第二十四話~え?宿題!?そんな事よりしりをとれ!!~
八月中旬。
この前八月に入ったばかりかと思ったが、やはり時が経つのは早いものだ。
俺の高校は前後期制。
三学期制ではない。
まぁ、一、二、三学期になるか、前期、後期になるかの違いだ。
でも前後期制ってのは皮肉なもんで、夏休みの終了が早い。
8月の24日。
この日が登校日。
いやー悲しいねー。
で、現在15日なわけで。
残り八日。
そしたらまた、あの地獄の日々が始まる。
そして。
夏休みに入ってから浮かれていて、すっかり忘れていたわけだ。
宿題。
そう、宿題だ。
なぜ高校生にもなって、宿題をせにぁならんのか。
一年の頃、担任に問い詰めた事があった。
『えー。夏休みだからと言って、遊び呆けていてはいけないぞ!だが、彼女さんとは仲良くしなければなるまい。その場合許可する。大事にしてあげなさい!』
『せんせー!質問いいですかー?』
『なんだ山空?』
『夏休みの宿題、やらなくてもいいですかー?』
『ほほう。なぜだ山空』
『今の俺には、家庭の事情で宿題に使っている時間がないんです!!』
『ん?何かあったのか?』
『はい、実は。青春のひと夏を無駄にしたくないんです!!』
『……で、それのどこに家庭の事情が含まれているというんだ。えぇ?山空!』
『なに言ってんすかせんせー!!俺が将来受け持つ事になる愛すべき家族達に、俺の青春のひと夏の話で盛り上がるためですよ!もろ家庭の事情じゃないですか!!』
『……そうか、わかった。山空がそこまで考えていたとは思いもしなかったぞ。先生驚いた』
『じ、じゃあ!』
『ああ。山空は夏休み中、毎日先生と勉強したいらしいな!そこまで考えていたなら仕方がない。先生も頑張っちゃうぞ?なぁ、山空?』
『ゆるしてください』
『なら、宿題をやってきなさい。先生待ってるぞー?』
『……はい』
そんな感じで、上手く丸められてしまったわけだ。
普通なら、そこで笑いの一つでも起きそうなんだが。
なにぶん、俺は嫌われているらしいからな。
『つまらねー』だの。
『冗談じゃないよねー』だの。
俺に聞こえるように、わざと陰口をたたく連中。
どうしてこうなるのかねぇ。
親が金持ちだというだけで。
俺だって金に困っとるのに。
まぁ、別に好かれようとも思わないけどな。
っと、話を戻すと、宿題が溜まっている訳だよ。
やってなかったから。
このままやって行かなくてもいいのだが、担任になんて言われるか。
トイレ掃除一カ月はくだらないだろう。
ちなみに、担任は西崎 郷介。
通称、西郷。
まぁ、ただの愉快なお気楽教師だ。
そいつに捕まった日には、もうえらい事になりかねない。
だから、俺は宿題をやるのだ。
秋達を呼んで。
第二十三話
~え?宿題!?そんな事よりしりをとれ!!~
「俺っちだよ!!秋くんだよ!!」
秋がなんか変なキャラを作ってやってきた。
さすが目立ちたがりだ。
目立ちたがりーだ。
今日からこいつはガリーと呼ぼう。
「誰だよガリーって。」
「お前の事だよ。……まぁ、とりあえず上がってくれ」
とりあえず家にあげる。
「私もついでに来ちゃった♪」
「ただちにお帰り下さい」
「なんでっ!?」
「冗談だ。いつもの仕返しだよ!」
いつも琴音のさりげない嘘に騙されているからな。
仕返しってのは、返せるときに返しておくものなのだよ!!
「太陽を指差してポーズなんか決めてないで、宿題やるならやっちゃおーよ」
ぐっ、うるさいな琴音は。
いいだろう、ポーズぐらい自由にさせてもらってもいいだろう。
まったく。
とりあえず、いつもの流れでリビングへと案内する。
なぜいつもリビングなのか。
クーラーがここしかないのだよ。
他の部屋という部屋は扇風機のみだからな。
「へ?お前の部屋にもエアコン付いてたろ?」
「そこっ!!だまりんしゃい!」
確かについてる事にはついているが。
思春期の男子たるもの、自分の部屋にはあまり人をあげたくないのがセオリーというもので……
「まったく。ウチは散らかさないって言ってるんヨ!!」
「信じられるか!!俺の部屋に置いてある物は、デリケートな物ばかりなんだよ!!それを落としたりなんかしちゃった日にゃ、俺多分生ける屍と化しちゃうからね!?」
PCだってあるし、あとは、えーと……い、色々あるんだ!!
「でも寝る時は部屋で寝かせてるだろうに」
オメガが言った。
「うるさいな!寝るときぐらいは良いんだよ!!リビングじゃ可哀そうだろ!!」
「僕は庭なのにか?」
「最近は、俺の部屋のクローゼットで寝てるだろ!?この前、中を確認したらえらい事になってたぞ!!」
そう、俺のクローゼット。
いつもは、ゲーム機やらでいっぱいだったのに。
この前見たとき驚いたぜ。
フィギュア。ポスター。CDにDVD。なんか小型のテレビまで置いてあった。
しかも地味に面積が広くなっていた。
人が三人入るといっぱいになるようなクローゼットが、跳んだり跳ねたり走ったりしても大丈夫なくらい。
広さ的には、八畳ぐらいか?
そのくらい広くなっていた。
正直、俺の部屋より快適そうだ。
そして何より。
「俺の部屋より広いのが許せん!!」
俺の部屋は六畳。
地味に二畳負けている。
「山空。部屋というものはだな。広ければいいってもんでもないんだよ。掃除は時間かかるし、一人でいるとさびしいくらいにね。」
「なら交換しろよ!!俺の部屋なんてくれてやるよ!!」
「おい海。ちょっと待て。恭平はどうやって面積を広くしたんだ?」
ちっ、なんだよ秋。
そんな常識的な質問しか出来ないのか。
それだからお前は目立てないんだ。
目立てないんだー
お前は今から、ナインダーな?
「だからナインダーって誰だよ。」
「テメェだよ」
「もーうるさい。結局どうやったのか教えてよメガ兄ぃ」
「うむ、実はあったんだよ」
は?あった?
「何がだよ?」
「もう一つ部屋が」
「へ?お前何言ってんの?」
部屋がもう一つあった?
そんなわけがな……あ。
そういえば確か昔、お袋が言っていたような気がするな……―――
―――……
『ねえ海くん!実は、このお家にもう一つお部屋があるのよー!』
あ、これ、俺の母さんな?
息子にくんをつけて呼ぶ、ある意味謎めいた部類の母だ。
ちなみに、この時の俺は中一だ。
そんな俺にむかって、お家だのお部屋だのって言ってるんだ。
俺をなんだと思っていやがるんだよ。
『え?母さんってもしかしてアホなの?』
『アホじゃないわよ失礼ね!真面目に言ってるのよっ!』
どこかほわっとしている母さんは、のーてんきというか、気楽というか。
ちなみにこの時、親父はすでに海外にいて、母さんは俺が高校上がると同時に親父と同じ海外へ。
正直、俺は嬉しかったんだよな。
一人暮らしは憧れだったし。
だから、すぐにOKしたんだ。
って、俺の一人暮らし事情はどうでもええねん。
今は部屋の事だ。
『だけどね母さん。我が家に隠し部屋があるなんて普通信じないよ?』
『本当にあるんだからっ!!何処か忘れたけど』
『忘れちゃったら意味ないじゃん!!』
『そうねぇー。これは聞かなかった事に。』
『なんでやねん!!』
そんな流れで、話は終わった。
まさか本当にあるとは思わなかった。
隠し部屋作るなんて、無駄に金遣いあらいな。
「そんな訳だから、あそこは僕の部屋ね」
「どんなわけだ!!……まぁ、どうせ使わなかったんだし。良しとしよう」
俺って優しすぎるな。
自称!優しさハンター!!
「おいおい、それじゃー、優しさの狩り人になるぞ。もろ悪魔じゃねぇか」
ちっ、秋がうるさい。
いちいち俺にけち付けやがって。
反対大好き人間か?
その考えはんたーい!
もうこいつ、ハンターで良いよ
「ハンターはお前だろうが!!」
「はいはいそこまでねー!ほら、勉強するよ!!さっさとしなさい!!」
「オカンか!!お前はオカンか!!」
「海兄ぃ。うるさいよ?」
「ごめんなさい」
琴音が、拳を俺に見せた。
殴るぞアピールだ。
おお、怖い怖い
まぁ、とりあえず宿題の片づけだなぁ。
俺達は、テーブルの周りに座り、それぞれ宿題を広げる。
――――それから三十分後。
「秋ー。ここ分からんのですが!」
「あー、俺も分からん!!」
「秋兄ぃー。英語やめたい!」
「おいおい。琴音。がんばろうぜ!この優秀な兄貴がついている!!」
「お前についてるのは背後霊だけだろ?」
「や、やめろよお前!?トイレ行けなくなるだろ!?」
「お前はガキか!!」
「キョウヘイなら分かるんじゃないんヨか?」
「おお!おいオメガ。ここわかるか?」
「宿題は自分でやるものなり。」
「そこをなんとか頼むよ!」
「うーむ。仕方がないな。かしてみそ?」
「ほれ。」
「ここは、これだろう」
「おい!オメガ凄いな!!」
「ああ、恭平天才だ!!」
「やっぱりキョウヘイは天才だったんヨねー」
「ちょっと待って。答えが分からないのに、なぜメガ兄ぃが当たってるってわかるの?」
「あーそうだな。もしかしたら間違ってるかも。」
「答え見ちゃおうぜ!海!!」
「……ですなぁ!!」
「うわぁー。インチキだー。私だって英語頑張っているのに。」
「コトネ。こいつらはこういう奴なんヨ」
「うむ。誠に残念な人たちナリ」
「恭平だけには言われたくねぇよ!!」
「てか英語むりー!」
「ファイトなんヨ!」
「大体、日本人が英語覚えてどうするのよ。もう、英語考えた人マジ死んで」
「琴音がなんかやばい子になってきたぞ」
~それから十分後~
「だめだ。宿題だめだ」
「そうだな。だめだ」
「泣きたくなるね」
「よし、宿題やめよう!!怒られたって知るか!!」
「俺もそう思ってた所だ!!」
「実は私も!!」
「よし、じゃあ終了な」
そんな感じで、宿題終了。
「ものすっごい適当なんヨねー」
エメリィーヌが呆れた目で俺達を見る。
大丈夫だエメリィーヌ。
お前も多分苦しむ時が来るさ。
宿題があれば。
「とりあえず暇になったなーどうする?」
「こういうときはしりとりだろ」
「なぜ?」
「知らないのか琴音?しりとりしてたらいい事が思い浮かぶんだよ」
「初耳やねん」
「恭平も参加しろー!!」
「うむ」
「ウチもやるんヨー!」
「良し」
「じゃあ俺からな?しりとりのりからで。」
「おう」
えーっと、リンゴだと面白みがないからな。
何かもっといい物を。
えー、り、り、
「リング!」
どうだ!
これはなかなか良いだろう。
「次私ねー。グミ!」
お、可愛らしいな。
「じゃあ俺な?みず!」
ふつー。
こいつ普通すぎるな。
まぁいいや。
「ウチなんヨねー。ズキワ草!」
は!?ずきわそう!?
なんだそりゃ。
「それは知らんぞ!!」
「ウチの星では有名なんヨ!!」
しらねぇー。
そんな事情しらねー。
「まぁ、良いじゃないか。ハンデだ。」
秋が言った。
まぁ、しょうがない。
いいだろう。
「僕の番だね?う、浮世丸草之助」
「誰!?浮世丸って誰!?」
「しらないのか、浮世丸草之助を。」
「しらねぇよ!!ふざけんな!!」
浮世丸草之助って何さ。
「なんのアニメか教えてもらおうか。本当にあるのか確認するために」
「ああ、良いだろう。中学の頃に苛められていた少年が、野球選手を目指すという」
「浮世丸草之助が野球選手!?昔の侍とかではなく!?」
「いやちがう。主人公はサトシという平凡な少年で、浮世丸草之助は監督だ」
「監督!?浮世丸監督!?」
おい大丈夫か監督。
今すぐに改名するべきだ。
とりあえず、続けよう。
「なんとなく分かったから、続ける事にする。くさのすけだから『け』か」
け、け、け、けけけけケケケケケ。
違う違う。
け、け?
あ、あれか。
「毛虫!!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「琴音!?どうした!!」
突然叫び出した琴音。
すると秋が言った。
「海!琴音に虫は駄目だ!!聞いただけでパニくるぞ!!」
まじかよ。
「じゃあ、虫ワード禁止!!」
「琴音落ち着けぇ!!」
「はぁ、はぁ、も、もう大丈夫!」
よかった。
琴音が昇天しそうになった。
しりとりで警察に捕まる所だった。
「とりあえず、琴音だ。『し』」
「し?し、出血多量!」
なぜそのチョイスだ!!
琴音、もっとあったろう!!
「とりあえず俺な?牛!」
ふつー。
なにこいつ、ふつー。
次はエメリィーヌだ。
「静まるべき三十七歩の闇!!」
「なにそれ!?」
「ウチの好きな本の名前なんヨ」
おいおい、なんちゅー本読んでる。
三十七歩でなにが起きるんだよ。
教えてくれ。
「次は僕だね。見切り発射の三十七分前!」
「また三十七か!!なにがあった!?三十七になにがあった!?」
激しいツッコミの秋。
琴音おとなしいな。
って、おれか。『え』か。
なんかかっこいいの無いかなー?
えかー。えー。え?え。
「エキサイティング!!」
これかっけぇだろ!!
まちがいねぇだろ!!
「かっこよくねーよ。」
なんだと。
ふざけんな。
「じゃあ次ね。ぐ、紅蓮の炎!!」
「かっけぇ!!!琴音のほうがカッケェ!!!」
「ぐっ、うるさいんだよ秋!!黙れ地味人間!!」
「地味じゃねぇよ!!」
「いいや、地味だね!じゃあ、地味じゃないの言ってみろよ!!」
「ああ、まかせろ。『お』だろ?お、お」
「早く行ってみろよ!この俺をうならせるような単語を!!」
「陰陽師の門に蓬絶えず!!」
「へ?お前なんていった?そんなもんねぇよ!!」
なんだよ。オン幼児って。
切り替えが凄い幼児?
いみわからん。
「いや山空。ことわざ辞典にちゃんと載ってるぞ?」
「うそでしょ!?」
「えーと、『日が悪いとか、忌み日だなどと占いごとをかついでいると、門前の草をとることもできない。 何も出来なくなるということ。 』らしい。」
らしいって、意味分からんし!
それに、
「なんで秋がそんなのしってるんだ!!」
「ふふふ。日々目立つために努力をしているからさ!!」
「この前テレビでやってたんだよ」
「おい琴音!」
なんだやっぱりそうか。
ビックリしたよ。
カッコよすぎてびっくりしたよ。
「じゃあ、次、エメリィーヌだ」
「『ず』なんヨねー?頭巾村!」
「でたよ。オリジナリティー溢れる村が出たよ。」
なに頭巾村って。
魔界村のパクリゲー?
もうしりとりじゃないだろ。
「とりあえず、なんだそれ?」
秋が聞いた。
「頭巾村は、ウチが好きな絵本のタイトルなんヨ!!」
「絵本だったの!?頭巾村が!?魔界村のパクリじゃなかったの!?」
「おい海!!俺のツッコミを取るな!!」
ツッコミは誰の物でもねぇだろ。
てか、琴音おとなしいな。
「次は僕だね。ライム印の赤コーナー!!」
「だからなにそれ!?お前もうないだろ!!聞いたことねぇモン!!」
大体なんだよ。ライム印って。
赤コーナーも気になるし。
ライム印という会社が作った赤コーナー?
言ってて意味不明だよ。
「これは、ライムが大好きなボクサーの物語だよ!!」
「知らんがなっ!!」
秋がツッコむ。
「とりあえず、琴音の番だぞ。」
「この場合どうするの?『な』?『あ』?」
「違うぞ琴音。『なー』だ。」
「いや無理でしょ。」
「いや頑張れよ」
「なー?なー。なーまたまご!!」
「どこの人だよ!?なーまたまごってなに!?なーまってなに!?」
秋すげぇな。
一つの事でそこまでツッコめるなんて。
「………ナース!」
「え!?俺のツッコミスルー!?ドライブスルーの如くスルー!?」
「うるせぇよ秋!とりあえず落ち着け」
「あ、ああ。『す』な?」
「いっとけど、かっこいい言葉じゃないとダメな?」
「なんでだよ。まぁいいか、す、す、すし職人!!!………もどき!!」
「ずうずうしいなお前!!なんだよもどきって!?」
「職人かと思ったら、違ったんだよ!!!」
「無理があるよ秋兄ぃ」
「うるさいな!!一度ぐらいいいだろ!?」
「うるさいのはお前だ。騒ぎ過ぎだ。…でもまぁ、許可してやろう。」
「お、おう!」
「じゃあ俺な。『き』だから騎士!!」
どうだ。なかなかのカッコよさ。
「『し』なんヨかー。あ、宿題しなくて良いんヨか?」
どうやら、『し』で思い出したらしい。
「………」
「………」
「……しりとり、やめようよ」
「……そうだな。」
「…ああ」
エメリィーヌの一言でしりとりは終わり、また地獄の時間が始まったのだった。
第二十三話 完