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第五話 思い出は夜の中 7

「この剣は……あれは夢じゃなかったのか」


キスイは暗闇の中、剣身をなぞる。

泥がこびりついているし、先ほどよりも錆びてしまっているようでもある。

しかし、これはあの時に手に入れた剣と同じものだ。


キスイは、剣で髪の毛が切れないかと思い斬りつけるが、髪は剣を握る手に巻き付いているのでなかなかうまくいかない。

もっと引き出せば斬りやすくなるかと引っ張ると、髪の先が対抗するように強く引っ張られた。


巻きついた黒い髪の毛は、キスイを引き込もうとするようにさらに強く引かれる。

長い髪の毛は、右腕を引き抜いた穴から続いている。


キスイは穴へ引きずり込まれないように、必死で踏ん張る。

その目の前で、穴が下に陥没するように広がった。


そしてそこから、地面が舞台のようにせり上がってきた。

そこに立っているのは、一度見たら忘れられない特徴的な姿をしている。


「お前は!あの時の巫女服!?」


少々乱れているが、変わらない前髪直線の黒髪。

泥で汚れた小袖に、薄暗闇でもわかる緋袴の巫女装束。

そして、顔を隠すようにある一枚の紙。


間違いなく、選定の儀の案内人をやっていた巫女装束だった。


キスイの右手に巻き付いている髪の毛は、彼女の後ろ髪から伸びてきているようだ。

キスイがいくら引っ張ろうとも、巫女装束はびくともしない。


「困りましたね、候補者様。まだ儀の途中ですよ、すぐにお戻りください」


相変わらず、体に似合わない低くて渋い声で、淡々と話す。


「嫌だよ。俺は元からその選定の儀とか言うのに興味はないんだ。失格でいいからもう止めるよ」


「失格?あなたは既にその(つるぎ)を持ってしまっています。今となっては、貴方のほかに儀を完遂できる者はおりません。よって、この【ネノクニ】から出すことは許可できません」


巫女服が右の人差し指で、地面を撫でるように指差す。するとそこから、泥が形を持って立ち上がった。


「ネノクニだって?ここはまだ、現実じゃないのか」


「苦しんで戻るか、楽に戻るか。どうぞお選び下さい」


泥が完全な人型になると、また次の泥が持ち上がり、人の形を取り始める。

巫女服の横に、イクサの泥人形が並びだした。


「キスイ、こいつらはお前の知り合いなのか?」


「さっきちょっと話しただけだ。名前すら知らない」


「ワタクシの名前など、知る必要はございません。ワタクシ達はスサ殿に仕えるモノ。それだけの存在です」


巫女服はキスイだけを見て言う。ミレイには全く興味がないようだった。


しかし、イクサの泥人形はそうでもないようだ。


泥の鎧兜を身につけた泥人形達が、キスイたち3人を取り囲むように並んだ。


キスイは奥歯をかみしめる。

俺一人なら大丈夫なのに。

戦えないのが2人もいるし、武器を持った右手は髪の毛が巻きついて封じられている。

これは、ちょっとどころじゃなくまずい。


「いっちゃん。とにかくミレイを連れて逃げて。俺が残ればたぶん追ってこないだろうから。俺は後から行くから大丈夫」


そう言ったキスイの左腕を、いっちゃんが力強く掴んだ。


「イクサ?スサ?そんな所にキスイ君は行っちゃダメ!!」


いっちゃんは袖の中からライターを取り出し、火を灯した。


それは、キスイから花火に誘われた後、用意していたライターだった。

いっちゃんは、花火を楽しみにしていた。

だから、キスイが忘れたもしもの時のために、こっそりと持っていたものだった。


小さな火が暗闇を明るく照らし出し、キスイとミレイ、そして巫女服が目を覆う。

そして、止める間もなく、キスイの手に巻きついた髪に火を近づけた。


「あちぃ!」


キスイが熱を感じた瞬間、右手に巻きついていた髪の毛が、橙の炎を上げて消えていった。

炎は髪の毛を伝い、巫女服まで届く。


「あなや!」


巫女服は燃える髪を振り乱し、叫び声を上げて泥の中へ潜っていった。


「いきなり何すんだよ!危ない……」

「ダメだから!!絶対、ダメだからね!次に自分だけ残るとか言ったら、絶対許さないからね!」


涙目で睨んでくるいっちゃんに、キスイはタジタジだった。

気弱だと思っていた友達の苛烈さを垣間見て、自分もそんなこと言われたら怒るだろうなと反省する。


「わかったよ、3人で帰ろう。帰るから、手を離して」


いっちゃんは、キスイの目をじっと見た後、不満げながらも手を離した。


キスイは周囲のイクサに向き直る。

巫女服が消えたからだろうか、イクサ達はどうしていいのか戸惑ったようにお互いに顔を見合わせている。


「いっちゃん、ミレイ、行くぞ!」


横を向いた一体に、さっきミレイに渡された木の板を投げつけ、ひるんだところに体当たりをかます。

そのままの勢いで、よろめいたイクサ達の間を駆け抜けた。


――――――


巫女服の言ったとおり、キスイ達がいたのは外のお堂の下などではなかった。


木の天井は、進むにつれてどんどん高くなっていき、今は闇の中で見通せないほどになっている。

左右も同じようにまったく見えず、ただ踏み固められた道のようなところを、キスイ達3人は走っていた。


「いっちゃん、ミレイ、付いて来てる?」


「うん、大丈夫」


「キスイ、速い。それと奴らが追って来てるぞ、なんとかしろ」


「なんとかしろじゃなくて、速く走れないのかよ!」


「無理だ。いつか追いつかれる。体力のある今のうちに、奴らをなんとかしろ」


「くそっ!なんとかしろって、あいつら一体なんなんだよ!」


ぼやきながらもいっちゃんとミレイを先に行かせて、キスイはその後ろを走る。

いっちゃんはミレイに並びながら、目をキスイに向けた。


「イクサって言ってたよね。多分ヨモツイクサの事じゃないかな」


「なんだそれ?」


黄泉(よみ)の国の兵隊で、ヨモツシコメが率いているんだって」


「へえ、いっちゃん物知りだね」


「なるほど、醜女(しこめ)か。それでさっきの巫女服は顔を隠していたのだな」


ミレイがしたり顔で頷く。

でも神主っぽいのも顔を隠してたよなあ、とキスイは心の中で思う。


「しかし、黄泉の国とはあの世の事だろう?なんでそんな奴らがここにいるんだ?」


ミレイの疑問に、キスイは先ほどのことを思い返した。


「なんかの候補者選びをしてて、それに俺がエントリーされてたって」


「その剣が重要みたいな事を言っていたな。なんだ?それは」


「知らないよ。切れ味ないし、ただの飾り剣だよ」


「ただの切れない剣に、あんなに執着はしないだろ」


「知るか、そんなこと。あいつらに聞くか?」


肩越しに振り返ると、イクサ達が整然と追ってくるのが見えた。


戦国時代の武具をつけた者達と、僧兵風の服装の者達がいる。

そしてそ彼らの背後に、小さな輿(こし)に担がれた何かがいた。


輿に乗ったなにかは、元は白かったであろうボロボロの単衣(ひとえ)を身に着けている。

そして、頭から体から輿の上まで、とかされてもいない蓬髪(ほうはつ)で覆われていた。


とくに顔は、その髪を巻き付けるようにしてあり、まったくと言っていいほど見えない。

しかしちらりと覗くその肌は、土気色を通り越して黒ずんでおり、ハリもまったく見られなかった。


それを見た三人は、あっちがホントのヨモツシコメなんだなと頷いた。


三人の心の内が伝わったのか、輿の上のシコメが、ガラガラ声で叫んだ。


「か()しなさい、も()りなさい。あ()たに()、やばば(らな)ければなばば(らな)いこ()があ()()す」


「俺は最初からヤル気なんてなかったんだよ!」


「やれば()きるの()す!このよう()!!」


シコメの号令をかけると、イクサ達のスピードが一気に上がった。

戦国時代の組が一気にキスイ達に向かってくる。


「来た!2人とも、俺の後ろに」


言い終わる前に、隊列を乱さずに突っ込んでくる戦国イクサ。


キスイは止まると振り返り、ぼろぼろの飾り剣を構える。


先頭の2体が、キスイの両脇を大きく迂回して通り抜けた。中間の6体が横にひろがり、最後の2体がキスイへそのまま向かってきた。


キスイは向かって右のイクサへ向けて剣を振り下ろすが、簡単にそれを止められてしまう。

そして拮抗する間もなく、左のイクサに突き飛ばされ、仰向けに倒れてた。


「キスイ君!?」


「キスイ、大丈夫か!生きてるか?意識あるか!?」


「痛ってぇ、下が土でよかった。後頭部おもっきし打ったし」


キスイは飛び起きて、再び剣を構える。


「よかった、大丈夫?」


「馬鹿、心配させるな」


「心配したのか?それは悪かったな」


キスイは照れ隠しも兼ねて、ちょっと笑う。


以前の戦いで、このぼろぼろの剣では、あの泥の鎧を斬れないことはもうわかっている。


どうすればいい?

先ほどの接触で、こんどのイクサの刀には、刃がついているのがわかった。

左からきたイクサの攻撃を、とっさに剣で受けていなければ、今ごろは斬られ倒れていただろう。


キスイがまだ考えをまとめる前に、再び2体のイクサが向かってきた。

とにかく、1体目の振り下ろしを受け止めることだけを考えて覚悟を決めた時、キスイは足元に違和感を感じた。


刀が剣にぶつかる直前、右足が地面を踏んでる感覚がなくなる。


(マズイ!足元に穴を開けられた!?)


そう思ったときにはもう、左足しか地面についていなかった。

剣が刀に押されるが、片足では踏ん張りが効くはずもない。


そうやって傾いていくキスイの鼻先を、右からのもう1体の刀がかすめた。


3度目の仰向けになると同時に、地面を両腕で叩いて受け身をとる。

追撃が来る前に、そして足を地面の下の何かに足をとられる前に引き抜いて、横へ転がりながら体を起こした。


「カカカ、小僧。危うく死に損なったのう」


しかし地面に空いた穴から響いてきたのは、意外な者の声だった。

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