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第6話 若き二人の行き帰り 13

最も大柄だった罪人は、彼らのリーダー格だったのだろうか。キスイの周りに集まる罪人たちは彼が消えてゆくのを見送った後、その全員がキスイを睨みつけた。

しかしキスイはそんな視線も気にならないようだ。包囲の輪をゆっくりと狭め始めた罪人たちへ、むしろ挑発するように手招きをする。


「「ーーー!」」


数体の罪人が咆哮を上げながら、キスイに向かって走り出した。そしてさらに多くの罪人たちがそれに続く。

キスイもまたそれに応じるように、手近な一体へ向けて走りだした。

罪人がキスイの間合いに入った途端、その体に直線が走る。そこから罪人の体がきれいに2つに切り分けられて、崩れ落ちる。

キスイは倒れた罪人には目もくれず、次の罪人へと悪神祓(あしはら)いの大刀(たち)を振り上げた。


振り下ろした一閃で刀で胴を薙ぎ、返す刀で首をはねる。

そうやって罪人の1体を倒したとしても、その体を乗り越えて次の罪人がキスイへと迫った。

例え1体倒しても、その後ろには2体3体と罪人たちが続く。その罪人たちを切り捨てても、横から後ろからまた新たな罪人が襲い掛かってくる。1対2000という数の差には、1体や2体の消失は何のダメージにもならない。

それでもキスイは、己へ近づく罪人を次々と斬り続けた。


―――――――――


その様子を、ニシムラは離れた場所で見物していた。この事態はニシムラにとっては想定外だった。

本当は、最初の1体でキスイが敗北、ないしは相打ちになると思っていたのだ。


管理代行補佐から、根の国(ここ)へ残り続ける条件として出された罪人数の調整。最初は己が強くなるために利用しようとも考えたが、すでに死亡しているニシムラは、肉体的に成長することができなくなっていた。

いくら技を磨こうとしても、筋肉はつかず、動きが体にしみつくこともない。摩耗し、壊れ、腐るだけの肉体には、本当の意味で未来はなかった。


最初はただの思い付きだった。一度引き受けた手前、別な仕事に変えて欲しいと言っても、環境が悪化するだけのことは目に見えていた。なにせここは冥府(あのよ)なのだ。暗い仕事なら幾らでもあり、その働き手は常に不足している。

不毛な環境へ自ら赴くような性癖はニシムラにはない。それならば、今の仕事でいかに楽をするかを考えるのが、彼の努力の仕方だった。

その結果出した答えが、罪人同士で殺し合わせることだった。


自らを削ることなく、罪人の数を減らす。これをによって八百万(やおよろず)いた罪人は順調に数を減らし、最後は2016体へと落ち着いた。


それ以降は罪人は殺し合うことをしなくなった。頭1つ飛び抜けたリーダーが出現したからだ。罪人たちは狂気に堕ちながらも動物的な思考は持ち合わせていたようで、最大の個体の支配のもと、彼らの数は安定してしまった。


多数の魂を喰らって強化された罪人に、すでにニシムラは手出しができなくなっていた。

過去に陰陽道の呪法で見た【蠱毒の法】じみたことをやってしまったのだと気が付いた時には、もはや手遅れだった。

しかし数が大きく減ったことを理由に、管理代行補佐を騙すことはできた。そしてそうやって粘り続けたおかげで、自分が手に入れるはずだった(ちから)を奪って行った、あの憎らしい子供(ガキ)を懲らしめるための舞台を整えることができたのだ。


準備は整い、継承者はニシムラの前に現れた。


強化された罪人に継承者を倒させるというのは、とてもいい思い付きだと思ったのに、しかしそう上手くはいかなかった。

あの継承者(ガキ)は、ニシムラが手を出すのを諦めていた罪人たちを、次々と切り捨てて行っているのだ。


今もまた、群がり続ける罪人たちの中央で血しぶきが上がった。

キスイの間合いに入った者から順に、次々と斬られてゆく。向けられる大刀にためらえば、後ろに続く罪人に背を押されて無理やりに間合いに押し込まれる。及び腰の者は相手にされず、その間に別の者が切り捨てられる。

立ち向かう者から地に倒れ、下がろうとする者が進もうとする者を抑えている。

そのため彼の周囲には常に円形の隙間が出来ていた。だからこそキスイは、多勢に無勢の中でもまだ戦っていられる。罪人たちは、数の優位を生かし切れていないのだ。


「なぜだ、何故なんだ」


ニシムラは歯噛みする。どうしてこうも上手く行かないのか。

思えば生前からそうだった。自分の考えは正しいはずなのに、必ず誰かの邪魔が入る。仕事も思うとおりに進むことがなく、自分よりも劣るものが重用された。自分の周りに集まるのは、愚劣な狂人ばかり。見た目は優秀なのに、すぐにその醜悪な中身を晒すことになる。そして自分の行いをヘラヘラ笑いながら、悔いもしなければ改めもしない。上っ面だけ整った馬鹿ばかりだった。

なぜ、いつも自分が貧乏くじを引くことになるのか。なぜ、自分だけが損をしなければならないのか。


あんな奴らのせいでこんな場所まで落とされたのに、あいつらはやはり、自分の思うとおりに動かない。

あの罪人たちを見ていたせいで思い出した過去に、ニシムラは不快な気分になっていた。


「愚劣で、愚図な愚物どもめ。それならせめて、私の手でまとめて処分してくれる!」


ニシムラは印を組んで両手を突き出す。すると、キスイとそれに群がる罪人たちの足元で動き出すものがあった。

それは、罪人たちから流出し続ける赤黒い魂。白石を汚すそれが、まるで意思を持ったかのように動き出した。


戦い続けるキスイたちの足元から、赤黒い魂は逃げるように遠ざかる。そして群がる罪人たちの後方で、ひとつに集まり形をとった。

それは大きな蛇だった。流れる水の象徴でもあり、悪なる企みを秘めた蛇。赤黒い蛇は集団の後方に現れると、中心へ向かおうとして背を向ける罪人へと襲い掛かった。

赤黒い蛇が罪人を飲み込むと、その身から魂を絞り取る。魂の尽きた罪人は、その蛇の内側で消滅していった。


蛇は次々と罪人を飲み込み、その体積を増してゆく。その成長を見守りながら、ニシムラは凶悪な笑みを浮かべていた。


最初からこうしておけばよかった。罪人たちが殺し合いをしている時にこれを思いついていれば、自分はこの根の国で相当な力を手に入れていたことだろう。この術を使えるようになった時はすでに争いは終わり、材料である魂を大量に確保することはできなくなっていた。

しかし、逆にこのタイミングで使うことができたので、それで良かったのだと思うことにする。

キスイは戦いながら、罪人たちの後方で起こる異常に気が付いたようだが、しかし対処することはできないだろう。安全圏を築けているとはいえ、それは大刀を振り続けなければ維持はできない。

力を示し続けて疲労するその手の届かないところで、ニシムラが巨大な力を蓄えるのを見続けるしかないのだ。


ニシムラは戦い続けるキスイを見て、そして成長を続ける蛇を見てほくそ笑んだ。


――――――


すでに残った罪人の数は500を切っている。キスイが切り捨てたものより、ニシムラの創り出した蛇が飲み込んだ数の方が多いだろう。異常に気が付く罪人もいたが、蛇へ向かって行っても返り討ちにしかならなかった。

赤黒い蛇はその身をくねらせ、罪人たちごとキスイを囲んだ。すでに相当な量の魂を手に入れて巨大化した蛇は、鎌首をもたげてキスイを睨んだ。

キスイも戦いながら慎重に移動し、蛇の頭が常に視界に入るようにする。


蛇に注意を向け、戦い方が変わったからだろう。罪人たちのうち数人が、背後の蛇にやっと気が付き声を上げた。それにつられて、他の罪人もそちらを見上げる。

今までは気づいた端から蛇に飲まれていたせいで、罪人の大部分はそれに気が付くことができなかった。

だが、すでに罪人はかなり数を減らし、蛇は十分に成長している。もはや、残る罪人すべてが向かって来たとしても、蛇を倒すことはできないだろう。


罪人たちが蛇に注意を向けたことで、キスイへの攻撃が止まる。その隙にキスイは呼吸を整え、大刀を構え直していた。

巨大になった蛇はキスイの隙を伺い、電光石火の早技で襲い掛かる。間に存在する罪人を跳ね飛ばしながら、キスイへ向けてその(あぎと)を開いた。

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