第四十三話~飛野 かなえ~
季節は巡り巡って巡りまくって俺はとうとう中学3年へと見事進級を果たした。
今までと変わらず友達なんていないが、俺には親友と呼べるものが一人だけいる。
竹田 秋という奴だ。
あいつは俺のことを本気で心配してくれたり、時には本気で怒ってくれたりと、とても心の優しい奴だ。
俺がどれだけ救われたことだろう。
多分秋は、友達100人分……いや、何人の友達だろうと、秋には変えられないほど。
それほどまでに、あいつは俺の心の支えだったりする。
そして話は戻り、中学3年の春。
毎年の如く始業式へと向かった俺。もちろん、秋と一緒にだ。
と言っても、始業式なんて興味がない俺は、校長の長ったらしい話を右から左へと聞き流す程度。
そしてしばらくすれば話も終わり、学校の玄関前の壁にクラス分けの紙が張り出されるのだ。
いつもは張り出されないのだが、なぜか今年だけ張り出されるらしい。なぜだ。
俺と秋は『同じクラスだったらいいな』とかそんな会話をしながら、クラス分けの張り紙へと向かうため歩き出した。
玄関前に着くと、そこにはすでに人だかり。
まるで受験の合格発表のように、人がざわざわとざわめいている。
俺と秋は随分とゆっくり歩いてきたために、人が多すぎてもう全然見えない。
無理やり見ようとしても、まぁ、無理なわけで。
人が減るまで待とうという話になりました。
人だかりから数歩離れて見やすくなるのを待つ。
そんな時だった。
そんな俺たちに……いや、正確には俺に、何かがエライ勢いでぶつかってきた。
衝撃により、俺と『何か』は同時に尻もちをつく。
『何か』をよく見てみると、どうやら人。
それも、女子生徒だ―――――――
第四十三話
~飛野 かなえ~
「いって……」
尻もちをついたときに、尻を打ち付けた俺。
だがよく見ると、相手の女子生徒も同様に腰をさすっている。
その時の俺の脳内は、プチパニック状態だったりする。
(や、やべぇな……女子だろ? こ、こんな女子と密着するなんて……やばい、心なしか顔が赤くなってきてしまったような気がする!!恥ずい、なぜか恥ずい! やばい、この子よく見たら結構かわいいじゃねぇか! なな、なんだこの気持ちは……す、すごい緊張しているだとっ!? さすがは俺。女子との関わりと言えば、母さんか下級生の子か秋の妹の琴音としか接点がない。そんな俺が春にかわいい女の子とクラッシュなんてイキナリハードルが高すぎる!!ど、どうしよう、ここは手を差し伸べるべきなのか!? いや、それともここは、『ちゃんと前見て歩け』と、渋い男を演じ、冷たくあしらう方向性で!? い、いや、でもそんなことしたら絶対に嫌われる……!!え、でも待てよ? 俺は別に好かれようとしているわけじゃないぞ? って違う!! なんて声をかけるのかが重要なのだ!! とにかく何か言え俺!! 相手が恥をかかず、なおかつ申し訳ない気持ちでいっぱいにならぬよう、俺は全然気にしてませんよ風に声をかけるんだ俺!!いけっ! いけぇぇぇ!!!)
今年一番の脳の回転の速さにより、今年一番くだらないことを0コンマ数秒で考えきった俺は、その場で勢いよく立ちあがると同時に何を思ったのか頭を下げた。
「こ、こんな所にいてごめんなさイッ!?」
『ぶ、ぶつかっちゃってごめんなさイッ!?』
二人同時に頭を下げたものだから、頭と頭がゴッツンコ。
勢い良くぶつかり合ったがために、尻なんかよりも大変ダメージを受けた両者。
頭を押さえながらその場でもだえ苦しむ俺と、若干涙目になりながら声にならない悲鳴を上げ痛みに耐える女子生徒。
「あ、あれ、前にも似たようなことがあったような……?」
俺がそう呟くと、相手も女子生徒は反応を示した。
『え……わ、私も前に似たようなことが……確かあれは……』
共に頭を押さえながら。
「あ、入学式の日だ」
『……入学式の日に』
「えっ?」
『えっ?』
「もしかしてあの時の」
『もしかしてあの時の』
「え?」
『え?』
二人して似たようなことを同時に喋り出す俺と女子生徒。
そう、あれは中学の入学式の日。
色々あって毛虫の大群に襲われた俺は、暴れまわった末に女子生徒とぶつかり、今のようにお互いに頭を下げて頭突きしあったのだ。(詳しくは第四十話を参照)
俺は女子生徒の顔を確認する。
(……うむ。確かにあの時の面影が無きにしもあらず。てか覚えとらん)
俺がしばらく無言で見つめていることに気付くと、女子生徒は少し嫌そうに顔をそらす。
そして若干傷つく俺。
この場に微妙な沈黙が流れる。
「……………」
『……………』
「あ、あの」
『あ、あの』
「ど、どうぞ」
『ど、どうぞ』
「あ、あの」
『あ、あの』
「ど、どうぞ」
『ど、どうぞ』
「…………」
『…………』
「……あの」
『……あの』
「……………」
『……………』
「昭和のコントかッ!!!!」
ずっと気まずい空気だったこの場に、事の一部始終を見ていた秋の痺れを切らしたかのような激しいツッコミが入る。
「ぷっ……ふふ」
『ふふっ……ふふふ』
その一言で、その場に笑いが漏れた。
一気に和んだその場の空気を利用し、俺はゆっくりと立ち上がると、女子生徒に手を差し伸べる。
「えと、俺は山空 海。よろしく」
俺が差し伸べた手に、何の躊躇もなく手を伸ばしてくれた。
ちなみに、俺にとってこれが初めての異性と手を繋ぐ的なものだったりする。
「えと、私は飛野 かなえ。さっきは慌ててて……ごめん」
俺の手をつかんだ女子生徒はゆっくりと立ち上がると、謝罪と同時に自己紹介を告げる。
彼女のきれいで長い黒髪が、とても印象的だった。
「あ、ちなみにコイツは大和岳 信彦で……」
「誰だよッ!! 俺は秋!! 竹田 秋だ!!誤解されるだろ!?」
俺の唐突なボケも、見事にツッコミを入れてくれた。
秋のツッコミがあってこそのボケだからな。もし相手が秋でなければ、こんな誤解されかねないボケはしなかったことだろう。
「……と、とりあえずよろしくね」
かなえと名乗った女子生徒は、早速絡みづらい雰囲気を察したのだろう。引いてる。
そしてやはり、男として女子に引かれるとなると、程よく落ち込めるのである。
初対面同士でどこかぎこちない俺と、彼女。
会話も途切れ途切れである。
「おい、なんだよその付き合いたての初々しいカップルみたいなナヨナヨ感は」
「ナヨナヨ感ってなんだよ!!」
そんな中、秋が会話を盛り上げてくれるのは本当に助かる。
秋の言葉に自然とツッコミが入れられるので、なんか気まずい俺も気分が少し楽になるというか。張り詰めた雰囲気が気にならなくなる。
そんなやり取りに、彼女は笑みをこぼす。
おそらくこの三人の中で俺だけがぎこちないのかもしれない。でもしょうがないのだ。
秋以外の人…それも女子ともなると、俺の脳内は完全にプチパニックなのである。
どう話しかければいいのか。
どう会話すりゃいいのか。
誰とも付き合いがなかった俺にとって、女子と会話することが至難の業と化していた。
「なぁ、海お前大丈夫か? なんか頭から煙出てきたけども」
オーバーヒート。
プスプスと、俺の脳内要領をはるかに超えるこの状況のせいで、俺の脳内は容量オーバーだ。
(何か話をしないと何か話をしないと何か話をしないと)
「な、なんかよくわからないけど……大丈夫?」
挙句の果てに彼女にまで心配をかける始末。
実に情けない限りである。
「だ、だ、だだ、だい、大丈夫でござる」
「ござるってなんだよッ!!」
秋にツッコまれる。
「あ、あ、いや、その、な、なんでもないでごわす!」
「ちょ、ごわすて……」
彼女にまでツッコまれた。
あまりの緊張のために、俺の口調が暴走をしだす。
目の前の彼女もすっかり呆れ果てている。
誰か助けて。
誰かこの気まずい流れを変えて。
俺が思った時、気がつくともうクラス分けの張り紙前には人だかりが少なくなっていた。これはもうチャンスとしか言いようがない。
「お、おい秋! 人少なくなってきたぜ!」
強引に話の切り替えにかかった。
「お、本当だ。じゃあ見に行こうぜ」
俺の強引なる作戦に、秋もうまい具合に乗ってくれた。
(よし、これでこの気まずい空間から抜け出せる!!)
そう思っていたのだが。
「あ、私もまだ見てなかった」
なぜか彼女も一緒に見ることとなった。
ちょっと待ってくれ。
もうこれ以上女子と一緒にいると死んでしまうかもしれない。
「大げさだなお前」
「え? 俺なんか言ってた?」
「またそれかよ!」
ちょくちょく秋が心を読んでくる。
あいつはエスパーか何かの生まれ変わりなのだろうか?
俺の親友がエスパーだった件について。こんな記事どこかで見たな。
「……お、海、俺達同じクラスだぜ!」
クラス分けの張り紙を見た秋が言った。
「え? 嘘、何組?」
いまだに自分の名前を見つけられない俺は、面倒なので秋に聞いてみた。
「えっと、2組」
「なんか2組率たけぇな俺」
小学校時代もそうだが、2組以外の組になったことがないような気がする。
高校は絶対にアルファベット表示の組の高校に行く。絶対に行く。そして俺は1-Aクラスに入る。
「そんな不純な理由で志望校決めるなよ……」
秋がうるさいが、俺は絶対に決めた。もうそれ以上の志望理由などない。
「あぁ、私も2組だ」
俺の隣にいたかなえとかいう女子が呟く。え……マジで?
マジでぇぇぇ!!!!?
「ちょ、なんか迷惑なの…?」
「あぁ、迷惑だ!! 女子との接点が無に等しい…いや、もはや無な俺とって、女子と一緒とかどう接したらいいかわからんのだ!!」
「堂々と言う事じゃねーだろ」
「私は関係ないよね」
秋とかなえとかいう女子、二人に俺はツッコまれた。
ツッコミはもう秋だけで事足りてるというのに……いじめかお前ら。
「……まぁ、なんかそういう訳みたいだし、ここで会ったのも何かの縁。今年一年よろしくね」
「うるせぇ!! 『よろしくね』じゃねぇよ!! こっちは緊張しすぎて死ねるっちゅーねん!!」
「なんでキレてんだよお前」
冗談じゃねぇ……、こんな、こんな……。
特別美人という訳じゃないがブスでもない、いや、むしろ可愛いくらいだ。そんな女子とこんな……気まずすぎて耐えられそうにねぇよ!!
「な、なんかありがとう」
「普通に可愛いとか言っちゃうのなお前」
「え? 俺なんか言ってた?」
「おまえ……」
なんかよくわからないが……まぁいい。
同じクラスになってしまった。こんな気まずいことはない。
いや、クラスにはほかの女子ももちろんいるが……。
ほかの女子とは接点がない。
つまり、別に何とも思わないし思われないわけだ。
だがしかし、ここにいるかなえとかいう女子とは接点ができてしまった!!
これでもし次から話しかけられたりなんかしたら、俺は緊張のあまりぶっ倒れてしまうだろう……。
だが逆にこの場限りで次から話しかけられなくなったとしても……それはそれで落ち込めるわけだ。
つまり、俺が生き残るすべはただ一つしかない。
こう、程よく……朝、挨拶を交わす程度の関係にならなければ……!!
それ以上でもそれ以下でもない、普通に、挨拶だけ。
「お前の目標どんだけ低いんだよ」
「そして私はどうすればいいのよ……」
「うるせぇよお前ら」
俺の顔を見るなり呆れた目で俺を見てくる二人。
なんだよ、秋はもう仲良くなったってのか。
この裏切り者め。お前も友達が少ない人間だと……人付き合いが苦手な人間だと信じてきたのに。
コツを教えろばかやろー!!!
「えと、あの……この人どうしちゃったの……?」
「あぁ、気にしないでくれ。コイツよくこうなるんだ」
「そうなんだ……」
―――――――――こうして、この場は解散となった。
そして次の日の昼こと。
「いやぁ、メシだメシだ。屋上行こうぜ!」
すでに弁当持参で俺の隣に立っている秋に言った。
「やだよ。何で毎回毎回屋上行かなくちゃならねーんだ」
おいコラ。お前何もわかってねぇな。
「いいか? 屋上ってのはな。誰からも嫌な眼で見られなくて済むんだよ」
「そんな堂々と悲しさ満点の発言するなよ……」
俺を憐れむかのような眼をして、俺のことを見つめる秋。
ちょ、おいやめろよ。
お前まにまでそんな目をされると屋上に行っても意味ないだろうが。
「なぁ、海。そういえば昨日の子どうしたんだろうな」
突然の話題変更。
だがしかし俺も興味のある内容だったのでどうってことはない。
「あぁ、確かに。いつ話しかけてくれるのかと切腹覚悟で待ちわびていたというのに」
「要らん覚悟は捨てろ」
俺はずっと待ってた。
今日の授業だって全然頭に入ってこなかったぐらいだ。
「なぜなら今日の授業は俺の嫌いな歴史だったからだ」
「おい秋。俺になり済まして困りそうで困らない偽りの事実をでっちあげるなよ」
別に歴史は嫌いではない。てかむしろ好きだ。
理由は言わずもがな、過去の偉人たちの活躍ッぷりを見て俺もやる気が起きるからなのである。
とにかく、俺は本当に待っていたのだが。
ふっ、やはり所詮は赤の他人。俺のことなんてすっかり忘れているに違いない。
いや、覚えていたとしても話しかけてきてくれるわけないのだ。あの『今年一年よろしくね』発言は、昨日のあの状況が生み出した変なテンションだったが故の発言なのだろうからな。
あの女子生徒にとって、俺なんて同じクラスの男子Aとか、たかがアルファベット一文字のみで言い表せてしまうほどの認識なんだろう。俺の人生は一文字のみで表せるほど単純なもんじゃねぇぞ。
まぁ、話しかけられたらかけられたで、変に気を使うだけだしな。
別に俺は全然気にしていない。このちょっぴり淡い期待が裏切られたところで落ち込むほど俺も馬鹿じゃない。もしかしたら初の異性の友達が出来るんじゃないかとか思って昨夜なかなか寝付けずに今日学校に来るのがすごい楽しみでしかたなかったとかそんな気持ちを裏切られたくらいで落ちこむわけが……。
「海。男でも時には涙を流してもいいと思うぜ……?」
「……やめてくれ……今の俺に優しい言葉を投げかけないでくれ……」
今年初めて涙を流した瞬間だった。
「まぁ、気にしてたってしょうがないしさ。教室で弁当、食おうぜ?」
「さりげなく屋上へ行かない方向へ話を持ってくんじゃねぇよ」
「あ、ばれた?」
「俺はもう誰も信用できないよ……」
「まぁまぁ、とにかく昼飯食おう」
――――んで、結局教室で食うはめに。
「うおぉおおぉぉぉおお!!!!」
「おいおいやけ食いするなよ。将来はフードファイター志望か?」
「そうだ!! この大&早食いで世界を震撼させるっちゅーねん!!」
「ははは、頑張れ」
俺は早弁部(※早弁部とは――帰宅部的な感じの部である。その名の通り、早弁をする部。俺が今設立した)のエースさえも唖然となるような豪快かつ大胆な食いっぷりで弁当を喰らう。
「しかし不思議だよなー」
突如秋がなんか意味深なことを呟く。
「ふぁ? ふぁにぐぁ?」
「きたねーな、口にもの入れたまま喋るなよな」
「ふぉう、ふまん」
「だから喋るっての」
秋がうるさいので、俺は良く噛んだのち飲み込んだ。
いや、実に美味い。口の中で卵焼きとミートボールとプチハンバーグと肉団子とピーマンの肉詰めがごちゃ混ぜになり味がよくわからなかったが美味かった。
「なんでほとんど肉類なんだよ」
「母さんに聞いてくれよ」
彩りなんて考えたことねーだろあの人。いや、別にいいんだが。
せめて栄養バランスは考えてほしい。
「で、何が不思議だって?」
「は? なにが?」
「いや、お前が言ったんだろ。『しかし不思議だよなー』的なこと」
「あぁ、そうそう。それだそれだ」
どれだ。
「お前ってさ。『みんなに避けられてる』とか、『嫌われてる』っていつも言ってるだろ?」
「あぁ、悲しいことだが」
「でもさ、ならなんでお前って虐められないんだろうなってな」
……どういう意味だ?
「だってさ、普通、虐めようとする人間も出てくると思うんだよな。でもお前は虐められたことはないわけだ」
「……まぁ、そりゃー」
確かにそうだ。
俺は昔から避けられてはいたが、虐められたという覚えはない。
「それってさ。海の人柄だと思うんだよな」
「……人柄?」
「ああ。海の性格からして、憎めないっつーのかな。悪い奴とは思えないわけよ」
……悪い奴とは思えない……か。
そんなこと生れてはじめて言われた。
でも、ならばなぜ俺は避けられているんだ。
「みんなはお前を避けてる。でも虐めは受けない。それってつまり、『海』という人間がどういう奴かわからないから、みんな警戒しているだけだと思うんだよ」
「警戒か?」
「そう。だからな海、お前さえもっと素直に、積極的になれさえすれば。お前のことを嫌う人間なんて出てくるわけないんだよ」
「じゃあつまり、俺が嫌われている原因は、俺と言う人間がどういう奴か分からないから。ってことか?」
「そうだな。お前は元々話しやすい愉快な奴なんだから、海さえその気になれば絶対友達はできるはずだ」
「…………」
……秋の言いたいことは分かった。
つまり、避けられているのは俺のせいでもある。という訳だ。
俺がもっと素直に、ありのままの自分をさらけ出すことができたら。
俺がもっと、みんなと仲良くすることができたら。
俺にも友達が出来る。
「いいか海。お前は『話しかけたら嫌われるかもしれない』とか、『俺のことなんてどうせ誰も相手にしてくれない』だとかくだらないこと考えすぎなんだよ」
「くだらないってなんだよ! 俺はこれでも真剣に」
「わかってるよ。最後まで聞け」
「……おう」
「いいか? お前がそう思うってことは、言ってしまえば相手のことを信用してないわけだ」
「…………」
「自分が信用出来てないのに、自分のことを信用してもらおうなんて、そんな自分勝手な考えしてる時点でお前はダメなんだよ」
「ダメとか言うなよ」
「別にいいじゃねーか嫌われたって。世界は広いんだぞ、何人の人間がいると思ってるんだ。その中でお前のことを悪く思う奴もいて当然だろ。それとは逆に、よく思う人間だって必ずいる。お前が諦めてどうするんだよ。しつこく粘れ。粘り倒せ。お前は今日から人間関係の粘着質だ」
「ちょ、なんだよその物質!」
「だからな海。一番大事なのは、お前のやる気だ。お前が諦めた時点で試合終了。わかるよな?」
「……おう」
正直、俺はすごく驚いていた。
秋が俺のことをここまで考えていてくれた事ももちろんそうだが、それだけじゃない。
『お前がダメだからダメなんだ』なんて。そんなハッキリ指摘なんてしたら、もしかしたら嫌われて絶交なんてこともあり得ない話ではない。
だが秋は目先の恐怖に屈することなく俺のために動いてくれたわけで。
ほかの人からすれば『仲良すぎてキモい』とか思うかも知れないが、俺にとって、秋の言葉の一つ一つに感じるモノがある。そんな言葉を言ってくれるのは秋以外に俺はまだ知らない。もちろん家族は別として。
俺は秋に教えられてばかりだな。いい友達を持ったぜ。
相手のことで真剣に悩み、考え。
一緒に力になってくれるのが秋なのである、
「まぁ、俺が言ったほとんどはテレビで見た心理学の人の受け売りだけどなー、ははは」
そしてすぐに台無しにするのも秋なのである。
黙ってればカッコよかったのにな。
……でもまぁ。
「秋、ありがとな」
「ちょ、恥ずいからそんな直球にお礼とか言うなよ! 別に海のためなんかじゃないんだからな!?」
え、まさかのツンデレ?
「もういいだろ! ほら、丁度いい所に昨日の子がいるぜ!当たって砕けて来い!!」
顔を赤くしている秋が苦し紛れの話題変更。
秋が指さした方向に、昨日の子と瓜二つの女子生徒が、ほかの女子たち2人と弁当をつつきあいながら、何かしらの会話で盛り上がっているようだった。
「ちょっと秋さんいきなりハードル高すぎやしません!?」
相手が1人でいる時ならまだしもグループて。グループて。
「大丈夫だ、お前ならできる。俺は信じてる」
「いやでもさっき『当たって砕けろ』とか言ってたよね!?砕けちゃまずくね!?」
「大丈夫だよ、自分に自信を持て!! 自分に自信が持てないなら俺を信じろ!!だまされたと思って声をかけて来ーい!!」
「……あぁ、分かったぜ秋!!」
秋がそこまで言うなら俺は頑張ってみようじゃねぇか!!
と、若干やけくそでそのグループに近づく俺。
俺が近付くと、当然のごとくみんなの視線は俺に集中だ。
「よし、海! そこで告白だ!!」
「俺と付き合ってください!! って違うよね!?」
『え、あ、いや……そのいきなり言われても……ごめん』
文字通り砕け散りました。
ってか、俺別にあんたに告白したわけじゃないからね!?
そこにいる昨日の子に対して告白したんだからね!? いや、告白するつもりじゃなかったけども!!
どんだけ自意識過剰なんだよ! てか秋のせいで告白しちまったじゃねぇか!!
と、過激な脳内ツッコミを繰り返している俺を見て、昨日の子はこう言った。
「……あ、キミは昨日の……たしか、山口 勉くんだったっけ?」
真面目な顔して何言ってるんだこの子。
「勉じゃねぇよ! その勉学に勤しんでそうな人は誰だよ!?」
あ、そうそう。ここで昭和のマンガあるあるをひとつ。
昭和のマンガの学校内で、勉くん、進くん、治くんをよく見かける。
うん。あるある。……あるよね?
「えっと、じゃあ……山口 金治郎くんだったかな?」
二宮金治郎なら知っているのだが。
「てか、マジで? マジで言ってるの? え、もしかして天然?」
「し、失礼なこと言わないでよ! ちょっと待ってなさい、えーっと、確か……水っぽい名前だったはず」
ムキになり自分の力で頑張ろうとする昨日の子。あ、なんか面白かわいいな。
「あ、思い出したっ! 山口……」
山口の時点で違うからね!?
「山口 川尾くん!」
「違う!」
「じゃあ水尾くん?」
「違う!」
「なら池尾くんね!」
「違う!!」
「むぅ……降参。ごめんね、覚えてないや。何尾くんか教えてくれない?」
その『尾』ってのは絶対条件なのか?
「俺は海。山空 海だよ」
「あぁ、思い出した! 山口 海尾くん!」
「話聞いてました!?」
俺は山口でもなけりゃ海尾くんでもないよ!?
そんな俺たちを見ていた女子一人が、言う。
『山空って……あの毒尾くん……?』
「毒尾くんじゃねぇ、毒男だよ!! ってそれも違う!!」
噂の流行度が半端ねぇッス。
「……で、私に何か用?」
昨日の子が俺に問いかけてきた。
そ、そうだった。
こんな所で馴染んでいる場合ではないのだった。
なんて声かけりゃいいんだチクショー!!
と、とりあえずなんか言わねぇと!
「かなこさんは」
「かなえだよ!」
名前間違えました。
「ご、ごめん、かなえさんはその……だ、男子との昼食は興味おありでございまするか……!?」
なんか緊張しすぎて変な教祖の勧誘みたいな喋り方になってしまった。
「……は?」
明らかに怪訝そうな表情である。
「い、いや、その、えと、あのですね……その、し、秋タスケテー!!」
ドンガラガッシャーン!! と、秋が派手にコケた。
リアクション芸人もビックリのコケっぷりである。
なんとか立ち上がった秋は、ヨロヨロとよろめきながらもこちらへと足を運んだ。
「うちの海がご迷惑をお掛けしまして本当に申し訳ありませんでした」
おいコラ。親友でもぶっ飛ばすぞ。
「いや、まったくです」
おいコラ。女子でもぶっ飛ばすぞ。
「いや、実はコイツって悪い噂流れてるじゃないですか」
秋が丁寧に誤解の弁解を始める。
てかなぜ敬語だ。
「あぁ、毒男ってヤツですよね」
そして相手のかなえ様も敬語であらせられます。
そして俺の丁寧語キモいな。
「はい、そんな噂が立っちゃってるものですから、コイツ友達がいなくてですね」
「ちょ、そんなこと言うなよ!?」
「だからただ今、コイツの友達増やそうぜの会の活動として声をかけたわけです」
俺のツッコミも華麗にスルーされ、なんか知らんが見知らぬ会に入会させられた俺。
……でもあれ? なんかかなえさん悩んでらっしゃる?
「……うん。可哀想だから友達になってあげてもいいよ。悪い人じゃなさそうだし」
秋の説得(?)でなんか普通にこの俺に友達にが出来た。
え、友達になってくれるの? マジで?
でも信用ならない。
こんな簡単に友達なんて出来る訳がないんだ……!!
と、思ったので。
「……ひとつ聞きたいんだけど、友達になるって言った瞬間友達になるものなのか? 例えば明日も今までと同じ対応でもそれは友達と言えるのか? そんな簡単に友達になれるのガッ!?」
「ゴチャゴチャうるさいんだよお前!」
秋に殴られました。
「とにかくそういう事だから、これから、コイツを見かけたら一言だけ、最悪ラリアットだけでもいいから掛けてやってくれな!じゃあ!」
と言ったような声を聞きながら、俺は秋に廊下へと引きずられて行ったのである。
もちろん、その後たっぷり叱られたことは言うまでもない。
第四十三話 完
【報告】
今回のサブタイにもなっているこの”飛野 かなえ”というキャラクターは、俺のブログの友達であり物書き仲間でもある「箒草 ありす」さんという方が、俺の小説のキャラクターたちとコラボ小説を執筆してくださった時に登場したオリジナルキャラクターになります。
その時の小説を拝見し、とても良いキャラクターだったので、今回その子を譲っていただくに至ったわけです。もちろん許可もいただきました。
当然、肝心の物語としてはそんな事情等を知らなくても大丈夫なように執筆しておりますので、「このキャラはなんか裏でやり取りがあった」程度の認識で全然問題ないです。
以上、報告になります。
長々と失礼いたしました。
引き続き、「俺の日常非日常」の応援よろしくお願いいたしますm(_ _)m