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俺の日常非日常  作者: 本樹にあ
◆日常編◆
35/91

第二十六話~夏の雪~

ここに来てまさかの新キャラっぽい人登場。

「遅刻だ!!!」


俺は今、猛烈に突っ走っている。


今日は夏休み明けの学校登校日だ。


そんな日に、俺は遅刻をしてしまった。


だが、寝坊というわけではなく、朝はきちんと起きられたのだが。


「おい海!!夏休み明け初日から遅刻は最悪だぞ!!」


「分かってるさ!!俺だって、遅刻するとは思ってなかったわ!!」


しかも担任は、一年のときと変わらずに西郷だからな。


絶対に遅刻だけは嫌だったのに。


やばいな。西郷は鬼だから。


なにさせられるか分かったもんじゃないぞ。


「くっそ!!なんで自転車通学じゃないんだよ!!!」


最悪だよ。自転車だったら楽なのに。


無駄に徒歩通学なんかにするんじゃねぇよ!!くそったれめ!!


「そんな事言ってる暇があったら足動かせ!!何とか頑張れば、まだ間に合う可能性もあるぞ!!」


今は8時18分。


基本20分までに間に合えば大丈夫だ。


いや、本当は駄目なんだけど。


正式の遅刻は20分超えたらだ。


以外と俺の家から学校までは近くて、歩きで約40分程度でつく距離。


家を出たのが8時ジャストだからな。


頑張れば、多分大丈夫。


少々キツイが、何とかなるだろう。


「間に合うわけないでしょ!!自分たちの足の速さをなんだと思ってるの!?」


ちなみに、今の正論なるツッコミは琴音だ。


なんと、俺達の高校のすぐ隣に、琴音の通う中学がある。


道路を一つ挟んで、高校と中学が並ぶ状態だ。


いっそのことくっつけちまえよと思うのは、多分俺だけではないはず。


だから、俺の高校から中学の様子が丸わかりなのだ。


暇があれば、よく中学で遊んだりしてるやつがいたりする。


「取り合えず一秒でも早く着くように頑張れ!!海!!」


「言われなくても!!!」


あ、ちなみに、秋。こいつも慌ててはいるが、違うクラスだからな?


それぞれの年ごとに、1~6組まであるんだよ。


俺は2組で、秋は1組。


だから、こいつはそんなに慌てる必要はない。……と思うだろ?だが違うんだよ。


担任の西郷ってやつさ。クラス関係なしに突っかかって来るんだ。


問答無用で。だから、秋も焦っている。


なぜこんな事になってしまったのか。


それは、今日の朝6時48分ごろにさかのぼる―――



第二十六話

~夏の雪~



「そういえば琴音。お前なんでこんな朝早くに俺の家に来た?」


朝食を済ませた俺達は、リビングでくつろいでいるのだ!


そんなときに、気になったから俺は琴音に聞いてみた。


「それがさー。秋兄ぃが制服とかばんを忘れてったから届けに来たんだよ」


「お!そういえば、俺何も持ってきてないわ!!」


呆れ顔で言った琴音に、いつもの調子で笑っている秋。


おいおい。お前ダメ兄貴だな。


前から思ってたけどさ。お前ダメ兄貴だな。


ホントダメ兄貴だわ。


なんというか、とてつもなくダメ兄貴だ。


もう、ダメダメネ。


「そういえば、恭兄ぃどこ行ったの?」


「あー。なんか用事がある。とか言ってさっき出てったぞ?」


「あ、そうか、恭平って俺達の高校に転校してくるんだよな?」


「ああ、そうみたいだな。同じクラスに来ない事を祈るぜ」


オメガが来たらどえらい事になるからな。


なんというか、疲れる。


「……コトネが恭兄ぃって呼んだ事についてはスルーなんヨか?」


「おいエメリィーヌ。そういうのは気にしない方がいいんだ!」


「え?私、恭兄ぃって言った?」


ああ、言った。俺はバッチリ聞いた。


「言ってたんヨ!」


「そうなんだ。ふーん。まぁ、呼び方なんてどうでもいいや」


適当だな。


「そんな事よりコトネー。なんでそんな変な格好を……」


おいこら。お前の初登場時の格好に比べたらだいぶマシだぞ。


「エメリィちゃん。私も今日から学校なんだよ。これはその制服だよ」


「へー。ふーん。」


おい。聞いたクセに興味なさそうな返事をするな。


こういう奴って良くいるよなー。


「まったく。私の中学の制服考えた人って、恭兄ぃバリにヤバい人なんじゃないの?こんな変な格好させて、先生たちが楽しみたいだけなんじゃないの!?」


……。琴音がとうとう、自分の学校の事までケチつけるようになってしまった。


しかも、妙に嫌な言い方しやがる。やめてくれ。


「おい琴音!もしかして、お前の担任がそういう目で見てきたりするのか!?」


とてつもなく焦り出す秋。


ほら。約一名に兄貴魂のスイッチが入ってしまった。めんどくさい。


「しゅ、秋兄ぃ。大丈夫だから!ええと、その……なんかごめん!」


とうとう謝ってしまった琴音。


なにしてんのお前ら。


「だ、大丈夫なら良いんだ…。もし琴音が変な事されそうになったら、すぐ俺に言えよ!何とかしてやるから!!」


こいつ、オメガが来てから、ちょいシスコン入ってないか?


「入ってねーよ!!俺はただ、愛しの可愛い可愛い妹の為を思ってだな……」


「おい。可愛いの所だけ感情込めるな。気持ちわるい」


「……仮に、もし俺がシスコンになっているとしてもだ!それはなにも恥じるべき事ではない。ただ、妹を大事に思っているだけだからな。俺はその事に関しては堂々と宣言できる!!俺はシスコンだと!!!」


「やめて!宣言の仕方が360度間違ってるよ!周りに誤解を与えかねないよ!!妹として気まずくなるから!!」


ん?まて。琴音おかしいぞ?


「360度だと、一周回って元に戻ってきちまうぞ?」


「……あ。やばい。間違えた」


やれやれ。まったく、琴音の天然をどうにかしないとな。


「私は天然なんかじゃないよ!私は…もっとこう…可憐で、綺麗で、麗しく、純白乙女でストイックでパーソナリティーでテクニカルでエレガントでビューティーで神の助手席的存在で……」


「意味分からんわ!」


「うん。私も分からなくなった!!」


アホか。やっぱ天然だな。天然の何物でもないよ。


「てか琴音。お前英語苦手じゃなかった?よく間違えずに言えたな」


「この辺りは、全部ゲームとかにもよく出てくるし、覚えやすいしね」


まぁ、このくらいわからないと大変だしな。


てか琴音ってゲームやるんだ。女の子がするゲームって何だろうな。


今一想像がつかん。


「なんだ海。お前知らないのか?琴音はかなりのゲーマーだぞ?」


「うそだぁ!?だって琴音がゲームしてるの見たことないし!!」


結構長い付き合いだが、一度もゲームで遊んでいる所など見たことないぞ!


「いや、だってお前と遊ぶ時って、大体アウトドア系じゃん」


「それはだって、外で遊んだ方がいいかなーっていう、俺の気遣いでだな」


琴音がまさかゲームするとは思わないしな。


すると、琴音がとても得意げに言った。


「ふふふ。どんなゲームでも私にかかればチャチャっと全クリ出来るのよ!」


うん。わかった。琴音がゲーム好きなのは今のでよく分かったよ。


目の色が違った。なんというか、キラキラ輝いていたよ。


「なら、コトネに英語の出てくるゲームをプレゼントすればいいんじゃないんヨか?」


エメリィーヌの口から、とてもナイスなアイデアが飛び出した。


「うっ……あ、そ、そろそろ行かないと間に合わないよっ!」


琴音が、苦し紛れの話題変更にかかる。


その顔は、明らかに誤魔化している人の顔だ。


「って、本当にやベぇ!!もう7時40分じゃねぇか!」


「あ、本当だ!秋兄ぃ!!やばいよ!」


おい。今『あ、本当だ』って言っただろ。お前は時計を見たんじゃないのか?


やっぱり苦し紛れの話題変更だったのかよ。


「そうだな。そろそろ行くか。あ、でもこれ食ったらな」


そう言って、みかんを一個手に取る秋。


「アホかお前。何してんねん」


遅刻するゆうとるやろが!


「でも、みかんは大事なんだぞ?ビタミンやらが色々大量に入ってるんだ。」


「お前はビタミンしか知らんのか」


「うるせーな。つーかあわてなくても、いざとなればエメリィーヌの超能力でだな……」


「だめだ!エメリィーヌの力は借りちゃダメだ!!人間のクズになるぞ!!」


「そうだよ秋兄ぃ!エメリィちゃんに頼ってばっかじゃだめだよ!」


「わ、悪かったよ。冗談だよ。」


まったく。エメリィーヌの力なんか借りようとしやがって。とんだ怠け者だな。


「みかん食いながらでも動けるだろ?さっさと行くぞ」


「おう!」


「秋兄ぃ!かばん忘れてるよ!!」


「お、あぶねー。さんきゅーな」


「ほら急ぐよ!!」


そう言って、玄関に行き、靴を履き……って。


「おいエメリィーヌ。お前がなぜ靴を履く必要があるんだ」


ちゃっかり、隣で靴を履いているエメリィーヌに言った。


「ヨ?靴は必要なんヨ。」


……まさかコイツ、ついてくる気じゃなかろうな。


いや、でも。まさかねぇ。でも一応聞いておこうか。


「お前、まさかついてくる気じゃなかろうな?」


「ダメなんヨか!?」


……ははは。


「ダメに決まってるだろ!!!なに考えてんだよお前!!」


「なにも考えてないんヨ!!!」


だろうな。なにも考えてないから、ついてこようとしたんだもんな。


「お前は連れて行かないぞ。部屋に戻れ」


俺は、人類最後の日を迎えた時のような絶望感溢れる顔のエメリィーヌに、しっしと、手で追い払う動作をする。


「ど、どうしてもだめなんヨかぁー?」


その目には涙が溜まっている。

これは可愛すぎる。だが、俺はここで許すほど、善人じゃない。


「ダメだ。戻れ」


「お、お願いなんヨぉー!!こ、コトネなら許してくれるんヨね……?」


標的を俺から琴音に変えやがった。


だが、琴音は困っているっぽかった。


だろうね。だって学校にコイツは邪魔ですもん。


「こ、コトネぇー!!」


琴音にならすぐに許してもらえると思っていたエメリィーヌは、琴音の表情を見てぽろぽろと涙をこぼし始める。


それを見て、琴音が困り果ててしまった。


「か、海兄ぃー!」


困り過ぎて、若干琴音も涙目だ。


そんな琴音を見て、いまだのんきにみかんを食っている秋が言った。


「おい海。連れて行ってやれよ。男だろ?」


なんだそりゃ。


「お前も男だろ」


「私は男じゃないわ!」


「おい。キモいからやめてくれ」


「ああ。俺も自分で吐き気がした」


「シュウー!お願いなんヨぉ!」


秋ならんとかなると思ったのか、今度は秋を標的にし始めた小娘。


秋に張り付き、潤んだ目で秋を見つめ続けている。


「お願いなんヨからぁー」


「そ、そんな事言われてもなぁ……」


「ダメなんヨかー?ウチはシュウが大好きなんヨにぃー」


「……………」


おい。なにお前負けかけているんだ。


頑張れ秋!負けるな!男だろ!


エメリィーヌの怒涛の攻撃に、秋はもう瀕死だ。


「ほら!シュウの事が好きすぎて、目の奥がきらきらしているんヨー?」


ダサい!!キラキラしてないし!!なんだよそのダサさ!そんなんじゃ誰も騙せねーよ。


「き、きらきら……」


嘘だろ!?秋!!正気を保て!!


「シュウぅー」


負けるなー!!


「………なぁ海。どうにかなんねぇか?」


「なんねぇよ!!馬鹿かお前!!」


やっぱり駄目だったよ。つかえねぇ。


「カイー。ダメなんヨかぁー?」


「ダメだ。俺にそんな顔したって無駄だ。家に戻れ」


「……どうしても?」


「どうしてもだ。戻れ!ハウス!」


「ウチは犬じゃないんヨ!……楽しみにしていたんヨに……」


凄い落ち込みっぷりだな小娘。


だがな。世の中そう甘くないんだよっ!!


「さっさと家に戻れ!」


「……分かったんヨ………」


そう言って、まるで孫に家を追い出されたおじいちゃんの如く、乏しく歩きだすエメリィーヌ。


その周りには、心なしか吹雪が吹き荒れているようにも見える。


「……ウチは一人で遊んでいるんヨ……カイ達はウチの事気にしないで頑張って来るんヨ……」


……エメリィーヌ。確かに、とても楽しみにしてた気がする。


日にちが過ぎるごとに、だんだんと嬉しそうだった。


まるで次の日が遠足で、楽しみにしながらおやつを選んでいる時の遠足に小学生のように。

可哀そうだったかな。何とかならないのかな?


「おい、ちょっと待てよ。」


俺はエメリィーヌを引き止める。


「……どうしたんヨか…?」


エメリィーヌが振り向かずに聞いてくる。


とても哀愁漂うその背中は、誰もが皆、後ろから抱き締めてあげたくなるほどの雰囲気だ。


もういいよ。お前には負けたよ。連れて行ってやる。


そう言おうとした。だがその時だった。


違和感。謎の違和感だ。


どこかがおかしい。どこか分からないが、俺の直感が俺自身に訴えかけてくる。


なんだ?なんだこの感覚。


俺はその謎の感覚の正体を暴くため、エメリィーヌをじっくりと見つめる。


……おかしい。どこかがおかしいのは確かだ。いったいどこ……あ!?


俺は見てしまった。気付いてしまった。


あんの糞餓鬼ゃ!!!ちゃっかりガッツポーズしていやがる!!


「カイ…いったいなんなんヨか……?」


エメリィーヌは白々しくも、まだ演技を続けている。


やべぇ。こいつプロだ。同情を誘うプロ。


この俺様をはめるたぁいい心がけじゃねぇか!


「カイ…?」


「ふっふっふ。エメリィーヌ。最後に大きなへまをやらかしてしまったなぁ?」


「ヨ!?う、ウチは別に何もしていないんヨ!?」


図星を突かれ慌てだすエメリィーヌ。


「おい、どういうことだよ?海」


「エメリィーヌの手だ。」


「ヨ!?」


もう気付いたのだろう。必死に腕を隠すエメリィーヌ。


「ガッツポーズだよなぁ?それ。」


「ちちち、違うんヨ!!そそそそんなこと、ないかもなんヨかもなんヨか!?」


うわっ!!嘘下手すぎっ!


「エメリィちゃん。私は、人の良心を騙すような事は嫌いだなー」


「こ、コトネ!?」


「まぁ、そういうわけだ。あきらめな」


「べ、別に連れて行ってほしいわけじゃなかったっヨからね!!!バーーーーーカ!!」


そう言って、家の中に逃げ帰って行くエメリィーヌ。


あいつめ。どこであんな技を身につけやがった。なかなかやりおるわ。


見なおした。


「じゃあ海。みかんも食い終わったし、そろそろ行こうぜ!」


「って、そろそろどころじゃないよ!?もう完璧遅刻じゃん!!」


琴音が、自分の携帯で時間を確認して言った。


ちなみに、琴音の携帯は何ともシンプルなオレンジ一色の物だ。折りたたみ式。


でも、なんかジャラジャラ付けたりとかはしていない。えらいね。うん。


俺はあのジャラジャラ感が苦手でねー。


「おい海!急ぐぞ!!」


「おう!!」


俺達は走り出した。


――――で、それから18分後。最初に戻るわけだな。


まぁ、最初にも見て分かる通り、全力疾走。


疾風のごとき全力疾走だ。


エメリィーヌを家においてきてしまったのが気がかりだが、まぁ、あいつもバカじゃない。ちゃんと頑張ってくれるだろう。帰りにたこ焼きでも買ってってやるか。


「海兄ぃ!只今をもちまして、遅刻が確定しました!!」


琴音のコール。


そのコールが告げられた瞬間、俺達の歩くスピードは著しく低下する。


「最悪だ!!俺、走ってる途中に犬の糞みたいなのを踏んでまで頑張ったのにー!!」


秋が悪態をつき始める。


てか汚いなこの人。


「私なんて、こんなに色気を振りまいて走ってたのにー」


約一名、走り過ぎでイカレている人発見。


「お前に色気なんてねーべ?」


秋が突っかかる。


「あるしっ!十二分にあるしっ!!」


「ないしっ!そこの人の方があるしっ!!」


「どこの人よ?」


「え、あ、あの人だ!!」


シュウがやけくそに指差した方向には。


『えっほ!えっほ!えっほ!えっほ!……』


朝からジョギングている、いい感じの身体つきの男性。ジャージ姿だ。


「秋兄ぃ。あれは色気やない!熱気や!!」


「節子ぉぉぉ!!!」


「お前ら意味分からんわっ!!」


収集がつかなそうなので、一応ツッコんでおく。


「てか、琴音は急がなくて平気なのか?俺達とは違うだろ。」


俺達は仮にも高校生だし?多少の遅刻はへっちゃらだけども。いや、ダメなんだけどさ。

琴音的にはまずいんじゃないか?と、思ったから聞いてみたんだ。


「遅刻は中学生にとって、一種の特権のようなものだから!」


うん。たくましい。

そこらの女子中学生とは一味違う。


たくましすぎて、俺は少しきみの将来が心配です。


「ははは。琴音は昔からこうだからなー。兄貴としては嫌なんだけどな」


「だろうな」


兄貴として何も感じないなら、お前は兄貴をやめた方がいいと思う。


「とにかく急ごうぜ。早歩きで行こう」


「うん。そうだね。」


「おい。お前ら兄妹にとって、急ぐとは、やや早めに歩くという事なのか?」


普通急ぐならダッシュだろ。


「やめろよ、その、やや早めに歩くっての」


「なぜだ?」


「それじゃ、めんどくさくなるだろ?」


めんどくさい?


「なにが?」


「ほら、早風呂なんかもさ。『結構早めに風呂からあがる。』に、なるじゃん?」


「なるほど。」


そりゃたしかにめんどいな。


「じゃあ秋兄ぃ。水風呂は?」


「『普段とは一味違った系列の冷たい風呂』だな」


なんじゃそりゃ。


「じゃあ、砂風呂はどうなる?」


「『体を地中に埋めて、汗をふきださせ、脱水症状に陥れている光景』だな」


おい。ただのいじめじゃねぇか。


しかも風呂じゃねぇのかよ。光景って何だよ。


「なら、一番風呂!」


「『戦争になりかねない風呂』ってとこか?」


あぁ。

『一番はパパだ!』『いや僕だ!!』『いえママよ!!』『バカ言いなさい!一番はお姉ちゃんよ!!』『いや、一家の大黒柱である、パパさんの親のこのわしじゃ!!』って、なんだこの風呂好き家族は。アホらし。


「なら、泡風呂は?」


「『風呂嫌いな子供達を風呂にぶち込むための100の方法の、ぶっちぎりナンバー1』だな」


できれば、他の99の方法を教えてくれ。気になる。


「秋兄ぃ。札幌雪祭りは?」


「『雪との戯れ』」


「バカかお前ら。風呂かんけぇねぇだろ。それ」


しかも雪との戯れって。確かにそうだけどな。あの芸術達をそんな物でひと括りにしてしまっていいのか?まぁ、見たことないけどさ。


「お、そろそろ学校だぞ?」


秋が言った。


「わーってるよ。いつもここ来てんだから。」


「そうそう。全く秋兄ぃは……あ、ここ曲がるよ?」


「わーってるよ!いつも通ってんだから!!」


まったく。なんだよこの兄妹。似すぎだろ。


琴音の指差した曲がり角を、俺が先頭で曲がろうとしたその時だった。


『わっ!』

「うわっ!」

「うわ!」


朝、曲がり角で女の子とぶつかるという、恋愛モノなら恋人関係にまで発展しかねないシチュエーションが、この俺に舞い込んできた。

だが、ぶつかった拍子に後ろにいた秋も巻き込んだ。琴音はよけたっぽい。


『いたたっ』


見知らぬ女の子は、尻もちを突きながら腰をさすっている。

転んだ拍子にぶつけたのだろう。


とはいえ俺も、尻を打って……はいないな。下に秋がいる。


「いってて!どけよ海!いつまで優雅に座ってるんだよ!」


なにが優雅にだ。ちょっと落ち着いて、足を組んで座ってただけだろう。


ここらでホットコーヒーで一息つきたい気分だな。


やれやれ。どいてやるか。


「あの……大丈夫ですか?」


秋の上からどいた俺は、とりあえず声をかけてみる。

この場合、声をかけるのが普通だろう。伊達男として。


すると見知らぬ女の子は、服についた埃を払いながら立ち上がり、俺の顔を見るなり衝撃発言の一歩手前の発言を。


『……こういうシチュエーション憧れてたんです。』


「……はい?」


俺は唖然とする。秋は倒れてる。琴音は恥ずかしがって陰で隠れてる。


その時、俺は気付いた。


「あ……この制服、ウチの高校の制服だよね?きみ、一年生?」


俺より年上には見えない。でも、同じ学年でも見かけない顔だ。つまりは一年か?という事だ。


だがしかし彼女は。


『このシチュエーションでこの言葉……。まさしく恋愛の王道の方ですね!』


「はぁ!?」


急に声を荒げ、なんか興奮して俺の顔を見つめてくる。

俺とその子の距離は、あと10cmあるかないかだ。


整った顔立ち。綺麗な白い肌。とても手入れがされていると思われる、綺麗な黒髪だ。

後ろで二つに結ってある。背丈は琴音よりもやや高いぐらいだろうか?


とても美人な部類に入るだろう。だが、問題はそこじゃない。


あらい鼻息が、俺の顔にかかる。妙に気合の入った瞳の奥では、真っ赤な情熱の炎が燃えているだろう。


その他もろもろを合わせた結果、こいつもオメガと同じ、残念系に振り分けられる。


……って、長いな!


「あの……ち、近いんですけど」


こんなに女子に接近された事がない俺は、女子に対して免疫が少ない。

なんか知らんが緊張するな。


『ふふふ。やっと見つけました。まぁ、ルックスは残念ですが、まだ許せる範囲ですね』


なんか失礼な事を本人の目の前で暴露しながら、俺から離れてくれた。


「あの申し訳ないんですが、初対面でいきなりそれは無いんじゃないかと思うんですが……」


ん?まてよ?なんで俺がこんな奴に敬語使わにゃならんのだ。つい驚いてしまったが、意味が分からん。


「あの?ちょっと?聞いてるー?」


なんか急にうつむいたまま、黙ってしまった謎の女の子。


その時、俺はやばいものを聞いてしまった。


『ハァハァ。……やっと会えた。ハハハ。ユキのずっと望んでいたシチュエーション!』


ちょっとやだー!!ハァハァとか言っちゃってるよー!!助けてー。秋助けてー!!っていねぇし!!


ど、どこ行きやがった?……あ、いたよ。


俺が辺りを見回すと、琴音と一緒にニヤニヤしながら見つめている不審者が。


あの兄妹やだー!!俺に逃げ場はないんですかー!?琴音までニヤついてるよー!!


もうこの子には関わらない方がいい。俺の第6感にびしばし危険新号が来てる。

逃げよ。


『そこの殿方!!!』


「は、はいっ!!」


いきなり大声を出され、反射的に返事をしてしまった俺。

逃げるのミスッた!

どうしよう。声が裏返っちまった。かっこわりぃな。


だが女の子は、かまわず続ける。


『ハァハァ……ユキと付き合ってみませんか!?』


いきなり顔をあげ、いきなりの爆弾発言。


その顔は赤く染まり、口元はニヤつき、荒い鼻息と共に薄気味悪い笑いを浮かべている。


これがもし逆なら、俺は100%警察のお世話になっている事だろう。

こんな変態に、告白されてしまった。


俺の人生初告白の人が、こんな変態だとは認めたくない。死にたくなる。


「あ…え、その、初対面だし……」


そうだ。まだ初対面だ。お互い名前も知らんのに、この展開は早すぎる。

アンパンマンの飛行速度並みに速い。


『あ、それもそうですね。ごめんなさい。まず自己紹介をお願いします。詳しく。頭の先から足の先まで全部!!』


「はぁ!?」


おかしいぞ。こいつ頭おかしいぞ。いや、出会った直後からおかしいとは思った。でもおかしすぎるだろ。


「自分から名乗るのが、礼儀ってもんじゃないのか……?」


俺は言った。もう冷静を装うなんて事はしない。つーか出来ない。


『お、以外と武士タイプなんですね?いいでしょう。それが殿方の望みなら、ユキの身も心もすべてあなたに教えましょうです!!』


「やめろ!人様がきいたら誤解するような言い方はやめてくれ!!しかもここ学校の前だから!!」


冗談で言っている可能性のかけらもない真剣な表情。だから余計に困る。


『えーこほん。』


目の前の少女が軽く咳ばらいをし、言った。


「ユキは…ちがった、私は白河(しらかわ) (ゆき)と申しますです!まだ15歳ですが、立派なレディです!誕生日は12月9日!射手座なんです!ぜひユ…私のハートを殿方の矢で打ち抜いてください!!」


「いや意味分かんないから!!それって口説き文句!?」


「そうです。ユキの心はすでに殿方に奪われましたです。だからユキと付き合いなさいです!!」


「命令かよ!!俺に拒否権は!?」


「ありますよ!です。」


「あ、あるんだ。」


「だって、殿方にも心の準備が必要ですよね?なら、ユ…私はいつまでだって待ってます♪」


「拒否出来てねーじゃん!!いつか付き合わされんじゃん!!」


「そーですけど?」


もーやだよこの子。この子怖いよ。とても嬉しそうな笑顔だよ。


俺の何が気に行ったんだよ。もーゆるしてー!!15歳でしょ!?どう道を踏み誤ったらこの子が誕生するのか教えてくれよー!!


「えっと、その…白河って言ったっけか?」


「やめて下さいよぉ白河なんて!他人行儀すぎますですよ!ちゃんと恋人らしく、ユキって名前で呼んでください!キャーー!!」


なんか勝手に盛り上がっている雪とかいう変人。


こりゃ痛いな。


「とりあえず白河。俺学校あるから!大幅に遅刻だし、俺行ってもいいかな?」


「あ、どうぞです。また後日お会いしましょう!」


あわねぇよ。二度とあわねぇよ。


「はいはい。じゃあな!」


俺は全速力で走り出す。……つもりだったのに。


「あ、ちょっと待って下さいです!」


なんだよ。


「あ?なんだよ?」


「いまさらなんですが、殿方のお名前を教えて頂けないでしょうか?です」


すっごい今更だなおい。順番が大きく狂ってるぞ。


「俺は海!山空 海だ!じゃあな」


俺は逃げるように走り去る。……予定だったのに。


「海さん。はい!覚えましたです!……あ、それともう一ついいですか?」


おい。


「なんだよ?まだなんか用かよ?」


「あ、です。この制服の高校ってどの辺りでしょうか?です。」


おいおい。マジかよ。


「……はぁ、俺もそこの高校だ。つーかここだ」


俺は学校を指差した。


そう。中学の方を。


「あ、そこに!気付きませんでしたー!ユキはドジですね。ありがとうです!それじゃあまたあとでです!!」


そういって、学校内へと走って行った。そう。中学に。


俺は当然、高校へGOだ。



なんか、とてつもない嫌な予感がする。


あいつから逃れられないような、そんな気がする。……考えすぎか。


ないない。あり得ないな。


「俺を忘れるなこらぁ!」


あ、秋だ。


こうして俺は、高校へと一歩踏み出したのだった。



第二十六話 完

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