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File №007 勧誘

 主人公は突然部活動の勧誘を受けて…?


不定期更新サイコー!(涙)

 「部活動、まだ決まっていないのでしょう?」

 「はい」

 

 教室棟(ホームルーム)と本館を結んでいる渡り廊下。この学校は、教室棟(ホームルーム)も本館も共に3階建てだ。よって、その階の数だけ渡り廊下は存在している。

 そのうち、僕たちがいる渡り廊下は一番上。それ故に空との遮へい物が無い。よく言えば日光を存分に浴びられる、悪く言えば吹きさらし。そんな3階渡り廊下。

 「なら、今日の放課後、1人で(・・・)コンピュータ室に来て下さい」

 「了解」

 何とはなしに、「分かった」と言わずに「了解」と業務連絡のような返しをしてしまった。が、夜霧は気に留めていないようだ。

 「では、放課後お待ちしております」

 そう言って教室にかけていく。

 「鮮やかな引き方だ」

 相手に自分の用件だけを提示し、答えが出れば直ぐに去ってゆく。そこに僕が問い返す隙はない。

 「…………………」

 僕は無言のまま、彼女を追うようにして教室に戻った。夜霧は何をしたいのだろう。これまでの学校生活では不審な点は1つも見当たらなかった。至極普通の女子高校生にしか見えなかった。第一、なぜ警視庁が探しているのかさえ分からないのだ。僕の夜霧への警戒心は少しずつ解けていってしまっていた。そこへ今回の勧誘。天災は忘れたころにやって来る。当然、僕は今までよりも遥かに警戒の色を強めた。

 「やっと動き出したか」

 このまま何もなく結局ただの人違いなのでは、と思うこともしばしばあった。……あの2人が原因なのだが。

 兎に角、やっと奴が動きを見せた。嬉しくて顔が綻びそうになるのを堪え切れずに、左の口元が少しばかり吊り上がる。


 放課後になり、藤森と指倉がいつものように一緒に帰ろうと誘ってきてくれたのだが僕は断った。夜霧は「1人で」と言っていた。罠である可能性も高い。だが、僕はあえてその誘いに乗ることにした。2人には、先生に呼び出しを喰らった、と言い訳をしておいた。既に学校の敷地内からは出ているだろう。

 夜霧が指定してきたコンピュータ室は、本館北に位置する実習棟の4階にある。僕は、階段を登って右の突き当りに向かう。白い引き戸は、僕の胸元辺りから磨りガラスが入れられている。中の様子は見ることができない。来るまでに退路は確認した。胸ポケットには、護身用に細い炭素棒ではなく針が仕込まれているシャーペン。武器としてはいささか心もとないが、僕はコイツを信じている。流石に毒は塗っていないが、長さの調節もできるので余程のことがない限りは大丈夫だ。

 トントン、と2回ノックする。応答はない。僕は意を決して戸を開けた。

 

 「…………」


 

 戸の向こうで僕を出迎えたのは、棚に所狭しと並べられたプラモデルの山だった。その全てに丁寧に塗装がなされている。どこかで見たことのあるロボットや車に城、戦闘機など、そこにいるプラモたちにはまるで統一感がない。僕は唖然とするほかなかった。

 幽かに漂う、塗料の独特の匂い。奥では部員らしき人物たちがエアーコンプレッサーを片手に真剣な目つきで、鮮やかとは言い難いものを獲物に吹きつけている。ここで何をしているのか、それは一目瞭然だった。

 ここは、模型部の活動場所だったのだ。

 「ようこそ、模型部へ」

 いつの間にか僕の横には1人の女子生徒が立っていた。艶やかな光沢を放つ長い黒髪、鋼のような瞳の色。彼女は僕をコンピュータ室(ここ)に呼び出した張本人、夜霧麗華だった。


 コンピュータ室(ここ)が模型部の活動場所なのは一目で分かった。だが、

 「なんでコンピュータ室が模型部の活動場所なんですか?」

 僕は顔を見て早々、自分の疑問を吐露する。

 最初からその質問をぶつけてきますか、と少し困ったような表情を見せる夜霧。いきなりそれ訊きます?と目線で訴えてくる。

―――いや、普通聞くでしょ。

 「えっとですね、ここがなぜ私たち模型部の活動場所かと言うとですね……」

 心底あきれた様子の夜霧さん。奥で生徒と一緒になって墨入れをしている男性教員を指して言った。

 「あの先生がここの管理者で、プラモデルが大好きで、他に空いている教室がなかったからです」

 「な、成程……。つまり、プラモデルが大好きな先生が模型部を立ち上げたのはいいけど、部活に使える部屋が無くて、仕方なく自分が管理しているこのコンピュータ室を部室にしている、と?」

 そうですね、と苦笑いで答える夜霧。僕は、もう一度あたりを見まわしてみた。よく見なくてもかなりカオスな風景が広がっている。コンピュータがあるのにも関わらずにそれを使わない、それどころか見向きもせずに、窓という窓を全開にし、床に広げられた新聞紙の上で座り込んで黙々とプラモデルを組み上げている。


彼らは傍から見ても分かるほどとても楽しんでいた。それでいて情熱をひしひしと感じる。愛情をこめている。その様子に僕は魅せられた。


 「うちの部活に入りませんか?」

 夜霧は飛び切りの笑顔でそう言って僕に1枚の紙を差し出してくる。入部願だ。何と用意のいいことだろう、希望する部の名前を記載する場所には『模型部』。僕は少し考えてから、

 「一応、仮入部でお願いします」

 笑顔に負けることなく、冷静にそう答える。

 「それもそうですね、よろしくお願いします」

 「こちらこそ、よろしくお願いします」

 僕は軽く会釈を交わし、夜霧の背中についていく。本当に不思議な黒髪だ。すごく綺麗なのだが……どうにも僕の警鐘は鳴り止まない。前にいた夜霧が急に止まったので、危うく衝突しそうになる。生徒と一緒に部活をしている顧問と思われる教員のところに着いたらしい。

 「垣本先生、入部希望者です」

 仮入部だ、と心の中で訂正する。 

 「おぉ、新入部員かね良くやってくれた夜霧君」

 2人とも気の早いものだ。まだ僕の口からは一言も入部するとは言っていない。

 とはいえ、僕はもうこの部に入部する気満々なので否定する意味は無いような。

 「まずは手続きからだ。さっき夜霧君から入部願を貰ったかね?」

 はい、と返事をしながら希望する部の名前を記載する場所に既に「模型部」と書かれた入部願を後ろに回していた左手から垣本と呼ばれた先生に見せる。

 「では、ここに名前を書いてくれ」

 「え?」

 「さぁ、早く」

 2人にせかされ、書かざるを得ない状態に持ってこられてしまう。これでは詐欺のようなものではないか。

 「ちょ、ちょっと待ってください」

 どうした?と、先生は疑問符を浮かべている。

 「まずは体験とかしてから決めたんじゃ駄目ですかね」

 「もちろん構わんが……」

 何か不服な様子の垣本先生。

 「多分、君はこの部活に来るよ」

―――ほう?

 はっきり言って笑えなかった。なぜだか分からないが先生の表情からただならぬものを感じた。

 「そうですね、夕涼君ならきっと入部してくれるでしょうね」

 何やら楽しそうに夜霧が付け加えた。

 「僕の名前は垣本かきもとけんだ、よろしく」

 教員用の首から下げるタイプの名札を見せた後、手を差し出してくる。

 「僕の名前は夕涼慎です、よろしくお願いします」

 先生と握手を交わした後、今度は夜霧が改まった様子で自己紹介をした。

 「夜霧麗華です、よろしくお願いします」

 先生と同じように手を差し出してきた。

―――……えっと

 僕は躊躇した、相手は年頃の女の子だ。流石にすんなりと握手をするわけにもいかないし、そんな事ができるほどキザでもない。だが、夜霧はそんな僕の心情を見透かしているか不敵な笑みを浮かべ、伸ばしかけていた僕の掌をひったくり、シェイクハンド。

 「よろしく」

 「……よろしく」

 少しいぶかしみながらも、それを顔に出さないように作り笑顔で答える。

 「さて、簡易的な自己紹介も終わったことだし、君には早速体験をしてもらいたいところなんだが………」

 3人はあたりを見まわす。決して多いとは言えない人数の部員たちは黙々と作業を続けている。何となく近寄り難いものがある。

 「コンクールに出品する作品の制作途中だからね~、ちょっとピリピリしてるんだよ」

 新入部員を確保しなければいけないこの時期に何事かと思ったが、言葉にするのはやめておいた。

 「う~ん、そうだな……明日なら。夕涼君、明日の放課後にここへ来れるかな」

 「はい」

 即答した。

 どうせ明日は学校が終われば何もない。暇をもてあそぶのならここに来た方がいい。さて、明日は2人になんて言い訳をしようか。

 

こんな部活があったらいいのに……とつくづく思います。

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