File №001 遭遇
一話目は、ほぼ主人公たちの自己紹介となります。
「あー、今日から専門学校生か」
高校入試において、第一志望の高校、又は合格出来なかった者に対する嫌味にしか取れないものを吐きつつ歩く少年……いや、青年。
僕の名は夕涼慎。今日、専門学校生になった。
好きなものはゲームとアニメ。オタクにさえ成りきっていない中途半端な人間(?)だ。そんな中途半端人間の僕だけど、やることはやった。勉強という、子どもたちの永遠の宿敵との戦いを制し、見事、国立専門学校への合格を果たしたのだ。 ……まぁ、入試の出来からして相当下の方で、合格になったのは半分が運、もう半分が実力だろうと推測している。しかしながら進学というものは入った者勝ちなのである。極端な話、主席で通ろうがギリギリセーフで通ろうが関係無い。通ってから、どう頑張れるかが大切なのだ。
中学生時代――とは言っても、まだ一か月も経っていない――は成績は上の中。部活動では副キャプテンを努め、体育での得意なスポーツはサッカー(DF)という頭の良さげな生徒だった。友と呼べる者も少なく、教室では孤立することも多かった。だからこそ、これから4年間は今までとは違う、鮮やかな世界が僕を待っていると信じている。いや、絶対に待っているはず。でないと困る!僕は、憧れの学校に入学するために中学生時代を灰色に染め上げ、犠牲にしたのだ。何の報いもなければ哀しいにもほどがある。
そんな僕は今、その学校の入学式へ出席すべく、ラッシュ時にはここら辺で交通量が一番多いとされている道路で渋滞に巻き込まれている哀れなサラリーマンたちを尻目に、実に優雅に歩いている。
しかしながら僕は、入学式早々1人で登校に臨まんとするような猛者ではない。僕には戦友とも呼ぶべき者が2人もいる。つまり、3人で仲良く登校している。
「こうして三人で合格できて良かったな」
僕の目の前を行く藤本暁也はそう言った。体格が良く、少し日焼していて健康的。顔立ちも中々で、中学校時代は野球部に所属し副キャプテンを務めていた。コイツは日によってコンディションの変化が激しく、決まった背番号を持っていなかった。そのため学校では、――幻の7つの背番号を持つ男――と呼ばれていた。試合の際に奴がどのポジションになるのかは相手チームはおろか、チームメイトでさえ判らない。正に最強の伏兵。スポーツもでき、勉強も出来る(出来なかったらここにいない)その上、顔もいい。そんな3拍子揃った彼だが――モテたためしがない。
うーん…モテてもおかしくないと思うんだがなぁ……。
男子からの目線と女子からの目線は違うということなのだろうか。そんな少し残念な戦友に、
「だね。奇跡って起こるもんなんだねー」
僕は適当に相槌をうっておいた。すると、
「全くだ。こりゃあ南野天満宮に感謝、感激、雨、霙、霰、嵐だ」
賛同の声がさっきとは逆の方向から飛んできたので後ろを振り向いた。
声の主は指倉零次。色白で物憂げな微青年(眼鏡着用)で、趣味などが僕と似通っている。4人姉弟で、上に高2の姉が一人と下に中1の弟と妹の双子がいる。中学校時代は僕と同じ部活動に所属し、副キャプテンをしていた。3人の中で一番情報の収集が早く、アンテナ的な立ち位置。たまに鬱積モードに入ってしまい、誰にも止められなくなる。人と話したりすることが苦手(特に女子)で、インドア派。しかし、自分の欲しいものなどを手に入れる場合はネットショッピングを使わずに直接店舗に赴く。自分の目で確かめて買うのがポリシーらしい。
「2つ多いね」
「それだけ感謝している、ということだ」
胸を張って答える指倉。
「いや~ホント良かった。誰か1人だけ落ちるという可能性もあったからね」
「みんな、良く頑張ったよな……」
遠くを見ながら僕は呟いた。
「3人一緒で本当に良かった」
「ほんと、ほんと」
「奇跡だ!」
「ほんと、ほんと」
「それ、さっき誰かいわなかったっけ?」
「ほんと、ほんと」
「『ホント』って何回言った?」
「さぁ?」
「6回位だと思う」
「思ったより少なかったな」
「ほんと、ほんと」
「……その適当な相槌やめろ、無性に腹が立ってくる」
僕らはそんな他愛もない会話を続けながら、新しい生活が始まることに喜びを感じていた。これからもずっと、3人で仲良くやっていけると思っていた―――少なくとも僕は。
途中、自分たちと同じ、汚れの見当たらない制服に身を包んだ生徒を何人も目にした。僕ら3人は、信号に引っかかって青に変わるのを待っている。ふと、戦友から目を離して後ろを振向いた。後方約10メートル地点。そこには1人の女子生徒が歩いていた。緑色のリボン、鮮やかな青のブレザー。胸には自分たちの着ている制服にあしらわれているのと同じエムブレムが輝いている。腰のあたりまで伸ばしたミッドナイトブルーの髪、それとは対照的に、透き通るような白い肌。隣を歩いている母親らしき人(美人)と話しているようだ。その少女を見たとき、僕は純粋にこう思った。
――綺麗だ――
とても整った顔立ちで、目尻がほんの少し上がっている。クラスに一人いるかいないか――いない場合の方が圧倒的に多い――の、ぞくに言う『美少女』だった。僕は、ただずっと眺めていたくなった。
「………」
「あ……」
目があった。――瞬間、少女は目を丸くさせたかと思うと、彼女はすぐに会話を再開させた。
「……???」
だが、少女はその後もこちらをチラチラと見てくる。そんな彼女の行動が気になって、僕は目を離せなくなってしまっていた。2人はそのまま真っ直ぐこちらに向かって歩いてくる。あの蒼い制服からして、目的地は同じと予想される。
―――……コツコツ、コツコツコツコツ―――
靴底がアスファルトを叩く音が耳に入ってくる。流石にずうっと少女を見ているわけにもいかないので、5メートルぐらいのところで前に向き直した。
―――コツコツ、コツコツコツコツ……―――
僕の左側、50センチ程度離れたところで少女は止まった。
「……………」
視線を感じる。なおもこちらを見てきているのだろうか。戦友たちが隣で何か話しているようだが全く頭に入ってこない。戦友の声だけではない。周りの音が一切、聞こえない。静寂が僕を支配する中、恐る恐る、目だけで横を向いてみた。
「………」
「………」
戦慄が走る。
―――や、やば……いよ…………これ。
最悪の事態だ。またも目が合ってしまった。しかも、今度はこんな近距離で。得体の知れない緊張感で体が硬直する。手も微かに震え、顔が引きつる。喉がカラカラに乾き、冷汗が頬を伝う。まるで、蛇に睨まれた蛙状態だ。目の前の少女はというと、何を考えているのか分からない表情にのまま、じっとこちらを見据えている。結果的に見つめあってしまっているこの状況。何とか打開したいのだが、頭が回らない。
―――落ち着け落ち着け落ち着け、落ち着くんだ夕涼慎!
混乱している思考回路を必死に働かせようとする。
信号がようやく青になり、少女は一度前を向いた後、こちらを一瞥し、艶やかな髪を靡かせてスタスタと通り過ぎていった。
最後のそれは実にあっけなかった。
「………なんだったんだろ」
横断歩道の向こう側で待っている藤本と指倉に「ごめん」とジェスチャーを送り、点滅を始めた信号にもせかされ、小走りで白い梯子を渡る。その先の急な坂道を3人でのんびりと登っていく。正門は上り坂の突き当りにあった。
警察関係者という紹介が無い、変歪なものになってしまったことにお詫び申し上げたいと思います。すいません。どうか、初心者ということで大目に見ていただけないでしょうか。次回ではちゃんと説明します。ということで、ご意見ご感想を心よりお待ちしています。誤字、脱字の指摘もお願いいたします。