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それは校内放送とともに

 4月。

 始まりの季節でもある春の日であっても、高校生の、しかも3年ともなると、無意味に心が沸き立つこともない。

 普通に授業を受けて、放課後になる。

 そして普通に部活動へと向かう。

 そんな普通の日々こそが幸せだと、いち高校生である大宮騎翠(おおみやきすい)はしみじみと思っていた。

 しかしその幸せは、全然、全く、少しも長くは続かなかった。

 彼の幸せを破る校内放送のジングルが、校内全域に響き渡る。


『風紀委員会副委員長の大宮騎翠(おおみや きすい)君、生徒会会長がお呼びです。至急、生徒会室まで来て下さい。繰り返します』


「繰り返すな!」


 部活棟にある、男子陸上部の更衣室で、脱いだ学ランをロッカーに放りながらキスイは叫んだ。

 周囲の部員は笑いながら着替えを続けている。

 三年になってから一ヶ月も経たないうちに、キスイはすでに5度も呼び出しを受けている。

 最初のうちはキスイも笑っていられたが、まいどまいど同じタイミングで呼び出しがかかるので、ちっとも部活動に参加できないでいた。

 特に部活動にのめり込んでいるわけではないが、予定を横から何度も崩されるのは、あまり気持ちのいいものではなかった。

 キスイはため息をつく。

 生徒会長からの呼び出しを無視するわけにもいかないので、とりあえずバッグをロッカーに詰め込む。

 すぐに体操着だけではまだ寒いと思い直し、ジャージの上着をロッカーから取り出した。


「つーわけで、ちょっと行って来る」


 同じく着替えていた陸上部部長に声をかけ、ジャージを羽織って靴をはく。そしてドアノブをつかむ寸前、ドアが外に勢いよく開かれた。


「遅い!風紀委員副委員長、大宮騎翠!貴様は私を何分待たせる気だ」


 ドアの外には生徒会会長の五光院美麗偉(ごこういん みれい)が、朱く沈みゆく夕日を――いや実際には向かいの窓に反射した夕日を――背にして、膝裏まである艶やかな黒髪をなびかせ、立っていた。

 男子陸上部員たちは着替えの途中で固まっている。


「何を呆けている、この愚図め。私がわざわざ出向いてやっているのに、いつまでそこにつっ立っているつもりだ」


 ビシッと指を突きつけるミレイの視界から、部室内を隠すようにキスイは前に出た。


「……あきれてんだよ。つーか、放送あってから1分と経ってないぞ」

「貴様は『時は金なり』の言葉を知らないのか?いかなる場合も、時間は効率よく使われなければならない。例え、わずかな時間であっても、だ」


 キスイは反論しようとするが、いずれ負けるのは目に見えている。これまで長い間顔を付き合わせてきた仲だ。

 負けると分かってる勝負で時間を無駄にすることもないと、頭を切り替えることにした。


「俺を風紀委員として呼んだからには、ここでするような話じゃないんだろ?」

「その通りだ。では歩きながら話そう。ついて来い」


 ミレイはそう言うと、優雅に90度横を向いて歩き出した。


――――――


 今からおよそ20年前、世界は突然にその在り方を変えた。

 今まで、いるとされながら存在が証明されなかったモノ達が、次々と表に現れるようになったのだ。

 その最たるものが『幽霊』だ。死後の生、魂の残り火、諦めきれぬ執着。諸説ありながらも理由の解明が為されていないのは、大多数の人間が見えるようになった現在も同じである。

 そして、見えるようになっただけで済むはずもなく、新しく問題が起こるのは当然のことであった。

 対策として、『幽霊』には念仏が効くのが道理であり、より効果的な方法を社会は模索していた。


――――――


 男女共学であり、壊れつつある世界でも未だに進学校だと自称している黄金原中央高校。

 通称『黄央高校(こうおうこうこう)

 その陸上部の部員であり、風紀委員会副会長でもあるキスイは、前を行く女子生徒を見る。


 黄央高校生徒会会長『五光院 美麗偉(ごこういん みれい)


 名は体を表すという言葉がピッタリの彼女は、周りから全ての面で抜きん出ている。勉強、運動は言うに及ばず、長身でありながら痩せすぎではない彼女の容姿は、まるで戦女神の彫像を思い起こさせる。

 そして何より、彼女は偉いという言葉の真意を知っていた。その力と責任の全てを。

 それゆえ彼女と同じ社会に属する者は、彼女に従うしかない。

 そんな彼女を見るたびに、キスイは思う。こいつの親は名前の最後の1字をつけ間違ったな、と。


「以上が現在の状況です、何か質問は?」

「え、何が?」


 すぐそばから聞こえた声に、キスイは現実に引き戻された。

 ミレイはキスイの目の前を歩いていて、こちらを見向きもしていない。今の声は、ミレイの斜め後ろ、頭二つ下の位置から発せられていた。


 直線に切りそろえられた前髪、頭の後ろ、肩のあたりで1つに束ねられた黒髪。

 生徒会書記『砂庭 咲希(さにわ さき)

 校内でも校外でも、いつもミレイの側にいる彼女の腹心だ。


「何が?ではない、貴様の頭はまた宙を飛んでいたようだな、もういい。砂庭、資料をそいつに渡せ」


 振り返らず、立ち止まらず、ミレイは進む。

 サキはキスイに資料を両手で手渡すと、ミレイのすぐ後ろについた。

 一行が生徒会室の前につくと、サキは素早く前に出て、ミレイの為にドアを開けた。


 キスイがサキに続いて最後に中に入ると、すでに先客がいることに気づいた。

ミレイは何事もないように部屋の奥へ進む。

 生徒会長用の無駄に立派な椅子に腰かけるとすぐさま、立ったままの先客に向かって言った。


「生徒会会長の権限で、風紀委員会をお前達、浄霊部が使う事を許可する。ほら許可証だ、持って行け」


 先客――浄霊部の部員――は、キスイとミレイを交互に見比べ、恐る恐る紙を受け取った。

 この学園で、この有名な生徒会長の人柄を知らない者は少ない。つまり、


「そいつは一年坊だ。だが浄霊部部長のお墨付きだ。貴様は余計な心配をせずに働け」


 浄霊部員を引き合わせることが目的だったのか、キスイはあっさりと部屋から追い出された。

 キスイがもらった資料をめくっていると、浄霊部員の一年も遅れて出て来た。

 頭を下げてドアを閉めてから、浄霊部の一年はキスイを振り返った。

 短く刈り揃えられた黒髪と、首に下げられたゴーグル、そしてまだシワのついていない学ラン。

 学ランの胸にあるネームプレートには、今年の一年生を示す緑のラインとともに名前が刻まれていた。


字仲百夜(あざなか ももや)


「字仲か、懐かしい苗字だな」


 一年生――モモヤ――は、ミレイに向かい合っている時とは違い、初対面の上級生にも物怖じせずに、キスイをまっすぐに見返した。


「センパイ、俺の家の事知ってるんスか?」

「お前、99の弟か?」

「99?……あっ!はい。ハク兄ィは自分の兄です。にしても99って、兄貴とかなり仲いいんスね」

「ああ、陸上の大会でよく会うからな」


字仲白人あざなか はくと


 やはり、名は体を表すの言葉が似合う、色白のおとなしそうな姿をキスイは思い浮かべる。

 そして、表すのは体だけであり、中身まで表せないのが言葉の限界なのかもと思いもする。


――百のひとつ手前だから、白って付けたんだって――

 下らないだろ?と爽やかにほほえんで話すわりには、飲み終わったペットボトルが、手の中でこれ以上はないくらい折りたたまれていた。

 キスイの回想を知ってか知らずか、モモヤは胸を張って笑う。


「兄貴は、強いっスよ。陸上じゃなくても」

「たしかに、そうだな」


 たしかに、確かにハクトは強い。強いがしかし、この件には全く向かない。なにより、通っている学校が違う。


「そんな事より今は仕事だ。何を何人いる?」

「少なくとも結界を作れる人を4人は欲しいって言われました」

「結界は意識レベルでいいな。相手は逃げれるヤツじゃない」

「はい、大丈夫だと思うッス」

「なら準備とか考えて、30分後に大講堂前に集合かけるからな」

「了解っス!」


 敬礼までしてから去っていくモモヤを見送りながら、キスイは自分の風紀委員としての最初の活動をした時を思い出して、思わず苦笑していた。


 キスイはモモヤと別れると、放送室へ向かった。

 結界を守る人間も必要と考え、名指しで8人程呼出しをかけてもらう。生徒会長の命令付きと言えば、この学校で逆らえる者はいない。もちろん権力ではなく、彼女の存在自体がそうさせるのだ。


「あの生徒会長は慕われているのか、面白がられているのか。困ったヤツだよまたく」


 その言葉とは裏腹に、キスイの口元は楽しそうに笑っていた。

マンガの読み切りをイメージして書いた作品です。

書き直すたびに少しずつ長くなってます。

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