第二十二話~これが俺の戦い方だ!不幸続きの約15分間~
『――――んだとコラ!?』
『―――や――放して!!』
飛び込み台の上で休憩していた俺達(海と秋)に、琴音のそんな声が耳に飛び込んできた。
ちなみに、琴音は下の方な。
上の『んだとコラ!?』の方ではない。
俺達はほぼ同時に、声のした方に顔を向ける。
「なあ海!!今の琴音の声だよな!?」
「ああ、多分!」
二人してその場で立ち上がり、琴音を探す。
幸い、ここは10mの高さの飛び込み台だ。
とても見晴らしがよく、他の客もあまりいなかったため、すぐに見つける事が出来た。
だが、見つける事は出来たのだが。
全身日焼けの金髪チャラ男と、これまた全身日焼けの黒髪チャラ男が、幼い琴音の手首を乱暴につかんでいる。
いや、琴音は幼くはないが。
体格の差。身長の差で、仕方ない表現だったのだよ。
ちなみに、前もちょこっと言ったとは思うが、もう一度言っておく。
琴音は、他の人の前だと緊張するがために、本当の力を発揮できない。
人見知りがもう体に染み付いてしまったのだろう。
体が勝手に反応してしまうらしい。
まぁ、しょうがない事だ。
そんなわけで、今の琴音は、か弱い一人の少女だ。
そう。
そんな少女に、明らかに不良な二人組。
エメリィーヌの姿がないことから、トイレに言っていると推測される。
そして警備員。
警備の人は、運悪く、あの兄ちゃんただ一人だった。
しかもその兄ちゃん。あの事故でともいえる悲惨な結果により、今治療室だ。
入って行くのを俺は見た。
他の客は恐れて近寄ろうともしない。
琴音を助けられる人は、琴音の周りにはいなかった。
そう。
その時だった。
「っ……琴音!!」
「おい秋!!どうする!早く行かない……と」
第二十二話
~これが俺の戦い方だ!不幸続きの約15分間~
「おい秋!!どうする!早く行かない……と」
俺が秋に視線を移したとほぼ同時だった。
あれだけ恐れていた飛び込み台から、秋が躊躇なく飛び降りたのだ。
「……秋」
『ドッパァーン』と、水に何かが落ちた音が聞こえる。
そう、秋だ。
俺は下をのぞいてみる。
だがそこに秋の姿はなく、もうすでに琴音のもとへ走っている。
秋の後ろには、オメガの姿もあった。
くそっ、早く俺も行かないと!!
俺も急いで飛び降りようとはした。
でも、恐怖で一瞬止まる。
秋のやつ……こんな所をあんなすぐに飛び降りたのかよ!!
もうこうなったらやけだ!
オメガのクリームを信じて跳ぶしかねぇ!!
俺は覚悟を決め、目をつむって飛び降りた。
……あれ?地面はまだか?
なかなか来ない地面。
俺は確認の為、まぶたを開いた。
すると。
「う、うわ『ゴキャッ!!!!』
鈍い音。
そう、目を閉じて飛び降りたものだから、水のある場所とは違う方向にジャンプしていた。
そう。正真正銘の地面。
なにがあったか頭で理解するのよりも先に、足に鈍い痛みが走る。
俺は恐る恐る目を開けた。
……驚き。
俺は奇跡的にも、どうやら足を捻っただけで済んだようだ。
俺は今。オメガのクリームの凄さを思い知った。
あいつやばいぞ。天才だ。
まさか、あいつに命をすくわれるとは。
そんな事より琴音だ!!
俺は、痛い右足を引きずりながらも、必死で琴音のもとに駆け寄る。
にしても広い。
なかなか琴音の姿が見えない。
俺は、しばらくという言葉がぴったりなほど、しばらく走った。
すると、やっと琴音の姿が。
そこには、倒れこむオメガと、その隣でオメガを支える琴音。
そして、琴音達の前に立って、不良たちを鋭く睨んでいる秋の姿。
そんな秋にむかついたのか、とても恐ろしい形相の不良金と不良黒。
ちなみに、髪の色で分けております。
俺は、なんとなくだが、その状況が理解できた。
そして、秋に向かって不良金がむかつく口調で言った。
『はぁ?なんだお前?俺達に文句でもあるのか?』
『へっへっへ』っと、秋を馬鹿にして笑っている。
秋を見ると、少し震えているのが分かる。
もちろん。武者震いだろうか。
多分秋もむかつくのだろう。
でも基本ビビりだからな。
たぶん、少しは恐れているのかもしれない。
だがな。
今のお前は、どこの誰よりもかっこいいぞ。
そんな秋を、再び挑発する不良金。
『おい見てみろよ!!こいつ俺達見てブルッてやがんの!!』
それに便乗して、不良黒も馬鹿にしだす。
『本当だぜ!!妹さんにかっこいい所見せたかったんですかー!?けっけっけ。弱虫は引っ込んでな!!』
……こいつら、絵にかいたような不良だな。
本当にいるんだな。このての不良。
すると、ずっと無言だった秋が喋り出した。
「―――れませんか?」
『はぁ?』
よく聞き取れなかったらしく、不良金がわざとらしく秋に耳をすませたフリをする。
そして、秋の発した言葉がこれだ。
「今日の所は、帰ってくれませんか?」
丁寧な口調。
さすがは秋。
俺だったら、その場でソッコーぶっ飛ばすけどな。
秋には秋なりの戦い方があるんだな。
まぁ、とりあえず俺は、俺なりで行くか。
「…オメガー。スライム型かしてくれー」
俺は小さい声でささやく。
オメガは俺の言葉に気付いたようで、こっそりと、俺に銃を投げてくれた。
ただ、俺の声に気付いて振り向いたオメガの顔が、オメガの右頬が赤くなっていた。
そして、口から赤いものが垂れていた。
どうやら血のようだ。
そう、殴られた。
オメガは殴られた。
だが無表情。
なんか感情を出せばいいのに。
無表情ですやん。痛くないの?
まぁ、むかついてる事だけは確かだけどな。
目がいつもより鋭い。
針のような鋭さで、不良らを睨みつけている。
うん。それでこそ男だ。
でも琴音は、どうやら怯えているらしい。
少し震えている。
ムカつきもあるだろうが。多分あれは恐怖でだ。
あと悔しさ。うん。間違いない。
とりあえず、秋がいるんだ。
何とかなるだろう。
俺はオメガから受け取ったスラ銃を、自分の足に使用する。
『シュー』と、軽快な音を立てて、傷を治していく。
ちなみに、スラ銃は、略しちゃったてへっ。みたいな感じだ。
さんざん熱さに苦しめられた俺は、何とか耐えた。
そして復活。
その間にも、色々と進展してる。
『俺達にビビって、なにも出来ないのか?このチキンのお.に.い.ちゃん!ひゃっはっははは!!』
ワオ。見事に不良だ。
って、こんな事をしている場合ではない。
俺は俺でやる事があるんだ。
足が完治した俺は、手に持っている銃を適当に投げ、その場を離れ、目的の場所へと向かう。
全力疾走。
無駄に広いこのプールは、俺の体力をガリガリと削っていく。
目的の場所とは。
そう治療室だ。
あの、警備の兄ちゃんがいた所。
秋が頑張っている間に、警備の人を呼んできちゃおう作戦。
卑怯だなんて言わせねぇ。
これが俺の戦い方だ。
まぁ、誰もいなかったら、俺も秋みたいにしてたけどな。
でも、秋がいるから。
あいつには、隠された特技がある。
まぁ、それはまた後ほど。
そんなわけで、俺の頑張りにより30秒で、到着。
俺は、勢いよく治療室と赤い文字で書かれたドアを開いた。
「たのもーー!!」
俺の突然の登場に、驚く警備の兄ちゃん。
足と腕に包帯を巻いて、医療用ベッドで横になっている。
うわぁ、思ったより重症だ。
『なんだきみか。いったい何の用ですか?今ここ誰もいなくてね』
重症の兄ちゃんが、ゆっくりと身体を起こし、俺に話しかけてくる。
とりあえず、ここは謝るしかないだろう。
「えっと、その、俺達のせいでそんな事になってしまって。本当にすみませんでした!!!」
罪悪感でいっぱいです。
俺の良心ズキズキです。
ホントごめんなさい。
そんな気持ちを込めて、俺は頭を下げる。
すると、重症の兄ちゃんは。
『もういいですから。それより、何か御用ですか?』
「あ、はい。ちょっと不良がいてですね。」
『なんだって!?』
俺の言葉を聞いて、ガバッと起き上がる兄ちゃん。
「それでその暴れていまして、警備の人を呼びに来たんですが……」
『それはまずい、今すぐ行き…っててて』
勢い良く起き上がって見たはいいものの、体が悲鳴をあげているらしかった。
ちょっと待てよ?切り傷じゃないよな。
なら治せんじゃん。
この銃さえあれば!
ってありゃ。どうやら置いてきていまったらしい。
取りに戻ろう。
いや、ちょっと待てよ?
「警備員さん!他に警備の人いないんですか?」
他にいるなら、わざわざ治さなくてもいいわけで。
って、我ながらひどい事を。
俺の言葉に、返事を返す警備員。
『今はちょうど昼で、僕以外は昼食を取りに……いてって』
ああ、なるほど。昼だと、お客さんもあまり来ないからか。
飯食いに行っていて。
だから、一人でも平気というね。
適当だなこのプールの人たち。
とりあえず誰もいないなら、頼りはこの人のみ。
やはりあれを持ってこよう。
「ちょっと待っていてください!!知り合いに、怪我によく効く薬草を持っている人がいるので!!」
俺は告げると同時に走り出した。
『ちょっと待って!!そこは……あちゃー』
『ゴンッ』俺はドアに激突する。
くそっ。忘れていたぜ。
俺は根性を入れ直し、治療室から飛び出した。
俺は急いで戻る。
そしてやはり30秒ぐらいかかった。
その場についてみると、いまだに秋と不良の戦いが繰り広げられている。
ファイトだぜ!秋!!
俺は心の中で応援し、銃を拾……ないよ。
銃がないよ!!
ってそういえば!!
『足が完治した俺は、手に持っている銃を適当に投げ、その場を離れ、目的の場所へと向かう。』
『手に持っている銃を適当に投げ』
――手に持っている銃を適当に投げ。
投げてしまったんだったぁぁぁ!!!!!!
やばいぞ!!どこに投げたっけか!?
周りにはないようだし、あるとすればプールの中か!!
だとしたらまずい。
ぶっ壊れているかもしれない。
しかも流れるプールだ。
流れてしまっているはずだ。
くそったれ!!
俺は、流れるプールにダイブする。
もちろん、銃を探すため。
水の中に潜っては、地面を探す。
多分沈んでいるはずだ。
重いからな。
でも、俺が結構使ってしまった。
少し軽くなっていたとしたらまずいぞ!!
沈んでいるクセに流されるという最悪の結果に。
俺は、水面に顔をつけながら、自慢のクロールで泳ぎながら探す。
多分五分ぐらいたった。
でも見つからない。
てか、無駄に広い!!
このプール無駄に広い!!
俺が困惑していると、不意に声が聞こえる。
『えーなにこの銃!!』
『カッコイイー』
ん?銃?俺は水面から顔をあげ、声のした方を見る。
すると。まさしく銃だ。
うん。銃だ。
俺が探し求めていた銃だ。
それを、子供が持って走り回っている。
二人組。兄弟かな?
とりあえずラッキー!!
俺は陸地に上がり、その兄弟に話しかけた。
「はぁ…はぁ…坊やたち…はぁ…はぁ…その銃…はぁ…お兄さんの…だからはぁ…返してくれないか?」
さっきまで全力で泳いでいた俺は、とても疲労がたまっていた。
肩で息をする俺。
水で濡れていて、陸地に上がる時に髪をあげたので、髪型はオールバックのようになってしまっている。
さらに、疲れている為か、顔が半笑い。
目は笑っていない。
俺的には、上手く表情を作っているつもり。
でも疲れで、表情がおかしい。
そんでもって、俺は元々目つきが悪い。
よって。子供恐怖。
『うわぁぁ!!!』
『逃げろーーー!!』
俺の顔を見たとたん、銃を持って走り去っていくガキども。
くそったれ!!
宝探しの次はおにごっこかよ!!
俺は、ガキどもを必死に追いかけまわす。
だが、何度も言うようだが疲れている為、なかなか追いつかない。
その後。しばらくおにごっこが続く。
するとその時。
『お兄ちゃん!!スライダーに逃げろ!!』
『そうだな!!悪者から逃げるんだ!!』
キャハハハと言って、スライダーの階段を駆け上がる子供達。
もう面白がってるじゃねぇか!!
くそっ!疲れているのに!!
なぜに階段なんか上がらんやならんのだ!!
「待ちやがれぇぇ!!!!」
そう叫びながら、階段猛ダッシュ。
スライダーの出口で待ってればええやん。とかいう考えは、今の俺にはなかった。
疲れ過ぎて、そこまで頭が回らなかったのだろう。
今はただ、あいつらを捕まえる事だけだ。
俺が階段の一番上まで上がると、俺を挑発するがために、ガキどもが待っていやがった。
『怖い兄ちゃんこっちだよー!!』
『返してほしかったら捕まえてみろー!!』
そういって、二人で左右のスライダーに乗り込みやがった。
スライダーは右と左、二つあるのだが。
両方取られちゃ、俺はいけない。
だって看板に書いてある。
ランプが青になってから行きましょうって。
人が通ると、センサーが反応。ここで、ライトが赤くなる。
そして、スライダーの出口にもセンサーがあり、そこでも反応。ここでライトが青くなる仕組みだ。
なので、今はまだ赤い。
俺は、青くなるのを待つ。
ちなみに、他に客はいない。
本当にすいているのだ。
俺は、秋達の方を確認してみる。
まだ乱闘中。
お、エメリィーヌも来たみたいだな。
秋頑張ってくれ!
お、今秋がこっち見た気が……
っと、青になった!!
待ってろガキども!!
俺は、華麗に左のスライダーに乗り込む。
すると、物凄いスピードで流される俺。
20秒という驚異的な長さのスライダーにゆられ、とうとう出口。
『バシャーン』と、俺は投げ出される。
俺はそのあと、陸地に上がった。
「いやー、結構楽しかったな。もう一回……」
俺は階段を駆け上がり、今度は右の方に乗り込む。
「ひゃっほーーう!!!!」
『バシャーン』
もう一回だけ。
「流しそうめんの気分だーー!!!」
『バシャーン』
さらに。
「良い旅夢気分ーー!!!!」
『バシャーン』
そして。
「ブーーン!ブーン!キキッー!!!」
『バシャーン』
……。
「おーっと海選手!早いです!ぶっちぎりです!!見事他の選手を追いぬかし、海選手一位でゴーーール!!!!!」
『バシャーン』
いやー何度やっても飽きない面白さ。
どれどれもう一回……。
…ってアホか!!
なに盛り上がっているんだ俺は!!
くそっ、ノリノリで五回も流されちまった!!!
迂闊だった。まさかこんな罠にはめやがるとは。
ガキどもめ、ただじゃおかんぞ!!!
ガキどもどこ行った!?
ってあれ?
こんな所に銃が落ちてる。
俺の足に何かが当たり、俺はそれを確認した。
そしてそれは、俺の探していた銃だった。
うおっ!ラッキー!!
多分、帰ったのだろう。
なかなか来ないから。
……どうだ見たか。これが俺の作戦だったわけだよ!!
ガキどもをあきらせる作戦!!
見事成功だ!!
治療室へGO!!
俺は、一人で意味不明な言い訳をし、治療室へと向かった。
そして50秒後。
「たのもー♪」
俺は勢いよく治療室の扉をあける。
『うわっ!!……なんだきみかぁ。たのもーって、道場じゃないんだから。』
再び驚いたらしいあの兄ちゃん。
俺は、その兄ちゃんに告げる。
「警備兄さん!!これが例の銃です!!」
俺は銃を見せた。
『警備員さんでしょうに…って、銃!?』
とてつもない驚きっぷりの兄さん。
ノリが良い人は嫌いじゃない。
とりあえず時間がないので、俺は説明を省いた。
「まず包帯取りまして、怪我している所を差し出してください」
俺はお願いした。
すると、警備の兄ちゃんは、黙って言うとおりにしてくれた。
なにこの人。メチャクチャいい人じゃん。
言う事聞いてくれるし。ガキどもとは大違い。
『えっと、ここと、ここ。あと、ここにここかな』
順番に怪我した所を教えてくれた兄ちゃん。
『でもそんなもので、どうするつもりなんだい?』
ここに来て、やっと質問とは。
人がよすぎるよ兄ちゃん。
なんか仲良くなれる気がする。
俺は、そんな兄ちゃんに、『まぁ、見ててください』とだけ告げ、順番に怪我した所を狙撃していく。
『ビチョン』
『ビチョン』
『ビチョン』
『ビチョン』
そして、『シュー』
うんうん。焼けとる焼けとる。
『え!?あ、ちょ!?熱い!!熱いんだけど!?』
とても慌てふためく兄ちゃん。
芸人も真っ青のリアクションっぷりだ。
「大丈夫です。見ていてください。……ほら」
スライムが自然と消滅し、さっきまで赤くなっていた場所が、すっかり治っている。
『うわっ!!なにこれ!?きもちわるっ!!』
うん。この人最高。
「とりあえず!!こっちです!!」
『わかりました!!』
ずっと跳ねたり触ったりして、傷の調子を確認している兄ちゃんに言った。
すると、兄ちゃんの表情が、キリッっと切り替わる。
とてもいい顔しておるやないかい!
そんな兄ちゃんを、不良どもの場所へ案内する。
「お、見えてきました!!あそこで……はぁ!?」
俺が驚くのも無理はない。
秋が不良黒に羽交い絞めされて、不良金に何かを突き付けられている。
きらりと光る何か。
鋭い刃。その大きさからして、果物ナイフだと思う。
ナイフ!?
おいおい、シャレにならねーぞ!!
『俺達に喧嘩売った罰だ!これで苦しめや!!』
そういって、不良金がナイフを振りかざしている。
やばいだろ。このままじゃやばいだろ。
するとその時、『そこの不良どもめ!!警察に突き出してやる!!』
あの兄ちゃんが言った。
それ故に、一瞬不良の動きが止まる。
それが、一気に場を形勢逆転へともたらす光となる!!
「食らえ!スライム式腫れ引きレーザー銃!!」
俺は、やつらのナイフめがけて狙撃する!!
だがしかし。
『プシューン。燃料切れだよ♪補充してね♪』
スラ銃から、最悪の言葉。
燃料切れ!?ふざけんじゃねぇぇ!!
俺は、反場やけくそでその銃をぶん投げた。
だが奇跡的に、その銃が不良金のナイフを弾き飛ばす。
『なっ!?』
とても驚く不良金。
『もがっ!もががっ!!』
その不良の顔に、謎の赤いスライムが付着する。
そう、オメガだ。
オメガが、謎の道具で狙撃した。
ナイスだオメガ!!
不良のもとにたどり着いた兄ちゃんは、不良の腕を後ろ手に縛り、不良と共にそのままどこかへ行ってしまった。
「とりあえず、お疲れー」
俺は言った。
疲れたようで、地面に座ってへばっている秋。
伏せ撃ちのような体制で、銃を構えているオメガ。
すっかり腰を抜かし、安心している琴音。
こんな時までお調子者のエメリィーヌ。
みんなの知らない所で、ナイスな活躍をした俺。
そして、あの警備の兄ちゃん。
みんなの力があったからこその、勝利。
とりあえず良かった。
みんな怪我がないみたいで。
「おい、僕は殴られたんだぞ?」
あー。そうだったな。
「恭兄ぃも結構カッコ良かったよっ!!ありがとねっ♪」
お?琴音が恭兄ぃって呼んだ。
だが、そんな琴音の言葉を、やはり台無しにするのがオメガ。
「琴音ちゃん!僕はカッコよかったろう?なら結婚するしか!!」
そういって、琴音に張り付くオメガ。
そして。
「グフォラ!!」
「本っっ当にさいてい!!!メガ兄ぃなんか嫌い!!」
琴音に怒涛の攻撃を浴びせられ、流れるプールへと飛んでいくオメガ。
そして、流されていく。
あーあー。台無しだな。
だがオメガは、急に両手をあげ。
「しかし、好きだぁー!!!!」
「メガ兄ぃ!うるさい!!」
「ははは、恭平のやつは、まったく」
「本当に懲りないんヨね」
「だな」
その言葉で、みんなが一緒に笑う。
琴音も笑っている。
ただオメガは流されていく。
今日プールに来て、みんなの絆がより深まった気がした。
たまにはこういうのも悪くない。
「それじゃ、遊ぶか!」
「そうだな」
「だねっ」
「なんヨ!ウチはウォールドスライゴンがやりたいんヨ!!」
「はぁ!?なんだその強そうなドラゴンは!!」
「エメリィちゃん、ウォータスライダーでしょ」
「ああ、それか。琴音凄いな」
「えへへー」
「ってかそういえば!!お前俺が大変な時に、一人でスライダーで遊んでたろ!!」
「あ!えと、そのあれはだな……」
「カイ!ずるいんヨ!!」
「だからちゃんと理由があるんだよ!!」
「海兄ぃずるーい」
「もう琴音まで!!」
――こうして、俺達はみんなでたくさん遊びつくした。
ウォータスライダーをした。
流れるプールも遊んだ。
もういいというほど楽しく過ごした。
これが幸せというものなのだろう。
本当に良かった。遊びに来てよかった。
ただ最後まで、オメガが流れ続けていたのと。
オメガが不良に撃った、赤いスライムの効果が気になっている俺だった。
第二十二話 完