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学校に行けば、当然ながらクラスメイトである姫女苑さんと春紫苑さんもいる。
以前の姫女苑さんはクチナシを目の仇とし、いじめと言ってもいいような意地悪をしていた。
でも今ではすっかり打ち解け、仲よくなっているみたいだった。
クチナシの席の周囲に、姫女苑さんと春紫苑さんも集まり、三人でなにやら笑い合っている。
僕がその輪の中に加わろうと近寄ると、
「あ……翌檜さんは来ないでくださいませ!」
と拒絶されたりすることまである。
ガールズトーク中だから、男の僕はのけ者、ってのもわからなくはないけど……。
「どうして僕だけ……。まさかみんな、僕の悪口を言ってたとか?」
僕が不満をぶつけると、春紫苑さんからこんな言葉が飛んでくる。
「ふふっ、臼実くんはやっぱり、こうじゃないとね~。これからもずっと、そのままでいてね~」
春紫苑さんの部屋で起こった先日の一件のあとにも、似たようなことを言われた気がするけど。
意味がわからず、僕は首をかしげるばかりだった。
ちなみに。
姫女苑さんがいない隙に語ってくれた話によると、春紫苑さんはなんと、死神王デストに乗り移られているあいだのことを、完全に覚えているのだという。
つまり、クチナシの能力や僕の役割も含め、すべて知られてしまったことになる。
その話を聞いたとき、どうにかごまかそうとする僕たちに、春紫苑さんはたおやかな笑顔でこう言った。
「大丈夫、とやかく言うつもりなんてないから~。ヒメヒメとか他の人に教えたりもしないわ~」
どうしてなのかと訊くと、実はもともと、春紫苑さんには辛酢の姿が見えていたからだとわかった。
死亡請負人の役目を果たすクチナシや、痛みを引き受けている僕の姿までは見えていなかったみたいだけど、翼の生えた辛酢の存在は、ぼんやりとながら感じていたらしい。
「死神王デストとのつながりが強いから、ってことか」
僕は自分なりに結論づける。
さらに、
「我はまだこの娘の中におる」
デストの声が春紫苑さんの口から放たれる。
ほんわかした雰囲気の春紫苑さんの口から、男性の声が聞こえてくる状況には、やっぱり慣れないな……。
しかも、デストがまだ春紫苑さんの中にいる理由がまたひどかった。
「いやぁ~、なんというか、この娘の包容力が凄まじくてな。我の力では抜け出せなくなってしまったのだ」
「死神王なのに、弱いな!」
僕が思わずツッコミを入れたのも、当然の反応だったと言えるだろう。
姫女苑さんも含め、周囲に僕たち以外の誰かがいる場合には、デストは黙っている。
ただ、秘密を知っている人間しかいなくなった途端、デストは積極的にしゃしゃり出てくる。
それどころか、春紫苑さんとデストで会話までするのだ。
同じ口から違う声が出て会話しているなんて。見ている僕たちとしては、なんとも不思議な気分だった。
☆
かくして、以前とあまり変わらない日常が戻ってきた。
頻繁ではなくなったものの、クチナシの死亡請負人としての役割はまだ続いている。
僕も当然、そのたびに現場へと出向き、痛みを半分引き受ける役目をこなしている。
激しい痛みや苦しみを受ける。
正直に言えば、そんなの嫌だ。
だけど僕が行かなかったら、クチナシには百パーセントの激痛が襲いかかることになる。
それはもっと嫌だ。
クチナシと手をつなぎ、同じ苦しみを味わう。
これから先、僕はずっとそうやって生きていく。
辛酢から聞いた話を考慮すれば、正確にはクチナシに娘が生まれ、その娘が十歳を迎えるまで、となるだろうか。
それでも、僕たちの人生がそこで終わるわけではない。
クチナシの両親は死んでしまったけど、将来生まれてくる娘のそばにはクチナシという親がいる。
きっとクチナシは、娘をしっかりと支える心優しい母親になることだろう。
僕はそんな彼女の隣に、このまま一生、肩を並べて存在し続けるつもりだ。
もちろん、クチナシが嫌がらなければ、ではあるけど。
「今日の放課後、あるから」
ぼそっと、クチナシが耳打ちしてくる。
ある。
言うまでもなく、死亡請負人としての役目が、だ。
「わかった」
「また……よろしくね」
「うん、任せといて」
小声で意思疎通。
クチナシはこうして、事前に教えてくれるようになった。
少しは仲よくなったと思っていいのだろう。
何時間後かはわからないけど、自分の体中を駆け巡るであろう痛みに身構え、気合いを入れる僕。
それを見つめるクチナシ。
僕たちはふたりでひとつ。
一緒に人生を歩んでいく、かけがえのないパートナーなのだ。
「ちょっと、なに見つめ合ってますの!? それと、くっつきすぎですわ!」
「と言いつつ、引き剥がすヒメヒメがどさくさに紛れて、臼実くんにくっつくのね~」
「な……っ!? わたくし、そんなつもりは……!」
「……私、姫女苑さんには負けない」
「あら~! 白花さんも宣戦布告だわ~! これは俄然、面白くなってきたわね~!」
「火に油を注がないで、春紫苑さん!」
もっとも、教室にいるあいだはこんなふうに、すぐ邪魔が入ったりするのだけど。
以上で終了です。お疲れ様でした。
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