第四十二話~親友と妹と変態の人~
過去編、まだまだ続くよ! 過去編飽きたよ!
(※挿絵を描き直しました)
あれは、俺が中学2年の頃の話だ。
ピーンポーン
と、家のチャイムが鳴り響く。誰かが来たのだろう。
「海くんの言ってたお友達来たのね♪」
お袋に話をしたら、『海くんにお友達がいたのね!』と、大喜び。
なぜか俺よりも喜んでいる。
「なんで俺よりも喜んでるのさ……」
俺は呆れ口調で問いかける。
「だって、海くん学校の事何も話してくれないんだもの……お母さん泣いちゃう。でも泣かない! 女の子だからっ!!」
「おいおい」
見たまんまの陽気な人である。
ピーンポーン
と、再びチャイムが鳴り響く。
「ほら海くん、お友達を待たせちゃダメでしょ! 嫌われて生卵投げつけられちゃうわよ!」
「悪質な嫌がらせじゃねーか」
俺はお袋に呆れながらも玄関へと向かい、玄関のドアに手を掛けた。
(とうとう……とうとう友達を家に呼べる! これで俺は、もう寂しい奴なんかじゃない!)
俺は勢い良くドアを開けた。
『いてっ!?』
そしてドアの前にいた親友に直撃した。
その場で蹲る親友。
そしてその親友に心配そうに声を掛けている少女。
えっと……………………だれ?
第四十二話
~親友と妹と変態の人~
「えー、あー、お前大丈夫か?」
今だ立ち上がらない親友に、一応声を掛ける。
そんな俺の呑気な声に怒りを覚えたのだろうか。
さっきから親友に一生懸命声を掛けている少女に、キッっと睨まれた。
俺がいったい何をしたというんだ。
「おい、大丈夫かよ? 冗談だったらシャレにならねーぞ?」
「ば、バカかお前……普通ドアの前に人が立ってるって分かってたら……勢いよく開けねーだろ……」
途切れ途切れに怒りをぶつけてくる親友。
まぁ、確かに、お前の言い分も一理ある。
だけども。
「普通家から人が出て来るって分かってたら、そんなドアの前にスタンバッてないと思ってさ……」
「た、確かに一理ある……諸葛孔明……一生の不覚………」
「そら一生の不覚以外の何物でもないわな。孔明さん」
と、バカな会話ができるのだからおそらく親友は無事だ。
「つーかいつまで屈み込んでんだよ。早く立ち上がれよ」
「お? なんかいいな、その『立ち上がれ』っての」
そんな陽気な声を聞き、親友は本当に無事だという事が判明した。
「そんなにいいなら何度も言ってやるぜ! 立ち上がれ! 立ち上がれ! 立ち上がれ! ガ○ダム!」
「ガ○ダムじゃねーよっ!」
鋭いツッコミを入れると同時に、親友は立ち上がった。
「凄いなガ○ダム。立ち上がらせやがった」
「いや、これは俺の意思で立ち上がったの!! ガ○ダム様のおかげじゃないの!!」
ガ○ダムのおかげで親友はなんとか立ち上がった。
だが、親友が立ちあがった拍子に、親友の体を優しく支えていた少女が倒れる。
そして、ガッ!!っと、鈍い音が響き渡った。
『………っ!!』
少女は頭を押さえてもがいている。
倒れた拍子にぶつけたようだ。
「おい、その謎の美・少女がお倒れなすってるぞ」
「あ、大丈夫か!? って、変なところで切るなよ!! 韓流スター様の如くなっちゃったから!!」
ビ・ショウジョ。
こんな韓流スターがいたら引くわ。
「って、そんなこと言ってる場合じゃない。大丈夫か?」
俺は頭を押さえてもがいている少女に手を差し伸べた。
が、しかし。
キッ
と、睨まれた。
おい、俺なんかしたか?
「おい秋。その子大丈夫か? 結構強く打ってたけど」
今更ながら紹介しておこう。
俺の親友、竹田 秋だ。
「あぁ、なんとか大丈夫っぽいが……頭だからなぁ、もし万が一の事があれば……」
秋が心配そうに少女の頭をさすってる。
記憶喪失にでもなったおもしろ………いや、今のは不謹慎だったな。ごめん。
「あ、そうだ。不謹慎で思い出したんだけどさ、俺の母さん、昔は看護師やってたらしいから見てもらうか?」
そう、俺の母さんは、昔は美人看護師として一躍有名だった……らしい。
だけど、俺が生まれたのきっかけに辞めてしまい、今は小さいころからの夢だったファッションデザイナーとして活躍している。
俺が風邪を引いた時なんか、とても頑張って看病してくれたものだ。
もちろん、怪我の事だって他の人よりは詳しい。
「そうなのか。じゃあお世話になってもよかばいとスネイクーパー?」
「おう」
謎のなまりを用いて頼んできた秋。
お前はどこ出身だよ。この状況でふざけるんじゃないよ。
「てか、なんで不謹慎で思い出したの!?」
今更そこにツッコミを入れてくるんじゃないよ。
もう俺の中ではスルーされたボケとして封印されてるんだから。
「……とりあえず、母さん呼んでくるから。そこで待ってて」
「今です!」
秋がなんか手を前に出して叫んでいる。何事だ。
「はぁ?」
「あ、いや、孔明の真似を」
「こんな時に策を発動しようとするんじゃない!!」
しかもなんだよ。
上から大型のタライでも降ってくるのか?
どんだけ地味な策だよ孔明さん。ヘルメット被られておしまいだよ。
俺は呆れながらお袋を呼びに………あ。
「母さーん! ちょっと来てくれー!」
わざわざ移動しなくても声が届く範囲だという事に気付き、大声で呼ぶ。
玄関は開けっぱなしなのできっと届く。俺の声は、母さんにきっと届くはずなんだ!!
「いや、どこぞの主人公だよお前」
「え? 俺なんか言ってた?」
「あぁ、ばっちり」
俺の声を聞き、お袋が軽やかな足取りで来た。
いい年して何やってんだよおばさん。
「まぁ、海くん! お母さんの事そんな風に思ってたの!? おーいおいおいおい……」
「え? 俺なんか言ってた?」
「もはや病気の域に達してるよっ!!」
秋がツッコミを入れてくる。
いったいなんなんだよ。
「って、母さん! いつまで膝から崩れ落ちてるんだよ!!」
「海くんが謝って来るまで……おーいおいおいおい……」
「もうめんどくさいなッ!! 俺が悪かったからわざとらしく泣くなよっ!!」
最近お袋が面倒だ。
「あ、あの……いきなりで申し訳ないんですが……」
秋がお袋に話しかける。
そうだった、こんな親子漫才している場合ではなかった。
「母さん、この子転んで頭を強く打っちゃったんだけど、見てやってくれない?」
俺は涙目少女を指差しながら、お袋に状況を説明した。
「こら海くん、人の事指差しちゃダメ……なんて言ってる場合じゃないわね」
お袋の顔つきが真剣な表情になる。
いつもは能天気だが、いざという時には頼りになる俺の自慢の母親だ。
「どう? これは痛む?」
『……だ、大丈夫です……』
お袋が少女の頭部の具合を見ている中で俺はこう思った。
(この子の声、初めて聞いたな……)
まったく、不謹慎極まりない。
「うん、ちょっとコブができてるけど、大丈夫そうね。念のため30分ぐらい冷やしておいた方がいいわね」
お袋はそう呟くと、俺の方を見てウインクをしてきた。
「なんだよ母さん、そのデスウインク。俺を吐き気で殺す気か?」
「失礼ねっ! 『この子は無事よキラーン☆』の合図じゃないの!」
「いい年して何が『この子は無事よキラーン☆プリティーウフーン♪』だよ」
「なんで漫才始まってんだっ!!」
俺とお袋の親子漫才に終止符が打たれた。
てか、漫才しているつもりはない。
「じゃあ海くん、この子をあなたのベッドまで運びなさい。あとアイス枕も用意してね」
「なんで俺のベッドだよ!?」
「あら、別にいいじゃない。………あぁ、じゃあ私のベッドでいいわ」
「なんで!? 今の『あぁ』の中にどんな意味が込められてるの!?」
「そりゃあ、お前。中学生にもなると色々あるんじゃないかと、お母さんは気を使って下さっているのだ」
「あら、分かってるじゃない。さすが海くんの友達ね」
怪しい笑みを浮かべて結託した母親と親友。
「お前ら何!? つーか秋も中学生だろっ!! そして俺に限ってそれは無い!!」
「いや、自分で自分に限ってと言われても説得力がないですよねぇ?」
「そうね。分かってるじゃない!」
「分かってねぇよ!! お前ら何一つ分かってねぇよ!!」
なんだよこれ!!
なんだよこの展開!!
いったい何が起きたんだよ!!
秋はどうやら、俺のお袋ともう馴染んだようだ。
振り回されっぱなしの俺と、すっかり忘れ去られた少女を残して。
「……まぁ、こんな所にいてもあれだし、お邪魔させてもらうとするか」
それは秋が言う事じゃないと思う。
「そうね。じゃあ、海くんの秘められし古の秘宝と鍾乳洞のある自室へとご案内するわね」
「俺の部屋はそんなに神秘的じゃない」
大体、秘宝はいいとしても鍾乳洞って何だよ。
そんなとこに住んでるとか、俺は熊かよ。
「なら、アダルトチックな海くんの部屋へ」
「さっきから親が子にセクハラするなよ! まだ小さい女の子もいるんだから!!」
「海……襲うなよ……?」
「襲わねぇよ! 変態か俺は!」
『変態……』
「ほらこの子にまで変態呼ばわりされたじゃねぇか!! あ、いや、そんな身構えなくても大丈夫だから……」
俺の顔を怪訝そうに見るなり、身体を縮めて秋の後ろに隠れる少女。
心なしか、顔を赤くしている。
やめて。そんな顔しないで。まるで俺が変態みたいじゃないか。
「変態だろ」
「ぶっ飛ばすぞお前!!」
「ほらほら、喧嘩してないで家に上がりなさいな」
お袋の言葉で、ようやく俺の家へと足を踏み入れた秋。そして見知らぬ少女。
「おじゃましまーす」
『おじゃまします』
「ふふふ、お邪魔するがいい!」
『へ、変態……』
「だから変態じゃないからっ!! そんな引かないで!!」
この少女。見かけによらず恐ろしい子や。
「じゃあ、海くんの部屋で遊んで来なさいな」
お袋が二人に告げた。
もちろん、秋とその後ろに張り付いている少女にだ。
「……海くん。可愛い女の子がいるからって、変なことしたらお母さん怒るからね」
「母さんまで俺を変態認識ですかっ!? って、しないから! 変なことしないから、そんな目で見るのやめて!!」
お袋の言葉を聞いた瞬間、秋の後ろに張り付いている少女が、俺の事を差別的な目で見てくる。
誰だか知らんが、彼女の俺に対してのイメージを聞きたいところだ。
「あ、そうだ、海のお母さん!」
階段を上がろうとした秋が、突然俺のお袋を呼びとめる。
「あら、何かしら?」
「あ、いえ、その自己紹介がまだだったなぁって思いまして」
「あらっ、確かにあなたは何者で、何を考えて何をして何をしたいのか知らないわね」
「そんな詳しく知ろうとしなくていいからっ!! もうあっち行けよ母さん!!」
「もう海くんって子は、冗談が通じないんだから」
「ですよねぇ」
「あら、分かってるじゃない」
「そりゃもう、長い付き合いですから」
「やるわね!」
いちいち心が通じ合っている俺のお袋と秋。
なぜだろう。
俺の家なのに俺一人孤立している気がする。……この女の子もさっきから嫌な目で俺の事見てるし。
「まぁ、そう言うわけでして、俺は竹田 秋っていいます。で、こっちは妹の」
「あれ? お前妹なんていたんだ」
初耳だった。
「あれ? 言ってなかったっけ。てか、なら海はこいつの事今までなんて思ってたんだよ」
少女を指差しながら秋が言う。
そんな秋の問いに、俺は自信満々に答えた。
「秋のいとこの知り合い!」
「なにその地味に具体的な答え! しかもそうだとしたら俺とこいつは赤の他人だよね!?」
「……まぁ、そうなっちゃうかなぁ」
「なんだそれ……って、とにかくだな。コイツは妹の……おい、自己紹介しろよ」
秋が呼び掛けると、少女はゆっくりと口を開く。
「竹田 琴音です……。妹です……」
少しもじもじしながら、小声で答える。
………やべぇ、可愛い。
「琴音ちゃんっていうのね。今いくつ?」
「9歳……です」
「今年小4になったばかりッス」
秋が付けくわえる。
「なるほど、小4かぁ。よーしよしよしよし」
俺は秋の妹の頭を懸命に撫でた。
「へ、変態……!」
「変態じゃねーよ」
顔を赤くしてさっきからなに言ってるんだこの子……。
「あ、海。こいつあがり症でさ、知らない人とかだと緊張しちゃうらしいから。こう、徐々に……な?」
見ると、秋の妹は顔を赤くしている。相当のようだ。
「……いや、小4だろ? もういい年だ。ここらであがり症克服と行こうじゃねぇか!」
「やめなさい!」
調子に乗ってたらお袋に怒られた。
「じゃあ、おばさんはおやつ用意してくるから。二階で遊んでらっしゃいな」
お袋は俺達にそう告げた。
「あ、海のお母さん。お構いなく!」
「おやつはできればポテチがイイですぜおばさん」
「コラ」
小突かれました。
なんだよ、自分からおばさんっていいだしたくせに。理不尽だ。
―――そんなこんなで、俺達は俺の自室へと到着。
「へぇ、結構片付いてんだなぁ」
秋が周りを見ながら言った。
「そうなんだよ。前にも言ったけどさ、両親が物を大事にしないと凄く怒るんだよ」
「へぇー」
「それで俺も、片付ける習慣がついちゃったって言うか、物に対しての良心が両親のおかげで身についちゃった的な?」
「無理して上手いこと言おうとするなよ」
そう言いながら、あちこち漁りまくる秋。
よく見ると、秋の妹もキョロキョロしている。
(な、なんか落ち着かないな。変なものとか置いてないよな?)
俺も一応辺りを見回した。
だが、別に見られちゃマズいものは置いてはいない。
(はっ! これが噂の、『友達を部屋に呼んだ時に起こるなぜだか自分も落ち着かない現象』かっ!)
俺はますます友達ができたことを実感した。
「あっ!? こんな所にグラビア雑誌発見!!」
物置にしているクローゼットを漁っていた秋が、声をあげたと同時に雑誌を掲げる。
表紙には、現在人気沸騰中のグラビアアイドルが水着姿になっている写真が印刷されていた。
「あ、ちょ! なに勝手に漁ってんだよッ!!」
「なんだなんだ。海、お前もやっぱり男なのか?」
秋から雑誌を取り返そうと手を伸ばすも、間一髪で取り返せない。
「返せよッ! 返せってば!!」
俺は必死に奪い返そうとする。
だがしかし、秋は妙にかわすのが上手い。
「なんだよ海!こういう黒髪ロングが好きなのか?」
「ちげーって!! お前いい加減にしろよ!!」
「変態……」
「おい秋の妹!! この短時間で何度その単語をつぶやいてるんだ!!」
「今ので4回目かな……」
「真面目に返すなッ!!」
そんなに『変態だ変態だ』などと言われると、俺の心もそろそろ持たない。
俺は変態ではないのだ。健全な男子なだけなのだ。
ちなみに言い訳すると、秋が持っているグラビア雑誌は拾っただけであって、別にそういうのが好みとかそういうわけじゃないんだ。
「てかお前は回避の達人かよ!! もういいよ!!」
取り返せないので俺が追いかけるのをやめると、秋はふてくされながらその場に座り、グラビア雑誌のページをめくり始める。やめてくれ。
「なぁ、秋。それ返せよ」
一応説得を試みる。
「いいじゃねーかよ。もうちょっと読ませろよ」
「お前妹の前でよく読めるよな。そういうの」
ほら、妹さんの目が怪しい人を見るかのような目になってきてるから。
実の兄貴を悲しいほどに軽蔑の眼差しで見てるから。
「だって水着姿の女の人が写ってるだけだぜ? 俺はそういうのは何とも思わないの」
「いや、でもよ。妹の前でそれは普通読まねぇだろ」
「いいだろ、一度読んでみたかったんだよ。どんな感じなのかさ」
そう言うと、秋は黙々と雑誌を読み続ける。
秋の妹を見てみると、少し不機嫌な様子だった。
この妹さんがめっちゃ不憫や。
「なぁ、秋の妹」
「えと……なんですか…?」
「いや、そんな身構えなくていいから。あと、別に敬語もよしてくれ、慣れないから」
俺が声をかけた瞬間に、俺から距離を取り、自分の体を守るように丸くなる。
俺はどこまで変態認識なのだろうか。
「兄貴がこんな状態だが……妹としてはどう思う?」
『こんな状態』とは、友達の部屋で妹に背を向け、グラビア雑誌を食い入るように読み続けている状態のことだ。
もっと詳しく言えば、俺の自室の隅で俺のクローゼットを勝手に漁ったのちに見つけたグラビア雑誌をなんの躊躇もなく妹に背を向けて胡坐をかきながら黙々と読み続けているということだ。
こんな兄貴を見せられて、妹としてはどうなのだろうか。と、思ったので聞いてみた。
もしかしたら物凄い拒絶的な言葉が飛び出すんじゃないかと思った。
そして俺の予想通りに、秋の妹から出た言葉は、拒絶の言葉だった……のだが。
「妹としては嫌……でも、えっと……変態の人よりはマシ……」
そう、拒絶されたのは俺だった。
そして、俺の名前が分からなかったのだろう。
少し考えるそぶりを見せた後、俺の名前は『変態の人』となった。
それを聞いた俺はすぐさま秋の妹に近寄り、肩に両手を置き、力強く否定した。
「秋の妹…いや、琴音!! 俺は変態じゃない!! なにもしない、信じてくれ!! 俺は変態じゃなぁぁぁい!!!」
その時、部屋のドアが開きお袋入室。
「海くん、大声でなんて事叫びながら琴音ちゃんになにしようとしてるの……?」
おやつを載せたお盆を手に、突如部屋に入ってきたお袋は、俺の姿を見てあらぬ誤解をしているようだ。
秋の妹の方に手を置いており、『俺は変態ではないから信じてくれ』的な事を大声で叫んでいる俺。
これは、俺が秋の妹を押し倒そうとしているようにも見えなくもない。
信じたくはないが、お袋の目には『変態と化した息子』しか映ってないだろう。
「海くん、変態じゃないなら今すぐ琴音ちゃんから手をどけなさい?」
「はい、ごめんなさい」
俺は素直に謝ると秋の妹から手をどけた。別に俺は悪くないのだが。
「秋くんに琴音ちゃん。おやつ、持って来たわよ」
そう言って差し出してきたおぼんの上には、カステラが2切れと温かい紅茶の入ったカップが2つ。
これはつまり。俺の分が無い。
「おい母さん! 俺のおやつは!?」
「ないわよ?」
キッパリだった。
即答をも凌駕すると思われるほどの即答っぷりに、俺は唖然とするしかなかった。
「あ、海のお母さん。ありがとうございます」
グラビア雑誌を閉じながら、秋が丁寧なあいさつを。
「ありがとうございます」
それにつられるように、秋の妹も頭を下げた。
「じゃ、仲良く遊びなさいね」
丁寧な二人を見たお袋は、嬉しくなったのだろう。
鼻歌交じりに部屋から出て言った。
…………俺の……おやつ。
「俺のおやつはどうしたぁぁ!!!!」
ありえない。
これは母親としてあり得ない行為だ。
ふざけんな、ふざけるんじゃないぞ!!
「えと……変態の人……」
「変態じゃねぇ!! 俺は海だ!! 覚えとけ琴音!!」
「あ、えっと……じゃあ海……兄ぃ」
秋の妹が顔を赤くしながら言った。どんだけ内気なんだこの子。
「じゃあ海、遠慮なくいただきます!」
そう言ったかと思うと、秋が横から手を伸ばしてカステラ1切れ鷲掴み。
言葉の通り遠慮のかけらもなく食べ始めたのだ。
「おい秋! お前には俺に分けてあげようとかそういう労りの気持ちは無いのか!?」
「ない」
即答だった。
そんな秋の一言に落ち込んでいる俺に、秋の妹がこう言った。
「えと、海兄ぃって呼んでいい……?」
ぐはっ!
なんだこの可愛さは!?
これはヤバいぞ……コレはヤバいぞ!!!
「海兄ぃ……か」
「ダメだったかな……?」
「ダメじゃない! むしろ呼んでくれ!」
急によく喋るようになった秋の妹。やっと俺にも慣れてきたのだろう。
しかし海兄ぃ……か。
可愛すぎて鼻血が出そうです……!!
なんという幸せな……こんな可愛い子からこんな可愛い声と仕草でそう呼ばれたら……理性が……理性がぁぁ!!!
もう俺の妹になれよッ!!!
「私の分、半分食べていいよ」
ぐはっ!!
コンソメパンチよりも強いパンチ力!!
なんだこの子……急に凄まじい可愛さを発揮しやがった!!
「お、なんだ琴音。海の事が気に入ったのか?」
「違うよ!」
え……違うの……?
というか、そんなハッキリ否定しなくてもよくね?
「じゃあなんでだ? 琴音がそんな積極的に話しかけるなんて珍しいじゃん」
普段の琴音ちゃんを知らないからよく分からないが、自分から知り合ったばかりの人に話しかけのは珍しいことらしい。
普段はあまり誰とも関わろうとはしない。
どうやら関わりたくても関われない俺とは逆の人間のようだ。
そうなると確かに気になる。
なぜ急に積極的に話せるようになったのか。
……まぁ、どうせ、俺の秘めたる優しさを感じ取ってくれたからに違いないだろう! 俺の優しさに気付くなんてさすが秋の妹だぜ! ベイベ!!
「だって、なんか可哀そうだったから……」
同情でした。
「はっはっは。よかったな海、変態の人から可愛そうな人にランクアップだ!」
「よくねぇよ! てか気分的にはランクダウンだよ!!」
「で、海兄ぃ、おやついるの? いらないの?」
「急によー喋るなおい。北京原人か」
精神崩壊を起こした俺のツッコミは、もはや意味不明だった。
「海兄ぃ……明日があるよ」
もはや俺に明日はない。あるのは心の深い傷のみだ。
「はい……カステラ全部あげるよ……」
琴音がカステラを俺に差し出してきた。
「ありがとう……琴音……」
そのカステラを、俺は泣きながら食べたのだった。
―――――――こうして、俺と琴音は出会った。
なんかもう似たような終わり方しかしてないが、それもまぁ、イイだろう。
第四十二話 完
海「今回はすっげぇ雑な挿絵が無駄に二枚あったな」
秋「おいおい、そう言う事言うなよ。作者さんだって頑張ってるんだ」
作者「そうだぞ!!」
海「うお!? 作者が出てくんなよ!」