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俺の日常非日常  作者: 本樹にあ
◆海の過去編◆
58/91

第四十五話~俺達はいつでも三人一組~

か、過去編が……とうとう……!!

ホォゥワァタタタタタタタタタタタタタタ…オワタァ!!


「読者はもう、冷めている」

この小さな町中にある、ごく普通の一軒家にて。


「どうして! 二人は関係ないよ!!」


『……お前、近頃悪さが過ぎるようじゃないか。担任の先生から連絡があったぞ』


『そうよかなえ。最近ちょっとはしゃぎすぎよ』


一人の少女は、少女の両親と、いわゆる親子喧嘩をしていた。

いや、少女だけが、一方的になっていたのかもしれない。


『あなたがいつも一緒にいる……あの二人、聞けば悪い噂が流れているそうじゃない』


「そ……それは違う!」


彼女は、今年の春に知り合った二人と、とても仲が良かった。

少しやりすぎな部分もあるが、毎日が楽しく、彼女にとって、とても充実した学校生活だった。


『いいかかなえ。あの二人と一緒にいるのは中学までだ。高校は違う場所にしなさい』


「なっ……で、でも一緒の高校に行くって」


つい昨日のことだ。

『絶対に三人で同じ高校に行く』と、学校で誓い合ったばかりであった。


『かなえ、それでいいわね?』


『お前は頭はいいんだから、あんなちっぽけな高校へ進学なんてもったいない』


『……あ、そうだ! あそこにしなさいよ、ほら、あの有名な高校!』


彼女の母親であると思われる女性が、思い出したかのように、嬉しそうに話し始めた。


『あぁ、あの名門の女子校のことか。……うん、かなえの学力ならば名門校も夢じゃないな!』


『でしょ? いいわねかなえ、そこにしなさい』


彼女の意見を聞こうともせず、父親である男性と母親である女性の、二人の間でどんどん話が進められていく。その会話の中に、彼女の気持ちは全く含まれていない。


「ま、待ってよ、私絶対そんなとこ行かないよ! もう決めたの!!」


『まだそんなことを言っているのか。絶対に名門校のほうがいいに決まってる』


『そうよかなえ、あなたのためにもなるのよ?』


『お前は少し男子と絡み過ぎた。女子校に行けば、きっと女の子らしい、幸せな毎日が送れるはずだ』


世間からしてみれば、名もない普通の高校より、名高い名門校のほうが良いに決まっている。

けして簡単ではないが、彼女にはその力がある。力があるなら、名門校に行ったほうが絶対にいい。


両親の頭の中は、もうそれだけでいっぱいだ。

自分の娘である彼女の意見など、聞き入れようとはしない。

なぜなら、これが娘のためになると信じているから。


「…………私、もう寝るよ」


結局彼女は自分の意見を聞き入れてもらえなまま、就寝につくことになってしまった。


親の言う事はもっともで、元はと言えば、自分が中学で二人と一緒にイタズラや悪さなどをしなければ問題はなかった。

一応こんな親でも、彼女にとっては大事な家族。

自分のせいで親に心配をかけてしまい、それが発端でこのような現状になってしまっていると考えてしまうと、どうしても、強く、そしてハッキリと、自分の意見が言えなくなってしまう。

それゆえに、彼女は自分の本音を押し殺し、従うことしかできないのだ――――



第四十五話

~俺達はいつでも三人一組~



――――中3の(あき)

そろそろ高校に向けて本格的に準備をしなければならない時期だ。

今までは『受験勉強? なにそれ、食えんの?』と逃避してきたが、この時期になってしまうとさすがにアレなもんで。


この時期に未だ進路を決めていない俺…山空(やまぞら) (かい)は、相当追い込まれていたりする。


「なぁ、海。お前高校どうすんだよ。本格的にそろそろヤバいぞ」


「そうなんだよなぁ……なぁ、秋。お前はどこがいいと思う?」


俺の親友の一人である、竹田(たけだ) (しゅう)に相談を試みる俺。

けど、きっとまた同じことしか言わないだろう。


「俺に聞かれても困るし、てか、一緒の高校行くなら、近いし隣の高校でいいだろ?」


「そこなんだよなぁー!」


お袋が作ってくれた弁当を無造作につつきながら、グダグダと最近はそのような話ばかりしている。


……隣の高校。

俺が今通ってる中学…てか今現在過ごしているこの中学の、道路を挟んで向かい側にその高校はある。


もちろん『隣の高校』は正式名所ではない。ちゃんとした名前はほかにあるが。

でもこの中学では、ここの隣にある高校だから『隣の高校』で定着してしまっている。と言う訳だ。


「なにが気に食わないんだよ、近いし、それなりにそれなりだし、学費も安いし、最高の高校じゃねーか」


秋が言うのも分かる。

出来れば、俺だってその高校に行きたい。

だがしかし、絶対に行けない理由が俺にはあるのだ。


「何度も言ってるだろ秋。隣の高校は、クラス表示が数字なんだよぉ!!」


そうなのだ。

実は、俺は昔から、隠れた才能…と言うか運と言うか。

小学校のころから、2組にしかなったことがないという衝撃かつ悲しい人生を送ってきた。


1年も2組、2年も2組。3年も2組。4年も2組。


そんな調子で、6年間2組になりっぱなしで、一度でもいいから違う組のクラスになってみたい。それが俺の願い、そして悩みの一つでもあった。


だが、そんなことも中学に入れば、その悩みは解消されると思っていたのだが。

俺の2組運は留まることを知らず。


中学の1年、それと2年、そして現在中学3年。全て2組。


これはもうトラウマになったっておかしくはないほど。


だから、高校は絶対にアルファベット表示の高校に行くと、心に決めているのだ。


そんな中、一番いい条件である隣の高校。


学生ならば一度は通ってみたい学食、購買。だけでなく。

学費も安いし、何より家から近いという最大の利点!!


まぁ、この中学も給食制じゃないし、距離的にも通学路的にも同じだし。それといってそんなに変わらないんだけども。

噂によると、隣の高校は何より普通!! これに限るらしい。

特に特別なこともなければ、別につまらないこともない。男女混合だし、まさに普通の高校と言えるだろう。


そう、つまり、普通の高校生活を送りたい者にのみ入学を許される、普通専門学校と言っても過言ではないわけで。

そしてそんな普通の高校に入学する奴らは、きっと普通の子たち。そうなると、俺にも友達が100人……いや、もしかしたら学校中の奴らが友達になってくれるかもしれないと言っても過言ではない!!


俺にとってこんな好条件な高校は、隣の高校をおいてほかにない。ほかの高校なんて考えられない。

……てか高校のパンフとか進路を決めるしおりなどは中学で配布されたけど、寝る前にサラーッと読み流しただけだからな。ほかの高校について無知だということにもなるが……。別にイイのだ。関係ないのだ。


……でもなぁ……そんな高校が一つだけ犯した失態、最大の汚点。

それがそう、最初に戻るけど、クラス表示がいまどきの高校には珍しい数字表示なのだよ!!


そんな高校に入学したらどうなると思ってるんですか!! きっと2組地獄を味わうことになるでしょうよ皆さん!!

絶対にそれだけは避けたい。

たったそれだけの理由で、俺は隣の高校への進路希望を未だに悩んでいる。


「別にいいじゃねーか」


と、勝ち組の秋は語る。


「お前なぁ……ずっと同じ組になり続けた俺の気持ちが分かるか!?」


テストで名前を書くときも『2』。

名札に名前を書くときも『2』。

毎日登校してきて入るクラスも『2』。

挙句の果てに俺の去年の通知表の評価が『オール2』!!


もうこれやべぇだろ!!

もう生きていけねぇよコンチクショウ!!

なんで通知表まで数字表示やねん!!

てか担任!! 何だよその素朴な評価は!!

そんな通知表をお袋に見せた時、一瞬表情が曇ったのちに『ま、まぁ……まぁ、まぁまぁ……まぁまぁだわね』って呟かれる俺の身にもなれよ!!

怒りたくても普通だから怒れない!! でも褒められない!!

親と子の間に壮絶なモヤモヤ空間を作り出したのは担任、お前だぞボケがぁ!!


「なんで去年の担任に怒りの矛先向いてんだよ」


「いいか秋、俺は絶対に隣の高校へは行かない! 絶対だ!!」


自分でも、くだらない事にこだわっているな。とは思う。

だがしかし考えてもみてくれ。


人生においてたった3年間の高校生活。

そんな高校生活において、妙なモヤモヤを抱えたまま過ごしたとして楽しいのだろうか? そう考えると、答えはもう出てくるだろう。


楽しいわけないじゃないか!! 楽しいわけないじゃないか!! 楽しいわけないじゃないか!!


「大事なことなので3回言いました!!」


「やかましいなさっきから!!」


秋に怒られた。


「ってか飛野、なんかあった? 元気ないみたいだけど」


……秋に言われるまで気付かなかった。

そういえばさっきから、かなえの元気がないようにも見える。


あ、かなえってのは、飛野(とびの) かなえ。同じクラスの女子であり、俺の親友その2でもある……ってまた『2』かっ!! もういいよ! 世界中から『2』が消えるように七夕の短冊で願ってやろうかこんにゃろ!!


「え!? あ、べ、別に普通だよ!! そ、それより海は進路とかどうするの……!?」


「ふっ、あっしには遥か未来のことでさぁ」


「逃避すなッ!!」


秋に怒られた。


「わ、私から言い出したことだけど、別に同じ高校とか気にしなくていいからね!」


「お……おう」


秋の言った通り、かなえはどこか元気がなさそうだった。

気丈に振舞ってるけど、どこか無理しているような……そんな気がする。


何かあったのだろうか……? それともまさか……あの女性特有の日!?


「海、なんか変なこと考えてたりとかないよね……?」


「ぶっ……そ、そんなことないッスよ先輩!」


「先輩じゃないし。海ってホント分かりやすいよね」


「だな」


思わず口に含んだ飲み物を吹き出しかけたじゃねぇか!

てか2人してなに頷いてんじゃコラ。……ってまた『2』かぁぁ!! ―――――――









――――それから数日後の昼。


「なぁ、海。お前高校どうすんだよ。本格的にそろそろヤバいぞ」


「またそのセリフか。もう聞き飽きたわ」


毎日の習慣の如く弁当をつついている俺と、進路についてしつこく問いただしてくる親友の秋。

そして、どこか上の空なかなえの三人で、それぞれの弁当を広げ、いつもの如くの雑談。


「なぁ、海。お前高校どうすんだよ。本格的にそろそろヤバいぞ」


「うるせぇなお前。何だお前、俺の親か!!」


「なぁ、海。お前高校どうすんだよ。本格的にそろそろヤバいぞ」


「お前なんだ、しつこいぞ!」


「大事なことなので3回言いました!!」


「分かったよ……」


最近になって、秋が精神的攻撃(スピリチュアルアタック)ばかりしてくる。

家に帰っても、学校に来ても、同じことを母親からも親友からも、おまけに担任からも言われ、そこで初めて本格的なヤバさを感じてきた俺。


しょうがないから進学高校を決める会議を始める。


「なぁ、秋。お前はどう思う?」


「さっさと決めればいいと思う」


「ちょ、そんなあっさり切り捨てないでくれ!」


「大体お前さ、3人で同じ高校行くのに何を迷う必要があるんだよ」


「……どういう意味だよ」


「だってよ、俺と飛野は隣の高校行く予定なんだぜ? まだ進路希望の紙は提出してねーけど」


………なるほど。

同じ高校行くんだから、俺の選択肢はもう隣の高校に行くしかないとそういう訳か。

つまり、俺が考えたり、悩んだりすることもなく、俺の人生はもう親友たちの手によって定められていたわけだな。

……考えてみれば、2組どうこうよりも、親友と別れるほうが辛いじゃないか。

なんだ、そうか。ならもう決まったも同然だな。俺は決めたよ母さん!!


「隣の高校に行く!!」


「よし、決定」


こうして、俺の進路は呆気なく決まった。

でもここで終わりじゃない。ここが始まりなのだ。そう、受験勉強という名の、地獄マラソンの………って、いやぁぁぁ!!!


「進路なんか決まらなければよかったぁぁぁ!!」


「いきなりどうした? お前の脳内に大型台風でも吹き荒れたか?」


ヤバいな……俺の学力は、自慢じゃないが中の下……ちょっと言い過ぎた。

下の下……いや、下の下の下……? ま、まぁ、いいじゃないか! 俺の成績など!!

どうせ大人になったって使わねぇんだし、覚えるだけムダムダ。

受験だって、どうせ何とかなる……………はずだ。

なんとか…………。


……………なんとかならねぇ!!!


「かなえ! 今日から勉強合宿だ!! 俺の家に集合ってことで!!」


「………え? あ、ごめん。聞いてなかった」


「ボーっとしてんじゃねぇ! お前の頭脳が役に立つ時が来た! 俺の家で勉強会を開く!!」


「なんで今日なんだよ」


「何となくだ!! 今日の放課後、俺んちに集合! 0泊1日だ!」


「日帰りじゃねーか」

「日帰りじゃんか」


二人にツッコミを入れられたことなど、今の俺には関係ない。

自慢じゃないが、俺の学力は人並み以下だ。


「ホントに自慢じゃねーな」


「だから成績優秀、頭脳明快なかなえに教えを請う訳だ!」


「私に? 別にいいけど、私だって人並み程度だよ?」


「それでいい! 俺を人並みに育て上げてくれ!!」


自慢じゃないが、かなえの勉強の教え方は、こんな俺でも理解できるというほどピカイチだ!


「本当に自慢じゃねーなおい」


「いよっしゃー! やる気が出てきたぜー!!」


こうして、俺は珍しく勉学に燃えていた。






――――――そして放課後が過ぎ。俺の家である。


「あら、初めましてな女の子が……海君も隅に置けないわねぇ」


部屋にみんなが集まると、なんか母さんが侵入してきた。


「ニヤニヤしながらなに言ってんだよ母さん!! 勉強の邪魔だからあっち行ってくれ!」


母さんはいつになく上機嫌だ。

俺が友達を連れてくることが、嬉しいのだろう。


「なに? 海くんの彼女?」


「ちちち、違うから!!」

「ちちち、違います!!」


俺とかなえは、顔を真っ赤にしながら否定する。

お袋のこの性格をどうにかしてもらいたいと、最近思うようになってきたのは俺が成長したからだろうか。


「母さん……頼むからもう出てってくれ……」


「はいはい、勉強頑張ってねー! 秋くんと琴音ちゃんと海くんと海君の彼女さん!」


「なっ……!!」

「なっ……!!」


お袋の一言で、完全にショートした俺。そしてかなえ。

俺達をこんなありさまにした当の本人は、『ヲホホホホホホ』とか高笑いしながら部屋を出て行った。



「と、と、とりあえず勉強しよっか」


赤くなりながら、かなえは腰を下ろした。

小さな机をみんなで囲むように座る形である。


「……そういえば……その子誰なの?」


座ったと同時に、かなえが言った。

さりげなくナチュラルに馴染んではいるが、そういえばかなえと琴音は初対面だったな。


「……もしかして竹田の彼女!?」


おいバカ。母さんのキャラが移ってるぞ。


「ち、ちげーよ!!」


顔を赤くして反論する秋。

なんつーかあれだ。俺達は似た者同士だな。


「この子は秋の妹の琴音(ことね)ってんだ」


「あ、そうなんだ。えと、初めまして。私は飛野(とびの) かなえ」


さすが、慣れっこというやつなのだろうか。

初めての相手にも気軽に話かける事が出来るなんて。俺だったら言葉に詰まって気まずくなっていたことだろう。


「あ、初めまして……です……飛野さん……?」


かなえの優しい雰囲気を感じ取ったのか、あがり症で恥ずかしがりやで人見知りで人と接するのが苦手なはずの琴音が普通に会話している。と言っても、やはりどこかぎこちないが。


「あ、そんな気を遣わなくてもいいよ。気軽にかなえちゃまとお呼びくださいませませ!」


「私になりすまして何バカなこと言ってんのよ!」


あ、バレた。

って、そんな睨むことないでしょ!?

ちょっとしたコミニュケーションの一環でしょ!?

だからその上げた手刀を下ろしなさい!! 暴力反対!!


「ほらほら、勉強すんぞ! 琴音はその辺で遊んでてくれ」


「うん」


秋の言葉を合図とし、日帰り勉強合宿が始まった―――――――













―――――――そして、すっかり日も暮れた頃。

日帰り勉強合宿は、それなりに進んで終わりを告げた。


「じゃな、帰り道気をつけろよ」


玄関の外に出て、かなえと竹田兄妹を見送る。


「海、あんた本当に大丈夫なの……?」


「そんな憐れみの眼差しで見つめないでください!!」


今日の勉強会で分かった事が一つだけある。俺ピンチ。

ずっと勉学をさぼっていたため、本格的にヤバかった。

全然理解が出来ないどころか、秋にさえ負ける始末である。


「なんで俺と比べんだよ」


と、秋がなんか悪態をついている。


「まだ琴音ちゃんのほうが理解力あるよ?」


「かな姉ぇの教え方が上手だからだよ」


そうなのだ。

かなえは一生懸命俺に指導してくれた。

だが、とうの俺が全く理解できず、一から何度も教えてもらっている間に、俺よりも先に琴音が理解してしまった。まぁ、当然、琴音はまだ小学生なのもあり、基本なことは分からないから俺のほうがまだ上だが。


「海兄ぃ、私に追い越されるのも時間の問題だね」


「うっさいわ!!」


勝ち誇ったかのような顔で、俺を小バカにしてくる琴音。

正直心が折れたが、俺はやればできる子だ。

てか何より、秋に理解できてこの俺が理解できないなんてことはない。

こんな屈辱を味あわせられたとなっちゃ、俺のプライドが重症だ。

絶対に上位で隣の高校に受かってみせる!!


「宣戦布告だ馬鹿野郎! 見てろよクソッタレ! ふざけんなバッキャロイ!!」


秋に意味の分からない宣戦布告をし、皆を見送る事などは全て放り出して、俺は部屋へと戻った。

もちろん、勉強をするために。


あ、そうそう。

この短時間で、琴音とかなえはめちゃくちゃ仲良くなった。

しかもその理由が、俺をイジりにイジりまくったことによるモノであるのだから悲しい。


って、そんなことはどうでもいい。

俺は自室へと戻ると、漫画の受験生がよくやるように『合格祈願』と書かれた鉢巻き(お手製)を身にまとい、机へと張り付いた―――――――――――











――――――――――――――――そしてとうとう受験まで残り1週間となった。

いつものように俺の家に集合しているみんな。


「……マジかよ……」


まず、秋が一言。


「海、あんたってファンタジー……?」


そしてかなえが謎の発言。


皆は俺に驚いているようだ。

まぁ、それも仕方がないこと。


この数カ月の間にフルパワーで勉学に勤しんだ俺の学力は、数か月前とは比べ物にならないほどに成長していたのだからな。


「はっはっは、どうだバカ野郎! 俺だってやりゃできるんだよ!!」


腰に手を当てて、豪快に笑う俺。


「いや、海ほんとすごいよ。あの猿並みから人並みにまで上り詰めるなんて」


「これならまだ希望はあるぜ」


おいコラお前ら。

ほんの数か月前までは絶望しかなかったかのような言い方じゃねぇか。


あ、ちなみに言っておくが、俺の学力は数か月前とは比べ物にならないほどに凄くなった。と言っても、特別すごいわけではなく。

てか、ほかの奴らから見るとこれでもまだまだ称賛には値しない程度のことだろうが。


だがしかし考えてもみてくれ。

例えば、小学生高学年のテストで0点だった者が、中学のテストで60点を出したと考えれば、その凄さが伝わることだろう。

あ、いや、俺のことじゃないからね? 例えばの話。

さすがに小学校の勉強ぐらいできるわ。……人並み程度になら。


「これなら余裕でみんな同じ高校へ行けるぜ!」


と、調子に乗る俺。


「おい、海。やる気があるのはいいが、もうちょっと勉強しとこうぜ?」


と、切実かつ慎重派な秋。


秋の妹である琴音は、今日は来ていないようだ。


そんな中。

……まただ。またかなえの様子がおかしい。

元気がないというか……どこか寂しそうな顔だ。


「……………」


かなえの変化に気付いていた俺達だが、いつ聞いても、本人は『大丈夫』の一点張りで、答えてはくれない。

言いづらい事なのだろう。だから俺達は、無理して聞かず、自分から話してくれるまで見守り続けることにしていた。


「じゃあ受験まで残り一週間!! 一気にラストスパートをかけるぜ!!」


「だな!」


果たして俺達は、みんな同じ高校へと行けるのか。

本戦はあと一週間だ!!




――――その日の夜。


「今日もお疲れー」


家の前で二人を見送る俺。


「あと一週間だからな! 一緒に高校行くぞ!」


秋が意気込んで告げる。


だが、未だに元気のないかなえの様子が、とても気になる。

見守るとかカッコいいことを言っておいてあれなんだが、やはり親友が暗い顔してると気になる。


「なぁ、飛野。何かあったのか?」


秋が優しい声で声をかける。

するとかなえは。


「大丈夫だから」


と、一言だけ呟くものの、とても大丈夫そうではなかった。

しかし、俺達には何もできないのも事実。


なら無理に聞き出すよりは、やはり見守ったほうがいいのだろうか。


「……じゃあ、そろそろ帰るな」


そう言う秋の顔も、やはりどこか暗い。

かなえの事が気になって仕方ないのだろう。


「あぁ、じゃあ、また」


俺が秋に挨拶を返すと、秋は背を向けて歩き出した。


「……かなえもそろそろ帰らないと、夜道は危険だぞ?」


ずっと無言でたたずんでいるかなえに、俺はそう声をかける。

だがしかし、返事はない。


「……なぁ、かな」

「あのさ……」


俺が再び声をかけようとした時、かなえが口をひらいた。


その声を聞き、秋も足を止めて振り返る。


「……なんだ?」


俺は…いや、俺達はじっと、かなえの言葉を待つ。

そして、かなえが言った。


「……私達三人がいなきゃ、ドラえもんは空を飛べないんだよ」


「はい?」


突拍子もない事を突然言い出したものだから、この場の雰囲気には絶対に場違いであろう間の抜けた声が自分の口から漏れた。


「なんだなんだ? なぞなぞか?」


と言いながら、秋もこちらに来る。


「とにかくそういう訳だから……!」


若干顔を赤くしながら、かなえは走り去って行ってしまった。

謎めいた発言を残して。


「何だったんだ今の……」


「さぁ……」


そんな会話をした後、秋も帰って行った――――――











――――――――――――――そしてとうとう受験当日。

この高校はやはり人気があるのか、結構の受験者が集まってきているようだ。


自分の胸に手を当ててみる。

やはり鼓動が通常よりも早く、結構緊張しているようだ。


だがこんな緊張なんぞ気にならない。

なぜなら女子達と会話するほうが緊張するからな!


まぁ、この緊張の8割は知らない人たちが多いがための緊張であって、受験に関してはさほど緊張していない。……はずだ。


「おおお、オッス!」


「おぉ、秋! ってお前どうした。大丈夫か?」


なんかすごいギクシャクしてるというか……緊張してるよな、あからさまに。


「おおお、落ち着いて行けよ! きき、緊張してると些細なミスが増えるか、からな!」


「お前それ、俺じゃなく自分に言い聞かせたほうがいいと思うぞ」


「だ、だよな……かか、かなちゃんはどど、どうしたん?!」


かなちゃんてお前。

どんだけ緊張してるんだよお前。


「はぁ……どこかその辺にいるんじゃないのか?」


俺は秋に若干呆れつつも、どこか微笑ましい光景に笑みがこぼれる。


秋が緊張しているおかげで、俺はさっきよりはリラックス出来てきた気がする。


「お、おいそろそろ行くぞ! 早めに言って損はないからな!」


と言って、秋は受験票を握りしめ、受付へと駆け出して行った。


受験票ぐっちゃぐちゃじゃねぇかお前。


そう思いながら、俺もそのあとを追い受験会場へと入っていく。

まさかこの時、かなえがこの試験会場にいないなんて思うはずもなく―――――――――――








―――――――――――それから数ヶ月後。

俺達は無事、隣の高校へ進学を果たした。


だがしかし、かなえの姿はそこにはない。

卒業してから…いや、正確には受験の前日から、かなえとは一度も連絡が取れていない。ただ一言『ごめん』のメール以外は。


「……なぁ、海。飛野……やっぱり無理してたんだろうな」


高校の屋上で、秋がそう呟いた。


……確かに、ここ数ヶ月もの間、どこか元気がなかったかなえ。

そして受験には来なかった。この高校にもいない。なにがあったのだろうか。


「かなえも、色々あったんだろうな……」


『三人で一緒の高校へ。』それはかなえが言いだしたことであり、かなえがいちばんそう望んでいたはずだ。

だがしかし、何かの理由でそれが実現できないことが分かった。でも俺達には言えなかった。


……俺達が無理やりにでも聞き出していれば、かなえがここまで悩む理由はなかったのではなかろうか。

俺達が見守り続けていたのは、間違いだったのではないだろうか。そればっかりが頭に浮かぶ。


「……俺達のせい……なのかな……?」


俺はそう呟く。

ただ、何となくだ。


「……そうかもしれないな」


秋がそう返答したことにより、俺はとんでもない事をしてしまったのでは。という事が。

見守り続けてたのはかなえのためなんかじゃなく、俺達が、ただその事実を受け入れたくなかったからなんじゃないか。という考えが頭を支配する。


そんな中、秋が続けて言った。


「……でもまぁ、いまさらどうこう言ってもしょうがねーし、俺達がこう暗いと飛野だってきっと喜ばないだろうしさ」


「…………」


「飛野も色々あったんだと思うし、あいつが選んだんだったらそれで……」


「……ったく、もういいよ! こんなゴチャゴチャ考えたって分からねぇもんは分からねぇんだ!」


秋も混乱してるんだろう。

俺だって混乱している。


いくら考えたって分からない。

あいつがどうしたかったのか、かなえが何を思ってこのような事をしたのか。


いくら考えても分からない。……分からないんだ。


そんなとき、秋があの言葉を口にする。


「俺達三人が一緒じゃなきゃ、ドラえもんは空を飛べない」


「お前それ、かなえがあの時言ってた……なぞなぞ?」


「あぁ、どういう意味かと思ってさ」


あの日、受験勉強の帰り際にかなえが言った一言。


『……私達三人がいなきゃ、ドラえもんは空を飛べないんだよ』


あれはどういう意味だったのか。


ドラえもん。

それはつまり、有名なあのドラえもんのことだろう。


未来から来た猫型ロボットで、色々な道具を使ってはさえないのび太くんを助けるという、子供から大人、男性から女性まで、老若男女幅広い年代層に愛されている。

マンガはもちろんのこと、アニメや映画などもとても人気がある。そんなドラえもん。


「なぁ、海。意味分かるか?」


「……どーだろうな。意味なんて無いんじゃねぇのか?」


「そんなことないと思うけどな……」


――俺達が三人そろわなければドラえもんは空を飛べない。

いったいどんな意味があるというのか。


俺達が一緒じゃないと、空を飛べない。

俺達に関係するモノがあるってことか?


「あー! ダメだぁ!! 俺なぞなぞ苦手なんだよなぁー!」


と、隣でかなえが残した謎の言葉に悶絶している秋を無視し、俺は引き続き考えてみる。


大体、ドラえもんが飛べないってどういう意味なんだろうか。

ドラえもんならその気になればどこまでも飛べそうな気がするが……って、そんな考えじゃ一生分かんねぇっての!!


「大体ドラえもんなら空飛ぶ方法なんぞいくらでもあるだろうに……!!」


うわっ、秋も似たようなこと考えてるよ!!

ヤバいな、この考え方だとこの謎は絶対に解けん!!


「でも『俺達が』ってことはドラえもんを胴上げするのか……? あ、でもドラえもんってかなりの体重だと聞いたことが……なぁ、海、ドラえもんを胴上げする方法ってなんかない?」


「知るか!!」


さっきから秋がブツブツとくだらない事を呟いている。


何が胴上げだよ、絶対に違うだろ。

胴上げしたら何が起きるってんだよ。てかドラえもんはどこから連れてくる気だ。


「あ、でもあれか、タケコプターがあれば何とか……ならねーよな……」


もうお前黙ってくれよ!! 考え方が根本的にずれてるんだよ!!

大体、なんで胴上げからタケコプターが必要に……ん? タケコプター?


タケコプター………タケコプター………タケ…………あぁ!?


「………そうか、そういうことか……」


「え、なに? わかったの!? 教えてくれ!!」


「……なるほどな……俺達が一緒じゃないとダメってことか……」


「おい海! 一人で納得してないで俺にも教えてくれよ!」


秋が隣で騒ぎ立ててくるので、仕方なく教えてあげよう。


「いいか、秋。『タケコプターで、空を、飛ぶ』、なんか関連性が見えてくるだろ?」


「う、うーん? ちょっと待ってくれよ?」


俺達が三人一緒じゃないと、ドラえもんは空を飛べない。

それはどういことかと言えば。


俺達が三人一緒。

つまり、俺達の名前の文字を一文字ずつ一緒に。


竹田 秋から『竹』を。山空 海から『空』を。飛野 かなえから『飛』を。


俺達の文字をすべて合わせると、『竹、空、飛』となる。

もう見えてきただろう。


俺達三人が一緒じゃないと、ドラえもんは空を飛べない。つまり。


「あぁ! 『竹』コプターで『空』を『飛』ぶ。って事か!!」


「そーいうことだ」


かなえはとっさに考えたのだろうか。よく出来たなぞなぞだ。


かなえの出したなぞなぞの答え。

それは、俺達はいつまでも三人一組だ。という事である。


別になぞなぞとして言ったわけじゃないだろうけど。

……分かったぜ。分かったらますますムカついてきた!


こうなりゃ、かなえがこの高校にくればよかったと後悔するほどに楽しんでやる。

充実した学校生活を送ってやる。俺達に嘘をついた罰だ、覚悟しろかなえ!


「……何というか、海、お前らしいわ」


「そんなことより聞いてくれよ!! 俺また2組だったんだけどどうすればいい!?」


「急にその話題!? もうちょっと飛野について語ろうぜ!?」


「いいんだよ。俺はもう決めた。今度会った時にあいつをぶん殴ってやれるほど、充実した学校生活を満喫してやるぜ!」


「女子をぶん殴るのはどうかと思うが……」


とにかく、俺達が楽しくやってりゃ何事も解決よ。

だからかなえも、俺達のことは気にせず楽しくやってくれ。


俺達に隠し事をしてまでこの選択をとったんだ。

次会ったときに暗い顔なんてしててみろ、思いっきりぶん殴ってやるからな。中学の時に色々された恨みも込めて!


「……じゃあそろそろ行こうぜ」


「ちょ、待てよ秋! おいてくなよ!」


こうして俺達は、隣の高校へと無事入学を果たした。

かなえだけは一緒じゃないが、それでもいい。


かなえが残してくれた言葉。

『俺達はいつでも三人一組』という、とても大切な。言葉の置き土産があったのだから――――――









――――――――――――――――そして現在。


「んで、後から聞いた話によると、かなえは有名な女子校に行ったらしいな。親が厳しかったんだってさ」


「へぇ、そんなことがあったんですね」


俺の過去を聞いて、親父がそう呟く……ん?


何かの違和感を感じた俺は、後ろを振り返ってみる。

すると。


「あ、お父様。どうぞです」


「いやぁ、こんな可愛娘(かわいこ)ちゃんにお酒を注いでもらえるとはぁ! お父様ビックリ!!」


ユキが親父に酒を注いでました。

っていつの間に!?


「息子様もビックリだよ!! 何やってんだよ父さん!! てかユキも!!」


いつの間に侵入してきたんだよユキ!!

お前はネズミか!! はたまたゴキブリか!!


「海兄ぃ、落ち着いて」


「そうなんヨ」


………ヒョエェー!!


「なんでお前らもいるんだよ!!」


琴音はすっかりくつろいでおり、エメリィーヌはいつもの調子ではしゃぎまわっている。

なんてこった……なんてこった……!!


「わりーな! 実はお袋が競馬で負けちまって今月ヤバいらしくてなー。エメリィーヌお断りだそうだ!」


「け、競馬ぁ!? なんでまた!?」


「なんか、『今日のラッキーカラーが自分の好きな色だったから』とか言って、調子にのっちゃってね」


なんだそりゃぁぁぁぁ!!!!!

って、なんか秋もさりげなくいるし!!

なんてこったぁぁぁ!!!!


「空気を読んで僕もいるよ」


「空気を読んで帰れよクソッタレ!!!」


庭に突如現れた銀髪メガネに親父の飲みほした酒瓶を投げつけた。

すると、見事に直撃してぶっ倒れる銀髪メガネ。


なんなんだよこれぇぇ!!

あの時(第三十五話)に立てた変なフラグが今になって帰ってきたってのかよぉぉ!!


「よっ! 四次元フラグ建設士!」


「なるほど、話数をも超えるフラグを建設するっていうね……って死に腐れメガネ!!」


空になったチューハイの缶を銀髪メガネに投げつける俺。

『カンッ!』という良い音が鳴り響いた。缶だけに。


「なにげ全員大集合ですね先輩!」


「なにげ全員不法侵入だよバカ野郎!!」


親父がいるって分かってんのによく不法侵入できたなお前ら!!

ユキは知らなかったからまぁいいとしても……ってよくはねぇよ!!


「ところでユキちゃんは海坊主とはどこまでの関係で?」


「なに言ってんだクソジジイ!!」


ふざけんじゃねぇよ!!

何の関係もねぇよ!! あるとすれば友達関係だよ!!

てか海坊主って誰だよ!! もうツッコむのもめんどくせぇよ!!


「いやですよお父様ったらぁ!」


「なぜ照れてるんだお前!! 何もないよ!? 何もないからね!?」


「かっかっか! そうかそうか。何もないか!」


「何だよその笑顔!! マジで何もないから!!」


親父の顔は、もうなんというか、一言で言うならばぶん殴りたくなるような顔だった。

そして、ユキはなぜか顔を赤くしながら照れている。その顔が誤解を招くんだって!!


「海兄ぃ、諦めなよ」


「諦めねぇよ!!」


「ウチを騙してコトネの家に連れて行こうとした罰があたったんヨ」


「知ってたの!?」


「だってあのとき少しは起きてたんヨ。カイの独り言聞こえてたんヨ」


えぇ!? あの時(第三十六話)少し起きてたの!?

ってか俺、喋っちゃってたの!? 何だよー教えてくれよー!!

どうりでオメガが怪我したことについて妙にあっさりしてるなと思ったんだよなー!(第三十六話参照)

そりゃあっさりしてるよー、だって少しは起きてたんだものー!

そりゃあれだけ派手な音がして起きてないほうが不思議だよなぁ!!


「無理やり伏線っぽいのを回収しようと頑張る山空兼作者の図」


「意味分からんことをほざくなメガネ!!」


俺はその辺に散らばってたビリヤードの球を銀髪メガネに投げつけた。

って、なんでこんなもの散らばってんの!?


「いやぁ、父さんは愉快だぁー!!」


「父さんも含めてみんなもう帰れよォォォ!!!!」




――――――ってなわけで本日の出来事。

結局みんな来た。






第四十五話 完



~おまけ~


雪「終わりましたですー!!」


エ「終わったんヨーーー!!」


雪「長かったです! とっても長かったです!!」


エ「世界一ヒゲが長い人のヒゲよりも長かったんヨ!!」


雪「基準がよく分かりませんですねそれ」


エ「ウチもよく分からないんヨ」


雪「…………」


エ「…………」


雪「終わりましたですー!!!」


エ「終わったんヨーー!!!」


海「やかましい!!」


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