第三十八話~俺達の桃源郷~
俺がまだ、小4の頃の話。
いつもと変わらない、退屈な日々。
誰とも関わりあうことなく、俺はただ一人だった。
家族で遊びに行った事など数えるほどしかなく、それどころか親父ともあまり会話出来ない毎日。
そんな退屈で嫌だった俺の日々を。
ある一人の転校生が……。
『僕は鳴沢 恭平。よろしく』
ぶっ壊してくれた。
これが俺とオメガの初めての出会いだ――――。
第三十八話
~俺達の桃源郷~
キーンコーンカーンコーン
2時限目授業終了のチャイムが鳴る。
そしてそれは、みんなも大好き休み時間の始まりのチャイムでもあった。
そのチャイムを合図とし、教室内がざわつき始める。
この時間になると、ほとんどの者は教室を飛びだして行く。
いつも騒がしいこの教室も、俺にとっては静かな安息の場所となる。
だが、今日はいつもと違った。
クラスのやつらほぼ全員が、みんなで集まっている。
いつもは真っ先に校庭へと駆け出して行くはずの男子グループさえも、今日は教室に残っている。
そしてその人だかりから、とても楽しそうな声が聞こえる。
『ねぇ恭平くん!この学校案内してあげようか!』
『恭平くんはどこの学校にいたの?』
今日の朝に来た転校生は、クラスのみんなに質問攻めにあっていた。
俺はただ、自分の席からその光景を眺めるだけだ。
(転校生の何がいいんだか……)
朝の自己紹介の時――
『僕は鳴沢 恭平。よろしく』
ただ一言。
笑いもせず、緊張したそぶりも見せず。
ただ無表情でそう言った転校生。
サラサラの短い黒髪、光の反射で光って見える四角い黒ぶち眼鏡。
そして何より一番印象に残ったのが、何を考えているのか一切分からない、その目。
そこらの小学生から出は感じられぬ妙な威圧感に、俺は目を奪われた。
そんな時だった。
転校生と、目があってしまった。
俺はすぐに視線をそらし、窓の外を眺めたふりをする。
あの転校生……何かが他のやつらと違う感じがする―――。
そう思っていたのだが。
休み時間になれば、皆に話しかけられて、すでに人気者だ。
……俺はそんな転校生に、嫉妬していたのかもしれない。
だがしかし、別に転校生ったて中身は所詮小学生。
俺とは違う……恵まれた奴。
そう、思っていた。
『恭平くんの誕生日はいつ?』『お前、カードゲーム持ってる?』『メガネとってみてくれよ!』
『恭平くん!』
『恭平くん!』
恭平くん。
そう言われて、みんなに注目される転校生。
(何だよあいつ……)
俺は皆の楽しそうな声にイラつき、転校生を囲む人だかりから視線をずらした。……そんな時だった。
「はぁ……キミ達、他にやる事は無いのか? なぜそこまで僕に構う。キミらはあれか。この学校の奴らは皆、人間観察の趣味でも持っているのか? それともあれか。キミらは暇人集団委員会の人たちか?」
そんな転校生の一言で、クラス中が凍りついたように静かになった。
まさか転校生の口から、そんな言葉が返ってくるとは思っていなかったに違いない。
皆は声を出すことも忘れ、ただ立ちつくしている。
それは俺も同じだった。
人だかりのすきまから見えた転校生は、何事もなかったかのように、涼しい顔で読書を再開していた。
それから数秒。
転校生を囲んでいたクラスのやつらは、悪態をつきながらほとんどが教室から出て行った。
あれだけみんなに囲まれて。あれだけ人気者だった転校生の周りには、もう誰もいない。
そんな事を気にするそぶりも見せず、ただ静かに、本を読み続ける転校生。
そんな転校生が、不意に俺の方を見た。
「……キミ。僕は無言で眺められるのは好きじゃないんだ。言いたい事があるならハッキリと言ったらどうだ?」
どこか悟ったような目で俺を見ながら転校生は言う。
「え…あ、いや別に……」
俺は戸惑いつつも、視線をそらした。
「……なら別にいいけど、一つだけ忠告しておくよ」
「………忠告…?」
「僕に関わらない方がいい。キミのためにも……ね」
そう静かに告げると、転校生は本に視線を戻した。
……どういう意味なのか。
その時の俺には分からない。
いやそれよりも、その時の俺の感情は、違うものでいっぱいだった。
俺は静かに席を立つと、転校生の元へ歩き出す。
それを見た転校生は、何も言わず、引き続き本を読み始めた。
そんな転校生に俺は言った。
「お前、鳴沢……だっけ」
転校生は、無言のままだ。
だが俺は構わず続けた。
「……鳴沢、お前に一言だけ言っておく」
「………!?」
転校生は、俺の顔を見た瞬間、驚いたようだった。
そう、俺は。
転校生に激しい怒りを覚えていたのだ。
何が関わらない方がいい。だ。 何が忠告だ。
なんで会ったばかりの奴にそんなこと言われなくちゃいけねーんだ!
俺は大きく息を吸い込み、転校生に言い放った
「誰と関わろうが俺の勝手だろ!! なんでお前の指図を受けなきゃいけねーんだよ!!」
そう言いながら、転校生の机を激しく叩いた。
まだ教室に残っていた他の生徒は、何事かと俺の方を見る。
そう、俺にはなぜか、あの転校生を放ってはおけなかったのだ。
あの、すでに諦めたかような目。
現実のすべてに幻滅し、もうどうでもいいような雰囲気。
……今の俺にそっくりだった。
今の俺にそっくりだったからこそ、どこか放っておけなかったのかもしれない。
何があったのかは分からないが、この世界に。この世界のすべてに。愛想を尽かしたかのような……。そんな感じ。
どこか悟りを開いているようにも見える。
そんな転校生が、俺はどうしても気になった。
……ただの自己満足かもしれない。
ただ、他の奴らとは違う転校生となら、友達になれる。そう思ったのかもしれない。言葉なんてない。
だが俺は、どこか転校生に惹かれるとこがあった。
そんな俺の行動に、転校生は驚いているようだ。
……まぁ、そりゃそうだ。
あの頃の俺。何を考えていたのかさっぱり分からん。
多分あれだな。あの時期はちょうど漫画とかにはまっていた頃だったからな。
転校生というジャンルに憧れていたのやもしれん。
あの時は、あの転校生がまさかオタクで変態だとは思ってもみなかった。
そりゃ現実に幻滅、絶望しているようにも見えるわ。だってアニメが大好きでリアルの女子らに幻滅してるんだもの。
と、なると、あの頃の俺。すげぇ観察力と言うかなんというか……頭イカレてたのかも。自分で言うのもあれだけども。
それぐらいに、あの時の感覚はよく分からないものだったんだ。……とりあえず、話を続けようか。
―――あれから数日後。
「海くん。転校生が来たって本当なの?」
いつもの朝。
特に変わりのない朝の食卓で、お袋が聞いてきた。
どこからそういう情報を仕入れて来るのか。お袋の情報網……なめてはいけないな。
俺は一度も学校の話なんてしたことなかったのに。
「あぁ、うん。転校生でしょ? うん。あぁ、うん」
俺は朝食をとりながら、適当に相槌を打つ。
「で? その子、可愛い?」
「ごほっごほっ…!?」
急に何を言い出すんだこの人は。
おかげでむせてしまったではないか。どうしてくれる。無駄にCO2(二酸化炭素)を排出してしまったではないか。
「母さん、転校生は男だから。そんな薄ら笑い浮かべて変な事聞かないでよ」
「あら、そうなの? 残念ねぇ。海くんにもやっと好きな子とか出来たのかと思って喜んでたのに……」
「なんで転校生って単語だけでそこまで妄想出来るんだっ!!!」
「か……海くんがぁ……海くんがキレたぁぁ!!」
またしても膝から崩れ落ちたお袋。
お袋のめんどくささは天下一品だ。
「ご、ごめんよ母さん!俺もう行くから!」
「あ、行ってらっしゃーい」
ケロッっとしとる。
(何なんだよ母さん。演技か? 今のは演技なのか?)
そう思わせるような変化っぷり。
そんなお袋を背に、俺は学校へと走り出したのだった。
「って、ランドセル忘れたっ!!」
――――学校。
(いやぁ、まいったまいった。まさかランドセルを忘れかけるとは……途中で気付いてよかった)
いつもの通学路を通り、学校の正門を通り抜ける。
正門を通り抜けると、すぐ目の前には広い校庭。
校庭では、早く着きすぎて時間を持て余した若者たちが、元気よく遊んでいる。
その中の一人が、俺に気付いて駆け寄ってきた。
「海くん、これからみんなでおにごっこやるんだけど、海くんも一緒にやろうよ!」
俺に声をかけてきたのは、由香ちゃん。とても活発で、他の男子と混じって遊んでいる所をよく見かける。カチューシャがトレードマークの元気な女の子。小2だ。
この由香ちゃんを始め、いつも遊んでいるグループのメンバーは決まっている。
そんな由香ちゃん達のグループの人たちも、俺の方に駆け寄ってきた。
「海の兄ちゃん、一緒に遊ぼうぜ!」
この男の子は、藤崎くん。由香ちゃんに負けないぐらいの活発さで、頭働くためいつも何かしら悪知恵を働かせる。ちなみに、悪知恵を教えたのはほとんど俺。同じく小2。
「ほら、早く!こっちにきて!」
俺の手を引っ張って連れて行こうとするこの男の子は、太郎くん。少々乱暴者だが、男の子はこれくらい元気がなくちゃぁいかん。同じく小2。
「海のお兄ちゃん……、一緒に遊んでくれる……?」
上目遣いでお願いしてきた、このメガネの女の子は、津留美ちゃん。通称、ツルちゃん。気弱で恥ずかしがりだが、それがまた可愛い。本当に可愛い。ヤバいほど可愛い。同じく小2。
男は藤崎くんと太郎くん。女は由香ちゃんとツルちゃん。
この四人グループとは、たまに遊んでいるのだ。
小さい子は可愛いもんで、唯一学校に来る楽しみがあるとすれば、この子たちの顔を見る事だと思う。
てなわけで、いつの日からだったか……この4人グループに俺が加わり、5人で遊ぶことが多い。
俺は優しいお兄さん役として、そして人生の厳しさを教え込む裏兄貴的ポジションとして、こいつらと仲良く遊んでいる訳だ。
と言っても、学年は2年しか違わないんだが……。
この遊んでいる時間が一番楽しい。
嫌な事を、良い意味でも悪い意味でも忘れられる。
そんなメンバー。
「ほら海の兄ちゃん!さっさと行くぞ!!」
「ちょ、分かったから引っ張るな太郎くん!お前を一番に捕まえるぞゴラァ!」
「うわぁー、逃げろー!!」
太郎くんの合図と共に、みんな一斉に逃げだす。
俺達5人の鬼ごっこは、タッチしても鬼交代とかはなく、タッチされた人も鬼になる、増えおにというやつだ。ゾンビおにとも言うな。
で、最初のおに役は必ず俺。もしくは、俺1人が逃げて、4人のおにに追っかけまわされるかのどちらかだ。
で、今日は俺が鬼のパターン。必ず最初は4対1で始まる。ハンデというものだ。ふふふ。
俺は心の中で10数え、いざ。尋常に勝負――――。
――――数10分後。
「由香達の勝ちだね!」
「海の兄ちゃん弱すぎ」
「作戦通りだったね」
両手両膝を地面について(orz ←こんな感じである)、敗北感を味わっている俺に追い打ちをかけて来るガキども。
そんな中、とても気遣い上手なツルちゃんは。
「海のお兄ちゃん。次があるよ」
……ぐすん。
なんだよ。大の大人がよってたかって……。
「由香達は子供だけどね」
大体、あんなのありかよっ!!
いきなり一斉に水鉄砲撃って来やがってぇ………。
俺、変えの服持ってきてないから濡れないように避けるので精一杯だったじゃねーかぁぁ!!
「避けきれずにビチョビチョだけどね」
「うるさいぞ藤崎くん。それにしても、よくここまで育ったもんだ……俺、うれしいよ」
藤崎くんの作戦(悪知恵)の手際の良さときたら……きみはトラップマスターか何かかよ。
俺が教え込んだ知恵とはいえ、もう俺を超えてるよ。
「まぁ、海の兄ちゃんは運動不足だな。足遅すぎ」
太郎くん。
ひどいこと言ってくれるじゃあないの。
「よく聞け太郎くん。俺と本気の勝負がしたかったら、女装してこい」
「はぁ?」
「男なんて追っかけてても燃えるもんなど何もないんだ。悔しかったら女装してこい!!ウガアーー!!」
「由香とツルちゃんは女の子だよ?」
「ふふふ。由香ちゃん。面白い事を言うじゃあないか」
由香ちゃんの言う事は正しい。
由香ちゃんとツルちゃんは確かに女の子だ。だがな由香ちゃん。
「由香ちゃんは足が速すぎ!! ツルちゃんは変な声あげすぎ!!」
「ひゃぅっ……」
俺の言葉で、ツルちゃんが可愛く反応する。
可愛いんだ。その甲高い声。透き通るような声質。確かに可愛いんだよ。
だけどね。
「追いかけるたびに悲鳴を上げられたとなっちゃ、男として追いかけられないんだよ!!わかる!? 追いかけられないんだよっ!!」
「なんで?」
太郎くん。
きみも男じゃないのか。
男なら分かるはずだ。いや、分からなきゃ男じゃねぇ。
「太郎くん。キミは本気でなぜだか分からないのか?」
「わからないな」
「……藤崎くん。きみはどうだ?」
「まったくもって理解できません」
「なら由香ちゃん!きみはどうしてだと思う!?」
「うーん……、変態だと勘違いされるから……とか?」
「へぇっ!?」
由香ちゃんの言葉で、いちいち可愛い声をあげるツルちゃん。
そして由香ちゃん。きみの答えは間違っちゃいない。世間一般の人々ならみんなそう答えると思う。だがな。
その答えは、健全な男子の口から出る言葉ではない!!
そんな事を言う男なんぞ、みんな精神異常者だ。
真の理由それは……
「ちょっと待った」
俺がこれから男として大事な事を告げようと言う時に、突然会話を遮ってきたある一人の男。
俺はその男の姿を見て、かなり驚いた。だってそいつは……。
そう、あの転校生だったのだ。
「……お、お前……」
俺は驚きで言葉を失っていた。なぜ転校生がこんな所にいるんだ。
「ねぇ、海くん。この人……だれ?」
由香ちゃんが聞いてきた。
「おい由香。お前先生の話聞いてなかったのか?」
「そうだよ由香ちゃん。先生が言ってたでしょ。転校生だよ」
俺が説明する前に、太郎くんと藤崎くんが説明した。
「えーっと……あぁ! この前の朝礼の時の事か!」
由香ちゃんは納得した様だ。
「えと……その……あの……何か用……ですか…?」
始めて会話する人なため、上手く言えずにもじもじしてしまうツルちゃん。かなりの可愛さッス!
「ふふっ……で、そこのキミ!」
ビシッ!!っと、俺を指差した転校生。
(てか、さっきちょっと笑った……?)
確かに、さっきかすかに笑ったような気がしたのだ。
だがそんな事はどうでもいい。
「……なんだよ…?」
俺がそう問うと、転校生は言った。
「さっきキミ……話をしていたね。その話、僕も聞かせてもらおうか」
「……話って、あの男としてどうたらこうたらってやつか……?」
「そうだ。僕の事は良い。気にせずに会話の続きをどうぞ」
(っ……変な奴)
俺は転校生の言う通り、転校生を無視して話を続けることにした。
「えーっと、どこまで話したっけ……」
俺が呟くと。
「ほら、変態って思われるから……とかなんとか」
由香ちゃんがそう言った。
そうだ。なぜ可愛く悲鳴を上げる女の子を終えないのかについてだったんだ。
……うぉぉぉ!!
俺は転校生の登場ですっかり冷めてしまったトークに、再び気合を注入した。
「変態と思われるから。それは違うぞ由香ちゃん」
「……なんで?」
そう由香ちゃんが呟く。
藤崎くんや太郎くん、ツルちゃんも息を飲んでいる。
転校生は、鋭い眼光で俺を見つめている。
ふふふ。由香ちゃん。
なんでなのか、教えてやろう!!
キュピーン!という効果音と共に、俺は言い放った。
「そんな可愛い声を上げて逃げる女の子に追いついてしまったら、襲いかかってしまうからだぁぁああぁあぁぁ!!!!」
「襲う……?」
由香ちゃんはいまいちわかっていないようだ。
よく見れば、ツルちゃんや藤崎くん。太郎くんも疑問マークを頭に浮かべているのが分かる。
ふふふ。分からないだろう。
そりゃそうだ、お前らはまだ小2だからな。
「よく聞けお前ら。お前らに良い事を教えてやる……」
俺はそう呟くと、藤崎くんの肩に手を置いた。
「いいか藤崎くん、由香ちゃんを見てみろ」
俺の言葉で、由香ちゃんに視線をずらす藤崎くん。
すると目があってしまったようで、藤崎くんは顔を赤くしている。由香ちゃんはそうでもないようだが。
「どうだ。可愛かっただろ?」
「え!? あ、いや、その」
「否定するな!! 恥ずかしがるな!! 男として素直になれ!!」
「か、海の兄ちゃん……?」
顔を真っ赤にしている藤崎くんに、俺は藤崎くんにだけ聞こえるよう、小声で言った。
「藤崎くん……キミは由香ちゃんの事が好きなんだろ?」
「ななな、なんでですかっ!?」
「そんなもん、見てれば分かる!恥ずかしがるな!! 男として当然の感情だ!! 素直になれ!!」
「い、いやその、えと……その……えと……」
「大丈夫だ。恥ずかしいのなら無理をするな。……で、本題に入る」
「……はい」
「よく聞くんだ藤崎。あの由香ちゃんが可愛らしい声をあげてみろ。心にグッっとこないか?」
そう告げると、藤崎くんはしばらく考えたのち、頷く。
「そうだ。それが男ってもんだ。そんな由香ちゃんの声を聞き続けてみろ、手を取り、由香ちゃんを連れ去って、人のこない場所に連れ込みたくなるだろ!!」
「えっ!? い、いや、別にそこまでは……」
―――ここからあの頃の俺の黒歴史の第一歩が始まる。
できれば見ないでほしい。死にたくなる。
俺は大きく息を吸い込み。告げた。
「そこまではだと!? 藤崎お前!!普段とは違う、可愛らしい声質。風に靡く茶色い髪。風に乗って流れて来るふんわりと優しい香り。キラキラと汗を振りまきながら何かに真剣に取り組むその姿、健気さ!! 転んでひざ小僧を擦りむいてしまっても、『べ、別にこれくらい平気だよっ!』っと目に涙をためて強気にふるまうその強情さ!! だが普段強気な由香ちゃんも、苦手な雷の音を聞くと急に女の子っぽくなり、普段絶対に涙を見せない彼女がその時だけはここぞとばかりに涙を散らしながら体を丸くして怯えている!! そしてつい甘えてしまい、ほんのりと顔を赤らめながらこう言うんだ。『ご、ごめんね、昔から雷は苦手なの……』目に涙をためながら。怯えていた恥ずかしさとつい甘えてしまった恥じらいで顔を赤くした女子に……そんな普段とは違う由香ちゃんを見たときに……お前は何も感じないのかァァァ!!! どうなんだ藤崎ィィィィ!!!!」
ビシッ!!っと、俺は言い放った。
藤崎くんはそれに圧倒され、コクコクと感情の無い人形のように頷いているだけ。
そして、俺が大声で語ったがためにすべてを聞いてしまった由香ちゃんもまた、唖然としている。
他の二人も同様だ。
だがしかし、俺の言葉に心動かされた奴が一人だけいた。
そいつはいきなり俺の手を握りしめ、一言。
「キミは神だ」
そう告げたのは、あの無表情で何を考えているのかよく分からん奴、転校生だった。
だがしかし、今の俺には奴の気持ちが手に取るように分かるのだ。
握られた手から伝わってくる感動、共感。男の……いや、漢の魂。
俺は転校生の手を振り払い、握りこぶしを作り転校生の目の前にもっていき見せつける。
すると奴も迷わず握り拳を作り、俺と奴の拳同士を合わせた。
その瞬間、俺と転校生の間に、かけがえのない絆が生まれた。
そして俺達は、お互いに力強い目で。
≪共に目指そう!俺達の桃源郷!!≫
同盟を組んだのだった―――
第三十八話 完