黄央第4話 陰の剣 2
モモヤが最後に生徒会室に入ると、ミレイはすでに奥のイスに座っていた。サキはミレイの横に立っている。
モモヤが横に並ぶのを待って、キスイが報告を始める。
「モノは回収した。中身を見ると呪われるらしいので、まだ確認してない」
「確認の必要はありません」
キスイの言葉が終わると同時に、サキが言った。
「色、文字、型。全て情報の通りです」
そう言った声は、どこか弱弱しく、顔色もよくない。
「それ、どっからの情報スか?」
不審な気配を感じ取ったモモヤが聞くと、隣にいるキスイが目だけでにらんだ。
キスイからの圧力の理由がわからず内心うろたえたモモヤに、その様子に気づかないサキが答える。
「わたし自身からです」
サキはそう言ってうつむいた。
モモヤはつい先ほどのことを思い出す。
キスイ先輩はビデオテープについて詳しいことを言わなかった。
つまりミレイ会長とサキ先輩には言わなくても通じると分かっていた。
ということは、アマサト先生に会いに行く前に、ミレイ会長から同じような話を聞いていたのだろう。
そのことに思い至り、先ほどの不用意な発言を後悔した。
モモヤは、急に重くなってしまった空気を振り払おうと、質問を続ける。
「つまりー、見たってことスか?」
「……ハイ。昨夜」
力なく答えるサキを庇うように、ミレイが立ち上がった。
「私の屋敷にそれが届けられたのだよ。挑発の手紙とともにな」
ミレイに普段と変わった様子は見られない。ならばと考えモモヤは続ける。
「それをサニワさんが毒見して?」
「いや、一緒に見た。私が脅しに負けるわけにはいかない」
ミレイは本当になにもないようだ。具合の悪いサキを気遣う余裕すらなくなっていない。
「何か影響は?ないっスかね?」
ミレイはサキをちょっと見た。
サキはその視線を避けるように、窓の外を見ている。
「サキがな、ずっとこんな調子だ」
「外になにかいるんスか?」
モモヤは窓へ近づいたが、特に変わった様子はなかった。
サキを見ると、心ここにあらずという感じで、窓の外を見たまま動かないでいる。
何かいるのだろうかとモモヤが窓を開けると、後ろから息をのむ音が聞こえた。
振り返るとサキと目が合い、サキが恥じるように視線を逸らした。
「外には何もないっスね。霊気もたぶんありません」
窓を閉めてから戻ると、またキスイににらまれた。
モモヤが戻ってくると、今度はキスイが口を開く。
「さっき会ってきたアマサト先生も、サキと似たような感じだった。保健室の周りも気をつけてみたが、霊気も人の気配もなかった。つまり、外ではなく意識の中になにかがいるってことになる」
キスイが自分の頭を指差して言った。
「やはりサキに憑いているのか。私ではなく弱いものを狙うとは、卑怯者め」
ミレイが腹立たしそうに言う。
「アマサト先生にも憑いてたみたいスから、見た人に見境なくってヤツだと思うっス」
「では私には何故憑いていない?」
ミレイの当然の疑問に、二人が同時に答える。
「人によるが」
「たぶん、鈍k、ゲフッ……!」
モモヤの言葉が終わる前に、キスイの裏拳がボディに打ち込まれた。
「意志力の問題だ。ミレイは、誰にも屈しないだろ。だから憑かれないんだよ」
ミレイはキスイの言葉に納得したようにうなずいた。
「それで、キスイ、サキに憑いているモノを祓うことはできないのか?」
「俺はやり方は知らない。専門家に頼むのが一番安全で確実だな」
「プロか。わかった、調べさせよう」
「いや、それについては心当りがいる。その人から頼んでもらったほうが話が早いだろう」
「そうか、ではキスイに任せよう。次にモモヤ、今、風紀委員に他にも被害者がいないか探させているから、お前もそれに協力しろ」
「了解でス!」
「私へ届けられたものと、アマサト先生の手に渡ったもの。二つあったということは、それ以上あってもおかしくないということだ。ますます急がないといけなくなった。二人とも頼んだぞ」
ミレイの言葉に、キスイとモモヤは力強くうなずいた。