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俺の日常非日常  作者: 本樹にあ
◆入れ替わり編◆
61/91

第四十七話~発明品とか英語のテスト勝負とかその他とかのアレ~

はいどうも!! 今回はなんとエメリィーヌの(簡単な)初挿絵が!!

イメージがぶっ壊れる可能性がありますが、それもまた……この小説の醍醐味だから☆


……まぁ、俺の各挿絵を見ようとすると体が過度な拒絶反応を起こしてしまうという方は、挿絵非表示推薦。

つーか、本当にそんな人がいたら推薦どころじゃなく非表示にしろよ? 無理して死んだんじゃシャレにならんからな?


―――――朝。

今日は珍しく目覚まし時計が鳴るよりも先に起床した。

こんなにすがすがしい朝を迎えるのは何週間ぶりぐらいだろうか。


俺はゆっくりと体を起こし、頭上付近においてあるはずの目覚まし時計に手を伸ばす。

そしてそれらしき物体に触れると、俺はそれをつかみ上げ……


「今何時だろう……」


そう呟きながら、俺は目覚まし時計を確認した。

すると。


「…………遅刻だぁぁぁぁぁ!!!!!」


目覚まし時計が鳴るよりも先に目が覚めた?

いいや違う、おそらく無意識の内に止めていて気が付かなかっただけだろう。


俺の手に持った目覚まし時計を見てみると、長針が一番上に、短針がその左隣に位置していた。

つまり、それが指し示す時刻は……11時ジャストとなる。


……と、言うわけで。


ヤバいよ、遅刻どころの騒ぎじゃなく超大遅刻だよ!!!

せっかくクラスにも馴染めてきたってのに遅刻なんかした日にゃ、また不良のレッテルが張られる!! いや、もうすでに張られている不良のレッテルが定着してしまう!!!

だから俺は夏休みが終わってから極力遅刻をしないよう心がけてきてたってのに!!

今日のせいですべての苦労が水の泡だぁぁぁ!!! 俺の平和な学校生活終了のお知らせだぁぁぁ!!!! どうしてくれんだよォォ!!!


そんなわけで本日。俺…こと山空(やまぞら) (かい)の一日は幕を開けた――――――――――




第四十七話

~発明品とか英語のテスト勝負とかその他とかのアレ~




「ふぁ~……カイ、時計をさかさまに持って何をバカみたいに騒いでるんヨか……?」


小さなあくびをしながら、薄緑色でクローバー柄したパジャマを着て寝癖バッチリの小娘がゆっくりと体を起こしながら言ってきた。


「バカじゃねぇよ!! つーかエメリィーヌも早く準備ないと…え? さかさま?」


そう、エメリィーヌに言われて気付いた。俺は目覚まし時計を逆さに持っていたのだ。

つまり、午前11時ジャストだと思い込んでいた時刻は、正確には午前5時30分だったわけだ。


……あっぶねぇ!!! うわマジ驚いたわ!! 寝ぼけてたから気が付かなかったのか……凄い驚いたわ!!

つーか俺の体内時計にどんな不具合が発生すればこの自称:ねぼすけ小僧たるこの俺がこんな早朝に目が覚める事が可能となるんだ!? おそらくその事が一番驚く要素だわ……って誰がねぼすけ小僧だよ失礼なッ!! つかなんだこの意味の分からんセルフノリツッコミはッ!! お、なんか自分で言うのもあれだが『セルフノリツッコミ』っていうツッコミ面白いな。今度秋に教えてやろう。


「朝っぱらから騒がしい奴なんヨねぇ……そんなことより朝メシはまだなんヨかぁ……?」


まだ眠たい目をこすりながら、寝ぼけ交じりにそんな事を呟くエメリィーヌ。


寝起き直後のクセにいっちょまえに食欲旺盛かよ。まだ頭は半分寝てるだろお前。そんな状態で食えるのかよ。

つーか女の子なんだから朝メシとか言うなよ。なんか豪快すぎるだろ。女の子なら女の子らしく『おなかすいたー!』とか『朝ご飯が食べたい!』とか色々あるだろうに。


「ちょっと、人の話を聞いてるんヨか?」


「『人』の話? お前人間か?」


「宇宙『人』なんヨ!! 異星『人』なんヨ!!」


少しからかったらなんか凄い形相でキレられた。これが寝起きのイライラって奴か。

つーかそんなアピールしなくても、お前がアホだけど人間だということはちゃんとわかってる。


「カイ~! さっさとメシを作ってくれなんヨ~!」


ベッドの上でごろごろ転がりながら文句ありげになんか言ってるエメリィーヌ。


お前それ、人にものを頼む態度じゃねぇから。


「だったらどんな風にお願いすれば作ってくれるんヨか」


エメリィーヌは、キッっ! と俺に向き直るとそう言った。


なぜ俺は睨まれているんだろう。

……だがそんなことよりも、エメリィーヌが自分で言い出すなんて、これはまたとないチャンス。飛びきり俺好みのセリフを言わせてやろう。


俺は脳内で凄い数のセリフを思い浮かべる。

その中でも最高のセリフベスト3を決めた。


『お兄ちゃん、おなかへった!』『お兄ちゃん、ごはん作って?』『お兄ちゃん、一緒の朝ごはん食べよ?』


あ、やばい。これじゃ妹欲にまみれた変態じゃねぇか。

……いや、これはエメリィーヌへのお仕置きだ。最近調子こいてるからなアイツ。だから恥ずかしいセリフを言わせるというお仕置きなんだ。消して俺がききたい訳ではない。ましてや、妹欲にまみれている訳でもない。

俺はただ純粋に、そして切実に日頃の恨みとかをここで晴らしたいだけなのだ。


自分の人権を守るために(おのれ)の心に保険をかけた俺は、3つの内の一つのセリフをエメリィーヌに言わせる事に。

ふっ、エメリィーヌの演技力の高さは数日前の映画撮影の時にバッチリと確認済みだ。どんな演技が見れるか見ものじゃのぉ! やべっ、心の保険に少しヒビが入った音が聞こえた。


「じゃあエメリィーヌ、『お兄ちゃん、ごはん作って?』って可愛く言ったら作ってやる」


挿絵(By みてみん)

「バカじゃないんヨか……?」


挿絵(By みてみん)

「!?!?!?!?!?!」


……お前……なんて事を……お前なんて事を……!!

お前が言いだしたんじゃないか……!! お前が言いだした事じゃないか……!!!

俺は……俺は……お前が言ったから俺は!! 俺は…………俺は……なんて変態なんだ…………。

さんざん意味のない言い訳を重ねて……。挙句の果てに自分のキモさをエメリィーヌのせいにするなんて……。

俺は人間のクズだ………俺のような奴が生きているから……………この世界は薄汚れていくんだ…………。

ふふっ……ふふふ…………。………なぜだろう……自分が……ゴミのようだ…………――――――――――――――




~Fin~
































「――――って馬鹿野郎!! お前のせいで声にならない悲鳴と共になんかダイナミックに反省しちまったじゃねぇか!!!」


「いや知らないんヨ」


あぶねぇ!!! ギリギリセーフ!!!

こんな最悪な形で終わるのかと思ったぞこの野郎!!

こんな形で終了したらそれこそゴミだわボケ!!


「もう、騒がしいなー。こんな朝っぱらから何騒いでるのよー」


ガチャ……と、部屋のドアが開いた。

そしてそこにいたのはなんと。


「こ、琴音ぇぇ!?」


中学の制服であるセーラー服を身にまとった琴音が、なんかいた。

不法侵入されるのにはもう慣れてはいたが、こんな平日の朝っぱらから侵入されるのは初めてだった。


「こ、コトネ……なんでいるんヨか……?」


エメリィーヌも目を丸くしている。当然だ。

なぜならば、俺は琴音をそんな子に育てた覚えはないのだから。


「いや育てられた覚えもないし」


な、なんだと!?

お前、ちょっとそこ座れぇぇぇい!!!


「いいか琴音!! お前の全ては俺の計画通りに育て上げられているんだ!! お前の知らぬうちにな!!」


「へー」


あれ、なんか反応が冷たい。


「そんなことより、なんでコトネはこんな朝早くからココにいるんヨか?」


俺達(正確には俺一人)の茶番をなんか凄く冷めた目で見ていたエメリィーヌが、話を戻し琴音に聞いている。

その子供とは思えぬ冷静かつ冷ややかさに、俺は若干、差恥心を感じていた。


「なんでって……カギが開いてたから」


ってちょっとおかしいヨ!? この中学一年生ちょっと頭がおかしいアルヨ!?

なんでそんな不思議そうな顔してるアルカ!! 一般的にはそれは犯罪なんでアルヨ!?


「なんだ、それなら仕方ないんヨね」


「仕方なくないアルヨ!?」


エメリィーヌお前もどうかしてるアル!!

琴音の説明で納得してるんじゃねぇアルヨ!!


「なんでそんなよくありげな中国人みたいな喋り方してるのよ」


「お前らの頭がイカレてるからだよ!!」


大体、なんでカギが開いてるとあがってくるの!?

お前はあれか、例えば金庫のカギが開いてたとして、お前は中身を盗むのか!?

『なんで盗んだんだ!!』とか言われて、『なんでって……カギがあいてたから』とでも言う気か!?

許されると思ってんのかよ琴音!! そんなんで許されるのなら警察も最新技術の防犯グッズもいらねぇんだよ!!


「いや、そこまで大それたことしてないし……」


「してるだろ!! 法的に犯罪行為って定められている事をしてるだろう!! 住居不法侵入してるだろうよ!!」


「大丈夫だよ。こういう事は、海兄ぃの家だけしかしないから!」


そしてこの笑顔である!!


「って、あれ? とうさ…俺の親父はどうしたんだ?」


海外の仕事から突如帰ってきてしばらく。

我が父親はすっかり酒癖の悪いただの親父に戻っていたはずだ。


俺の親父は映画監督なんだが、実は映画の仕事がなかなか来ないらしく、ここ最近ずっと滞在しているのだ。


そんな親父がいるにもかかわらず、堂々と不法侵入してきたのかなぁ……なんて思ったから聞いてみたところ。


「リビングのテーブルの上に『父ちゃんちょっと出かける』って置き手紙残ってたよ?」


「はぁ? 親父の奴、何がしたいんだよ?」


「いや私に聞かれてもしらんけど」


「そりゃそうか」


親父の奴め、どんだけマイペースな奴なんだよ。

てか今気付いたけど俺の周りってマイペースな奴らばっかじゃね?

俺ってマイペースな奴を引き付ける能力でもあんのかな。いらねぇよそんな能力。


「そんなことよりエメリィちゃん、私が朝ご飯作ってあげるよ」


またも琴音が変な事を言い出した。

おそらく、琴音は夏の暑さに頭をやられてとうとう故障したのだろう。


「なんでお前が作るんだよ!!」


俺は正論を言い放った。


「暇だからに決まってるでしょ!!」


すると琴音も、言い返したくても言い返せないような正論を言い放ってきた。


なかなかやるじゃねぇか琴音。

だがしかし、そっちがその気なら、俺も容赦しねぇぜ!!


そう心の中で決めると、俺はかっこよく言い放つ!!


「なら俺の分もよろしく頼む!!!」


「まかせなさい!!」


「そこは怒らないんヨか……」








―――そして。

いつもよりも早めの朝食タイム。

時計の針はまだ午前5時37分を指している所だ。


琴音が朝食を作ってくれている時間を利用し、俺とエメリィーヌは着替えなどの身支度を済ませた。


「ついでに海兄ぃ達のお弁当も作っておいたから」


と、琴音は料理を運びながら言う。


「おう、悪いな。ありがとう」


……弁当ってそんなついでで出来上がるほど簡単なモノだったっけ?

と、思いながらお礼を言っておく。俺って偉い。


琴音の手料理が全て運び込まれると、テーブルの上に綺麗に並べられた。

……といっても、所詮は朝食で、さらには俺んちにあるだけの素朴な材料のみなもんだから、いくら調理師が琴音だろうと出来上がるモノは結局素朴な料理だけだ。

だがしかし、見た目と言い出来栄えと言い、心なしか俺が作る朝食よりもおしゃれな雰囲気が漂っている気がする。なんか敗北感。


「琴音ちゃんの手料理……琴音ちゃんありがとう!! 僕はもう死んでもいいかもしれない!!」


「じゃあ今すぐ死ねよ」


「だが断る!!」


朝っぱらからハイテンション極まりないなこの変態。

つーかオメガお前、目の下にクマが出来てるけど……まさか寝てないの? 何やってんだよお前、寝ろよ。


「いや、実は徹夜で発明品の点検を少々……」


俺の考えを読み取ったかのように、オメガはそう言った。


あ、忘れてるかもしれないから説明しておくと、オメガはなんか変な道具を発明するのが趣味なんだよ。

……しかし、オメガの発明品っていったいどれくらいあって、どんなものがあるんだろうか。正直謎に包まれてるな。


「いただきますなんヨ!!」


「いただきます」


琴音とエメリィーヌは、両手を合わせて食材達に感謝の意を示した。

とりあえず俺も同様に食材達に感謝をし、食べ始める。オメガはもうすでに食ってる。


「ねぇ、恭兄ぃの発明品ってどんなのがあるの?」


唐突に、琴音がそうオメガに問う。

つーかいきなりどうしたよ。琴音お前には、話の流れとか順序みたいなことは頭にないのか?


……と、言いたくなったが、俺が丁度気になっていたことでもあったわけで。俺も琴音に続いてオメガに聞いてみた。


「そうだよな、俺達が知ってるのなんか、変なシールや……なんか変な銃……あとは……あぁ、変なクリームもあったな」


挿絵(By みてみん)

ちなみに、変なシールと言うのは『精神安定シール』という代物で、そのシールを張られた人はたちまち大人しくなっちまうという代物である。

前にそのシールの後遺症で精神が狂って性格が変動するといったような事件もあったが、今は改良したらしく『精神安定シール(改)』として後遺症が出ない形となっている。


んで変な銃って言うのが、その名も『スライム型腫れ引きレーザー銃』とか変な名前だが、その効力は凄いものだった。打撲やねんざ、骨折に打ち身など、切り傷や擦り傷以外なら治してしまうという代物である。でもネーミングセンスしょぼい。


んで最後に、変なクリームってのは『衝撃緩和クリーム』というものである。その効果はと言うと、クリームを体全体に塗るだけで、物理的な衝撃をほぼ無効化できるという凄いものだったっけ。


「わざわざ説明感謝するよ山空」


「どーいたしまして」


俺も含め、皆は琴音の作ってくれた朝食を自由に口へと運ぶ。

っておいエメリィーヌ。こぼしすぎだぞお前。


そんな事を思っていると、オメガがふところから何かを取り出した。


「山空、ちょとこれ持っていてくれ」


そう言って差し出されたものを、俺は手に取った。


なんか小さいものが二つ。

一つは、小さくて可愛いカエルのキャラクターの顔の……なんだこれ、イヤホンか?

そしてもう一つは、……これ普通のピンマイクじゃねぇか。あ、でもコード的なものはないな。


「琴音ちゃんにはこれ」


琴音にも何かを渡したようだ。


「なにこれかわいい」


受け取ったものを見た琴音が、そう呟く。


「キミの方が可愛いよ」


と、オメガがなんかキモいこと言ってるがスルーしよう。


「なんなんヨかそれ……ニンジン? カイのはカエルなんヨね」


俺の受け取ったものと琴音の受け取ったもんを交互に見比べたエメリィーヌが、口に米粒をつけながら元気に言う。


……俺のはカエルなのに琴音のはニンジンなんだ。なぜだ。

ってちょっとまてよ、ってことは琴音はニンジンのヤツを見て『かわいい』とか言ったのか? 琴音お前どんな神経してんだ。


「で、これ何に使うの?」


琴音はイイ事を言った。そうだ、俺もそれが気になっていたんだ。

……でもまぁ、大体は見ただけで想像がついてしまったが。

察するに、イヤホンとこのピンマイク的なのが無線的な役割を果たし、遠くにいる人とでも会話が可能とかそんな感じだろう。


俺が勝手に推測していると、オメガはこう言った。


「その名も『いつもボソボソあなたの隣に這いよる声紋ボイス! ボイス・トゥ・ボイス』だ」


「なんかパクってねぇか?」


「気のせいでござろう」


「ならいいんだが……」


つーか、ボイス・トゥ・ボイスってどういう意味だよ。なんの単語だそれは。


「意味なんてない。ただの気まぐれだ」


気まぐれかよっ!!

なら意味深な命名するんじゃねぇよ!!


……なんてことを思っていても声には出さない。

朝っぱらからそんな激しいツッコミを入れられるほど、俺は元気なわけじゃないんだ。健康ではあるけども。


「……これ、耳につけるの?」


ニンジン型のイヤホンを持ち、琴音が耳につけた。

これによって、琴音の左耳にニンジンが張り付いている状態となる。……シュールだな。


「イヤホンにもなるけど、服装やその日の気分で色々合わせられるように、イヤリングや鼻輪にもなるよ」


「鼻輪にした事によるメリットはなんだよ……」


オメガの発言にやや呆れつつも、俺は琴音のとは違うカエル型のイヤホンを耳につける。

……自分じゃよく分からんが、今俺の耳にカエルの顔が張り付いている状態になってるのかな。琴音の耳にニンジンのように。


「そのイヤホンを耳につけたら、もう一つの渡した方を服につけてくれ」


言われた通り、俺は首元にピンマイク(?)をつけた。


「この黒いのはなんなんヨか?」


と、エメリィーヌが問う。


「あぁ、それは、ピンマイクのようなモノだよ」


「なんなんヨか」


何が『ピンマイクのようなモノ』だよ。思いっきりただのピンマイクじゃねぇか。

……つーか、なんか俺テレビに出てる人みたくなってるけど。ピンマイクのせいで。


「じゃあ琴音ちゃん、ピンマイクに向かって何か言ってみそ?」


オメガが言うと、琴音がピンマイクに向かって何かをささやき始める。

するとどうだろう、誰にも聞こえないほどの小声なのに、耳につけたイヤホンから琴音の声がバッチリ聞こえるではないか。


「どうだ山空、琴音ちゃんのいやらしボイスが届いただしょ? だしょだしょ? だしょだしょだしょ?」


「いやらしい事なんてささやいてないよ。あとだしょだしょうるさいよ」


オメガのバカみたいな言葉に、すかさず琴音のツッコミが入る。

その素晴らしいツッコミも、俺の耳…あ、左耳な? 左耳につけているイヤホンからバッチリ聞こえた。


「ちなみに琴音の囁いた言葉は、『応答せよ!』だったぞ」


軽く吹き出しかけたんだぞ俺は。

でも気持ちは分からんでもない。応答せよ! って言いたくなる気持ちはよく分かる。俺もつい応答したくなっちゃったもの。


「ちなみに、小さい声は大きく、大きすぎる声は程よい大きさに自動修正してくれる他、ピンマイクの側面についているボタンを押すと声色を変えて相手を脅迫することも可能だ」


と、オメガが付け足す。


脅迫はともかく、声色を変える事が出来るのか……どれどれ。


俺は実験感覚で、ピンマイクについていた小さなボタンを押し、『す、スネーク!? スネーーーーーク!!!』と、あのゲームの名(?)台詞を小声で叫んでみた。

するとゲーマーである琴音のツボに見事ハマったのか、オレンジジュースを吹き出させてしまった。やっちまった。すまん琴音、悪かった。

いったいどんな声色になっているのかは分からんがとにかく悪かった。


「ケホッ! コホッ! ご、ごめん恭兄ぃ、ピンマイク汚れちゃった」


琴音が吹き出したオレンジジュースが、見事ピンマイクに降り注いだ様子。

やべぇな、ピンマイクって相当なお値段だったような気がするぞ……。って、そんな高いピンマイクをオメガはどこで手に入れたんだよ。


「あぁ、大丈夫だよ琴音ちゃん。僕が改良したピンマイクは、完全防水の他にも耐熱耐寒もバッチリなのさ。で、水深1000メートルまでなら通話可能だから」


「すげぇなおい!!」


どんだけ強電波なんだよこのピンマイク!!

コレを大量生産すれば金儲けできるじゃん!!

一生遊んで暮らせる夢が叶えられそうじゃん!!


ちなみに、オメガによると、海の中にいようが、溶岩の中にいようが、氷山の中にいようが通話可能らしい。

まさに奇跡のピンマイクである。ピン芸人さんも大喜びだ。


「ごちそうさまなんヨ」


エメリィーヌは早めの朝食を綺麗に食べ終えると、すぐにその辺を走り回り始める。なにやってんだよお前。……あ、食後の運動か?

もし仮に食後の運動だとしても、走り回るのはやめていただきたい。掃除しているとはいえ、ハウスダスト達がお祭り騒ぎになっているはずだ。


「エメルー! はいチーズ!」


そんなエメリィーヌを見たオメガは、カメラを構え、何とも元気な被写体をとらえようと試みる。


「チーズくれるんヨか!?」


だがエメリィーヌは写真なんぞ撮られた事がないため、日本では定番の『はいチーズ!』をイイ感じに誤解した。

そしてオメガはエメリィーヌにチーズを与えている。なんで持ってんだよチーズ。あとエメリィーヌお前さっき朝食を食ったばっかだろうに。


「さて、僕も食べ終えた事だし……丁度いいか」


そう呟くと、オメガは庭に設置してある自分専用のテントへと消えていった。

いったい何が丁度いいのか分からないまま、数分が経過する。



―――そして数分後。


「ごちそーさん」


「ごちそうさまでしょ」


「ごっつぁんです!!」


「ごちそうさまでしょ!!」


なんていうやり取りを琴音としていると、やっとこさ変態が戻ってきた。

だが、戻ってきた変態の手には、旅行カバン並みの大きさの黒いカバンが。……まぁ、旅行カバンである。


「一応説見しておくと、これは『何でも圧縮カバン』と言って中身ごと枝豆の豆サイズにまで圧縮&縮小し、持ち運びが便利になるという僕の発明第49号である」


と、誰も聞いていないのにベラベラ説明しだしたオメガ。

第49号って事は、それ(何でも圧縮カバン)の他に少なくとも48種の発明品があるってことになるよな……。


「今カバンの中身を広げる……あ、ちゃんとおかたづけするから安心めされよ」


俺と目があって察したのだろう、若干焦りながら『かたづけるから』と付け加えてきた。

そして、カバンの中に入っている発明品らしきものを床に並べ始める。


「凄い量なんヨ! ガラクタの山なんヨ!」


エメリィーヌがはしゃいでいる。元気で何よりである。

だがしかし、こんな朝っぱらからよくそこまではしゃげるものだ。


そして、先ほどエメリィーヌの言ったように、マジで大量に、次から次へと出てくる変態の発明品達。

この場に秋がいたら確実に『ド○えもんかよ!!』と言ったようなツッコミが入るであろうガラクタの量に驚きを隠せない。


「四次元ポケットかよそのカバン!!」


ほら、とうとう秋のツッコミが入った。


…………うん。なるほどね。住居不法侵入現行犯で逮捕しよう。


「なんでお前までいるんだよ秋!! 世の中にはインターホンという大変便利な人間の科学力の結晶の塊がだな!!」


俺は秋に向き直り、鋭く怒り狂う。……いや、狂ってはないけども。

つーか秋お前、なんかもう相変わらずの存在感の無さに俺の心が安心するようになってきたわ。


「黙ってあがりこんだのは悪いと思ってる。けど、さっきからずっと一緒にいるじゃねーかよ」


「はぁ?」


なんか秋がおかしい。変な事を言い出しやがる。

あ、琴音の兄貴だもんな。妹が頭おかしけりゃ兄貴もおかしいよな。納得だ。


「海兄ぃ、秋兄ぃはずっと海兄ぃの隣にいたじゃん。朝ご飯だって一緒に食べてたし」


……え?

………え、え!? なにマジで!? 怖い怖い怖い!! 何これ、ホラー!?

絶対いなかったって!! さすがに隣にいたら気付くって!! この世にそんな透明人間みたいなヤツいねぇって!!

……さては悪霊だなっ!? 俺の家に住みつき親友の姿に化けている悪霊に違いない!! そう決まれば追い払うべし!!


「悪霊退散!! 悪霊退散!!」


俺は秋に向かって必死に塩をまいた。

すると。


「あ、悪霊!? え、俺の後ろにいるのか!? あ、悪霊退散!! 悪霊退散!!」


悪霊はあんただよ。


という言葉が口から出そうになったが俺は耐えた。

そう言えば秋は極度のチキン野郎だったっけな。悪い事をした。


……いやいやいや、悪い事してねぇよ。俺は正しいよ。

大体、なんで人んちに勝手に上がりこんで……あぁ、もういいわ。いちいち気にしてたら体力がいくつあっても足りん。


「カイが折れたんヨね」


エメリィーヌがなんか言ってる


……ちなみに、ちゃんと秋の分の皿がテーブルの上に置いてありました。綺麗に完食されてました。

一言も喋んないから、マジで気が付かなかった。秋お前透明人間イケるよ。レッツ透明人間チャレンジだよ。


「……あ!? ヤベぇ、俺今日学校いく前に寄る所があるんだった!! じゃあな海!! 遅刻すんなよ!!」


そう言って彼は去って行った。いったい彼は何がしたかったのだろうか。

飯だけ食って……去ってったわ。


「ジャ~ンジャジャ~ン♪」


全て並べ終えたのか、両手を広げて無表情で床いっぱいに並べられた発明品達を披露してくるオメガ。

その数は、もはや数えるのも面倒くさいほどである。


まぁ、見た感じ、細かいのから大まかなものまで、様々な形したガラクタが。数はざっと100は余裕で越しているといったところか。……多っ!!


「恭兄ぃ、この可愛いのはなんなの?」


琴音が並べられた内のひとつを手に取り、オメガに聞いている。

そしてオメガは、琴音が興味を示してくれた事にさぞ喜びを覚えたのだろう。なんかひどく気持ち悪い笑顔で答えた。


「お、お目が高いよ琴音ちゃん! これはね、こうして……こう……で、こうすると……こうなるんだよ」


「へぇー」


おいコラお前ら。俺やエメリィーヌにも理解できるように会話してくれよ。

どんな事が出来るのか、一応気になってるんだからさ。

エメリィーヌも、『?(はてなマーク)』を頭に浮かべちゃってるじゃねぇか。


俺がそんな風に思っているのも知らず、琴音とオメガは次の道具へと手を伸ばした。


「じゃあさ、これはどんななの!?」


「これは……こうすると、ドカーンってなる」


「へぇー!」


心なしか琴音もすっごい楽しそうである。

そしてドカーンってなんだ。爆発するのか? もしそうならば早急に片づけてくれ。家が崩壊する恐れがあるからな。

てかそんな爆薬を作るなよ。何に使うんだよその爆薬。爆発オチ以外の使用方法が思い浮かばねぇよ。


「……しっかし、ホントわけのわからんもんが多いな……」


そう呟きながら、俺は足元にあったなんかよく分からない丸い機械を手に取ってみた。

……その時である。


「あ、山空!! それに触れては危険なり!!」


「え……? あ、うわっ……!!」


オメガが突然声を荒げたのに驚いた俺は、その辺に散らばってた発明品の一つを踏んづけてバランスを崩してしまった。


……やべっ、コケる!!


そう思ったがもう遅し。

バランスを崩した俺は、なんか結構近くにいた琴音の方へと倒れこみ、琴音を巻き込んで勢いよく転んでしまった。


つまり、琴音を押し倒す形となるわけで……。


「いやぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああぁ!!!!!」


響き渡る悲鳴。

近所にまで確実に届いたであろう、この悲鳴。

琴音を見ると、若干、顔を赤くしている。


琴音もまた、人見知りの性格からか俺たち以外の男子と絡むことは少ないのだろう。

俺の女性免疫が無いのと、似たような状態だと思う。


たとえ親しくしている人とでも、こんなに密着する事なんてほとんどない。あること自体奇跡的確率なのだ。

俺も、琴音の顔をこんな近くで見た事なんて今日が初めてかもしれない。それほどに、珍しい事。


そんなんだから、琴音はとても緊張しているのだろう。……わかる。俺には分かるぞその気持ち。

たとえ相手が俺だろうと、緊張してしまうものは緊張してしまうのだ。

俺だって……相手がたとえ琴音だろうと。相手がたとえ中学生だろうと。とても緊張してしまう。


そして、緊張しまったものだから……あんな悲鳴が『俺の口から』飛び出てしまったのだ。


「なんで海兄ぃが悲鳴上げてんの!? 普通逆でしょ!! 悲鳴役は私だよ私!!」


役とか言うな。別に俺はふざけたわけではないのだ。

このあと絶対に殴られると思うと、緊張と恐怖により悲鳴が飛び出してしまっただけなのだ。


「別に殴ったりしないし……てか早くどいてよ!」


「ご、ごご、ごめん!」


分かってる。自分でもわかってる。

だから馬鹿にされる前に開き直ってやる。俺は小心者だ!!


別に琴音の事が恋愛対象的な意味での好きとかそういう訳ではない。そんなこと関係ない。

女性免疫の無い人間にとって、たとえ相手が子供でもこんなに密着されるとどうしても意識してしまうのだ。


ちょ、今ロリコンとか言った奴でて来い!! 俺はロリコンじゃないぞ!!


子供は大好きだが、俺の言う『子供好き』というのはただ純粋に子供が好きなだけであり、別にそう言った系統の好きではない。

よって、俺はロリコンではないという結論に至る。新のロリコンはオメガのような奴の事を言うのだ。


「ロリコンロリコンうるさいな!! どうでもいいから早くどけよ!!」


「痛い! 痛い痛い!! つねるな! どこうにもどけんからつねるな!!」


「ならどいて!」


なんか逆ギレされてとても不愉快だが、俺が悪いので何とも言えない。


俺は琴音にセカンド暴力を喰らう前に颯爽さっそうとどこうと、ゆっくりと腕に力を入れた。

その時だった。


バチッ!! という音と共に、身体に電流が走る。


「っ……!?」

「うッ……!?」


密着していたせいか、琴音にも電流が走ってしまったようで、軽く呻き声が漏れていた。


入れていた腕の力が抜け、琴音を全体重で思いっきり踏みつぶしてしまう。


「うえッ………!! 重い! 潰れる! 短い人生だった!!」


「……いっつつ、なんなんだよチクショー」


俺はどうやら倒れた拍子に突き指をしたようで、なんか無性に中指が痛い。

てか琴音、お前の人生それでいいのか。


「なんなんだよはこっちだよ! 早くどいて!! 重いから!!」


「うわっ、ご、ごめん」


俺につぶされて身動きが取れなかった琴音に、怒鳴られてしまった。

このままでは琴音のひざが俺の脇腹に入りそうだったので、俺はすぐに琴音の上からどいた。


「なに二人してマンガみたいなコトやってるんヨか」


呆れ果てた感がとてもよく伝わるエメリィーヌの声。


「山空貴様よくも全国のロリータコンプレックスの住人を敵に回しおったな!? そこでなぜ手を出さぬのだ!! この意気地なしめ!!」


そして変態の罵声が耳につく。


あの状況で手を出してみろ。そんなことした瞬間俺は、世間的はもちろんの事、物理的にも消されてた可能性が高い。

俺は知らないうちにあの世逝きだ。もちろん、琴音の手によって。


つーかオメガお前、まるで生ゴミを見るような眼で琴音に睨まれてるぞ。

きっと今の変態的発言で琴音の抹殺リストに登録されたんじゃないか? しかも結構上位の方で。


「そんなことよりも……まったく、山空ときたら。そこに置いてあるのは未完成品で、何が起こるか分からないんだから勝手にいじくってはダメじゃないか!!」


メガネをクイッと上げ、すっげぇ偉そうに文句を垂れるオメガ。


……未完成品……? 何が起こるからからない……?

てっめぇ……。


「だったらそんな危険なもの最初っから置いとくんじゃねぇよ!!」


俺は未だに手に持っていた丸い機械をオメガに投げつけた。

プロ野球選手もビックリの強烈なストレートである。


「うがっ!!」


スコーン!! と、いい音が鳴り響く。

どうやら直撃したようだ。


「っつぅ……そういえば、さっきなんかビリッとしたけど大丈夫なのコレ……?」


転んだ拍子にぶつけたのか、右肘をさすりながらゆっくりと起き上がる琴音。


そうだった。確かに、さっきビリッとした。あの静電気のチクッっとするような感じで。

俺が腕に力を込めた瞬間だったから、おそらく手に持っていたあの丸い機械のせいだと思う。さっきオメガに投げつけたヤツ。


となると、オメガの道具が誤作動を起こした可能性が高い。

どんな効力を持つ発明品か分からんが、色々とまずい状況にあるのは間違いないな。変態の作るもんなんぞ信用ならんし。


そう考えた俺は、一応念のため、自分の身体にどこか異常があるかどうかを確認する。


「……俺は異常ないけど……琴音はどこか変なところとかあるか?」


「うーん、私も特におかしくなってそうなトコはないけど……」


「……なら大丈夫だろ」


……琴音を不安にさせないために大丈夫とは言ってみたものの、やはり不安はぬぐえない。

何せあの変態が発明した道具なんだ。信用できるわけがない。

でもそれは琴音も同じようで、ふと琴音を見てみると、やはりどこか不安そうな表情だ。


「アレは未完成品だから、おそらく何も起こらないとは思うが……。もしなにか異変を感じたら早急に教えてね琴音ちゃん。僕がすぐに助けてあげるからね!」


直撃したところが見事に大きなこぶになっており、そこを痛々しそうにさすりながらとても優しい口調でそう言ったオメガ。

もちろん、その言葉の中に俺の身の案じるという気持ちは1ミリたりとも感じられない。100%琴音のために使った気遣いである。


「琴音だけかよ?」


実は内心ちょっとショックだったりするので聞いてみることに。

すると。


「はぁ……じゃあ山空も何か異変を感じたら適当に報告してくれると助かる」


なんか凄くあからさまに嫌そうな声質と共に嫌そうな雰囲気をかもしだしながら嫌そうな表情で面倒臭そうにそう言われた。


……友達……なのにな……。


「さて、僕の道具もあらかた見せびらかせた事だし、山空にエメルに琴音ちゃん。後片付けを…」


「あ、ヤバいよ! もうこんな時間だよ行くよ海兄ぃ!!」


「そうだな! よし、エメリィーヌも来い!! 今日は特別に学校で秋が一緒に遊んでやる!!」


「しょうがないんヨねェー!」


「ちょ、皆の衆いったいどこへ……!?」


こうして、オメガの道具の後片付けに巻き込まれる前に、用もないのに早朝の5時48分頃家を飛び出した俺達。

俺と琴音とエメリィーヌの心が一つになった記念すべき瞬間であった。


あのガラクタの量だと、オメガは当分後片付けで登校不可能だろう。

ちゃんと担任の西郷には理由を伝えとくから安心しといてくれ。『UFOにさらわれて遅刻らしい』ってな―――――






―――――そして数十分後。学校の前で琴音と別れた俺とエメリィーヌは、早朝の学校という新鮮さに少し胸を躍らせていたりする。


「コトネもこの学校にくれば楽しいんヨにね」


「エメリィーヌ。それは琴音に飛び級しやがれと?」


琴音は中学一年生だからな。

俺達の通う高校とはもちろん別の学校に行かなくちゃならない。

と言っても、高校の道路を挟んですぐ向かい側に琴音の中学はあるんだけどな。会いたきゃいつでも会える距離である。


「ならカイたちがコトネの学校に行けばいいんヨ」


「エメリィーヌさん。それは『お前らは中学からやり直せ』という挑発を俺達にしたと取ってもよろしいんで?」


「よろしくないんヨ」


俺達と言うのは、もちろん俺達の事だ。


二年の俺と秋とオメガ。一年のユキ。皆同じ高校だ。

ユキは別として、秋一人だけクラス違うけども。


ちなみにエメリィーヌは俺の付き添いとしてこの学校で好き勝手やってる。

エメリィーヌを高校へ連れてくる事について、俺は今でも反対なのだが。

なぜか俺以外の奴らは皆賛成している。もちろん、先生達もだ。


……そんなこんなで我が校の階段を上った俺は、自分のクラスへと続くドアに手をかける。

その時、俺の頭に妙な事がよぎってしまった。


「なぁ、エメリィーヌ。学校に一番乗りするとさ、なんかテンションあがるよな?」


「そうなんヨね」


そう、俺は今なぜか、無性に大声を出しながら教室へと入りたいのだ。

皆さんも経験ないだろうか? 普段とは異なる状況に立たされた時、なぜか無性にバカな事をやりたくなる時ってのが。

今がその時なのである。


「なぁエメリィーヌ。例えばもしも、俺がこの扉を大声を出しながら開けたらどう思う?」


「変な奴だと思うんヨ」


そらごもっともだわ。


エメリィーヌも言っていた通り、普通の人ならそう思うだろう。『なんだコイツ変人なのか……?』と。

だから普段、このようなバカげたことを出来ない。だがしかし、今ならそれが可能。


これらが導き出す答え……それすなわち、やるしかないやろ!!


と、テンションあがりすぎてわけのわからない俺の考えの末、決行することに。


「あー、これはあれなんヨ。マンガとかでよく見かける自殺行為ってヤツなんヨ」


「お言葉だがエメリィーヌさん。こんなクソみたいな現実世界で、そんな漫画みたいな展開あり得ると思うか?」


「あー、これ終わったんヨ」


エメリィーヌさん。甘い。甘すぎるぜ。

考えても見てくださいよエメリィーヌさん。

もしそんな漫画みたいなことが現実で起こりうることが可能性があるならば、俺に彼女の一人や二人や三人や四人程度余裕で出来てるはずだ。


「ユキがいるじゃないんヨか」


「あぁ、アレは俺のポリスィーに反するから無しだ」


「なんだコイツ変人なんヨか……?」


ユキは見た目こそ美少女だが、所詮は人の子。

よだれは垂らすし鼻息は荒いしちょっと頭おかしいし、何より変人だし。


俺が求めているのは、ユキのような架空の人物に当てはまりそうなキャラの人間ではなく、もうちょっと普通の子だ。

普通に笑い、普通に怒り、普通に泣いて、普通に元気な、普通に可愛い子がいいんだ。


そんなわけで、いざ、ご入室!!


「どんなわけなんヨか」


エメリィーヌの放つ冷血なツッコミを華麗にスルーし、俺は心の中で三つ数え、ゼロになると同時に大声で単語を叫びながら教室のドアを開けた。


「マイネームイズ山空ァァァ!!!」


ふふふ。英語で自分の自己紹介をしながら教室に入るなんて馬鹿げたこと、今しか出来ないしな!!

そして俺の予想通りまだ誰も来ていな…


「なんだ山空。英語の復習とはずいぶんと熱心じゃないか」


なんか西郷(担任)がいました。


「そそそ、そーなんですよねぇ!! 最近英語が遅れてるなぁーなんて思っちゃったもんですから中学英語から改めて勉強してたんですよえぇ!!」


謎の恥ずかしさによりなんか言い訳を始める俺。


「おはようございます! なんヨ!」


「おぉ、山空の妹かぁ、今日もいい返事で関心関心! はっはっは!」


そんな俺を普通にスルーし、エメリィーヌと二人でなんか盛りあがっている西郷。最近、この二人が妙に仲がいい。

そしてこれも最近の事だが、西郷がなぜか俺の普段の自宅での生活態度たるものを妙に詳しく知ってたりする。


俺の推理によるとエメリィーヌが西郷に告げ口しているのだと思うのだが、証拠がないので何ともいえず。


「昨日はカイが寝言で『西郷のバカめぇ』って言ってたんヨ!!」


証拠発見。


「ほぅ」


でた!!

西郷の『ほぅ』でた!!


エメリィーヌてめぇ、お前よくも俺の寝言を暴露してくれたなぁ!!

確かに昨日西郷をコテンパンに言い負かす夢見たけど!! 夢なんだから別にいいだろ!? 夢なんだから!!


「山空ぁ、貴様この俺様が居ないのをいいことに夢の中で好き勝手やってくれたようだなぁ?」


心なしか西郷の後ろに鬼神が見える。

エメリィーヌは笑顔で自分の席へと逃げて行きやがった。


なんかエメリィーヌの奴、最近どうも俺が困っているのを見て楽しんでいるような……そんな気がしてならない。

これもエメリィーヌなりの遊びなのだろうが……あとで手首をひねってやる。

とか言ってる場合じゃねぇ。西郷が超キレてる。朝から西郷の鉄拳だけはくらいたくねぇぞ!!


「覚悟しろ山空ぁ!! ……と、言いたいところだが、一つ取引と行こうじゃないか」


「と、取引……?」


今日は西郷から仕掛けてきやがった。詳しく話を聞こうではないか。

でもどうせロクな事じゃないのは目に見えている。がしかし殴られるよりは数十倍マシであるからそれでもいい。


「今日、貴様が柄にもなく復習に取り組んでいる英語の、抜き打ちテストがある。それにお前…『山空 海が』95点以上取れたなら、お前の言う事何でも一つだけ聞いてやるぞぉ?」


マジかよ!? ってことは西郷に土下座させることも可能ってか!?

願ってもねぇ好条件。だが……ここは慎重に行こう。安請け合いしてひどい目にあったことが何度もあったからな。


西郷の事だ、なんか変な策を張り巡らせているかも知れん。


なんたって、『山空 海が』と強調するように言ってきやがったんだ。

きっと俺が指定の点数以上を取れず敗北になった場合による、『ふふふ、『誰が』95点以上取るのかまでは指定されてなかったですからね』という逃げ道を使わせないようにあらかじめ潰しておく作戦だろう。西郷め、なかなかに変な耐性が付きやがってやがる。


……だが、まだ甘い。


「……西郷先生。そのテストの範囲は?」


俺は、腕を組んで堂々と仁王立ちしている西郷に問う。


もしかしたらまだ習ってない、三年生の英語のテストとか出されるかもしれないしな。

西郷の奴、肩書き的には『高校教師』のクセして平気でこすい事して来やがるから強敵なんだ。

だから西郷の考えそうなことはすべてあらかじめ潰しておかねばならない。


西郷は俺の逃げ道をあらかじめ潰す。そして俺は西郷の逃げ道をあらかじめ潰す。

この逃げ道の潰し合いこそが、俺と西郷との間で行われる戦いなのだ。


「英語の範囲は教えられん。教えれば抜き打ちにならんからな」


抜き打ちをするって教えた時点で抜き打ちにならんと思うんだが……。

そんなことはどうでもいい。


「へぇ、ならその勝負は受け入れられないですね。さようなら西郷先生。H.Rホーム・ルームでまた会いましょう」


そう言って、俺は自分の席へと歩き出す。

すると、西郷がそれを制した。


「まぁ待て山空。範囲は教えられないが、今回のテストは『今までの授業を真面目に受けていれば、余裕で全問正解できるレベル』とだけ言っておこう」


西郷は俺の担任。故に俺の、普段の英語の実力がどの程度か知っている。

だからこの程度なら大丈夫だろうと踏んで、西郷自ら逃げ道を潰したんだろう。それほど自信があるのか?


……だがな西郷。お前は俺を甘く見過ぎている。今の俺は今までの英語が苦手な俺ではない。

運も実力の内。もしかしたら、神様が今日の事を予知して俺に勉強をさせたのかもしれない。


そう、それは偶然だが、昨日の夜、親父にこっ酷くしごかれたんだよ。しかも英語を!!

親父は海外で仕事。故に英語は得意中の得意分野だ。


俺の実力を見限ったのがお前の敗因だ西郷。

偶然とはいえ、英語の勉強をして意外と理解できた俺に、英語の死角何ぞないわ!!!


「ふっ、どうするんだ山空ぁ?」


「やだなぁ、先生。そんな面白そうな勝負、俺が乗らないわけないじゃないですか」


俺の言葉を聞き、西郷が笑みをこぼす。


「ふん、やはり…」

「と、言いたいところですがね」


西郷がなにかを言いかけた時、俺はわざと言葉をかぶせた。


西郷は俺が勝負を受けるものだと思い込み、一瞬気が緩んだはずだ。

そこに俺が言葉をかぶせてその緩んだ隙を突くことにより、西郷の顔に少しでも同様が伺えればまだ何かを隠しているという証拠。


そこの良く注目した結果。


「……まだ何かあるのか山空」


西郷の表情は全くと言っていいほど変わらなかった。

故に、西郷にはもう隠していることなどない……とも言い切れない。ポーカーフェイスだってこともあり得るからな。


まぁ、俺もあの程度で西郷がボロを出すほど簡単な敵だとは思っちゃいないさ。

『これで少しでも分かったら儲けもんだな。』程度の攻撃だしな。


轟轟ごうごうしいオーラを体の内から放出させている西郷に、俺は構わず続ける。


「先生が負けた時の事は分かりましたが、俺が負けた場合はどうなるのかまだ聞いてないですよ?」


俺が負けた場合。

つまり、俺が95点以上取れなかった場合だ。


「おぉ、すまんすまん。忘れてたぞ。……そうだな、めんどうだし、お互いに『敗者は勝者の言う事を何でも一つ聞く』ってのはどうだ?」


と、西郷は言った。


つまり、負けたら勝った方の言う事を聞かなくてはならない。

逆に言えば、勝ったら負けた奴に何でも一つ命令できるという訳だ。


そんなことよりちょっとミスったな。

俺が負けた時の事を聞かないほうが、俺的には良かったのかも知れん。いくらでも逃げ道が作れたかもしれなかったのに。

でもまぁ、勝ちゃーいいんだ勝ちゃー。


西郷の言葉に、俺はうなずくことで同意の意を示した。


「では、ルールを確認します」


もう一度、どこか他にもおかしいところはないかを自分でも再確認するため、俺は言った。


「いいだろう」


西郷もうなずく。


「では今回の勝負方法は今日の英語のテストで俺が95点以上取ること。


勝利条件は、英語のテストで『俺が』95点以上取る事。

敗北条件は、英語のテストで『俺が』95点以上取れなかった場合。


そして、敗者は勝者の言う事を一つだけ何でも聞く。って事でいいですね?」


「……まぁ、いいだろう。そんな所だ」


しばらく無言だったのは、俺が何か細工をしてないかよく確認していたからなのだろう。

そして、西郷は同意した。


……ふっ、西郷め。

もしこの勝負に俺が勝てば、お前はとんでもない目にあうぜ。せいぜい余生を楽しむんだな。


「では、今日のテストで」


「おう」


お互いにそう告げると、俺は自分の席へと戻り、西郷は職員室へと向かうため教室を出て行った。


「なんか面白い事になってきてるんヨね」


「あぁ、おかげさまでな」


エメリィーヌも楽しみなのだろうか、とてもニヤニヤしている。

普段の俺なら『こうなったのはお前のせいだろ!!』と文句を言う所だが、今日はエメリィーヌの気まぐれがいい方へと運んでくれたので怒るのはやめておく。


……しかし、昨日勉強したと言っても、元の学力が低い分俺には少し不利だ。

ここは大人しく勉強しておくか。……かなり早めに登校してきた分、あと二時間ぐらい勉強できるしな。


俺はカバンから英語の教科書を取り出し、黙読を始めた。

そんな時である。俺はある重大な事実に気付いた。


……やべぇ、抜き打ちテストが何時限目にやるのか聞くの忘れてた!!


これは痛いミスだ。

何時限目にやるのか分かっているのとそうでないのとでは、気持ち的にだいぶ違う。


いつやるのか分かっていながら勉強すると、残り時間が分かって結構すんなり勉強した分が頭に入る……が。

いつ始まるのか分からないと、その分余計なプレッシャーがかかってしまう。


だがしかし、そんなこと今更考えていてもしょうがない。

今はテストよりも勉強だ!!


「か、カイがまじめに勉強してるんヨ……心なしか、メガネと必勝ハチマキが見えてくるんヨ……!!」


なんかエメリィーヌがよく分からん事を言っているが、それだけ俺の気合が伝わっているという事なので良しとしておく事にする。


フフフ。見てろよ西郷。お前が負けた時に命令することはもう決まっているんだ!!


「どんな事を命令するんヨか? 退職しろぉ! とか?」


いやいや、そんなことしたらさすがあれだろう。

西郷の人生もそうだが、この高校自体が終わっちまうよ。いま深刻な教師不足なんだからさこの高校。


「俺が命令することはだな。そんなちっぽけな事なんかじゃないぜ」


そう、俺はちゃんと確認した。

『敗者は勝者の言う事を何でも一つだけ聞く。』そう聞いた時、西郷は同意した。


一つだけ言う事を聞かせられるんだぜ?

それだったら命令することはただ一つじゃねぇか。


「そう、それは。『何度も俺の言う事を聞け』だ!」


ふふふ。どうだ。

一つの願い事で『何度も言う事を聞かせる』ということを願う。


西郷はそれを叶えなくてはならない。

なぜなら、『一つだけ』、俺の言う事を『必ず』聞かなくてはならないのだから。


猪口才ちょこざいなんヨね」


「ふっ、メンタリストと呼んでくれ!」





――――そんなこんなで、勉強すること一時間。

現在時刻、午前7時ちょっと過ぎ。


こんな時間になってもまだ誰ひとり登校してこないなんて……このクラスの奴ら全員、実は奇跡のなまけ者なのか?


「ちょっとトイレ行って来るんヨ」


「あ、じゃあ俺も行こうかな」


エメリィーヌが先に走って行ってしまうのを見ながら、俺もゆっくりと席を立つ。

一時間ぶっ通しで自主勉強したのなんて初めてで肩がこる。


そんな事を考えながら、俺はトイレへと歩き出した。

……そして、教室から廊下へと出る時だった。


「かっ!?」


突然体に異変が襲う。


体に力が入らない。

身体が、焼けるように熱い。


突然起きた謎の症状にどうする事も出来ず、俺はただ、廊下に倒れこんだ。


なん……なんだよ……これ……!!

身体が……骨が溶けてるみたいに熱い……。

心臓が…………痛い………。


だんだんと、意識が遠のいていく。


『うわっ死体!?』


失礼な。


どうやら誰かが俺に気付いたようで、駆け寄ってきている気がする。

だが、今の俺には、誰なのか確認することはできない……。


『おーい、生きてますかー? へんじがない。ただの屍のようだ。ってうそぉ!?』


あ……あれか……? これが知恵熱と言う……普段勉強してないくせに急に勉強しだしたから……。

つーか……なんなんだよこの感じ……。骨が……溶けてるような……この感覚……。

もしかしたらどこかの高校生探偵みたく……このまま気を失って、目が覚めたら体が縮んでしまっていた。ってな事になってたりしたら泣いちゃうぞこの野郎…………。

そして誰だか知らんがさっきから何を言ってるんだ……。


『ヤバい、どうしよう! あ、ちょうどいいところに先生が!!』


うぐっ、心臓が……。

あ……やべぇ……死ぬ……。俺……ジ・エンド……。


誰かに身体を揺すられているような気がしたが、なんか色々考えてるうちに俺の意識は完全に途切れてしまっていた――――――――――








第四十七話 完

~おまけ~


琴「ねぇ、海兄ぃ。どうやら作者さんが、恭兄ぃからもらったあの耳につけるヤツとあの首元に付けたヤツの絵を描いてくれたらしいよ?」


海「それってあのカエルとかニンジンとかのイヤホンと高性能ピンマイクの事か? じゃあ早速見てみようじゃねぇか。これで読者さんにもイメージが伝わるな」


琴「うん。そうだね。……えーと、お、これだこれだ。どーん!」


挿絵(By みてみん)


海「……なにコレ」


琴「えっと、右が私ので左が海兄ぃのだって。大きさが分かりやすいように消しゴムでの比較も描いてくれてるみたいよ?」


海「え? もしかして消しゴムって……挿絵の上の方の隅に適当に描かれてるやつの事か……?」


琴「あ、それっぽいね」


海「……もうちょっとちゃんと描けよ。 しかもなんか俺の方の比較用消しゴムに顔描いてあるし」


琴「遊び心満載なんだね」


海「遊び過ぎて最終的によく分からん事になってるじゃねぇか……なにより手抜きすぎて困る」


琴「しょうがないよ、あの作者さんだもん」


海「それにしても……琴音お前のニンジンなんか縄跳びしてるようにしか見えないのだが」


琴「ちなみに創作時間1分の力作だってさ」


海「…………」


琴「…………」


海「…………」


琴「じゃーねー!」


エ「今話初めてウチの挿絵が出たのにその事について一切触れさせてくれなかったんヨ……」


雪「……ドンマイです」

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