第五十三話~俺の知らないアイツの記憶~
約3ヶ月ぶりの更新です。超スロー更新で申し訳ないです。
……さぁー、いこー!
とある日の午後。
東から登ってきた鮮やかな太陽が、夕日となって街をオレンジ色に照らし出す時間。
白い壁に茶色い屋根。玄関前には小さめの観葉植物がきれいに飾られており、青青を生い茂っているごく普通の一軒家。
その家に、中学生だと思われる少女が一人訪れた。
人と接することを不得意とするその少女は今日、生まれて初めて自分より年上の人の家へ単身で訪問している。だが、そこに緊張感などはなく、あるのは「どんな家なんだろう」というちょっとした好奇心だけであった。
少女がインターホンに触れると、家の中にチャイムの音が鳴り響く。すると、インターホンの向こうからまだ若い女性の声が聞こえてきた。
『はい?』
その声に少女は、
「あ、私だよー」
と、陽気に答える。
その声を聞き、訪問者が自分で招いた少女だとわかると、女性は玄関のドアを開け少女を自宅に迎え入れる。
「ここ来るのに時間かかってたみたいですけど……もしかして迷っちゃいましたですか?」
「ううん、全然大丈夫だったよ! この前もらった地図もわかりやすかったし、一発でこの家だってわかったよ! 一回なんか変なとこに出ちゃって焦ったけど!!」
「バッチリ迷っちゃってるじゃないですかっ!」
1分くらい玄関前で軽く立ち話をしたあと、女性は少女を広さ約8畳ある二階の自室へと招いた。
ガラスでできた丸型のテーブル、数種類のぬいぐるみが置かれたシングルベッド、漫画や参考書でいっぱいの書棚や部屋の広さにあった少し小さめのテレビなどの家具の他にも、クレーゼットいっぱいの女の子感あふれる衣類や白く輝いているドレッサーなどの、“高校生の女の子”らしさを充分感じさせるモノもきれいに整頓されていた。
「うわ、部屋じゃん!」
「へ? そりゃ部屋に決まってますですよ」
ホコリやチリなどが一つもなく、消臭剤のバラの香りが漂っているその部屋を初めて目にし、少女は軽く驚いていた。
(うぅ……この前掃除は苦手って言ってたはずなのに何この部屋めちゃくちゃ綺麗じゃん……ちゃんと部屋じゃん……)
自分の部屋とは比べ物にならないくらいスッキリとしたその場所を見て、少女はよくわからない敗北感を感じ「はぁ……」とため息を付く。
「……? どうかしたんですか? ため息なんかついて」
「うぅ……裏切り者ー!」
「何がですか!?」
少女の八つ当たりとも言える咆哮に、女性は心底驚く。
何でいきなり裏切り者扱いされたのか理解しようとするも、なぜか歯を食いしばりながらプルプルと震えている少女のことが気になりすぎてそれどころではなかった。
そんな女性のうろたえなど眼中にない少女は、さらに敗北感の底なし沼へと身を投げ出す。
(きれいだ……きれいすぎるよ……!! 「掃除が苦手」という言葉に共感を得ていた自分が恥ずかしいくらいに……!!)
オロオロと戸惑っている女性から以前「掃除が苦手」という事実を初めて聞いた時、少女は勝手に自分の部屋と同等だと思い込み、身近にも同じ人がいるとホッと胸をなで下ろしていた。しかしその淡い幻想は今、無情にも少女にとって“最悪のカタチ”で返って来たのだ。
そしてそれと同時に、勝手に同族だと思い込んでいた少女は物凄い『恥』を全身に感じていた。
だが『共感』を“シンパシー”ではなく“チンパンジー”と勘違いしている方の恥には、この先も少女はずっと、気がつかないままなのだろう。
「こんな……こんなのって……!!」
少女の頬を伝い、一筋の雫が床に滴り落ちた。
「ちょ、だからどうしたんですか!? 」
「ううん……なんでもないよ……。ただ自分の愚かさに涙しただけだから……」
「えぇー……? あのごめんなさい何言ってるんですか……? 意味がまったくわかりませんです。というかなんかもう唐突過ぎてちょっと恐怖すら感じてきましたですし、一体全体何があったっていうんですか……?」
「あ、いや別に何でもないよ……? そんなことより何か凄く混乱させちゃったみたいでごめんね?」
「いえ……なんかどっと疲れましたけど気にしてないです」
はぁ……とため息をつくものの、そのあとすぐに少女を自分の部屋のテーブルの前に座らせたあと、『ちょっとお茶菓子持ってきますね』と言い女性は自分の部屋をあとにした。
(……それにしても綺麗に片付いてるなぁ……。書棚なんて漫画よりも参考書の方が多いし……)
初めての部屋に一人。
少女は落ち着かないようで、どことなくそわそわとしてせわしなく、あまり人の部屋をジロジロと見ちゃいけないと思いつつも好奇心に負けついキョロキョロと辺りを見回してしまっている。
(……あ、コレとコレ可愛い!)
少女はベッドの上に置かれた、ニンジンをかじっているウサギのぬいぐるみと、背中に小さい子亀を乗せているカメのぬいぐるみを手に取った。
ユキの部屋にはそのぬいぐるみ以外にも多くのぬいぐるみが置いてあるのだが、どれもこれもとても個性的で異彩を放ってるものが多く、そんな中に置いてあった唯一まともなぬいぐるみを、琴音はなんとなく手に取ったのである。
そして、テーブルの上でそのぬいぐるみたちを手で動かし始める。
(やぁカメさん、キミは足が遅いなぁ)
何を思ったのか、突然脳内でぬいぐるみのセリフを言い放った。人形劇が始まったようだ。
(なにお! じゃあうさぎさん、ボクとあの山まで競争しようじゃないか!)
ウサギの言葉が癪にさわったのか、カメはウサギに勝負を持ちかけた。
(いやいや見て分かりなさいよ。今ニンジンを食事中だから無理だよ)
が、普通に拒否されてしまう。
(はっはっは、実はボクも子供と散歩中なので無理なんですよ、ねぇ太郎?)
カメは背中の子亀に同意を求める。
(うん! 今日はお父さんと――)
「琴音っち、お待たせしましたです」
「ゆ、ユキちゃ……!? いや、えとそのこれは……!! その魔が差しただけというかなんというか……!!!」
少女・琴音がそこまで想像した時、温かい紅茶と小さめのバウムクーヘンを二人分のせたお盆を持って戻ってきたもう一人の少女・ユキにぬいぐるみで遊んでいる姿を見られてしまい、琴音は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら言い訳を考え始める。
「あ、そのカメさんとウサギさんのぬいぐるみ可愛いですよね!」
「へ? あ、あぁうん! そうだね! うん!」
心のどこかで『中学生にもなってぬいぐるみで遊んでいたなんてバレたら幻滅される』と思っていた琴音は、ユキの言葉に一瞬ポカンとなってしまったがすぐに話を合わせた。
周りの人の目を気にして勝手に『情けない』『恥ずかしい』と思い込み内気気味になってしまうのは、引っ込み思案であがり症な琴音には仕方のないことだった。
(うぅ……私ってば何一人で慌ててるんだろう……ユキちゃんはそんなことで誰かを嫌うような人じゃないって知ってるはずなのに……)
信頼している人を疑ってしまい、信用することがなかなかできない。それが、自分に自信がなく引っ込み思案な子にとって一番ツラいことなのだ。もちろん、琴音も例外ではなかった。
そしてそのことでまた、『嫌われるんじゃないか』と気にして軽く対人恐怖症になってしまう。まさに悪循環であり、負の連鎖である。
「……もし気に入ったのでしたらそのぬいぐるみ琴音っちにプレゼントしますですよ?」
「へ!? あ、い、いや、いいよいいよ! 何か悪いし……」
「いえいえ、正直そのぬいぐるみさんたちはユキの趣味に反するんですよね……いや、可愛いのは認めるんですけど……なんかこうドカーーン!! っていうインパクトが足りないといいますですか……」
そこまで口にすると、意識はもうすっかりぬいぐるみのことにいってしまったのか、ブツブツとぬいぐるみのあり方について思考を巡らせ始めるユキ。
そんな彼女から視線をそらし、自分が手に持つ二つのぬいぐるみ、そして周りに淡々と置いてある異彩を放ったぬいぐるみたちを交互に見比る琴音。
(ユキちゃんの感性って一体……)
琴音がそう思ってしまうのも無理はない。
唯一まともであるカメとウサギのぬいぐるみがあまりお気に召さず、カピバラやオオサンショウウオ、生き物以外ではラズベリーやクロワッサンなどといった個性的すぎるぬいぐるみを好んでいるユキの様子を見てしまったのだから。
「……あ、そうだユキちゃん。そういえば相談事って……?」
理解しがたいユキの感性を避けるかのように、琴音は今日、この家に来た本題を切り出すことにする。
そう、琴音がこの家に遊びに来たのはほかでもない、ユキの相談に乗るためなのである。数日前、ユキは琴音に『相談したいことがある』と言い、自宅に招いたのだ。
「……ユキちゃん?」
琴音の問いかけに眉をひそめたユキ。
普段とても明るいユキのこんな悲しい表情を見たのは、初めてだった琴音。だからこそその表情を見た琴音も釣られて悲しげな面持ちになり、不安を多少なりとも感じ取ってしまうのはしょうがないことなのだろう。
しばらく無言の時間が続く。
もう一度聞き返そうかとも思ったが、『自分よりも歳上であるユキが、こんな私に相談話を持ちかけるなんてきっとそれほど切羽詰った状況なのだろう。』と解釈し、琴音は喉元まで出かかった言葉を飲み込んで向こうの心の整理がつくまでジッと待っていることにした。
「その……ですね……」
部屋の壁にかけてある、水色でハートの模様が綺麗に散りばめられている時計の長針が五回ほど動きを見せたのとほぼ同時に、ユキは口を開く。
だが、言い出しづらいことなのかその先の言葉がなかなか出てこないように思えた。
「ユキちゃん……?」
重く苦しいこの空間に耐え兼ねた琴音は、無意識に彼女の名を呟いた。
「あの……琴音っちに聞くようなことじゃない……とはわかってるんですがその……」
「わ、私はもう聞く準備万端だからね! どんなに酷いことでも受け止めてあげるからその……ど、どんとこい!!」
彼女の歯切れの悪さがより不安になったのか、琴音はユキの後押しを兼ねて自分に言い聞かせるように、自分の胸をバシっと叩いた。
ちょっと強く叩きすぎてむせ返りそうにもなったが、こんなタイミングで咳き込んでなるものかという強い意志と気合によりなんとか耐える。
そんな自分との戦いの甲斐あってか、ユキの表情が少し柔らかくなったのを琴音は見逃さなかった。
「ふふ、ありがとうございます琴音っち。少し元気出ました。そんなに身構えなくても残酷な話というわけではないですので安心してくださいですよ」
「え、本当? 良かったぁ……もしかしたら「秋先輩がウザすぎてもう耐え切れないです。殺します。ついでに眼鏡先輩も殺っちゃいますですか?」とかそんな感じの相談されるんじゃないかと思って焦ったよ」
「そんな人を殺人鬼みたいに!! 琴音っちは一体ユキのことをなんだと思ってるんですか! というか発想が怖いですッ!!」
「いやぁごめんごめん! ついノリで!」
「ノリじゃ仕方がないですね」
「いいんだ……」
いつもの琴音の軽い冗談。
その冗談は故意に口にだしたものではなく、琴音のノリ好きという性格によりでてきた無意識のうちの言葉だったが、その冗談は確かに二人の不安、気まずい空気をどこかに飛ばしてしまうものだった。
そのおかげか、悩みによって重くなっていたユキの心は、先程までが嘘のように軽くなり、ユキはようやく悩みを打ち明けようと決意を固める。
「ユキが相談したかったことっていうのはですね……うーみん……いや、海先輩のこと、なんです――――」
第五十三話
~俺の知らないアイツの記憶~
―――――俺はどうしちゃったのだろう。
目の前が真っ暗だ。まるで闇に飲み込まれてしまったかのように、何もなく、何も見えない。
自分の身に何が起こったのか、全く覚えていない。
俺は生きているのか。それとも……。
そんなことの区別もつかないくらい、ここは真っ暗だった。
全て真っ黒な中に、俺が一人だけぽつんと立っている。でもその姿を俺は他人のように遠くから眺めている不思議な状況。
一人でさまよう俺を、俺がずっと見守り続けている。何がなんだかわからない。
「ッ……!! ッ……!!!」
声が出ない。
ただただ闇の中を駆けて進むもうひとりの俺は、俺の存在に気づかない。
気がつくと俺は、孤独のまま走り続ける俺を、ただただ追いかけていた。
――――光。
それは確かに見えた。
暗い暗い闇の中に、ただ一つだけ存在していた明かり。
どのくらい離れているのかはわからないが、遥か彼方に点として確かに存在していた。
走る。
俺はただ、その光のある方に走る。
何かにすがりつくように、孤独や不安から逃げるように、ただただ走った。
……それからどれくらいが経過しただろうか。いや、そもそもこの空間に時間の概念があるかどうかすら怪しいが。
でも、目の前に光だけがあるのは確かだ。現に俺は、その光にたどり着いたんだから。
だがしかし、たどり着いてみて初めてわかったことがある。
光は、出口でも……ましてや入口なんかでもなく。
まるでモニターのような形をした光が、目の前に浮いているだけだった。
――――バチッ。
俺がその光に触れるまでに、全く時間は要さなかった。
そして触れた瞬間、目の前にいたもうひとりの俺は完全に消え去り、それどころかひとつだけだった光が俺の周りに無数にも広がっていく。
なにがなんなのかわからない。だが俺にはわからないことさえ気付けない。
ただいまの俺にひとつ分かることは、この場所は暗く、そして冷たいということだけ。
――――あぁ、海兄ぃはそれなりに頭良いくせにそういうとこ疎いからね~。
俺の背後から、だれかの声が聞こえる。
その声は、俺が知っているはずの声だ。でも、知らない。俺の知らない声。
俺はその声を確認するかのように、後ろを振り向いた。
――――やっぱり最初が最初なだけにさ、それほど本気にしてないんじゃないかとも思うし……。
振り向いた先にはやはりモニターのような光がいくつか点在していおり、だがしかしその中の一つにもやがかかったような光があった。
そしてそこからは、俺の知っている誰かが、もうひとりの誰かと会話しているような、そんな声が。
でも、それに俺は気づけない。いや、気づいてるけど、気づけないふりをしていて……。
――――正直私まだそういうのないからうまく言えないんだけど……やっぱりさ。
そうか。これは記憶なんだ。
俺の知らない、別の誰かの記憶。
――――あ~、なんか私もだんだん腹が立ってきたよ! 私が言えることじゃないけどさ、海兄ぃはそういうトコわかってないんだよね!!
俺は手を伸ばしていた。
無意識のうちに、もやのかかった光――記憶の欠片に。
――――……ま、いろいろあると思うけどさ。海兄ぃは結局他人に甘いとこあるから……なんとかなると思うよ?
届きそうもない光に、俺は必死に手を伸ばす。
走って、走って、追いかけて。それでも触れられない光を、ただひたすら追いかける。
――――私が言うのもアレだけどさ、多分恋愛っていうのは、その過程も、悩みも、まるまる全部含めて恋愛って呼ぶんだよ。だから……さ。
俺の知らない。だれかの記憶を。
涙を流しながら、俺は追いかけていた。
遠くて、追いつかなくて。それでも向き合わなくちゃいけないと思ったから。
――――海兄ぃのこと、信じてあげてよ××ちゃん。
俺の知っているようで知らない声が、だれかの名を言った。
だけど光はもう遥か彼方へと飛んでいっており、よく……聞き取れなかった。
それでも俺は、ただただ走る。暗い闇の中を、一人で走り続ける。
向かう先にゴールなんてないかもしれない。でも、それでも俺は、追いかけていたかった。
――――俺は……――――ユキ――――――
「「琴ちゃん!!!」」
「どぅわぁ!?」
どこかで横になっていたらしい俺は、勢いよく体を起こした。
それと同時に、ガツンッ!! という衝撃が額に走り、鈍い痛みのせいで何が起きたのかを理解する余裕などなく顔を埋める俺。
結構激しく衝突したせいだろう。頭がクラクラして、気を失いそうになってしまった。
「いったッ……!! 二度もッ……!!!」
俺のすぐそばから聞き覚えのある誰かの呻き声が聞こえ、そちらの方へ目を移してみる。
するとやはりそこには、どこか見慣れたような背中が丸くなって地面にうずくまっているのが伺えた。
「か、カズ……くん……? というか、俺……いったい……」
記憶が曖昧ではっきりとしない。
めまいで少し頭がクラクラとし、意識もまだ朦朧としたままだった。
「あ、まだ山空さんなんか……って、そないなことより大丈夫なんか!?」
「楓果ちゃん……俺どうなって……」
「どうって……琴ちゃんがアタシん目の前で急に倒れて……もうアタシどうしたらええんかわからんようなってもうて……」
今までの楓果ちゃんからは信じられないほど震えた声。
彼女の目尻は赤く腫れており、見ただけでも涙を流していたのが伺えた。
そうか……俺は意識を失って……。
目の前で人が……友達が倒れて気を失ってたらそりゃ怖いよな……。
「オレも凄いビックリしたよ! だって二人のあと追いかけるつもりで校庭に出たら、琴ちゃんである海の兄ちゃんは倒れちゃって意識不明の重体だしあの楓ちゃんも涙流してるんだもの!」
そしてカズくんはブレないなおい。
中身は俺だったけど惚れてる女の身体がブッ倒れてたんだぞ? もっと慌ててほしかった。
それと、病院に連れてかれずに保健室で看病されているところから察するに貧血とか脳震盪とかそのくらいのレベルだと思ってたんだが……俺重体だったのか?
「保健の先生はただの過労やって言うてはったけど……」
ただの過労かよ。カズくんなに『意識不明の重体』だとか大袈裟に言ってんだよ。ちょっとビビっちまっただろうが。
……それに、コレは琴音の身体なんだよな……。
俺が怪我や病気、例えば事故にでもあったりしたら、その衝撃や苦痛をすべて受けるのは琴音の身体なんだ。……慎重すぎるってくらいに気をつけないとな。
「いやーそれにしてもオレ、普段強気な楓ちゃんが泣いてるトコロなんて初めて見たよ!!」
「う、うっさいドアホ!! アタシかていっぱいいっぱいやってんもん、仕方ないやろ!!」
おそらくカズくんには悪気がないんだろうが、そのカズくんの一言で楓果ちゃんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「あ、あれ? 楓ちゃんどうしたの……?」
なぜ楓果ちゃんが顔を伏せたのか、全く理由の分かっていないらしきカズくんはおろおろ狼狽え始める。
やはりまだカズくんはお子様ということなのだろう。乙女心というものが何一つわかっちゃいないぜ。
「カズくん。それ以上楓果ちゃんを責めてやるなよ」
俺の突然の言葉に、カズくんは頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「え? オレ別に楓ちゃんのこと責めてるつもりはないよ?」
ふふふ、ダメだダメだ。カズくんは何一つわかっちゃいない。
……いいだろう。今回だけ特別に、今後、琴音との仲をより親密にできるよう、ちょっとしたアシストのつもりで、心身ともに乙女まみれなこの俺がお前に乙女心とやらを教えてやるよ!!
「いやいや、中身は乙女じゃ……」
「うるさい!! そんなことは些細な問題なのだ!!」
「えぇー」
そう、確かに俺は男だ。
が、しかしそれは心だけであり、身体は今『竹田 琴音』という女の子の肉体なのだ。
よって、俺は乙女である。俺は今全力で乙女しているのだ。誰がなんと言おうとその事実は絶対に揺るがないのだ!!
「海の兄ちゃんが壊れた」
「いいかカズくん。まず第一に、乙女は男子には泣き顔を見られたくないという定義が存在するんだよ」
俺の一言に、楓果ちゃんがブンブンと頭を上下に振っている。激しく同意なようだ。
「あ、たしかに泣き顔はカッコ悪いもんね! 鼻水とか出るし。あ、ところで楓ちゃんは鼻水大丈夫……どっふッ!? ちょ、痛い!! 楓ちゃんどうしたの!? オレが何したっていうのさ!!」
ブチギレた楓果ちゃんの飛び蹴りが見事に命中し、カズくんは紙切れのごとく吹っ飛んで壁に背中を打ち付けている。
いやはや。カズくんのデリカシーのなさはもはや折り紙付きだな。
でも逆に言えばカズくんは無類の正直者ってこどだし……結果オーライなのか?
『なに騒いでるんですか?』
そんな若い女性の声と共に、保険室のドアが突然ガラリと開く。
その女性は白衣を着ており、俺の方を見ると笑顔でニッコリと微笑んできた。
『竹田……琴音ちゃんだったよね? 気分はどう?』
「え……?」
俺の近くまで歩み寄ってくると、白衣を着た女性は再びニコッと笑顔でしゃべり始める。
笑顔を絶やさないことでもモットーにしているのかわからないが、どうやら心の底から微笑んでいるようで、その女性から作り笑い特有の気持ち悪さなどは感じられなかった。
……白衣を着ているところから見ると、この女性は保健室の先生なのだろうか……?
とりあえず、琴音の中身が俺だってことを怪しまれないようにしないと。
『……大丈夫?』
「あ、えと……あ……その」
すぐに答えようと思った。だがしかし、なぜかそれができずに言葉に詰まってしまった。
すぐ近くに知らない人がいる。
知らない人に話しかけられている。
――――知らない人が……。
一度そう感じてしまうと、なぜか言葉が出てこない。
心臓が鼓動を早め、より強く、大きくなっていく感覚。
俺は一瞬にして頭が混乱し、何を喋っていいのか分からずに真っ白になってしまった。
緊張とは違う。恥ずかしい……? いや、それもなんか違う気がする。
コレは……この感情は一体……。
『……?』
何も声を発することをせず、うつむいてしまった俺を覗き込むように見上げてくる女性。
だがその人と目が会うたびに、なぜか視線を逸らしてしまう。
怖い……わけじゃない。別に目の前の女性が嫌なわけじゃない。
倒れた自分を介抱してくれた人だ。嫌いなわけがないし、感謝の気持ちだって物凄くあるのは間違いない。
……でも、それでも心のどこかで、警戒してしまっている自分がいる。不安になってしまっている自分がいるのだ。
「あ、あ、あの先生!! 琴ちゃんのことなんですけど……!!」
しばらく音のない時間が続いた時、ようやく喋りだしたのは俺と白衣の女性の様子を見ていたカズくんだった。
必死そうに話題を作ろうとしている様子のカズくん。どうやら俺の様子を察して、ふ……あれ? えとなんだっけ? ……ふ、ふ、ふ……あぁ、フォローだ。フォローを入れてくれたのだろう。
それにカズくんが女性のことを「先生」と呼び掛けたところから見ても、やはり保健の先生に間違いないようである。
『どうしたの?』
カズくんの一言で、心配そうな表情を浮かべて俺を覗き込んでいた先生は俺から離れ、カズくんの方に向き直った。ここからじゃ先生と呼ばれる女性の顔は見えないのだが、きっとまた笑顔を浮かべているのだろう。
……それにしても、彼女の後ろ姿は見ていても全然なんともないんだがこれはいかに。
「えと、その! 琴ちゃんってあの……保健室くるの初めてでしたよねたしか!!」
カズくんの粋な計らいである話題変更のおかげで、先生は今完全にカズくんの方に集中している。その隙に、俺は思考を張り巡らせた。
一体あの感情はなんだったのか。経験したことあるようでないあの感情。いうなればまるで“人見知り”にでもなったかのような―――――でも元々俺は人見知りだったわけだし今更それが……。
あれ……俺って人見知りだったんだっけ……? というか、俺は何をこんなに焦っているんだろう……。
……あぁダメだ!! 《入れ替わり》が起こってからいろんなことがあったせいか、うまく頭が働かない!!
『うーん……たしかに琴音ちゃんは珍しいわね。でも健康なのはいいことだから。それがどうかしたの?』
「あ、いやちょっと気になっただけなんで……!! あはははは……!!」
『……?』
「あ! そうだ! もう一個聞きたいことがあるんですけど――――」
わざとらしく笑い、言うことも全部ほぼ完全に棒読みなカズくん。おそらくカズくんは嘘が付けない体質なのだろう。
うん、お前ならきっと金の斧と銀の斧、両方を持って帰って来れるぞ!
「山空さん山空さん……」
金の斧と銀の斧をもらったが重くて持てずに、挙げ句の果てには手を滑らせて自分の足に斧の刃が落下してしまってカズくんがもがいているというくだらない想像をしていると、楓果ちゃんが俺のすぐそばまで来ておりヒソヒソと声をかけてきた。
いきなり隣いたのでちょっとびっくりしたものの、楓果ちゃんの言葉に俺は耳を傾ける。
「保健の先生には悪いけど、このまま早退させてもろたほうがええんちゃう? そのほうがみんなに怪しまれずに済む思うねん」
「なるへそ」
たしかに、このまま学校を抜け出すよりは“早退”という完璧な理由で抜け出したほうが確実に怪しまれない。
体調に関してはもう平気だが、まだ調子が悪いフリしてなんとか早退という形にこじつけられれば……。
……てか今更だけど、カズくんも楓果ちゃんも、よくこんな《入れ替わり》なんていう突拍子もない話信じてくれるなぁ。もう疑ってすらいないもんな。
ホント、頼りになる友達を持って俺は幸せ者だよ。……って俺の友達じゃなくて琴音の友達だったな!! 危ない危ない!! もう結構長いあいだ一緒にいるせいか自分の友達だと思い込むなんて俺ってやつはどうかしてるぜ!
「それにほら、端元くんも納得してくれるやろうしな」
「あ、そうか。昼一緒に食べるって約束してたんだよな……」
端元くん……か。
告白されたときはものすごい焦ったけど……端元くんにとっては一世一代の思い切りだったはずなんだよな。
俺が琴音の体になってなければ、その気持ちもちゃんと琴音本人に届けられたってのに……。
なんかもうホント全力で申し訳ない気分になるな。
「……せやから、ここで何としても早退せな」
「あぁ……了解」
そこまで告げると、楓果ちゃんは俺の同意の言葉を聞いたと同時にカズくんの方を向き、右手で小さくOKのサインを出していた。それを見たカズくんもかるく頷いている。
え、もしかしてお前ら、早退したほうがいいことを俺に伝えるために、こんな打ち合わせみたいなことしてたの? というか俺が狼狽えてるのを見て助けてくれたんじゃなかったの? なんかショック。
『――――え? 好きな女の子にプレゼント?』
「はい!」
『そうねぇ、先生は最近の子の好みわからないからなぁ……』
「そうですか……」
あれ、カズくん? 保健の先生に何を聞いてるんですかね? というかもはや隠す気ゼロだけどどうしたんだよお前。もしかして楓果ちゃんや俺に聞かれちゃったもんだからもう吹っ切れたのか?
というか先生もちょっとニヤニヤしちゃダメでしょう。後ろ姿でもわかるくらいに頬がピクピクと動いて緩んでますよ。
『……あ、でももしよかったら先生が後でこっそり聞いてあげてもいいわよ?』
マジか先生。
「ホントですか!? ぜひお願いします!!」
カズくーん。聞こえてますかー? もしも~し?
『いやぁ、青春っていいわね! で? 好きな女の子ってどの子? もしかしてクラスの子!?』
おいおい若干興奮しだしたぞこの先生。
……あ、さては先生お好きですね? 他人の色恋沙汰大好きすぎて、修学旅行の夜とか友達にグイグイ迫って引かれちゃう系統の方ですね?
「はい! オレとしてはクラスメイトってこと以上に特別な関係だと思ってます!!」
背筋をただし、両足をまっすぐと伸ばし、何故か完璧なる敬礼のポーズで敬意を示したカズくん。
こっちとしてはカズくんのその一途っぷりに敬意を表したい。
恋愛に対して一途で純粋。
そんな彼の姿を見ていると、なぜか心がズキズキと痛み、脳裏にチラチラと何かの影がちらついて……。
「……ユキ」
誰に言うわけでもなくひとりぼそっと呟いた。
カズくんと先生の会話を聞き流しながら、俺は先程から気になっていたことを考える。
――――俺が気を失っているあいだに見たあの光景。
はっきりと覚えているわけじゃなく、それどころかもはや断片的にしか思い出せないほどの曖昧な夢のようなもの。
でもその内容は、俺の心にしっかりと刻み込まれていた。
そう……俺が気を失っているあいだに見たあの光景は多分、俺が知るはずも、俺が知り得るはずもなかった、琴音の記憶。
身体が琴音になってしまわなければ、普段絶対に見ることのできない……感じることのできない琴音の記憶なのだ。
そしてその記憶の中で交わされていたあの会話は、あの言葉は、はっきりとは覚えていないけど……普段とても明るく健気なユキの内側の思いがたくさん詰まった会話。
白河 雪。俺の事を好きでいてくれる後輩であり、大切な友達。
いつも彼女から熱烈なアピールを受けていて正直邪魔くさいと思ったこともあったが、それでも個人的には結構嬉しいことだった。
彼女の最初の印象は呆れるほどに変な子だったが、そんな子が俺にとっては人生初の告白をしてきてくれて、付き合って欲しいとまで言ってくれて。
でも俺は、そんな彼女のその行動にいつも曖昧な対応や返答を繰り返しているだけ……。
始めのうちはそれでいいと思っていた。
いつもの日常をユキだって楽しそうにしてたし、俺だって楽しかったのは間違いない。
だけどそれは全部、ユキという存在から逃げていただけだったのかもしれない。
『まだ知り合って間もないから』。『恋愛は思いつきでするもんじゃないから』。そんなきれいごとを並べて、ユキの告白を真意に受け止めることから、考えることから逃げていただけ。
たしかにユキは、バカで、アホで、能天気で、悩みなんて何一つなさそうで。
ユキが俺に告白してきたのも、俗に言う“恋に恋している”だけだって。恋愛をしている自分に酔いしれたいだけなんだって。
照れ隠しのための上辺だけを見て、それを“ユキのすべて”だって思い込んで。
でも、違った。
……いや、違ったんじゃないな。
“違うと思いたかった”んだ。
ユキの真剣な気持ちに向き合う勇気がなくて、ユキの真っ直ぐな心と向き合うのが怖くて。
俺はただ心の中で言い訳して目をそらしていただけなんだ。
琴音と身体が入れ替わって、琴音の記憶を断片的に見てしまって。こんな形にならなければ気づけなかった事実。
ユキの心の不安や悩み。いつものユキからは一ミリも垣間見えないほどの暗いユキ。
今まで気づけなかった……向き合おうとしなかったせいで、彼女を不安にさせてしまった。
好きだとか、好きじゃないとか、付き合うとか付き合わないとか、そんなこと今の俺にはわからない。
もちろん友達としては好きだ。でもそれが恋愛となると話は変わってくる。
だから俺は自分の中で答えが出るまで。俺自身がユキのことをどう思っているのかがはっきりと分かるまで、今の近すぎず遠すぎずな関係を続けていようと無意識に思っていた。
でもそんな甘ったれた考えじゃダメなんだ。ユキは最初から……そして今も、これからも。ずっと真剣なんだから。
答えがでなかろうが関係ないんだ。相手が真剣なら、こっちだって真剣に向き合わないと失礼ってものだろう。
今となってはこの《入れ替わり》のおかげで気づかされた結果になったが、本当は俺が自力で気づいてあげなくちゃダメなことだったんだと思う。
だからこそユキは俺に直接じゃなく琴音に相談して、琴音もそのことを俺に伝えずずっと心にしまっておいたのだから。
おそらく俺が気を失う前に感じた謎の症状。
あれはきっと、琴音の心情が反映されたものなんじゃないかと思う。
ユキから相談を受けた琴音は、もちろんユキが悩んでいることを知った。つまりその後の琴音は、そんなユキの悩みに全く気付かずに素っ気ない対応をする俺をずっと黙って見ていたわけだ。
そうなればイライラもするだろうし、素っ気ない対応をされたユキを見ていると苦しくもなるはず。
そんな琴音の心情が、あの時色濃く出てしまい、そのせいで俺は気を失ってしまったのではないか。
だから気を失っているあいだにユキと琴音の、あの会話を夢に見てしまったのではないか。
俺は入れ替わりとかいう超常現象についてなど詳しくないので判断しかねるが、十中八九そうなのではないかと思う。
ユキの悩み、そして琴音の心情に今まで気付けなかった、気付こうとしなかった自分を。こんな状況になるまでそのことに気づけなかったこの自分自身を情けなく思うけど……。
――――でも、気づけた。
もう気づけたんだ。
自力じゃないけど、決して言い気づき方じゃなかったけど、それでも気づけた。
だったらもう向き合うしかない。覚悟を決めるしかない。
オメガにこの《入れ替わり》を元に戻してもらって、俺の身体で、自分の口で、ユキと向き合う。
それがユキにとっていい結果になるのか、そもそも俺はユキのことをどう思っているのかとか、まはまだ全然わからないけど……それでもいい。今まで待たせてしまったぶん、考える前に動く。
今の俺にできる最善は、それだけなのだから。
「……先生!」
俺は保健室のベットからゆっくりと立ち上がり、カズくんの恋愛話に夢中になり過ぎて鼻息を荒くしていた先生の後ろ姿に向き直った。
……そういえばずっと前、エメリィーヌと出会ったあの夜。俺は琴音に叱られたことがあったっけ。
あの日、エメリィーヌの超能力が暴走し俺が木に叩きつけられそうになって、そのことをエメリィーヌが謝ってきたことがあった。
でもあの時の俺は長いサイクリングに疲れきっていたこともあり、その謝罪を軽く流し、それどころか『めんどくせぇ』とまで思ってしまったんだよな。……いや、多分思っただけじゃない。俺の癖を考えると口にも出してたかもしれない。
そんなんだから、俺は琴音に『もっと真剣に答えてあげなよ』ってひどく叱られたんだっけ。
……実はあの日以前にも俺は、癖のせいか人が傷つくようなことも結構平気で言ってしまう人間だったわけで。
だから多分あの日の琴音の対応は、それらも全部含めてあの対応だったのだと思う。
なので俺はあの日以来、心の中でも人の悪口や周りを不快にしてしまいそうなことなどもなるべく考えないように意識している。
思ったことを無意識のうちに喋ってしまい、喋らなくても表情に出てしまう俺にとって、考え自体を変えるしか方法がなかったんだよな。
要するに俺は、人への気遣いや配慮が足りず、それゆえに俺からは真剣味が感じられないってことだ。
だからこそ、ユキの心の悩みに気づいてあげられなかったわけなのだから。
でもそれに気づけた今。
この《入れ替わり》現象をさっさと終わらせて、一度ユキと真剣に話し合おう。
そう心に決め、俺は先生を呼び掛けた。
『むふー!! ……あ、はい? どうしたのかしら?』
すると先生はすぐに反応し、俺の方へと振り返る。
今日はもう早退しよう。そして……。
「あの、まだ疲れが取れないので、今日は早退して家でぐっすり休みたいんですが……」
『え? 大丈夫なの……? もしあれだったらここで寝ててもいいのよ?』
「いえ、体調はもう大丈夫なんですけど……」
『……?』
「ただあの……俺……あ、いや私人見知りが激しくて……いつ人が来てもおかしくない保健室じゃちゃんと休めなくて……ですね」
俺がそこまで告げると、楓果ちゃんも「せやで! 琴ちゃんはめっちゃ恥ずかしがりでアタシらも手ぇ焼いてんねんで!!」と若干フォローになってないフォローをしてくれた。
カズくんはカズくんで「照れてる琴ちゃんも可愛いよ!」と親指立てながら言ってくる始末。
でもそんな二人のアシストのおかげか……。
『……まぁ、琴音ちゃんは平気で授業サボるような子には見えないし……今日だけ特別よ?』
と、渋々許可してくれた。
「ありがとうございます」
そんな先生に一礼を済ませ、俺は保健室の扉を開き玄関へと目指し歩いた。
後ろの方で「あ、アタシも早退するわ~」「あ、じゃあオレも!」という二人の声のあとに先生と思われる女性の『うえぇ~!?』という謎の驚きが聞こえたかと思うと、楓果ちゃんとカズくんが俺のあとお追いかけるように背後から走ってくる。
一応言っておくが、二人が学校を早退する理由はまったくない。
「お前ら何してんの」
と、念のため問いかけてみたところ。
「ここまで来たらアタシらも最後まで付き合うで!!」
「好きな子が困っているのに授業なんてやってられないよ!!」
などといった返答が返ってきた。
頼もしいのかそうでないのか……キリッっとした表情の二人を見て軽く呆れつつ、俺は琴音の待つとなりの高校を目指し廊下を駆けていく。
待っててくれよユキ。
いい結果は持ってきてあげられないかもしれない。もしかしたら余計不安にさせるだけかもしれない。
だけど俺は、お前の気持ちに真剣に答えて、お前と一緒に真剣に悩む。
だからもうちょっとだけ、待っていてくれ……。
聞こえるはずもないのに心の中でユキに語りかけながら、俺達は靴を履き校庭へと飛び出した――――――
第五十三話 完
あとがきはないよ!