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第6話 若き二人の行き帰り 18

「いっちゃん!」


キスイは舞台の端へ走り寄る。

残った巨人の右腕はその密度を増して、バランス崩した本体をしっかりと支えていた。巨人が体勢を崩したせいで、いっちゃんは舞台にかなり近づいていた。


「いっちゃん、大丈夫か!」


キスイが近づくと、いっちゃんは顔をうつむけた。


「見ないで、キスイ君。もういいわ。私、こんなみっともない姿キスイ君にこれ以上見られたくない」


いっちゃんは、植物をまとった自分の体を隠すようにかき(いだ)く。


「いっちゃんは全然みっともなくなんてない。なんでそんなことを言うんだよ」


キスイの言葉に、泣きそうな顔をしたいっちゃんが答えた。


「私、その()が憎かった。ずっと見てたの。昔みたいに、キスイ君とミレイちゃんとイヅルがいて、でも私がいなくて。私がいた所に、私の知らないその娘がいた。私がいつもいた場所に、その娘がいるのが憎かったの。……憎いって思っちゃったの」


キスイは横たわったままのサキを見てから、またいっちゃんを見る。いっちゃんは、目の端に涙を浮かべて言葉を続けた。


「こんな、人を恨んだり、(うらや)んだりしている醜い私を、キスイ君にこれ以上見られたくない。だから帰って。こんな私なんか置いて、その娘を連れて帰って」


「いっちゃん、悪いのはいっちゃんじゃない、俺だよ。俺がいっちゃんに全てを押し付けたから、いっちゃんを苦しませることになったんだ。謝っても、許してもらえないかもしれないけど。ごめん」


「違う!それは私が選んだことだもの。キスイ君が謝ることじゃないわ。私が弱かっただけ。私が醜かっただけ。全部私のせい」


キスイは、舞台の端につかまる巨人の腕の強度を確かめた後、その腕の上に飛び乗った。枝葉の集まった腕のため隙間があるが、しっかりとキスイの体重を支えている。

キスイは巨人の体を渡り、いっちゃんのすぐ隣りまで移動した。


「いっちゃん、大丈夫。俺もミレイもイヅルも、いっちゃんのことをずっと心配してたんだ。みんな、いっちゃんに会いたがってたんだ。だから、一緒に帰ろう。みんなに、ただいまって言ってやろう」


「キスイ君。……でも、あの娘は?」


「それこそ、なにも問題ないよ。だってあの娘は、サキさんは、いっちゃん自身なんだから」


「えっ」


キスイの言葉に、いっちゃんは目を見開く。


「いっちゃん。君の名前を今、返すよ」


キスイは左手でいっちゃんの手を握り、右手に握った草薙剣で、いっちゃんと巨人を繋ぐ草木を断ち切った。


「君の名前は、『砂庭【石割れ彦】咲希』だ。いっちゃんとサキさん、2人で一人なんだよ」


巨人と切り離されたいっちゃんを、キスイはしっかりと抱き留めた。

いっちゃんは呆然とした顔で、祭壇の上にいるサキを見つめる。その顔に、少しずつ理解の色が浮かんでくる。


「本当に、私が……あの娘が私だったの?」


「そうだよ。だから、俺達はずっと一緒だったんだ。だから、これからも一緒にいよう」


巨人から切り離されるとともに、いっちゃんの体に巻き付いていた植物が枯れ落ち、剥がれてゆく。


「うん、ありがとう。私も、キスイ君と一緒にいたい」


いっちゃんがうなずくと同時に、その黒髪を束ねていた弦もまた、枯れ落ちていった。


全ての植物が剥がれ落ちると、いっちゃんの体が光り、その気配が薄らいだ。

いっちゃんの体は輝く霞のようになり、それが祭壇に横たわるサキへと向かう。いっちゃんはサキの顔を眺めるように留まったかと思うと、そのまま吸い込まれるように消えていった。

キスイは巨人の体を蹴って、舞台へと飛んだ。


繋がれていたいっちゃんがいなくなったからだろうか。木の巨人は急速に水分を失い、枯れていった。


キスイが舞台の上を走って祭壇に近づくと、そこに横たわっていたサキが、薄っすらと目を開けた。


「サキさん、気が付いた?よかった」


「キスイ……君?えっと、私……あれ?どうしてここに?」


「落ち着いて、大丈夫だから。詳しい話しはみんなの所に戻ってからにしよう。今はとにかく、ここを脱出するんだ」


キスイが手を貸して、サキを立たせた。わずかにふらついたが、歩くのには問題がなさそうだった。


「あの、ありがとうございます。色々と迷惑をかけてしまったみたいで」


「気にするな、俺のせいでもあったんだから」


「それでも、私のためにこんな所まで来ていただいて、ありがとうございます」


サキはそう言いながら、キスイの腕にすがりついた。


「大丈夫?まだ歩くのは早かったか?」


「そうじゃないです。キスイ君は、私のためにこんな所まで来てくれたんですよね?」


「え?ああ。いっちゃんとサキさんを両方とも助けるつもりだったし、因縁あるヤツラも……」


「そう。それと、これからずっと一緒にいようって言ってくれましたよね?」


「それはいっちゃんに……サキさん、いっちゃんの記憶があるの?」


キスイはサキの変化に戸惑いながらも、気になったことを聞いてみた。しかしサキは、キスイを見上げて笑った後でこう言った。


「さてどうでしょう?実は私、あの時動けなかっただけで声は聞こえていたのかもしれませんよ?」


「いやあの、あれはいっちゃんに対して言ったことだし……」


「でも、いっちゃんって、結局は私のことですよね?やっぱり私への言葉ですよね?」


「ううんと……。くそっ、まるで昔のいっちゃんと話してるみたいだ。やっぱり完全にいっちゃんの記憶残ってるだろ」


嘆息するキスイの横で、サキはにひひと笑った。


その時、二人の背後でミシミシという音が聞こえ、直後に大きな破裂音とともに、地面が揺れた。

二人が振り返るとそこでは、先ほど枯れたはずの巨人が体中に泥をまとい、動いていた。

泥の巨人は、ゆっくりと舞台の上へと這い上がってきた。そして、完全に舞台に上がると、キスイが斬った頭と左腕から、太さが人の胴ほどもある蛇が2匹顔を出した。

キスイがサキを背後に庇いながら警戒していると、蛇達は口を開けた。そしてそこから発せられたのは、流暢な言葉だった。


「継承者殿、草薙剣の完全なる覚醒、真におめでとうございます」

「おめでとうございます」


「そして代理管理者殿、長年にわたるお勤め、お疲れ様でした」

「お疲れさまでした」


「それでは、継承者殿。ご覚悟はよろしいか?」

「あ、代理管理者殿はもう帰って構わないですよ」


交互にしゃべる2匹の大蛇を見て、サキはキスイの後ろでつぶやいた。


「あ、かわいい」


キスイは一瞬で気が抜ける。


「ちょ、なんでそうなるんだよ。あのデカさだし、なんかでっかいのから生えてるし、普通の女子としては怖がるもんなんじゃないのかなあ!?」


「え、でも私、蛇とか全然平気だよ?うちの実家の方でもよく出たし」


「そうだったね。昔からいっちゃんはそうだったよ」


「あ、キスイ君。もう私の事『いっちゃん』て呼ぶの禁止ね。私はサキなんだから、『サキちゃん』て呼んでくれた方がうれしいかな?でも、『サキ』でもいいよ?」


「今さら呼び方変えるのって抵抗あるんだけど。サキさんはサキさんのままでいいんじゃない?」


「もう、今さらなに恥ずかしがってるのよ。キスイ君のばか」


「む、バカとは何だよ」


「バカだからばかって言ったのよ」


「あのなぁ……」


大蛇を無視して話し続ける2人に、2匹は顔を見合わせる。そして泥の巨人がイラだったように、残った右腕を舞台に叩き付けた。その音と振動で、2人は少し飛び上がり、2匹は慌てて前を向いた。


(かか)様が怒っておられるではないか。継承者殿、お早くこちらへ参られよ」

「そうですぞ!母様は怒ると怖いのですぞ。みんな怒られたくはないのです!」


「なんだよ。罪人だったらもう全部処理したぞ。俺がやることなんて、もうしばらく何もないだろが」


「罪人の処刑が終わったとしても、その剣が現世にあるのは、あまり好ましくないのですぞ」

「そうです。こちらでぐうたら暇していれば、またすぐに罪人は溜まっていくのです」


「生憎、退屈は嫌いなんだよ。罪人の処刑については、たまにこっちへ来るからそれでいいだろ?」


「そんな気軽に言われても困るのですぞ」

「そうです。ここは週末のスポーツジムではないのです」


頭の大蛇に続いた左腕の大蛇の言葉に、キスイはちょっと首をかしげた。


「左腕のお前、現世のことに詳しいな」


「たまに死者達とお話をする時があるのです。やっぱり退屈はイヤなのです」


キスイのツッコミに、左腕から生えた大蛇が大真面目にうなずいた。それを見ていた頭の大蛇が呆れた顔をする。


若雷(わかいかづち)、お主そんなことしていたのであるか」

「あわわ大雷(おおいかづち)!そうじゃなくて、その。他のみんなも色々やっているのです」


「「「若雷ーーー!」」」


「あわわわわ!」


泥の巨人のあちこちから、左腕の大蛇へとむけて非難の声が上がる。若雷と呼ばれた大蛇はうろたえて、泥の中へと潜り込んだ。

しかし泥の中でも追及が止まないらしく、多数の声と若雷の悲鳴が外まで聞こえている。

大雷と呼ばれた大蛇は、それを見て嘆息する。

そしてふと顔を上げると、サキに手を引かれて舞台を降りようとしているキスイと、目がばっちり合った。


「継承者殿ーーー!いけませんぞーーー!」


叫ぶとともに追おうとするが、体が泥の巨人から抜けずに失速する。その隙にキスイはサキを抱え上げて、舞台から駆け下りてしまった。


「おい、皆の者!継承者殿が逃げてしまわれたぞ!ケンカなぞしておる場合ではない。追え、追うのだ!」


「なんだと!くそ、お前のせいで逃げられたじゃないか」

「ちがうのです。みんながいぢめるからです」

「だから、そんなこと言ってる場合じゃないっての」

「そうよ。追及はあとあと~。今は向こうが先よ~」

「早く、……追う」

「我々から逃げようなどと、1500年早いわ」

「よし!全員いくぞ!」


大雷のかけ声とともに、泥の巨人の中から次々と声が上がる。泥の巨人はわずかに縮んでから左腕を生やすと、四足で走りだした。

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