結婚しよう竜成君! 番外
落ちた。
もう駄目だ。落ちた。そう落ちたのだ。私だけ。もう駄目だ。私はリビングにある机に突っ伏した。
「竜成君と一緒の大学行きたかったのに……!」
パソコンが表示する、国公立前期の合格者欄に私の番号は無い。なんたる悲劇!!
「美子、元気だせ」
と、番号がしっかり掲示されている合格者の竜成君が私を慰めた。
先生にも難しいと言われた国公立の大学。自分でも無理かもと思ったのだが、竜成君と同じ大学に行きたくて猛勉強した。が、ダメだった……。人生そこまで甘くないよね……。
浪人して竜成君の後輩というのも中々魅力的に感じる。けど、既に合格を決めている、実家から通える短大に決まりそうだ。
私はパソコンの画面を見つめつつ、用意されたココアに手をつける。
「でも、やっぱり凄いね竜成君は。国公立の理系受かっちゃうなんて……!!」
「そうか?」
「凄いよ!! どうするの? この大学にするの?」
確か、竜成君は今見ている国公立とは別にも相当レベルが高い私立を受けている筈だ。だが、竜成君はというとこくりと一度だけ首を縦に動かした。
「そっかぁ。ちょっと遠いけど、この国公立なら竜成君の家から通えるしね!」
という事は、私も竜成君も実家から通う事になる。例え学校は違くても、家が近いというのは嬉しい。
機嫌を取り戻した私をじっと見て、何を思ったか竜成君は立ち上がった。
「竜成君? どうしたの?」
「行くぞ」
それだけ言って、竜成君はコートを羽織った。私も慌ててコートを着ると、竜成君が無言で私にマフラーを巻いてくれる。
二人の間の誤解が解けたからというか、竜成君は私の事を思ってなるべく恋人らしい行動は避けていたらしい。
私が恋人らしい行動してもいいと伝えるや否や、また一緒に登下校したり、手を繋いだり、ち、チューしたりと中々こっぱずかしい行動が多くなった。
しかも竜成君ってば、いつもの通り無表情でチューとかしてくるからこっちばかり真っ赤になってあたふたして若干悔しく思ってしまう。
当たり前のようにこうやってマフラーを巻いてくれたり、手を繋いだりしてくる竜成君に、交際が一年も過ぎた今でも慣れないでいる。
「ぁ、ありがとう竜成君」
若干赤くなりつつお礼を言うと、何も言わずに竜成君は一度私の頭を撫で、その手で私の手を握り外に出た。
「竜成君、そう言えばどこ行くの? コンビニ? それとも本屋?」
お昼ならもう食べてしまったし、と首を傾げると、竜成君はこちらを一瞥してから口を開いた。
「ニ○リ」
「なぁんだ○トリかぁ。……え、ニ○リ!?」
まさかの家具屋だった。
まぁ、そこまで遠いものでもない。電車に乗った10分で、あのお値段以上のお店につく。が、何故ニ○リ。
と、そこまで考えて思いついた。竜成君が合格した国公立は、竜成君の家からはちょっと遠い。電車で一時間する。
それならば、大学の近くで一人暮らしした方が竜成君には都合がいい。
(一人暮らしの為に、家具を見に行くのか……!!)
寂しい。ちょっと寂しいけど、竜成君のお部屋に遊びにいくのもいいかも……。と考え込む私に、竜成君が首を傾げる。
「東京○ンテリアの方がいいか?」
そういう問題じゃなく。
「ニ○リでいいよ。あの、竜成君……。私も一緒に選んでもいい?」
勿論最終決定は竜成君に任せる。だって、竜成君が住む部屋だし。だけど、一緒に家具を選ぶってなんだか新婚さんみたいで憧れるというかなんというか……(ごにょごにょ)
「美子が選んでいい」
「え、ええ!? だって、竜成君が使うものだよ? 竜成君自身が使いやすいものの方がいいでしょ?」
「美子も使うだろ」
「っ……!!」
そ、それはいつでも遊びに来てもいいよって事!? お、お泊まりは流石に勇気がないけど、竜成君にご飯作ってあげたり、休日に一緒にお部屋で映画見ながらゴロゴロしていいって事!?
嬉しくなった私は思わず繋いでいる手に力を込める。
「じゃ、じゃあ、二人で選んだものにしようね、竜成君!」
「ああ」
ああ、これじゃあ本当に新婚さんみたい。と私は上機嫌になった。
春から一人暮らしを始める人が多い為か、意外にもニ○リは混んでいた。
「わぁ、竜成君見て見て、このテーブル可愛い!! でも竜成君の部屋には……、茶箪笥位はないとね」
「……いるか?」
「いるよ! 茶箪笥と竜成君、畳と竜成君、鹿威しと竜成君、超似合う!!」
和風な雰囲気が絶対似合う。でも最近の一人暮らしの物件には畳なんて無いしなぁ。そこでふと、黒い革で作られたシックな二人掛けのソファに目がいった。
ピシッと黒いスーツを着た竜成君が、そのソファに足を組んで座り、コーヒー片手に新聞を読む姿を想像した。
「か、かっこいい……!!」
いけない。竜成君って無駄に大人っぽいから絶対様になる。なんだこれ、キュンキュンする。なぜだか分からないけど、私家具見てキュンキュンしてる。
「大人っぽくモダンな部屋でもいいかもしれない……。これは分からなくなってきた……!!」
どの雰囲気の竜成君でもかっこいい。和風な竜成君もシックな竜成君も、もしかしたら中華な竜成君も様になっているかもしれない。
もうこれは本人に決めてもらうしかない。私は竜成君を見上げた。
「竜成君、どんなお部屋にするの?」
すると、竜成君は一度首を傾げ、
「美子が過ごしやすい部屋」
私が吐血したのは言うまでもない(想像の中で)
いや、そうじゃなくて!! いや嬉しい超嬉しいんだけどそうじゃなくて!!
「そ、そんな事言ったら、は、花柄のお皿とか買っちゃうぞ!?」
「花柄か」
ふむ…、と竜成君は食器類のコーナーに目を向けた。あれ、冗談だったんだけど!! 慌てて軌道修正する。
「りゅ、竜成君には、かっこいい家具が似合うと思う!! 刀とか!!」
「美子、刀は家具じゃない」
真面目に諭された。が目線は戻ってきてくれた。あ、危なかった。あのままじゃ竜成君のお部屋が花柄で溢れかえる所だった。
と、そこで私はロココ調のドレッサーに目がいった。可愛らしいけど、買うのはちょっと恥ずかしくなる位のロココ調。
「大学行ったら、やっぱりお化粧とかした方がいいよね……」
高校時代はそこまで気にしていなかったが、竜成君も、隣に立つ女の子が可愛い筈がいいはずだ。
と思っていると、ぽんと頭に手を置かれる。
「美子は化粧しなくても可愛い」
「っ……!!! りゅ、竜成君…!!」
はわはわと口を動かしつつキュンとした。こ、こそばゆい。なんか今すぐ何かを叫びたい。萌え殺す気か竜成君!!!
キュンキュンしつつ竜成君についていく。
カーテン、机、カーペットと見て回って、ふと竜成君の足が止まる。
竜成君の部屋のカーテンは、白か、いや深い青、少し淡めの緑でも……と考えていた私も慌てて立ち止まる。
「竜成君?」
何かいいもの見つけたのだろうか、と竜成君の視線の先を見つめる。
そこには、折り畳めるものとか、組み立て簡単!! と売り文句が張られたベッドがいくつか並んでいる。
「……ダブルか、セミダブルか」
「なんで? シングルで、」
いいじゃん。と言う前に、ちょっとした仮説が思い浮かんだ。
もし、竜成君の部屋に泊まるとかなったら、寝る場所はいつもひと、つ……。
「ソファ!! ソファ買おう竜成君!! 私そこで寝るから!!」
真実はいつも一つとは限らない。いやでももしそういう事になっ……、あわわわ、いや駄目だって!! 成人してない男女が!! 駄目だって!! 一緒のベッドで寝るとか駄目だって!!
急にあわあわしだした私を、竜成君はまっすぐ見つめて、
「竜成」
「へ…?」
「これからは、竜成と呼べ。ああ、それか」
竜成君は、まるで今日の献立を言うかのような軽い口どりで言った。
「子供ができた時の為に、『あなた』とかでもいい」
この時の私の気持ちを理解してもらえるだろうか。
「はっ、はわ、ぅ……!?!」
上手く呼吸が出来ないし、まともに竜成君の顔が見れない。ぇ、ええええ!?
竜成君、どうした!? 今日どうした!? 今日は私を本気で萌え殺す気なの!?
ここ、子供…!! 『あなた』って…!! プロポーズ!? これプロポーズ!?
というかよくそんなこっぱずかしい台詞無表情で言えるね竜成君!!
こ、殺される。私このままじゃ竜成君に殺される。『竜成君にキュンキュンし過ぎた病』かなんかで殺されるっ!!
「あ、あにゃ、あなたとか、子供とか、まだは、早いと思……。その前に、手順とかあって、同棲とか、結婚とか、ハネムーンとかが先で……!!!」
視線を逸らしつつなんとか自分の意見を言うと、『あ』という声が竜成君の方から聞こえた。
「美子」
「ははは、はい、あ、あ、あなた……!!」
「大学に行く4年間、同棲しよう」
「それを先に言おうよ竜成君!!」
真っ赤になりつつ私は叫んだ。
川崎 美子……天然気味。勘違い多し。竜成に初めて出会った時からメロメロである。ヤンデレストーカーではない。
竜成と付き合う事にはなったが、友達以上恋人未満な関係が続くと思ってる。ピュア。大人の階段など恥ずかしくて上れない。
いつから竜成の事を『あなた』と呼ぶべきか目下悩み中。
大学に入ってから竜成が料理を勉強し始め、このままではいけないと焦り気味。
昔から手伝いはしていたのでまだ美子の料理のレベルの方が上。でももうすぐ越されそう。あわわわわ。
高津 竜成……無骨。とにかく無骨。言葉が圧倒的に少ない。少ない代わりにドストレート。イ○ローのレーザービームの如く美子の心に突き刺さる。
将来は公務員になって美子と安定した生活を送ろうと考えている。美子の為に酒も煙草もギャンブルも嗜む事はせず、誰がなんと言おうと定時で帰る気。
美子の事は小6の時から生涯を共にする伴侶だと思ってる。
顔には出さないが美子に惚れ込んでいる。子供の数は息子が二人、娘が一人かな……。と考えたり。大学に入ってから、美子の負担を減らしたいが為に料理を勉強し始める。
最近は少し強引に迫られて、真っ赤になりあわあわする美子を見るのが楽しみに。
いけないと分かっているものの可愛くて止められない←隠れS
『結婚しよう竜成君!』を読んで頂きありがとうございます。
竜成sideもと思ったけど、ダメだった……。すみません。これで完結です。
因みに、竜成は最初から同棲する時の家具を見に行っていたつもりです。