冒険の音色
『人間』って、なんなのだろう?
『立派』って、なんなんだろう?
考えても見つからないし
探したって見つかりっこない
それは魔法みたいに空虚で
それは噂みたいに下らないんだ
そんなものは売り払って
僕と一緒に出かけよう
君はサクランボお爺さんに拾われた喋る木切れ
君はトウモロコシお爺さんに削り出されて
君は口から先に産まれた
君の足音は二十足分
なのに君の姿は不格好で
立つことさえも満足にできない
立派な鼻と心意気
その形は操り人形
だから
君のためって
僕は必死に叫んだのに
返ってきたのは木槌だったよ
孤独に寝入って足を焼いちゃって
教科書だって売っ払って
全くどうして
君はホントに
反省なんて上の空
君のためって
僕は必死に叫んでいるのに
君は産まれたときから聞く耳を持たないみたいで……
簡単に結んだ約束は
簡単な誘惑で解けてしまう
そのときの気持ちに嘘はないけど
嘘以上に嘘にしちゃう
ダメな子ほど愛おしいけど
さすがに金貨は木に生らないよ
君のためって
僕は必死に叫んでいるのに
それは猫に襲われた鶫のように無力なんだ
夜道の追い剥ぎ怖いのに
金貨を五枚も食べちゃって
全くどうして
君はホントに
奇蹟ヶ原に行きたいって
青い仙女を泣かせても
お爺さんが小舟で海に沈んでも
君は子供をやめないんだ
無償の愛を理解できない
そんな君は人形以上で人間未満
君のためって
僕は必死に叫んでいるのに
君は「情けは他人の為ならず」って耳を貸さないんだ
『人間』って、なんなのだろう?
『立派』って、なんなんだろう?
そんなになりたいものなのか?
なら自分がなったらいいじゃん!
君のためって
僕は必死に叫んでいるのに
僕の声は風に向かう説教みたいで掻き消されるんだ
固い決意で約束しても
甘い誘惑で破ってしまう
だから友達は選べって言ったのに!
『友達』って、なんなのだろう?
『選ぶ』って、どういうことなの?
悪友だけが友達だろうか?
悪友って、本当にそこまで悪いものなのか?
けど
悪友だけじゃ物足りないのさ
おもちゃの国へ、ようこそって
踊って遊んでおかしくなって
ロバになってもサーカスで
踊っているのか踊らされているのか
『人間』って、なんなのだろう?
『立派』って、なんなんだろう?
働くこと?
学ぶこと?
それだけじゃ足りないけど
遊ぶだけじゃ人間じゃないのさ
火喰い親方に脅されても
牢屋で何ヶ月も過ごしても
ロバみたいに扱われても
騙されて
吊るされて
海に沈んで魚の餌になっても
君はどうしてやんちゃなの?
君はどうして悪戯に夢中なの?
君はどうして
君はどうして
君はどうして冒険をやめない?
冒険なんてしなくていいじゃん
後悔しかしてないじゃん
それで何を得たって言うの?
スリルじゃお腹は膨れないよ?
寒いよ
暗いよ
紙の服じゃ恥ずかしいよ
それなのに
いつまでも
君はどうしても
冒険がしたい
君のためって
僕は必死に叫んでいるのに
君は「誰がためは自分のため」って耳を貸さないんだ
君の頭は木製で
ぷかぷか海に浮くぐらいしか能がない
けど
僕らはホントはやんちゃな君に
悪戯で、勇敢で、無謀で、蛮勇だらけの君に
憧れているから
君の冒険が大好きなんだよ
『人間』って、なんなのだろう?
『選ぶ』って、どういうことなの?
操り人形じゃダメなんだ
もっとマシな何かでいたい
社会に操られることなく
君は君の足で敷石を奏でる
楽しい気持ちにさせてくれる
君の足音は二十足分
奏でてみせてよ、冒険の音色
実はこれだけは今年に書いたやつなんですよね。
ピノッキオの冒険を読んだのが切っ掛けです。
あまりに「立派な人間」という価値観が絶対視されていたので、それに対するアンチテーゼ的な。
いやアンチテーゼになってるのかなこれ。よく分かりません。