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俺の日常非日常  作者: 本樹にあ
◆日常編◆
40/91

第三十一話~本日の成果はこんな感じ~

前回(第三十話)の終わりから約二時間が経過した。


ユキはあの後、怒って帰ってしまい、変態(オメガ)は材料収集らしきもので、明日の朝までお出かけ中だ。これは嬉しい。


なので現在、俺宅にいる奴といえば、まず当然俺と竹田兄妹、そしてエメリィーヌだ。


現在午後三時ちょっと。夕飯の支度まではまだ時間がある故、後二時間は自由時間だ。


とりあえず現在の状況を説明すると、秋はエメリィーヌと遊んでいて、琴音はなんか携帯をいじっている。


で、俺はのんびりとTV観賞。

といってもこの時間だとあまり面白いのがやっていないため、料理番組『オリムシェフの家庭の宝石箱!』の観賞中なのだよ。



第三十一話

~本日の成果はこんな感じ~



料理番組で有名な、オリムシェフ(国籍.インド(男性)が、隣にいるゲストの幕野内(まくのうち)さん(女性)に丁寧に話しかけている。


ちなみに、このオリムシェフは、料理の腕の他に、とあることでも有名なのだが……

まぁ、これはおいおい分かることだろう。


どうやら、今週は鶏の唐揚げのようだ。


『今日はおトゥがる(お手軽)に、トゥリの唐揚げをトゥくりメェトゥ。メェず一般のトゥリメェメェ肉、そしトゥ油。トゥメェゴトゥカトゥ栗粉。トゥリのから揚げには欠かせない材料トゥティをご用意しメェしょう』


でた!!インド人ゆえの独特のイントネーションでた!!しょっぱなから出た!!


そう、このオリムシェフ。通称オリム.トレバーさんは、日本語のた行とま行だけうまく発音が出来ていないのだ。

これがキャラ作りによるものなのか、オリムシェフの本気なのかは分からんが、なに言ってるか分からん事だけは確かだ。


なので、ちゃんと字幕が出る。外国の映画のように、画面右端に字幕が出ているのだ。


もう料理番組やめちまえと思うかもしれないが、視聴者にはそのオリムさんのキャラ受けがよく、絶大な人気を誇るため、バラエティーにも数多く出演している。


なに言っているのか分からないのにも拘らず出演オファーが殺到するという、ある意味最強な人物。それがオリムシェフの実態だ。


そんなオリムシェフが、独特のイントネーションで材料の説明をしている。


つーかどこがお手軽だよ。用意が大変じゃねぇか。

スタッフさんに用意してもらってるお前らとはわけが違うんだぞ。


俺たち一般家庭は手間も金も体力も時間もかかるんだ。

皆がみんなお前らと同じだと思うなよ。恥を知れオリム。


『まず、トゥリメェメェ肉をひトゥくティドゥいの大きさにカットゥしましティ…』


もはや放送事故だ。


まず、鶏もも肉を一口大の大きさにカットしまして…


とりあえず訳すとこうなる。

隣で幕野内さんが半苦笑いだ。もうお前ら帰れ。


俺のそんな気持ちも知らずに、次々と進められていく料理番組。


『ころメェがよく肉に絡んディきティら、油へゆっくりトゥ入れトェ行きメェす。』


いつでも絶好調なオリムの口調。夢に出てきそうで困る。


『10秒から20秒ほドゥ。衣がかトゥメェっトゥら、すぐにトゥリ肉を油から、いちドゥトゥりデェしメェす』


もうワタシ意味分かんなくなりそうデース!

オリムシェフがなに言ってるかは、ご想像にお任せします。説明するのも嫌だ。


『え?そんな早くでいいんですか?』


幕野内さんがわざとらしく驚いている。これも仕事の内なのだろう。


『そうなんデス、ここがポイントゥ!』


『はい、でました!オリムシェフのここがポイント!』


『最初にすぐに外にドゥす理由ドゥすが……』


あー!もうだめだ!!メンドイ!!


つまりちゃちゃっと説明すると、


冷たい生の鶏肉を入れると、油の温度が一気に下がってしまい、そのままの低温の状態であげ続けると、おいしいエキスが逃げてしまう。

だから肉をザルかなんかに移し替えといて、その間に油の温度を180度ぐらいに戻しておく。

ついでに、油の温度を調整している間に、余熱で肉がギュッと引き締まり、よりジューシーになるらしい。


これは初耳だ。勉強になるな。


でも、いい情報を得る為に、日本語のちゃんとした発音が奪われそうで怖い。

唐揚げのジューシーさに絶対に釣り合わない代償を支払いそうだ。


「あ、私が作る時のやりかたと同じだ。」


「あ、コトゥネ」


ってうわぁぁぁl!!!!無意識に使っちまった!!!コトゥネって誰だよ!!!


くそぉ!!トゥが憎い。肉だけに。


オリムはシェフなんかじゃない。病原菌だ。言葉の病原菌。ウイルス。


オリムウイルスだ。じゃなかったら盗賊だ。オリムシーフ。シェフだけに。


「いや、意味分からないから。」


どうやら俺はまた喋っていたようだ。

琴音に呆れ顔で指摘された。こりゃトゥライ。…あ。


「トゥライって……てか、コトゥネって。海兄ぃはもう浸食されてるね。オリム病だね」


「まじか!?俺はメェうメェトゥにはメェドゥれないのか!?」


ってうぜぇ!!これうぜぇ!!誰か助けて!!なにこの病気!!


やばいよ~。オリムが襲ってくるよ~。ヘラヘラしながら体内を侵食していくよ~。


「もう時間が解決するしかないね。まだ脳内まで浸食されてなくてよかったじゃん」


「の、脳内が侵食されるトゥドゥうなるんデェよ……?」


「死ぬ」


えぇ!?死ぬの!?言葉がめちゃくちゃになったうえに死ぬの!?


それじゃ遺言すら言えない。せめて何か、紙に書いておかねば!!!


俺はその辺のメモ用紙に手を伸ばし、床に転がっていた鉛筆で遺言を書き始めた。


『拝啓、俺の知り合い達へ。もしかしたら俺は、近々オリム病でくたばるかもしれません。そのトゥキは……』ってえぇぇ!?


どうすんの!?字にまで症状が現れ始めちゃったよ!?これやばくねー!?


「あちゃー。字にまで現れちゃったねぇ。これは約80%浸食されてるね。オリムに。」


マジか。もう80%か。やばいなこれ。オリムなんか死刑になって公開処刑されてしまえ。


「オリムシェフに死刑宣告が下されそうだ。逃げろオリムシェフ。冤罪にされかねんぞ」


今までの会話を聞いていた秋が裏切った。オリムの肩を持ち出し始めやがった。


やはりそうだと思っていた。こいつはオリムと繋がってるんじゃないかと思っていたんだ。お前も死刑、いや、無期懲役だ。


「なんでだよ。つーかオリムと繋がってねーよ。俺の交友関係凄すぎだろ。」


「オリムとツナ買ってるんヨか??」


「ツナ買ってねーよ!! なにオリムシェフと仲良く買い物行ってんだよ俺は!!!だから俺の交友関係をなめてんじゃねーぞ!?」


秋とエメリィーヌがなんか言ってる。まぁ良しとしよう。


それよりどうする!オリム病が!! ……と、俺が思った時だったのは言うまでもない。


「いやお前意味分からねぇから」


秋がうるさい。


とりあえず、俺が思った時。『チャリロ~ン♪』と、何かの着信音が聞こえる。いや、受信音か。


俺の携帯ではない。俺の携帯の受信音は、『メールだわっしょい!!!』と、明らかにマッチョな奴らの熱き魂の叫び的なものが流れるのだ。

この前、オメガとエメリィーヌにイタズラされた。でも地味に気に入ったのでそのままだ。


で、話を戻すと俺の携帯ではないという事だ。つまりは秋か琴音。


いや、秋だな。こいつさりげなくオリムと連絡を取っていたに違いないのだ。

という事はワクチンが貰える筈。オリム病ワクチン。これはチャンスだ。俺が死ぬる前にワクチンをなんとか……


「あ、私の携帯だ」


琴音だった。


なんだよ琴音。お前ふざけるなよ。もうキレた。

メールの内容教えろ。すべて教えろ。教えなきゃ現行犯で通報してやる。


「何の現行犯なのよ……。えーとしかもあれじゃん。ふ、ふ、ふらい、えー。ふらいんぐ……もうなんでもない」


おい琴音さん。プライバシーの侵害とでも言いたかったのか?


『ふらいんぐ』って言ったよなさっき。何の事やねん。

プライバシーの侵害だ。覚えとけ。


と思っても、俺は口には出さない。だってオリムが侵食しているからだ。喋るの怖い。

でもあいにく俺の考えは表情で読み取れるらしいからな。無駄にいいのか悪いのか。人生よく分からねぇもんだな。


「琴音。お前もしかしてプライバシーの侵害だって言いたかったのか?」


秋が言った。


「そ、そうそれそれ。その……プライング侵害じゃん」


なんだよそのネットのウイルスみたいな名前。


琴音が普段、どんだけ英語には興味ないかが伺えるな。

てかもう英語嫌いの域超えてるだろ。もうひとつの単語だぞ。言葉だ。


大丈夫か琴音は。メチャクチャ心配だ。

てか最近の中学生とかって、よく会話とかに英語とか混ぜるじゃん?


『今日超ハッピーなことがあってさー。珍しいバード見つけて、ダッシュして追いかけたらゼニをトレジャーした』みたいな?


「おいおい。どこのカレールー大柴さんだよ」


しるか。誰だよカレールー大柴って。カレーなのか? カレーのルーなのかそいつは。


いまどき幼稚園でも流行らねぇぞ。


「メール誰からなんヨか?」


そこでエメリィーヌ登場。いや、もう登場してたけど。


「え? あー、クラスの男子。てかカズッちゃんだよ」


へぇー。最近のガキどもは中学生で携帯持ってんのか。ませてやがるな。


琴音はしょうがないだろうけどな。兄貴が方向音痴なんだから。


連絡とれないのは困ると思って携帯を持たせたと聞く。だから琴音は理解できたが……

普通携帯は高校からだろ。違うのか?俺は色々あって中2から持ってたけど。


そう、色々あったんだよ。色々な。でも語らない。教えてあーげない。


そんなことより、クラスの男子からかー。

いいな。リア充だな。リア充の意味よく理解してないけどリア充だな。


「リア充ってのは、リアル世界。つまり現実の暮らしが充実していることだな」


げ、秋に教えてもらっちまった。なんかムカつく。


つーか今思ったけどさ。秋も含めてだが琴音。お前らエスパーかよ。俺の考え読みすぎだろ。


「うん。分かりやすいから。……いや、心と心が通じ合っている証拠だよ!」


「かっこいいな。うん。でもよくありがちだよな。その手のあれ。……って俺普通に喋れてる!!オリム病完治!!」


やったぜ!!

やっぱりあれか。テレビの電源を元からひっこ抜いたのが効いたのか。

それとも、オリムシェフの出てる番組を録画したビデオをすべて粉砕したおかげなのか。

とにかくよかった!


「今どきビデオか。このデジタル放送の時代にビデオなのか?DVDやブルーレイのこの時代にか?」


「へっ。うるせー!録画出来れば何でもいいんだよ!!だいたい、そんなに違いは無いんだからな!!」


ディスクタイプだと、裏面に傷が付いたら即終了だが、ビデオは違うんだ。丈夫なんだよ。


「いや、でも海兄ぃ、ディスクの方が綺麗に録画できるじゃん。ビデオよりははるかに」


え?そうなの?初耳や。


「そ、そんな機能いらねぇんだよ!!オリムシェフの顔面をいくら綺麗に見ようが、元の顔が画素数荒いから意味がねぇんだ!!」


「酷い言われようだな、オリムシェフ。てか、お前思いっきりオリムのファンだろ」


「ファンじゃねーよ!オリムの作る料理に惚れたんだ!!あんな白骨死体のような奴のファンなわけあるか!!」


「いや、意味分からねーよ」


「オリムは白骨死体~♪」


「おいそこの緑!!歌うな!!」


「ウチは緑じゃないんヨ。エメラルドグリーンなんヨ!!!」


「知るか!大差ないわボケ!!」


「おい海。ツッコミというものはだな、相手を傷つけないように、優しくかつ的確に……なんでやねんっ!!と」


秋が得意げに話している。


「うるさい。相手を(いたわれ)れだと!?労るのはお年寄りだけで十分なんだよ!!」


「海兄ぃ。もはやいい人じゃん」


「オリムは白骨死体~♪」


「だからだまれ緑色野郎!!!!」


「だからウチは、エメラルドグリーンといってるんヨが! だから名前がエメリィーヌだって、母上が言っていたような気がするんヨ」


へぇー。そりゃ初耳だな。てか母上って、お前どこぞの貴族だよ。いや、貴族はお母様か。


「そう呼べばなんか気分がよくなってお菓子くれるんヨ」


「おい。ダメダメだなその母さん。なんというか、お前の母親らしい」


「そうなんヨねー」


「じゃあさエメリィーヌ。お前普通だったらなんて呼んでたんだ?」


秋が問う。


「普通にママとか。パパとかじゃないんヨかね? 今はなんか変な感じするんヨが……昔はそう呼んでたんヨ」


「へぇー」


やっぱりその年齢だとそう呼ぶよな。女の子だし。

てか微妙に可愛かったな。初めてエメリィーヌが子供っぽく見えた。

普段妙にしっかりしてやがるから。


「おいエメリィーヌ。ちょっといいか?」


「ん?カイ。どうしたんヨか?」


「俺のこと、お兄ちゃんって呼んでみてくれない?」


「「え゛っ!?」」


エメリィーヌと秋が同時に驚く。いや、かなり引いている。


いや俺だって分かってるけど。オメガ並みに変態だという事は分かってるけどもね。

だってあろだろ。こういうこと。呼ばれてみたいだろ。

俺には妹みたいなのいなかったしさぁ。エメリィーヌだって絶対可愛いと思うんだよね。正直。

普段生意気だから気にしてなかったけど、コイツメチャクチャ美少女なんだからさ。

だったら男として一度は呼ばれてみたいだろ。


「ってなわけでヨロシク」


「『ヨロシク。』じゃないんヨ!!」


「…………そういうことか」


と、秋が呟く。


「あ?なんだよ」


「恭平が言ってたろ。山空は昔とは違うとかなんとか」


げっ!!やめろ!!それは俺が隠したい衝撃の事実ぶっちぎりでナンバー1の!!


「海お前、昔は恭平と意気投合でもしてたんじゃないのか……?」


ノォォォォゥ!!!!


「うるさい!!だまれ!俺の過去には触れるな!!!トップシークレットなんだ!!!それが原因で小学校時代皆に変態と罵られた俺の過去を解剖するんじゃない!!」


「なるほど。お前は恭平に近い部類だったのか」


「海兄ぃをちょっと軽蔑(けいべつ)するなぁ」


やってしまった!!!自ら暴露する事になろうとはぁぁぁ!!!これは鬱になりそう。


「き、聞いてんじゃねぇ!!つーかいいんだよ!もうあの頃とは違うんだ!!俺は生まれ変わったんだよ。中学を境にな!!……あとこれだけ。これだけは信じてくれ」


「なんだよ」


「俺はオメガほどではなかった。写真だって撮ったりしないし、アニメだってそんなに見ないし!!いや、見るけどさ。オメガほどじゃない。ただ妹や姉。弟や兄に憧れてただけなんだよ。その話題でオメガと盛り上がっててさ。で、その、避けられ始めたんだよ……」


心が。心が痛いよ母さん。


「なるほどね。俺はないなそういうのは。昔は妹なんか邪魔だとか思ってたけどさ。今はそうでもないしな。それなりに仲もいいし」


確かに、お前らほど仲のいい兄妹はいないだろうな。


「私は今でも時々兄を交換したいと思う時がある」


「うそだろ!?」


「まぁ、お兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんだったらーとか。弟や妹だったら可愛いのになーとかね。多分いないものへの憧れだろうね。もし今いるのがお姉ちゃんだったら、お兄ちゃんの方がいいなーとか思うと思う」


なるほどな。やっぱりそーゆーもんなんだな。


琴音、お前は天才だよ。

そうだよ、俺も琴音の言うとおりだったんだよ。

持ってないものへの憧れ。うん。そうだな。うん。俺の趣味が特殊だったわけではない。


「で、話は戻るけどさ。エメリィーヌ、お前お兄ちゃんって呼んでくれよ」


「まだ諦めてなかったんヨか!?」


「当たり前だ。こうなったらもう隠さねぇ。一度でいいからお兄ちゃんと呼ばれてみたいだろ!男なら!!」


「俺は思わん」


「お前は琴音という妹がいるからだろ。お前だって、弟に『おい兄ちゃん!野球やろうぜ!!』とか言われたいだろ」


「それは確かに、あるな。うん」


「だろ?そういうもんだ。てことでエメリィーヌ。いっちょよろしく頼む」


俺はエメリィーヌに真剣に言った。

心なしか、エメリィーヌは赤くなっている。


「は、恥ずかしいんヨ。照れくさくて言えないんヨ」


照れくさい? エメリィーヌにそんな感情があったとは知らなかった。

いつもはおてんば娘のくせに。

正直オメガがいなくてよかったな。今のエメリィーヌ見たら抱きつかれてそのまま拉致られる可能性が高い。

コイツこういうときは普通に可愛いのにな。なぜいつもはあんなムカつく奴になってるんだろう。

人間の感性は不思議だ。


「じゃあエメリィちゃん、私のことお姉ちゃんって言ってみてよ」


「急になんだお前。図々しいなお前」


琴音め。さんざん人の事を怪しい奴を見るような目で見てたくせに。


「いや、だって私も海兄ぃの話聞いてたら、呼んでもらいたくなったんだもの。しょうがないじゃん」


「し、しょうがなくないんヨ!!ウチは無関係なんヨ!!」


「何だよ琴音。この優秀な兄貴、秋様がついてるじゃねぇか!」


「なにが秋様よ。秋兄ぃはご愁傷様が似合ってるよ」


お、上手いな琴音。気に入ったぞ。


「バカヤロウ!!!本気で心にグサッと来たぞ!!!」


「ほらエメリィちゃん!ほらほら!」


「こ、コトネが危険な人物に……」


「ほらエメリィーヌ観念しろ!ほら、お兄ちゃんと言いなさい」


ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべて、エメリィーヌに接近する俺と琴音。


エメリィーヌは顔を赤らめながら、秋に張り付いている。


正直、この時の俺達はどうかしていたのかもしれないが、そんな事知るか。


「キョ、キョウヘイの方がまだマシなんヨ!!」


おいおい。そこまでひどくはないだろ。


「おい海。やめてやれよ。可哀そうだろ」


「そうなんヨ!コトネも気持ちわるいんヨ!」


「そんなこと言わないでよエメリィちゃん。ちょっとだけだよ。一回でいいから」


グヘヘッ、と、不気味にニヤケながらエメリィーヌに迫る琴音。

その姿は変態オヤジの何物でもなかった。


「もう面倒だから、言ってやれよエメリィーヌ」


「し、シュウがそういうなら仕方がないんヨね……」


エメリィーヌはとうとう観念したようだった。

てかなんで秋の言う事は聞くんだ。


「じゃあ、よろしく頼む!俺から!」


「そ、そのかわり一度だけなんヨからね!!」


「わかったわかった。早くしてくれ」


「それじゃあ、か、カイ、か……」


エメリィーヌはモジモジしながら…………早く言えよ。


「もうじれったいな!! 言うなら言う! 言わないなら言わせる! どっちかはっきりしろ!!」


「う、うるさいんヨッ!! ウチはその……慣れてないんヨから仕方ないんヨッ!!」


「つーか、どっちみち言わされるんだな」


ずっと俯いたまま、顔を真っ赤にしているエメリィーヌ。

正直、可愛いというより面白い。


「ほら、言えよ」


「海お兄ちゃん!」


「秋が言うなよ。気色悪い」


「うるせーな。俺もかなりの勇気を使い果たしたぞ」


なら言ってんじゃねぇよ。くだらない所で勇気を使うな。

俺はエメリィーヌに言ってもらいたいんだ。これは変態ではない。兄妹がいないものに取って、当然の思考だ。


「じゃあ、言うんヨからね。なんか疲れてきたんヨし……」


「ああ。ズバッと言ってくれ」


「それじゃ言うんヨ……か、か、か、カイ…おに……いちゃん……!!」


「ダメだ。やり直し」


「はぁ!? ウチは頑張ったんヨ!!」


なんでと言われてもな。聞き取れなかった。

てか『はぁ!?』って言ったぞコイツ。


「もういいんヨ!……カイお兄ちゃん!!」


「うおっ!いきなり言うなよ。聞いてなかったわ!!」


「ふざけるなんヨッ!!」


いきなり予告なしに言うお前が悪い。

全然頭に入ってこなかったわ。


「はぁ……なんでこんな事に……」


「早く言え。言えば楽になるぞ?」


「自分勝手すぎるんヨ……」


エメリィ-ヌはその場で俯いてしまう。

そんなに嫌なのか?


そう思っていると、エメリィーヌは突如顔をあげて言った。


「コトネお姉ちゃん」


「はうあっ!?」


不意打ちでエメリィーヌに言われた琴音は、変な声を上げながら倒れた。

これが言葉の破壊力という奴か。やばいな。


「か、海兄ぃ……なんかダメ。これはダメだ。可愛すぎてダメだ……」


琴音が倒れながら言った。


なんか凄い威力だったようだな。琴音をあそこまで悶絶させるとは。

…………恐ろしい。


「なぁ、エメリィーヌ。俺が悪かった。もうやめようこれ。多分俺じゃ死ぬ。」


琴音でさえ倒れる威力。俺だと多分宇宙の彼方まで飛んで行ってしまうはずだ。

俺は宇宙に島流しにあってまでして、聞きたくはない。ここがオメガと俺の違う所だ。男は諦めが肝心。


「もう。なんなんヨか。せっかくカイお兄ちゃんって言おうと思ってたんヨにー!」


「ぐほあっ!」


エメリィーヌの不意打ち。

だ……ダメだ。琴音の言ってる意味が理解できた。これはダメだ。

でもよかった。不意打ち故あまり頭に入ってこなくてよかった。


「海、琴音。お前らアホだろ。バカやってないでそろそろ起きろよ」


「たかがお兄ちゃんで大げさすぎなんヨ……」


唯一お兄ちゃん耐性のある秋だけが、無傷。あいつ凄いな。

免疫がない俺と琴音は、もう一発KOだ。これが妹萌えという……やばい。思考がオメガ化してきた。


オメガ病だ。誰かワクチンを投与してくれ。


「何でもかんでも病気にすんな」


秋がまともなこと言ってるが、今の俺は届かない。


まさかこんな身近に琴音をも超える存在がいたとは。

琴音がキレたらエメリィーヌに救援を求めよう。うん。




――――――――――てな訳で本日の成果。


オリム病とオメガ病の効果。


唐揚げの程よい作り方。


エメリィーヌの破壊力&強力な助っ人。


そして、琴音のメールの受信音だった。



余談だが、琴音のメールの相手は琴音と隣の席の子で、幼稚園から一緒だったらしい。


名前は小野(おの) 和也(かずや)。カズっちゃん。カッちゃん。カズ。など、さまざまな名称で呼ばれているらしい。

琴音は時と場合により呼び方が変わるが、秋はカズと呼んでいるとか。


よく遊びに来ることがあるらしく、いわゆる琴音の幼馴染的な存在。


そのことを今初めて知った俺は、若干竹田兄妹のあいだに壁を感じるほかなかった。


まぁ、琴音の友達の事はよく知らなかったからしょうがないけど。


……琴音にそんな親友がいたなんて知らんかったな。

会ったことないし、琴音ってあまり自分のこと話しないからな。


「ちなみに、そのカズっちゃんは私と同じ年だからね」


と、琴音。

だろうな。だって同じクラスなんだから。


とにかく長くなってしまったが、そん感じらしいよ。


なので、本日の成果に小野 和也も追加しておこう。


俺はそのカズと呼ばれる少年に、いつか会ってみたいと静かに思うのだった。


ちなみに、肝心のメールの内容を聞き出すため詰め寄ったところ、ボッコボコにされた事は言うまでもない。



第三十一話 完


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