守りたいもの
クラウスはノーマンス家の現当主にして第四十代目アトワール領主であったロアン・クロリア・ノーマンスとその妻スーザンの間に生を受けた。
兄弟もおらずノーマンス家の跡取りとしていっぱいの期待を受け育てられたクラウスは、両親の血を濃く受け継いでいた。
剛剣として知られた父に似て幼くしてその頭角を見せ始め、十二歳という若さで王都剣術闘技大会優勝。【将】という称号を得たこともあってノーマンス家は貴族の序列を大きく上げ、序列二位であるマドリアノ家の懐刀と言われるほどとなった。
その一方で顔立ちは武人にしては柔和でしなやか。色男と噂になり縁談の話が絶えなかったという。だが、武人として生きることを心に決めていたクラウスは頑なにそれを受けようとはしなかった。
それから月日は流れ、クラウスが二十歳になった頃の事だ。
隣接するタクスという小規模な街が財政難に陥り、街を治めていたハルリア家の当主バンダラ・ハルリアへの不満が高まり暴動が起ったのだ。
予めそのことを予期していたバンダラは大金を積み他の街から衛兵を雇い、屋敷の守りを固めていたのだが、金にしか興味のないバンダラは衛兵として雇った者たちの素性までは調べていなかったのだ。
その結果暴動を押さえつけられたのは一日程度で、それからは酷いものだった。
雇い主を殺した方が大金を手に出来ると考えた衛兵たちは市民側の味方をし、形成を傾ける大きな要因となった。
これに命の危機を感じたバンダラは隣接するノーマンス家に援軍を要請することとなった。
ハルリア家はノーマンス家よりも遥かに序列が低く、バンダラ自身もそのことを疎ましく思っていた。そのため交流はアトワールで年に何度か開かれる領主会合程度に止め、それ以外は極力関わらないようにしていたのだ。
故にバンダラからしたら救援要請をするのも躊躇われたが、自分の身可愛さには勝てず渋々魔境を介して援軍を要請した。
無論、交流がほぼ皆無である街の厄介事を無償で請け負うほどロアンもお人好しではなかったが、タクスという街は王都への道すがらでありここで恩を売っておくのは後々有益だと判断し兵を送ることにした。
兵の数は約五百人。そしてそれを率いていたのは次期当主であるクラウスだった。
半日掛かりでタクスに到着したノーマンス軍は領主邸を取り囲む暴徒と化した市民を懸命に無力化しようとした。しかし時既に遅し、完全に鎮圧させクラウスが領主邸内に侵入した時にはハルリア家の血族は衛兵たちに皆殺しにされていた。
大広間には首を飛ばされたバンダラが、寝室には妻らしき女が首と腹に小刀を埋められ絶命。その他にも屋敷中に使用人の骸が部屋の埃のように散乱していた。豪華な家具や絵画、壁の装飾も血飛沫で見るも無残としか言いようのない状況だった。
そんな絶望的な状況の中でクラウスが生存者を探し屋敷の地下にある独房を見に行くと、一人の女が血まみれのドレス姿で震えていたのだ。囚人を閉じ込めておくための牢の隅で膝を抱え、虚ろな目に涙を浮かべていた。
見た目から推測するに十歳後半。おそらく追手から逃げ、ここまで来たのだろうがあまりにもショックが大きかったのだろう。保護されてから一週間は口すら利けないほどに衰弱していた。
クラウスもその時のことがなかなか忘れられず、時間を縫っては彼女のもとに足を運んでいた。その行為は最初に発見したという義務感から来たものだったのだが、彼女もクラウスには少し心を開いているように思えた。
そんな努力が実を結んだのか回復した彼女はテレアと名乗り、屋敷で使用人をしていたらしく屋敷での一件の一部始終を語った。
しかし、クラウスはテレアが語った中の嘘を見抜いていた。
独房で発見したテレアの着ていたドレスは見るからに高級な生地を使用しており、とても使用人が着られるような代物ではないはずだ。それでなくても使用人が主を見捨てて自分だけ隠れるとも考えにくい。
そこでクラウスは一つの可能性、テレアがバンダラの一人娘だということに気づく。
バンダラに娘がいるというのは有名な噂だったのだが、その姿を見た者はいない。つまり屋敷でずっと匿い、その存在をひた隠しにしていたのだろう。
貴族の女児は目上の貴族に嫁がせるという習慣がある。バンダラほど金に貪欲な男なら、権力と引き換えに我が子を差し出すことも厭わないだろう。もし引き取り手がいなかった場合は裏市場に売り飛ばすなんてことも考えていたのかもしれない。
つまりこのテレアも被害者なのだ。屋敷以外の世界を知らず、親に縋る形でしか生きていけなかった悲しい子。今回の一件で負った心の傷は並大抵のものではなかったはずだ。
クラウスはそのことを自分の胸の中だけにとどめ、ハルリア家の使用人として報告した。
この時クラウスには一つの感情が芽生えつつあったことを彼自身も知らなかった。
暴動が完全に収束するまでには一月の時間を要した。
領主の血族は皆殺しにされてしまったため、後始末はクラウスが領主代行として担った。そして、ロアンから託された任は暴動の鎮圧以外にもあった。
それはタクスをノーマンス家の統治下に置くという当主からの声明を届ける事だった。
たとえ今回は上手く暴動を鎮圧出来たとしても、経済難が解消されるわけではない。領主にその気にならない限りは。
それでは意味がないと考えたロアンは経済的支援を行う代わりにタクスをノーマンス家の領地とし、ハルリア家には我が家に仕えさせようとしたのだ。
幸か不幸か統治者を失ったこの街はこのままでは領主の財を巡って第二の暴動が起きかねない。それを止める策は一つ。
その日、タクスはノーマンス家の統治下に置かれ、経済的支援を受けることとなった。
そして、タクスの新たな指導者には次期領主であるクラウスが就任した。
しかし、それから間もなくアトワールの話題を攫ったのが、
『次期アトワール領主クラウス・クロリア・ノーマンス様、婚約の意を固める。あとは相手の意思次第』というものだった。
その相手というのはハルリア家唯一の生き残りとされている女性テレアだった。
武道以外には興味を示さなかったクラウスだが、不思議と彼女となら夫婦となり共に歩んでゆくのも悪くないと思えたのだ。
しかし、クラウス以外テレアが貴族の生き残りと知らない状況に不満を唱える者も多かった。
この頃は貴族と平民が婚姻するなど滅多にないことで、その中でも正妻として迎えるなど類を見ないことだった。最初は周囲も猛反対したのだが、この機を逃すと一生独り身で血筋が途絶えてしまうことを危惧していたロアンは渋々許容した。
それから一年が経ち、クラウスが二十一歳の時に晴れて婚姻。それから半月は毎日のようにノーマンス邸でパーティーが開かれた。それはこれからのノーマンス家の子孫繁栄を期待してのもので、それから間もなくクラウスは王都からの招集を受けた。クラウスは王都の聖騎士団に五年間派遣され、その間はロアンがアトワール並びにタクスの領主となった。
しかしクラウスが二十六歳になった時、ロアンが表敬訪問した街で起こったテロに巻き込まれてしまう。幸い命は助かったのだが、深手を負ってしまい床に伏せってしまう。
その報告を受けたクラウスは五年を予定していた任を三年で切り上げ、アトワールに戻った。その後はクラウスがロアンの任を全て引き継いだ。
その二年後にクラウスとテレアの間に待望の第一子が誕生した。名をヴィオラといい、元気な女の子だった。世継ぎを期待していた市民たちは少し肩すかしだったようだ。
クラウスは武の道のみに邁進して来たこともあって、理由があれば人を切り捨てることにも躊躇はしない、剣のような人間だった。
一日のほとんどを剣と共に過ごし、いかなる時も己の強さのみを追求し続けてきた。それはクラウスにとって生きる意味であり、支えであり、存在の全てだった。
そのため英雄などと称される一方で、陰では『冷徹な剣王』と言われ怖れられていたのだ。
だが愛娘の誕生、生命の息吹を身近で感じ、クラウスは生まれて初めて涙したのだという。その時を境にクラウスは剣士から人間、そして父になったのだ。
それからクラウスは政務や公務などの任をこなす中で必ず家族との時間を設けた。それは彼にとって何よりもかけがえのない時間であり、何ものにも代えがたい刻だった。
その変わりように市民も最初は戸惑ってはいたものの、次第に彼が本物の領主の器に成長したのだと受け入れ始めていた。
そして翌年にはロアンが死去し、クラウスが正式にノーマンス家の当主となり、第四十一代目アトワール領主に就任した。街ではロアンの死を悼む声が絶えない中、クラウスの就任を喜ぶお祭り騒ぎという状況が一月ほど続いた。
ようやくクラウスの支持率が安定し、大陸中でアトワール家の新たな当主が認知し始められた頃。テレアは新たな命を身籠っていた。しかも男の子を。
世継ぎ問題は市民の間でも交わされるほど関心の話題であり、支持率が伸び悩むのはそのことも無関係ではなかっただろう。
その男の子はハンスと名付けられた。
それからは毎週末にノーマンス邸でパーティーが開かれ、街中は祝福ムード真っ只中。このまま男の子が生れ世継ぎ問題も解決、何事も万事うまく進むと思われていた。
しかし、そんな中で事件は起きてしまった。
それはノーマンス邸で開かれたパーティーでのこと。その日は他の街の領主や王都の貴族階級の来賓もあり、盛大に執り行われていた。
主役はもちろんテレアのお腹の子、ハンス。
終始会のムードは良く、クラウスも領主や上位貴族たちと挨拶を交わしていた。テレアも途中まではそれに付き合っていたのだが、大きなお腹を抱えてでは負担も大きいと考えたクラウスはテレアを壇上の椅子に座らせていた。
それが失敗だったのだ。
クラウスがいたのは壇上のテレアから十メートルほどの距離のテーブルで、テレアに背を向けて来賓と立ち話をしていた。
クラウスほどの達人であれば背中越しであろうと気配は探れるし、その気になればすぐにでも駆け寄る事が出来る間合い。その油断と過信が取り返しのない事態を招く事になる。
一瞬クラウスの背後をかなり大柄な人影が横切った。その瞬間だけは人影に遮られ気配が探れなかったのだ。時間にして一秒にも満たないほど。
人影が通り過ぎた直後に彼が感じたのは悪寒のような嫌な気配。
そして消えそうなほどか細い悲鳴と、椅子が倒れる重音が辺りに木霊した。自然と辺りは静まり返り、視線が壇上に注がれる。
壇上では純白のドレスを真紅に染め、下腹部を押さえながら身悶えるテレアと血に濡れた短剣を握りしめる小太りの男。傷口から流れる血が大理石の床に広がってゆく。
男の狙いは状況を見て分かる通りハンスの暗殺。
来賓の中には現在序列五位のノーマンス家に跡取りが生れることを快く思わない者もいるだろう。現に小太りの男は貴族序列十三位のウンダム家の当主ダッジ・ウンダムだった。
故にこの暗殺は考え得る事象のはずなのだ。昔のクラウスならかなりの確率で防げたはずだ。しかしそれを易々と実行させてしまったのは完全にクラウスの落ち度だった。
湧き上がる憎悪に視界が狭まり、強く噛み締めた唇から血が滴る。
大切なものを守れなかったことに我を忘れたクラウスはダッジに飛び掛かろうとするが、その二人の間に大柄の男が滑り込む。それは先程背中越しに感じた気配であり、あの行動が犯行の確実性を上げるための搖動だったことに気づく。
その男は屋敷に入る前からダッジの傍に付っきりだった。あの瞬間までは。
貴族などの要人は外出時には護衛を付けるのが基本なのだが、このようなパーティーの席では端に待機させるのが相手への敬意を表していて、礼儀とされている。
その時点で警戒しておくべきだったのだ。
しかしダッジの犯行はそこで終わらなかった。短剣を再び振り上げ、テレアの首筋目がけて振り下ろす。もし一命を取り留めたテレアが新たな子を身籠られたら困るのだろう。
その瞬間、会場の誰もが息を呑む。転々と上がる悲鳴。
だが会場の入り口から一陣の風が吹くと、響く甲高い金切り音。そしてダッジの肩口から吹き出す血飛沫と断末魔。
間一髪の状況を救ったのは一振りの剣を持った屋敷専属の騎士だった。騎士はダッジの首筋に剣を突きつけ、降伏を促した。
ダッジは自分の傷口を止血するので手一杯な様子で、それ以上の抵抗はしなかった。護衛の巨漢も主の意に背くことはせず、事件はようやくそこで収束した。
その後二人は街の自警団詰所に連行され、ダッジは王都に送還ののちに貴族位を剥奪され極刑に処されたそうだ。護衛の方も貴族暗殺の共犯者ということで終身禁固刑か極刑は免れないだろう。
すぐさまテレアには応急処置が施され一命は取り留めたのだが、ハンスは刀傷が頭部に達しておりそれが致命傷となった。
その事件以降テレアは心を失ってしまった。
目は常に虚ろで虚空を見ているよう。意思疎通は出来ず、屋敷に閉じこもってしまい食事も摂らない。そのため延命措置として点滴での栄養補給と魔法による筋力の維持のみが施されていたのだが、問題なのは彼女が突然起こす癇癪だった。
テレアはハンスが死んでしまったのは自分のせいだと思っており、深く自分を責めた。その念が彼女に自傷衝動を引き起こした。
それは日を追うごとに悪化していき、遂に自殺未遂を起こしたことでクラウスは彼女の命を最優先とし地下の部屋に監禁するという苦渋の選択をした。もちろん自殺など出来ないようにベッドに寝かせた状態で手枷と足枷を付けて。
それからのクラウスはまた武の道に励む日常に戻ってしまった。それは己の未熟さが愛する者の命を危険に曝してしまい、生まれてくるはずだった命を守れなかったという激しい後悔に苛まれた結果だった。
しかし、昔と違うのはヴィオラがいる。
彼女は積極的にテレアの介護を行い、クラウスの前でも常に明るく努めた。それが彼の心の拠り所になると知っていたから。
あの事件以降ノーマンス家は根も葉もない悪評を広められ、二年後に序列十位まで降格。貴族会議での発言権も失ってしまう。
クラウスが三十九歳、ヴィオラが十一歳になった頃にはヴィオラも政務などクラウスの手伝いをするようになっていた。それはヴィオラを次期ノーマンス家の当主に育て上げるためだった。
貴族の世襲は基本的に男児が行うとされており、女児は嫁がせるのが常。貴族社会は権力を巡る欲が渦巻く最も醜いもの。そんな世界で女が当主になろうと思うならよほど弁が立つ策士であるか、武術に秀でた猛者でない限りはまず無謀であろう。
もちろん前例などなかったが、クラウスが愛する娘にしてやれることは立派なアトワール家の当主に仕立て上げること。クラウス亡き後、彼女を守るにはそれしかないと思っていた。
そんな矢先、年に数回序列二十一位までの当主が王都に招集され開かれる貴族会議の招集状がノーマンス邸に届けられた。
貴族会議は王都で三日間開かれ、アトワールからの移動時間を考えると半月以上街を離れることになり、その代行をヴィオラが務める事となった。その間は特に問題もなく、半月が過ぎた。
しかし、アトワールに帰って来たクラウスは一人では歩けないほどに衰弱していた。理由は王都で蔓延している疫病に感染してしまったことだった。
その病は感染すると高熱が続き、次第に衰弱して死に至るというもの。しかも治療法の分かっていない不治の病だった。
それからクラウスは床に伏せってしまい、病発症から五年後、クラウスは四十四歳という若さでこの世を去った。
死期を悟ったクラウスは愛娘が世襲するにあたって事細かに記した遺言状を残した。
遺言状には世襲するには幼すぎることやまだ当主としては未熟すぎる点を危惧する内容が延々と書き連ねられていた。そして、そこには彼の無念さがありありと滲み出ていた。
そして、最後はこう締めくくられていた。
『我が愛しのヴィオラ。私はお前の母を、生まれてくるはずだった弟を守れなかった。それは私の慢心が招いたこと。もちろん今更許してくれなんて調子のいいことを言うつもりもない。だが、これだけは知っていて欲しい。私がお前を、テレアを、ハンスをこの世の何よりも大切だと思っていたことを。これからはお前がテレアと我が家を護ってくれ』
書き初めと書き終わりでは同一人物の文字とは思えないほどに乱れ、何かが染みた跡。おそらくクラウスはこの書をしたためながら涙していたのだろう。懐かしい日々を思い返しながら。
その遺言状を読んでからのヴィオラは寝る間を惜しんで魔法の研究に没頭した。
元々魔法学を得意としていたヴィオラだったが、より高度な術を学ぶために大陸で精鋭の術師を各地から招き、研究に勤しんだ。
全てはクラウスの最後の願いを聞き届けるために。
それからあっという間に二ヶ月が過ぎ、市民の間では領主の不在を不安視する声も上がり始めていた。その間も研究を休むことなく続けたヴィオラはようやく完全な擬態の魔法を組み上げた。
それまでは姿を誤魔化すには幻惑系の魔法で相手の脳に干渉し認識を捻じ曲げるか、偶像を自分に投影するのが精一杯だった。
しかしその術は不完全で、幻惑系の術ならかかった人以外が見れば一目瞭然。そんな術を市民一人一人にかけていたら魔力がいくらあっても足りない。投影術は触れれば術が崩壊し、解けてしまうという欠点がある。
そこでヴィオラが考えたのは治癒系の活性術の応用で、一時的に身体の細胞を急速成長させることを考えた。
しかし実際に術を組み上げるとなると全身の成長度合いが一定にならなかったり、魔力の消耗が激しく実用が難しかったりと壁に何度もぶつかった。
そこでヴィオラが編み出したのは同じ術を二段重ねにするというものだった。魔術とは基本魔方陣一つで事足りるのだが、それをもう一つ増やすことで一つの術にかかる負担を減らすことが出来るため魔力の消耗を極限まで抑えられ、術を二分割しているために扱い易く成長度合いも安定しやすい。
しかし、いくらヴィオラの見た目が大人びようとも年齢がばれていては騙すなんて到底無理な話。
そこで術が完成すると、ヴィオラは十名の呪術師を大陸中からかき集めた。
呪術とは魔法とは根本的に異なる術で、魔法ほどの応用力はないが術の効力に定評があり、今でも呪術師は絶えないのだ。しかし呪術師には変わり者が多く、呪術絡みの事件が後を絶たないため呪術師は悪魔に仕える異端者として忌み嫌われている。
さらに呪術はその効果と引き換えにかなりの代償を伴う。
もちろんヴィオラも例外ではなく、彼女の場合は自分の寿命を二十年分引換にしなくてはいけなかった。
だが大陸中に催眠をかけるとなると呪術に縋るしかないのも事実。
そしてその日、呪術師十名による大規模な催眠の呪術が大陸全土を包み込んだ。
その内容は『ヴィオラ・クロリア・ノーマンスの年齢は十八歳である』という簡単な催眠呪術。だが、その呪術こそがヴィオラをクラウスの求めた未来の領主像に昇華させる。
それから間もなくヴィオラはノーマンス家の当主となり、第四十二代目アトワール領主に就任した。本来のあどけなさの残る彼女を捨て、本来とはかけ離れた凛々しく大人びた姿で市民たちの前に立ったのだった。




