転機
兵士訓練所
兵士訓練所では8つの種類の戦闘型があり、それらのうちの一つを選ぶことができる。
それぞれの戦闘型でクラス分けされ、また強さ順で上級、中級、下級という様にクラス分けされている。
中級クラスと上級クラスはリーダーを決定する。月に一度、昇級試験があり、自分の入りたいクラスのリーダーを倒すか、筆記試験で合格するかのどちらかをクリアすれば昇級することが出来る。
7月15日 朝7時30分 兵士訓練所内
今日は昇級試験日で、沢山の兵士が通常より早く訓練所に来ていた。
槍の上級クラスリーダーの『愛望』と片手剣の上級クラスリーダーの『劉輝』が話している。
劉輝『今回は戦闘で昇級を狙う人いるのかな?』
愛望『どうせいないだろうね。これまで3ヶ月連続で戦闘で昇級を志望する人0だもん。』
劉輝『だよな。練習と授業だけじゃ鈍っちまうよ。』
愛望『こんなんで地球外生命体と戦えるのかな,,,』
朝8時30分 兵士訓練所 戦闘フィールド前
訓練所の所長の話が始まった。
所長『今日は昇級試験日です。地球外生命体との戦闘に備えてしっかり訓練するように。そして、今日は新しい入所者を一人紹介します。』
劉輝『(入所者?途中からなんて珍しい...)』
所長『では、どうぞ』
すると、壇上の横の階段から一人の男が歩いてきた。
赤のコートに身を包み独特なオーラを解き放っている。
鏡夜『皆さんこんにちは。俺の名前は鏡夜だ。地球外生命体を殲滅させるために此処に入所を志望した。これから宜しく、以上です。』
周りは静まっていた。鏡夜は頭を下げた後、階段を降り、兵士達の横に並んだ。
所長『では、今回は戦闘昇級志望者がいないので、各自クラスに戻ってください。鏡夜さんのクラスは...』
鏡夜『戦闘昇級?なんだそれ。』
所長は鏡夜に兵士訓練所の仕組みを説明した。
鏡夜『ふむ。受けさせてくれないか?戦闘昇級』
所長『え、えっと...わかりました。志望するクラスは?』
鏡夜『片手剣の上級クラスを志望する。』
劉輝『(俺じゃねぇか!)』
所長『ではお互いフィールドに入場してください。』
お互いがフィールドに入場し、劉輝は片手剣を装備した。だが、鏡夜は剣を持とうとしない。
所長『鏡夜さん、武器を装備してください。』
鏡夜『武器は必須なのか?倒せばいいだけなら極力武器は使いたくない。』
所長『で、ですが』
劉輝『いいじゃないか、奴がそれを望むならそれで。どうしてそこまで自信を持てるか知りたいってのもあるし。』
所長『では、始めてください...』
劉輝は戸惑う所長から鏡夜に視線を移した。そして剣を構えた。一方鏡夜は驚いたような顔をしていた。
鏡夜『(武器の構え方も知らないのか?)』
劉輝『随分と余裕な様子だけど、あまり油断はしないほうが良いと思うよ。』
鏡夜『ふむ。何故だ?』
劉輝『戦場では何が起こるかわからないからな。』
劉輝はにやけながら答えた。
愛望『(劉輝っ!なに挑発してんのよ!)』
鏡夜『面白い。戦い甲斐がありそうだ。』
劉輝『俺から行かせてもらうぜ』
劉輝は鏡夜に向かって走り出し、剣を振り上げた。そして鏡夜に剣が触れる直前で劉輝の腕が止まった。
劉輝『(何故避けない?)』
鏡夜『でかい口叩く割には臆病なんだな。人を斬るのが怖いのか?』
劉輝『...』
鏡夜は劉輝の腹に蹴りを入れた。
劉輝はうめき声と共にその場に倒れた。
鏡夜『今この場では俺が敵だ。敵を斬ることに抵抗のある奴に剣を持つ資格はない。』
鏡夜はフィールドを退場し服装を整えながらその場を去った。
劉輝は倒れたまま動けなかった。
愛望『あの状況で、劉輝が剣で斬らないことがなぜ分かったの?』
午前9時
劉輝は保健室で休んでいた。
急に保健室のドアが開いた。入ってきたのは鏡夜だった。
劉輝『っ!』
鏡夜『少し蹴るのが強かったか?悪かったな。』
劉輝は驚いた。そこにはフィールドにいた時とは全く違う表情の鏡夜の姿があった。
劉輝『だ、大丈夫だ。休んでただけだからな。』
鏡夜『そうか。なら話が早い。一つ頼みがある。』
劉輝『なんだ?』
鏡夜『片手剣の上級クラスに案内してくれないか?広くてわからないんだ。』
劉輝『わかった。』
劉輝は優しい雰囲気の鏡夜に違和感を抱きながら鏡夜をクラスへと案内した。
その後、鏡夜はクラスの人達に挨拶を済ませ、他のクラスの見学をしていた。
午前11時 槍上級クラス前
鏡夜『ここが槍の上級クラスか。』
鏡夜の目に『槍』という文字が写った瞬間鏡夜は目の前が真っ暗になった。
?『槍でこの女をぶっ殺してやる!』
鏡夜『やめろっ!その女を離せ!』
?『だめよ鏡夜くん。私は良いから、逃げて!』
鏡夜の視界が戻った。
愛望『あ、あの。大丈夫ですか?』
愛望は座り込んでいる鏡夜を見つめながら言った。
鏡夜『大丈夫だ。心配かけてしまって悪いな。』
愛望『質問があります!』
愛望は突然に言い出した。
鏡夜『な、何?』
愛望『さっき、あのフィールドで何故、剣で斬られないことが分かったんですか?』
鏡夜『何となく分かった。ここの兵士に人を斬る勇気を持つ者はいないと自分なりに憶測を立てていたのもあってな。』
愛望『私なら、あの時迷わずに斬ったと思います。』
愛望はそう告げると早歩きで自分のクラスに戻った。
鏡夜は言葉を返す前に立ち去られて、苦笑いを浮かべた。
その後、見学を終えた鏡夜は自分の荷物をまとめて帰った。
午後2時 鏡夜の家
鏡夜『(思っていたより状況が悪すぎる。明日にはすべての兵士に俺の正体と俺が此処に来た理由を告げなければならない。)』
鏡夜は心の中でそう呟いた。
一方、兵士訓練所では、その日は鏡夜についての話で持ちきりだった。