File №006 本性(?)
勉強合間にちょっとずつ書き貯めしたり、時間に余裕があるときに一気に書いたり……定期的に更新するのはやっぱり、僕には無理なようです………。
じっくりと観察した後、僕は手に持っていた写真を制服の裏の元あった場所に戻した。前を向き直すと、そこには神妙な面持ちの藤森がこちらを見ていた。
「ど、どうした?」
「まさかとは思っていたけど………そこまでとは」
勝手に推測して勝手に結論を出している。何のことを言っているのかまったくもってわからない。
「変なことしたか?」
「それが分からないお前ってすごいよ」
―――????
*****
もう一人の夜霧と会ったあの日から5日が過ぎた。委員会役員も決まり、今日から部活動も始まる。本格的に新しい生活が幕を上げようとしていた。
「報告は待った方がいいんじゃないか」
午前中の授業も終わり、僕の席には藤森と指倉が集まって3人で各々の弁当をほおばりながら話している。藤森の机と僕の机を付けて食べているので、3人いてもそんなに窮屈ではない。
「俺もそう思う」
「なんで?」
夜霧についての報告は待った方がいいという2人に、僕は疑問を抱いた。
「入手している情報は早急に知らせるように、って部長に言われた、それにもう5日も経っている」
「焦りは禁物だぞ?早く星を挙げたい、という焦りが冤罪を生むんだ」
もっと情報を吟味した方がいいという指倉。でも部長にはどんな事でもいいから入手した情報は教えろと言われた。
「でも、まだ同一人物だと決まったわけじゃない。可能性があるってだけだよ」
この情報は開示した方が良い、と僕は押し通す。
「焦んな、気になってる奴だからといってムキになるな」
「僕が夜霧に好意を寄せていることを前提にしていないか?そんなことないぞ?」
藤森の言い回しがちょっとおかしかったので注意する。
「ええ~そうだったんだ」
―――……は?
「おい、ちょっと待て。零次、のらなくていいぞ。暁也?変な誤解を生むようなことを言うな」
この手の2人の暴走は質が悪い。ちゃんと対処しないと大変なことに―――
「夕涼って夜霧のことおおおおおぉぉ………」
僕の体は反射的に動いていた。箸を逆手に持ち替え、内1本を弁当箱の中に落とす。と同時に体重を前に移動させながら左手で藤森の首を鷲掴みにする。
ここが公共の場であることを忘れ、大声でとんでもないことを言おうとした藤本に、左の口角を少し上げながら僕は言った。
「誤解を生むことは言うな、聞いていなかったのか?」
藤森が呼び寄せたギャラリーと、僕がガタンと椅子から腰を浮かせた音で、教室内の一部の生徒の意識が僕らに集まる。僕は据わった眼で首を固定し、箸を凶器のように扱う。どこぞの暗殺者みたいな行動ををとっている少し小柄で華奢なクラスメイトを見てみんな固まっている。その様子を視界の端で認識した後、僕は静かに椅子へ戻り残りの弁当を口に運ぶ。
「………もし、ばれたらどうするんだ?」
「お前がよぎ……ううん、何でもない。気にせず続けて」
自分に向けられた不気味な笑みに気圧された藤森は、途中で言葉を濁らせる。
「俺たちが警察で、アイツに瓜二つの人物を探しているってこと?」
「あぁ」
弁当を食べた後、3人で図書室に向かった。本館3階にあるそれは、屋根が無く雨の日は通行不能になる渡り廊下(1階と2階にあるものは、丁度真下になっているため上の階の廊下が屋根になる。)を渡っていく。普段は日差しの気持ちいい、僕のお気に入りになった場所。
僕は図書委員だ。図書委員は男女一人ずつでもう1人は、例の夜霧麗華。彼女を調べる上でとても丁度良かった、が藤森と指倉が茶々を入れてくるのでちょっと鬱陶しい。
で、藤森と指倉は本探し兼僕との談笑、夜霧の観察を目的にこの図書室に入り浸っている。僕は受付カウンターの内側で本を読んでいる。題名は、「役立つ!心理学~女性の仕草~」だ。この1つ前は、「癖から見破るその人の本音」というものを読んでいた。人から情報を聞き出すことをするので、その情報が嘘か誠か判断するのに必要な教養だ。特に、女の人の心は読みにくいのでこうした本の読んでいる。
藤森は推理モノの漫画を、指倉はライトノベルを読んでいる。夜霧は僕の右側に座っている。その距離約40センチ。結構近い。気が付くと、少し意識してしまっているのは男の性というものか。
はぁ、と一つため息をつく。
―――どんな本読んでんだろ。
ふと夜霧がどんな本を読むのか興味がわいてきた。呼んでいる本によって、その人と馬が合うかわかる。夜霧と合わせる必要はないが、一応。夜霧の手元をそろそろと覗く。
―――さて、何を読んでるのか………………。
「恋愛に役立つ心理学」
………見なかったことにしよう。
目線を下げ、自分が手に持っている本に意識を戻す。
「そろそろ図書室閉めようか」
一年部古典の永浦先生が僕に言った。気付けばもう、腕のデジタル時計は1:16と表示している。夜霧達もまだ本を読んでいた。
天気のいい昼下がり、窓から入ってきた風が本を読んでいる文学少女の長い黒髪を靡かせる。思わず見とれてしまう光景。
「幸せだな……」
目の前にいる少女も、僕の頭も。
「さて……図書室を閉めます、本を元あった所に戻してください。借りる人は直ぐにカウンターへ来てください」
聞いていたのは5人だけ。委員会の仕事は終わった。今日は10冊の本が貸し出された。内、4冊は言うまでもなく僕らだ。
「さて、教室に戻るか。午後の授業なんだったっけな」
渡り廊下を歩きながら独り言を言っていていると、
「確か英語」
―――!!!!
急に夜霧が後ろから話しかけてきた。不意に話しかけられたので滅茶苦茶びっくりした。
―――心臓麻痺で殺す気か!
「あ、ありがと」
心の中では悪態をつくが、教えてもらったので礼をしておく。
「……どういたしまして」
お互いに歩調を変える気はなく、僕の後ろに夜霧が歩いている。目的地が一緒なので、この状態はしばらく続くだろう。
―――あれ、こんなに教室遠かったっけ
図書室から教室までは割と近かったはずだが、妙に長く感じられる。まるで、同じところをぐるぐると周っている……いや、ちっとも前に進んでいないような……。
「おかしいな」
「…ぇ。…-い」
そういえば首周りも少し苦しいような……。
「せいっ」
「うっ…」
不意にに鈍痛が僕の背中を襲う。
「痛って……」
「やっと気づいたね」
首だけで振り返ると、勝ち誇ったような顔をした夜霧が立っていた。その手に握られているのは……。
―――成程、
「進まないのと苦しい訳はこれか」
小さい手に潰された僕の詰め入りの襟。顔の直ぐ近くにその拳はある。
だが、謎はまだ残っている。何のためにこんなことをしているのか分からない。
とりあえず、
「えっと……離してください」
「話を聞いてくれるなら」
見かけによらず中々積極的な女性のようだ。人は本当に見かけによらない。クラスではそんな素振りを見せなかったのに。
「どんな話ですか」
夜霧は一度ニコッと笑うと、僕の詰め入りを解放してくれた。
「部活についてです♪まだ決まっていないのでしょう?」
なぜか上機嫌のご様子。これが本性だとすると、かなり猫を被っている。
―――部活か……そういえばまだ決めてなかった。勧誘活動か?
「はい」
なんで知ってるんですか、と聞きたくなったがやめた。入部願を出していない人は今日の朝に名前を挙げられたのだ。その中に僕もいた。その後で、思い出したように提出している生徒はいなかった。よって、今日の朝に名前を挙げられた生徒は全員部活が決まっていないことになる。
これはもう、推理とすら呼べないだろう。
ご意見ご感想を心からお待ちしております!!!