第二十八話~教室はモンスターハウス~
皆さんこんにちは!私だよっ!琴音だよっ!!
ぶーぶー。前回出番がなかったんだよっ!?酷いと思わない?
私だって、遅刻していろいろ大変だったんだよっ!?
本来なら、私にスポットライトが当てられてもいいぐらいなのに。
で、今回も出番がないと困るから、私があらすじ担当をいただいちゃった!!
へへっ。いーでしょー。
「琴音……自慢なんかしてないで早く読めよ……」
「分かってるよ秋兄ぃ!今いい所なんだから!!」
えーっと、なになに……?
ふむ。ふむふむ。よしっ!覚えた!!これを言えばいいんだねっ!!
じゃあ、前回のあらすじだよっ!!
「『だよっ!!』は書いてないだろ。」
「いいんだよ秋兄ぃ。オリンジナリーだしたほうがいいのっ!」
「オリジナリティーな。」
「分かってるよっ!もう。秋兄ぃは一回やった事あるんだから、今回は私に任せておいてよ」
「へいへい。もう口ださねーよ」
まったくもう。秋兄ぃってば。……まぁいいや。
じゃ改めましてー。前回のあらすじだよっ!
学校に遅刻してしまった海兄ぃと秋兄ぃ。まぁ、秋兄ぃは置いといて、海兄ぃの話だね。
クラスのみんなは、夏休み明けだから、体育館に集まっていたみたい。
その事を知らなかった海兄ぃは、教室に行ってしまった。で、当然誰もいない。
そこで、ようやく体育館だと気付いた海兄ぃ。
でも面倒なので教室でみんなを待つ事にしたらしい。…ってダメじゃん!!
で、待っている途中で、なんとエメリィちゃんが超能力を使って学校に来てしまったらしい!!……もう。エメリィちゃんってば。
そこに、クラスのみんなが帰ってきてしまった。
エメリィちゃんがクラスのみんなに見つかり、海兄ぃのイメージはどんどん悪化して行く。
さて!海兄ぃはどうなるのか!!それでは、どうぞっ!!
「どう?私バッチリ決まったでしょ?」
「そのどや顔がなければな……」
「秋兄ぃのいじわるー!」
第二十八話
~教室はモンスターハウス~
『………やっぱりあの噂は本当だったんだな』
皆が口ぐちに気になる単語を呟き始める。
おい。いったい何なんだよ!おしえてくれ!!
「噂って何なんヨ?」
その時、いいタイミングでエメリィーヌが聞いてくれた。
「お、あいつの妹ちゃん。じつはね……」
すると里中が、俺に気を配りながら、エメリィーヌの耳元で囁くように何かを言った。
俺には何を言っているか聞こえない。あとでエメリィーヌに聞こう。そう思った。
だが……
「うそぉ!?カイがなんヨか!?へー、知らなかったんヨ。最低なんヨねあいつは。」
ちょっと待てよ!?なにがあった!!いったい何を言われた!?
明らかに、エメリィーヌの俺を見る目が変化した。悪人を見るような目に。
これは俺としても、誤解を解いておきたい。だから言った。
「おいエメリィーヌ!!なに言われたか知らんが、俺はそんなやつじゃないの知ってるだろ!?普段一緒にいるんだから!!」
「……信用できないんヨ」
「嘘でしょ!?え、ちょっと待てよ!!え、ほら!こないだなんか一緒に楽しく!!」
「………カイ。ウチはお前をケイベツするんヨ」
「なぜなんだよぉォォ!!!!!」
「カ、カイ。冗談なんヨから!!そんな泣かなくても!!」
「いや泣くね!これが泣かずしていられるものか!!俺は号泣するね!!」
「そんな必死にならなくてもいいんヨに……。他の人たちも見てるんヨから……」
「うるさい!俺のこの鉄アレイのような心も、お前のその目でバキバキに折れたわ!!」
俺とエメリィーヌが言いあっていると、西郷が間に割って入ってきた。
「そこまでだ山空とその妹。……他の奴らも、席につけ」
その言葉で、廊下にあふれ出ていた人たちも、席に着き始める。
「妹じゃねぇよ!!」「妹じゃないんヨ!!」
俺とエメリィーヌが同時にツッコむ。
「ん?そうなのかぁ?まぁ、気にすんな。ほら山空。席に付け。」
気にすんなって、お前は気にしてくれ。
そんな俺の思いむなしく、言うとおりに席に着く俺。エメリィーヌは、俺の隣の空席に座った。
「はい!皆席についたな。そして、先ほども言ったが、今日転校生が二人来た」
西郷が話し始めた。え?二人?一人はオメガだろ?もう一人いたのか。
俺が驚いていると、西郷が続ける。
「山空。お前は遅刻してきたから知らないだろう。だから、特別にもう一度だけ、山空の為『だけ』に教えてやる。」
なんだよ西郷のやつ。嫌味な奴だな。
「カイ、よかったんヨね。カイの為だけに教えてくれるみたいなんヨ」
と、よく分かっていないガキンチョが、小声で囁いてくる。
俺は適当に相槌を打った。
「えー。まず一人目が、1年4組に来るはずだったやつだな。女の子だ」
へぇー。一年生か。てか『来るはずだった』ってどういう意味だ?休んだのかな。
俺が頭の中で色々考えている間も、西郷が話を進める。
「えー、その子の名前は、白河 雪って言うらしいな。だが、なぜか来ないんだ。……おい。山空。聞いているのか?」
「聞いてますよー」
白河だろ?……ん?どっかで聞いたことある名前だな。
えー。しらかわしらか……「ヴァ!?」
やばい。ちょっと驚いて変な声が出てしまった。
「どうした山空。『ヴァ』って何の事だ?」
「い、いや…な気にしないでください!ははは。……ってか白河だって!?」
「ん?どーした?知り合いか?」
白河って、もしかして……いや、もしかしなくてもあいつだよな?
あいつ転校生だったのか。ちょっとヤバいことしちゃったなぁ。
てかまだ戻ってきてなかったの!?気付こうぜ白河!!でも、さすがにちょっとやり過ぎた。
わざと中学に案内するんじゃなかったぜ。
「……なるほどな。」
気付くと、西郷が俺の目の前に立っていた。
俺は何事かと思い、ゆっくりと立ち上がりながら聞いて見た。
「えと……なんかご用で…?……あ」
よく見ると、他の奴ら全員が俺を見ている。
……あははー。まさか。
「カイ……全部喋っちゃってるんヨ……」
……はぁ。やっぱりか。もうやだ。俺は自分が嫌いになりそうだ。
「で、白河の遅刻の原因は、お前にあるわけだなぁ?」
西郷の顔が恐ろしい。まるで西鬼だ。って意味分からん。
ここは素直にあやまるが得策。下手に言い訳すれば、地獄が確実に待っているだろう。
「……すみませんでした!!」
俺は深々と頭をさげ、今年一番の軽めの謝罪をする。
「……まぁいい。先生は心が広いからな。ついでに西郷でも西鬼でもないからな」
げっ!またやっちまったのか俺は。あとが怖いな。
「あ!そうだったんヨ!サイゴウに聞きたい事があるんヨ!!」
「ん?どうした。山空の妹。」
え?こいつが西郷に聞きたい事って何?………いやな予感しかしない。
そんな俺の不安をよそに、エメリィーヌが口を開く。
「サイゴウはゴロピカリなんヨか?」
いきなりエメリィーヌが暴走をする。やめてくれ。
「はぁ?」
西郷も驚いている様子。だろうな。
っておい。周りの奴らも、クスクス笑ってるじゃねぇか。こいつらって笑うこと出来たのか。
いつも不機嫌そうだったからな。初めて見たわ。
そんなのんきな俺を、エメリィーヌが悪意なく地獄へ陥れようとする。
「カイが言ってたんヨ!『サイゴウはゴロピカリだ!サイゴウは米だ!』って」
『クスックスッ』
エメリィーヌの言葉で、次第に笑い声が大きくなる。
「ほほぅ。山空!先生は米粒のような人間なんだな?」
エメリィーヌのアホー!完璧にキレてるやん!!西郷マジギレやん!!
誤解を解かなくてはっ!!
「西ご…じゃない、先生!『西郷は米だ!』って言ったのはエメリィーヌです!!俺ではありません!!!」
「なんだ。そうなのか。なら、仕方がないな。お前の妹は可愛いから許してあげよう。」
……なんか知らんが助かったようだ。意外とあっさりだったな。
「でも?ゴロピカリの方は許さんぞ山空!!」
………ですよねー。人生甘くはないんですよ。西郷恐るべし。
だがしかし、ここで負ける俺ではない!
「はい言いました!!」
「なんだ。開き直りかぁ?」
「違いますよ。ゴロピカリはお米ですよね?」
「ん?まぁ、そうだな」
「お米はえらいんですよ!そして凄い。お米には感謝でいっぱいなんです。農家の人が頑張って育ててくれたお米。俺達人間には欠かせない、いわば人生のようなモノ。そんな俺の尊敬するお米のような人だと、俺は言いたかったんです!!」
「ほぅ」
俺の言葉で、西郷から威圧感がなくなっていく。もうひと押しだ!
「先生は、いわばお米のような!俺の人生の先生です!!いつもありがとうございます先生!!俺、尊敬してます!!」
「本当かぁ?」
疑いの表情。しぶといな西郷。
「本当です!!俺のこの目を見てください!!これでも嘘をついているように見えますかっ!?」
西郷は、ご丁寧にしっかりと俺の目を見つめて来る。で、言った。
「……なるほど。まぁ、いいだろう。悪い気はしないからな。許してやる。」
そう言って、また戻って行く西郷。へっ。今回も俺の勝ちだな。
ちょろいぜ。
俺は静かに席についた。
「……よくあの短時間に、あれだけの言い訳が出来るんヨね……」
「ふっ、『マシンガンスカイ』とでも呼んでくれ」
「意味が分からないんヨ……」
「え?分かんないか?喋り出したら危険って意味のマシンガンに、山空の『空』を英語でだな……」
「ふっ。『ジンマシンカユイ』の方が似合ってるんヨ」
「ぶっとばすぞ!!」
「ほらそこー。うるさいぞー。先生怒るぞー。」
「あ、ごめんなさいなんヨー!」
「おぉ!妹さんは優秀だなぁ!ガッハッハッハ。てな訳で、このクラスにも転校生が来るんだぞ?山空。知ってたかー?」
え…………………………。
「ウチは知らないんヨ―!」
「お?そうかそうか。小さい子は無邪気で可愛いなー!先生は今からでも保育士になりたいな!!っと、転校生の鳴沢 恭平!!入ってこい!」
……………………………ハハハ。俺はもう死んでいる。特に精神が死んでいる。
扉は開いているので、ガラッっという音はしなかった。
そう。そのまま教室に入ってきたんだよ。あいつが。
『カッコイー!!』『キャー!!』
などと、本性を知らないバカどもが騒いでいる。
自己紹介になって見ろ。こいつ覚醒を始めるぞ。
「では、再びあれだが、軽く自己紹介を頼む。」
え?再び?あ、そうか。体育館で一度済ませたのか。
て事はあれか?こいつ覚醒しなかったのか。
なるほど。15歳以上はどうでもいいんだっけな確か。
でもあれだよな。15歳の奴もいるよな。高校なんだから。……気まぐれか?
俺が考える中、自己紹介が始まる。
「僕の名前は、鳴沢 恭平。以上です先生」
……ポカーンだ。あいつが普通だ。いや、普通に見える。なにコレ、新手のホラー?怖いな。
『恭平くん!その、よかったらメアド交換しない?』
と、一人の女子がオメガに猛アピールだ。最近の女子高生はあれか?恥ずかしさとかないのかよ。
でもまぁ、オメガの事だ。『熟した女に興味はない』とか言うに決まって……
「あ、あぁごめんね。今携帯持ってきてないんだよ。またあとでね」
「嘘だろっ!?」
俺は思わず、立ち上がってしまった。
あの恭平が……普通に会話しているなんてっ!!
そんな俺の姿を見たオメガは、言った。
「なんだ。山空も同じクラスなのか。ならよかった」
と、オメガが言った途端。
『不良のくせに………』
周囲からなんかとてつもない殺意が感じられる。特に女子から。
おい、俺なんかしたか。
「えー、こほんっ。山空と知り合いだったのか?なら、隣に座るといい。良かったな山空ー!」
『不良のくせに………』
西郷!!!なんだてめぇ!さっきの仕返しかよッ!!
とてもニヤついている西郷。あんたそれでも教師か。
「私はこれでも教師だ!」
……。
「おいエメリィーヌ。俺また喋ってたか?」
小声で問う。
「まったく喋ってなかったんヨー」
なるほど。とうとう西郷に心を読まれるようになったわけだな。最悪だ。
そんな俺の現状も知らずに、のこのことバカがやって来やがった。
「あれ。エメルいたんだ。山空もよろしく。」
『不良のくせに………』
………なんかたった数十秒で、敵が大量に出来たぞ。なんだこれ。
こんなRPGが出てみろ。苦情殺到だぞ。
いや、RPGじゃない。恋愛シュミレーションあたりにしておこうか。
『春、希望校に合格した僕は、ここから新しい人生のスタートをきるっ!!』って、主人公が意気込んで教室に入った結果、クラスの奴らにマシンガンやらを乱射される。こんなゲームはいやだ。
いや、恋愛シュミレーションなら、最初に必ず親友がいるもんだ。名前は……サトルか?
いやいや、やばいな。前回のクソアニメの話を引きずってしまった。サトルはやめよう。
佐藤だな。うん。佐藤=オメガな?その佐藤と一所に教室入って、クラスの奴らにマシンガンを乱射され、佐藤はそのマシンガンの弾の補給係と化す。
いきなりラスボス級の奴らが大量発生だ。恋愛シュミレーションなのに。
今俺がそんな状況だ。夏休み明けの初日に、クラスの女子らほぼ全員が敵になるって何さ。
俺の人生クソゲーだ。
「あ、山空。頼みがあるんだが……」
オメガが急に言いだした。
「ん?なんだよ頼みって?」
まぁ、どうせ?窓側をゆずれ。とかその辺りだろう。
「窓側を譲ってくれないか?」
ほら。中学を覗きたいんだな。ド変態が!
「断る」
『なによっ!!不良のクセに恭平君の頼みが聞けないって言うのっ!?』
急に誰だよ。つーか俺、はじめてこのクラスの奴らと話をした気がする。
なんかこう、もっと違う形がよかった。
まぁ、お前らには少々キツイが、オメガの本性を教えてやろう。
「聞けないな。こいつ中学を覗くつもりだぜ?むりむぐぅ!?」
『ゆずれぇ!!!』
い、息がぁ!!いきなり首ですかっ!?
「む、むりむり!!ギブ!ギブ!!」
「カイ。あの状況ではなに言っても多分駄目だったんヨ……」
なぜ俺がこんな目に!!くそっ!死ぬっ!!琴音助けて!!
『か!わ!れぇぇ!!!!』
「わ、わがった!ごめっ!!ゆるして!!」
『恭平君!どうぞー』
ゴホッ。やっと放しやがった。女子怖っ!!
つーか誰っ!!
そして俺ださっ!琴音にすがっちまった。情けなくて泣けてきたぞ。
『早くどきなさいよっ!この不良!!』
「ゴオゥワ!!」
『ガシャン!!』と、大きい音を立てて、イスが倒れる。
そう、イスごと蹴りとばされたのだ。
女子怖い。俺、女子恐怖症になりそう。
「か、カイ……。悲惨なんヨ……」
憐れむようなエメリィーヌの声。やめてくれ。マジで悲しい。
なんで俺がこんな目に。俺何もしてないだろ?
そんな状況を見た西郷が、みんなに一言だけ告げた。
「しばらく自由にするといい。先生はちょっと腹痛でお手洗いだ。じゃあな。山空くん!」
さぁいごぉぉぉう!!!!!なにが腹痛だ!!すっげぇ元気だろあんた!!冗談じゃねぇぞ!!
くそっ、西郷に喧嘩売るんじゃなかった!!まだ仕返し足りないのかあいつは!!
西郷の、俺を陥れる為の大人げない嘘で、クラスの奴らが動き出す。
ほとんどの女子はオメガを取り囲む。
そして俺は、蹴りとばされる。
「恭平くん!甘い物って食べれる!?」
なんだこの図々しいやつ。もうバレンタインの事を聞いてやがるよ。バカか。
「うむ。僕はなんだって平気さ」
オメガもオメガだ。なぜ今日に限って紳士的なんだよ。
俺がオメガを不思議そうに見ていると、オメガがこっそり俺に向かって何かを投げてきた。
女子たちは、オメガの無駄美形な顔に、幸せを感じている。このクラスやだ。
「ヨっ!……カイ!!キョウヘイは何を投げたんヨ?」
エメリィーヌが、取り囲む女子たちの合間を縫って俺の方に来る。
そして、聞いてきた。
俺は、オメガの投げた物を、手に取って見てみる。
ライターぐらいの大きさで、中が開けられるようになっている。
開けてみると、中に白くて小さい……ラムネか?食べる系統のラムネだ。
「これがいったい何なんだ?」
俺はオメガに聞こうとしたが、オメガはもう、女子に包まれ見えなくなっていた。
その時、エメリィーヌが何かに気付く。
「その裏側に、何か書いてあるんヨ」
「あ、本当だな。」
エメリィーヌに言われた所を確認すると、とても小さな字で道具説明。と書いてあり、その下にびっしり説明書きがあった。
えーなになに?道具せつめ「ぐふぉ!!」
女子に腹を踏まれる。やばいな、いつまでもここで寝てると命にかかわる。
「エメリィーヌ、廊下行くぞ」
「あ、分かったんヨ」
俺はエメリィーヌと一緒に、廊下に出た。
当たり前だが、誰もいない。
ここなら静かだ。安全だ。廊下が嬉しい。
俺は、壁にもたれかかりながら、その場に座った。
エメリィーヌも、隣に座る。
「で、なんて書いてあるんヨか?」
「えーっと?……『道具説明。一粒飲めば、効果は約三時間。本音を隠したいあなたにぴったりのアイテム!その名も、『一粒で二度おいしくなーる』一粒で、本音をすべて隠す事が出来るし、その本音が原因で人付き合いが出来ず、友達が出来ないあなたにもってこい。本音を隠せて友達増える。これこそまさに、一度で二度おいしい!ぜひ、お試しあれ』って書いてあるな。」
「つまりは、どう言う事なんヨ?」
「上手く使えば嫌われずに済むって事だな。でもオメガ、なぜこんな物を……」
あいつは友達欲しがるような奴じゃないしな。なぜだ?
俺が壮大に悩んでいると、エメリィーヌが思い出したかのように言った。
「……ウチ知ってるんヨ。昨夜、キョウヘイが言っていたんヨ!」
また昨夜か。お前らいったい何してるんだよ。気になり過ぎる。
ほぼ毎日だよな?
いつも恭平のテントやらクローゼットin隠し部屋やらにこもっては、よく話をしているっぽいけど。
……まぁ、仲がいいんだからいいんだけどさ。怪しいのでやめて頂きたい。
「で、オメガがなんて言ってたんだよ?」
「『新しい道具を作った。しかも、その道具を試すのに明日はうってつけの場所だ。』って言ってたんヨ」
……あぁ。実験ね。確かにこの道具を試すには、絶好の場所だなここは。
なんだよ。無駄にドキドキしたぞ。なんかとんでもない理由でも飛びだすんじゃないかと。
「エメリィーヌちゃん。ちょっと良いかな?」
不意に、里中がエメリィーヌを呼ぶ。
「ん?なんなんヨか?」
エメリィーヌはそれに答えるように、教室の中へ。
………気になる。気になり過ぎる。
あいつはなんの会話してるんだ?
少しのぞいてみよう。
なんか良からぬ事を話しているんじゃないかと思い、俺はこっそりドアの隙間から聞き耳を立てる。
『恭平くーん!!今度の日曜日って暇かなぁ?』
おい、お前らうるさい。肝心のエメリィーヌ達の声が聞こえねぇじゃねぇか。
エメリィーヌ達の会話を聞きとるため、俺は聴覚を最大限に研ぎ澄ます。
あらゆる雑音を消し、目的の物だけを逃さないように……
「ウチは妹――いんヨ!」
お?エメリィーヌの声だ。
だが距離が距離だし、よく聞き取れない。
「エメリ――あいつ――関係――」
なんだよ。この古びたラジオっぽい感じは。くそっ!よく聞き取れねぇ!!
ずっとこんな感じで、盗み聞きすること約5分。
俺が聞き取れたのは、『あいつ』『なんヨ』『関係』『家』『海』『不良』『違う』『以外』『へぇ』
の9つだ。
ふっ。この単語さえあれば十分。
この名探偵カイ様が華麗に解決よぉ!!
えーっと、大体会話の内容から察するに俺とエメリィーヌの関係だろう。
つまりはこういう事だ。
『不良のあいつとどういう関係なの?』
『カイは不良じゃないんヨ』
お、結構いい感じだな。
『じゃあ、あいつとエメリィーヌちゃんはどういう関係?』
『―――なんヨ!』
ここはパーツが足りない。なんて言ったか分からんな。
『家に居候って言ってたじゃない?』
『いってたんヨ』
『なんであいつの家に住んでるの?』
『――――なんヨ』
『へぇ。』
みたいな感じだろう。
でもあれだな。パーツが足りない。引き続き聞き耳を立てよう。
「ふふふっ。それホント?」
「本当の事なんヨ」
ん?なんだ?なんのことだ!?
これは怪しい。怪しすぎる。絶対怪しいぞ!!
「怪しいのはお前だ山空。」
「うわぁ!?さ、西郷先生!?」
会話を聞きとるのに夢中になっていた俺は、背後から近づく西郷に気が付かなかった。
くそっ。探偵失格だぜ。
「なにが探偵だ。ほら、そろそろ席に付け。大事な話がある」
西郷が、珍しくまともだ。おかしい。これは何かあるぞ?この真相を解いて……
「探偵ごっこはそこまでにしろ山空!先生はいっつもまともだ!!」
いって!!
西郷のヤロウ。自分の手がゴツいの知らんのか?
その手でげんこつは痛い。まるで、ペットボトルのキャップの部分で殴られたかのような痛さだ。
とりあえず俺は、言われたとおりに教室に入る。
俺の後ろから西郷もついてきて、それを確認すると、みんな慌てて自分の席に着いた。
「エメリィーヌ、お前はこっち来いよ」
「分かったんヨ」
里中の所で座っていたエメリィーヌを呼び、俺も自分の席へ。
ちなみに、窓側はオメガに取られた。がっくし。
「よーし席についたな?なら、山空と鳴沢。お前らに提案がある。」
急に西郷が言いだす。なにを考えていやがる西郷。不安だ。
そんな心境の中、西郷が告げた。
「山空の妹。お前に席も用意してあげる事に決めた。」
「……はぁぁぁ!?あんた馬鹿でしょ!?頭いかれてるだろ!?」
西郷の衝撃発言。正直、衝撃的過ぎて腰が抜けかけたわ。
「まぁ、待て。話は最後まで聞くもんだ。聞く所によれば、その子宇宙人だそうじゃないか。」
おい西郷。そんな簡単に宇宙人を信じていいのか?お前の感性を疑う。どうやら西郷はバカのようだ。
「私はバカではない。まともだ。…で、話を続けるが、宇宙人なら小学校も通ってはいまい。だから、ここに来ればいいさ」
……西郷め。完璧に心読めるようになりやがって。
「……って事は、ウチはいつでもこの学校に来ていいんヨか!?」
はぁ?ダメにきまってんだろ。常識を知りなさい常識を。
「ああ。そういう事になるな。」
身近に常識ブレイカーがいたよ。
「ならねぇよ!!どんだけ自由だよあんた!!今日だって、俺がどんだけ説得したかしらねぇだろ!?」
まぁ、結局負けたけどさ。
「私はいいと思いまーす!」
急に里中だ。
「そこっ!!なにがあった!!短時間で何があった!!エメリィーヌのかた持ちすぎだろ!!これじゃえこひいきだ!!えこだえこ!!ECOだ!!」
「山空。きみは地球にやさしいな」
「そうなんだよなぁ。この俺が一番地球に貢献しているといっても過言では……」
「カイ。それは過言なんヨ」
「うるさいなっ!!」
「うるさいのはお前だ山空。山空お前、夏休み明けてからずいぶんと愉快になったもんだなぁ?」
「黙れ西郷!!貴様になにが分かる!!」
「カイ……。もうちょっと大人になるんヨ……。」
「…………やめてくれ。」
エメリィーヌの目が。まるで小さな子供を見つめる時のような、優しい目になっていた。
俺は途端に悲しくなり、静かに席に座ったのだった。
そうそう。西郷が言うには、エメリィーヌも高校に居させてやれ。という事だ。
家では一人きりになるし、高校にいてもまだ小さいんだから問題ないだろう。との事。
腹痛だと言って教室から出て行った時に、どうやら交渉したらしいのだ。
で、結果は全員同意でOKという。この学校の適当さがこれで分かっただろう。
ちなみに、今日は夏休み明け初日という事で早帰りだ。
そんなわけで、その話をして解散となったのだが。
「そこのくたびれた不良さん」
里中が急に俺に話しかけてきた。今まで毛嫌いして話しかけてこなかったので、俺は少々驚いた。
そういえば、里中がエメリィーヌと話をしたあとは、なんかずっとこっちをチラチラ見ていた気がする。正直、不気味だ。
「俺は不良じゃねぇよ。くたびれたは否定しないが……」
今日はホントくたびれた。くたびれたというか疲れた。つまり、くたびれたのだ。
ふと、俺は里中の顔を見た。その表情は、いつもの仏頂面とは打って変わり、柔らかい表情になっている。正直、不気味だ。
普段とは違う里中。若干恐怖を覚えた俺は、恐る恐る尋ねてみた。
「………あの、俺になにかご用でしょうか……?」
やばい。顔が引きつってきた。
なんか俺まずいことしたかな……。
「あの?ええと、その、ごごごご、ごめんなさい!!」
とりあえず謝ってはみたが、里中の表情は変わらない。いや、若干驚いている。
そんな俺の緊迫した表情が読みとれたのか、里中の反応は、俺の予想から大きく外れた。
「ぷっ。」
「へ?」
里中が笑った?え?なに?超怖いんですけど!?
柄にもなく大爆笑中の里中。俺は呆気に取られるだけだ。
そして、若干落ち着いたのか、呼吸を整えながら、里中が言った。
「はぁはぁ……あんた、結構面白い奴だね」
……はぁ?
「もっと好かない奴かと思ってたけど、噂とはま逆じゃん。エメリィーヌちゃんに聞いた通りだわ」
………んー?何かがおかしいぞ?
「えと、その、ちょっと意味が分からないんですが……」
あの里中が、普通に俺と会話してる?なにこのドッキリ。
「はぁ………つまり、あんたの事ちょっと誤解してたわよ。ってことよ」
「……ん?」
「少し見なおした。これからは友達ね!シャキッとしなさい!シャキッと!!」
俺の肩を思い切りたたくと、里中は帰って行ってしまった。
……トモダチ?
え、トモダチって何だっけ?
こう、一緒に会話したり遊んだりするアレ?
…………って。
「えぇぇぇえっぇ!!!!!!」
―――なんと今日はじめて、エメリィーヌのおかげで、この高校で俺に友達が出来た。
だが俺は、いまだ信じられずにいたのだった。………ドッキリ……だよな?
第二十八話 完