表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の日常非日常  作者: 本樹にあ
◆日常編◆
41/91

第三十二話~こんな休日も悪くない~

えー、まず。海だ。

学校始まって約5日が経ちました。


『でた。ご都合展開。作者のやる気が感じられないんヨ』


エメリィーヌがなんか言っている。だが知らん。


とにかく、学校での出来事に期待していた皆には悪いが、色々あり過ぎて伝え切れないのだ。

だからお見せできなかった5日間をダイジェストでお送りしよう。


まず火曜日。


周りの俺を見る目が変わった。というか、オメガやらエメリィーヌやらの方に興味をそそられ、俺は眼中にないらしい。

俺のクラスじゃない奴らは、まだ俺を見て怯えるか悪口を言うかのオンパレード。

いつもの光景で地味に安心してしまっている俺っていったい。


そして水曜日。


山下がオメガの元へやってきた。で、住み着いた。違うクラスのくせに。

西郷も豪快に許していた。バカだろ。

でもちゃんと授業になると、山下は自分のクラスへと帰って行った。真面目くんである。そして、俺にはやはり妙に突っかかってくる。

今思えば、最初から山下だけは俺に普通に話しかけて来てくれていた気がする。

やはりいい奴である。


で、木曜日。


男子(おもに山下)と女子の戦争勃発。

理由はオメガの取り合い。場所は俺の席の目の前。時間は授業中以外。

日頃の疲れで熟睡中の俺は、大型の特大巻き込み事故に。

きつーい目覚まし(おもに女子等)が、熟睡中の俺の体を見事に吹っ飛ばしてくれた。やめてくれ。


で、金曜日。


初めて琴音が俺のクラスにやってきた。秋が弁当を忘れたらしい。

『秋は違うクラスだぞ』と教えたら、顔を赤くして逃げてった。瞬間、男子が騒ぎ始める。

日頃女どもに現実を見せ付けられ続け、恋愛ゲームのような彼女の存在を信じられなくなった男どもの中で、クラスを間違えて赤くなりながら走り去っていく琴音に、とても魅力を感じてしまったのだろう。

おい琴音。逃げろ。

もうお前はここにきてはいけない。

日頃の欲求不満がたまった奴らが襲ってくるぞ。

オメガがたくさんいるようなもんだ。

この学校は、変態が多すぎる。と言っても、高校生ともなるとこれが普通なのかもしれない。



そして、すべての日に共通するのが。


まず、里中。

あんなにおれの事を軽蔑(けいべつ)していた里中が、毎日のように話しかけてきたのだ。正直驚くほかない。俺には未知の体験なのだ。

『今時間ある?』と、昼飯の時間に里中に聞かれたのだが、正直その優しい里中が恐ろしかったので時間は無いと言ってしまった。

つーか、本当にその時はエメリィーヌが迷子になって大変だったし。

里中は気にしてなかったっぽいが、周りの男子の鋭い視線を浴びる事となった。


そして、エメリィーヌだ。

当然の如くはしゃぎ回り(授業中は大人しいけど)、学校内で迷子になったり、そこらじゅうから弁当を分けて貰ったりしていた。

もちろん、自分の分は完食済みだ。初日は俺の分まで食われた。


……あとはそーだな。宇宙人だ!超能力だ!と言いふらしているぐらいか。

もちろん、誰一人信じてはいない。まぁ、そりゃそうだろう。さすがの西郷も信じてないからな。


……………それと最後に。 

俺のクラスにユキが侵入してくる。それも毎日だ。

あいつの過激なアプローチは、学校内でも留まることを知らない。

それだけじゃなく、俺の分の弁当まで作って来てやがって。

そのおかげもあり、いつしか俺は、『女たらしの地味不良』と言う謎の名称が校内に知れ渡る事となったのだ。


金持ち不良の次は女たらしかよ。


まぁ、そんなわけで俺は。やっと休日なわけだ。



第三十二話

~こんな休日も悪くない~



九月です。

実際には八月だが、あと二、三日すれば九月になる。

最近は夏の暑さもなかなかに良くなっている、と思う。


でも暑いのには変わりないし、逆に冷え込んできても困る。

まずこたつ。そして暖房。大量に電気代がかかるからな。


最近は、てかエメリィーヌやオメガが来てから、食費は重なる一方。

自分で払うとか言ってたオメガも、よくよく考えれば金なんて持っているはずがないのだ。


しまいには、俺の貯金で下らないアニメグッズとか買い始めやがった始末。

まるで眼鏡をかけただけの貧乏神だ。


そんなわけで俺は、身も心も、おまけに財布の中身もボロボロなわけで。

……なんか変な表現になってしまったので訂正しておくと、財布はボロボロじゃない。スカスカだ。


学校での俺の弁当がかなり貧相になっていたのもそのせい。

エメリィーヌはまだ小さいので、ちゃんとしたものを与えなければならない。

だからエメリィーヌの弁当はとても弁当らしい弁当だ。


次にオメガ。

さすがに、こいつの弁当だって貧相にはできない。

なぜならそれは、オメガが俺の家に居候しているのはタブー。誰にも気づかれてはいけないのだ。


気付かれたりなんかしちゃた日には、もれなく凶暴な女子に家を侵略されてしまう。うん、女子怖い。

なので、俺と似たような感じにはできない。つまり、なかなかにイイ感じの弁当。


で、そんな二人にキチッとしたのを作っているもんだから、材料が持たない。

金曜の俺の弁当なんか、ごま塩のふりかけをまぶしたおにぎり二つのみ。なんだこれ。


里中に心配されてしまった。でも見たのが里中でよかった。


もしほかの奴に見られたりなんかしたら、金持ち貧乏不良とかなんとか言われるに決まっている。

もしかしたら俺、栄養が足りなくてぶっ倒れるんじゃないだろうか。


なので来週からは、とーっても嫌だが、ユキの弁当を分けてもらうしかない。

毎日俺の分を作って来てもらっている訳だし。材料を無駄にしたらあれだしな。


……その日の男達の視線が怖いが、これはしょうがないのだ。

俺自身の生命の危機と言っても過言ではない。

でも、弁当を受け取ったとしても危機になることは間違いないがな。


とにかく、俺には今そんな状況の中、ダラダラと過ごしている訳なのだが。

そんなグダグダな休日の中でも、やはり問いたいことはあるんだよなぁ。


そらもう一発屋芸人の如く、何度も同じネタを見せつけているのは悪いと思う。

俺だってできれば、こんな毎日毎日同じようなことを口にしたくはない。


でもね、時にはそういうことも大事なのだよ。

だから聞き飽きたとは思うが我慢してくれると助かる。じゃあ言うぞ?


「………お前らなんで俺の家にいる」


「カイー!今日は学校行かないんヨかー?」


せっかくの休日をエンジョイしている俺に、エメリィーヌが要らん単語を口にする。


そして華麗に俺の質問はスルーだ。


「エメリィちゃん。学校は週に五回だけだよ?土曜日と日曜日は休み」


「ゆとり教育の何物でもないな」


琴音の的確なる返答。俺の質問にその的確な返答を求めたい。


「えー、ウチつまんなぁ~い」


俺もみんながいるとつまんないよ。だって疲れるもの。


「どうしたエメリィーヌ。海に汚染されでもしたのか?」


秋がなんか変なこと言ってる。

汚染ってなんだよ。何の事だよ。


つーか、俺の質問の返答を求む。


「ユキは海先輩になら汚染されてもいいです!」


おいおい、なんかよく分からんがやめてくれよ。お前はバカか。


そんなバカでも、俺の質問に答えてくれると嬉しい。


「それより山空。昼食の準備はまだかえ?」


居候の分際で何をほざきと思えば。


だが、居候の分際でも返答してくれるととても喜ぶんだよ?


「てか、お前ら帰れよ」


「なんでだ?」


ふざけるなよ秋。ここは俺の家なんだよ。

なんでみんな集合してるんだよ。これから何かイベントでも始まるのかよ。


そう、みんないる。なぜかいる。俺の家にみんないる。


つーかおかしいだろ。休日に俺の家に集合するってさ。


なに?皆俺んちにタイムカプセル的な物でも埋めたの?

それか俺の家は何かの作戦の中心的な、本拠地的なことにでもなってんの?


じゃないと、こんなに集まって来る意味が分からん。


絶対みんな打ち合わせしてるだろ。

朝っぱらから、面白いようになだれ込んできた時は驚いたぞ。


普通呼び鈴ぐらい鳴らすだろ。インターホン鳴らすだろうよ。


ユキに至っては、俺が起きた時すでに、隣に座ってニヤニヤしてたからね?

しかもそれ朝の6時ごろだぜ?怖いよ。


そして、午前8時ごろには、俺がちょっとその場を離れてる間に二人増えてたからね?

なに兄妹そろって堂々と不法侵入してるんだよ。

あまりの堂々っぷりに空き巣もビックリ、警察もニッコリだよ。


「ここはお前らの居場所じゃねぇぞ。ただちに帰れよ」


俺はゆったりとした休日を楽しみに待ってたんだよ。みんなして俺の家に集合しやがって。

しかもなに?遊ぶならまだしも、みんなだらけてるってなに?

だらけに来るなよ。それぞれの我が家でだらけろよ。マジ意味わかんねぇよ。


「海。お前にいい言葉を教えてやるよ」


エメリィーヌとじゃれあいながら、秋がキリッと俺にむきなおって言い放った言葉は……


「お前の家は、俺達の家だ」


「どこのガキ大将の理屈だよ!!しかもなにみんなして頷いてるの!?」


え、俺がおかしいの!?

誰か何とか言ってくれよ!!


「海兄ぃは私達のいいなり……つまり奴隷って事だね」


……琴音だよな?今の琴音の声だよな?


かつてもういっそのこと俺の妹だったら良かったのに……とか俺に思わせてくれた琴音だよな?

あの小柄で可愛かった琴音なんだよな?


あっれー?琴音ってこんなこと言う子だったっけー?おっかしいぞー?


「……海兄ぃ……そんな気持ちわるい事思ってたの……?」


そして俺は死んだ。


……まぁ、そんなわけで、俺には休日は一生来ないみたいだな。諦めよう。

ちなみに、今俺らは恒例のリビングにいます。


「あ、海兄ぃ」


「ん?」


「おなかすいたんだけど」


「……はっはっは」


琴音ももう常識を失ったようだな。うん。


俺がおかしいわけではないよな?

みんながおかしいから、まともである俺がおかしい感じに錯覚してしまうあれだよな?


とにかく、友達だと思ってた人たちは皆、俺にとっての敵でした。


「カイー!そろそろあの時間なんヨ!!」


「うるせぇな。まだまだだろ」


「か、かか、海先輩!!あの時間って何ですか!?エメちゃんに何かしてるんですか!?」


また出たよ。ユキの暴走。

オメガが覚醒ならユキは暴走だよ。


なに考えてんだよコイツ。


「なに想像してるか知らんが、おやつだよ。3時。おやつ。オーケー?」


「なんだ。がっかりです」


なにがだよ。ユキの考えるこたぁわからん。


「ところで気になったんですが……一つ聞いてもよろしいでしょうか?」


「断る」


「あ、ならいいです。……そんな事よりうーみん先輩!ユキに先輩の手料理を!」


「え!?いいの!?おい海と白河!お前らはそれでいいのか!?」


俺とユキの流れるような適当っぷりに、秋のツッコミが入った。


しょうがねぇな。一応聞いておくか。地味に俺も気になるしな。


「ユキ、気になる事って何だよ?」


「あ、いや、別に大したことじゃないんですけど……」


「ならいいや」


「そうですか。……それより先輩!」


「いやいやいやっ!!お前ら何だよ!気になるじゃねぇか!!」


また秋がうるさい。


「分かったよ。……で、ユキなんだ?」


「エメちゃんって、日本の生まれじゃないですよね?おフランスですか?」


…………ん?……あぁ、ユキは知らないのか。エメリィーヌが宇宙人だってこと。


まいったな。どう説明すればいいんだろう。

てかなぜにおフランス。


「ユキ!ウチは宇宙人なんヨ!」


はいきましたー!エメリィーヌの暴露タイムきましたー!

さてさて、ユキの反応は?


「………ユキはそこまでおバカじゃないですよ」


おぉ!さすがに信じなかったぁー!

さすがの変人少女も、ちょっとした常識は持っていたようです!


「いや、白河。本当なんだよ」


秋が言った。


「秋先輩がそこまでおバカな人だとは思いませんでしたです」


そして散った。


しょうがねぇな。この俺様が説明したあげようじゃねぇか。

ユキも俺が言えば信じるに違いない。


いざ、説明開始だ。


「ユキちゃん。全部本当なんだよ。エメリィちゃんは宇宙人なんだよ」


「ほ、本当ですか?」


「うん。ビックリしたよー、突然目の前に降ってくるんだもん!」


「降ってきたんですか!?」


「うん。そりゃもうすごい勢いで」


「へぇ、エメちゃんは宇宙人さんだったんですね」


はっはっは。説明開始する前に終了したわ。


………これぞ俺の力!喋らずとも説明終了だぜ!……はぁ。アホらし。


「そうですか。宇宙人だったんですか……ユキもちょっと変なセンスのお洋服着てるなーと思ってたんです」


ちょっと待て。ユキが勝手に納得しているが、気になることがひとつ。

今日のエメリィーヌは、あの緑色の服じゃない。


俺が選びに選びぬいて買った地球の服を、俺が着せているのだ。


あの緑の格好だと目立つからな。地球の服を俺が買って無理矢理着せてるわけだが。

……変なのかな。


「えっと……そんなに変か?」


俺はちょっとユキに聞いてみた。


もしかしたら俺の聞き間違いかもしれない。

仮にそうじゃなくても、個性が出ていて変な組み合わせだけどオシャレで、新ファッションですね!って意味かも知れない。


俺が選抜した、一番のお気に入りなファッションがバカにされることなんてないはずだ。

あり得ない。

だって俺が組み合わせを考えているのだから。


だが、ユキの言葉は俺にとっては残酷なものだった。


「正直、おかしいです。エメちゃんが着てるから目立ちませんが、他の方がこれを着てるとちょっと引きます。それよりも組み合わせがおかしいです。……あ!エメちゃんごめんなさいです!ユキは失礼なこと言っちゃいましたですよね……!?」


「……う、ウチは大丈夫なんヨが……」


「海が『旅にでます。探さないでください』って紙に書いて家を飛び出していきそうなくらい落ち込んでるぞ」


ははは。そうか。俺はおかしいのか。

人間じゃないんだってさ。てことは妖怪かな?

あーあ。早く人間になりたい。


てかどこがおかしいのかが分からないよ。

夏で暑いから、薄緑色のシャツを着せて、動きやすさ重視のダメージジーンズのどこが悪いんだよ。

見つけるの大変だったんだぞ?子供用のダメージジーンズ。


最高にキマッてると思うんだけどな……ははは。


「あれ?先輩どうしたんですか?おーい。せんぱーい」


ユキが廃人と化した俺に話しかけてくる。


……ふー。よし!ふっ切れた!!

俺も自分のファッションセンスの無さには薄々気づいてたんだ!!


「ユキちゃん。エメリィちゃんの服選んでるの海兄ぃだから」


「え!?あ、そ、……です」


琴音がユキに真実を述べた。

真実を知ったユキは、分かりやすいほどに引いている。


俺ってそんなにひどいのだろうか。

あのユキがあんなに引いている。正直心に来るものがあるよね。


「大丈夫だユキ。俺も自分には驚いている」


いや、改めてみるとマジかっけぇわ。うん。

このファッションセンスに我ながら驚きを隠せねぇよ。

もうこれ将来ファッションデザイナーとかなっちゃったりしてな。


と、現実逃避しかけているのは自分でも分かっている。



「…………でも初めて会った時の緑色の服は斬新でイケてましたですよ!」

ユキの必死のフォロー。

うん。俺、死んだ。


「……白河。あれがエメリィーヌの私服だ」


「え、あ、そ、そうですよね!あんなに可愛らしい服ですもんね!」


……あのエメリィーヌの服より下なのか俺は。

まさかそこまでひどいなんて思わなかった。


ってもういい!この話題終了!!


「でも、海兄ぃってたまにいい感じの時もあるじゃん」


琴音さん。多分それは俺じゃない。


「琴音ちゃん。山空が忙しい時は僕がエメルの服を選んでるんだよ」


「あ、そうなんだ」


もういいよ。

もう俺の負けでいいから。許してください。


「まぁ、まぁ、もう良いじゃねぇか。それよりも、恭平はさっきから何してるんだよ?」


秋が俺の事を気遣って、話題を変更してくれた。

そういう事は早めにやってほしかったぞ。


でもそうだな。オメガ全然しゃべってなかったもんな。


「ああ、ちょっと考え事をしてたもので」


「珍しいな。オメガが考え事なんて」


でも多分どうせつまらないことだろう。


「白河さんは15歳でしょ?」


急にオメガがユキに話しかけた。

女の人に対してだと、妙に紳士的なるのがオメガの特徴だ。


最近気付いたが、15歳以上の奴らにも妙に優しかった。

まぁ、言うときは言うけど。


同じクラスの女子たちや、女の先生などにはちゃんと紳士的に、優等生のようにふるまっている。


琴音の時のオメガしか知らなかった俺は、オメガに気を使う事が出来たのが驚きだった。

『興味がないからといって、傷つけたりするのは間違い。男として恥じるべきことだ。』とか言ってた。

十分琴音を傷つけとるがな。


まぁ、そんなわけで、女性に対しては『さん』をつけるのがオメガだ。

見苦しい点もあるかとは思うが、慣れるしかない。


そんなオメガに急に話しかけられ、あまり面識の無いユキは少し警戒している。


「ユキは15ですけど。今年16になりますです!」


「なるほど。……決めたよ山空!僕は中学生の15歳まで良しとする!!」


どうやら、もうすぐ16歳の奴は愛していいのか分からなかったらしい。

くだらな過ぎて疲れるな。


つーか、お前、ロリコンならロリコンらしく堂々と生きろ。

……いや、まてよ?

オメガは16才だろ?

別に15歳の人が好きでもロリコンではないよな。別に普通だ。


などと考えてしまう俺は末期なのだろうか。


「よよ、良しとするって何ですか!?変態さんです!この人変態ですよ!!ユキは変な人嫌いです!!」


凄い勢いで自分のことを棚に上げた音が聞こえた。


変人がなにをほざいてやがる。


「ユキちゃん!その人変態だから気をつけた方がいいよ!!私みたいな可愛い女の子を捕まえて喜ぶような変態だから!!」


おいおい。まさかこんな身近にうぬぼれ野郎がいたとは。

自分で自分のこと可愛いとか言っちゃってるよ。痛い子だな。でも可愛いので許す。


「おい琴音。兄貴としてお前に一言だけ言っておく」


さすがの秋も気になったのだろう。

そりゃそうだ。自分の妹が勘違い野郎だったんだからな。でも可愛いので許す。


「確かにお前は可愛いが、それを自分で言ってると俺は大変悲しい」


そーだそーだ。そのとーり!


「いやだってしょうがないよ。私ってほら、可愛いから!」


「やばいぞ秋。プチナルシスト発見してしまった」


「それがまさかの妹だぜ?まぁ、俺がカッコよすぎてひがむのは分かるがな」


「このナルシスト兄妹が!!一番のイケメンはこの俺様だ!」


「……みんなはバカなんヨか?」


エメリィーヌが気持ちわるい俺たちに正論なるツッコミを入れた。


ああ。確かに今のはバカっぽかった。それは認めようじゃないか。


「俺、なんか知らんが死にたくなったぞ」


秋も自覚があった。よかったよかった。

でも命は大事にしろよ? な?


「私もちょっと調子に乗りすぎた。可愛いのは私だけじゃないもんね。エメリィちゃんも可愛いもんね」


「俺はお前をそんな妹に育てた覚えはないぞ!!」


「私も海兄ぃに育てられた覚えはないよ」


「琴音っち!さすがにそこまで行くとユキも引きますです!」


「ゆ、ユキちゃんに言われるとなんかヤダな。もうやめる」


琴音は顔を少し赤らめながら、今までの暴言を反省した様だ。良かった。

いつものノリでよかった。琴音の人間性を疑う所だったぜ。でも可愛いから許す。


「でも琴音は可愛いんじゃないんヨか?」


エメリィーヌが言った。


「ほら、他の奴ら『可愛い』って言うのと、自分で『私可愛い!』って言うのじゃえらい違いがあるだろ?」


「うーん。そうなんヨね。でもウチは可愛いんヨ!」


おいエメリィーヌ。よくさっきの話を聞いた直後にボケる勇気がでたな。でも可愛いから以下略。


でも不思議だ。違和感がない。


「普段が変だからか?」


「失礼なんヨね!!」


エメリィーヌがキレたわ。怖い怖い。でも可愛い以下略。


「エメちゃん!ユキはエメちゃん大好きです!小さくてー。可愛くてー。」


そうだな。

小さくてー、可愛くてー、生意気でー、ウザったくてー……あれ、なんか無性に腹が立ってきたぜ。



「とりあえず、白河さんはギリギリアウトで」


オメガがなんか言ってる。お前何様だよ。

失礼通り越して無礼だわ。無礼通り越して最低だわ。


「眼鏡先輩には嫌われても悔しくないです!」


め、眼鏡先輩て。

ニックネーム定着ですね。


「カイー!そろそろなんか食べたいんヨ!」


エメリィーヌが俺の服の裾を引っ張って言って来た。その仕草可愛いな。


いいよなー。こう妹にねだられるのって。もうこの仕草で『買ってー』とかねだられると買いたくなっちゃうもんな……って、ちょ!なに考えてんだよ俺!エメリィーヌはアホ!アホだ!問題はない!よし!


俺はどうやら、無意識のうちにエメリィーヌを妹のように見てしまっているらしい。

大丈夫か俺。このままオメガのようになったりしないよな……?


俺はちらっとオメガを見てみる。


「琴音ちゃん!今日は止まって僕と一緒に」


「寝ないから」


「なら、僕と一緒に」


「公園に行かないから」


「な、なんでわかったの?」


「嫌いだからこそ、その相手のことをよく観察して弱点をつく!!これはゲームの常識だよ?」


「な、なるほど」


…………なんか凄い安心した。オメガのようにはなろうと思ってもそう簡単にはなれそうにないわ。

それに、エメリィーヌに好意を抱いて何が悪いんだ。妹のように思って何が悪いんだ!

それだけ大事に思っているってことなんだよ。うん。


「……なぁ、海。一つ聞いていいか?」


突然、秋が話しかけてきた。

いつも思うんだけど、こいつ影薄いな。


話しかけられるとびっくりするわ。いや、いるってわかってるんだけどな?

なぜか驚いてしまう。謎だ。


「で、聞きたいことって何だよ?」


「お前ってさ。聞かれたらヤバそうな時だけ、たまたま喋っちゃってるのか?それとも、年中そんなこと考えてるから、いつもやばい事を口にしてるのか?」


なんか言っている意味が分からない。コイツ何が言いたいんだよ?


「どういう意味だ?」


「お前さっきから喋ってるぞ?エメリィーヌが好きでなにが悪い!とか。」


「マジかよっ!?」


何だと。

てか、『エメリィーヌが好きで何が悪い!』とは考えてねぇよ。


でも秋が聞きたいことが分かった。


なんでいつも聞かれたら誤解されるような時だけ口に出してるんだよ俺!!

何度も言うけど、プライバシーのかけらもねぇじゃん!!


とと、とりあえず誤解を解かねば。


「秋!けしていつも考えてるわけじゃなく、その時だけたまたま喋っちゃってるんだよ!!オメガとは違う!俺は絶対に違うぞ!!」


「わかってるよ。そんなに必死ならなくても分かってる。お前が妹に憧れてるのは分かってる」


「分かってねぇぇ!!!」


絶対分かってねぇよ!! その憐れむかのような眼差しで(ささや)かれても全然説得力ねぇよ!!

そりゃ、いつも遊べる妹がいたら良いなとは思うけども!!


あ、ちなみに、弟はめんどくさそうだからパス。

俺はこう見えてもインドア派だからな。遊ぶなら家派だ。


弟とかあれじゃん?キャッチボールとか付き合わされそうじゃん?


でもその点、妹なら買い物行ったり、おままごとみたいなことしたりしてるだけで、微笑ましい光景が目に浮かぶようだ。はっはっは!


「海兄ぃ。そんな素直な妹はこの世にいないよ」


………………俺の妄想が壊された。

ふざけんなよ琴音。男ってのはな、幻想にこそ憧れる生き物なんだよ。

お前はイマジンブレイカー(幻想殺し)でも持ってんのか。その幻想をなんたらかんたらってか。


けどそうだよな。妹なんて、可愛いのは小さい頃だけだ。

大きくなればなにかと口うるさそうだなー。

ウゼェとか死ねとか、人の傷つく言葉を平気で言ってきそうだな。


いやでも、琴音のように兄思いの妹かもしれない。そんな妹なら良いな。


「海。お前は一番してはならない思い違いをしている。琴音はそんな痛たたたたた!!!!?」


秋が見事に関節技の餌食になっている。


ちょ、最近琴音、本性表し始めてないか?

前はもっと優しかったのに。成長と共に怖くなっていく。でも以下略。


「ユキはうーみん先輩の妹になりたいです!」


「全力でお断りさせていただきます!」


ユキが妹だと!?想像するだけでもおそろしい。

絶対、朝、昼、晩と『あーん』とかこっ恥ずかしいことをさせられるに決まって……って、まるで俺が変態みたいじゃないか!!変な妄想させるな!


俺は変わったんだ。中学を境に変な考えは改めたんだ!!


昔は下級生の子が可愛すぎてしょうがなかったもんな。

みんな俺のこと慕ってくれてたしな。


多分その頃かもしれない。妹が欲しいと思ったのは。


あと、友達のお姉ちゃんが優しくしてくれたっけなぁ。

こんなお姉ちゃんがいたら良いなと思ったもんだ。


うん。懐かしい。


「なに一人で変なこと考えてんのよ」


「あれ?もしかして喋ってた?」


「うん。ばっちり」


なんで喋っちゃうんだ俺は。

だけどそういえば、漫画とか読んでても口に出しちゃう時があったな。

一人で漫画朗読してるんだもんな。完全に痛いやつじゃん。


「あ、そうだ山空。新作の道具を開発したんだが、実験台になってくれない?」


「やだよ」


唐突に何を言い出すんだコイツは。

実験台とかふざけんな。俺は博士の助手じゃないんだぞ。


「カイー!おなかすいたんヨー!」


あ、忘れてた。


「おお、悪かったな。すぐ作るから待ってろよ」


「やっとなんヨか……」


俺はエメリィーヌに頼まれたので、昼食を作るために立ち上がる。

……みんなの分も作らないわけいかないよな。


昨日買い物に行ったから材料は足りるが、一人でこの人数分はキツイな。


……琴音に手伝ってもらおう。ユキはダメだ。危なっかしくてみてられない。

そのようなことを、立ち上がるまでの間に頭の中で考えた。約2秒だ。


「琴音。悪いんだが昼作るの手伝ってくれないか?この人数だとさすがにきついし」


「ん?あ、じゃあ私たち帰るよ。さすがにそこまでしてもらっちゃ悪いから」


「いや、いいよ今さら。それに、みんなで食べた方がいいだろ?」


「……海兄ぃが良いならいいや。じゃあ手伝うよ」


そういって、琴音も立ちあがる。


「ユキも手伝いましょうか!?」


やはり、ユキも手伝うといってきた。

言うと思ったんだよなぁ。


つーかコイツ料理できるのかよ。している姿が想像できねぇよ。

包丁とか振り回して『うーみん先輩……♪』とか恐ろしい顔で言ってる姿しか想像できねぇよ。


「ゆ、ユキだって料理ぐらいできますですよ!料理は女の子のたしなみなんです!」


……俺は今度は喋ってない。気をつけてたから分かる。

やっぱり表情にも出やすいのかな。

もう黙っててもそうでなくても、全部筒抜けじゃねぇか。


「海、手伝わせてやれよ。俺腹減ってるんだよ」


何とも自分勝手な理由で、秋がえらそうに命令してきやがった。


なんだよ。お前マイペースすぎるだろ。


「……しょうがねぇな。じゃあ手伝ってくれよ」


「『ユキ!お前の手料理が食べたいんだ』って言ってくださいです!」


「ユキ、お前調子に乗ってるとぶっ飛ばすぞ」


「じ、冗談ですよ。半分」


「半分かよ。半分本気じゃねぇかよ」


「当たり前です!ユキは先輩にぞっこんラブなんですから!」


「表現古いな」


ぞっこんラブって今どきつかわねぇぞ。


「海兄ぃ、エプロンある?あれないと落ち着かなくてさー」


「ああ。台所の二番目の引き出しに大量にある」


「なぜに大量に?」


「なんとなくだ」


そんな事を話しながら、台所へと向かった。





~それから10分後~


チャーハンの完成!


「やっと来たんヨー!おなか減り過ぎてテレビがスフィンクスになるかと思ったんヨー!!」


なんでやねん。


「エメリィーヌ、お前こぼすなよ?」


「大丈夫なんヨ!いただきますなんヨ!!」


エメリィーヌが一人でフライングして食べ始める。いつものことだ。


俺と琴音、ユキもあいてる所に座り、エメリィーヌに続けて食べ始める。


「ふふふ、とうとう琴音ちゃんの手料理が食べられるのか!!いったいどんな味がするんだろうか」


オメガがニヤけながらチャーハンを目視している。

いつも以上にキモいな。


「醤油ベースのシンプルな味わいだよ」


琴音はもう慣れた感じで受け流す。

最初のころに比べると凄まじい成長だな。


「つーかさ。秋なにやってんの?」


チャーハンに手をつけず、なんかピコピコやっている秋に俺は聞いた。


「え?あ、いや、クラスの奴らからいたずらメールが届いてさ。確認してたんだ」


「いたずらメール?どんなのだよ?」


「いや、『田中へ、不幸のメールです。今から三十分以内に、五人に回して下さい』って来てた。だから削除したわ」


不幸のメールて、そんな事やる奴いたんだな。


「削除して平気なんヨか?」


「平気だよ。俺田中じゃないから。つーか誰だよ田中って。送信ミスするなよまったく。」


秋がメールに悪態をついている。

おいちょっと待てよ。それって送信ミスじゃなくね?


単純にお前の名前間違えただけだろ。どんだけ印象に残らねーんだよお前。


そんな事思っても、俺は秋には言わないのだ。俺って友達思いだな。



―――そんな事をしながら、それなりに楽しい休日を過ごせたわけだ。


と言っても結構疲れた。休日は明日がラスト、ゆっくり休もう。


俺はそう心に決め、チャーハンを食べ続けるのだった。





第三十二話 完


文字数の都合で、途中ちょっとカットしました。

次の番外編で、カットの部分をお見せしたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ