第四十一話~念願の友達~
今回初挿絵入れてみた。
その変化は朝からだった。
昨日(自己紹介した日)の今日でこの教室に足を踏み入れるのはかなりの勇気を使う。
皆に避けられるんじゃないだろうか。
皆に『バーカバーカ』とからかわれるのではないだろうか。
皆に『この子アイタタタタタッ!』と指をさされてバカにされるんじゃないだろうか。
ドS娘に『キモいんだよこの変態大腸菌!!』と罵られるのではないだろうか。………案外悪くは…………って、俺はMではないぞ。なんでこんな話になったんだ。
俺はどちらかというとSだ。俺の指示で女の子達にあんなことやこんな事をさせたいという願望も少なからずある。
そう、蹴りとばされたりなんかしたら多分俺はキレる。だから絶対にMではない。冷たくされたり、傷めつけられたりして何が楽しいんだ。理解に苦しむ。
どちらかといえば、抵抗出来ない女の子に対し恥ずかしいセリフや衣装を着せ、俺はウハウハと楽しみたい派だ……って、だから話が脱線してる。
こんな変態的考えを持っているから自己紹介の時失敗してしまったと言っても過言ではないんだ。
つまり、俺が避けられつつあるこの状況で、何が一番いけないのか。それは、俺自身が変わっていない所だ。
どんなにキャラを作ったって駄目、外見のみを塗り固めたって、内面を見られてしまえばそれまでだ。
つまり俺が内面から変わらない限り、どんなに頑張ったって友達なんかできやしない。
漫画やアニメやゲームのような展開なんぞ期待するな。すべての欲を捨て、俺は変わるんだ。
絶対に変わってやる。そして、目指せ友達100人だ!! …っと、危ない危ない。いつもの調子になってはだめだ。
そう簡単に変われるなんて思ってない。だが、俺は中学を境に変わる。
心から信頼できる友達を作るんだ。小学校の頃の俺とは決別するんだ。
この扉を開けて一歩踏み出す時、俺の新しい人生の幕開け。幕開けと共に俺は変わる。
俺は今、スタートラインに立っている。そう、まだ始まったばかりだ。
落ち込んでる暇なんてない、これからは学校を楽しい場所にする。
他人に頼っていてはダメ。そう……俺が。
周りではなく……この俺自身が。
………この俺が、変わらなくちゃいけないんだっ!!!
俺は勢いよく教室の扉を開けた。
「はい山空遅刻だぞー」
「すみませんでしたぁ!!」
第四十一話
~念願の友達~
うぅ……最悪だ。
これこそまさに生き地獄と言うべきなのだろうか。
クラスのみんな、明らかに俺を避けている。
もう昼休みだというのに、だれも話しかけてきてくれない。
なんだよなんだよ。
なんで女子らはそんなすぐに見知らぬ奴と仲良くなれるんだよ。
自慢じゃないが、こういう事に関しては男子は奥手だぞ。
プライドとか女子に対しての対応とかで、自分から話しかけるのは照れ臭かったりするんだ。
お前ら女子はもっとそこんとこを理解しないとだめなんだ。
全世界の男子は臆病者。
そう、俺だけではないはずだ。女子に対して話しかけたり、それどころか、男同士なら普通にやれる簡単なことも緊張してできない。
別に相手の女子に気があるからとかじゃない。
もしも相手の女子が超絶ブスで○バターのような顔立ちだとしても、話しかけるには妙に意識してしまう。
ただ性別が違うというだけで、俺たち男子は声をかけるのにもかなりの勇気が必要なのだ。
しかし小学校の頃の友達がクラスにいるやつはまだいい。
俺なんかどうする!? 小学校の時の友達なんかいねーよ!?
俺の小学校からこの中学に入学して来たやつはもちろんいるよ。
でもね。そいつらとはみんな関わりが無いわけで。イコール見知らぬ奴なんだよッ!!
何なの女子。お前らはあれか? 友達作りのエキスパートか? 友達作りのプロフェッショナルか?
そんなに人と仲良くするのが得意なら、誰とも接点がない男子達にも声を掛けてやれよッ!! もちろん俺も含めてだが。
いいか女子。お前らに一つだけいい事を教えてやる。別に負け惜しみとかそんなんじゃないからな? 勘違いすんなよ?
この中学に入って、たった数時間一緒になっただけの奴なんか友達とは呼べない。
例えば唐揚げだ。
唐揚げというのは、まず卵から大事に大事に育てて、いい餌をやり、いい環境を作り。時には厳しく、時には甘く。飴と鞭を上手く使い分けながら一生懸命に愛情込め、立派なニワトリに育てあげるんだ。
皆も想像してみてくれ。愛情込めて育てられた立派なニワトリを!!
あぁ……目蓋を閉じれば浮かんでくるようだぜ…………。
立派な身体つきの……鋭い眼をしたニワトリが……………。
はっ!? ニワトリにバカにされた!?
って、いかんいかん。想像力が豊か過ぎたぜ。
とにかくだな。長い間人生を共にした鶏達に涙交じりに別れを告げ、鶏達は運ばれ、加工される。
こうして出来た鶏肉にまず下味をつける為、調味料の分量を少しの狂いもなく丁寧に測り、そして揉みほぐす。ちゃんとした所なんか何年も漬け込むことだってあるんだ。……多分。
そして油を小型の鍋に入れ、180℃になるまで温める訳だ。
そして下味をつけた鶏肉には、先祖代々古くから伝わる秘伝のレシピの通りに混ぜ合わせた唐揚げをまぶし、鍋の中で肉同士がくっつかないよう、一つ一つ丁寧にあげるんだ。
こうして長い年月をかけ出来た唐揚げが、新の唐揚げ。すなわち、新の友達と言えるんだ。
なのにお前ら女子ときたら、それらを嘲笑うかの如く迅速に友達をつくりやがって。
そんな友達はな、『レンジでチンして出来る唐揚げ』のようにすぐに出来た友達はなぁ……ちゃんとした味は出せないんだよ!! つまり、ちょっとした事ですぐに壊れる程度の、所詮その程度の関係しか作れないんだっ!!
ちゃんとした唐揚げのように長い年月をかけて出来た関係…いや、友情や絆とは比べ物にならないんだぁぁぁぁっ!!!
……と、脳内で女子らに繰り返し言い放つ俺。いつかテレパシーの如き力が発動して女子らに伝わる事を信じて。
そう、今この状況で俺が何を言おうと、それは負け犬の遠吠えでしかない。
いや、負け犬ならまだいい。『負け』と言う言葉は、一度は挑戦してないと付かない称号だ。
だから負け犬の人たちは誇っていい。一度は戦った事があるのだから。
そんなわけで、俺は負け犬だ。だがけして情けない事ではない。俺は戦った。負けたが戦った。それを誇っていい。
戦わないと負けることすらできない。つまり、負け犬とは戦った者の称号なのである。
その戦いにおいて結果がどうであれ、戦うことに意味があるのだ。
負けた奴に負け犬の遠吠えと言う奴こそ、真の負け犬。いや、野良犬だ。
『野良』すなわち、人生と戦おうともせず、どうせ無理だ。どうせ駄目だ。と言って物事から逃げているだけ。そして気付けば飼い主にも見放され、どうしようもないダメな犬になっている。
野良犬というのは自分で散々好き勝手やっておいて、それの残り火を処理することが怖い人間。戦うことから恐れて逃げている奴のことを言う。
俺はそんな風にはなりたくない。
別にいいじゃないか、ダメモトでも。
どんなに無理難題でも、どんなに無謀な事でも。戦う前に諦めて手遅れになるくらいなら死んだ方がマシだ。
俺は絶対に諦めない。目の前にどんな壁が立ちはだかろうと、俺は越える努力をする。
もしそれで、全力でやってダメだった時。一人じゃ乗り越えられなかった時でも。
頑張っている姿を見た人が、必ず支えてくれる。一緒に知恵を出し合って、時には励ましあって。自分の壁でもないのに、自分の事のように真剣に悩んでくれる人が、気付いた時にはもうそばにいる。
でもその人とでも壁を乗り越えられなかった時。今度は壁をぶち壊そうという発想が出てくるかもしれない。
乗り越えられないなら、その人と二人でその壁をなかった事にすればいい。
そう、親友と二人で、幸せで平和な毎日を楽しく過ごせばいい。それはけして簡単では無いけれど、心から信じあえる友達となら絶対に突破する事が出来る。
俺はそんな人が現れるまで。…いや、現れてからも、戦う事をやめたりはしない。絶対に。
だから俺にもいつか、そう思える友達ができたらいいな。
そう思うと、俺は笑みがこぼれた。
それを見ていたクラスの女子一人が、不気味なものを見るような目で俺の事を見ていた。心から泣けそうな気分だった。
………ダメモトでも。
やってみなくちゃ分からない! ダメで元々! 本末転倒もドンと来いだ!
雨が降ろうが槍が降ろうが、不時着の飛行機が降ろうが溶岩が降り注ごうが、俺は絶対に負けない!!
俺は心の中でそう誓うと、クラスの奴に話しかける決意を固めた。
(えーっと、まず誰から話しかけるか……)
俺はあたりを見回す。
まず最初に、先ほどの女子グループが目に入る。
(グループはだめだな。いきなり難易度が高すぎる)
俺は再び見回す。
すると次に、一番前の窓側の席に一人でいる女子を見つけた。
(あの子もうまくクラスに馴染めないのか……? ならば絶好のチャンス。同じ境遇の人同士、仲良くなれる可能性が高い!)
俺はその子をターゲットに決めると、話しかけるタイミングをうかがう。
べ、別に怖気づいたわけじゃねーかんな!! 勘違いすんなよ!!
……しかし、あの子の背中が懸命に物語っている。
不安や願い、クラスに早く馴染みたいという願望。
ふふふ。そう縮こまるでない。俺と一緒にクラスに馴染み倒そうじゃあないか!!
彼女をしばらく眺めていると、彼女の体が少し動いた。
(いまだ!!)
俺は何の根拠もなしにタイミングを決め、自分の席を離れ、彼女の元へ歩き出す。
彼女の席の横に立つと、彼女はおれのほうを不思議そうに……いや、考えたくないが若干怯えながら眺めてくる。
『あ、えと……なんですか……?』
彼女がそう呟く。
その時だ。俺はある重大な事実に気付いた。
(……いかん! なんて声をかけるか考えてなかった!!)
その瞬間、俺の脳内はパニックに陥る。
突如家が天空の彼方へ飛んで行った時ぐらいパニックになっている。
そのため、無言が続く。
「……………っ」
俺はもう、完全に頭が真っ白だった。
俺の脳内は、早く何かを話さないと。という事だけでいっぱいだった。
(し、自然に話せ俺。自然に、普通に話をするんだっ!!)
俺はとうとう切り出した。
「あ、あの、きょ、今日はいい天気ですね」
『え……?』
(俺は何を言っているんだぁぁぁ! 外は雨やぁぁぁ!!!)
完全にミスった俺。
とにかく、早く失敗を取り返さないとっ!!
「あ、雨はいい天気ですよね…?」
(俺はバカかぁぁ!! どう見たら土砂降りがいい天気になるんだぁぁ!!)
『え、あの……何か用があるんじゃないんですか……?』
「あ、そ、そうね。用件があるのよね。そうよね」
(って、なんで女口調なんだ俺っ!! これじゃただの変なオカマじゃねーか!!)
俺の口はどうかしてしまったのだろうか。
変な言葉が次々と口をついて出てきてしまう。
(と、とにかく、『友達になろう』って言おう。それだけを伝えよう。このクラスに馴染むために協力してもらえるように頼みこむんだ! んで逃げよう)
俺は一呼吸置くと、彼女に告げた。
「お、俺と友達になってくださいっ!!」
そう告げると同時に俺は頭を下げ、手を差し出す。……が。
勢いよく差し出しすぎたがために、彼女の頬に手がクリーンヒット。
その瞬間俺は悟った。
(終わった………)
彼女は頬を抑えながら、無言で教室から走って出ていく。
当然、周りのみんなもそれを見ていたわけで。
その数分後、『噂の毒男が女子の顔を殴った』と、校内中に知れ渡ることとなった―――――――
―――――――そしてなにも出来ぬまま1ヶ月が経過した。
俺は今だ、友達を作れずにいる。
「ふっ……どうやら俺は、この世界に向いていないらしいな」
廊下を歩きながらイタい独り言を呟き終えると、俺は弁当箱を抱えながらある場所に足を運ぶ。
そう…………トイレの個室だ……。
「……って、そんな追い詰められてねーよっ! 屋上だよ屋上!!」
廊下でこうもドでかい独り言が言えるようになったってことは、どうやらこの俺は、この学校にも馴染めてきたらしい。
そう思うと俺は若干嬉しくなり、鼻歌交じりに階段を駆け上がる。
誰にも邪魔されない、俺だけの空間。それが屋上だった。
屋上に行けば、オメガとの日々を思い出す事が出来る。そしたらまた、この学校でも頑張ろうという気力が出てくるのだ。
「ふっ、ここが最後の難関か……」
屋上へ続く最後の階段を前に、訳の分からん事を呟くのはいったいどこの誰なのか。もちろん、俺だ。
俺は腰をかがめると、分析モードに入る。
「段数14。距離3m。時刻昼時……よしっ! 行けるっ!!」
傍から見れば階段をあがり疲れたおじいさんのような格好になっているのにも気付かず、俺は華麗なるステップで一歩を踏み出す。
「うおぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!! ………あ」
何のための分析だったのか。
何のための頑張りだったのか。
何のために恥まで晒らしたのか。
すべての苦労が水の泡となり、俺は今、空中にいる。
「うわぁぁぁああ!!」
豪快に足を滑らせた俺は、恐怖で頭がおかしくなってしまったのだろう。空中でなぜか分析モードに入った。
「高さそれなり。角度いい感じ。着地地点は角。着地部位は後頭部……OK!死んだっ!」
ドカッ!!
っと、いい感じの音を出した俺の後頭部。
だがしかし、俺の分析した着地地点は、ある一人の学生のおかげで狂わされることとなった。
「いってぇえええ!!!!!」
『いってぇえええ!!!!!』
そう、運悪くたまたま通りかかった学生は、すっ飛んできた俺の後頭部を顔面で受け止め、そのまま俺の下敷きとなり地面に叩き付けられた。
学生は鼻血を垂らしているが、俺は学生の腕ごと下敷きにしているため、学生は身動きが取れないようだ。
痛くても抑える事の出来ない学生は、涙を流しながら大声で叫ぶのみ。
そしてとうの俺は、後頭部の痛さがあまりにも気になったがため、その場で頭をさすっている。
『って、おいはやくどけっ! 痛みの余韻で俺を殺す気かっ!!』
「あ、あぁ! ごめん!!」
学生の過度な怒りにビビった俺は、素早く学生から離れ、正座して学生の様子をうかがう。
俺が離れたとほぼ同時に、学生は自分のポケットからティッシュを慣れた手つきで出すと、鼻を押さえてもがき始める。
それを見た俺は極度の申し訳なさによりその場で土下座をした。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
この土下座は言葉を噛む事を許さない。
一字一句間違う事なく、100回謝罪する。これが俺流のけじめのつけ方だ。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
『あぁ、もういいよ。気にするなよ』
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
『もういいから、頭をあげろよ』
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
『ちょ、人とか通ったら誤解されるからっ!』
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
『もうやめて下さい! 新手のいじめですかっ!?』
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
『もういいよ! 逆に怖いよあんた!』
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
『夢に見そうだからっ!!』
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
『……お前はインコか!? そして反抗期か!?』
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
『だまれぇええぇええぇ!!!!』
「………」
学生は鼻血を垂らしながら言った。
俺は学生の迫力に驚き、謝るのをやめたのだった。
『たくっ……で? お前見た感じ同学年だろうけど』
「おぉ! って事はお前も3年か! 何組だ?」
『え、3年……せ、先輩!? あ、あぁ、ごめんなさい! 同じ1年かと思ってましてその……!』
俺の嘘にほどよく引っかかってくれた。
コイツ面白いな。
「なにっ!? お前1年か!! 土下座して謝れ! 3年生のこのワシに!」
なんか一人称が仙人のようになってしまっている。
あの頃の俺は3年生を何だと思ってんだよ。
『ご、ごめんなさい!! 許して下さい! すみませんでした!! 大変お詫び申し上げます!!』
うわぁ、この人の謝りっぷりすげぇ。
面白いな。もうちょっとだけからかうか。
「ダメだ。ワシはお主みたいな礼儀知らずが大嫌いじゃけぇ、ゆるさへん!」
どこのなまりだよっ!!
あの頃の俺はアホかっ!!
『ごめんなさい!!! 本当に俺が悪かったです!!』
そろそろ許してやるか……
「……よかろう。これに懲りて、二度とするんじゃないぞ!」
『あ、ありがとうございますっ!!』
こうして、この何と見えぬ茶番が終わった………
『ねぇ、見て。あの人1年だよね……。ほら、毒男って噂の』
『しッ! 聞こえちゃうでしょ! 早く行きましょ!』
と、いうような会話が俺の背後から聞こえてくる。
そして。
『い、1年? てか、毒男!? てめぇ、騙したなッ!!』
ずっと頭を下げていた学生が、俺が実は1年だという真実をヤバい形で知られてしまった。
やばい! 怒ってしまった!! 本当はこの後『ドッキリ大成功~♪ フッフゥ~♪』的なノリで種明かしをし、そこから生まれる友情からの友達化計画だったのに!!
やばい、やばいぞ! これはヤバい!!
友達どころか学校中にやばい噂が流れてしまう!! 何とかしないと……!!
「あ、あのさ。じ、実はね? ……え~と……ド、ドッキリ大成功~! でしたっ!」
苦し紛れに出た言葉だった。
『ど、ドッキリってお前……!!』
ア………ヨケイオコラセチャッタ。
「ご、ごめん! 本当はこうコミカルチックに種明かしして、話笑い話にするつもりだったんだよ!」
『なるほど。この俺をクラスの笑い者にする気だったんだな……!?』
いやぁぁああぁぁぁぁ!!!! 助けてぇぇぇぇぇ!!!!
「ち、違う! と、友達になってくれるかと思って……!」
『騙し続けて俺をパシリにするつもりだったんだな……!?』
なんでこうなるのぉぉ!!
学生の誤解が止まらない。
「ぱ、パシリなんてとんでもない!! 俺はただ一緒に遊んでくれる友達が……!!」
『パシリじゃなく、金づるにするつもりだったんだな……!? お前らの言う友達ってそういう事だろ!!』
どうすればいいんだァァァァ!!!
俺は悩んだ。
何を言っても俺の気持ちが明後日の方向に飛んで行ってしまう。いや、学生がホームランの如くかっとばしてしまうこの状況で、何を言ったらいいのか。何を言ったら信じてくれるのかが分からず悩んだ。
俺はただ友達が欲しかった。
ここぞとばかりに友達欲を解放した。ただそれだけだ。
クソッ! こうなったらもう惨めでもなんでもいい!! 苦肉の策だ!!
俺はその場で飛び上がり、空中で三回転するぐらいの心持ちで普通にその場に座り頭を下げた。
「騙して悪かった!! 俺と、友達になってください!!」
『嫌にきまってるだろ。バカかお前』
そりゃそうだ。
さっき騙されたばかりの奴に友達になってくれと言われたって、嫌に決まっている。
しかもそいつは、悪名高い毒男なのだから。
俺はその場でゆっくりと立ち上がり、再び頭を下げた。
「騙してごめん……じゃあ、俺は行くから……本当にごめん」
そう告げると、俺はその場を離れようとした。
その時だった。
『…はぁ……たくっ、しょうがねーな! この俺様が友達になってやるぜ!』
「……………え?」
その時激しく落ち込んでいた俺は、学生が何を言ったかよく聞き取れなかった。否、聞いてなかった。
『だから、友達になってやるっての』
「……ほ、本当か?」
『あぁ、お前面白いから』
――――こうして。俺に友達ができた。
「ってちょっと待って。えと、名前は?」
友達になった後に名前を聞く。
これもまた珍しい体験である。
『あぁ、そう言えばまだ名乗ってなかったな。俺の名は……』
学生が一呼吸置く。
そして言った。
『名乗るほどのもんじゃないぜ!』
(うわっ、コイツめんどくせー)
なんて思ったが、口には出さない。
「おい、ちゃんとやれ」
『なんだよお前、急に馴れ馴れしいな』
「うるさいな。早く自己紹介しろよ」
『ちぇ、つまんねー奴だなぁ』
さっきと言っている事が違う学生。
こんなやりとりも、俺には楽しかった。
「俺は竹田 秋ってんだ! よろしく!」
彼はそう名乗った。
「俺は海。山空 海だ。よろしく」
「おう!」
こんな適当な感じで、俺と秋は出会った―――――
ちなみにこの後、『噂の毒男が1年を騙した』という噂が校内中を駆け巡る事になった。
―――――――それから、1年後。
「おい海! クラス一緒だったな!」
春休み明け初日の放課後。
秋がしつこく絡んでくる。
「秋、お前なんで今日はそんなテンション高いんだよ」
1年経った今でも、俺は今だ避けられ続けている。
だがそれを寂しいなんて思う事はもうない。
俺には秋がいる。始めて出来た友達は、凄いイイ奴だった。
1年の頃はクラスが別でなかなか一緒に遊ぶ機会が訪れなかったが、今年は同じクラス。
今の俺は多分、秋よりも喜んでいる。
だがそれが少し照れくさくて、表に出さないだけだ。
「なぁ、海! これからお前んちに遊び行ってもいいか!?」
秋が俺の肩に手を回しながら聞いてくる。
「おい張り付くなよ。暑苦しい」
「なんだよ連れねーな! もっとこう、明るく行こうぜ!?」
「お前何キャラだよ。なんか嬉しい事でもあったのか?」
いつにも増してテンションが高い。正直、ウザい。
でも、一緒にいて楽しいのは確かだ。
「いやぁ、実はさー、聞いてくれよ。実はさー、おい、聞いてるのか?」
「聞いてるようるせーな」
「朝学校来るときにさー、道に5000円落ちてたんだよねー」
下駄箱の前で靴を履きながら、秋が楽しそうに話をする。
「5000円!? お前それラッキーじゃねーか! 2500円分けろよ!」
えーと、欲しいゲームもあるし漫画や小説も……あ、あと新発売のカップラーメンも一度食べてみたかったんだよなぁ!
俺はもうすでに何を買うか悩みまくっていた。
「はぁ? お前何言ってんだ。交番に届けたに決まってんだろ?」
「このクソ真面目!! お前には幻滅だっ! お前なんか死んでまえ!!! うおぉぉぉおおぉぉ!!!」
自分の靴箱から白い靴を取り出すと、俺は喚きながらその靴を抱えて校庭へと飛び出した。
「おーい! せめて靴を履いてから旅に出ろよー!!」
秋の声が聞こえ、俺はその場でしゃがみこみ、靴をはく。んで、駆けだした。
「うおぉぉおぉぉぉ!!! 俺の青春がぁぁぁっぁぁ!!」
「おいコラー!! お前どこ行くんだよー!!!」
「地の果てだぁぁ!!!」
俺がそう言い残したと同時に、周りにいたクラスの奴らが、また噂を始める。
『あの人……頭大丈夫か?』
『あぁ、あの毒男だろ? 竹田の奴もよくやるよ。あんな奴に構うなんてバカだろ……』
ブチッっと、俺の中の何かが切れた。
俺は突如方向を変え、噂話をしていた男子二人組の方向に走って行く。
『うおっ!? なんかこっち来るぞ!』
1人がそう呟いたが遅し。
俺はもうそいつの元にたどり着いていた。
「おいテメー」
俺は1人の胸ぐらをつかみ上げる。
『ご、ごめんなさい! 毒男って言ってごめんなさい!』
彼は涙目で謝ってくる。
俺の迫力がよほど恐ろしかったのだろう。
だが、俺の怒りは収まらない。
「毒男とか頭おかしいとかは別にいい。だけどな、次俺の親友をバカにしてみろ!! その時はゆるさねぇぞ。覚えとけ!!」
俺が腹を立てたのは、秋の事をバカにしたからだ。
あいつは、この俺を変えてくれた奴だ。
俺と一緒にいるせいで、秋も変な噂が立てられ避けられてる。
俺は前に一度だけ聞いてみた事がある。
『俺のせいでお前まで避けられるようになって、本当は俺の事嫌なんじゃないのか?』と。
だが、秋は迷わず言ってくれた。
『そんな事で嫌になるくらいなら、俺は最初っから友達になろうなんて言わねーよ』って。笑顔で答えてくれた。
俺がその言葉にどんだけ救われたか。
俺がその一言でどれだけ気持ちが楽になったか。
あいつのおかげで俺は……。
「だから秋の事をバカにする奴は死んでもゆるさねぇ!!」
「おい海! なんてこと大声で叫んでんだ!! 恥ずかしくて死ぬかと思ったわ!!」
いつの間にか秋が俺の隣にいた。
「え? 俺なんか言ってた?」
「思いっきり喋ってるっての! 嬉しいけど恥ずかしいからやめてくれっ!!」
秋が顔を赤くしながら言ってくる。
「……たくっ、しょーがねーな。お前、次言ったらぶっ飛ばすからな」
俺はそう言い終えると、彼を解放した。
『……たくっ、おい竹田。なんでこんな変な奴と一緒にいんだよ。マジ意味わかんねーよ』
俺が解放した途端、悪態をついたこのクソ男子。
俺はさらにムカつき、再び胸ぐらをつかみ上げようとした時だった。
「ふざけんな! 海のどこが変な奴だよ! そういう事は、海とまともに向き合ってから言えっ!!」
俺よりも先に、秋が掴みかかっていた。
「お、おい秋。もういいだろ、許してやれよ」
さっきとは立場が逆転している。
俺の言葉を聞いた秋は解放したが、彼に悪い印象を与えてしまったようだ。
彼は走り去って行ってしまった。
「……あ、そうだ。なぁ、海」
「ん?」
「今日、おまえんちに遊びに行っていいか?」
秋が言った。
何かといえば外で遊ぶことが多かった俺達は、まだお互いの家に行った事がなかったのだ。
……つまりこれは……。
「まさに友達じゃん!」
「はぁ?」
俺の家に遊びに来るなんて、友達としか言いようがないよこれ!
ウホォー! 憧れていた友達を家に呼んで一緒に遊ぼうの日がとうとうこの俺に来たぁぁ!!
「おい海、お前大げさすぎだ」
「え? 俺なんか言ってた?」
「だから喋ってるんだって………で、いいのか? 悪いのか?」
秋が呆れたように聞いてくる。
ふ、そんなもん決まっているだろう。
「いいぜ! むしろ毎日こいよ!」
「毎日ってお前……まぁ、いいか。じゃあ家に帰ったらすぐ行くから」
「おう!」
こうして、俺は念願にして初の『友達が家に遊びに来る』を経験する事になったのだ―――――
第四十一話 完
秋「もう1年経っちゃった!! 俺の活躍カットされちゃった!!」
琴「どうせ言うほど活躍してないんだからいいでしょ」