第五十五話~もうだめぽ……もう無理ぽ……~
前回までのあらすじ。
俺、山空 海は、鳴沢 恭平という変態発明家の発明品のせいか、親友……竹田 秋の妹である竹田 琴音と身体が入れ替わってしまった。
そこで俺はこの《入れ替わり》から元に戻るために、琴音の友達である里中 楓果ちゃんや小野 和也くんの二人に協力を得る。
その途中で、この《入れ替わり》という現象を経て、琴音の普段の生活や、カズくん、楓果ちゃんの事。そしてなにより俺のことを好きと言ってくれているユキこと白河 雪の本当の気持ちや悩みなどを知り、俺はいてもたってもいられなくなり今いる中学から琴音のいる高校へと駆け出した。
ところが、中学の校門を抜けたあたりで俺はいつかの金髪不良とはち合わせてしまう。
カズくんが突き飛ばされたり、俺が胸ぐらをつかみあげられたりと多少危険なこともあったが、ギリギリで琴音が駆けつけてきてくれて――――。
第五十五話
~もうだめぽ……もう無理ぽ……~
「琴音……助かったよ」
駆けつけてきてくれた琴音(俺の身体)に、俺は地べたに座り込みながらお礼を告げた。
「ううん、海兄ぃのおかげだよ」
「お。ってことは俺の呼び掛けが伝わったってことか?」
「伝わったっていうか……超不自然だったし」
「マジか」
呆れたような表情で、琴音は俺にそう言った。
見た目は琴音、中身は海な俺と、見た目は海、中身は琴音な琴音。そんな二人が普通に話していることに不思議と違和感は感じなかった。
『おいおい、こりゃ一体どういう状況なんだ? 山空に竹田、一体何があった? 正直先生もうなにも見なかったことにして職員室に逃げ帰りたいんだが……』
楓果ちゃんとカズくんが、からがら呼んできてくれた中学の美術の先生。
俺の旧美術の先生でもあり、琴音の現美術の先生でもある彼は、その性格からか面倒事にはあまり関わろうとはせず、学業の行事とかも基本的にクラス委員とかの生徒に丸投げする自由奔放なことで有名な先生だ。
当時、中学の時の親友であったクラスメイトの女子飛野 かなえと、竹田 秋と俺とで授業中にピザをデリバリーしてクラスのみんなで食べた、なんて今思えば軽く学級崩壊しかけていたあの出来事も、このノリが軽い先生だからこそ許されたと言っても過言ではないわけで。
今回みたいに何かあればすぐに駆けつけてくれるような、なんだかんだで面倒みもいいし、とてもいい先生だと俺は思う。
「か、顔怖っ!! 山空さんって目つき悪っ!! 顔怖っ!!」
「おいコラはっ倒すぞ」
そうか、楓果ちゃんは俺の姿を見るのは今回が初めてだったか。……なんて思いながらも、軽く傷ついたのでツッコミを入れておく。
「あ、ちゃうねん琴ちゃんに言うたんじゃ……あ、今は琴ちゃんが山空さんなんやったっけ? で、そこに居る山空さんが琴ちゃんで……って、あぁもうこんがらがってしもてわけわかれへん!!!」
「なんだかややこし……ゴホッゲホッ!!」
不慣れな現状に困惑して頭を抱えている楓果ちゃん。
そして、不良にやられたせいで未だ咳き込んでいるカズくん。
「……カズくんお前大丈夫か?」
「あ、うん……ケホッ! アイツ突き飛ばされた時にちょっと唾が器官に入っちゃって……ケホッコホッ!!」
ただむせてただけかよ!!
コホコホと咳き込んでるのに相変わらずなカズくんを見て、呆れると同時に安堵した。
てっきり背中とか打ち付けたせいで内蔵や骨が損傷を起こして咳き込んでるのかと思ってたけど……でもむせてただけで安心したよ。いや、ホント。
「え? 突き飛ばされたって……カズっちゃん大丈夫なの……!?」
そして今のこの現状を、『ただ不良に襲われていた』くらいにしか解釈できていない琴音の顔色が、カズくんが突き飛ばされたと聞き青色に変わった。やはり友達が暴力を振るわれたとなると、心配になるものなのだろう。
だがそんな琴音とは裏腹に、カズくんは自分の好きな人である琴音に心配してもらえたという事実により顔色をまた別の形で変色させていた。
おい、気持ちはわかるが照れるんじゃないぞカズくん。相手は琴音だろうが傍から見れば俺の身体なんだから、俺に迫られて顔を赤くしてる感じになっちゃってるぞ。いくら自分とは言え気色悪くて見るに耐えないわ。
「カズっちゃん顔真っ赤じゃん!! 大丈夫!? ぶたれたりしたの!?」
まさかカズくんがお前のことが好きで照れてるなんて、琴音は夢にも思っていないのだろうな。
でもまぁ、幼馴染とは言えこんなに心配してくれたり気さくに話しかけてくれる異性がいたらそりゃ惚れるよな。うん。少なくとも俺なら惚れる。
「あ、ぶ、ぶたれてはないよ? かるくド突き飛ばされて壁に背中を思いっきり打ち付けただけで……」
「もはや軽くじゃないよねそれ!?」
『おいおい小野、保健室行くか……?』
「まぁまぁ、琴ちゃんに先生。カズっちゃんは多分平気やと思うで? 飛ばされたとき丁度プールバッグが壁と背中に隙間に入ってクッションになってたみたいやし……それにカズっちゃんの顔が赤いんはまた別の理由やしなぁニヤニヤ」
「え? それってどういう……」
「ちょっと楓ちゃん!!! 『ニヤニヤ』って口で言うものじゃないとオレは思うのですが!!」
そこかよ。
いや、というかカズくんってばバッグがクッションになってたのか。結構な勢いで打ち付けてたから軽く心配してたけど……まぁそういうことなら良かった。
それにしても楓果ちゃん……カズくんいびりはやめたげて。男の子もデリケートだから。たったそれだけのことで結構傷ついちゃうことってあるから。
「……このっ!! お縄にっ、頂戴するっ!! 暴れるなこの変態めっ!!!」
『いてぇ、いてっつの!!』
すっかり談笑している俺らのそばで、聞き覚えのある声と不良の声が聞こえてきた。
そのために、反射的にそちらの方をみんなで振り返る。するとそこにはやはり、アイツがいた。
「オメガ!」
そう、オメガこと鳴沢 恭平。
この《入れ替わり》という珍事件を軽々と起こした張本人である彼が、後頭部にでっかいコブを作ってバタンキューしていた金髪不良を縄でグルグル巻きにして束縛していたのだ。
さすがの不良もあそこまでされちゃもはや金魚鉢に住まう金魚のごとく何も出来やしないだろう。
というか不良のあのでかいコブ……もしかして鉄パイプか何かで殴りました?
「ん? あぁ、えっとね、英和辞典とかいうヤツの角で……」
「おぉう……俺が勉強で使ってた英和辞典じゃねえか……というか琴音お前相変わらず容赦ねえな」
凶器を聞いたあとに改めて縄でぐるぐる巻きになってるたんこぶ不良をみてみると、なんともまぁとても可哀想に思えてくるのだから人間の感性というものは不思議なモノである。
というわけでオメガ。お前がとてもブチギレているのはわかったからもうやめてやれ。縄で縛り身動きを取れなくさせたあとに容赦なく蹴りを入れるのはやめてやれ。居た堪れなさすぎる。
「このっ!! 二度と琴音ちゃんの身体に近づくなっ!! ド変態めっ!!!」
なるほど。これが『自分のことを棚に上げる』という現象か。
『自分のことを棚に上げた発言』×『タンコブの出来た部分をコツコツ蹴る』=『不愉快』という素晴らしくウザイ計算式の完成だな。
「……ふぅ、琴音ちゃんと……そのお友達だね。怪我はないか?」
まるで一仕事を終えた農家のおじさんのごとく清々しい顔をしながら、オメガは琴音とその友達である楓果ちゃんに優しく声をかけた(ただしカズくんは除く)。
先程まであんなにも迫力を帯びていた不良は、すっかり戦意喪失しぐったりとしてピクリとも動かなくなってしまった。え? 死んだ?
つーか先生。何見て見ぬふりしてんだ。面倒なことに巻き込まれたくないのも大概にしろよ。
「何この人……!! むっちゃイケメンやん……!!!」
キラキラと瞳を輝かせ、顔を真っ赤にしながら小声でそう呟いている楓果ちゃん。
え……おい……。嘘……だろ……?
「おいおい楓果ちゃん!! 待て早まるな!! 落ち着つけ!!!」
「そうだよ楓ちゃん!! この人はイケメンだけど中身は真のへんた――」
「そうか、楓果ちゃんって言うのか。可愛い子は名前も可愛いんだね」
「かかかっかかか、可愛い!?」
わざとなのかそうでないのかはわからないが、俺と琴音の心の奥底からの叫びに、被せるようにイケメンっぽいセリフを言いながらオメガは楓果ちゃんに近づく。
そんなオメガの言動に、楓果ちゃんは困惑しながらも顔を紅潮させている。
「ほら、そんな地べたに座り込んでたら服が汚れてしまう。……立てるかい?」
オメガはいつもの無表情ぶりからは信じられないほどに、ニコリと爽やかな笑顔をと共に手を差し伸べた。
「は、はい」
そんなイケメンの差し伸べる手を受け入れ、楓果ちゃんはゆっくりと立ち上がる。
が、瞬間、オメガが腕を強く引っ張ったのかそうでないのか、勢い余って楓果ちゃんはオメガに抱きついてしまった。
「おっと……」
「なっ……!!!!」
一拍置いてから、楓果ちゃんの顔がかぁぁっと真っ赤になる。
「すすすす、すみません! ホンマにごめんなさい!! 足がもつれてしもて!!!」
どうやら楓果ちゃんの足がもつれたのが原因らしい。
現状に気づいた楓果ちゃんは、オメガからものすごい勢いで飛び退く。
そんな彼女を見てオメガは……。
「……ふふっ、怪我はないか?」
イケメンだった。
イケメン以外の何者でもなかった。
柔らかい微笑みを浮かべて、優しく相手を気遣うその姿はまさに、『変態』や『ロリコン』という要素など微塵も感じられない、ただのイケメンだったのだ。
その衝撃は、変態ではないイケメンオメガを見て琴音が『これは夢だ悪い夢だこれは夢だ悪い夢だ……』と自分の右頬をつねりながら放心状態になっちゃうレベルである。
オメガのこの心変わり(?)。
これは、楓果ちゃんが琴音の友達だから、琴音の為を思って自重しているのか。それともほかに理由があるのかはわからないが、とにかく“不気味”の一言に尽きる現象である。
ぶっちゃけ《入れ替わり》現象なんかよりも《キレイなオメガ》現象の方が不気味だ。
「か、海の兄ちゃん……!」
いつの間にか俺の隣にいたカズくんが、小声で呼びかけてくる。
一体どうしたというのだろうか。
「あの人誰なの……!? もしかして琴ちゃんとはなんか特別な……」
「……あぁー……」
カズくんの聞きたいことはわかった。
オメガはイケメンだ。たとえ初対面でも、100人中100人がそう思うであろうというほどに、オメガはイケメンなのだ。そして琴音の知り合いでもある。そしてそれは、琴音のことが好きなカズくんにとって、不安要素でしかないのだ。
だからカズくんはいてもたってもいられなくなり、オメガと琴音の関係を詳しく知り、なおかつ自分が琴音のことを好きだと知っている俺に聞いてきたのだろう。
自分の好きな人のために必死になって、不安の波に煽られて目を潤ませているカズくん。
彼の純粋で素直で真っ直ぐな性格は、きっと女性からしてみれば安心できる要素の一つなのだと俺は思う。ちょっと行き過ぎると束縛とか激しそうだけどな。
「……しっかし、オメガと琴音かぁ……」
「はい、琴ちゃんとその……オメガって人のことを詳しく……!!」
「オメガねぇ……オメガオメガ……」
カズくんに急かされて、改めてオメガのことを考えてみる。
彼のことで当たり前のように真っ先に思い浮かぶのは、『変態』という二文字の単語だった。
「オメガはな、変態だ」
「それはもう聞いたよ! オレが聞きたいのはどういった感じに変態なのかとか、そのことで琴ちゃんにどう影響してるのかとか、そういった具合のことだよ!」
「お、おぉうなるほど……」
どのように変態か……。まさかそんなことを聞かれる日が来るなんて考えてもみなかったが、この際それは置いておこう。
カズくんはおそらく、オメガに琴音を取られてしまうのではないか、もしかしたらもうすでに取られているのではないか、という不安に駆られている。その不安を解消するために、俺に質問を投げかけてきているのだ。
だったらその不安を解消させてあげられるような返答を返してあげるのが俺の役目だろう。でもそれは嘘をつくというわけじゃなく、事実をきっちりと伝えて安心させるのだ。
「カズくん、安心しな。オメガはどうか知らないが、少なくとも琴音はオメガを嫌っている」
「ほ、ほんと……?」
「あぁ。というか、もし万が一に琴音がオメガに惚れてたのだとしてもだ、お前に何の関係がある?」
「どういう……意味?」
「お前のその琴音を好きな気持ちは、そんなことでダメになる程度のものなのか? って意味だよ」
「そ、そんな事ないよ!! オレは琴ちゃんのこと……誰よりも大切に思ってるよ!!!」
真っ直ぐな瞳。強く固い意思。大切に思う、気持ち。
照れて顔を俯かせたカズくんからは、男の俺でさえ嫉妬してしまいそうなくらい琴音に対する強い気持ちが感じ取れた。
「だったら大丈夫だ。確かにオメガ自身は琴音を溺愛しているし、琴音も表面上は嫌がってるが多分もう慣れてそうでもなくなっていることだろう」
「えぇ!? 情報が最初と180度まるっと違う!!」
「だけど、それでもいつかきっとなんとかなる。頑張れ」
「最後だけすごい投げやりだーッ!!!」
ギャーギャーとオーバーなリアクションをなさるカズくんを楽しみながら、俺はオメガに拉致られていた不良の方に視線を移した。
不良は既に口から魂が抜けており、もはやは向かう気力もない様で一安心である。
それに引き換え、オメガはそんな不良に見たこともない拳銃を突きつけている。とどめをさす気なのだろうか?
「よくも琴音ちゃんとその友達を傷つけたな。……死ね」
なんか割りとガチな方向でトドメをさそうとしていた!!
「……なんて、もちろんそんなことはしないが、それは僕に人を殺す度胸がないからじゃない。僕の感情で貴様を殺したことで、琴音ちゃんが気負ってしまう可能性があるからだ。もし万が一、次も同じようなことがあってみろ……その時は容赦なく引き金を引かせてもらうから、よく肝に銘じておいてくれ」
その言葉を聞いて、不良は目に涙を溜め、青ざめながらコクコクと頷いていた。
もちろん人の命を奪う行為なんてオメガが本当にするわけないと俺は確信しているが、それでもあの本気じみた殺気が出せるのだからすごい。
「はぁ……!! 琴ちゃんのためにあんな真剣に怒れるやなんてすごいわ~……! かっこええわ~……!!」
すっかりあのイケメンに魅了されてしまった残念な女の子がここに一人。
たしかに、あのイケメンは男の俺から見てもイケメンだと思うし、当の本人も自分のことをイケメンだと自負しているくらいにイケメンだ。
だが、ダメ。彼は変態。楓果ちゃんとは不釣合いな存在……!!
オメガの奇行を普段から目にしている俺か、その奇行に毎度付き合わされている琴音のどっちかが楓果ちゃんを止めないと、彼女の人生めちゃくちゃになってしまうが……琴音は未だに普通にイケメンなオメガを見て精神がどこか遠くへ旅立ってしまっている。
琴音がこれではもう助けようがない。
『あー、えっと……とりあえず警察呼んだほうがいいか? 先生としてはあまり大ごとにしたくないというのが本音なんだが……』
突然、今までずっと言葉を発していなかった美術の先生が言葉を発した。
学校側からしてみれば、警察沙汰になったなんてことが世間に知れたら学校のイメージダウンにもつながるし、生徒の親御さん方だって黙っちゃいないだろうし、それゆえに大ごとにしたくないという先生の本音は、よく理解できた。
ここは道路をまたいで高校と中学が向かい合って点在している場所。学生が多くて不良たちからしてみれば絶好の狩場だと思うだろうが、むしろその逆で人目につきやすいため、今回の金髪不良みたいによくわからない奴が来ない限り、ここで何かしら事件が起こるというのはまずないのだ。
現に、俺の知る限りでは事件らしい事件は今回が初めてなわけだし。
金髪不良もオメガに恐怖を植えつけられて戦意喪失してるみたいだから、また琴音に手を出す……なんてことは恐らくしないだろう。
……でもだからといって、今回事件らしい事件が起こってしまったのもまた紛れもない事実。この事実を世間的に隠蔽するということは、少なくともやはり良い印象は受けない。
先生の立場もわかるが、それとこれとは話が別である気がすると俺は思う。
今回のことを隠すか、それとも大ごと&イメージダウン覚悟で警察を呼ぶか……。
一般的に考えれば隠し事なんていけないことだが、かといって大ごとにしてしまうと、そのせいで学校のイメージがガタ落ちし来年からの受験生の数が大幅激減。教職員が職を失ってしまう可能性だってあるため、一丸にはどちらが悪いとも言い切れないのがこの社会の現状である。
教職員にとってこの問題は死活問題に関わることなのだ。
『……あぁー!!! もういいや! 警察呼んじゃえ!!!』
俺が唐突な社会問題の難しさに頭を悩ませていると、先生が突然大声を上げて自らの携帯に番号を入力し始めた。
「ちょ、先生そんなことして大丈夫なんですか!?」
思わず、俺も大声を出してしまう。
『大丈夫じゃないけど……!! お前ら生徒が恐怖の対象でしかない不良に立ち向かったってのに、教師であるオレが逃げてちゃイカンだろと思ったまでだ!!! くそっ、校長と教頭と理事長とPTAの親御さんたちとその他もろもろに責められるんだろうなぁ!!! あ、もしもし~』
――――それから数分後。
先生の通報により駆けつけてきた警察官に、不良は逮捕され連行されていった。
警察も場所が学校前だということを察してくれたのか、極力パトカーのサイレンを鳴らさずに来てくれたため、近所の住人が集まってくることはなかった。
その後、警察の方からされた事情聴取のような質問に答え、この場は一時的だが解決という形に落ち着いた。
もちろん、パトカーが来たこともあり学校側からは何人かの生徒が窓から顔を出したり、中学の比較的えらい立場の先生も出てきて、俺たちからしてみればそれでも大ごとのような気がしたのだが……。
とりあえず警察側も学校側に不利益になるようなことには極力しない様な処置をとると協力してくれ、どうにかこうにか悪いようにはならないようなので、俺はほっと胸をなでおろした。
『――で、そういえば竹田。お前体調悪かったんだっけ?』
警察側もこういうことには慣れっこなのだろうか、意外と時間もかからず、ことがことだけに俺が想像していたのよりも遥かに大ごとにならずにすみそうだ。
そしてそれは先生も同じ思いらしく、先程までの面倒そうな表情とは違い、よく笑顔を見せるようになった。
そんな先生から発せられた言葉に……。
「……はっ!? え? あ、わ、私? 別に全然平気ですけど……」
俺……ではなく、俺の姿である琴音が答えた。
『いや山空。お前に言ったんじゃなくてだな』
「あ、あははははは!! ジョークです! アメリカンジョーク的なやつです!!!」
琴音は今俺の身体。そのことを忘れていたらしい琴音が、自分の現状を思い出しお世辞にも上手とは言えない誤魔化しに入る。
あからさまに苦しいその誤魔化し方は、今まで入れ替わりのことを悟られないように頑張ってきた俺がアホらしく思えてしまうほどだった。
……って、ちょっと待てよ。琴音が……“アメリカンジョーク”だと……? あの英語が大嫌いで大の苦手である琴音が? アメリカンジョークという単語を口にしたってのか? そんな馬鹿な……。
その違和感に気づいたとき、ふとオメガと目があった。
その目から伝わる少量の焦りを見るに、おそらくオメガも俺と同じ違和感に気づいたということだろう。
「……琴音ちゃんの……担任の方、でしょうか?」
焦りのせいか、額に汗をにじませながら、オメガが先生に問いかける。
『いや、担任ってわけじゃないんだが……というかあんたエラいイケメンだな。オレと入れ替わってほしいくらいだ。ははは』
おい先生。あんたはわからないだろうが入れ替わりネタはシャレにならないからマジでやめとけ。
「ははは……で、とにかく琴音ちゃんのことなんですけど、今日は早退という形でなんとかなりませんか?」
外面モードのオメガは、妙に礼儀正しい。
違和感の塊だが、俺はもう慣れているのでどうってことはなかった。
『そうそう。その事なんだが、もう学校側で許可してるから今日はもう帰っていいそうだ。話を聞くところによれば、竹田お前、どうやら倒れたらしいじゃないか。大丈夫か? ……って、大丈夫じゃないから早退すんだわな。まぁ帰ってゆっくり休め。……あ、送ってくか?』
「あ、いえ、一人で帰れるんで、大丈夫です!」
俺は琴音に変わって返事を返す。
『ちなみに小野と里中。お前らは職員室な』
「えぇ!?」
「えぇ!?」
見事にハモる二人。
この場の流れで二人共俺と一緒に早退できると思い込んでいたためだろうが……。
世の中そんな甘くないってことだな。
「……山空。キミらが入れ替わってしまっていることは琴音ちゃんからすべて聞いた。時間がないので詳細は省くが、このままじゃ危険だ。すぐキミの家に戻るぞ」
早退できない事実にショックを受け先生に講義を声を上げる二人を余所に、オメガは俺のすぐ隣まで歩み寄り、俺にだけ聞こえるような声量で囁く。
「……危険って、もしかして俺が琴音の意思を持ち始めていることか?」
「……!! 気づいてたのか?」
「やっぱりそうなんだな。……いや、実はあそこにいるカズくんって子が言ってたんだ。このままだと俺が琴音になってしまう……とかなんとかって」
先生に対して「なんで……なんでオレは早退しちゃいけないんですか!! 健康だと早退しちゃいけないルールでもあるんですか!! というかオレ不良に突き飛ばされて怪我してますけどそこんトコロどうなんですか!!」と自分勝手すぎる言い分をかましているカズくんの背中に、俺は指差してオメガに教える。
それを見た瞬間、オメガの眉間に、若干だがシワが寄ったのを俺は見逃さなかった。
「山空、その話本当か……?」
あのオメガが、珍しく素で驚いているような表情を浮かべる。
「あ、あぁ」
真剣なオメガに、何故か俺も緊張が顔を出し始めていた。
「あの子が……なるほど……」
カズくんの背中を睨みつけたまま、オメガはブツブツと何か独り言をつぶやき始める。
『ほらっ!! グダグダ言ってないでお前らはさっさと教室もどれ!! オレが怒られんだろうが!』
先生ちょっとうるさいです。
「ほら、カズっちゃんも往生際が悪いで。先生やって都合があんねん。無茶言うて困らせたらあかんよ」
「うるさい!!! オレは絶対早退するんだ!!! 琴ちゃんと一緒に家に帰るんだぁ!!」
既に観念し、カズくんと自分……二人分のカバンを拾い上げる楓果ちゃんと、軽く登校拒否を起こしているカズくん。
そんな二人(主にカズくん)に呆れ深いため息をついた先生は、カズくんの首根っこを掴んで中学校の昇降口へと引っ張り始めた。
「ちょ、やめてください先生!!! オレには……オレには行かなければならない場所がぁ……!!!」
『やかましい!! 今日の授業だって残り1時間程度だろ!! 頑張りなさい……!!』
「残り1時間程度ならなおさら今早退してもあんま変わらないじゃないですかー!!!」
「ほらほらカズっちゃん、男らしくスパッと諦めんと、琴ちゃんに嫌われてまうで~」
「じゃあね琴ちゃん!! 学校終わったら様子見に行くからね!! 先生何してるんですか? 早く授業行きましょう!!」
呆れるほどに素晴らしい豹変っぷりだった。
「琴ちゃんに山空さん! あとイケメンの人も! ほなな~!!」
『じゃ、竹田! そういうわけだから先生たちは行くけど……お前は帰ってゆっくり休めな! そして山空、お前も彼女の一人くらい作れよー? いや、まずは異性の友達から頑張ってみような!』
やかましいわ! 余計なお世話だよ!!!
俺の心をえぐるような言葉の置き土産をしたかと思えば、それから数秒もしないうちに、先生率いるカズくんたち三人は昇降口へと姿を消していった。
その隙を見計らって、オメガが語り始める。
「山空、琴音ちゃん、よく聞いてくれ」
オメガがこれから言わんとすることは、大体予想がついた。
この《入れ替わり》は危ない。その事実をよく知らないであろう琴音は、やはり頭にクエスチョンマークを浮かべてポケーっとしている。
「急に改まってどしたの“メガ兄ぃ”」
……え? 琴音お前今……。
「琴音ちゃん、今僕のことなんて呼んだ……?」
さすがにオメガも気づいたらしい。
そうだ。琴音はいつも、オメガのことは恭兄ぃって呼んでいる。……呼んでいるはずなんだ。
だけど……。
「え? なんてって……普通にメガ兄ぃって……あ、あれ? おかしいな。なんでだろ」
オメガに指摘されて初めて、琴音は自分で自分のおかしさを認識したようだった。
昔は琴音も、オメガのことを『メガ兄ぃ』と呼んでいた時期があった。でもそれは、オメガと会ったばかりで、まだお互いにまだあまり面識のない状態の時の話。今は先程も言ったとおり『恭兄ぃ』で通っている。
ならばなぜ、琴音は今、その昔の名前で呼んだのか。
琴音がふざけてそう呼んでいるんじゃないとしたならば……その答えは。
琴音が俺になりつつある。ということである。
俺もそうだった。
カズくんや楓果ちゃんのことを、何度か『カズっちゃん』や『楓ちゃん』などと無意識のうちにあだ名で呼んでしまったことが多々あった。そしてそのあだ名は、琴音が二人を呼ぶときのあだ名と完全に一致していたのだ。
そのことを踏まえて考えてみる。
俺はオメガのことをオメガと呼ぶ。
琴音はオメガのことを恭兄ぃと呼ぶ。
つまり、琴音は無意識のうちに俺がオメガを呼ぶときの呼び方、『オメガ』を使いかけてしまったということだ。
『オメガ』+『恭兄ぃ』=『メガ兄ぃ』といった具合に。
そしてその事実は、この《入れ替わり》のデメリットの進行具合を鮮明に物語っている部分でもあった。
「おい琴音! ちょっと……えっと……あ、あった。このノートに落書きしてみろ!!!」
「え? なんで? え? こんな状況で?」
「いいから早く!!」
「わ、わかったよ……」
地面に落ちていた琴音のカバンを開けると、俺は1冊のノートと一本の筆記具を取り出して琴音に投げ渡した。
俺が今朝体験した……普段の俺ではありえない絵の上手さ。
もし琴音も俺と同じようにデメリットが進行しているなら、きっと……。
「……あ、あれ……?」
やはり、思ったとおりだ。
「琴音、そのノート見せてみろ」
「へぇ!? あ、いやちょっと待って! 今ちょっと調子が悪いみたいで……また別の機会に!」
「調子が悪い? じゃあなおさら見せてくれ」
「あっ、ちょ!!」
なかなかノートを見せようとはせず、少し恥ずかしがっている琴音の手から、俺は無情にもピンク色の表紙なソレを奪い取った。
そしてすぐさま、手に持ったそれに視線を落としてみる……と。
なんか“薄汚れたタヌキ”のような絵が描かれていた。
……いや、これを絵と呼ぶことに対して、それ相応の処罰を覚悟したほうがいいのではないだろうか。それくらいひどい。
「う、うわぁああ見られたぁあぁぁぁ!!!! 恥ずかしいいいい死ねるぅうううう!!!!!!」
眼前を両の手のひらで押さえつけながら、羞恥によって顔を赤くして膝から崩れ落ちる琴音。
なんかもうリアクション芸人も真っ青のオーバーなリアクションだが、そんなリアクションをとっている人物。傍から見れば姿は俺であるからして。
とても情けないポージングの自分を目の前で見させられている俺のこの感情は、広辞苑や国語辞典などといったものはもちろん、多分かの有名なウィ○ペディア先輩のお力を持ってしても説明不可能であると俺は静かに確信していた。
「うぅ……ひどいよ海兄ぃ……もう、お嫁に行けないくらいのショックを受けたよ……」
それがいるんだよなぁ、お前のことが大好きでお嫁にもらいたくて仕方がない元気な男の子が。
「え? 僕のこと?」
「お前じゃねえよ!!!」
とりあえずメガネには水平チョップで胸のあたりを痛めてもらいました。
「ごほっ……中身は琴音ちゃんじゃないからその激しいツッコミも嬉しさ2割引でござるぅ……」
もはや変態の言うことは奇抜過ぎてついていけない。
「……っと、いかん!! こんなことをしている場合ではないぞ山空!! 早く元に戻らねば危険だ!!」
「そうだったそうだった、おいオメガ、早く元に戻してくれよ。どうせ今朝のお前の発明品のせいなんだろ?」
あの今朝の丸い形をした未完成の発明品。あれに触れた瞬間体に電流のようなモノが走ったことを、今でも鮮明に覚えている。
「確かに今朝の発明品はそういった類のモノを制作していて誤作動を起こしてしまいこんな有様になったが、だからといって僕のせいみたいに言われるのは不服極まりない」
「お前のせいだろ!」
「あ、ちなみにあの発明品壊れちゃって家においてきたままだから早く帰って直さないと二人共元の体に戻れなくなるよ?」
「なるよ? じゃねえよ! 軽いトーンで衝撃的なこと言ってんじゃねえよ!!」
「じゃあ重いトーンで言ってあげるよ。やっべ……機械壊れてるなんて死んでも言えない……二人共元の体に戻れないとかこ愁傷様としか……」
「お前ぶん殴るぞ!?」
「琴音ちゃんの身体に殴られるならむしろ本望だが?」
「ドMかよ!!」
「いやドMではないよ。だって熟女や野郎どもに殴られても嬉しくないもの」
「黙れ変態!!」
「だが相手が琴音ちゃんならむしろ殴られるごとに倍々で体力が回復していくが」
「ただのチートじゃねえか!!!」
「ちょっと海兄ぃ!! チートっていうのはもっとこう神がかりレベルで……」
「ゲーム脳は帰れ!!!」
軽く酸素が足りなくなり意識が朦朧とするほどに怒涛のツッコミを入れた俺。
いつもなら面倒でスルーするのだが、何故か今日は体が反応して気がつけばツッコミを入れてしまっていた。
やはりツッコミスキルを持つ秋の妹の身体になってしまっていることと何か関係でもあるのだろうか。
「ちょ、『スルーする』って……なにその新手の寒いダシャレ」
両手で自分の体を抑えて、ブルブルと震える演技をする琴音。
琴音の体になっても、この無意識のうちに喋ってしまう特殊な癖は治らないようだ。つーかシャレで言ったんじゃねえよ。
「というか早くそのノート返してよ!! 百均で500円もしたんだから!!」
「百均なのに!?」
「百均は百均でも、“ほぼ”百均だからね」
「何その店!?」
「その名も、『ダイタイソー』」
「ドヤ顔で言われてもそれ既出だから!! 某バラエティ番組ですでに既出だから!!」
そんなやりとりが一段落着いたところで、俺は改めて手に持っていたノートに描かれた琴音の絵を見てみる。
他のページをめくってみると、凛々しい顔つきをして轟々(ごうごう)しい鎧を身にまとっているイケメンが、大型のハンマーで古代竜のようなものをにこやかに狩猟しているイラストと、そのキャラのプロフィール的なものがとても繊細に描かれているが、ページを戻すとやはりそこには薄汚れたたぬきの絵が描かれていた。
「ぎゃあぁぁあああああああああああああ!!!!!! ちょっ見るなー!!! 違うんですよ!? それは授業中暇だったから何の気なしに描いたヤツであって別に普段からオリジナルキャラクターみたいなのとか考えてるわけじゃなくて……!! あぁもう返せ!!!!」
急に大声を上げたかと思えば、顔を真っ赤に染めながら俺の手からノートを強奪した琴音。
いや、確かに妄想に浸りながら自分の想像のキャラとかをイラストに描きおこして、さらに上はニックネームから下は好きな食べ物まで事細かに設定を書き込んだのをほかの人に見られたら悶えるほど恥ずかしいのはわかる。特に中学1年生の女の子だ。その恥ずかしさはスカートをめくられてパンツ見られたとかの比じゃないだろう。
でも、俺はソレをバカにしようとは思わないし、別に変だとも思わない。まぁ当の本人からしてみれば死にたくなるほどの黒歴史のかもしれないが、でも言ってしまえば漫画家はみんなそんな黒歴史を職業としているわけで。要するに人生何が求められて何が不要かなんて分からないということである。
イラストが得意なら漫画家だけでなくイラストレーターやデザイナーなど、その他にも様々な道が選べるわけだから、むしろ誇らしくあるべきだと俺は思う。
だから俺はイラストのことよりも、授業中なのに暇という理由でイラストを描いていた事の方が気になった。
「もうダメ……もうお嫁に行けない……ひどいよ海兄ぃ……」
なんだろう。デジャヴです。
「キミらは自分たちの置かれた状況を忘れてはいないか?」
「あ、そうだった」
俺たちが置かれた状況……。
あの絵がプロ並みに上手い琴音が薄汚れたたぬきの絵を描いていたこと、そしてオメガの話を聞く限りでは、おそらく事は一刻をあらそうのだと思う。
だがしかし、俺たちをこのような有様にした当の本人からは緊張感や反省の色が微塵も感じ取れない。
入れ替わりの主軸である機械が壊れたことといい、オメガはもっと俺たちに謝罪したほうがいいと思う。土下座しろよ土下座。
「機械が壊れたのは山空が僕に向かって投げつけたからであって僕の責任では……」
……確かに、思い当たるフシがあった。俺は今朝、逆ギレしだしたオメガに腹を立て丸い機械を投げつけたのだ。
でもあれは先程も言ったとおり、オメガが「そこに置いてあるのは未完成品だから触っちゃダメだろ」的な逆ギレしたから俺は「そんなもん置いとくんじゃねえよ!!」と投げつけたわけであって、どれもこれも元をたどればすべて変態の仕業なわけで。
「……うん、とりあえずお互いに非があったということでこの場は終わろうか」
俺はそう提案した。
するとオメガも納得したようで、「そうだな……」と頷く。
本当はオメガに100%非があるのだが、そこは俺。寛大な心をもって、許してあげることにしたのだ。まぁオメガもわざとやったわけではないしな。恨み合ってもいいことなし。平和が一番だ。
「ところで山空。ちょいとばかし教室にカバンを忘れてきてしまってな。そこに機械の修理道具とかいろいろ詰まってるゆえ、どうしても取りに行かねばならんのだが……」
「……? とってくりゃいいじゃん」
「僕が行くとクラスの熟した女どもに取り囲まれておちおち取りに戻ることも叶わんのだ。だからその……」
「あー、はいはい。わかったわかった。俺が取りに行きゃいいんだろ?」
「話が早くて助かる」
琴音姿の俺が行くよりも、俺の姿である琴音が取りに戻ったほうがいろいろと都合がいい気もするが……。
「いや、琴音ちゃんが行くとクラスのみんなに袋叩きに合う可能性が……」
「琴音お前俺の身体でいったい何したんだ!!」
とても不安になったので琴音に問いかけては見たものの、イラストを見られたショックで未だに悶えていて俺の声など耳に届いてないようだった。
はぁ……クラス中から袋叩きに合うってどんだけ酷いことしでかしたのか……。
聞くのも恐ろしいが、身体が戻ったときにその危険地帯へ週五で足を踏み入れるのは俺であるからして。
「僕も詳しくはわからないのだが……なんか僕達のクラスの委員長がトイレしてるのを覗いたらしい」
「琴音てめぇ一体なにしくさってんだァ!!」
生まれて初めて女の子を助走をつけて全力で殴りました。
いや、まぁ見た目は俺なんですが。
「い、いッつぅ……!!! ッんなにすんのよ海兄ぃ!!!!」
状況の理解できていない琴音は、なぜ殴られたのか分からず相当ご立腹のご様子。
口内を切ったのか、一筋の真っ赤な雫が口からあごに伝って流れ出ていた。
「なにすんのよはこっちのセリフだ!!! 琴音テメェ、俺の身体で覗きを実行したらしいじゃねえか……?」
「はぁ!? 覗き!? そんなんするわけないでしょ変態じゃあるまいし!!!」
「じゃあ委員長のトイレを覗いたってのはなんだ!!!」
「あ」
「やっぱり身に覚えがあんのかよぉおおおおお!!!!!!」
俺は泣いた。全力で泣いた。
琴音を血を吐かせるぐらいの力で殴ってしまったのだから、これはもう誤解なんかじゃすまされないし、もし誤解だとわかったら琴音に殺されるのではという恐怖がとても強かったのだが。
覗きが事実だとわかった瞬間、それはそれである意味、琴音が襲ってくることなんかよりも恐怖だということがわかった。
ちなみに備考になるが、俺のクラスの委員長は紛うこと無き女性である。あと学校新聞とかを制作している。
「もうダメ……もう学校に行けない……ひどいよ琴音ぇ……」
いや、もうホント、割とマジで。
「とりあえず僕の荷物を取りに行くついでに様子を見てきたらどうだ? もしかしたら解決策が見つかるやもしれん」
「もういいよ……もう、いいんだ……」
俺はこの時初めて絶望という世界を知り、本気で泣いた。
第五十五話 完
後半のギャグ(というか漫才)は、面白いかどうかは別として俺日らしさがよく出せたと思ってます。