う衝撃は思ったよりも強大で驚きはしたが、そこは風属・気種の力で防ぐ。

渦気流(かきりゅう)!」

 自分と衝撃波との間に、気流の渦を作り和らげた。

 落下地点であろう付近にイチは来てみたものの、どうにも下には見当たらない。そう思って上を見てみると、なるほど木に引っかかっている皆川がいた。しかし、今にも落ちそうな気配である。

 すると案の定、枝が折れて落ちてきた。

留風(とめかぜ)

 落下地点に風を留めて、彼の落下速度を抑えた。そして自らもその地点へと進み、彼をキャッチする。

 お姫様抱っこで(笑)。

 その後、木の根元に降ろし、息と脈を確認する。

(大丈夫みたいだな……)

 確かめたら、起きても何もできないようにするために、魔力を封じ込める縄でそれこそ何重にもして縛り上げる。

 一仕事終えて、ほっと息を一つ吐き、心配するだろうとのことで彩夏に連絡を取ることにした。


 まぁ、彼らのポリシー上、殺してしまったら元も子もないから、良かったと思う。

 とりあえず、彩夏に返すわ。後、頑張って。


 ***


 はいはい、頑張りますよ、ナレーさん。


 耳に鳴り響く受信音に、私はうんざりしながらも回線をつないだ。

「どうしたの?」

「どうせ、不安になっているだろうなと思って連絡してみた」

 その発言に少しイラッとする。ただ、人が一人死んでいるかもしれないのに……、その声に余裕があるのが、すごく気になって仕方がない。

「皆川なら助けたよ」

「えっ!?」

 その発言に私は度肝を抜かれた。

「どうやって??」

「別に俺の力を使えば簡単だよ。矢を放った後、風種の力で自分の周りに気流を造り出して、衝撃風を防ぎつつ、奴の落下点を追っていたんだ。上空に飛ばされたから、推測しながらだったけど、木に引っかかっているところを発見して、落ちてきた瞬間に気流だまりを使って衝撃を和らげつつ、最後はキャッチして終了っと。そんな感じかな?」

「あぁ、なるほど……」

 その絵面見たい! とは言わないでおこう……。

「まぁ、本当はよ……。男をお姫様抱っこなんて、気持ち悪くて仕方ないんだけど、助けなきゃ死んじゃうかもしれないからな。そうだ! 口直しとしてお前を抱っ……」

 ブツッ――

 最後まで話を聞かず、連絡を断った。危ない発言をしようとしたから、切ったけど、内心、とても嬉しかった。

(ありがとう、イチ……)

 あんなんだけど、信頼は大きい。だからこその感謝だった。

 痛む腹はほっといて、探しに行くことを優先した。


 臭いの跡を追っていくと、イチと縛られ身動きを取れないようにされている皆川がいた。口を防がれているのか、もがもがと何か言っている。

「何て言ってるの?」

「基本、離せ、としか言ってないよ。あまりにも五月蠅かったから、塞いだ」

 はぁ、と一息し、彼に向き合う。そして、猿ぐつわとなっている布を取ると、

「離せよ!! もしくはもう殺してしまえよ!!」

 これがよもやさっきまで戦っていた奴なのだろうか。面影が微塵もない気がする。そんなことはどうでもいいんだけど

「落ち着いて話を聞いてちょうだい。まず一つ質問。あなた達はなんでこんなことをしているの?」

 それに対して答えは

「むしゃくしゃしたからだよ!」

 とだけ。イラッとしたから、水球を作って顔を覆う。

「がぼっごぼぼぼぼぼおがっぼっ……!」

 しばらくして、落ち着かせてもう一度質問する。同じ答えが返ってきたらもう一度溺れさせて、もう一回質問をする。これを相手が本当の答えを吐くまで続けた。

 えっ? これじゃあ、電気使われて、また電気分解を起こされるんじゃないのかって?その可能性はあり得ないといっておこう。

 なぜなら、縛った紐は私達の力を封じる仕掛けが施されており、回路がつながるようにして縛ったらその瞬間から力が発動しなくなるという仕組みなのよ。便利でしょう!(えぇっ! さっき説明したの? ちぇっ……)まぁ、それは良いとして。

 十回くらい繰り返した時に、ようやく理由を聞くことができた。

「はぁはぁはぁはぁ……、あいつらを助けたかったんだよ……」

「あいつらって、あんたの仲間のこと?」

「そうだよ……。俺たちは親からも世間からも見捨てられた、いわゆる【孤児】という奴さ……。道行く人から蔑まれて、その周りの餓鬼どもまで、俺のことを侮辱してきた。俺が十一の時にあいつらに会って、それからはずっと軽い盗みをしながら、その日を暮していた」

 あれで、軽い盗みとは驚いた。相当な自信がなければ、こんな発言は出来ない。

「ずっと日陰で暮らし、日の目を見ることもなく、ただ逃げることしかできなかった。俺はいつ死んでも、いつ裁かれても良いから、あいつらにはせめていい人生を送って欲しいと思っていたんだよ。結局、四年前はあいつらが自分達で逮捕を手繰り寄せてしまったから、まぁ、しょうがないわな。あいつら何だかんだ言って根はやさしいから……」

 なるほど、心が育っていないのにも頷けるわ。親からも世間からもって、意外と複雑な事情だったとは……。

「それで今回は?」

 少し黙っていたが、重々しく口を開いた。

「商人を狙ったのは、奴らが羨ましく思ったからだよ。奴らは教育を、しかも上の位の良い教育を受けてきていた。真っ当に生きられなかった俺らに対し、奴らは真っ当に生きてきた。それが悔しくてな……」

 ――むしゃくしゃしていたという理由も、あながち間違いでは無かったということか……。

 確かに今の世代は、親のコネや大金で良い教育を受けてきているのは確かだ。しかし、その親は苦労を続けて今の地位を手に入れた連中ばかりだ。学はなかったが、自分達の経験と勘を頼りに、今の地位を築いていた。

 私はケイから聞いた話を統合して、まず、聞いてみた。

「あなた、彼らを見返してやりたいと思わないの?」

 まず、これから聞いてみる。すると案の定――

「見返してやりてぇよ! だからこんなことやってんだろうが!」

「そうね。だったら、これ以外のことで見返す方法があったとしたら?」

 それを聞いて皆川の目が点となる。

「どういうことだ?」

「あなたは四年前、肺炎を患って病院に担ぎ込まれたんだってね。その時担ぎ込んだのはあなたの例の仲間二人、で良い?」

「あっ、あぁ……」

 有無を言わせる前に、私は言葉を紡ぐ。

「そして、死ぬかもしれないと言われていたものの、肺炎の処置をしてもらって死地から救われたのに驚いて、一度は牢屋の中で医者になりたいと零したそうじゃない。でも、現実問題として、教育費や受験代、その他のもろもろが掛かるため断念し、結局生きるためにまた、盗むことを決断した」

 ぐうの音も出ないのだろうか。黙りこくってしまっている。

 そして、私は改まった口調で皆川に提案した。

「そこでその仲間たちへの恩返しということで、とある計画をあなたに提示します」

「何だ……?」

 ここから先はイチにも言っていない。でもこの人を経済格差から、人的差別から救うにはこれしかないと思った。


「これから一年間、私達があなた方を支援します。その代わりに一年間、しっかり学んでもらい、そして、あなたには医者になってもらいます」


 私はどや顔でそう言った。二人ともキョトンとした顔で、こっちを見つめてくる。

「もちろん、その他の二人には働く場所としてとある場所を提供します。彼らもあなたに恩があるでしょうから。そして後々、君たちの生活費と教育費を自分達の手で払っていただきます」

 イチは頭を抱えている。それもそうだ。はっきり言って、これは微妙に説得になっていない。ただの提案だ。本来私達はここまでする必要も義理もないのだから、あり得ないと言われても仕方のないこと。

 ただ、私は彼の仲間を思う精神に賭けたのだ。彼は五年間、参謀として彼らを指示し、二人を逃がしつつ逃亡してきたのだから。

「その話は、本当のこととして受け取っていいのか……?」

(やっぱり、食いついてきた!)

「もちろん。ただし、一年だけの約束だから、後はごめんけど自分達で何とかしてちょうだい。まぁ、働く場所の提供は大丈夫だと思うけど」

 彼はそれから思案していた。そして、そこから意を決したようにこちらを見つめてきた。

「もし、夢破れた場合はどうすればいい?」

 その問いに対して、私は笑って答えた。


「私は、あなたが夢に破れるなんてこれぽっちも思っていない。だって、あれだけの策略や技術を持っている人がそれ位で諦めるとは思えないからね。だから……、信じているよ」


 その言葉が聞いたのだろう、彼は大粒の涙を流して、こう答えた。

「じゃ……あ、俺に……夢を見させてくれ……」

 こうして、この事件は終焉を迎えた。


 この後私達は彼を負ぶって、山を下りていた。すると、目の前から人影が現れ

「流石、我誓不殺(がせいふさつ)。手際がいいなぁ」

 と話しかけてきた。しかし、その声には聞き覚えがあり、正体はすぐに分かった。

「友彦さん。あの依頼はもしかして……?」

 どういうわけかそこには、八百屋かまたりの店主で、私達と親交が深い「鎌足友彦」がいる。

「ん? 何故俺だと思うのかい?」

 意地悪そうな顔で私達に話しかけてくる。やっぱりと思って理由を言おうと思ったら、イチが手早く説明し出した。

「根拠を述べますと、まず、私達は神都でしか未だ名を知られていない。第二に、知人なんていないこんなところから送ってくるということは、それが知り合いだということ。三つめは、穀倉地帯ということはそれに準ずる人がいたということ。おじさんは確か野菜の他に、必要とあれば米も扱っていますよね、それでピンときたんです。最近、炎貂に行って買い付けしているから、ちょっとけんか相手がいなくて寂しいんだわ、とおばさんも言っておられましたから」

(あっ、こいつ私と同じこと考えていたのか……)

 私だけがこの事実を知っていると思っていただけに、少し落胆した。言う程は落ち込まなかったけど……。

 それを聞いて、友彦さんはニヤリとした。

「そっか、母ちゃんには少し気苦労をかけさせてしまっていたか。こりゃ帰ったら、雷位の大目玉は喰らいそうだな(笑)」

 そう笑いながらも、今度は真剣な眼差しで私達を見てきた。

「しかし見事だよ。ご明察の通り、俺が勝手に出した文書だ。実は、火都の署長とは昔っから交友があってな、少しだけ名前借りて良い? って聞いたら、『別にいいぞ。俺の情報を流通させなければな』との条件で出したんだ。俺名義だったら、お前らは動かんだろうが、署長名義であれば動くかなと思ってみていたけど、案の定動いてくれたから、良かったよ」

「何で、私達だったんですか?」

 当然の疑問を問いただす。すると友彦さんは

「至極単純だよ。経験を積ませたかった。ただそれだけ」

(まさか、そんなことのために私は死にかけたというの?)

 その理由を聞いて、私は怒りに震えた。その怒りを友彦さんへの当て付けということで、後ほど帰ったら湊さんに報告することが、私の中で決定した。

「で、若干話は聞いていたが、誰の元へ働かせる気だい?」

 その質問が飛んできた瞬間に私は、今回の案件の仕返しもかねて、友彦さんに少し嫌がらせも思いついた。

「へっ? 鎌足さん所以外は見当を付けてませんよ?」

 それを聞いて、絶句してしまっていた。唐突に聞かされたことで、友彦さんは頭を抱えた。まさか、自分の所に来るなんて……と。

「彩夏ちゃん、今考えなかった?」

「へっ? いえいえ、こいつに話す時からずっと決めていましたよ」

 勿の論、これは嘘だ。たった今考えだした私の突拍子である。

「なぁ、他に良い場所はないのか? 俺ん家は母ちゃんもいるから、厳しいかも知んねえぞ」

 まぁ確かに、湊さんは厳しい人だ。でも、境遇を聴いたら同情してくれる可能性がある。何せ、似たような経験をしてきたのだから。

「たぶん、湊さん気にしないと思いますよ。それとも、友彦さんは嫌なんですか?まさか、夢を持った人をここで足蹴にするような人ではないと思っていたんですけど?」

 私は人の悪い笑みを浮かべ、友彦さんに質問する。おじさんは視線を下げ、う~ん、と唸った。そして――

 パンッ!――

 と両腿をはたき、皆川に目線をやる。

「……分かった。俺が下宿も働き口も請け負ってやるよ! その代わり、お前!」

「えっ!? あっ、はいっ!」

 唐突に話を振られて慌てふためく皆川。その皆川をビシッと指して、声高々に言う。

「うちで面倒を見てやるから、しっかり医者になれ! 少しでも無理と言ったら、承知しないからな!!」

 こうして、彼ら三人の新たな居場所が誕生した瞬間である。


 ……ところで、私はというと、ずっと気を張っていたためか、今さら腹に穴が開いていることに対しての痛みが走り、すうっと意識が遠のいて

 バタッ――

 倒れてしまった。それを見かねた友彦さんが私を抱えてこう呟いた。

「あんたらは十分、強くなっている。心配ないさ……」

 その言葉を最後に、私の意識はフェードアウトした。


 了


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