第五十話~なんて危険な入れ替わり~
祝☆50話突破!!
これからも[俺の日常非日常]をよろしくお願いします!!
誤字脱字が多発してたらお知らせください。
どうもみなさん、初めまして! アタシは琴ちゃんとカズッちゃんの友達の里中 楓果ー言います! よろしゅーな!
さて、そんなアタシですが!
今朝、学校の靴箱んとこでカズッちゃんと会って、一緒に教室向かったんやけど……教室に入ってみると琴ちゃんが机んとこで倒れとったんです! まぁ、寝とっただけなんやけどな。
そっからいろんなことがあって、どうやら琴ちゃんは、高校生の山空 海さん言う人と≪入れ替わり≫してもうたらしいねん。 信じられへんことやとは思うけど、琴ちゃんの様子がおかしかったのも確か。こりゃ信じるしかあらへん…ってなったわけなんよ。
ほんで、その≪入れ替わり≫っちゅうんがどうやら山空さんの知り合いである変態の仕業らしいねん。
なんや知らんけど、その変態、発明が趣味ーっちゅうようわからん奴なんやて。まぁ、世界は広いってことやな。
で、≪入れ替わり≫から元に戻るんには、その変態に事情を教えて戻してもらう以外に方法がない。てなことになっとるんやけど……まぁ、それは何とかなんねん。そこは気にせんといて。
ほんで、突然琴ちゃんが今はまだ戻りたないー言うて、しゃーないから今日1日入れ替わりライフを満喫しよう的なことになっとるわけや。
琴ちゃんが戻りたない言うたんには理由があるんのやけど、それがなんと『英語のテストがあるから私の代わりにやっといてくれへんか?』ちゅう自分勝手な理由でな。琴ちゃんらしいっちゃ琴ちゃんらしいねんけど。
まぁ、そんなわけで、今はまだ元に戻らんで山空さんが琴ちゃんになり切って授業受けてるんや。アタシから見たら不自然の塊な演技力やけどそれはしゃーないことやな。
そんな状態で2時間目の美術ん授業になったわけなんやけど。途中で山空さんの様子がおかしくなってん。そこまでが前回のあらすじや。そうそう、2時間目言うたら、2時『間』目より2時『限』目言うたほうが大人やわーって感じせえへん? でもアタシらん中学は2時間目やねん。はよう『2時限目の授業はなんやったっけ?』みたいな大人の会話してみたいわー。 あ、そうそう、大人言うたらこの前の事なんやけどな? 琴ちゃんとカズッちゃんが二人でなんや言い合いしとってなぁ。理由聞いたらホンマしょーもないことやったんよ。せやからアタシが『二人もはよー大人んなれや!』 言うて――――
第五十話
~なんて危険な入れ替わり~
「海の兄ちゃん、今楓果ちゃんのこと『楓ちゃん』って言った……?」
無意識だった。
『別にぃもう仲良くなったつーか、もはや俺らダチじゃね? ダチならそろそろあだ名で呼び合ってもよくねぇ?』
的な、チャラ男なノリで言ったわけではない。もう一度言うが、チャラ男的ノリではなく無意識のうちに言ってしまったのだ。
「アタシは琴ちゃんの声やから違和感を感じひんかったわ。急にどないしたんや?」
「あ、いや、別になんでもない……」
なんでもなくはなかった。なぜなら、さっきから俺の身体がおかしいのだ。
そう、絵心の無い俺が、“まるで琴音になったかのように”スピーディーかつ丁寧に綺麗な絵を描き上げたり。
楓果ちゃんのことだって、“まるで琴音になったかのように”あだ名で呼んでしまった。
これが琴音との≪入れ替わり≫により生じたものだということは明らかだ。
この≪入れ替わり≫……もしかしたら、相当危険なものなんじゃないだろうか。嫌な予感がする。
「なるほどな……だからそこの男子グループが異様に騒いどったってわけやな」
楓果ちゃんは納得したような表情を見せながら、先ほど俺が絵を描いて来たっきり騒ぎが収まらない男子グループに目を移す。
こんな時でさえ俺の考え事は暴露され続けていたようだ。
たとえ奇跡が起ころうと、たとえ地球が滅びようと。俺があんな上手い絵を描きあげられるはずがない。
しかも描いている時、構図や全体のバランス。絵に必要不可欠なスキルが頭の中に浮かび上がってきていた……気がする。
よくわからないが、体が覚えていたという感じだろうか。
「あ……もしかして……海の兄ちゃん、ちょっと廊下まで来て! 楓果ちゃんはどっちでもいいや」
「え? あ、あぁ」
「アタシん扱いヒドッ!!」
わけのわからぬまま俺は、何かに気付いた様子のカズくんの後を追いかけるように廊下に出た。
俺の背後で、『おーい、絵が描きあがってない奴は遊ぶなよー』という先生の声に対して『うっさいわアホ!!』というなんとも反抗的な女子の声が聞こえたが気にしている余裕はない。
「……誰もいないね? なんかスパイみたいで心が躍る!」
廊下に出るや否やカズくんは周囲を見回し、誰もいないのを確認すると教室のドアを閉めた。
「心躍らしてないで早う言えや。なんか気づいたことあんねやろ?」
「うん」
あのカズくんが真剣な表情になり、手招きしてこっちに顔をよせるように指示してくる。
なんか円陣を組んでる感じになっているが、いったいなんだってんだろう。
「……二人にいきなり質問するけど、まず最初に、≪入れ替わり≫が起きた際、脳はどうなると思う?」
カズくんの質問の意図が全く分からないが、とりあえず考えてみる。
「脳? 脳って……あの人間の頭脳のことか?」
「うん」
まず脳というのは、人間が生きていく上で最も重要な部分と言えよう。
脳がなけりゃ歩くことも聞くことも、喋ることや食べることだってできない。いわば第二の心臓部分と言っても過言ではない。
その脳が、≪入れ替わり≫によってどうなるのか。
そもそもこの≪入れ替わり≫はおそらく、自分の魂(?)的なものが他人の身体に入り起こっている現象だと思う。ほら、よく漫画とかであるだろ? そんな感じ。だから俺の場合、俺の魂が琴音の身体に憑依した感じになるのだろう。
つまりそうなると、脳はその身体…琴音の持ち物であり、俺の脳ではないことになる。
「気づいたようだね」
眼鏡をクイッと上げる動作をし、口元を緩め憎たらしい笑みを浮かべるカズくん。お前メガネかけてないだろ。
っと、そんなことよりもだ。
「でも、だったらなんだってんだよ?」
「はぁ……」
あれ、ため息つかれた!?
「いいかい、脳は他人の脳なんだよ。つまり、海の兄ちゃんは今、琴ちゃんの脳なわけだ」
「おう」
俺は今、琴音の身体である。よって、琴音の頭脳である。
逆に考えると、魂は俺そのものだが、それ以外は全部琴音のだということだ。……なるほど、まったくわからん。何がおかしいんだ。
「海の兄ちゃんは、海の兄ちゃんだった頃の記憶はあるんだよね?」
カズくんが変なことを言い出した。
「俺だった頃の記憶? それって、琴音の身体になる前の俺の記憶ってことか?」
「そう、そんな感じ」
だとすれば、んなもんあるに決まってんだろ。当然だ。
だって俺は俺なんだからな、自分の記憶ぐらいこの頭が覚えて……あれ、おかしくないか?
「そう、そこなんだよ。覚えていちゃおかしいんだ。だって、その脳は琴ちゃんの脳なんだから」
「……あ。そうか、そうだよな」
そもそも記憶と言うものは、すべて脳に保存されるものだ。
つまりわかりやすく説明すると、俺の身体には俺の脳があり、その俺の脳には俺が体験した出来事や思い出などが記憶として保存されている。逆に言えば俺以外の記憶とかはないわけだ。
だが俺は今、その自分の脳を…俺の記憶が詰まった自分の脳を手放している状態。
そして、他人…琴音の脳を所持している状態にあるわけだ。
そこで違和感に包まれる。
俺が今使っている脳が琴音の脳だとするならば、≪入れ替わり≫が起こる前の俺の記憶を持っているはずがないのだ。だってこれは琴音の脳なのだから。
「でも、海の兄ちゃんには……いや、琴ちゃんの脳には海の兄ちゃんの記憶があって。脳の本当の持ち主である琴ちゃんの記憶はない。そこがミステリーなんだよ」
カズくんがは言いたいことはおそらくこうだ。
琴音の脳には、琴音しか知りえない情報、琴音だけの思い出などが保存されている。
当然、俺の体験した記憶が保存されいているわけがない。にもかかわらず。
今俺は琴音の脳を借りている状態にあるのに、ちゃんと自分のことは分かる。
俺の家柄、俺の思い出、俺の感情。全部、琴音が。正確には、琴音の脳が知りえないであろうモノのすべてを今俺は理解している。
そして俺が初めて楓果ちゃんに会ったとき、俺は楓果ちゃんの名前とか事情とか、すべて知らなかった。本来ならばそれは当たり前のこと。会ったことの無い人間のことなんてわかるわけがないのだから。
だがしかし、それは俺が俺である場合のことだ。
だけど俺は今琴音。琴音の脳に保存されている記憶に、楓果ちゃんのことは必ず残っているはずなのだ。
俺自身初めて会った場合でも、俺の使っている脳は初めて会ったわけではないのだから……つまりは……あれ、ちょっと混乱してきたぞ?
「つまり簡単にまとめると、琴ちゃんの脳が山空さんの情報を把握してるのはおかしい。ほんで、琴ちゃんの脳やのに、琴ちゃん自身の情報を把握してないのはおかしいっちゅうことでええの?」
「うん。そんな感じ」
分かりやすい説明をありがとう楓果ちゃん。
「そして、ここからはオレの憶測になるけど、茶々を入れずに聞いてくれ」
おぉう、なんかカズくんがすごく頼もしい。なんと言うか、安心して背中を任せられそうな雰囲気が漂ってきてる。
……中学1年生に背中を任せてる俺って一体……。
俺がちょっと落ち込んでいると、カズくんは憶測を語り始めた。
「琴ちゃんの脳なのに海の兄ちゃんの記憶があるのはおかしいということは分かってもらえたと思う」
おう、とりあえず微妙に理解したぜ。
「なら次は、『ならなぜ、琴ちゃんの情報は全くないのにもかかわらず、海の兄ちゃんが“琴ちゃんのような”ことをしたのか。』という個所に着目するよね」
「そない無理して難しい言葉使おうとせんでええからはよ喋れや」
「うんごめん」
流れるようなツッコミとその返し。
こんな状況でするようなことじゃないのは重々承知だが、素直に感心してしまいました。
「えっと、まず『海の兄ちゃんの記憶は海の兄ちゃんの魂が覚えている』という設定だとする」
カズくんの言い分はというと、。『琴音の脳なのになぜ俺自身のことを知っているのか』という問いに対して、『俺の魂が記憶を持っているからさ!』 と思いなさい。と、いうことであろう。
「そして『魂そのものが記憶を覚えているから、琴ちゃんの脳でも海の兄ちゃんの記憶がある。』と、する」
「どういう意味やねん?」
「えーとだから、『海の兄ちゃんの魂が持つ海の兄ちゃんの記憶の方が、琴ちゃんの脳が持つ琴ちゃんの記憶よりも大きいから、琴ちゃんの記憶よりも海の兄ちゃんの記憶の方がある。』という状態だとするよ?」
おいおい、なんかややこしいな。
えっと、つまり、『俺の魂が持つ俺だけの記憶が、琴音の脳が持つ琴音だけの記憶を抑え込みしゃしゃり出てきている』というわけなのか?
あーもう、ややこしすぎてよくわからねぇよ!!
「それで、『海の兄ちゃんの魂が琴ちゃんの脳の記憶に勝ってるのは、海の兄ちゃんんの魂が琴ちゃんの身体に上手く馴染めていないから、魂の持つ記憶の方が全面的に出ている』わけね」
「あ、あかん……そろそろ限界や……」
「同じく……」
カズくんの話が難しすぎて、頭がついていけない。
自慢じゃないが、俺は自分が興味を示したことしか頭に入ってこないタイプなわけで。
一応カズくんの話も気になるが、それは興味とは違う。俺の言う興味は好奇心とイコールで表せる感じの興味なのだ。
とにかく、俺が言いたいことはただ一つ。『お前なに言ってんの?』ということである。
そしてそんな俺と同じく、楓果ちゃんも頭を抱えていた。
きっと耳からプスプスと煙が出てきてるはずだ。アニメや漫画的表現ならきっと煙が出てきているはず。あれってどういう構造なんだろうか。
「しょうがない、わかりやすく説明するよ」
「出来るんやったら最初っからそうせえや!!」
「うんそうだね。オレもそう思うよ」
つーかさっきから楓果ちゃんにツッコまれた時のカズくんの返しが潔すぎて見ていて爽快だな。
あとカズくんよ。失礼だがキミの話が難しすぎてもう俺の精神は崩壊しかけてますぜ。
「……要するに、『海の兄ちゃんの魂が琴ちゃんの身体に馴染めていないから魂が持つ記憶が全面的に出てきて何とかなってる』けども、『魂が身体に馴染み始めてきてしまったらその身体…つまり琴ちゃん脳が持つ記憶の方が全面的に出てきちゃうんじゃないか』って思ったんです!」
「……つまりどういうことやねん」
「つまり、『魂の持つ記憶が、脳の持つ記憶に負けちゃうんじゃないか』ってね」
「……と、言いますと?」
「だから、『魂の方の記憶が脳の持つ記憶に負け、海の兄ちゃんは完全に琴ちゃんの記憶を取り戻してしまう。』つまり『海の兄ちゃんが、琴ちゃんの記憶を自分の記憶だと信じ込んでしまう』……という憶測でした」
うん。絶賛大混乱中さ。
まず物事を整理しよう。何事も整理整頓が大切だ。
カズくんの言っていたことを思い出してみよう。
簡潔に言えば、俺が琴音の記憶を自分の記憶だと思い込んでしまうわけだよな?
ってことは、簡単に言えば、俺は自分のことを『山空 海』ではなく『竹田 琴音』と信じて疑わなくなるというわけか。
俺が俺だったことを忘れて……自分は琴音だと思いこんじゃうってことは……。
えええええええええぇぇぇええぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!?!?
「なにそれかなりまずい状態じゃねぇかよ!!」
「い、いや、あくまでもオレの憶測だし……」
「妙にリアリティがあってもう信じて疑うことができねぇよ!! 」
だって俺が自分のことを琴音だと思い込むってことは、もしそうなったら最後、元に戻りたいと思わなくなるわけで……!!
俺が琴音になっていること自体、違和感を感じなくなるわけだろ!?
俺が琴音で琴音が俺で、魂は俺だけど俺でなくなって……あぁもう、ややこしいわっ!!
「はぁ……今日の放課後あたり頭ん使い過ぎで熱が出そうやわアタシ……要するになにがどうやねん?」
「要するに俺と琴音が身体だけでなく本格的に入れ替わっちまう危険があるってことだ!」
「ちょっと待ってよ、あくまでもオレの憶測だからね!?」
「あぁもうわけわからへん!!」
頭を掻き毟りながら悶える楓果ちゃんと、自分の立たされた状況が危険かもしれない事実を知って混乱している俺。
そしてそんな二人をどう手を付けていいのかわからないというような表情を浮かべて、ただただ見守るだけのカズくん。
琴音のクラスの廊下でなんか凄いことが起こっているのを、クラスの奴らはまだ知らない。
と、とりあえず落ち着け。深呼吸だ。スゥーハァー。スゥーハァー。
そ、そうだ、ラジオ体操第2番を踊ろう。いっちに、いっちに……と。
おぉ、だいぶ落ち着いて来たぞ。俺は冷静になればなるほど力を発揮するんだから……多分。
「……どうやら落ち着きを取り戻したみたいだね二人とも!」
「とても笑顔だなカズくんよ。ちょっと一発殴ってもいいですか」
「なんで!?」
「なんかイラッとしたから」
「ならどうぞ!」
「ええんかい!!」
よし、だいぶ冷静になってきた。つーかもう冷静だ。
楓果ちゃんも的確なツッコミを入れてきたし大丈夫だろう。
てか、冷静になって思い返してみれば、所詮は中学生の妄想。
オメガが言うんならまだ説得力があるが、なにも知らない中学生のヤツに言われてもねぇ?
漫画や小説じゃあるまいし、そんな展開あるわけない。これはフラグじゃない、決してフラグなのではない。俺はフラグクラッシャーだ。だからさ、大丈夫。……大丈夫……だよ、な。
「にしても、よくあの短時間の内にこないイタい妄想できたもんやなぁ。カズッちゃんのことちょお見直したわ」
「だてに中学生やってないからね!」
すごくいい顔でそう告げるカズくん。
いったいいつ頃、褒められていない事実に気づくのだろうか。
「オレいつも思ってたんだよ。漫画とかでよく≪入れ替わり≫とか見るんだけどさ。みんな決まって自分の意志や記憶を持っているんだよね。でも普通入れ替わったら脳も入れ替わるんだから、おかしいじゃんってね」
「今までで一番わかりやすい説明だった」
そんなこんなで、俺達のプチ会議が終わると同時に。
キーンコーンカーンコーン―――――という授業終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。
その音を合図とし、俺達は教室へと戻る。
教室内はみんなが後片付けをしており、雑音が絶えない空間となっていた。
そして楓果ちゃんが先生に捕まっていたが、自業自得だと思うので放っておく。
――――――それから数分が経過し。
後片付けなどをすべて終わらせると、待望の20分間休憩である。
カズくんと楓果ちゃんが自分の席に座ったので、とりあえず俺も琴音の席に座った。
そして、琴音と連絡を取るべく通信機一式をポケットから取り出す。
「とりあえず一応心配だから、これで琴音にカズくんの妄想を話してみようと思う」
「憶測と言ってください!」
「カズッちゃんには妄想が似合っとるでー」
「反応に困るから微妙な罵声もやめてください!」
騒がしいカズくんたちの会話を聞きながら、俺は琴音に呼びかける。
「琴音、琴音! 応答せよ! オートーせよ!」
だがしかし応答なし。
「オートーセヨ! オートーしないとボーソーするぞ!」
『……あ、海兄ぃ!? あの……あっ』
「ん? お、おい、もしもし? 琴音? おーい!」
しばらく呼びかけ続けていると、やっと通信に気が付いたのか、通信機の一つであるイヤホンから声が聞こえる。
が、急にに音声が途絶えたので、琴音に何かあったのかと思い呼びかけてみた。
『……あー……』
すると、呼びかけの効果があったのか、イヤホンから再び声が聞こえてきた……の、だが。
聞こえてきたのは力強く、かなり迫力のある男の声。
これは俺の声じゃない。つまり、琴音じゃない。
『……山空ぁ。なんなんだこれは?』
げっ、もしかして西郷!?
どうやら俺が呼びかけたせいで、西郷…つまり俺の担任に見つかってしまった様子。
もし琴音(俺の身体)が通信機なんてモンを持っているなんて知れたら、どうなるか分かったもんじゃねぇ。
少なくとも、没収されるだろう。
『あ、えと、その、それ返してください』
俺の声……つまり琴音だ。
いいぞ琴音、そのままさりげなく没収を防ぐんだ。
俺とお前の連絡手段が断れるのを守りきるんだ。
『返してほしいのか? こりゃいったいなんなんだ?』
と、西郷が声を発したその時だった。
「い、今の誰なん?」
『ん? なんだこれ、いま声が聞こえたようだが……?』
西郷の声が楓果ちゃん達にも聞こえてたのか、楓果ちゃんがどうやら、初めて聞く声の主を不審がっているようだ。そして運悪く、その声を、ピンマイクが拾ってしまい、西郷に伝わってしまった。
『えー、もしもーし? ……声が聞こえた気がするのは気のせいか?』
西郷は疑い交じりの声質で、こちらに声をかけてくる。
よし、どうやら西郷はまだこれが通信機だということを気づいていないらしい。
危なかった。もし琴音(俺の身体)が通信機なんて持ってるってわかったら、カンニング扱いされて没収されてしまうところだったぜ。
もしそんなことになれば、俺と琴音の通信手段はなくなってしまう。それは色々とまずい。
ってなわけで、このまま黙って何とかやり過ごして…
「もしもし、あんた誰なん?」
あぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあっぁ!!!!!!!!!
楓果ちゃんキミちょっと空気読んでほしかったんだけどね!?
俺の手から強引に通信機一式を奪い取った楓果ちゃんは、通信機越しの相手、西郷に話しかけてしまった。
これは終わった。絶対に終わった。これで没収確定だ。
『あー、こちら西崎 郷介。山空の担任やらせてもらってる。よろしくー』
ってぅおい!! 西郷も普通に返答してんじゃねぇよ!!
「あ、ご丁寧にどもです。アタシは里中 楓果ー言います! よろしゅう!」
楓果ちゃんもご丁寧に会話してんじゃねぇよぉおお!!
バレたらダメなの!! いやもう手遅れですけどね!?
「あぁもう貸せっ! え、えーっと、とても大事な用があるのですが……もしよければ山空さんと変わっていただけませんか?」
とりあえず楓果ちゃんの手からピンマイクを奪い取り、交渉を試みる。
楓果ちゃんじゃ話にならない。なにより、事の重大さを伝えきれない。
ここは、俺の特技である口の上手さを生かさないと……!!
『無理でーす。要件はこの俺、西崎 郷介にお伝えくださーい』
だがしかし、昔から俺の口の上手さというものは西郷には通用しない。
無理でーすとか言ってる場合じゃないだろうに。お前仕事しろよ西郷。……あぁそうか、生徒を取り締まるのも教師の仕事か。
「どうしてもダメですか!? 本当に重要な要件なんです!!」
正直琴音と会話できないと本格的にまずいので、この琴音の可愛らしい声をお借りして緊迫感を伝えてみるも。
『ダメでーす』
の一点張りで聞く耳を持たない西郷
こんの……西郷の野郎ぅう!!
怒りのあまり力を込めた手の中から、パキッという音が聞こえる。いかん、思わずイヤホンを握りつぶしてしまうところだった。
……こうなったらしょうがねぇ、やっぱり中学を抜け出すか。
とりあえず琴音には先に事情を説明しておきたかったんだが、この際止むを得まい。
西郷に何かされる前に、琴音に接触しなくては。と、言うわけで。
「じゃあ直接そちらにお伺いさせていただきます!! くたばれクソ野郎!!」
ピンマイクにそう怒鳴りつけてやった。他人の身体だからこそできることってあるよね!
『おいおい……ちょっと待て。要件はなんだ。気になるから告げてからにしろ。さもなくば校内へ入れんようにする』
クソ野郎と言う言葉がいけなかったのか、西郷の声質が明らかに変わった。
この声は、キレている時だ。やっちまったぜ。調子に乗りすぎた。
「あ、え、えーっと……」
西郷はキレると、相手が誰だろうが容赦はしない。
だからこうなってしまった以上、俺は西郷の怒りを鎮めなければならないため、余計な発言はできないのだ。
考えるんだ俺。西郷の気に障らないような言葉を。
俺は脳をフル回転させる。これまでにないくらいにだ。
そんな時だ。カズくんが、俺の肩を軽く叩いてくる。
「なんだよ?」
今はカズくんにかまっている暇はない。必然的に、口調が荒っぽくなってしまう。
だがそんな俺にカズくんは。
「オレに任せてください」
小さな声だが、真っ直ぐで力強い眼差しのカズくん。
これは……戦う男の目だ!!
俺はカズくんの言葉に頷くことで返答すると、カズくんはピンマイクを俺の手からそっと摘み上げる。
チクショウ、なんかよくわからないが、今のお前、最高にカッコいいぜ!!
「初めまして、オレは小野 和也と言います」
『おぉう、なんだ誰だ? とりあえずよろしく』
中学生のカズくんと、教師である西郷との戦いの火蓋が今、切られた。
カズくんは多分頭がいい。この感情は、俺がまだ小学生だった時、藤崎くんに感じた感情と同じ類のものだ。現に、藤崎くんも悪知恵だけは一著前だったなぁ。今はどうしているんだろうか。
太郎くん、ツルちゃん、そして由香ちゃんも、どうしているんだろうか。
ちゃんと成長していれば、あの幼かった四人も今はもう中学三年生か。
多分、もう俺のことなんて忘れていると思うが。また、会いたいものだ。
「えっとあの、琴……あいや、山空さんに伝えてほしいことがあるんですが!」
『ほぅ、なんだ、言ってみなさい』
カズくんはこの状況をどう切り抜けるというのか。
何か作戦があるのかもわからんが、カズくんには何か考えがあるらしい。
頑張れカズくん、俺はキミに期待しているぞ!!
「その、『早く元に戻らないと大変なことになるから!!』とだけ伝えておいてください!」
って作戦はどこいっちゃったの!? そんなドストレートに本当のこと言わなくてもいいよね!?
そのことを聞いた西郷は多分きっと今頃『なに言ってんだコイツ』とか思ってるよ!?
『なに言ってんだコイツ』
ほらね!? 思わず口に出しちゃってるから!! さすがの西郷もこのありさまだから!!
「とにかく、伝えてください! 以上です!」
カズくんはそう西郷に告げると、通信機一式……ピンマイクとイヤホンの電源を『OFF』にした。
そしてやり切った感満載の満足げな顔で俺に向き直り。
「これでバッチリだね!」
と、笑顔で告げたのだった。
もうね……もうそれでいいよ。とりあえず伝わるだろうからそれでいいよ。シンプルが一番。シンプルイズベストだようん。
とにかく、今すぐにでも琴音と合流しなくちゃならない。
カズくんのあの、よくわからない捉えようによっては末期の厨二病を発症した哀れな男子中学生と思われてもおかしくないようなイタい妄想話が事実だとするならば、このままでは非常にまずい状態なのは明らか。
「お・く・そ・く!!」
仮病でも何でもいいが、とにかくこの中学校での琴音の印象を悪くさせないように注意しつつ、怪しまれないように中学から脱出しなければいけない。
つーか忍者もしくはスパイの仕事だろこれ。
「とにかく、誰にも見つからずに中学から抜け出したいのだが?」
教室内には、少なからず琴音のクラスメイトがいる。
なので、なるべく小声で楓果ちゃんとカズくんに解決策を求めてみた。
「そんなん気にせんと、ちゃっちゃと行ってきたらええやん」
身も蓋もないことぬかすな。そんなことしたら琴音が怪しまれるではないか。
印象っていうものはな、一度変わってしまうとなかなか元に戻せないんだよ。
琴音、安心してくれ。俺は絶対にお前が学校に通いづらくなるようなことはしないからな!
「気にしすぎだと思うけど……まぁ、いいや。とりあえず仮病で早退すればいいんじゃないかな?」
「うむ、やはりその作戦が一番の有力候補か」
「そないなことせんと、ぱぱーっと走って来たらええねん」
「楓果ちゃんはちょっと黙ってて」
「アタシなんも間違うたこと言うてへんのに……」
いいか楓果ちゃん。
勝手に中学を抜け出しなんかしてみろ。
そうしたら琴音はたちまち不良的扱い。そして虐めが起き、登校拒否につながるだろう。
そんなこと、見過ごせるはずがねぇ!!!
「はっ、そないなこと起こるはずないやろ。気にしすぎやわ」
楓果ちゃんの挑戦的な態度。
あれ、この子こんな口が悪い子だったけ。
「いいか楓果ちゃん。この世の中はな、『たったそれだけのこと』で良くも悪くも傾くものなんだ。現に俺だって……」
そう、中学の時だ。
ちょっと遅刻しただけで不良扱い。
屋上へ逃げ込んだことも誤解されて不良扱い。
よろめいて女子に触れてしまい極度の緊張と申し訳なさで顔を真っ赤にしている俺を、『めっさ怒ってる!!』的な感じで勘違いされて不良扱い。
高校に入って金持ちだからって忌み嫌われて、中学の頃よりはひどくなかったけど不良扱いされて。
俺はただ、普通に、普通にしてただけなのに!!
「楓果ちゃん。なんか地雷踏んじゃったみたいだけど……?」
「山空さんって、そない怖い顔しとるん?」
「うーん、オレが会った時は普通に面白い人だったけどなぁ」
正直自分でも、この時の俺はどうかしていたとしか思えない。
俺自身が体験した過去のトラウマ的なもので、深く考えすぎていただけなんだと思う。ただ、ぞれだけだ。というかただ昔から心配性なだけなんだ。
「はぁ……山空さん、琴ちゃんの印象とかその辺りはアタシらが上手いことやっとくさかい、安心してください」
「おぉ、そうか」
トラウマスイッチが入ってしまった俺に、楓果ちゃんが呆れながらそう告げる。
とりあえず、こんなところで落ち込んでいる場合ではない。
楓果ちゃん達なら何とかしてくれるだろうし、俺も臆病になりすぎた。
とにかく、今は琴音うんぬんよりもすぐに元に戻る方が重要だ。
「よし、じゃあここはとりあえず適当に任せた。俺は琴音に会ってくる!」
「任しとき!」
「任せてよ!」
俺の言葉に、楓果ちゃんとカズくんは力強く頷いてくれた。
そんな二人の覚悟を見届けた俺は、すぐにその場を立ち教室を飛び出…
『あ、あの、ちょっといいかな?』
飛び出そうと思った矢先、おそらく琴音のクラスメイトであろう男子が、いつの間にやら俺の隣に立っていた。あんた怖いよ。
「えと、な、なんかようかな?」
『あ、あのその……えと……ちょ、ちょっと人のいないところ行って話したいんだけど……』
顔を赤くして、妙に歯切れの悪い言い方。
おいおい……マジかよ。これってあれじゃねぇのか?
俗に言うほら、あの、こ、告白の一歩手前みたい……な。
『だ、だめかな……?』
いやあぁああ!!! こうしちゃいられん!! 逃げろ俺、とりあえず逃げろ!!
俺は琴音じゃないんだ、俺が話を聞いたって駄目なんだ!!
よし、断れ。あれだ、用事があるって言え! 用事があるって言うんだ俺!!
「あ、うん。いいよ」
いいよ言っちゃったーーー!!!!!
小動物のように何かを訴えかけるような潤んだ瞳に負けいいよ言っちまったぁぁぁ!!!
『あ、ありがとう! じゃあえと、僕についてきて!』
何やってんだよ俺、やばい、どうしよう。
すっごい嬉しそうな顔してるよ。あれは絶対断られるかと思ってたけどOKもらって大喜びしてる顔だよ!
あぁぁああ、とまれ!! 俺の足、とまるんだ!!
ついて行ってなんになる!? この俺なんかがこの子について行って何ができる!?
ああああぁあああああ、どうすんのよこれ。この階段上がりきったら屋上だよ? とか言っている間に上がりきってるよ!? ドア開けちゃったよ!? 俺が中学時代いつもお世話になってた屋上来ちゃったよ!? 告白の定番スポット来ちゃったよ!?
しかも幸いにも誰もいない状況よこれ! ほら、男子の顔!! 誰もいなくてほっとしてる顔!!
助けてくれ、誰か助けてくれ。
俺は琴音じゃないんだぞ、告白なんてどう返答すりゃいいのか……!!
「楓果ちゃん……もしかしてこのシチュエーションって……」
「……100%告白やな」
「そ、そんな……」
という会話が、俺の背後から聞こえてくる。
とても小声で話しているのか、あまりよく聞き取れないが、間違いなくあの二人だろう。
俺の後ろには屋上への出入り口のドア。おそらく二人はそこから覗き見しているのだろう。
幸い、俺を(というか琴音を)ここに連れてきた張本人である男子は、なんかコソコソしている後ろの二人には気づいていない様子。
「は、話って何かな……?」
屋上にたどりついたっきり下を向いてずっと無言の男子に、俺はそう問いかける。
そう、まだ告白と決まったわけではないのだし、それに早く済ませないと20分間休憩が終わってしまう。
だから早くこの男子の用件を済ませてさっさと中学を出なければ。
だからキミ、告白はするなよ。絶対にしてくるんじゃない。今ならカツアゲも許す。というかそっちの方がまだマシだ。
『あ、えっとそのえー………あのえと……その』
目を泳がせながら、言葉を考えている様子。
あ、これあれじゃん。100%告白の前兆じゃん。
そうかー、琴音ももうそんなお年頃かぁー。
とりあえずもう後には引けないっぽいし、とりあえず頑張れ。俺はキミを応援することにしたぞ。
目の前に立つ男子の勇ましい姿に、俺はもう色々と軽く現実逃避していた。
この様子をこっそり伺っている後ろの二人、カズくんと楓果ちゃんも、告白の場面を目撃するとなっちゃやはり緊張するのだろう。急に無言になっている。
そして、そんなみんなに期待されているとも知らない男子は――――
目の前の女子、『竹田 琴音』に向かって、とうとう言葉を放ったのだ。
『きょ、今日はいい天気ですね!!』
「おいおい」
俺の背後で早大な物音が聞こえる。
誰だよこんな状況で壮大にコケたやつは。まぁ、どうせあの二人に決まってはいるが。
『え? だ、誰かいるんですか……?』
あんな大きな物音をさせたら、さすがに男子も気づいたようで。
こんな告白の場面を誰かに見られたとなっちゃ、おそらく彼は生きていけないだろう。俺だったら死にたくなる。
それは、男である俺だからわかってやれること。つまり、俺には彼を助ける義務がある。
「あぁ、いや、ね、猫じゃないかなぁー?」
とりあえずごまかしに入った俺。
告白をこれからしようという時に誰かに見られていたなんてわかれば、せっかく振り絞った勇気がすべて無駄となってしまうはず。
それだけは阻止する。絶対に阻止する。
これはもう琴音とか関係ない、目の前に立つ、一人の男を守るために。俺は体を張るのだ。
『ね、猫って、学校に!?』
「そ、そう! よく来るんだよね! ちょっと見てくるから待っててよ!」
『あ、え、ちょっと』
男子がドアの向こう側を確認する前に、俺が確認する。
そうすれば万事オッケー。
俺は自らの身体を利用し、男子からはドアの向こう側にいるカズくんや楓果ちゃんを見えないようにドアを少しだけ開けた。
するとそこには、予想通り尻餅をつくカズくんと楓果ちゃんの姿が。
「お前ら何やってるんだよ!」
後ろにいる男子に聞こえないよう、声のボリュームをできるだけ下げて言葉を発する。
そして俺の声のボリュームと同じくらいの声で、カズくんが言った。
「どうだった!? 告白なの!? 告白じゃないよね!? 告白だと言ってよ!!」
「おいおいカズッちゃん、よくわからんぞ! 俺はどうすればいいんだ!……って」
……まただ。
また俺は、無意識のうちにカズくんのことを“カズッちゃん”と呼んでしまった。
これがカズくんの言っていた、『琴音の身体に俺の魂が馴染んできている』という証拠なのだろうか。
ったく、カズくんが余計な事を言うからなんかしらんが恐ろしいじゃないか。
「そんなことはどうだっていいんで、教えてください! 告白だったんですか!?」
俺の右手をガッシリと掴み、必死の表情で問いかけてくるカズくん。
そうか、カズくんはやっぱり琴音のことが好きなのか。うむむ、だとしたらライバル登場ってっことに……。
「なんやカズッちゃん、もしかしてアンタ琴ちゃんのこと……」
「い、いや!? ぜ、全然ききききききき気にしてないよ!? な、なに言ってんのザー! ここ、困っちゃうなもう!」
「わっかりやすい反応やな」
「ちちち、ちぎゃうって言ってるでしょーヴぁ!!」
「どんだけごまかすん下手やねんなジブン」
楓果ちゃんの言葉に、真っ赤になって否定するカズくん。
だがもう楓果ちゃんそんなカズくんは眼中にないようで、『へぇー……あのカズッちゃんがまさかねぇ。気づかんかったわ……ほぉー……』と呟いています。
カズくん、キミはもしかしたら、一番知られてはいけない人間に知られてしまったのかもしれないぞ。どんまい。
『……だ、大丈夫ー?』
後ろからあの男子の声が聞こえる。
そろそろ戻らないとマズいか。とりあえずカズくんには悪いがここは丁重にお引き取り願おう。恋愛には知らなくていいことも時にはあるのだ。
「とりあえずカズくんと楓ちゃ…楓果ちゃん。教室に戻りなさい」
「いやだ! オレは見届けるんだー! 最後まで見届けるんだー!!!」
「山空さん、悪化してへん……?」
子供のように駄々をこねるカズくんを横目に、楓果ちゃんが心配そうに俺を気遣ってきた。
楓果ちゃんのこと、また“楓ちゃん”って言いかけてしまった。ちょっと本格的にヤバいかもしれない。
『竹田さん? 大丈夫?』
「だだだ、大丈夫だから!! 端元くんは気にせず10歩下がって待っててくれ!!」
『え!? あ、う、うん』
危ない危ない、もう少しでばれるところだった。
もうすぐ後ろまで近づいてきていた気がした。
こんなとこ見つかった日には端元くんだけじゃなくカズくんや楓果ちゃんも変に思われてしまうからな。
…………え? 端元くん? 端元くんって……誰のことだよ?
「山空さん、端元くんのこと知ってはったん……? も、もしかして……」
――――それはやはり、無意識だった。
俺が知らない。琴音しか知りえない。
琴音のクラスメイトの男子の名前が、ふと……何もわからないはずの、俺の口から発せられたのだ。
「ふ、楓果ちゃん……ちょっとカズくんの言ってたこと……バカにできないかもしんねぇ……」
震える声でそう呟いた時。
俺の額から一筋の滴が、頬を伝い地面にポタリと零れ落ちた―――――――――
第五十話 完
~おまけ~
エ「せっかく50話突破したんヨに挿絵がひとっつも描かれていないんヨね」
恭「あぁ、そのことなら『挿絵!?めんどくさいんじゃ!』って作者さんが」
エ「マジなんヨかっ!!」
雪「なに適当なこと言ってるんですか眼鏡先輩!! ユキたちの作者さんに限ってそんな事あるわけないじゃないですか」
恭「それが本当なのだよ。ほら、ここに証拠のテープがある」
テープ『挿絵? あぁ、ごめんなさい。最近暑くてめんどくさいんだっちゃ☆』
雪「メガネ先輩の情報と全然違うじゃないですか!」
エ「そうなんヨ!『挿絵!? ンなもん描いてる暇があったら勉強しろクズめぇ!!』なんて全然言ってないんヨ!」
恭「いや、僕はそこまで酷く言ってはいない」
エ「ちょっと悪を盛ってみたんヨ!」
雪「エメちゃんはいったいどなたの味方なんですか!?」
エ「ウチはソロプレイヤーなんヨ」
恭「どこでそんな言葉を?」
エ「コトネに聞いたんヨ」
雪「琴音っち…………」