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俺の日常非日常  作者: 本樹にあ
◆海の過去編◆
49/91

第三十七話~俺と親父と今と昔~

突然だが、ここらで話でもまとめておこうと思う。


まず、なにが起きているのか。それは。


今日の昼ごろ、海外にいるはずの親父からメールが届く。


メールによると、『今日帰る。てか帰って来た』らしい。


俺は正直、親父に良い印象がない。


まだ小学生だった俺がいるのにも拘らず、突然海外へ飛び立った。

俺には何も言わないままだ。


電話もよこさず、手紙すら届かない。


仕送りなんてもってのほかで、お袋からしか届いた事は無かった。


そんな親父が帰ってくる。


俺の親父を、みんな(秋、琴音、エメリィーヌ、オメガ、ユキ)に会わせてしまうと、俺の印象が最悪と化する。


そう考えた俺は、みんなを何としても俺の家に来させないようにするため、頑張っているのだ。


だが、今現在足止めに成功しているのはオメガのみ。


これから他の4人も説得しなければならない。


さて、どうなることやら。



第三十七話

~俺と親父と今と昔~



「うん。別に良いと思うよ。多分だけど」


「本当か!? ありがとう琴音!!恩にきる!!」


「じゃあ、私達は帰るから。じゃあね」


そう言って、秋と琴音は、エメリィーヌを連れて歩きだした。


秋のフォローのおかげもあってか、意外とあっさりだったな。

ここで三人を説得できたわけだから……


これで残るは、ユキただ一人だ!!


俺は小さくガッツポーズをして、我が家へと続く道を歩き出した。


考えたのだが、ユキに関しては会わない事が一番だと思う。

あいつ、妙な所で鋭いからな。俺だとボロがでかねんし。


てな訳で、俺の心配事はすべて解決。

あとは親父が海外へ帰るまで耐えればいいのだから。楽勝だぜ!!ふぅー!


そんなノリで、数分後には我が家へと到着。


……もしかしたら親父がもうすでに帰ってきているかもしれないからな。

気を引き締めて行かないと。


俺は玄関の前で大きく深呼吸をし、ドアに手をかける。


そして、いざ、我が家へ!!


ゆっくりとドアを引くと、カギが開いており、静かに開いた。


俺はいつも出かける時には戸締りをしっかりとするので、俺が不在の時はカギが開いている事はまずない。つまり親父が帰ってきている証拠だ。


あれから5年半ぶりの親父との再会。

こころなしか、鼓動が速くなってきているような気がする。


実の父親とはいえ、久しぶりの対面となると緊張するのだ。

小学校の頃の印象しかないからな。


俺は覚悟を決め、玄関へと一歩踏み出した。


靴を乱暴に脱ぎ散らかし、俺はリビングへとかけだす。


そして……リビングのドアへと手を掛け、勢い良く開いた。


「……って、なんじゃこりゃぁぁぁ!!!」


リビングを見てみると、物という物が派手に散乱し、冷蔵庫は開きっぱなし、冷房ガンガン、付けっ放しのテレビからは、そりゃもう大音量で、額ににお札が貼られた顔色最悪の大群がピョンピョン跳ねながら襲ってきているホラーなシーンが流れている。秋がいたら大喜び間違いなしだ。


そして、ソファの上には、テレビの音量に負けないぐらいの大鼾(おおいびき)をかきながら、顔を赤くさせ、アルコールのにおいを漂わせている男。


そう。帰って来ていたのだ。

ダメ親父。ここに帰らん。


「ん……誰だぁ…? 誰かいるのかぁ……?」


俺が帰ってきた音や声で、親父がゆっくりと体を起こし始める。

どうやら、起きたようだった。


酒にベロンベロンな親父は、上手く呂律が回っていない。


俺はただ、固まるしかない。


だってさ……親父の奴、昔とちっとも変っていないのだから。


そう、あれは、俺が小学生の頃の話だが。


親父は極度の酒好きで、いつも酒瓶を片手に豪快に飲んでいた。

まだそれは許せるのだが。


何と親父は、かなりの酒好きのくせに酒には凄い弱い。

缶ビール一本でもすぐ酔っぱらうほどだ。


だから俺は、子供ながらにこう思っていた。


アホすぎるだろ。と。


そんな印象しか、今の俺には残っていない。


アホでダメな最悪の親父。


海外に行って、ちょっとはマシになっていると思っていたのだが………。

まったくと言っていいほど変化なし。やはり大人は変わらないんだと思った瞬間だった。


「ん……? 誰らおまえ……?」


親父はソファからゆっくりと起き上がり、俺を見る。


「誰らって聞いてんらよ……!!」


俺の顔を見るなり鋭い目つきで睨みつけて来る親父。

大人にしか発せられぬ鋭い眼差し。


その威圧感により、俺は一歩だけ後ろにすりさがってしまう。


そんな俺を見て、一歩一歩ゆっくり近づいてくる親父。そして。


「ははーん。さては泥棒らな……? 覚悟しろぉー!!!」


そう呟くと、持っていた酒瓶を振り上げ、親父が俺に突進してくる。


ととと、父さん!?


「ちょ、ストップ!!俺だよ父さん!!あ、あんたの息子だよ!!」


「うるせぇ!!覚悟しろぉ!!」


そう怒鳴り付けると親父は、それはもう。かの有名な打者である、イチロー選手のように完璧なバッティングスタイルで酒瓶を構え、俺の眉間を正確にロックオンし、完璧なフルスイングをかます。


そう、突進のスピードに、完璧なフルスイングを合わさる。その心は。


…………俺の死。


「この強盗がぁぁ!!!」


「うがごぁぁアァァアァ!?」



カッキーン。


大きい!これは大きい!伸びる!まだ伸びる!!入るか!入るかー!?

入ったぁぁぁぁぁ!!!!サヨナラ逆転満塁ホームラン!!!


『おぉぉぉぉおぉぉおぉ!!!』


パシャ。パシャ。


『それでは、驚異の活躍をし、チームを勝利へと導いた山空選手にインタビューです! えー、海選手。今のお気持ちは?』


『えー、どう言葉で表せばよいのか大変難しいのですが、一言で言うなら、『快感』ですかね』


『では最後の逆転ホームラン。誰に一番届けたいですか?』


『それはもちろん、チームの仲間。それとこの試合を見に来て、僕達を応援してくれた方々に。あとは……そうだな。友人にでも届けたいですね』


『そうですかぁ。では最後に、皆さんへお言葉を!』


『私が打ったこの(ボール)。みなさんの心と言う名のグローブでキャッチしてもらってね。ホームランで未来という暗くて不安なトンネルをぶち抜いて、希望という光をつかもう!!』


パシャ。パシャ―――――



――――暗い。真っ暗だ。

ここはどこだろう。ひんやりと冷たいような。蒸し暑いような。


ん? なんだこの匂い。

いい香りだ。花か?


そろそろ起きないとな。学校に遅れる。


……あれ? 見えない壁がある。

左右にもだ。


ここはなんなんだ……?

俺はいったい、どこに閉じ込められているんだ……?


……ハァ……ハァ……。

熱い。体中が焼けるように熱い。


―――カイ!なにやってるんヨか!


……今のは……エメリィーヌの声……?


――おい海。お前いつまで寝てんだよ。


秋………? そこに……いるのか……?


――海兄ぃ!明日の約束、忘れないでよ!


約……束……? 琴音……いったいなん……の……。


俺は……いったい………――――



バシャ。


顔に何かがかかる。

苦いような、甘いような匂いが、鼻を突く。


顔に付いた液体が、ゆっくりと口の中へ。

ほろ苦いような味。


今まで味わった事の無い……。


これは……いったい。


この匂い。この味。

どこか懐かしいような、この……。


「……って、これ酒じゃねぇか!!!」


俺は驚きのあまり、勢いよく起き上がる。


俺の目の前には、誰かの足。

その足をたどり、視線を上にずらすと。


「かっかっか。俺の家に忍び込もうなんざ、運のねぇ泥棒だぜ」


酒瓶を豪快に飲みながら、馬鹿笑いしている親父がいた。


………あれぇ?

なにがあったんだっけ? 上手く思い出せない。


「いっ!?」


俺が混乱していると、鼻に鈍い痛みが走った。


何事かと思い鼻に触れてみると、ヌルっとしたものが指先に付着する。

赤い、何か。


そう、血だ。


……そうか。思い出した。

俺は親父にかっとばされたんだ。酒瓶で。


思いだすと、だんだん腹が立ってきたぞ。こうなりゃ親父を一発殴らないと……いや、百発殴らない時がすまねぇ!!


「糞ジジイ!!!!」


「なにっ!?」


俺はその場で勢いよく立ちあがり、拳を親父の顔面へと。


「食らうかっ!!」


「ひでぶー!?」


そう、拳を親父の顔面へと放ったのだが、華麗によけられ、それどころか、カウンターが俺の顔面へクリーンヒット。


そのせいで、再び地面に倒れこんでしまう。


酔っ払いのくせにここまでとは……不覚なり。


「へっ、俺に勝とうなんざぁ、百億光年はえぇんだよ。かっかっか」


顔面を押さえながら地面にうずくまる俺を見て、親父は余裕の笑みを浮かべている。


うぅ……親父……光年は距離の単位だぞ………ガクッ。


そんな時だった。


「かっかっか……って、よくみりゃぁお前、俺の息子と同じ学校の制服着てんじゃねぇか」


俺の服装を見て、自分がかっとばしたのが学生だという事が、ようやく分かった親父。

酔っ払いは怖い。


「おめぇ、我が息子の知り合いかぁ? ……あいつぁこんな不良やろうとつるんでやがんのかぁ?」


おい父さん。ぶっ倒れているのはお前の息子だ。

てか、不良って……実の父親にまで言われる始末なのか俺は……。


くそっ、心が痛い……!!


「あいつぁ、両親がいないのをいいことに好き勝手やりやがって……帰ってきたらシッカリ親父の愛を叩きこんでやる」


倒れているのが俺だという事に気がつかないまま、言いたい放題な親父。


安心してくださいお父様。あなた様の愛は、もうすでに肉体と精神にしっかりと叩きこまれております。


「しっかし、あいつどこで道草食ってやがるんだ? 男が食うのは可愛娘(かわいこ)ちゃんだけで十分だってのにまったく……」


見損なったぞ親父。

なにが可愛娘ちゃんだ。


そんな変態的思考を持つ親父の声を聞き続ける息子(俺)。

息子にとって、こんなに悲しい事は無い。


「それにしても、なんで男なんか産んじまったんだか。俺ぁ、娘が欲しかったってのによぉ!」


な、なんだってぇ!?

なんだ今の衝撃のカミングアウトは!?

俺って望まれて生まれてきた子じゃなかったの!?


つーか最低だこのクソジジイ!!


おーいおいおいおい(泣)。おーいおいおいおい(泣)。


「娘だったらきっと今頃は、『お父さん大好き!』とか何とか言って張り付いてくるんだろうなぁ……って、それじゃあいつに悪いな。かっかっか」


救いようの無い親バカだなおい!!いや、変態ジジイ!!


あ、ちなみに、『かっかっか』てのは、親父特有の笑い方だ。アホらしいけども。


つーかさ。涙が止まらないんだけども?


「俺の兄弟も上に兄、下には弟。こんな男ばっかなんて無さけねぇ!!俺ぁどうせなら女の子に囲まれて育ちたかったのにぃぃ!!!」


お、親父が暴走を始めたァァァァ!!!!


「それにしてもあのバカなにやってんだぁ? バカみたいにバカな奴らとバカな事してるんじゃねぇだろうなぁ?」


バカバカ言い過ぎだバカ親父。


もう耐えられん。聞いてはいけない事を聞いてしまった。

俺は、親父に望まれてはいなかったのだ。


「あいつぅ、せっかく会えるの楽しみに帰って来たというのに」


……でもやはり、親は子が好きなんだな。

望まれてなくとも、可愛がってくれてはいたんだし。


親父にとっては、俺は大事な一人息子だ。

大体、好きじゃなければ、一緒に遊んでくれたりなんてする訳ない。


多分酔った勢いで大変な事を口走っているだけなのだ。………なんて……


「思うと思ったかこの息子不幸モンがァァァ!!!!」


それはもうカエルのように。

いや、上空に打ちだされた花火のような勢いで飛びあがる俺。


狙うはあご。このクソ親父のあごを真っ二つにしてくれるわぁぁ!!!


「なんだ!?」


親父は驚きながらも回避しやがった。

さすがは映画監督の仕事をしている親父。アクション映画の撮り過ぎで反射神経が鍛えられているな。


「なんだ貴様ぁ!まだ抵抗するのかぁ!!」


親父はブチ切れる。

そんな親父に俺もブチ切れた。


「馬鹿野郎!!てめぇの息子の顔を忘れるどころか、望んでなかったとかほざきやがってぇぇ!!!この涙どうしてくれるんだボケぇぇ!!!」


涙が。

なぜだか涙が止まらない。


心が痛い。すべてはこの酔いどれのせいだ。


「………はぁ?」


「はぁ? じゃねぇ!! この痛々しい鼻をよく見やがれ!! 俺は真っ赤なお鼻のトナカイさんじゃねぇんだぞ!!!」


「………なぁにわけのわからん事を……俺の息子はそんなマヌケなツラじゃねぇ!!」


「マヌケなツラで悪かったなこのクソ親父!!」


「……おい、本当に息子か?」


「あぁ、そうだよ!!あんたの息子の海だよ!!あんたにかっとばされて変な幻覚を見た息子だよ!!」


俺は今日勉強になった事が一つだけある。

死にそうな時、お花畑にはいかない。


野球で逆転サヨナラホームランを出してインタビューを受ける幻を見た後、どこか暗くて熱い所に閉じ込められ、走馬灯(そうまとう)で皆の小言が脳裏に響き渡るのだ。


お花畑なんてメルヘンな所になど連れて行ってはもらえない。そう……


「俺はテメェのせいで死にかけたんだぞ馬鹿野郎!!」


俺は親父を指差し、怒鳴り散らす。


すると親父は。


「おぉ、息子か!我が愛しの息子。自慢の息子だったのか!!」


どうやら、やっと我が息子だと認識したらしかった。遅すぎる。

てか何が愛しだ。なにが自慢だ。


散々俺の事けなしまくったくせに、調子の良いこと言ってんじゃねぇ。


「いやぁ、でかくなったなぁ。父さんと同じでカッコよくなった」


「ざけんなよ……。っざけんじゃねぇよ!」


親父が俺の肩に手を置いてきたが、俺はその手を振り払った。


ふざけんな。なにがカッコよくなった。だ。


親父はいつもそう、都合が悪くなるとすぐ嘘をつく。


俺は親父の事を軽蔑(けいべつ)こそしていたが、要らない。なんて思った事は一度たりともなかった。

正直、今日会えるのだって少しだが嬉しかった。


なのに。なのに……。


「か、海……父さん、お前がそんな気にしてるなんて思って無かったというか……」


親父は少し寂しそうな顔をしながら、俺の顔を覗き込んでくる。


俺はまた、無意識に喋っていたのだろう。


酒が入っていたとはいえ、自分でもひどい事を言ったと反省しているのか。

それとも、この顔もいつものように『嘘』なのか。今の俺には分からない。


でも、親父がどんなに反省しようが、俺の心の傷は癒えない。


まさか親父の口から、あんな衝撃的な言葉を聞くことになるなんて。

今でもまだ信じられない。いや、信じたくはない。


まさか……この俺が……。俺の……。


「俺のこの、姉.妹欲が遺伝だったなんてぇぇぇぇ!!!!!!」


「はぁ!?」


俺は信じていたのに。

親父はまともな人だと信じていたのに!!!


俺は昔から姉や妹が欲しかった。

可愛がってもらいたかった。可愛がってあげたかった!!


この感情、もしかしたら俺は変態なんじゃないかと昔から悩み続けていた。


雨の日も風の日も悩み続けた。雪の日や台風の日、嵐や地震や雷、(ひょう)(あられ)や火山灰のときだって!!


子供ながらに俺は考えた。

そして高校入学時に、俺は受け入れたんだ。俺は変態だと。


そして、受け入れたからこそ変わらなきゃいけないと思った。

だから俺は、再スタート出来たんだ。


なのに、なのにこの感情が遺伝なんて知った日にゃ、あきらめがついてしまうじゃないかぁぁ!!!


遺伝ならしょうがない。遺伝だからしょうがない。

そんな風に思ってしまう。遺伝だから。


俺はこの感情を押し殺していた。でも、その遺伝だという事実を知ってしまった今、押し殺していた感情が表に出てしまう!!


「おい息子よ。何か悪いものでも拾って食ったのか…?」


せっかく高校で友達が出来た。

でも、俺が実は変態だと分かればまたあの孤独な学校生活が始まってしまう!!


それだけはぁ!!それだけはぁぁぁ!!!


「おーい。帰ってこーい」


こうなりゃ記憶から消すしかない。遺伝という単語を!!


俺はオメガじゃないんだ。

高校を境に変わったんだ!!


いや、本当は中学を境に変わった筈だったんだが。

まだ中学生なんて子供だからな。時々感情が漏れだしそうになったりもしたなぁ。思春期だしな。しょうがない。


だが高校生はちがう。

言うなれば大人なのだ。大人の階段だ。


中学から高校に変わる時。それは、大人の階段を上ることを意味する。


だから俺は!!高校ではその意地汚い感情は捨ててきたのに。


「息子が壊れたァァァ!!!」


「うるさいな父さん!!」


「すまん」


とにかく、オメガと同類にはなりたくない。

人として恥じるべき感情だ。姉、そして妹。


そんなものは幻想。そう思う事でやってこれた。


あんなものは幻想。存在しない。……筈なのに。


最近エメリィーヌが来てからか、妹欲は少なくなったな。

やっぱりそんなもんなんだ。いないものへの憧れ。


持っていないものへの興味。それだけだ。

なんだ。よく考えると、そうでもないじゃないか。


俺は変態じゃない。

真の変態はオメガのような奴の事を言うんだ。


盗撮なんて面倒だし、スカートめくりとかだってしようとは思わない。

大体、そんな事恥ずかしさと緊張で出来ない。俺は純情な少年なのだ。


修学旅行の温泉でのぞきなんぞしてみろ。鼻血だしながらぶっ倒れる自信がある。……気がする。


そうだよな。これは変態とかじゃないんだ。

逆に俺みたいのを変態なんて思ってると、真の変態の人達に失礼だ。


俺はただの高校生。妄想力豊かな年頃なだけなんだ。


俺はごく普通の学生なんだ!!未来が明るいぜ!!


「息子よ。しばらく見ないうちにおかしくなられたようだな」


「父さんよ。俺は健全だ」


「息子よ。とりあえず座ろうか」


「そうするか」


俺と父さんは、ソファに腰を下ろす。


こうして、俺と親父は約5年半ぶりの再会を果たした。


俺の隣に親父が座っている。

そして数分。変な沈黙が流れた。


そんな沈黙の中、親父がとうとう喋り出した。


「……しかしあれだな。酔いがさめたな」


「…………」


親父。それが5年半ぶりにご対面を果たした息子に言う言葉なのか。

今は酔いがさめた情報なんていらねぇんだ。


「……しかしあれだな。酔いがさめたな」


「なんで2回言ったぁ!!」


俺は思わずツッコミを入れてしまった。

秋や琴音、エメリィーヌやユキやオメガに入れる感じで入れてしまった。


それからまた、地味~な沈黙タイム。


「……しかしあれだな。酔いがさめたな」


「それしか言葉を知らねぇのかよあんた!!原始人でももっとレパートリーあるぞ!!!」


親父が同じことしか言いださないので、俺は長年疑問に思っていた事を親父に聞いてみる事にした。


「……父さん。実は聞きたい事があるんだが……」


「ん? いいか、女ってのはなぁ。金で釣っちゃいけねぇんだぞ?」


何の話だよ!!

なんで親父なんかに彼女の作り方聞かにゃならんのだ!!!


「そんな話じゃなくてさ。実は昔から気になってた事があったんだ」


「……父さんは原始人などではない!!!」


「気にしてんじゃねーっつの!!話進まないだろ!!」


そう、俺が気になっていたこと、それは………。


「はっ! まさかお前あの事を……!?」


急にわけのわからん事を言いだす親父。


「息子よ信じてくれ!! 父さんはアルタイルってちゃんと書いたんだ!!」


だからなんの話っ!? 今関係ないよね!?


「そんな事はどうでもいい。それよりも……父さんは、さ……」


「……なんだ?」


「父さんってさ。俺の事どう思ってんの…?」


「………っ」


親父は面食らったらしく、一瞬黙ってしまう。

まさか息子の口から、こんな言葉が飛び出て来るとは想像もしなかったのだろう。


だが俺は知りたかった。

何度も言うが、俺は親父に良い印象を抱いてはいない。


実はそれには、深い訳がある。



……ちょっとだけ、昔の話でもしようか。

俺がまだ、小学4年の頃の話だ―――――――



キーンコーンカーンコーン


授業終了のチャイムが鳴り響いた。

それと同時に、教室内の奴らがざわざわと行動を始める。


すぐに帰り支度を済ませ駆け出していく者。

それとは逆に、教室に居座り遊び出す者。

自由帳に絵を描いて、一人楽しむ者。

靴下を丸めてボール状にし、ホウキで野球を始める者。

係の仕事をまっとうにこなす者や、明日の宿題を今やり始めている者。

校庭目指してかけだしていく者。教室で読書を始める者。


みな様々だ。

だがその中でただ一人だけ、何も行動しない奴がいる。


ずっと上の空で、窓から外を眺めているだけ。

その者は誰とも喋ろうとせず、誰も話しかけようとしない。


いつも何を考えているのか分からない、関わりづらい奴。


…………俺だ。


俺は学校が嫌いだった。


俺の親父は、家にいる時間は少なかった。

映画の撮影のために、あちこち飛びまったり、泊まりがけで撮影がほとんどだったからなのだが……。


親父が帰ってくる日は、月に2回。良くて月に5回。


だが帰ってくると言っても、時間は夜中が多い。


珍しく明るいうちに帰って来たとしても、疲れて寝てるか、お袋と世間話をしてるか、酒飲んで酔っ払ってるかのどれかだ。


それ故に、俺は遊びに連れて行ってもらえたり、親父に遊んでもらったりなどはあまりない。


だが学校では、家族で出掛けたんだ!。とか、今度父さんとキャッチボールする。とか。

聞きたくもない自慢話が耳に入り、そのたびに俺はイラついていた。


今思えば、家族で遊ぶ奴らが(うらや)ましかったんだと思う。

小学生ながらに、嫉妬心を抱いていたのかもしれない。


そして担任からも、夏休みに楽しかった事を書いてきて下さい。と、宿題を出されたりもして、ますます俺の心は(すさ)んでいった。


担任が嫌い。先生が嫌い。クラスの奴らも好きじゃない。


あのときの俺は、毎日が苦痛でたまらなかった。


別に(いじ)められていたわけでも、バカにされていたわけでもない。

だが、あのときの俺の心には、この賑やかな空間が、ただ……苦痛だった。


小学校低学年のころは大好きだった給食も、いつしか味わう事も忘れていた。


そんな学校もおわり、家に帰ったとしても。

待っているのは、陽気なお袋だけだ。親父の姿はない。いつものことだった。


「………ただいま」


今日もまた、俺は家の玄関のドアを開け、帰宅。

すると、いつものように、お袋が出迎えてくれる。これは当たり前のことだった。


「海くん、今日のお夕飯、何が食べたい?」


お帰りを言う前に夕飯のアイデアを要求する。

見た通りの、ほわぁっとした能天気(のーてんき)な人だ。


だが当時の俺には、そんなお袋の性格がかなりムカついた。

少し早めの反抗期だったのかもしれない。それほどに、心に余裕がなかったのだ。


だから俺は、お袋に辛く当たってしまう。


「……っ、っるせーな!俺に聞くんじゃねーよ!!」


どんなに小さなことでも、どんなに些細なことでも。

ましてや、優しい気持ちから来ている言葉でも、その時の俺を苛立たせた。


なんでこんなにイライラしていたのか、今の俺にはもう分からないが。


「……か、海くんどうしたの…? 学校で嫌な事があったの…?」


こんなにひどかった俺に対して、叱るどころか、心配をしてくれたお袋。

だがその頃の俺には、そんな優しさもイライラの対象だった。


「別になんでもねーよ。ウザいから話しかけんな」


我ながらひどかったと思う。

この時まだ小4だぜ? 将来、家庭内暴力とか起こしそうで不安になるだろうな。俺なら不安になるもんな。


だが、お袋はそこらの母親とは一味も二味も違った。

そう……俺がひどい言葉を投げかけた瞬間。お袋はひざから崩れ落ちたのだ。


「か、海くんが……私の海くんが不良になったぁぁぁ……!!!」


自分の顔を両手で覆いながら、涙交じりの声でそう呟き、泣きだすお袋。

この時の俺はまだ小4。さすがに親に泣かれると気まずい部分もあるからして……。


当然、こうなる。


「わ、悪かったよ母さん! ごめん! 俺ちょっと虫の居所が悪かっただけだからさ! 泣くのやめよ? ね? ね?」


もしこの時、俺が中学生だったとしたら。

多分お袋に気なんて使わず、うっせぇババァと言いながら足蹴りし、自室へと逃げ込んでいたことだろう。


だがこの時の俺はまだ子供。少なからず、良心は持っていたわけで。


「か、海くんがぁ……海くんが怖い目で睨んだぁぁ……!!!」


「ちょ、母さん!! そんな大げさにしなくても……あぁもう! ハンバーグ! 今日の夕飯ハンバーグにしてよっ!」


「……ハンバーグぅ……? 食べたいの…?」


「そうそれっ!! なんか無性にハンバーグが食べたい!! フードファイターの如く食べちゃうよ!!」


「……そうね。そうよね!! よーしっ! 海くんのために、お母さん頑張っちゃうんだから!!」


やっと機嫌を取り戻したお袋は、鼻歌を歌いながら、台所へとスキップで帰って行った。


俺のお袋はまさに純真無垢(じゅんしんむく)な子供そっくりだ。

大きい子供。興味がある事はとことんチャレンジし、まるで小さな子供のように、ただただ純粋な心で笑う。


そんな性格のためか、結構ご近所さんとも知り合いが多い。

今の仕事……ファッションデザイナーが長続きしてるのもその性格が故だ。


みんなに愛される性格で、少々打たれ弱いが、すぐにケロッとしてまったく気にしないのもお袋のいい所だ。

……ケロッとするってのは切り替えが早いというわけであり、けしてカエルの鳴き真似をするとわけではないからな。そこんとこ間違えないよーに。


とにかく、これが小学校の頃の俺の日常だ。


今思えば、お袋のお調子者の性格に、俺は救われていたのかもしれない。


だが、それの繰り返し。


夜寝て、朝に目が覚めれば、またあの嫌な空間のある学校に足を運ぶことになる。


そんな毎日に、俺はうんざりしていた。

夜眠るのが惜しい。ずっと夜が続けばいいのに。とさえ思う。


俺にとっての学校は、その程度のものだった―――


―――朝。

また朝を迎えてしまった。


目が覚めた時、外が明るい事に心底、嫌気(いやけ)がさした。


布団から出るのが辛い。別に眠いとか、面倒だからではない。ただ、辛い。


この布団から出たら、この何もなく、平和な時間が終わってしまうような気がするからだ。


いっそこのまま、学校を休んでしまおうか……。


俺は布団に深く潜り込んだ。


「海くん。学校遅刻するわよ? いい子だから起きなさい!」


来た。お袋が来た。

目覚まし時計を見てみると、7時40分を指そうとしていた。


確かにこのまま遅刻する。だが、俺は……今日は学校には行かないって決めたんだ。


「もぉー海くんったら、またお部屋こんなに散らかして! お母さんは悲しいです!」


ムカッ。

お袋のほわぁっとした口調に、苛立ちを覚えた。


「うるさいな母さんは!! もう俺の事なんてほっといて……げっ!?」


「うぅ……海くんが……海くんがとうとう……ひきこもりになっちゃったぁぁ……!!」


朝は眠気のせいで苛立つのも早い。

だがそれと同時に、お袋の悲しみスイッチが入るのも早い。


こうなってしまっては、この時の俺には、(なだ)める。落ち着かせる。という選択肢しかないのだ。

お袋の悲しみスイッチの相手をしている間に、眠気もすっ飛んでしまう。ある意味最強の目覚ましである。


「か、母さんごめん! 学校行くからさ!! てか、俺ひきこもってないし!! ね? ね?」


「……本当に…?」


「本当も本当! もう学校までめっさ走っちゃうよ! カールルイスの魂が宿っちゃうよっ!!」


我ながら、あのときの(なだ)めテクは凄いと思うね。


「……そうね。なら良いんだけど……」


「そうそう! それより母さん、朝ご飯はなにかな…?」


「お、よく聞いてくれたわね! 今日の朝ご飯は、お母さんの愛をたっぷり注いだ、お袋の味シリーズよっ!!」


「いや、だからそれはなんなんだよ」


「うぅ……海くんが冷たい……!!」


(もー! めんどくさいな!!)


こんな感じで、俺は朝から、体力が激減状態で学校に行くことになる。


(はぁ…今日もまた、いつもと変わらない日々か……)


学校に行くまでの間に、何度ため息をついただろうか。

いつもの繰り返し。何も変わらない。

そんな退屈な毎日が、今日も繰り返されるのだと……思っていた。


俺は教室のドアを開け、自分の席に座った。


遅刻ギリギリで、クラスの奴らは(ほとん)ど揃っているのにも関わらず、誰も挨拶なんてしてこない。

俺からも挨拶をしない。もうこれが、このクラスでは普通の出来事だった。


しばらくすると、担任の女の先生が教室に入ってくる。

これも決まっていること。


これからどうでもいいような話を、担任が話するのだ。いつもそう。……だった。


俺は普通に聞き流していたが、ある単語が耳にとまった。


『てな訳で、今日はみんなに『新しいお友達』を紹介するわね!』


新しいお友達。

つまり、転校生と言うわけなのだが……。


――――このいつもと変わらない、居心地悪い空間を。


『じゃあ、入って来てください』


―――俺の、退屈で嫌だった日々の繰り返しを。


『じゃあ、自己紹介をお願いできるかな?』


――ある一人の転校生が……。


「僕は鳴沢(なるさわ) 恭平(きょうへい)。よろしく」


ぶっ壊してくれた――――。



第三十七話 完



~おまけ~


海「母さん。今日の朝ご飯結局何なの…?」


山空母「えーっとねぇ。唐揚げに切干大根……どれも愛情たっぷりよ」


海「唐揚げ!? 朝から何があったの!?」


山空母「レンジでチン風味よ♪」


海「愛情のかけらもないじゃんか!!!」


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