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父が死んだとき、僕は十二歳だった。
しかしそれは珍しいことではなかった。みんなそれぐらいか、もしくはもっと小さい時期に親の死を経験していた。両親の記憶がない者も多い。村では毎年一人か二人は二十九歳になって死んでいる。とにかく普通のことだった。
ある朝、海岸で騒ぎがあった。よくわからないが、話によるといかだで人が流れ着いたらしい。この島によそから来る者などいない。だから村中で朝から大騒ぎになった。海岸は人でいっぱいだった。
僕は人のすき間から様子を窺った。丸太でできたいかだが見える。小さないかだだ。いかだの横で人が倒れている。うつ伏せで、顔は見えない。肌の色は、黒でも白でもない、その中間のような色をしている。
動かないので死んでいるかもしれないと思ったが、村長と数人がしばらく話し合った後、その人を村長の家まで運んでいった。運ばれていく途中、ほんの少しだけ顔が見えた。鼻が低く、彫りは浅い。痩せていて頬がくぼんでいる。子供にも大人にも見える顔立ちだった。事態がとりあえず収束した海岸で、人々はパラパラと各々の生活に戻っていった。海岸にただそれだけ、忘れ去られたかのように残されたいかだをしばらく見つめた後、僕も自分の家に戻った。