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死亡請負人クチナシ  作者: 沙φ亜竜
第1章 そんなの、関係ないじゃないか!
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-1-

 僕、臼実(うすみ)翌檜(あすなろ)は、病院で簡単なCT検査などを受けたあと、すぐに帰された。

 仕事先に連絡が行ったらしく、お母さんが病院まで駆けつけてくれたけど、僕にはとくに怪我もないということで安心しているようだった。


 怪我なんて、あるわけがない。僕はただ、近くにいただけなのだから。

 そんな言葉を吐き出す気力もなかった。

 なにを言っても聞き入れてもらえなかったのが、ある種のトラウマとなってしまったのかもしれない。


 病院を出た時刻は、まだ午前中。

「大事を取って休んだら?」と言うお母さんを振り切り、僕は学校へと向かうことにした。

 白花さんがどうなったのか、気になっていたからだ。

 このまま家に帰っても、そのことばかりを考えて悶々とするのは目に見えている。


 あれは本当に現実だったのだろうか?

 自信が揺らぎ始めていた僕は、自然と足取りがゆっくりになっていた。

 それでも、しばらくすると立派な校舎が見えてくる。


 僕の通っている学校――白鳥ノ森学園高等学校。

 比較的新しく、まだ綺麗で凛とした印象を受ける正門を、僕はひとり寂しく通り抜けた。

 正門の中にはロータリースペースがあり、時計塔が建っている。見上げれば、今は午前中最後の授業時間だとわかった。


 静かな廊下と階段を抜け、自分のクラスを目指す。

 教室棟の三階、すなわち最上階の一番奥。我がクラスがいつも以上に遠く感じられた。


 考え事をしていると、教室にたどりつかない。そんなオカルト染みたことがあるはずもない。

 すぐに自分のクラス、一年七組の教室までたどり着く。

 僕は軽く深呼吸をしたのち、静かに後ろ側のドアを開けて教室内に足を踏み入れた。


 視線を巡らせても、姫女苑さんの縦ロールは見えない。病院から戻ってきていないのだろう。

 ひどい怪我ではなさそうだったけど、タンカにも乗せられていたし、今日は戻ってこないと考えられる。


 僕は一番気になっている白花さんの席のほうへと目を向けてみた。

 そこには、白花さんのショートカットの後ろ姿がしっかりと存在していた。

 せっせと手を動かし、板書をノートに書き写している。

 普段どおり。なにも変わりない……と思う。

 実際のところ、クラスメイトではあっても、僕はこれまで白花さんのことを気にしてなどいなかった。

 だから、仕草や動作が本当にいつもどおりなのか、確実なことまでは言えないのだけど。


 少なくとも、大量出血するほどの交通事故に遭った人間とは思えない。

 白花さんはごくごく自然に授業を受けている。

 何事もなかったかのように。

 怪我も交通事故すらもなかったかのように。

 僕は混乱しつつも自分の席に着き、ちらちらと白花さんに視線を向けたりもしながら、途中からとなる授業を聞き始めた。



     ☆



「白花さん」


「はい?」


 授業が終わってすぐ、僕はお弁当を広げようとしている白花さんに声をかけた。

 当然、きょとんとした顔をされてしまう。


「大丈夫なの?」


「え……? なにが?」


「今朝のことだよ。白花さん、姫女苑さんを助けて、車にはねられたよね?」


「っっっ!?」


 その言葉を聞いて、白花さんは驚きを隠せないといった表情に変わった。


「しかも、血がたくさん出て、腕とか足とかも骨折してるみたいだったのに、もう治ったの?」


「ななななな、なに言ってるのよ? 臼実くん、幻覚でも見たんじゃないの?」


 白花さんはどもりながらも、そう主張してくる。

 確かに普通ならば、そんな結論に達するところだろう。

 朝だったし、寝ぼけていただけだった。そう考えたほうが、まだ納得のできる解釈と言える。

 だけど、今の僕には通用しない。


 白花さんは必死にごまかそうとしている。僕はそれを確信していた。

 なぜなら……。


「でも、ほら。机の横にかけてあるバッグ、中に血のついた制服が入ってるよね?」


「な……っ!?」


 焦りまくる白花さん。

 ファスナーが少しだけ開いていて、バッグの中にある制服が見えていたのだ。

 しかも、真っ赤に染まった制服が。


「なに変なこと言ってるの!? そんなわけないじゃない! ……ちょっとこっちに来て!」


 白花さんは、バッグのファスナーを閉め直すと、強引に僕の腕をつかんで教室から飛び出す。

 僕は引きずられるように階段を上り、屋上前のスペースまで連れ込まれた。


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