第三話~今世紀最大の災難~
はい、第三話です!
~お知らせ~
(この第三話は、第四十三話を書き終えた頃の俺(作者)が改めて書き直したものです。ご了承ください)
夏。
このジリジリと暑く、アスファルトさえも鉄板の如き温度と化すこの季節。
こんな季節の中、俺こと山空 海は、自宅のリビングに置いてある真っ黒いソファに腰をおろしていた。
優雅にイギリス製で100年物の赤ワイン≪エスポワール≫をすすり、小音量で鳴り響くクラシック聞きながら、俺はある人物を待つ。
……あ、いや、ごめん。俺はまだ未成年だからな。赤ワインではなくグレープサイダーだ。
そして鳴り響いているのはクラシックではなくお気に入りのアニソンである。訂正します。
だが気分はそのような優雅な気分なわけで。
ただあのグレープサイダーも、この雰囲気の前では赤ワインと化し。
アニソンだって、クラシックと化するこの空間。
そのような空間に俺は、かれこれ20分間、暇なのでただ座っている。
いや、正確には、ある人物を待っている。
それは誰か。
……まぁ、勿体ぶってても別にいい事なんて無いし、勿体ぶるほどの奴でもないので率直に言おう。
親友の竹田 秋である。
実はあまりにも暇なので、先ほど『俺の家にこい』と連絡しておいたのだ。
てな訳で、今日俺は、親友と遊んだりする。
第三話
~今世紀最大の災難~
ピーンポーン
と、軽快に家の中に鳴り響くチャイム音。
俺はゆっくりとソファから立ち上がり、リビングの壁に一つだけポツンと設置されている玄関前モニターを確認する。
はっはっは、説明しよう! 玄関前のインターホンの所に内蔵されているカメラに映った映像をこのモニターに映し出し誰が来たのか分かるだけでなく、声も受信。
玄関の扉を開けるまで誰が来たのか分からずドキドキしてしまう小心者には大変嬉しい秘密道具なのだっ!! ベベンッ!!!
……なに言ってんだ俺。
暇すぎて狂いに狂いまくった自分のテンションにやや呆れつつ、先ほど説明したモニターを確認。
するとそこには、刃物を持った怪しい人物が……!! 当然いる訳もなく。
だがしかし、来客した人物の立ち位置が悪いらしく、モニターには肩らしきモノしか見えない。
だがまぁ、十中八九親友だろう。
玄関前には『セールスお断り!!』の張り紙(手書き&イラスト付き)も貼ってあるし、俺には秋以外の友達もいないし。
お隣さんが引っ越してきたわけでもなければ、借金取りに襲われるようなこともない。
両親だって今は海外で仕事中だし、祖父母だとしたってモニターに映る肩を見る限り身長的に違う。
つまり、この時間に訪問してくる輩がいるとすればそれすなわち……親友の秋以外にいないのである。
……ふふふ。とうとう来たな。
俺はお前が来るのを24分18秒前から待っていた。
ふっふっふ……ふふふふふ…………。
モニターの前でひたすら怪しい笑みを浮かべてほくそ笑む俺。
そう、俺は今、モーレツにいたずら心が湧き出ているのだ!!
そして俺はなにを思ったのか、テーブルの上においてあった、なんか超リアルな緑色した気持ち悪いモンスターのマスクをかぶった。
そうなのだ、これで姿を現して超怖がりな秋を驚かせようという魂胆なのだ。あ、秋はただのお化け屋敷でも腰を抜かすほどのビビリくんなのである。
ただ、これを被るとなんかゴム臭いし、視界を良くするための穴も開いてないので全く見えないわけなのだが。まぁ、大丈夫だろう。
自分の家の間取りぐらいもうすでに把握済み。俺は手探りで玄関へと歩き出す。そして。
ガチャ
っと、軽快な音と共にドアを開け、謎の単語と共に飛びだした。
「ペペロンチィィノォォォ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・チーン。
すぐに大きい悲鳴が聞こえると思っていた俺。
そのため、悲鳴が聞こえないという予想範囲外の出来事により、俺は若干焦り出していた。
視界は真っ暗。
ひたすらゴム臭いこの状況の中、俺はおかしいなと思いつつも話しかけてみる。
「お前、そんなに驚いたのか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・返事は無い。
「な、なんだ。やっぱりこれくらいじゃお前も驚かないか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・やはり返事は無い。
もしかしたら俺の目の前には誰もいないんじゃないか。という錯覚にさえ陥るほどに静かである。
なぜだ。なぜ悲鳴が無いのだ。
悲鳴無くしてはこの状況の収拾がつかないではないか。
俺だってこの状況でマスクを取って目の前を確認するほどの勇気は無いのだ。
だからお前の悲鳴が必要なのだ。お前の悲鳴が俺の人生を救うと言っても過言ではないのだ。
お前が悲鳴を上げる。ただそれだけのことで、一人の人間の未来が救われるのだ。
安いもんだろう!? なぁ!?
何とか言ってくれよ秋!! 頼むよ、俺、今だけはお前の悲鳴が無けりゃ生きて行けない体質なんだ!!
必死の願いも、声に出さなけりゃもちろん届くはずもなく。
俺の中にはもはや焦りとプライドしかなかった。
そして俺のプライドが暴走を始める。
「おいおい、悲鳴も上げられないほど驚いたのか? お前はビビりだなぁ」
俺も薄々は気付いている。だが、それを認めたくないという俺のプライドが邪魔をして、自分の首を絞め続ける行為しか出来ない。
これ以上目の前の親友(?)に話しかけるな。この後どんな羞恥地獄が待っているのか、お前はもう気付いているだろう。
お前はよくやった。もう自らを追い込んで苦しい思いをする事は無いんだ。
喧嘩と同じだ。長引けば長引くほど謝りづらくなってくるだろう? あ、俺、喧嘩した事ねぇや。惨めな話だよな、喧嘩するにも相手が必要なんだから。
世の中は所詮一人では何もできない。喧嘩をするのも、会話をするのも、じゃんけんするのも、にらめっこするのも。
あぁ、懐かしいな。鏡の中の自分相手にあっち向いてほいをしたあの頃が。あぁ、懐かしいなぁ………………――――――――――――
○
「どぁっははは!! お前……ぷっ、ば、バカすぎるだろ!! ぶふっ!」
俺の話を聞き、腹を抱えて大爆笑する親友の秋。
「う、うるせーな!! そんなに笑わなくてもいいだろ!!」
顔を真っ赤にして反論する俺の姿は、もはや笑ってくれとしか言いようがない。
誰が見てもからかいたくなるような、そんな敗者の姿がそこにはあったのだ。そして悲しいことにそれは俺であるからして。
「ひぃ……ひぃ……お、お前は俺を笑い殺す気か……ぶふっ……!!」
「も、もう勝手に死んどけよ!! ってか涙流すほど笑うんじゃねよ!!」
「は……腹が……腹がぁ……!!」
コイツ……!! まだ笑ってやがるぅ……!!
クソ、こんな事なら、あんなことしなきゃよかった!!
こんな事なら……――――――――――
スッ.............
と、静かにマスクを外す俺。
もう精神はとうの昔に崩壊している。
もはや失うものなど何もない。
失うものなど何もないから、恐れるものなど何もない。
薄々は気付いていたんだ。
ただそれを、俺のプライドが認めたくは無かっただけなんだ。
だがこう、その現実を目の前に持ってこられると。俺のプライドどころか、精神の崩壊する音が聞こえてしまうわけで。
まず現状をおしえる前に心に言い訳をして保険をかけておこうと思う。
俺だって最初に思ったさ。
『あれ、これもしかしてフラグなんじゃねぇの?』って思ったさ。
ただ自分の中に司るいたずら心を止められなかっただけなんだ。
自制心さえ強く持っていれば。こんな事んはならなかった。
こんな一級フラグ建設士&フラグ回収士的な事にはならなかったはずなんだ。
もうみんなも分かっているだろう。てか最初からわかっていたはずだ。
だから後悔したってもう遅い。後悔先に立たず。つまりはそういう事なのだ。
だから皆も、一緒にあの単語を唱えようじゃないか。
≪し ん ゆ う じゃ な い≫
そう、そこにいたのは……
母の仕送りを持ってきてくれたであろう、中年でちょっとメタボっている、どこにでもいそうな配達のおじさんだった。
「あ……………」
『………………』
続く沈黙。
おじさんは帽子のつばを握ると、深くかぶり直す。
いっそのことバカ笑いでもしてくれたなら、俺の心は晴れたであろうに。
「っ……………っ…………」
何かを喋らなきゃいけないと思いつつも、上手く言葉が出ない。
笑いさえ起きれば。
ここに笑いさえ。笑いさえ起きれば。
笑いというものは素晴らしい。
笑い。それは何とも素晴らしいモノなのだよ。
だって。
今この状況に笑いがあるだけで。
一人の惨めな少年が救われるのだから。
そして、この妙な沈黙の中、おじさんが……言った。
『えと……ココに名前をお願いします……』
「……ハイ」
おじさんに渡された、配達会社の名前が印刷されているボールペンを受け取った俺は。
心の涙を流しながら紙に名前を記入して行く。
正直、偽名を使いたい気分だった。
偽名、匿名、PN、RNなど、さまざまな名前があるというのに。
この状況に適した名前が本名のみしかないなんて、この世は残酷である。
俺がどんなに『山ちゃん』と書きたかったか。
俺がどんなに『スカイ』と書きたかったか。
俺がどんなに『マイ○ル・ジャ○ソン』と書きたかったか。
そんな俺の悲しみを、この世界が許してくれるはずなど無く。
無情にも『山空 海』という文字が記入された。
このおじさんは会社に帰還すると同時に皆に話すに違いない。
この一人の勇敢な若者の字と名前を見るたび、俺の事を思い出すに違いない。
なんたって記入されたその字は、俺も心を映し出したかのように震えて、なんて書いてあるか自分でもよく分からないのだから。
「………書けました」
『それでは………ぷっ』
なんか壮大なる置き土産と共に、おじさんがトラックに乗り込み、出発進行。
あんのクソジジイ最後に吹き出して行きやがったぁぁぁ!!!
と、文句を言う時間さえもなく、秋が到着した。
俺は半分抜け殻状態の体を動かし、二階にある俺の自室へと秋等を案内する。
そして、一連の流れを反場無理やり白状させられたのち、今に至るわけで。
「ぷふっ」
「いつまで笑ってんだよ!!」
俺の心が休まらぬ内から、グリグリと傷口をえぐり取る親友の秋。
傷口に塩を塗る。どころの話ではない。もはや傷口にタバスコである。
「秋兄ぃ、いつまでも笑ってちゃ海兄ぃが可哀そうだよ……」
俺の隣から、このみじめな俺を唯一かばってくれるとても可愛らしい声が聞こえる。
「そ、そうだぞ!! お前も妹を見習え! 」
そう、俺を庇ってくれたのは他でもない。
妹の琴音である。
と言っても、俺の妹ではなく、親友である秋の妹。
竹田 琴音。13歳で、いまだピッチピチの中学1年生。
よくある健康的かつ日本人の象徴ともいえるこげ茶髪で、左側に短めのサイドテール。ちょこっと結っている状態だ。
服装も女の子らしさがよくでていると思う。
だが、そんな事はたいして重要な事ではない。
一番重要な事は、あいつの妹には勿体ないほどに、とても良い子であるということ。
そして、とても可愛いという事である。
いやぁ、一緒にいると癒されるし、優しくて楽しいし、もう秋がいなくても琴音だけいれば俺は満足である。おっと、いかんいかん。
そうそう、琴音はとても秋の事が好きらしい。もちろん、兄妹愛的な意味での好きだ。
兄思いのその性格からか、昔っからどこへ行くにもついてきていた記憶がある……気がする。
もちろん、『迷惑だな』なんて思う事もなく、むしろ琴音が来てくれるかどうかにより、俺のテンションは激しく変化するのである。
つまりどちらかと聞かれれば大歓迎だ。秋の方がおまけでもいい。
昔から3人でいるので、3人揃っては今じゃ当たり前。
とても仲のいい3人組として、巷で有名なほど……まぁ、実際に仲がいいのを知っているのは俺の母さんぐらいだが。
もちろん最初は、3人の中で唯一の女の子という事もあり変な感じになってもいたが、今はそんなことはなく。
何度も言うが俺は大歓迎である。
「………ぷっ」
って、まだ笑ってやがるのか秋め。
コイツァ、一度お仕置きが必要だな。
「秋、さすがのおれもブチ切れ5秒前だぜ?」
あと5秒もすれば俺の中の何かが大爆発して、秋をトイレへと連れ込んだのち、トイレットペーパーでミイラにしちゃうぜ。
「え? もう俺笑ってねーぞ?」
「はぁ? なに言ってんだよ?」
俺は聞いた。
確かに聞いた。
『ぷっ』ってのを聞いた。
あれが誰かの、『なに食ったらそんなの出るんだ』で有名なヤツで無い限り笑い声に間違いないのだ。
つまり、笑い声だとしたら秋以外にあり得ない。
と、思ってたのだが。
「……ぷっ」
「え?」
再び聞こえたその声は、秋とは違う方向から聞こえたのだ。
ってかぶっちゃけ俺の隣から聞こえたのだ。
つまり、俺の隣にいる……
「…………ふふっ」
琴音である。
いや、そりゃあ、そうだよ。
あんなことしたと聞かされて、『バカだなぁ』って思わない方がどうかしているんだよ。
別に笑われたって不思議じゃないよな。でも涙が止まらないのはなぜでしょうか。
俺は自分でもびっくりするほどの枯れた声で琴音に一応確認してみることに。
「こ、琴音……まさかとは思うが……バカにしてますか?」
「き、気のせいだと思うよ……ふふっ……ぶふっ」
うん。気のせいじゃないね。思いっきりバカにしてるね。
だって笑っちゃってるもんね。『ぶふっ』って言ってたもんね。
まだ『ふふっ』の方が可愛げがあったよ。でももう『ぶふっ』になっちゃったもの。
『ぶ』だよ『ぶ』。もうこれ吹き出しまくり以外の何物でもないよね。
……だがしかーし、俺はいつだってポジティブシンキング! セィンキングだよセィンキング。ポズィティヴセィンキングだよ。
そう、つまり、問題は笑っている事ではない。
『なにで』笑っているのかが問題なのだ。
ほら、考えても見なさいよ。
もしかしたら思い出し笑いかもしれないじゃないか。
「このタイミングでか?」
それにほら、くすぐられているのかもしれない。
「誰にだよ!」
あ、そうそう、もしかしたら、おじさんの時に願った『頼むから笑ってくれ』的な願いが遅れて叶ったのかもしれない!
きっとそうだ! もうそれ以外にない! それ以外だったら俺は切腹して自害して夜の海にダイブして果てちゃう自身があるよ!
俺の事を笑っていると決め付けるのは、まだ早い。そうだろ?
「現実を逃避するな。そして果てちゃいかん」
「そんな的確なツッコミいらん!! つーかさっきからうるせぇぞ秋!!」
さっきから俺の妄想にツッコミを入れやがって。
秋はあれか、妄想のツッコミニストか!
「意味分からんわッ!」
ほらまた、俺の妄想にツッコミを……って、おいおいちょっと待てよ。
俺の考えがすべて読まれている……だと……!?
あいつは超能力でも持ってんのか!? エスパーか! エスパー竹田か!!
「いやいや、全部声に出てるぞ」
「マジで!?」
衝撃の事実を口にしたエスパー竹田。
まじかよ、俺って漫画とかでよくある無意識に考え事を喋っちゃってるけどそれに自分で気付かない系統の主人公だってのか……?
いや、そんなバカな。そんなバカみたいな事があってたまるか。
そんな事は無い、やはりあいつがエスパーなのだ。エスパー竹田だ。
「だからそれは誰だっ!!」
「もうツッコミ入れてくるなよエスパー田中!! 」
「田中になっちゃったよ!? 俺田中になっちゃったよ!?」
「エスパーついてはツッコまないんだね」
と、琴音が話を割って静かにツッコんできたわけだが。
そうだ、俺はなぜ笑われていたのか聞きださなければならなかったんだ。
覚悟しろエスパー田中の妹だからシスター田中!!
俺が意気込んだ時だった。
「ぶっ……だ、ダメだ……海兄ぃの事思い出しちゃうと……ぷぶふっ」
やはり爆笑シテマスネー!!
「やっぱりそれかぁ!!」
もう嫌だ、もう、心が死ねた……!
さっきは庇ってクレタノニ………。琴音のアホー!!
「ハッハッハ、まぁいいじゃねぇか」
「よくねぇよ!! んでその顔ウザい!!」
さすがに
(^∀^)
↑こんな顔でバカにされたとなっちゃ、心に来るものがあるからして。
しかも、秋には馬鹿にされ慣れてるが、基本いい子の琴音にまで笑われたとなると……
恥ずかしさが10倍、いや100倍にも膨れ上がる! そして心の傷は癒せないほどに深く、大きくなって行くのである!!
マジかよッ! くそっ、穴があったら入りたい……!!
いや、いっそ殺せー!!!
「死ぬのはやめとけ」
「人の心の中を読むのはやめろ!!」
「いや、おもいっきり喋ってたぞ」
「うん、喋ってた」
マジかよッ再び!!
くそっ、なんて軽いんだ俺の口は!!
プライバシーって言葉を後でみっちりたたき込んでやるぞこの野郎!!
「もう海兄ぃと内緒話出来ないね」
誰かこの口を取り替えてくれぇぇ!! 一万円からでどうだ!?
「オークションかよ」
お、出ました10万!!
「10万デチャッタヨ!?」
「いちいちきいてんじゃねぇぇ!! 瞬間記憶喪失になってしまえぇぇぇ!!」
「無理言わないでよ」
――――――――てなわけで、ここで一句。
傷できた。
心に大きな
傷できた。
皆も気をつけようね!!
第三話 完