表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/59

第6話 若き二人の行き帰り 5

今回は会話多めです

『……なるほどな。影たちはやはりあの墳丘墓から来ていたか』


「ああ、でも土の中から直接()えてきているみたいでさ、入って止めるのはちょっと難しい」


『掘り起こすこともできないのか?貴様なら墓穴を掘るのは得意だろう』


「うっせぇ、誰がいつ墓穴を掘ったよ。そんな事より、あのメールの意味は何なんだよ。サキさんがどうかしたのか?」


『意味も何も、そのままだ』


「いや、だから、その意味が分からないんだよ……」


キスイの手刀が空を切る。

第三校庭にある、校舎が作る日陰の中。キスイは再びそこに立っていた。何かわかるまで動けない、再びの待機である。

キスイは何か事件が起こることを望んでいたと、なんとなく自覚していた。取り返せない過去のような、どうしようもないやるせなさを、事件解決に力を注ぐことで一時的にせよ忘れることができるからだ。それに事件が解決すれば、過去の失敗も取り返せたような気になることができる。一種の代償行為だ。

しかし今回の事件は、起こってはいてもやはり今のキスイには何もできない。問題は現在進行形であるのに、それに対して自分に打つ手はない。だからキスイは、落ち着いていられない。


(なんつーか、すっごい歯がゆい)


キスイは基本的に、動いてから考えるタイプの人間である。事件の調査にしても、まずは何かしらのアクションを起こしてから、それに対する反応を見てさらに次の行動の指針としてきた。

そんな人間にとって、何もできないという状況はとても苦痛である。

大体の場所はわかっているのに、そこに手出しができないのだ。もしミレイが本当に、「解決するために穴を掘れ」と指示を出したとすれば、キスイはすぐにそれを行動に移すだろう。文句を言うかもしれないが。

しかしそれを言って来ないことを考えると、穴を掘ったとしても、影が()き続ける現状を変えることはできないのだろう。

それがわかっているから、ミレイの次の言葉にキスイは期待を持った。


『そんなことより、今回の事件についてわかったことがいくつかある』


「そんな事、かよ。まあいいや、で何がわかったんだ?」


『それはな、今まで起きていた事件。それがどうやら全部繋がっているようなのだ』


ミレイの言葉を受けて、キスイは過去を振り返る。


「というと、【大講堂の騒音ロッカー】【音楽室の動く肖像画】それと【呪いのビデオテープ】の3つだな」


『そうだ。その3つの事件は、この怪現象に繋がっている』


「それがどう繋がるんだよ。前の2つは学園(うち)の七不思議がらみだけど、最後の1つは外からの持ち込みだろ?」


『うむ。だがしかし、そこにもう一つ付け加えたらどうなると思う?』


「もう一つ?まだなにかあったっけか」


キスイは思い出そうとするが、それ以外に事件と言えそうなことは思い出せない。妖刀ヨウケンの騒ぎもあったが、あれは怪異騒動には入らないだろう。他に何かあっただろうか。

小さく唸りながら考えるキスイに、ミレイが答えを告げた。


『忘れてはいないだろう?6年前の事件だ。あの時の貴様の不始末が、今ここに関わって来ているのだ』


ケータイ越しに告げられた言葉に、キスイは数瞬固まる。6年前の事件、その言葉の持つ意味に、呼吸をすることさえ忘れている。


『貴様が会議室を出て言った後、私はサキを探しに生徒会室へ行ったのだ。そこで、線の細い男に会ったのだよ。そやつは、貴様によろしく言っておいてくれと言って、サキを連れ去って行ったのだ。心当たりはあるだろうな?』


6年前、線の細い男。そのキーワードで、キスイはかつて、異界で会った男を思い浮かべた。


「いた。そいつを俺は知っている。確かにむこう(・・・)で会っている」


『名前は?』


「……思い出せない。いや、そもそも聞いていない。競争相手というだけで、自己紹介なんてしていなかった。……そうか、あいつが関わっていたのか」


キスイが彼らと一緒にいた時間は、広間から迷路までのごくわずかな間だ。仲良くなる時間などなかったし、そもそもお互いが友好的とは言えない態度だった。ゆえに会話などほとんどなく、どこにでもあるような特徴を思い出すのが精一杯だ。


『貴様からの情報は期待できそうにないな』


「残念だな」


『ならそれは置いておこう。あとは今年に入ってからの事件のことだな』


キスイは小さく相槌を打ちながら、ミレイの言葉に耳を傾けた。


『まず騒音ロッカーだが、あれは貴様が何処にいるかの調査だったようだ』


「調査?どうやってアレで俺を見つけられるんだ?」


『アレと同時期にな、他の学園でも同じような事件があったようだ。退治をした退魔師が言っていたから間違いない』


「他でもアレみたいなのがあったのか」


『そうだ。学園に住み着いていた地縛霊のひとつが急に力をつけて暴走しだしたらしい。ウチよりも強固な結界を張っていたところでも起こったようだ。外からではなく、地面の下から仕掛けられたのだ。完全に予想外だったのだよ』


冥府のひとつである【ネノクニ】は、地下にあると言われている。だから【根】の国なのだ。通常の結界は、地上から入ってくるモノしか考慮に入れていない。地下からくるモノに対しては、完全に無防備なのだ。


『アレの退治の様子を見ていたのかもしれなん、退魔師が退治したところはともかく、何もできずに放置されていた所は、時間が経つと怪異ごと跡形もなく消えたそうだ。その結果、結界に異常をきたしたらしいが、それはウチには関係はない』


『そして【ビデオテープ】だが、アレに封じられていたモノは、どうやら数年前に埋葬封印されていたものらしい。ごく一部で猛威を振るい、その致死性の高さから逆に感染が広がらなかった種類の怪異だ。これも退魔師が回収して封印していたものが、警備の気づかぬうちに盗まれていたようだ。大事件になる前に対処できて、本当によかったと言われたよ』


「アレは、どう関わっているんだ?」


『我々……というより、貴様へのメッセージが込められていたのだろう。幸か不幸か、貴様はアレに直接呪われはしなかった。だから過去の事件と結びつけられなかったのだろう。たまたまサキが見ていたからこそ、我々が思い出すことに繋がりはしたがな』


「たまたまじゃない。アレは、お前の屋敷に直接届けられたものだろう?あのまま解決するのが遅れていたなら、俺の家にも届いていたかもしれない」


『ふむ、確かにそうだな。郵便記録の方も調査してもらうか』


「で、あとの【肖像画】はどう繋がるんだ?」


『それはな、……キスイ、アレを退治したのは貴様だろう。アレがどういうモノかは、貴様の方が詳しいだろう?』


「【噂】で(かたど)られた【憑き物】だったな。枠を壊したから、最後は散りやすい中身だけになってたが」


『そうだ。そしてアレが、今回の【影】の試作品だ』


ミレイの言葉に、キスイは思わず首をかしげる。


「アレが影の大元?そうは見えないけどな」


『正確には、【肖像画】と【ビデオテープ】からの応用が、今回の【影】の正体だ。肖像画のように元となる姿がないから、透けて見えるほどの影という枠しか持っていない。中身は細かい土塊(つちくれ)に、画一的な魂の情報を乗せただけのものだ。まるでダビングされたように、同じ行動をなぞるだけの影人形たちだ。それが、壊れやすい分を数でカバーするために大量に送り込まれてきたわけだ』


「へー、そりゃすごいな」


『気のない返事だな。しかし、今のところが、けっこう重要な部分だったのだぞ?』


「今のが?どう重要だってんだよ」


『影たちが何処から来ているのか、という問題だ。サキを連れ去った男は、「彼らに聞け」と言っていた。つまり、影たちが出てきている場所こそが、あちら(・・・)への入り口ということだ』


「なるほどな」


キスイはケータイを持ったまま、光の中へ一歩踏み出す。暑い日差しが肌を焼くが、そんな事にはかまいもせずに、キスイは校庭の隅に立つ、小さな小屋へと目を向けた。


「保管の玄室。あそこに、肖像画の中身は預けてあったはずだ」


『そうだ。そして回向(えこう)はまだ成されていない。なぜなら、保管してあったはずのそれが、自然に拡散浄化されていたからだ』


「あれは、半年くらいで自然に浄化するほど薄くはなかったぜ」


『そうだ、だから、地中の者が回収したのだろうよ。目の前にあるのだ、そこに出入り口を作ってしまえば、簡単に回収できてしまう』


「わかった。じゃああとは俺の出番だな」


キスイはそう言って、小屋へと向かって歩き出す。


『私たちが着いて行っても、また足手まといになるだけだろう。そもそも、招待されてもいないのに行くわけにはいかない』


「気にするな。なんにしろ、俺は行かなくちゃならないんだ。これは、俺にとっての救いでもある」


『キスイ……』


「安心しろよ。俺がちゃんと、サキさんを……砂庭さんを連れて帰ってくる」


『……待ってるからな、必ず帰って来い。これは、命令だからな』


「わかったよ。それまでこっちは頼んだぜ」


ミレイの返事を聞くと、キスイはケータイをポケットにしまった。そしてすっかりぬるくなったスポーツドリンクのふたを開け、中身を一気にあおった。


「待ってろよ、サキさん……いっちゃん」


夏の太陽は中天を過ぎ、しかしなお曇る気配はまったくなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ