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外の景色が雨に濡れている。窓の外、手を伸ばすと肘のあたりまでじっとりと濡れた。
雨は嫌いだった。雨は母を、連れていってしまう。どこか知らないところに、連れていってしまう。母のいなくなった前夜も雨が降っていた。
今でも母のことはよくわからない、と思う。思えば母は空ばかり見ていた。夜明けの空。夕焼けの空。夜の暗い海に浮かぶ、月の空。
母は空を見るとき、どこか遠くにいた。雲に覆われて見えない遥か先までを見るように、母は空を見た。その空に母が吸い込まれてしまいそうな気がして、僕は母の手を強く握った。母は僕にそっと微笑んで、その手を自分のほうに引き寄せてくれた。それでも僕は不安で仕方なかった。
その夜も、少し空を見てくると言って、母は行ってしまった。それは島の皆が寝静まった夜遅くで、父も眠っていた。そのとき僕はたまたま目が覚めて、母が外に出ようとしているところを見た。母の手にはなぜか、林檎が握られていた。
母がふらりと空を見に行くのはいつものことだったが、その日は何だか嫌な予感がして、僕も行く、と母に言った。
「雨だから、大丈夫」
母は優しく言った。濡れたら風邪を引いてしまう、そう言っているような、思いやりに満ちた口調だった。そして一人で行ってしまった。雨に消えていく母の背中を、僕は戸口から見ていた。
空を見上げる。どんよりと暗い空が、広がっていた。テーブルの真ん中にあった林檎を、僕は雨に濡れた手で手に取る。
真っ赤な林檎。僕にとって芯まで真っ赤に染まった林檎は、母を連想させた。母の懐かしい温かさや、林檎の皮を剥いてくれた細い手、そして血の匂いが、思い出された。僕はその真っ赤な林檎に語りかけるように、心の中で問う。
ねえ。
お母さん。
何を、考えていたの。
何もない空に、何を見ていたの。
この温かい場所を離れて、どこに行こうとしていたの。
誰が、何が悪かったの。
あの夜、雨が降らなければ、僕も連れていってくれたの。
お母さんが見ていた、遠くに。
どうして一人で、行ってしまったの。
僕らを置いて。
何も言わずに。
どうして、どうして。
濡れた手で触っていたせいで、林檎の表面が水滴で光っていた。
「どうかしたの?」
気づくといつの間にか彼女がいて、林檎を持った僕を不思議そうに見ていた。
「何でもない」
僕は素っ気なく、そう答えた。




