第22.5話 その2~決着!これがみんなの力~
後編です
『ドコッ』
と、音が聞こえた。
私は慌ててその方向に視線を移す。
鼻を押さえている金髪の不良。
拳を前に出している秋兄ぃ。
どうやら、秋兄ぃが殴ったみたい。
正直、私は驚いた。
あの秋兄ぃが、人を殴る。
そんな事初めてだったから。
だけど。
「海!今がチャンスだ!!!俺と一緒に……ってあれ!?」
この言葉で、なぜ殴ったのかが理解できた。
海兄ぃがいるので安心したのだろう。
だけど海兄ぃは、一人で違う方向に走って行ってしまった。
なんでだろう。理由は分からないが、多分何か思いついたんだと思う。
『ふふふ。ビビリのくせに良いパンチ持ってんじゃねぇか』
金髪の不良が言った。
『大丈夫かお前?鼻血出てるぞ』
『ああ、鼻血が出ちまったんだよ。たぁっっっぷり、お礼をしてあげないとなぁ?』
『へへっ。そうだな。こいつには、絶対にしてはいけない事をしたということを、たっぷりと教え込んでやらなくちゃなぁ?』
ちょっと!?大丈夫秋兄ぃ!?
また震えてきてるよ!?
海兄ぃがいないと分かり、不良に睨まれて震えだす秋兄ぃ。
どうしよう。
私も怖くて動けないや。
海兄ぃ!何かするなら早く!!
その時、秋兄ぃが喋り出す。
「あーえっと、大丈夫で『あ゛ぁ゛!?』…じゃないですよね…当然……」
あちゃー。だめだ。
すっかり弱気だよ。
声が震えてるもの。
そんな秋兄ぃに向かって、とうとう不良が腕を振り上げた。
『こいつ全然反省してねぇようだな。俺と同じ目にあわせてやるよ。くたばれや!!』
まっすぐ、秋兄ぃの顔めがけて殴りかかる金髪の不良。
ってちょっと待ってよ!
危ない!!
第22.5話 後編!VS不良
~決着!これがみんなの力~
「秋兄ぃ!!!!」
私は叫んだ。
なぜか。それは、秋兄ぃの横から、黒髪の不良も殴りかかっていたからだ。
秋兄ぃはそれに気付いていないみたい。
危ない!
私は、怖くなって目をつむってしまった。
「うわぁぁ!!」
秋兄ぃの悲鳴。
『ドゴッ』
『バキッ』
そのあとに、殴られたときにしか聞こえないはずの音が。
私は、目を開けるのが怖かった。
目を閉じているので、視界での情報がない。
聞こえるのは音だけ。
だがそのあとに、不良の声が。
『いてぇぇぇ!!テメェなにしやがんだ!!』
『くそったれめ!!』
そう、きこえた。
私は、ゆっくりと目を開けてみる。
するとそこには、恐怖でうずくまっている秋兄ぃ。
そして、おたがい顔を押さえている不良たちの姿。
どうやら、急にしゃがんだので、不良同士で殴りあってしまったらしい。
運がいいのか悪いのか。
「いてぇ!!死ぬ!!!俺死んだかもしれない!!」
と、情けない声が響く。
え!?よけてないの!?当たっちゃったの!?
秋兄ぃ!!!!!
私はとても心配になったが、メガ兄ぃが言った。
「竹田兄!きみには一発も当たっていないぞ!!」
ないのかよっ!!
「え!?あ、ほ、ホントだ。生きてる。俺生きてるぞ琴音!!」
「ちょっと大丈夫!?逃げようよ!!ほら!今のうちに!!」
今なら逃げれるよ!今なら!
そう思って、必死に秋兄ぃに呼び掛ける。
だが。
「いやだ!琴音にあんなことしやがって。こいつらはゆるさねぇ!!」
と、なんかかっこいい事言っている。
だが、怯えたままだ。
さらに屈んだままだ。
声が震えている。
無理しなくてもいいのに。
『おいてめぇ、調子乗ってんじゃねぇぞ!!』
金髪の不良が、秋兄ぃの髪をつかんで、無理矢理立たせる。
黒髪の方は、まだ顔を押さえている。どうやら重症のようだ。
「ちょ、痛いから!自分で立つから!!ひー!!」
うわ。見事なまでの怯えっぷりだよ。
その秋兄ぃの言葉で、見事に火がついてしまった金髪の不良。
秋兄ぃの顔の前に、拳を突きだし脅している。
『その顔ムカつくなぁ?一発殴らせろや!!』
「へ?ちょ!怪我するよ!?鼻折れちゃうでしょ!?」
『くたばれぇ!!!』
そういって、秋兄ぃの髪を掴んだまま、思いっきり殴りかかる。
秋兄ぃ!!!!
私は、本気で涙があふれ出た。
私がもうちょっと戦えれば。
もうちょっと勇気が出せれば。
秋兄ぃだってこんな目にあわなかったはずなのに。
丁度その時だった。
「はい!どっかーん!!」
メガ兄ぃの声と同時に、金髪の不良の拳に青いスライムがつく。
それとほぼ同時に、不良が秋兄ぃを殴った。
「ギャース!!」
秋兄ぃの変な叫び声が聞こえたが、それとは裏腹にびくともしていない。
私が困惑していると、メガ兄ぃが言った。
「これは、『衝撃吸収スライムレーザー銃』だよ。衝撃緩和クリームのスライム板だと思ってくれていい。殴る衝撃と、殴られた衝撃を吸収した。すなわち、衝撃をゼロに近い事になる」
「メガ兄ぃ!ナイス!!」
すごいや。メガ兄ぃ。
衝撃…緩和…って。
私は気付いてしまった。
なので、メガ兄ぃに確認を取ってみる。
「もしかして、クリームのほう塗ってるなら殴られても平気なんじゃ……?」
そうだよ、クリームは確か塗ってたはず。
なら大丈夫なはずじゃ……
するとメガ兄ぃは少し考えた後言った。
「あ……そうだね」
やっぱり!
なら秋兄ぃに教えてあげなくちゃ!!
「秋兄ぃ!!」
私は、秋兄いに呼び掛ける。
すると、秋兄ぃがこちらを見た。
「こ、琴音!危ないからさがってろ!!」
っておい。違うんだよ。
全くしょうがないな。
「秋に『てめぇ、いい加減にせぇや!!!』
とうとう痺れを切らした金髪の不良が、私の言葉にかぶせるように言った。
『おい後ろのクソ兄貴の妹さんよぉ!これから兄貴がぼこられる姿を見てやがれ!!』
クソ兄貴!?
秋兄ぃが!?
ふざけないでよ。少し怒るよ?
私は、不良の言葉で、恐怖心よりもムカつきが上回った。
『ふざけ「ふざけないで!」
私は、秋兄ぃより先に言った。
いや、かぶせてしまったのだが。
今はそれどころじゃない。
秋兄ぃが弱いだなんて。黙っていられるわけがないよ!!
「あんたら不良に、私のお兄ちゃんを馬鹿にする資格なんてないよ!!……それに…あなた達は負けてるよ」
そう。私は分かってるよ。
『はぁ!?なに言ってんだテメェ?こんな腰抜け兄貴のなに負けてるってんだ!?』
分からないの?
まぁ、それも仕方がないこと。
それが分からない時点で、あんた達は負けてるんだよ。
私は、不良たちに言った!
「それは腰抜けっぷりさ!」
「ちょっと今いい所なんだから!メガ兄ぃは黙ってて!」
まったく。メガ兄ぃはどっちの味方なのよ。
『で?どこが負けてるって?』
はぁ、しょうがないね。
教えてあげよう。
私って優しい。
私はその場でゆっくり立ち上がる。
「どこが負けてるか、それは全部だよ。」
『はぁ?意味が分かんねー。俺のどこがこいつに負けてるってんだよ!!』
「秋兄ぃは、あんた等みたいに人を傷つけないし。少しヘタレだけど、それでも立ち向かってるよ。それがたとえ、どんなに強くても。それがたとえ、絶対かないそうもなくても。誰かを守るために立ち向かっている秋兄ぃは、どこの誰よりも立派だよ!!!」
私は、鋭い目で金髪の不良を睨みつける。
するとその時だった。
『いい加減にしやがれ。なに勝手な事ぬかしてんだ!このクソ女ぁぁぁ!!!!』
ずっとうずくまっていた黒髪の不良が、私に向かって走って来る。
その手には、鉄の棒のようなものを持って。
いったい、どこからあんな物を。
……ん?ああ、あっちのやつか。
さっきまで黒髪の不良がうずくまっていた付近に、建築材料らしきものが大量に置いてある所がある。
そこの一つを持ってきたのだと思う。
『うぉぉぉ!!!』
声を荒げて、鉄の棒を振り上げて走って来る。
うわっ!もうこんな近くに。
「琴音ちゃん!?」
メガ兄ぃがそういって、立ち上がろうとしている。
そんなメガ兄ぃに、私は優しく言った。
「大丈夫。こんな奴らに負けないよ」
『くたばれぇえ!』
黒髪の不良が、鉄の棒を振り上げ、私の頭めがけて殴ろうとしてくる。
これ当たったら死んじゃうじゃん。
この人たちは大丈夫なのかな。誰か死んじゃったらえらいことだよ?
『ガキッ』
そう音がする。
『なっ!?』
黒髪の不良が驚く。
頭の上で腕を組み、鉄の棒を止める。
っ!!結構痛い!
ちょっとむかついた。
「はぁぁぁ!!!」
『がっ!!』
………―――――
琴音の言葉で、すっかり震えが止まった。
ありがとう琴音。
スッキリしたぜ!
もう俺は、こんな奴らにビビったりしない。
『うおぉぉ!!』
そういって、黒髪不良が琴音に突っ込んでいく。
そして琴音は、全く動じずに無言で睨みつけている。
あれは、琴音が本気の時だ。
あいつは、本気の時は無言になる。
とても怖い。
『おい、助けねぇと。死ぬぞ?』
目の前の金髪不良が俺に言った。
おいおい何言ってるんだ。
逆にお前らのほうが心配だぞ。
「まぁまぁ、お互い、向こうが決着つくまで一時休戦としようぜ?」
『な、お前は妹を見捨てるつもりか!?』
「それはどうかな?ほら、見てみろって」
俺が言うと、驚きながらも、琴音達を見る金髪不良。
俺が急に強気になったもんだから、とても驚いていやがる。
『くたばれぇえ!』
黒髪の不良が、鉄の棒を振り上げ、琴音の頭めがけて殴ろうとしている。
その時やっと、琴音が動き出した。
『ガキッ』
見事なまでに、華麗に受け止める。
『なっ!?』
黒髪不良が驚いている。
そりゃそうだ。
頭の上で腕を組み、鉄の棒を止める琴音。
あんな小さい女の子が、メチャクチャ強いなんて思ってもみないだろう。
鉄の棒止めた時、琴音の蚊をが少し引きつる。
多分痛かったのだろう。
そりゃそうだよ。鉄の棒なんだから。
ほら、琴音がキレた。
表情が変わったよ。
「はぁぁぁ!!!」
気合と共に、相手の鳩尾に蹴りを入れる琴音。
『がっ!!』
鉄の棒を振り上げていたため、もろクリーンヒット。
それをくらった黒髪不良は、鉄の棒を放し、その場にうずくまる。
だが、そこで終わる琴音ではない。
終わったためしがない。
これは体験談だ。
『グホッ!?』
うずくまっている不良の背中に、肘鉄をくれる。
相手が倒れた所で、琴音は髪をつかみ上げ、無理矢理立たせる。
ナイスなお力で。
不良は、先ほどのクリーンヒットの恐怖からか、腹をガードしている。
「はぁぁ!!」
『うぐっ!!!』
だが琴音は、思いっきりあごにアッパー。
「はっ!!」
『ボグフォ!!!!』
そのあと、隙だらけになった腹に正拳突きをくれた。
少し吹っ飛び、床に倒れこむ不良。
その間。わずか五秒。
恐るべき早業。
あっぱれ。
普段見慣れている俺とは違い、金髪不良、そして恭平までもが驚いている。
『おい……あいつ、あんなに強かったのか!?』
「ああ、そうなんだよなぁ。俺も苦労させられるんだよ。あ、死んじゃいないから安心しな。琴音は手加減してたしな」
『あれでか!?お前の妹おかしいぞ!!』
「だよなー。いつも大変なんだよ。これが。」
って、俺はなに仲良く会話してるんだ。
「じゃあ秋兄ぃ、後はその人を」
って嘘だろ!?
あの黒髪の野郎、まだ立ちやがる。
タフすぎるだろ。
しかも琴音気付いてねーよ!?
俺は慌てて、琴音に教えようとしたが。
「ことっモグフォ」
『へへっ、ちょっくら黙っていてもらおうか』
俺は、金髪野郎に口をふさがれ、喋る事が出来なかった。
「秋兄ぃ!この、秋兄ぃを放せ!!」
おい、こっち向かって来てるから!!
油断するな琴音!!
『ふふふ、死にさらせぇ!!』
そういって、琴音に殴りかかる不良。
琴音は、その時やっと気付いたようだ。
だがもう遅い。
だめだ!!よけれない!!
そう思った時。
「はい、またまたどっかーん!」
『ベチョ』
そういって恭平が、黒髪不良の振り上げている腕にあの青いスライム。
当然、衝撃緩和!
「メガ兄ぃ!ありがとう!」
『くそ!!あいつをねらえ!!』
黒髪が、恭平のもとへ。
くそっ!あいつじゃ不安だ!!
「もが!もがが!!」
『ほらほら、暴れるんじゃねぇよ』
そういって、薄気味わるい笑みを浮かべる金髪。
だが、琴音が追いかけている。
なんとか大丈夫そうか?
するとその時、恭平がかばんから何かを取り出す。
それもやはり、銃のようだ。
いや、バズーカか?
大きい筒状の銃。
そしてそれを。
「あたれぇ!どっかーん!!」
『あぶねぇ!!』
バズーカ砲の中から、白い球体が飛び出す。
そして、不良の足元へと飛んでいくが、ジャンプで回避されてしまった。
「いかんぞ!ミスッたわ!!」
『くたばれぇ!!』
そういって、黒髪不良が蹴りかかった。
『――念力』
「なぬっ!?」
『へっ、どうだ!!』
恭平の体は、吹っ飛んでいく。
だが、吹っ飛んで行く方向がおかしい。
真横。
正面から蹴られたはずなのに、真横に飛んでいく。
いや、吹っ飛んではいない。
静かに移動した。
その方が正しいかもしれない。
そう、こんなこと出来るのは。
「大丈夫なんヨかー!?」
「むぐふぉ(エメリィーヌ)!!」
「エメル!!」
「エメリィちゃん!!」
そう、エメリィーヌだ。
エメリィーヌが、超能力で助けた。
おかげで、オメガは無事だ。
「エメリィちゃ『ベチャ』…あ」
エメリィーヌの所に走り出そうとした琴音が、恭平のミスした何かを踏む。
「うわっ!なにこれ!!動けないんだけど!?」
「説明しよう!!先ほど僕が撃ったのは、『とりもちバズーカ砲』といって、あたった相手の動きを制限する効果を持っている。まぁ、とりもちだね。粘着力凄いね」
なるほど。
これで相手を動けなくしようってわけだったのか。
でもダメじゃん。
この中で多分、一番強い琴音を動けなくしちゃダメじゃん。
大事な所で使えないな。
てかこいつ、いつまで俺の口をふさいでやがる!
ふざけるんじゃねぇ。
『ドコッ』
『ウグッ』
俺は、金髪不良の顔面に裏拳を決めた。
すると、不良が俺を放した。
「よっしゃ、エメリィーヌ!黒髪を頼んだぞ!」
「良く分かんないけど任せるんヨ!」
「恭平は琴音の開放に全力を注げ!!」
「うむ!」
「琴音はとりあえず応援よろしく。」
「えー」
くそ、こんなときに海はなにしてるんだよ!?
俺が思っていると、ふと海の声が聞こえた気がした。
『――待ちやがれぇぇ!』
おれは、声のした方を見てみる。
すると。
ウォータースライダーの所に、海らしき姿が。
え?嘘でしょ?
あいつ何やってんの?
遊んでるじゃん。
何やってんだあいつ!!
後で殴る。
『なにカッコつけてるんだよこの野郎!!』
さっきまで痛がっていた金髪不良が、俺を睨みつけてくる。
うお!?迫力がやばい。
「秋兄ぃ!!クリーム塗ったの!?」
急に琴音が言いだす。
ん?クリーム?
クリーム……クリーム…あ!?
そうだった。クリームだよ。
衝撃緩和クリーム!
殴られても平気じゃんか。
でも待てよ?
もしかしたら、効果ないんじゃ?
もう落ちてるとか。
ためしてみるか。
「おい金髪。お前に頼みがある」
『あ!?なんだってんだ!?』
「ちょっとこの辺殴ってくれない?」
そう言って、俺は腹を指差す。
すると、とても驚いたようだった。
よく見ると、琴音達もポカーンとしている。
『はぁ!?なに言ってんだお前!?正気か?』
「うるせぇな。ごちゃごちゃ言ってねぇで早くやれよ!!」
こっちだって怖いんだから。
『え、よくわかんねぇが、お望み通り殴ってやるよ!!』
そう言って、腕を振り上げる金髪。
『だが、こっちにな』
『ボゴッ』
俺の顔面に、思いっきり殴って来やがった。
だけど。
「……ふっふっふっふ。きかねぇなぁ?きかねぇよ!!」
『な、なんだと!?そ、そんなはずは』
驚いたぜ。全く痛くない。
恭平。お前天才だわ。
クリームの存在を知らない金髪は、きみの悪い物でも見るような目で、俺を見ている。
そして、明らかにやけくそであろうパンチを繰り出す。
『く、くそがぁ!!!アタタタタタタタタタ』
「ふふふ。俺は無敵だ!!効かないね。たとえ何発くらおうが、俺は無傷だ」
痛くないって素晴らしい。
怪我しないって素晴らしい。
もう俺には、恐怖心は無く。
あるのは、優越感と、こいつをぶっ飛ばせるという嬉しさだけだった。
「ほらほら、顔ががら空きだっ!!」
『ボコッ』
俺は、顔面を殴った。
『グハッ!!』
その一撃が、相手を冷静にさせてしまったのだろうか。
水着のポケットから、何かを取り出し始める。
ちなみに、恭平以外はポカーンとしたままだ。
黒髪の不良まで。
『なるほどねぇ。おかしいと思ったら。そこのメガネ野郎が何かしやがったな?』
鋭いなコイツ。
どんだけ頭がキレるねん。
『殴っただけじゃだめだった。なら、コイツァどうだ?』
そう言って俺に見せつけてくる。
……なにコレ。
え?ナイフ?
スパッと切れる系のあれですか?
俺が凶器の登場に混乱していると、恭平が慌てて言った。
「竹田兄!!ナイフはまずい!普通に切れる!!」
『ふふふ。やはりそうか。なら、これで終わりだぁ!!』
そう言って、ナイフを振りかぶって来る金髪不良。
おい恭平。
言っちゃダメでしょ。
ってか危ないって。
ナイフ危ないよ。
でもあれだよなー。
痛いだろうな。
切れるんだもん。
いたいよ。
あーあー。可哀そうに。
あまりの出来事に、現実逃避しかけている俺。
そんな時。
「秋兄ぃ!!逃げてー!!!」
琴音の声が聞こえた。
「あぶねぇ!!」
俺は、そのおかげで間一髪でよける。
しっかりしろ俺!!
動きをよく見てかわすんだ。
大丈夫。俺なら出来る。
いつもお袋や琴音と格闘しているんだ。
こんな奴になんか負けない。
『くっそ、くらえ!』
不良がナイフを横になぎ払ってくる。
俺は、しゃがんで回避。
見える。
やばい見えちゃうよ。
相手の動きが。
俺って、いつの間にか鍛えられていたらしい。
不良が、振り下ろす。
「遅い!!」
俺は、不良の後ろに回り込んだ。
『くそっ!?どこだ!!』
「こっちだ馬鹿野郎!!」
俺は、無防備な背中を蹴りとばす。
やばい。俺強くね?
誰も俺にはかなわないぜ!!
「遅いぞ!!」
………―――――――
秋兄ぃが凄い。
とてもすごい。
攻撃を全部よけている。
その反射神経は秋兄ぃの凄さ。
でも、もう一つは違うよ。
「遅いぞ!!」
『い、いつのまに!?』
ほら。また。
「こっちだ!!」
『なんでそこに!!』
ほら今度も。
「くらえ!秋様のパンチ!!」
『こいついつのまに!!』
うん。絶対そうだ。
秋兄ぃ、影薄いから。
存在感がないから。
すぐに移動されると分からなくなるんだ。
気配を感じないみたいな?
まさか。こんなところで役に立つとは。
秋兄ぃ。そのステルス能力も便利じゃん。
もうノリノリで金髪の不良を殴り続ける秋兄ぃ。
可哀そうに。
こんなの、見えない敵と戦っているようなものじゃん。
私は、少し不良に同情してしまった。
すると、なんかエメリィちゃんのほうから足音がする。
私は、そのほうを見た。
すると。
「エメリィちゃん!!その人を止めて!!」
そう、秋兄ぃに夢中になっている間に、黒髪の不良が秋兄ぃに向かって走っていく。
私の言葉で、エメリィちゃんは気付いた。
「あ!待つんヨ!!って、なんヨ!?」
慌てたものだから、滑って転んでしまったエメリィちゃん。
そして、秋兄ぃが後ろから掴まれてしまう。
「くそっ!!なにすんだ!!はなせ!!ひきょう者め!!」
必死に抵抗しているようだが、向こうのほうが力が強いらしい。
あーもう。調子に乗るから!!
そして、金名発の不良がナイフを秋兄いに向けて言った。
『よくもさんざん殴ってくれたなぁ!?』
「いや、その危ないでしょ!?ナイフ危ない!!」
必死に説得していても、向こうは聞こうとはしない。
そして、金髪の不良がナイフを振り上げる。
「琴音ちゃん!!取れたグフッ!」
メガ兄ぃが、私に着いたとりもちを取ってくれた。
それと同時に走り出したので、メガ兄ぃを蹴ってしまった。
だけど今はしょうがない。急いで止めないと!!
だがしかし。
『俺達に喧嘩売った罰だ!これで苦しめや!!』
だめだ!!間に合わない!!!
私が思った時。
『そこの不良どもめ!!警察に突き出してやる!!』
そう声が聞こえた。
私も含め、秋兄ぃ達も声のした方を見ている。
エメリィちゃんは転んでぶつけた所をさすっているけど。
その視線の先には、あの警備員さん。
そして、海兄ぃだった。
海兄ぃが、不良たちに向けて銃を構えている。
「食らえ!スライム式腫れ引きレーザー銃!!」
おお!!かっこいいよ海兄ぃ!!
ってあれ!?撃たないの?
突然、海兄ぃが構えるのをやめる。
なんで?
私が思っていると、メガ兄ぃが言った。
「多分燃料切れなんだと思う。くそ、どうする!!」
そういいながら、かばんをあさるメガ兄ぃ。
メガ兄ぃも必死だ。
エメリィちゃんは!?今なら超能力で何とか!!
そう思って、エメリィちゃんを見る。
だが。
「あれー?勾玉がどっか行っちゃたんヨ!」
転んだ拍子に無くしたみたいです。
どうしよう!!
悩んでいると、なにを思ったか海兄ぃが急に銃を投げ始めた。
『なっ!?』
それに驚いた不良が、ナイフを振りおろそうとした。
すると。
「よし。これだ。」
メガ兄ぃの声。
それと同時に。
『もがっ!もががっ!!』
不良の顔に、赤いスライムが張り付く。
衝撃吸収スライムとは別のやつだ。
そのおかげで、振り下ろすナイフが一瞬止まる。
その時、海兄ぃの投げた銃が、奇跡的にナイフにあたり、ナイフを弾き飛ばした。
『きみたち!警察に連行します!!』
警備員さんが、不良たちを捕まえる。
その途端、私は全身の力が抜けて行くのを感じた。
「お、あったんヨ」
エメリィちゃんの声。
どうやら見つかったらしい。
「はぁ、死ぬかと思った。海!カッコ良かったぜ!!」
と、秋兄ぃが言う。
「ホント、危機一髪だったな」
海兄ぃは答えた。
よかった。本当に良かった。
まさかこんな事になるなんて。
でも、よかったよ。
あ、そういえば。
「メガ兄ぃ、その銃はなに?」
赤いスライム。
なんだろう。
「これは、実は昨日作成したんだよ。なずけて『ハバネロスライムレーザー銃(防音式)』だね。」
「ハバネロか。」
前、海兄ぃが苦しんでたなぁ。
「そうそう、防音式って?」
「あ、うん。顔に張り付くと大変しみるからね。悲鳴がうるさくなってしまう。だから防音式にして、悲鳴が聞こえないようにしたんだよ」
「あー。だからもがいてたのね」
「そういうことだね」
なるほど。
私が納得をしていると、海兄ぃが言った。
「とりあえず、お疲れー」
うん。確かに疲れたよ。
「みんな怪我がなくてよかった」
海兄ぃが言った。
この顔は多分無意識だ。
「おい、僕は殴られたんだぞ?」
あ、そうだ。
私を守るために。
メガ兄ぃは、私を守ろうとしてくれたんだ。
……メガ兄ぃ…いや。恭兄ぃ。ありがとう。
私は、恭兄ぃに言った。
「恭兄ぃも結構カッコ良かったよっ!!ありがとねっ♪」
本当にカッコよかったよ。
「琴音ちゃん!僕はカッコよかったろう?なら結婚するしか!!」
恭兄ぃが、私に張り付いてきた。
うわ、やっぱりやだ!!
「グフォラ!!」
「本っっ当にさいてい!!!メガ兄ぃなんか嫌い!!」
プールに流されていく恭兄ぃ。
「しかし、好きだぁー!!!!」
「メガ兄ぃ!うるさい!!」
「ははは、恭平のやつは、まったく」
「本当に懲りないんヨね」
「だな」
―――こんなに楽しくて、笑いあえる人たちがいる。
私は、みんなの事が大好きだよ。
もちろん、恭兄ぃも。
海兄ぃも。秋兄ぃも。
エメリィちゃんも。
みんな。私の宝物だよ。
第22.5話 完