第三十九話~出会って別れても結局は再会するから問題ない~
これは、俺が小4の頃の話。
いつもと変わらない退屈な日々の中、俺のクラスに転校生が訪れた。
転校生の名は、鳴沢 恭平。
俺はこの転校生のおかげで、退屈な日々が変わって行く―――
第三十九話
~出会って別れても結局は再会するから問題ない~
昼休み。
いつもこの時間は、やることもなく、ただ教室で窓の外をボーっと眺めているだけだった俺が、最近ではこの時間が楽しみでたまらない。
俺は階段を一段とばしでかけ上がる。
そして一番上まで登った俺は、立ち入り禁止と張り紙されているドアに手をかけた。
「今日はいつにも増していい天気だなぁ」
ドアを開けた瞬間、外のさわやかな空気が舞い込んでくる。
「お、山空。今日も来たのか」
そう声をかけてきたのは、もちろん転校生だ。
大胆にもこの広い場所で横になり、本を読んでいる。
そう、俺達は、昼休み頃に、ここ…屋上に集まり、くだらない雑談をするのが、もはや日課だった。
俺は転校生の隣に座ると、横になる。
上を見上げると、雲ひとつない青空が広がっていた。
「それより転校生。お前いつも早いなー」
俺と転校生は同じクラスだ。
給食が終わると同時に、俺は駆け出してきたはず。いつもそう。
だが必ずと言っていいほどの確率で、俺よりも先に転校生がいる事が多いのだ。
「……山空、さすがに転校生はもうよしてくれないか…?」
本を読みながら、俺の方を見る事もなくそう呟く転校生。
俺は転校生が転校してきてから、転校生の事はずっと『転校生』と呼んでいた。
俺は気にしていなかったのだが、さすがに名前くらい呼ばないとあれかな。
「僕が転校してきてからもう一ヶ月も経つんだ。……まぁ、別にいいんだけどね」
一ヶ月。
気付けばもうそんなに経っていた。
今までこんなに短いと感じた一ヶ月はあっただろうか。
「キミは人の話を聞いているのか?」
「あ、あぁ、ごめんごめん。聞いてるよ」
転校生の一言で、俺は現実に戻される。
(えーと、転校生の呼び方だろ? 鳴沢? それとも、恭平? うーん)
いくら考えても、今一しっくりこない。
それほどまでに、『転校生』と言う呼び方が、俺の中で定着していたんだと思う。
だから俺は、転校生自身に聞いてみる事にした。
「転校生はさ。呼ばれるとしたら鳴沢と恭平、どっちがいい?」
「キミが呼びやすい呼び方でいい」
ただ一言だけ告げると、再び本に視線を戻す転校生。
「おいお前! お前から言いだしたんだから真面目に取り組めよ!!」
転校生の本を取りあげ、転校生の体を激しく揺する俺。
「なにをするんだなにを……」
転校生はいたって冷静だ。いつもこんな感じ。
「だから、呼ばれるなら鳴沢と恭平、どっちがいいのかって!!」
「あぁもう、転校生でいいから本返しなさい」
「嫌だ!! 転校生の良い呼び方が決まるまでこの本は返さん!!」
「いいから返しなさいよ」
「嫌だっ!!」
「返しなさいっ!」
「断る!!」
「返せよっ!!」
こんな風に、くだらないことで盛り上がるのがとても楽しい。
そんな風に思うようになったのも、すべてこの転校生のおかげだと思う。
―――それから約数分の間、本の取り合いが続く。
そして数分後――
「はぁ…はぁ……お前いい加減にしろよな……」
「元はといえばキミが……」
肩で息をしてへばる二人。
俺や転校生は体育会系ではなく、暇な時は本を読んだりして過ごすことが多いため、体力は二人とも無いに等しい。
そのため、すぐに息切れを起こす。
そんなわけで、俺は長距離走は苦手だ。
だがしかし、短距離走なら勝てる自信もある……気がする。
「で、山空。結局のところ、僕の呼び方は決まったのか…?」
「ロールキャベツ」
「なっ!? キミ、正気か?」
「うるさい。転校生なんかロールキャベツで十分だ。巻かれてしまえ」
「意味が分からない……」
はぁ…はぁ……と、まだ息切れ中の俺達。いや、正確には俺だけだが。
二人ともへばっているので、やり返す余裕はない。
それが分かっているからこそ、俺は転校生を言葉でボコボコにする事が可能。これが俺流の喧嘩の仕方だ。
(って、まてよ? 俺は別に転校生と喧嘩している訳じゃないぞ)
そんな事を思いながら、しばらく横になる俺達。
そして呼吸が安定してきた頃、俺は言った。
「ところでさぁ。今考えたんだけど……」
「なんだね」
「あだ名ってのはどう?」
「……僕の……か?」
「そうだよ。転校生は、前の学校ではあだ名とかなかったのか?」
「いいか山空。自分のあだ名というものは、一人ではつけられないんだよ」
「……だから?」
「この僕にあだ名をつけてもらえるほどの友人がいたと思うのかキミは。恥を知れ」
「……よくそんな寂しい事を表情変えずに言えるな。そして恥を知ったほうがいいのはお前の方だろう」
転校生はご覧の通り友達がいなかった。
そして俺にも、友達と言える友達がいなかった。
そんな俺達が初めて友達いなったのがお互い同士だ。
一気に二人とも友達が出来たという事になる。これは素晴らしい。
「……山空はどうなんだ? あだ名とか……ないのか?」
さっき自分で言っていたじゃないか。
あだ名とは、付けてもらう相手がいて、そこで初めて完成するものなんだ。と。
「俺にあだ名はない。それどころか、同級生に名前で呼ばれたことすらない」
「山空は僕以上に悲惨なんだね」
「うるさいよっ!!」
(それにしても、あだ名……か)
俺はとりあえず転校生の顔を凝視してみた。
「……キミ、極度の疲労から男性趣味にでも目覚めてしまったのか……?」
「なわけあるかっ!!」
「じゃあどういうつもりでこの僕の美顔を眺めているというのだ」
「自分で美顔とか言うなよっ!? 自覚のあるイケメンほど怖いもんは無いぞ!?」
俺が言うと、転校生はゆっくりと体を起こした。
「……冗談はそこまでにして、僕の呼び方をどうするか決める旅に出ようじゃないか」
「出ねーよ!! なに自分探しの旅っぽく言ってんのさ!?」
「いちいち突っかかるんじゃないよキミ」
「突っかからせてるのは誰だよっ!!」
「山空の本能」
「だからカッコよさげに言うなよっ!!」
転校生はこう見えても、実は内面は愉快な奴だ。
「で、いい加減決まったのか僕の……コードネーム」
「もう無駄にカッコよくするなよっ!!」
「うるさいなキミは」
「……と、とにかくだな。転校生のコードネームを」
「気に入ったのか山空」
「う、うるさいよっ!!」
「落ち着きなさいよキミ」
「わ、わかった」
俺は深呼吸をし、続けた。
「いいか転校生、あだ名というものはだな。相手の外見、特徴、その他もろもろから取って付けるものなんだ」
「その他もろもろってなに?」
「それはもちろん、その他もろもろだよ」
「ふむ」
「それ故に俺はお前を見つめていたわけであって、けしていけない事を思っての行動じゃないから!! 絶対違うから!! 断じて違うから!!」
「いや、そんな力説されなくても分かっているのだが……もしかして気にしてたのか……?」
「まぁ、それは置いといてだな」
「流したね」
「転校生、お前の特徴はそのメガネだ」
サラサラな黒髪。整った顔立ち。
そして四角い黒ぶち眼鏡。
それが転校生の特徴だ。
「もしや山空。メガネくんとか、ごく普通で平凡な学級委員によくありそうなあだ名つけるつもりじゃないだろうね」
「安心してくれメガネ」
「もう定着してしまったのか」
「いや、俺だってそんな平々凡々で学級委員によくありそうなあだ名をつけたいとは思わない」
「ならばいったいなんだい?」
「お前はメガネである以前にオタクだ」
そう、この転校生。
実はかなりのオタクだったのだ。
アニメやゲームやマンガ。
すべてに置いてメチャクチャ詳しい。
そしてその中でも何より驚いたのが、実は転校生は妹萌え的な性格だったという事だ。
自分より年下の女の子が何よりも大好きらしく、三度の飯より女の子。そんな転校生なのであった。
「いいか転校生。お前はメガネでオタクでオタクでメガネ。つまり、今日からお前は!!」
ビシッ!! っと、転校生を鋭く指差して。
「オメガだ!!」
「……マジか?」
「マジです」
「本気と書いてのマジか?」
「いや、絶対と書いてのマジだ」
「その心は?」
「嫌でも受け付けさせる」
「なんて自分勝手なんだキミは」
転校生は、深くため息をついた。
「キミはもうちょっとマシなネーミングセンスを持った人間かと思っていたのに……よりによってオメガとは」
「なんか不満かオメガ」
「その超爆光線砲の別名みたいな名前、誰が好むというんだ」
「逆に問う。その超爆光線砲とはなんだ?」
「水曜夜25時30分から26時にかけてテレビ日米で放送されている『プラズミックサンデー』という魔法活劇物のアニメの主人公の親友のマキのいとこのチハルの妹が」
「あぁもうどうでもいいわ。しかも25時26時って業界タイムじゃん」
「ふむ。誠に残念極まりない」
「とにかく、お前は今日からオメガだ。オメガオメガオメガ」
「どうせならシグマとかその辺りの方が……」
「異論は認めない。親友の名付けは素直に受け取るもんだぜ」
「………まぁ、かなり子供っぽいが良しとしていておこう」
かなり嫌々ではあったが、転校生は渋々了承した。
……これが、オメガ誕生の瞬間だ――――
――――――――それから4ヶ月ちょっと経ったある日のこと。
俺とオメガはいつもの通りに、昼休みに屋上で暇を潰していた。
そこで、オメガが衝撃的な一言を口にする。
「……あ、山空。僕来月転校するから」
「へぇー………えぇ!?」
オメガは何食わぬ顔して、いつもと変わらないごく普通の表情のまま、衝撃的な事を告げたのだ。
「てて、転校するってお前! しかも来月って……どういう事だ!?」
今まではもう、オメガがいるこの毎日が普通になっていた。
そしてこれからも、この日々は変わらないものだと……当たり前だと思い込んでいた。
だが今日、それが当たり前で無い事に改めて気付かされたのだ。
「僕の家庭はちょいと複雑でね。困った事によくある事なんだよ、これが」
「ふざけんなぁぁぁ!!」
大事な事を、表情も変えずに告げるオメガ。
俺は信じられず、オメガに怒鳴り付けると同時に、気持ち屋上から飛び降りるぐらいの勢いでその場を離れた。
俺は自分のクラスの自分の席に乱暴にすわり、頭を抱える。
(オメガが転校するだなんて……オメガが……)
俺の心境は、悲しみではなく、寂しさでもなく。当然、憎しみなんかでもなく。
よく分からない感情に包まれていた。
そんなとき、不意に横から声をかけられる。
「海の兄ちゃん!サッカーしようよ!」
俺が声のした方に視線を移すと、左手でボールを抱えている藤崎くんと、そのほかのメンバーが勢ぞろいしていた。
「………海のお兄ちゃんどうしたの……? 元気……ないみたいだけど……」
俺のテンションの異様な下がりっぷりにすぐ気付き、津留美ちゃん…通称ツルちゃんが声をかけてくれた。
「つ、ツルちゃん……俺はもうだめだ……もう、ダメ……だ……」
「海くんの事だから、どうせ給食をひっくり返しでもしちゃったんでしょ?」
「由香ちゃん……。ちょっとこっちに来なさい」
俺は調子に乗ってる由香ちゃんに手招きをし、近づいてきた由香ちゃんの額めがけてデコピンをかました。
「いったぁぁ! なにするのぉー!」
「ワイの心を傷つけた罰や」
「そうだぞ由香。海の兄ちゃんがそんなヘマする訳ないだろ!」
「そうそう。太郎くんの言うとおりだ!」
「海の兄ちゃんなら、廊下に落ちていた給食の食べかすを拾い食いする程度だぞ!!」
「太郎くん……。ちょっとこっちに来なさい」
俺は太郎くんを由香ちゃん同様手招きで呼び寄せると、げんこつをかました。
「いってぇ!! なんで俺の時だけぇー!」
「太郎くんはいつも乱暴だから、多少威力の高い攻撃でも耐えられると錯覚してしまったんじゃない?」
頭を押さえて暴れ回っている太郎くんに、にこやかな笑顔を振りまいて小2の子供らしからぬ事を言いだす藤崎くん。
それを見て静かに笑う由香ちゃんと、呆れてなにも言えない様子のツルちゃん。
俺の席の周りだけ、凄く賑やかだった。
(そうか……俺にはまだ、こいつらがいるんだ)
俺にはまだこいつらがいる。俺は一人なんかじゃない。
そう思う事で、俺はもう立ち直った―――――――
―――――それから一カ月後。とうとう、転校生の転校当日がやってきた。
『それじゃ皆さん。短い間でしたが、鳴沢 恭平くんに皆でお礼を言いましょうね』
担任の先生がそう言うと、日直の人が号令をする。
『きりーつ。ちゅうもーく。れい!』
―――ありがとうございました!!
クラスのみんなはそう言って頭を下げた。
だが実際に、心から『ありがとう』と思っている人物は、俺以外では多分いないだろう。
皆は、儀式や決まりごと。ルールを守っているだけに違いない。
だが俺は。
俺だけは心の底から。
言葉では言い表せないほどに感謝していた。
『それだは皆さん。お礼のあいさつの後はお別れの挨拶をしましょう』
担任の先生がそう言うと、日直の人が引き続き号令を下す。
『れい!』
『さようなら!!』
さようなら。
その言葉が、俺の心を抉るようだった。
オメガは黒いランドセルを背負い、教室から出て行く。
もう……会えない。
今までのように楽しい毎日は……もう……。
(あれ……おかしいな。もう、大丈夫のはずなのに……)
涙こそ流さないが、俺はなぜか孤独を感じていた。
俺は色々あいつにしてもらったのに。俺は何もしてあげられていない。
そう思うと、胸が締め付けられるような、そんな感覚に陥る。
その感覚を感じてしまっては、もういても経ってもいられない。
『あ、山空くん!! まだ授業終わってないですよっ!! 』
先生の言葉なんて今の俺の耳には届かない。
俺は教室を飛びだし、転校生の元へ走った。
(こんな別れ方でいい筈なんてない。『さようなら』なんて……あんな一言で片づけられる訳ない!!)
俺はひたすら走った。
『廊下は走ってはいけない』という事を知っていたが走った。
『廊下は走るべからず!!』という張り紙をも無視して走った。
『廊下を走っちゃダメだろうがっ!!』と、すれ違いざまに浴びせてきた教頭先生の言葉をも無視して走った。
その時ちょうど教頭先生のヅラが飛び『実は教頭先生はハゲていた。』という衝撃の事実知り、ちょっと気を取られたがなんとか走った。
靴を履き、校庭まで走って見たものは、ちょうどタクシーに向かって歩き出しているオメガの姿だった。
「オメガー!!」
俺は大声で叫びながら、オメガに近づく。
「………」
オメガは、無言のまま。
こちらを振りかえらずに、ただ、立ち止まった。
そしてとうとう。オメガのもとまでたどり着く。
「はぁ……はぁ…お、オメガ……」
柄にもなく全力疾走したため、俺は軽く呼吸困難に陥っていた。
「………」
オメガは、今だ無言のままだ。
俺の言葉を、待っているかのようにも見える。
そんなオメガに、俺は告げた。
「お、オメガ……お、俺、やっぱりお前がいないと、俺……」
「…………」
この状況……恋愛の王道、海外に飛び立たんとするヒロインを主人公が引きとめるシーンに酷似しているが、俺は構わず続けた。
「だから……さ。その……俺、これからどうすればいいかな……?」
「………」
(なに相談してるんだよ俺!! ここに来たのは、今までの事を感謝するためじゃないのか!? 清々しく挨拶するためじゃないのかよっ!?)
いくら自分に言い聞かせても、俺には強がる事はおろか、オメガを不安にさせるようなことしか言えなかった。
そんなとき、オメガが口を開く。
「……山空。僕は、キミが僕を追いかけて来る事が分かってた」
「…………?」
「分かっていたからこそ、僕はキミに、今までなにも言わなかったんだ。今ここで言うために……」
「……オメガ」
「……だが、今のキミを見ていたらどうでもよくなったよ」
「オメガ…?それってどういう……」
そのとき、オメガはゆっくりとこっちを振り返った。
その顔は、オメガが転校してきた、初日の顔にそっくりだった。
あの無表情な顔。
どこか、遠くを見ているかのような。
どこか、悟りを開いているかのような。
そして……どこか悲しげな………。
だが、あの時と一つだけ違うところ。
それは、ちょっと不機嫌そうな。呆れているような。そんなところだった。
そして、そんなオメガの口から出た言葉は。
「さよなら、山空」
ただそう呟くと、オメガはまた、タクシーに向かって歩き出した。
「お、オメガ……おい! オメガ!!」
いくら呼び掛けても、返事はない。
それどころか、歩いている足を止めようともしない。
(なんで……なんでだよっ……)
次第にオメガへの怒りが強くなる。そして。
「お前何様だボケーっ!!!」
「うぐっ!?」
オメガに飛び付いたと同時に、オメガを地面に押し倒した俺は、オメガに首四の字固めを華麗に決めた。
「お前なんかむかつくんだよっ!! なに無視してくれてんねん!!」
「や、やまぞっ! うぐっ!!」
「うおぉぉぉぉ!!」
「し、素人が……そのような技を……大事故になりかねっ……うっ!!」
オメガがなんかそろそろヤバそうなので、俺は開放する。
解放したと同時に、オメガは青い顔して喉を押さえ、むせ始めた。
「げほっげほっ……!!」
「わ、わりーな……ちょっとやり過ぎた……か?」
「当たり前だろう!! キミは僕を屍にするつもり…ごほっげほっ!」
あのオメガが少し涙目になっている。
こんなオメガは、感動系のアニメを見ている時だけしか見た事がない。
それ故に、少しやり過ぎたと反省。
「くっ……ふっ……」
(もしかして、オメガ怒ったか……?)
と思い、オメガの顔を覗き込むように確認した。
すると、意外にもオメガは笑っていた。
「お、オメガ……お前、そっち(苦しみや痛みが快感)系だったのか……」
「なわけ無かろうっ!! だがしかし、僕は小さい女の子になら殴られても構わない……否っ! 殴られたい!!」
「やっぱりそっち系じゃねーかよっ!!」
「少女のパンチ=(イコール)ご褒美タイム!」
「救いようのない変態だなおいっ!!」
そんなやりとりを、最後の最後までしている俺達。
しかも、小学校の校庭のど真ん中なのだからすごい。
「………ふっ、ふふふっ。ははははっ」
突如声をあげて笑いだすオメガ。
「どうしたオメガっ!? とうとう頭がおかしくなったか!?」
「ふふっ、やっぱり山空はそうでなくては面白くない」
オメガはその場でゆっくりと立ち上がり、ズボンに付いた砂を手で払い落す。
「……どういう意味だよ……?」
そう問いながら、俺もゆっくりと立ち上がる。
「いいか山空。僕は、自分勝手で無茶苦茶で横暴で……でも、実は打たれ弱くて。だがしかし楽観的でバカでアホでドジでマヌケで、あとついでにバカで。おまけにバカな山空が気に入っているんだ」
「おいちょっと待てよ。お前は何様で、お前は俺の何を知っていると言うんだ」
「話を遮るんじゃないよ。マンガやアニメなら、この辺りは超重要感動シーンなんだから」
「なんだそりゃ」
「とにかく、いつもバカみたいな事をする山空が気に入っているんだ。なのにキミときたら……あんな弱気な山空は山空じゃない。本当の山空なら後ろからラリアットの一つでもかましてくるぐらいの……」
「………」
(そうか…。だからオメガは……)
オメガの言葉で、俺はもう、すっかり立ち直った。
前にも似たようなこと言っていた気がするが、今回は本気で立ち直った。
てか一つだけ気になる事がある。
オメガが言っていた。
本当の俺なら、転校する親友を追いかけて来て、そのまま腕を広げて後ろからガツンッって……。
「お前は俺を何だと思ってんだよっ!!」
「ん? 歩くおもちゃ箱的な感じ?」
「あぁ、いつでもどこでも予測不能でバカな事をしだすからなぁ……ってぶっ飛ばすぞ!!」
「いや、僕はそこまで言ってないが………」
「うるせー!!」
そんなこんなで、またオメガと取っ組み合いになる俺。
――――それから数分。
オメガとの別れの時が訪れた。
「……じゃあ山空。僕はそろそろ行くよ」
「あぁ。元気でな」
「山空もね」
そう挨拶を交わすと、オメガはタクシーへと乗り込んだ。
俺に出来た初めての親友。
もうそいつには会えないかもしれないけど。
俺は、もう大丈夫。
俺はならこれからもやって行けるはずだ。
(……って、そう言えば、オメガが言いたかった事って、結局何だ?)
そんなとき、タクシーの窓が開き、オメガが顔を出した。
「山空! 1つ言い忘れていた事があった!」
「なんだよ…?」
(オメガがこの俺に言いたかったこと……。それも、弱気な俺で無く、今の俺に……)
オメガは一呼吸置くと、言った。
「僕のノートになんだけど………キミのテストの答案が挟まってたぞ」
「…………は?」
「キミはもうちょっと勉学に励んだ方がいい。このままじゃ将来落第するぞ」
「……なぁ、オメガ……」
「なんだ?」
「今まずっと俺に言いたかった事ってもしかして……」
「ん? あぁ。この事だが?」
「……弱気な俺に言いたくないのって……」
「そんな時に言ったらやる気が出ないだろう!」
「…………」
「あ、じゃあ、僕は行くから。じゃあね」
こうして、オメガを乗せたタクシーは坂道へと消えて行った。
最後に言いたかった事がまさかのダメ出しだった。という、衝撃な事実に固まってしまった俺を残して―――――。
―――――そして、それから数分後。
何とか動けるようになった俺は、教室に戻った。……が。
授業の途中で抜け出した事を担任に叱られ、廊下を走った事を教頭に叱られ、ムカついたから教頭がヅラだという事をクラス中に公開したらさらに叱られ、俺は宿題を倍出されたのだった―――――――ってのが、俺とオメガの出会い、そして別れなのだった。
第三十九話 完