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いつかに、アキタカとしたやりとりを思い出す。暗い海に浮かぶ月影。湿っぽい風が運ぶ夜の匂い。
それは、唐突な記憶の想起だった。もう十年以上も前の出来事だったが、まるで今さっき起きたことのように、鮮明な記憶として僕の前に現れた。
アキタカは、あのときの僕の説明を正しく理解してくれたのだろうか。そのとき彼は、僕の目をじっと見据えていた。その目は大きく見開かれ、瞳の底で光が映ったり消えたりしていた。
その日も見事な満月で、夜が生き生きしていた。そしてその日死んだ誰かのように、僕もまた死を決意していた。