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第6話 若き二人の行き帰り 26

2人が話しながら歩いていると、不意にホタルの光が動きを止めた。

まるで壁に当たってそれ以上進めなくなったようであったが、キスイが手探りで確認しても、そこには何も見つからなかった。


「ちょっと止まって、俺が先に行くから、後ろからついて来て」


「わかりました」


ホタルの灯りがなくなり完全な闇となった道を、キスイは慎重に進む。

ほんの数歩進んだところで、不意に空気の流れが変わったのを感じて立ち止まると、その背中にサキが当たった。

サキを制しながら、キスイは再び闇の中を歩きはじめる。


「何かありましたか?」


「いや、どこかに出たみたいだが、暗くて分からない。せめて明かりがほし痛ッ!」


話ていたせいで油断したのか、キスイは右足を何かにぶつけた。


「だ、大丈夫ですか!?」


「ああ、なんでもない。これは多分……」


自分がぶつかった物を手触りで確かめた後、それが何か確信したキスイは、闇の中へ手を伸ばす。

数秒後、擦過音と共に小さな光が灯った。


キスイが持っているの、小さな火の点いたマッチ。

それが照らし出すのは、地面の下に作られた玄室、保管室だった。

キスイはマッチの明かりを頼りに懐中電灯を見つけ、懐中電灯で明かりを確保する。

マッチは燃え尽きる前に灰皿へ。ここは霊への干渉を抑えるために、電気の配線はなされていない。


キスイが部屋の中をぐるりと照らすと、そこは普段と変わりなく、雑多な小物が棚に置かれた場所だった。

棚にはランタンも燭台も置いてあるが、今回はそれに火を灯す必要はない。

キスイは自分が根の国へ向かった時と変化があまりないことを確認しながら、部屋の中をざっと見回した。しかし、特に変わりは見られなかった。

予備の電池など、使用期限があるものも特に入れ替わってはいない。おそらく、日数はほとんど経っていないだろう。


キスイはさらに懐中電灯を巡らせて、サキの背後を照らし出す。そこはただの土の壁。キスイ達が通ってきたはずの道はもう無くなっていた。


「俺達、戻ってこれたみたいだな」


「ここは、地下保管室ですね。私はあまりここに来たことはありませんが、夏でもこんなに涼しいものなんですか?」


「地下だからな。1年中ずっとこのくらいの温度なんだ。でも雰囲気とかが悪くて、あまり長居したい場所じゃないんだよな」


サキもキスイも夏服のため、長居していると体が冷えてしまう。だからサキをうながして、すぐに出口へと向かった。

しっかり作られた木製の扉を、ゆっくりと押し開ける。そこには、天井の蛍光灯が照らす殺風景な廊下があった。


懐中電灯は部屋の中へ戻す。

この場所は地下にあるため窓は無く、時間の感覚が全く分からない。

キスイは思い出したようにケータイの電源を入れるが、電波が全く入らないので、時間の修正もなされない。だから経過時間を確認することもできなかった。


キスイの手元をのぞき込んで、サキが不安そうに尋ねる。


「時間、どのくらい経っちゃったんでしょうかね。1日とかだったらいいんですが」


「大丈夫だろ?サキが時間の流れを遅くしてたって言ったじゃないか。ひょっとして、1分くらいしか経ってないとかあるんじゃないのか?」


「だといいんですけど」


ジョーク混じりの返事をするが、サキの笑顔は微妙に固いままだった。


薄暗い足元に気を付けながら、コンクリートの階段を登る。

金属製の扉は、僅かに熱を持っている。夏の熱気に当てられているのだろう。

キスイはここに入って来た時の明暗の差を思い出して、日光に焼かれないように僅かに目を細めながら、扉を開いた。


扉を開けるとそこには、夜の闇が広がっていた。

扉の上に点けられた電灯が、キスイの足元を照らしている。


空には星が瞬き、家々の窓からは光が溢れ、車のヘッドライトが流れてゆく。

根の国とは違ったその騒々しい明るさが、なぜかとてもキスイにとっては心地よかった。


サキがキスイの隣に並び、同じ景色を眺める。


「やっぱり、向こうよりも開放感がありますね。」


「そうだな。空気も生命力に溢れている気がするよ。向こうはなんだが、静か過ぎた。それにしても、こっちは変わってないな。暗くても暑いし、そんなに時間は経ってないみたいだ……」


「サキ!無事だったか!」


街灯が照らす道の先で、2人のよく知った人物が立っていた。

聞きなれているはずの声が、なぜだかとても懐かしく感じる。


「ミレイさん!」


サキが走り、ミレイに飛びついた。


「私、戻って来ましたよ。戻って来れました。キスイ君のおかげで、また、会えました」


「サキ!……そうか。お前も戻ってこれたんだな。よかった、本当によかった」


「はい、ありがとうございます」


少女達は目に涙を浮かべながら、ひしと抱き合っていた。

抱き合う2人の後ろには、イヅルとシウン、そしてなぜかモモヤ、トキ、ソウジの3人までが並んで立っていた。


「キー君、お疲れ様。ケガとかしなかった?」


「キノミヤ先生、ただいま戻りました。幸い、大したケガはありませんよ」


「キスイ、お帰り。彼女、無事に連れて来られたんだね」


「ああ、上手くいって本当によかった。ちよっと聞きたいんだけど、俺が潜ってから、どのくらい時間が経ってる?」


「ええと、キスイが地下に言ったのはお昼前の11時30分くらいで、今ほぼが20時だから9時間ちかく経ってるな」


キスイは内心ホッとしたが、できるだけ何でもない風に装って言った。


「そうか、9時間か。意外と経ってなかったな」


「キー君大丈夫だった?連絡がなかったら心配したのよ」


さらに会話を続けようとするキスイの前に、シウンが割り込んでくる。


「向こうは異界だったからね、電波が届くわけないよ。なにがあるか分からなかったから、入る前に電源切って仕舞ってあったよ。向こうで無くす方が怖いし」


「それでも、心配したんだからね」


「はいはい。ご心配おかけしました。……あ、そうだ。向こうで変な人に会ったんだ。エンドマークとか名乗ってたけど、姉さんは誰だか知らない?」


「エンドマーク!?あの人、キー君の異界に居たの!?」


シウンはキスイに噛みつかんばかりに詰め寄る。


「え?何?そんな重要人物だったの?てか手が痛いんだけど」


「あ、ごめんなさい。あのエンドマークさんは私の恩人でもあるのよ。そっか、今度はキスイ君の所へ行ってたのね」


懐かしそうに目を細めるシウン。

恩人と言うと、どのような縁があったのだろうかとキスイは考える。

命を救ったとかいうレベルなら、エンドマークはシウンよりも強いのかもしれない。しかし、あまり戦いが得意そうな人間にも見えなかった。

なら、シウンもまた、彼の協力によって終わらぬ物語を終わらせることになったのだろうか?

聞けば答えてもらえるかもしれないが、今すぐでなくてもいいだろう。

そう思って自分で頷く。


それからキスイは、ミレイ達の後方で所在無げにしている3人に目を向けた。

キスイの視線にモモヤがすぐ気が付き、トキとソウジを連れてやってきた。


「先輩、お疲れ様ッス。なんか大変だったみたいッスね」


「まあな。ところでお前らは何でいるんだ?」


「先輩達が大変そうだって聞いたから、何か手伝えることないかって駆けつけて来たんスよ」


「僕は迷惑になるから止めた方がいいって言ったんですけど」


「夏休みの宿題終わったらって条件をつけたんですけどね。こいつほぼカンで全部埋めるって荒業を使いやがりまして。とりあえず終わったぞという苦しい言い訳の末、ここにいると言う訳です」


「なるほどな。それで、こっちの異変は片付いたのか?」


「はいッス。18時くらいッスかね?俺らが来た時にはもう何もなくなってました。本当に異変なんてあったの?って感じッス」


モモヤの言葉に、他の2人も頷いている。


「そうか、なら……ミレイ!この後ちょっとやりたいことあるんだが、いいか?」


突然呼びかけられて不思議そうな顔をするミレイ。

キスイがその横にいるサキに視線を送ると、サキが何か理解し、ミレイに説明する。


その話を聞いたミレイは大きく頷き、笑顔で答えた。


「貴様にしてはなかなかいい思いつきだな。どのみち、諸々の処理や手続きは明日以降だ。節度を守れば問題はない」


「ありがとうよ。……と、そういうわけだからモモヤ」


「はい、なんスか?」


「お前ら3人で、今から急いで花火買って来い」

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