第三十四話~美少女×変態=一連の流れ+α~
みなさん、お久しぶりです!
変更点があるので報告。
里中の席の場所を変更。
前、海の目の前って書いたはずだけど、変更しました!
現在時刻八時三十分。月曜日だ。
現在俺の周囲には誰もいない。
そりゃそうだ、なぜなら今授業中。
この扉の向こう側から、担任、西崎 郷介こと、西郷の豪快かつ愉快な声が響く。
あ、前も言ったと思うが。
俺の高校はおかしい。
どんな事情があるかは知らないが、なぜか全教科西郷が受け持っている。
だから、いつ来ても西郷とご対面なわけだ。他のクラスは違うみたいだが……。
すなわち、現在俺がすべきことは、職員室の掃除一ヶ月を免れることだ。
西郷のクラスになった者は、遅刻、仮病、宿題忘れ。
そのほかにも色々あるが、この三点が一番、起こる確立が高いだろう。
そう、こんな些細なことでも、西郷は見逃しはしない。
で、もしそんなことをしてしまえば。
誰もが嫌がること、もしくはその時の気分で掃除させられ、西郷の奴隷と化し、挙句の果てには二人仲良く放課後のお勉強タイムへと突入する。
こんな屈辱かつ最悪な状況は意地でも免れなければならない。
これを他の奴らは『魔の亜空間ゾーン』と呼び、そこに引き込まれたものは精神ともども粉々にされるという。
そんな魔の亜空間ゾーンに、俺も昔引き込まれたことがある。ちなみに遅刻でだ。
その時は一日中パシリに使わされ、校内中のぞうきんがけ。
そして一番重要かつ迷惑なのが、なぜか西郷は良い意味でも悪い意味でも俺に目をつけているという事だ。
他の奴らにはやらせない様な事までさせようとする。
なにが女子たちの背中にタッチしてこいだよ。ただの罰ゲームじゃねぇか。
もちろん、『教師クビになるぞ。』と言ってもみた。
そりゃそうだ。だってへたすりゃ俺の印象が最悪で嫌われ者になるかもしれないんだから。
そしたら西郷が教師らしからぬ発言をしたのだ。
『山空の印象なんぞ、この俺が知った事か』だとよ。
これが昨年の丁度この時期だった。
なんというか、西郷はちょっとイカレている。
でも、他の教師らは西郷の味方なのだ。これはおかしい。
絶対に裏取引しているはずだ。チップをこっそり渡しているに違いない。
まぁ、とりあえずそんな感じで、俺はこの扉の前で約五分突っ立っている。
これから、俺と西郷との戦争が始まるのだ。
俺は深呼吸をし、西郷らの待つとべらへと手をかけ………ガラッ!
勢いよく開けた。
第三十四話
~美少女×変態=一連の流れ+α~
俺が教室のドアを開けると、教室にいる奴ら皆の視線が、一瞬にして俺に集中する。
そして俺の姿を確認したかと思えば、何事もなかったかのように机の書類に目を移しかえる。
どうやら、まだ授業は始まってはいないようだ。
そのあとに、俺は西郷に視線を移す。
西郷は俺を見て、不気味なほどに爽やかな笑みを浮かべていた。
これはまずい。こいついつも以上にキレてやがる。
この慣れたといえば慣れたようなこの状況の中、俺の思考はすごいスピードでフル回転する。
西郷が喋り出す前にこっちから仕掛けなければ。
そんなわけで、俺は舞台俳優もビックリの演技を開始する。
ちなみに、上手すぎてビックリするという意味でのビックリだ。下手すぎてではない。
俺は大きく息を吸い、今年一番の気合を込めて。
「よっしゃぁ!!ギリギリセーフ!!!」
俺は世界新記録をかもしだしたオリンピックの選手のように、高らかに両手を上にあげて叫んだ。
もちろん、そんな事でごまかせるはずもなく。
「山空ぁ。お前は眼鏡をかけた方がいい。もしくは脳の検査を先生は進めるぞ」
俺の視力と脳を心配されてしまった。
そんな言葉を聞き、教室中にクスクスと笑い声が響く。
……俺は正直驚いた。
まだ夏休み明けてから6日目の登校だ。
普段なら俺と西郷の声だ絵が響き、みんなは俺をバカにして無視し続けるだけだったのに。
エメリィーヌやオメガが来てから、俺の学校生活における環境が急激に変化している。
……やはり、誤解さえ解ければ基本いい奴らばかりなんだな。
もちろん、何人かは昔のままだけど。それでも、俺には嬉しい変化だった。
あ、ちなみに、エメリィーヌとオメガはもう先に来てるからな。
なぜか今いないけども。
エメリィーヌ用の机(西郷が用意した)に、エメリィーヌのカバンが置いてあるからだ。
まぁ、カバンというかリュックだな。なんか色々下らないものを入れていた気がする。
今朝はオメガと一緒に学校へ向かったはず。
え?なぜ俺も一緒に登校しなかったかって?
丁度その時起こされたからだよ。
もうちょっと早めに起こしてくれればいいのにさ、大事な所で使えない奴らだ。
って、今はそんな状況じゃない。
この危機的状況を回避しなければならないのだ。
さっきのさわやかさとは一変し、モロ怒り顔の西郷が言った。
「とにかく、なぜ遅れたのかを言え。理由によっては見逃してやる」
西郷は、とても魅力的な条件と共に理由を聞いてきた。
だがしかし、西郷は絶対に見逃しはしないだろう。
理由によっては。つまり、西郷の気分次第って事だ。
だがまぁ、ここで正直に言ったとしても、自分で遅刻を認める事になる。
それはまずい。
堂々と寝坊しました!!なんて言った日には、それ相応の体罰が下されることだろう。
前に一度経験したから分かるのだ。
そんなわけで、バカ正直に理由を述べるほど俺もアホではない。
かといって、下手な嘘は火に油。西郷の怒りを強大にさせるだけだろう。
これも体験談だが、この前も似たような状況に陥ったことがあった。
その時は『実は両親が……』と言った後、『でも、いくら重大なことであっても、私情で遅刻してしまったのは本当の事、だから素直に謝ります。ごめんなさい』と、とても潔い素直な青年を演出してみたのだが。
もちろん、西郷の同情を引いて許してもらうためだ。すべて偽りの事実。
だから素直に謝ってみた。だがしかしそこは西郷。
なんて言ったと思う?
『なるほど。確かにお前の言うとおりだな。どんな事情であれ、先生はいつも通りにやらせてもらう』
とか言いだして、結果惨敗。
だから、素直に謝るってのはダメ。西郷には通用しないのだ。
となると、もう手の打ちようがない。だから俺は、ちょっと実験感覚で言ってみよう。
俺は静かなトーンで、呟くように言った。
「実は……宿題なんです」
俺が呟くと、西郷の顔は『はぁ?』という顔になった。
だが、俺は続ける。
「俺分かったんです。自分が愚かだったってことが。だからこれまでの人生を改めるため、ふだん使い慣れていない頭で必死に宿題に取りかかったんです!!」
俺の発言が意外だったのか、それとも、どんな言い訳が飛び出るのか聞いてみたいのかは分からないが、西郷は静かに聞いてくれている。
そんな西郷に、俺は続ける。
「だけど俺の勉強慣れしていない頭じゃ、全然できなくて。でも、諦めずみ頑張って見ました。でも出来ないまま、気付けば夜が明けていたんです。それに気づいた俺はすぐに学校へ向かいましたとさ。以上です」
俺は必死に勉強しようとしたんだぞアピールをする。
なにが狙いか、それは。
努力している奴、それも宿題を頑張ったやつを、さすがの西郷もバカには出来まい。
というのが狙い。
西郷は腕を組んで、唸り始める。
もちろん、西郷だって嘘だという事は分かっているはずだ。
でも証拠がないもんなぁ!!
若干俺は調子に乗っていた。
そんな俺に、西郷が言った。
「山空が徹夜ぁ?お前自分の頭の良さを計算に入れてないだろう。この前のテスト、お前かなり良い点数取っていたんだぞ?」
……そう来たか西郷。
この前のテスト。
実は先週、抜き打ちテストがあった。
俺の点数が良かったなんてのは嘘だと思う。
ほとんど勘で書いたからだ。
でも、証拠がない。
俺の点数が悪かったなんていう証拠がない。
ここで俺がそんな訳ないだろうと否定したとしても、勘が当たってよかったな。とか言われておしまいだ。
つーか、テストの点数を使うなんて。考えたな西郷。
目の前で大きくニヤついている西郷。なんだ。お前はその程度か?と言わんばかりの顔だ。
こうなったらしょうがねぇ。西郷なんかになめられてたまるかってんだ。
俺は大きく深呼吸をし、西郷に言い放った。
「先生。今何時に見えますか?」
「ん?今は8時38分だな。」
「そう、8時だ。そこで問題です」
「はぁ?」
「8時、9時、12時、15時、20時、0時。一見ばらばらに見えますが、この時間たちにはある共通点があります。それはなんでしょう?」
俺の唐突の問題に、西郷が顔をしかめる。
「それとこれとどういう意味があるんだぁ?」
「つまり、勝負です。学校が終わる前に答えれば先生の勝ち、それ以外なら俺の勝ちです。」
西郷はしばらくの間考える素振りを見せている。
そんな西郷の背中を後押しするように、俺が言った。
「ちなみに、先生なら誰でも絶対答えられる問題です。他の人に相談するのもなし。ヒントもなし。どうします?」
「分かった。受けて立とう」
西郷が勝負に乗ってきた。
「じゃ、今からスタートしますが……もう一度だけ問題聞きますか?」
「かまわん。覚えているからな」
「なら、スタートです。俺は自分の席にいますので、分かったら教えてください。」
「はっはっは。山空の考えた問題など、この俺が分からない訳ないからなぁ。早く席につけ」
俺は西郷の指示に従い、大人しく自分の席についた。
俺が席についたとほぼ同時に、『ガラッ』と音がして、オメガとエメリィーヌが帰ってきた。
二人の手には、段ボール箱だ。
オメガは大きめの、エメリィーヌは小さめの箱。
エメリィーヌの表情から察するに、中身は軽いものだと思われる。
「お、ご苦労だったな鳴沢。あと、山空の妹」
「妹じゃねぇよ!!」
「妹じゃないんヨ!!」
西郷の言葉に、二人して同時にツッコんでしまった。
そんな俺の声を聞き、エメリィーヌが俺を見て言った。
「カイ!やっと来たんヨか!遅刻なんヨ?あんなに起こしたのに起きないんヨから……」
ちょ、みんなの前でなに言ってやがる。
「山空ぁ、寝坊らしいじゃないか。なぁ? 山空ぁ。」
あ、やばい。西郷にばれた。
「……やっと気付きましたか。だがもう遅い!俺の出したクイズに答えられなければお前は終わりだ西郷!!」
俺のやけくそともいえる失礼極まりない発言に、西郷は表情一つ変えずに言い放った。
「安心しろ山空ぁ。俺も男だ。約束は守る!」
凄いいい顔しながら、俺に向かって親指を立てている。
……ノリがいいというかなんというか。バカだなぁ。
まぁ、いいか。
そんなことを話している間に、オメガとエメリィーヌは自分の席につくために俺のすぐ近くにいた。
「山空。一応皆には誤魔化しておいたから」
オメガが、とても小声で囁いた。
誤魔化しておいたというのは、多分俺の家にオメガが暮らしていることだろう。
俺がオメガに言い聞かせたからな。
エメリィーヌとオメガが一緒に来たとなると、当然理由を聞かれるからな。
オメガもたまにはいい事をするじゃないか。
……いや違うな。普段があれすぎて、普通の事をしただけなのにまともに見えてしまうという。
でもまぁ、上手く誤魔化してくれたならいいか。
俺は自分の席に着き、俺とオメガの間にエメリィーヌも座る。
って、あれ?
「エメリィーヌ、そのヘアピンどうしたんだよ?」
最近はオメガにコーディネートたるものを任せているので、今エメリィーヌが来ている服装は何ともオシャレなものだ。
エメリィーヌに合っていてとても綺麗に着こなしている。
だが、ヘアピンは初めて見るものだった。
金色に輝く、とてもサラサラな前髪を右に軽く流し、それを薄緑色の花柄模様のヘアピン二つでとめている。
普段とは違い、おしとやかそうな印象を放っている。
正直、メチャメチャ可愛い。
普段は前髪で隠れているエメリィーヌの額が、今は普通に見えている。
ヘアピンだけでこんなに変わる物なのか。と、俺は素直に感心した。
「これは、えっと、あの人にやって貰ったんヨ!」
そう言いながら、一番後ろだが、俺達とは逆のドア側にいる里中を指差した。
……あぁ、里中か。
そういえばちょくちょく絡んでくるなぁ。
俺が里中を見ていると、里中もこちらに気付き、笑顔で軽く手を振っている。
もちろん、俺ではなくエメリィーヌにだ。
「それと、あの人には飴を貰って、あの人にはシールを貰ったんヨ!」
そう言ってエメリィーヌが次々と指をさしていく。
おいおい、あいつ誰だよ。
俺多分会話すらしたことないぞ。
……エメリィーヌめ。なんで俺より友達が多いんだよ。
「ちなみに、飴をくれた人は齋籐で、シールの方は畑山だよ」
オメガが丁寧に説明してくれました。
お前ら何者だよ。
俺が一年半かけても出来なかったことを簡単に成し遂げやがって。
やっぱり顔か?顔なのか?
そんなにイケメンがいいのか!初日に覚醒したオメガを見たはずなのに。
エメリィーヌはまぁ、分からなくもないが。
基本こいつ(エメリィーヌ)は可愛いからさ。許せるんだよ。
でもこいつ(オメガ)はどうなんだよ!!
見た目だけの残念ボーイだぞ!?
なんでこいつばっか好かれるんだよ。
別に俺は好かれたいわけじゃないが……でも納得いかねぇだろ。
俺なんか一年半という年月をかけて、出来た友達なんか一人だけだぞ?
しかもほぼエメリィーヌのおかげだぞ?
こんな悲しい事があってたまるか。
秋だってそれなりに友達がいるんだぞ。ざけんな。
俺は若干二人(特にオメガ)に嫉妬心を抱きながら、オメガを睨みつけた。
だが、オメガは窓の外をぼーっと眺めていて、反応がない。
………え?窓の外って。
俺はそーっと窓の外の方に目をやると、1時限目がまさかの体育らしき中学生達が、準備運動をしていた。
こいつ……さっきからこれを見てたのか。
これはどうなんだろう。
叱ったほうがいいのか?それともふれない用意した方がいいのか?
………まぁ、好きにさせておこう。ここからじゃ襲いかからないだろうから。
そんな感じで、授業は進んでいった。
西郷は、俺が出した問題にまだ苦戦しているらしく、俺と目が会うたび怪しげな笑みを浮かべては頭を抱えていた。
……分からないだろ。そりゃそうだよ。
だって正解なんてないもの。
あの問題は俺の口から出た、ただのその場を乗り切るための出まかせだ。
正解しろって方が無理だ。
え? 卑怯じゃないかだって?
真剣勝負に卑怯もくそもない。
これが俺の戦い方なのだ。
騙すほうが悪いんじゃない。騙される方が悪い。
俺は拳で勝負だ!!って時だって鉄パイプあたりを持ち出してくるような人間だ。
まぁ、実際そんな事があったら戦う前に逃げるけどな。
基本的に力が弱い俺にとって、最大の武器は知恵だ。
考えるしかない。その結果たとえ卑怯になったとしてもだ。
力で言えば秋にも勝てないと思う。
いや、互角ぐらいか。
あいつは打たれ強いだけだからな。あと、体が丈夫。
あいつならトラックに轢かれても生きてるんじゃないか?
そう思わせるほどの丈夫さだ。だってあいつが怪我してるとこみたことねぇもん。
アザならあったけどな。
……いや、純粋な力で言ったら俺も結構強いんだと思う。
琴音のパンチが強いのは、多分力が強いからじゃない。
絶妙なタイミングで絶妙に決めるから、とても効くんだよ。
って、なんか話が変な方向に行ってしまった。
ちなみに、今は2時限目の途中。
オメガはまだ中学生達に見惚れ中だ。
でももう中学生達は終りの準備してるから、そろそろ2時限目の終わると思う。
ちなみに、琴音のクラスじゃないっポイ。
エメリィーヌは相変わらず大人しい。絵を描いたり、読書したりしてる。
地球の本が珍しいのだろう。目を輝かせながらずっと読んでいる。
こんな姿を見ていると、やっぱり子供なんだなぁと思う。
そういえば、エメリィーヌが地球に来たばかりの頃なんかすごかったな。
車を見ただけで興奮していた。
エメリィーヌの住んでいた星は、多分超能力で何でも出来るからそういうものはなかったんだと思う。
公園はあったみたいだが。
結構たった今だって、学校の中を見ては騒ぎまくるし。
珍しい弁当とか見れば頂きまくるし。
色々聞いてきたりもする。
いつも思うのだが、不安ではないのだろうか?
なにも知らない状況でこんな地球に来て、初めて会う人間達の家に住み着いて。
エメリィーヌって結構度胸がすわっていると思う。
エメリィーヌが本気で泣いている所なんか見たことないし、想像も出来ない。てかしたくない。
まぁ、本人が平気ならそれでもいいのだが。
……一度真剣に考えた方がいいのかもな。
正直、エメリィーヌについては、俺も含めだれもよく知らないもんな。
『キーンコーンカーンコーン』
俺がボーっとしながらいろいろ考えていると、授業終了のチャイムが鳴りだした。
古き良き音。
その音と同時に、みんながざわつき始める。
これから20分間の休憩タイムがあるからだ。
唯一勉強から解放される時間。
一人が合図をし、皆で先生にお礼を告げる。
一連の流れ。
その儀式的な何かが終わったと同時に………これだよ。
「恭平くん!一緒に図書室行かない?」
ある一人の女子がオメガにもうアプローチ。
何とも素早いこと。
「僕は行かない。読むとすれば少女達が出て来る小説か漫画のみだ」
もちろん、オメガはこうなる。
普通ならこれで嫌われそうなのだが、女子たち曰く、そのギャップがいいらしい。
女の考える事は分からん。
まぁ多分、イケメンだったら誰でもいいのだろう。
オメガは確かにイケメンだが、中身は大変残念なんだけどなぁ。
イケメン(笑)だ。
オメガに断られてもなおずっと話し掛け続けているとある女子。
うるさいので俺はその場を離れた。
エメリィーヌもそう思ったらしく、俺の後ろからついてくる。
「おう海! それにエメリィーヌ!」
教室から廊下に出た時、秋に話しかけられた。
普段とは違う制服姿だが、やはり存在感がなさそうだ。
「シュウなんヨか。どうしたんヨ?」
「いや、別に用はないけどさ。俺暇なんだぞー! せめてエメリィーヌだけでも俺のクラスによこせー!!」
秋が愚痴っている。
よほど暇なのだろう、知っている奴らがいないのだから。
秋だけ運悪く別のクラス。
たしかに、これは地味に辛いな。
そんなことを話していると、いつもの地響きと共にいつもの変人がやって来た。
「うーみん先ぱぁぁい!!!」
猛スピードで走ってくるユキ。
そして、大声で叫び出す。
その声に、廊下にいる奴ら全員がユキを見ている。
ユキは恥ずかしくないのか?
一緒にいるだけで俺は恥ずかしい。
そんな恥ずかしさの塊ともいえるユキは、瞬時に俺の目の前に来るとゆっくりと停止した。
「はぁ、はぁ、お待たせしました!」
「いや待ってねぇから。つーか、学校内でうーみんはやめろって言ってるだろぉ!!!!」
そう、俺はいつも言い聞かせていたのに。
おかげで彼女といううわさが流れているんだぞ。
彼女じゃないのに。
「あ、つい癖で!すみませんでした海先輩!」
でも、ここですぐに訂正してくれるのはありがたいことだ。
ユキは変だけど聞きわけが良くて助かる。
……そうだ。弁当。
俺作ってきてないぞ!
突如思い出したので、しょうがなくユキにお願いする。
「ユキ、お前今日も俺の分の弁当持ってきてるか?」
「あ、はいです!」
元気に答えてくれた。
……いつも悪いことしたな。
せっかく作って来てくれていたのに。
いつもそんな事を思ってしまう。
俺って優しすぎだろ。
でもまぁとりあえず、あるならよしとしよう。
これで俺の昼飯問題は解消された訳だ。
あ、ちなみに。
エメリィーヌとオメガの分の弁当は作ってきたから安心してくれ。
「ユキ、悪いんだが、しばらく弁当を作り続けてくれないか? 九月分の生活費がまだ来なくてさ」
そう、生活費さえくれば問題はない。
この俺の節約技術で何とかなるのだ。
「うーみ……海先輩の頼みとあらば、ユキは喜んで引き受けます!」
とても元気良く了承してくれた。そしてとても嬉しそうだった。
「ありがとな、ユキ」
「いえいえ!……ときに海先輩。海先輩のご両親はどうされたんですか?」
ユキが聞いてきた。……そうか、ユキは知らなかったのか。
俺はすごーく簡単に説明した。
「俺の両親は海外で共働きだ」
「へー。まぁ、どうでもいいです。それよりこれ」
どうでもいいのかよ。……まぁ、どうでもいいか。
ユキは俺に弁当を差し出してきた。
とても可愛い風呂敷に包まれたそれは、明らかに男が持つような物ではない。
ピンク色のハートマークの風呂敷。ユキの愛情表現がバッチリと見てとれる。
……まさか中身もこんな調子じゃないよな……?
「さあ海先輩!ユキの搾りたての愛情100%の愛妻弁当、受け取ってくださいです!!」
搾りたては嫌だな。なぜ搾ったんだお前。表現の仕方ってものがあるだろう。
もっとこう、せめて愛情たっぷりとかさ。いや、それも嫌だけども。
「おい海。まず愛妻にツッコめよ」
秋が正論なることを言っている。
「もう秋先輩ってば!妬かないでくださいですよぉー!」
「妬いてねぇよ!!なぜなら俺には、琴音という妹の手作り弁当を……あ」
『……あ。』そう呟いた秋。
この言葉から連想されるものといえばもちろんあれしかない。
「弁当忘れてきたッ!!」
やっぱりな。だと思ったよ。
とてもショックを受けている顔している秋。
なぁ、秋。お前もショックだとは思うよ。でもな。
存在感の無いお前に忘れられた弁当の気持ちを考えやがれ。
普段、忘却されるキャラのお前に忘却されるとか悲惨すぎて同情するぜ。
「カイ、そこまで言うとシュウが可哀そうなんヨ」
「あれ?俺喋ってた?」
「喋ってはないけど……分かるんヨ」
「……そうか」
秋を憐れんだ目で、ひたすら見つめ続けるエメリィーヌ。
そんなエメリィーヌの言葉には、底知れない重みがあった。
秋。お前、こんな子供にまで同情される奴になってしまったのか。……どんまい。
「あ、秋先輩。あれ琴音っちじゃないですか?」
なにかに気付いたユキが、廊下の奥の方を指差して言った。
その方向を見てみると、確かに琴音らしき髪型の人物があるいて来ている。
背丈も琴音っぽい。
でも、いつもと何かが違った。
そう、言うなれば、服装だな。
見なれない……てか、初めて見るんじゃないだろうか。
白と赤。その二種類のカラーに身を包まれた琴音を。
「あ、海兄ぃ!久しぶり!」
俺の姿を見つけると同時に、唐突のボケをかます琴音。
おいおい、なにが久しぶりだよ。
ついこの前会ったばかりだろ?
「ちょ、何か言ってよ。一人でバカみたいじゃん!」
俺の目の前までやってきたと同時に、自分のボケに返答がない事を怒っている。
「お、悪かったな。脳内でツッコミを入れてたわ」
つーかさ。バカみたいなのはその格好だろう。
襲われてもしらねぇぞ。ただでさえさっきから男どもの視線が集中してるんだから。
「それよりコトネ。どうしたんヨか?」
エメリィーヌが聞いた。
こういう時にまともな対応をするのがエメリィーヌなのだ。
「あ、そうそう。秋兄ぃどこ?」
そしてさらにボケる琴音。
「おい!俺は隣にいるじゃねぇか!!」
そして激しいツッコミを入れる秋。仲の良い兄妹である。
「うわぁ!?ビックリした!!いたんだ秋兄ぃ」
……おい。今本気で驚いてたよな。ボケじゃなかったのか?
「いたよ!ずっといたよ!!変な冗談はよせよ『琴音』!!」
「ごめんごめん。あ、これお弁当。忘れ物!」
「お、やった!あぶねぇ。昼飯がなくなる所だった!!ありがとな『琴音』」
「まったく、秋先輩は『妹』の世話になってどうするんですか!」
「情けないんヨね」
そんな感じで秋の弁当問題も解決したわけなんだが。
俺のクラスの前で、琴音やら妹やらの単語を連発していると……まぁ、当然こうなるよね。
「華麗なる横っ跳びに華麗なる三回転ジャンプ。それに華麗なるひねりを加えて華麗なる着地と同時に華麗なるシャッターを華麗にポチッ!!」
激しい動作を言葉にしながら、その言葉とは対照的にごく普通に教室から出てきたオメガ。
これぞまさにバカの極みである。
そして、華麗なるシャッターってなんだよ。
「げっ!恭兄ぃ!!」
オメガを見た琴音は、とてつもなく驚いている。
そして、分かりやすいほどに引いている。
さらには、琴音はあんな服装なもんで、身の危険を感じて秋の後ろに隠れている。
ついでに言っておくと、琴音以外の主要メンバーも、俺以外全員引いている。
そんでもって、周りにいたやつら(モブキャラ達)も一斉にこちらを見た。
まぁ、そんな所だ。
「琴音ちゃん。僕に会いに来るなら来るとあらかじめ言ってくれればよかってのに」
だがオメガは止まらない。なんたって変態だから。
「し、秋兄ぃがにおべ……いや、ノートを忘れたから届けに来ただけだよ!」
琴音はとっさに誤魔化した。
琴音が作った弁当だと分かれば、オメガは間違いなく食らうだろう。なんたってド変態だから。
この短時間で琴音は秋の弁当まで守ったのだ。えらい。
だがしかし。
「ん?俺が忘れたのは弁当だぞ?お前が作ったやつ」
「ばかっ!」
台無秋。いや、台無し。
琴音が慌てるももう遅し。
オメガはやはり、止まらない。なんたって今世紀末最大級の超ド変態ダカラ。
そしてすっかり空気なユキとエメリィーヌ。
「琴音ちゃんの手作り弁当!?た、竹田兄!!僕の弁当と交換しないか!?」
すっかり興奮状態に陥ったオメガ。
秋が律儀に琴音の作ったやつなんて言うからだ。
「いやだね!琴音の弁当は俺のもんだぜ!」
秋はとてもイイ顔で対抗する。
「ばかいえ!琴音ちゃんの手作りは僕の物だぞ!!」
「いや、俺の妹なんだから俺のもんだろ!!」
「違う!琴音ちゃんは僕の妹だ!!」
そっち!?
弁当はどうなったんだよ。
「私は恭兄ぃの妹じゃないよ。赤の他人だよ」
琴音もキツイ事を言うじゃないか。
赤の他人と来たか。
三人の白熱した戦いを、冷めた目で見つめる俺。と空気二人。
ユキはすっかり抜け殻と化し、エメリィーヌは呆れすぎて何も言えない様子。
……ユキはまだ慣れてないもんなぁ。変態に。
俺がそんなことを考えている間も、騒がしい言い合いは続いていた。
「なにを言うか琴音ちゃん!あの楽しかった日々を思い出すんだ!」
「襲われかけた日々しか思い出せないよ」
「ふふふ。良い思い出じゃないか」
「よくないよっ!!」
「よくねぇよ!!」
声をそろえてツッコミを入れる竹田兄妹。やはり仲がよろしいようで。
てか……長くなりそうだからそろそろ仲裁に入るか。
俺はそう思い、止めに入ろうとした時だった。
地球に天変地異が起き異常気象で満たされる級の超ド変態。もといオメガがなにかに気付いたようだ。
わなわなと震えだし、カメラを強く握りしめている。
ちなみに、カメラはデジカメじゃない。
よく、プロのカメラマンが使うような、ずっしりとしたカメラだ。
「こ、こ、こここ、琴音ちゃんのその格好は……!?」
「ん?……あっ!!」
琴音も今の自分の状態に気付いたようだ。
言い合いに夢中になり、秋の後ろから出てしまったのがいけなかった。
白い無地の生地の半袖。
赤い色した短パン。
それはまさに………。
「体育着キタ―――(゜∀゜)――――!!」
校内中にオメガの雄たけびが響き渡る。
体操着の間違いだろ?
まぁ、意味は同じだからいいか。
琴音も変態の大声に驚き、しばらく硬直してしまった。
その隙に……たとえるならそう、神ような。速度で言えばジェット機をも凌駕するんじゃないかというスピードで、カメラのシャッターを押すオメガ。
最新のデジカメもビックリの連射速度で、琴音のレアな姿が変態のカメラへと収められていく。
ただ一つ、不幸中の幸いだろうか。
琴音の中学がブルマ制じゃなかった事だけが、唯一の救いだろう。
「…………はっ!?」
無防備に撮られ続けた琴音は、やっと正気を取り戻す。
と、同時に。
「……っなにしてんのよ変態!!!」
「ぼ、僕は変態では…グッフガァ!!!」
怒りも動きも、今まで以上のキレっぷりでオメガの顔面をぶん殴った。
ぶん殴られたオメガは、軽く4.5メートルぐらい吹っ飛んで動かなくなる。
―――――……で、そのあとチャイムが鳴り、琴音は中学へ帰り、俺達も授業に戻った。
だが、オメガはカメラを抱きながら、ただひたすらにニヤついていた。廊下でぶっ倒れながら―――
そして余談だが、ユキから貰った弁当の中身は、仲の良い新婚夫婦でも絶対にやらない様な有様になっていたのだった。
さらに余談だが、西郷は結局、俺の出した問題に答えられなかった―――
第三十四話 完
変態大好き!