File №003 夜霧麗華
不定期更新にも程があるような感じがしますが、精一杯頑張っているので、見捨てないでください。
自身の紹介も終わり、自己紹介も残り二人となっていた。
「あと二人、か」
ぼそっとつぶやいた。僕は独り言が多い。
自己紹介は右側の列から順に始まった。席の列は男女混合で三列ずつあるので計六列。一列の人数は六人。よって、このクラス、電脳工学科の人数は6人×6列の36人。男子25人、女子11人で男女比はおよそ7対3。出席番号準なので、僕の席は最後から4番目。
まだ自己紹介の終わっていない二人は両方とも女子だ。
「……あ」
あれこれと考えているうちに一人終わってしまったらしい。拍手がおきていて、後ろから座る音がする。
聞きそびれたか。ま、いいや。僕にはよくあることだし、興味なんてない……―――去年(中学3年のとき)みたいにクラスメイトの名前をほとんど(女子の名前は全く)覚えていないという事態は避けないといけないが。
椅子を引く音がする。最後の一人が自己紹介を始めるようだ。さて、次はどんなやつだろう。
後ろを振り向いた。
「……」
僕の後ろにはもう2人生徒がいたはずだったが、僕の視界には映らなかった。最後の一人の前では色あせてしまう。
奴だ。
―――よりによって同じクラスって…昨日の時点で分かってはいたけど……。
傍から見れば、クラスに一人はいる(ことが多い)美少女。こういうことが本当にあるのか、と思うものも多いだろう。だが僕はもう、警察官としての立場から彼女を見てしまっている。そんな感情を抱くことはできなかった。
入学式の日に登校する途中で出会った不審な少女。彼女もまた、この学校のこの科―――山吹専門高等学校電脳工学科の生徒だ。
美麗で整った顔立ち。背中に垂れた髪は、僕の記憶が正しければ校則違反ぎりぎりの長さ。限りなく黒に近い色。光の反射のせいなのか、濃い藍色にも見える。身長は目測160センチ前後。もしかすると僕より身長たかいかもしれない……。僕の身長は164.8cm。現在進行形なので、まだ希望はある。眼の色は薄いグレー。そういえば、お爺ちゃんの眼もあんな色だった。年のせいとか言っていが、その灰色がかって少しくすんだ水色の虹彩は、僕にとって実に綺麗なものに見えた。
―――年のせい……ではないな。(思ったとしても、本人に直接問うことは命が惜しくもない、余程の馬鹿しかしないだろう)カラーコンタクトか。中二病…?いや、流石にそれはないだろ。どのみちカラコンだったら昨日の説明では校則違反だったはず……。
考えれば考えるほど不思議だ。
―――髪の長さといい、目の色といいコイツにとって校則なんて在って無いようなものだな。……おぉ、もしかして不良か!いや、まず不良はこの学校に入れんだろう。帰国子女?ハーフか?
いろんな憶測が頭の中で飛び交う。最初にあった時と変わらない、この異様な感じ。
静かになった教室を見まわしてみると、先生を含めクラスの全員が注目をしていた。僕自身も含めこの部屋にいる総ての視線が彼女に向けられている。
他の生徒たちも違和感に気が付いたみたいだ…………いや、単にあの娘に見とれているだけか。中には男女を問わず呆けた顔をしている者もいる。その中に藤森がいたことは見なかったことにしよう。
その娘の周りの空気は、凛としていて、なんとなく近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
しんとした教室の中、静寂を破ったのはそれを作り出した本人だった。
「よぎりれいかです。よろしくお願いします」
少し高めの声で彼女は言う。
妙に通る声。だが、実に素っ気無い自己紹介だった。まぁ、自分も同じようなものだったので人のことは言えないのだが。自己紹介(名乗っただけ)が終わって彼女は席に着いた。
自己紹介が終わり、担任の折原先生が次の時間の説明をしている中、僕は変な感覚に見舞われていた。
後ろの方からずっと視線を感じているのは多分、僕の気のせいだ。珍しい名前で少し気になってしまっているからだろう。無視、無視……………この場合の気になったというのは、警察官としての疑心及び知的好奇心に駆られたという意味で、異性としてという意味ではない。
自己紹介の前に配られていた連絡網に目をやる。そこには、僕の名前の後には、由佐美月と八神朋という女子生徒の名前。その下、最後の欄には
夜霧麗華
それが不審な少女の名前だった。
「一応、報告しとくかな」
―――麗華、か…。麗しい華……凄い名前。
*****
自己紹介と先生の話が終わった後は自分についてのことを書きまとめたレポートの作成(ただの掲示物)があったが、僕は自分について書くことが苦手なうえ、後ろからの妙な圧迫感のお陰で名前と血液型、生年月日を書いたところで時間が来てしまった。
「やべぇ」
「どうした?見せてみろ……………こりゃ酷い」
他人の自己紹介プリントをひったくった挙句に酷評する礼儀知らずの男子生徒。
「勝手に人のものを取ったうえにそれはないぞ、藤森」
そう言いながら、僕は完成度約30%の自己紹介プリントを奪い返し、ひったくり犯をにらむ。この後すぐに集める、と言われたら大変なことになっているところだが、幸いにも提出は三日後なのであわてる必要はない。明日にでも仕上げるか、と簡単なスケジュールを頭の中で組む。
「これで終わりか」
「おう」
「あとはホームルームだけだ」
指倉も話に加わってきた。
「そういえばさ、今日珍しく緊急招集かかってたよね」
「あぁ……」
「どーしたんだろうな」
僕と藤森、指倉の3人は通称『青二才』こと、未成年者犯罪特別捜査部のメンバーの一人である。略称は特捜B。メンバー全員が25歳未満という「非」公式のこの捜査部隊は、いろいろと複雑な悩みを抱えている年頃に罪を犯した者には、同じ世代が相手をした方が良いだろうという考えから生まれた。
*****
この日の授業は午前中で終わった。学校が始まってからまだ二日目なのでちゃんとした授業はなかった。明日は係り決めなどを行うらしい。僕はいつもの3人組(僕と藤森と指倉)で帰路についていた。
「なぁ、夜霧麗華についてどう思う?」
それまでとは違う、声を少し下げ気味に問いかけられた2人は直ぐに何の話か察したようだ。
「怪しくは見えた。少し警戒した方がいいかもね」
「めちゃくちゃに可愛かったよな!」
鼻息を荒くしながら、クラスの女子のことについて話す戦友。男子高校生だから仕方ないのかもしれないのだが……引いてしまう。コイツのモテない理由はこれだとようやく認識した僕である。わざとふざけている藤森は置いておいて、指倉と僕は話を続ける。
「やっぱそう思うか……。一応報告しとこうと思うんだ」
「うーん……でも、同姓同名なだけじゃん?様子を見る程度でいいと思うけどな」
「張り込みなら俺に任せろ!」
セクシャルハラスメントで訴えられそうな言動を口にする藤森。このまま置いておくと、どんどんと邪魔になってくることを予想したしたのか、
「この変態が」
指倉が容赦ない罵倒を浴びせた。僕もそれにならうことにした。
「煩悩塗れか。それだからいつも相手が女の子だった時の詰めが甘いんだよ。この前も相手の笑顔に負けて不等取引を許しかけただろ、僕らがいなかったらどうなって―――
2人から集中砲火を浴びた藤森が、
「いいじゃないか、過ぎた話は」
「「良くない」」
抗議するも、あえなく失敗に終わる。そっぽを向き、悔しがるような態度をとる藤森。
「…………お、交差点」
そこまでして話の話題を反らしたいのか。
気付いたら、もう3人のそれぞれの家へと枝分かれする交差点に着いていた。特にこれ以上ここで話すことはなかったので、解散する。
「じゃ、また後で」
「30分後くらいにね」
「ばいばーい」