表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の日常非日常  作者: 本樹にあ
◆日常編◆
27/91

第二十一話~死闘!落下を賭けた大決戦!!!―兄ちゃんの勇士―~

前回。俺の身に何が起こったかだけを説明しよう。


そう、あいつ。秋に吹っ飛ばされた。


イノシシの如く突っ込んで来て、見事に俺に直撃だ。


突進という言葉がある。


だが、あいつがした事はそれじゃあない。


超突進。いや、突撃。超突撃。


超突進撃だ。それほどの勢い。


気を抜いていた俺は、見事に吹っ飛び、プールにダイブ。


そう、俺は今、プールに来ているのだ。


プールに落ちた俺は、必死にもがく。


突然の事で、頭が混乱しながらもだ。


モロに腹にくらったので、一瞬呼吸ができなくなる。


その状態での水の中だ。


もうこれは死ぬ。意識を失いかけた訳だが、そこは俺。


今年で一番じゃないかというくらいの力をを発揮し、何とか水面に浮上。


何とか呼吸をする事が出来た。


そんな俺を、指を指して馬鹿笑いする奴がいる。


これが前回までの話。


そして今回は、それの続きだ。



第二十一話


~死闘!落下を賭けた大決戦!!!―兄ちゃんの勇士―~




「ぎゃははは!!海。お前何やってんだよー!」


秋が俺を指差して笑っている。


「ふざけんじゃねぇ!死にかけたわ!!!」


まったく、いつまで笑っていやがる。


この俺にこんな恥をかかせやがって。


いまにみていろ。


お前なんか、プールの警備の人に怒られてしまえ。


俺がそう思った時。


『こらきみ!!危ないから危険な事はしないでください!!』


「あ、すみません」


うわっ!本当に怒られやがった。


だっせぇ。


俺はもう爆笑だ。


復讐成功だな。


だがしかし、神は俺の願いをかなえすぎた。


「全く秋兄ぃ。何やってんのよ」


「シュウが怒られていたんヨ」


「竹田兄。情けなさすぎて涙が出るぞ」


そう、あいつが怒られていた所を、みんなに見られていた。


「う、うるせぇな!よくあるだろ!こういう事!!」


「ないよ」


顔を真っ赤にして、必死にいいわけする秋


そんな秋を見る皆の目は、とても冷ややか。


あれはやばいな。


オメガにまで同情されてるよ。


「だってよぉ!!海のやつが俺に頼んでくるから!!俺を吹っ飛ばしてくれって!!」


「はぁ!?頼んでねぇよ!!苦しすぎるだろ!!」


あいつは馬鹿か!


よほどのアホじゃない限り、そんな事信じる訳が……


「海兄ぃ……」


「カイ……」


「山空……」


「なんだその目は!!お前らアホか!?」


『こらきみっ!きみの変わった趣味の為に、友達を巻き込んじゃダメでしょ!!』


「おいちょっとまて!!警備員だろ!?あんた警備員だろ!?そんなに簡単に信じちゃダメだって!全部こいつの嘘だから!!」


やめてくれ。なんで警備の人にまでそんな顔されなくちゃいけない。


『本当なのか?』


「そんなわけないでしょう!!見て下さいあいつの顔を!!」


いやいやいや。何どうどうと嘘ついてるんだよ。


『うん。確かに、ドMな顔ですね』


なに納得しちゃってんの!?アホだろ!?あんた実はアホだろ!?


ドMの顔ってなんだよ!!


快感欲しさに、俺が秋に頼んだとでもいいたいのか!?


「そういうわけですから、注意ならあいつに言ってください」


『ああ、すまなかったね。僕の勘違いで迷惑かけて』


謝る相手が違ーーーう!!!!


「いえ、気にしてませんから」


「ホントだよー。秋兄ぃ大変だったね」


「山空。変わった趣味はお互い様だ」


「シュウは悪くなかったんヨねー」


『じゃあ、仲良くね。危険な真似しないように。』


「ちょっとまてよ!!なにこれ!?ねぇ何コレ!?ドッキリ!?何のドッキリだよ!?」


意味わかんねぇよ。


警備の兄ちゃん!うそでしょ!?


なにがあったんだよ!!


誤解したまま去らないでーー!!


俺が困惑していると、琴音が言った。


「秋兄ぃのいいわけに、みんなが騙されるドッキリだよ」


「「はぁ!?」」


俺と秋が見事にハモる。


「そうなんヨ」


「あたりまえだ」


「え!?そうなの?みんな俺に騙されてたんじゃないの!?」


「ちがう」


きっぱりと。琴音が言った。


よかったよ。みんながまともで良かったよ。


でも突然、みんなで協力するのはやめて頂きたい。


本気でみんなの頭を疑ってしまった。


なんだドッキリだったのか。


よかったよかった。


……。……。……。


……ってあれ?じゃあ、あの警備の人はいったい……。


まぁ、いいか。気にしない事にする。


とりあえずあれだな。


プールからあがろう。


俺は、流れに逆らい、水をかき分けて、地上に上がる。


ふー。水の流れって強いなー。


結構疲れた。


そして、ちょっと言っておきたい事がある。


「オメガ、お前おかしい」


そう言ったのは他でもない。


オメガの格好。


まずどこがおかしいかというと。全部だ。


全身真っ黒。もうこれ、ダイバーだろ。


海に飛び込むダイバーだろ。


真っ黒い、ダイバーがよく使う、あれだ。


なんとなく伝わっただろうか。


首までの、全身黒タイツ。


そして、ゴーグルの代わりにシュノーケルときたもんだ。


シュノーケルの下には、眼鏡をかけているが。


そして、この中でもひときわ目立つものが。


「オメガ。その腕時計はなんだ」


一見すると、ただの腕時計。


そうただの腕時計なのだが。


この場所で。この格好で。


腕時計はおかしいだろう。


絶対何かある。


すると、俺の言葉に、オメガが冷静に言い放つ。


「山空。けして小型カメラなど付いていないぞ」


「うん。ついているんだな」


「ついてはいない。内蔵されているだけだ」


「警備員さーん!!」


「わ、悪かった。もう外すから!!」


そういって、手首についている腕時計を、カチャカチャと外し始める。


そんなオメガを、まるで変態を見るような目で睨んでいる琴音。


秋はエメリィーヌと雑談をしているが、ずっとオメガの肩を強く鷲掴みだ。


全く、油断も隙もない奴だな。


もうオメガに対してこれしか感想がねぇよ。


ホントに油断も隙もない奴だな。


「ちなみに、上手く隠しているつもりかもしれんが、色々とバレバレだぞ。外しとけ」


「な!?なぜばれた!?」


とても驚いているオメガ。


おいおい、まじかよ。


冗談のつもりで言ったのに。


油断も隙もない奴だな。


律儀にすべてを外し始めるオメガ。


「はぁ、これでいいか山空」


「よし」


どうやらすべてを外し終わったようだ。


床に散らばっているオメガの隠しカメラの数、なんと!えーっと、いち、に、さん…


なんと15個。


いったいどこにそんなに隠していたんだ。


恐ろしいやっちゃな。


「とりあえず、準備運動しておけよー」


俺は言った。オメガの話はこれで終わり。


もう構ってられん。


「なんでなんヨ?」


エメリィーヌが聞いてくる。


すると、俺が答える前に、琴音が言った。


「体の筋肉をほぐしてからでないと、色々と危ないからだよ」


「へー。分かったんヨ!」


琴音の説明に納得したのか、準備運動を始めるエメリィーヌ。


だが、俺が知る準備運動ではない。


なにあれ?


まぁ、上手く説明ができないが、効果はありそうなので良しとしよう。


すると、秋はバカだった。あ、いや、秋が言った。


「俺に準備運動は必要ねぇ!!」


……うん。馬鹿だった。


もうこれ、絶対足つるフラグだろ。


うん。


それにしても、秋って水着まで地味だな。


無地の茶色って。もう本人のようだ。


それに引き換え、琴音は可愛らしいな。


うん。可愛い。オメガじゃなくても、見惚れてしまう。程でもない。


「あ、海兄ぃ、私の事馬鹿にしてたでしょ」


「え?なんで?」


「そういう顔してた」


どういう顔だ。


俺ってホント表情に出るのな。


考えている事まで喋ってしまうとなると。


…考えないようにしよう。


とりあえず、琴音をほめておく。


「馬鹿になんてしていない。可愛いから見惚れてたんだ!」


「それはしょうがないね。私の色気にかなうものはないから!!」


自信満々に答える琴音。


おいおい。


「お前のどこに色気があるんだ。エメリィーヌと大して変わらないぞ」


「ひどっ!!私にだって色気ぐらい!!」


「そうだよ山空!琴音ちゃんはとても可愛いからね!!」


「うるさいから黙ってて」


「ガーーーーン!」


うわぁ、オメガえらい言われようで。


そして、ガーンて。


そんな事言いながら落ち込む奴も珍しいな。


てか、琴音ももう気にしてないだろ。


凄い軽くあしらってる。


やっぱり琴音も楽しそうだな。


ってあれ?


「オメガ、さっきの大量にあったカメラは?」


床に散らばっていたはずだが、いつの間にかなくなっている。


気になった俺は、膝を抱えて落ち込んでいるオメガに言った。


「それは収納した。この『なんでも圧縮かばん』にね」


そういって見せてくれたのが、豆のような大きさの黒い物体。


でも名前でなんとなく伝わったので、説明を省く。


「これは、ここを押すと旅行鞄並みの大きさになってだね、ここに物を入れて再度ボタンを押すと、中身ごと豆のようになるという……」


説明を省きたかったのに。


まぁいいか。


「ところで、海!あれを見たまえ!」


そういって秋が指差したもの。


そう、それは。


飛び込み台。


やっちまった。


ばれちまった。


もうだめだ。


もうおわった。


とりあえず俺は、生き生きしている秋に対して、この世で最も無意味な『拒否』という選択肢を試みる。


「秋、わる『却下』


うわぁ。まだ『わる』しか言ってないのに。


「お前の考えている事なんかお見通しよ!!」


あー。だめだ。とってもキラキラしているもの。


今年一番のキラっぷりをかもしだしちょる。


「シュウ!あれはなんなんヨ?」


エメリィーヌが秋に聞いている。


俺達の話を聞いて、気になったのだろう。


「ああ、あれはな?ビビリで弱虫でチキンな人は、やりたがらないんだ。」


秋がわざとらしく俺を見ている。


なにがビビりで弱虫でチキンだよ。


お化け屋敷で腰を抜かすお前の事だろ。


「シュウ。頭大丈夫なんヨか?ウチはどういうのか聞いたんヨ。それじゃあ答えになってないんヨ」


「……すみませんでした」


ははは。良いぞエメリィーヌもっと言ってやれ!!


「もう、コトネでいいんヨ。あれはなんなんヨ?」


「ちょっと、琴音『で』いいってなによ。まぁいいか。あれは、バンジージャンプで」


「ちげぇよ!!バンジーじゃねぇよ!!ジャンプのみだよ!!」


琴音の天然っぷりに、鋭くツッコむ秋。


ちなみにこの間。オメガはずっと琴音を写真に収めている。


もちろん、そんなオメガを琴音は無視だ。


「エメリィーヌ、あれは飛び込み台と言って、あそこから飛び降りるんだよ」


仕方がないので、俺が説明する。


「ふーん。危ないんヨ」


「まぁ、そうだな。でも、度胸試しでやる人が多いんだよな。」


意外な事に。


なんであんなものやりたがるんだ?


痛いだけだぞ。


上手く落ちないと、死んでしまうことだってある。


水って、コンクリートの硬さだと聞いた事があるし。


まっすぐ綺麗に落ちないとな。コンクリートに落下するようなもんだ。


だが、秋は好きなんだよなー。度胸試し。


肝試しは拒絶するくせに。


「そんなわけだから、俺達ちょっと行ってくる」


「おいまて、俺はやるとは言ってない」


「いや、やらせる。先に飛び降りたほうが勝ち、負けたらジュースおごりな?」


おい秋。それは妹の金じゃないのか。


「秋兄ぃ、それ本当は私のお小遣いで……まぁいいや。しつこく言ってもあれだしね」


琴音は勝手に開き直っていた。


いいな。俺もこんなやさしい妹が欲しいよ。


そういえば、兄貴が陽気なマイペースだと、その下の弟や妹ってしっかりしている事が多いよな。


しっかり者はつらい。


しっかりしているから大丈夫。とか。


しっかり者だから安心よねー。とか。


弟や妹も楽じゃないな。


苦労してる。ダメ兄貴に代わって。


でも、秋なんか、とっくに見放されていてもおかしくないけどな。


琴音って、よく秋について行けるよ。感心する。


「おい海。今なんかとてつもなく馬鹿にされた気配がしたぞ」


「なんだよその具体的な気配は」


「あ、そうだ。いいものがある。」


と、オメガが言った。


そして、撮影を中断し、かばんの中から何かを取り出す。


「これは、衝撃緩和クリームだ。体に塗ると、衝撃をほぼ無効化できる。これで、怪我する事はないだろう。ちなみに、防水性で、水に濡れても落ちないから安心してくれ。」


安心してくれって言われても。


オメガがだした時点で安心できない。


とりあえず、本当に安全なのか確認だ。


「オメガ、デメリットは?」


「今のところ見つかってない」


「衝撃の緩和率は?」


「99%」


「残りの1%が気になる。なにがあった?」


「100%と言っちゃうと、なんかいろいろとまずい気がする。なので、逃げ道という事ですな」


「まぁ、よくあることだ。で、実際に試したのか?」


「うむ、その辺にいた野良イヌに塗って、トラックの前に投げてみたが、ほぼ無傷だったよ」


「メガ兄ぃ!ひどい!!」


「ちょっとまて。ほぼって何だ。」


「ちょっと、切り傷が出来ていたんだ。緩和できるのは衝撃だけだからね」


「じゃあ最後に、トラックは止まっているやつじゃないよな?信号待ちのやつとか、駐車場のやつとかさ。」


「正真正銘のトラックだ。40キロぐらい出てたかな」


「よし。人にも効果はあるんだよな?」


「さぁ?」


「ふざけんな」


「安心しろ。僕は試したが、ちゃんと効果はあった。階段を転がってみたが、痛くはなかったんだ」


「不安だ」


「安心しなさい。いざという時は、スライム型腫れ引きレーザー銃があるからね」


「あー。ならいいか。そのクリーム貸してくれ」


ちなみに、スライム型腫れ引きレーザー銃は、第十九話で登場している。


気になる方は、是非第十九話まで!


「おい、スライムなんたらってなんだ?」


ふざけんな。今『第十九話まで!』って宣伝したばっかなのに。


しょうがない。説明して差し上げるか。


「オメガよろしく」


俺はオメガに言った。


すると快く引く受けてくれた。


「この『スライム型腫れ引きレーザー銃』は、僕が中2の時に開発したものだ。まぁ、色々と改良しているがな」


へー。それは初耳だ。


「山空は一回体験していると思うが、これは、火傷、打撲、捻挫、骨折などによく効くといわれている薬草を、スライムと配合して出来た銃だ。だが、切り傷などには効かないがな」


という、俺の時と全く同じ説明を、秋達にもしていた。


「そうそう、そのスライムが張り付くと、ビチョンって音がしてさ。すぐにとてつもない熱さに見舞われるんだよ。まるでアイロンを押しつけられたかのように。」


俺は体験談を告げる。


「おいおいマジかよ。大丈夫なのか?」


不安がる秋。


「ああ、大丈夫だ。安全性は俺が保証する。」


「なら安心だ。スライム型はっとばし機だっけか?それがあるなら安心だ」


「おい秋。それはワザとか?ワザとなのか?」


「なにがだよ」


「秋兄ぃ。スライム型腫れ引きレーザー銃だよ。はっとばしてどうするの。ドMな海兄ぃしか喜ばないよ!」


「まて。俺はドMじゃない。しかも、地味にツッコミが上手いな」


「こいつの妹だから」


「こいつゆーな!!お兄様だろう!!」


「あー、お兄様ーえらいですね。」


「ぶっとばすぞ!!」


「お前ら、喧嘩はよせ」


「大丈夫だ。喧嘩しても勝てないから、喧嘩はしない」


「おい兄貴。頑張れよ」


「だってよ、琴音強いんだ。口でも勝てないしよ」


「そこは頑張るんヨ」


こんな事を秋達と話している。


ちなみに、まだプールには入っていない。


なにしに来てるんだ俺達は。


「じゃあ、とりあえず行ってきなよ。私はエメリィちゃんに泳ぎ方教えてるから」


「おう!じゃあ、エメリィーヌを頼んだぞ!!」


「おいちょっと待て。俺はまだやるとは言ってな…っておいやめろ!!」


俺がまだ喋っているのにも関わらず、俺の腕を引っ張り連れていく秋。


しょうがねぇな。こうなったらやってやろうじゃねぇか。


「放せ!分かった、受けて立とうじゃねぇか!!」


俺は力強く言い放った!!


「そうこなくっちゃな!というわけで、3m行くぞ」


しょぼ。


「一番上の10mじゃないのかよ?」


「な、なななに言ってるんだよお前」


よく見ると、えらい震えている。


なんだ怖いのか。


「よくそんなんでやる気になったな。」


「ばばっばばっきゃろい、海がこおここ怖いかとおももおってだだな!!!」


「その古びたテープレコーダーみたいな喋り方やめろ。行くなら一番上だろう。」


「っそそ、それはちょっとだな」


ちなみに、3m、5m、8m、10mがあるんだ。


「なんだよ秋。まぁ、怖いならしょうがないな。3mで我慢するか」


俺の見え透いた挑発に、見事に反応する秋。


「わ、わかったわい。ジュウメイトルで勝負じゃい」


「だからビビり過ぎだ」


そんな感じで、頂上指して登り続ける俺達。


そして、10mに到着。


到着後の感想を述べるとしたら、3m付近にいた時の自分をぶん殴りたい気分だった。


「…なんだよこれ?人間が飛ぶ高さじゃねーよ!!スパ○ダーマン専用だろ!!」


そう、もう高いなんてもんじゃない。


高いのだ。


ちょっと恐怖で頭がおかしくなってきた。


なんだこれ。正直なめていた。


そりゃそうだろ。自分の身長が、大幅に見積もって2mだ。


それを五人分の高さから飛ぶ。


二階からなんてもんじゃないぞ。


どうしよう。膝の震えが止まらない。


ふと後ろを振り向いて見る。


秋がいた。


いや、秋が丸くなっていた。


それはもう亀のように。


頭を抱え、地面にうずくまり、震えている。


そんなに怖いならやめればいいのに。


俺も怖いので、ちょっと提案してみた。


「おい秋!怖いんだろ?もうやめようぜ!!」


俺の声が震えている。自分でもわかるくらいに。


俺の提案を聞くと、秋がゆっくりと立ち上がり、なんか腰に手を当て。


「はっはっは!!っよよよよ、弱虫だなぁぁ、おれなんかへっひゃらだぞ!」


嘘つけ。恐怖のあまり呂律がうまく回ってないやんけ。


へっひゃらってなにさ。


ひょろひょろじゃねぇか。


下らない所でやせ我慢なんかしやがって。


「じゃあ秋。お前とんでみろよ!?」


俺が言った瞬間、秋の顔が分かりやすいくらいに引きつる。


「あ、あいにくの誘いだがな。ちょっと初めてで跳びかた分からないんだよなぁ」


お前どんだけだよ。


「ただ跳べばいいんだよ!!ほら!羽ばたけよ!!ユーキャンフライ!!!!」


俺も頭がいかれてきているらしい。


「クククク、クリーム塗ろうゼ!!」


「馬鹿かお前は!!登って来る途中で塗ったろうが」


そう、登って来る途中で塗ったのだよ。


秋も相当追い込まれているらしいな。


「そ、そうだったな。」


「じゃあ、じゃんけんで負けた方からな」


賭けごとの事も忘れ、変な提案をしだす俺。


もう自分が分からん。


「よよよし、うけてたちゅじょ」


たちゅじょて。


「せーの、じゃんけんぽん!!」


俺はグー。秋はチョキ。


俺の勝ちだな。


「いいいいい、今のは練習じゃないのかよういお」


呂律!!頑張れ呂律!!


秋の呂律!!


「れんしゅうはひきょうだじょ!!お前行けよ!!」


やばい、俺の呂律もやばい。


共にぶるぶると震える俺達。


お互い、プライドが邪魔をして、中止には出来なかった。


くっそ、ただ高いだけでこんなに恐怖するなんて。


情けないぞ俺!!


俺は自分に『喝!』を入れ、少し身を乗り出してみる。


下は水面。しばらく見ていると、自然と身体が引きこまれそうな感覚。


まるで水に誘われているかのようだ。


無理だ。こんなもの跳べっこない。


俺は、乗り出した身を、元に戻す。


するとその時、後ろから嫌な気配が……


俺が慌てて振り返ると。


「かっ海!おさきにどうぞ!!」


そういって、両腕を俺に伸ばしてきている秋。


ああ。いるんだよなー。いきなり押してくるやつ。


たまに見かける。


危ないなーと、いつも思っていたんだよ。


まさかそれを、親友がしてくるなんて。


さらにされているのが、この俺自身だなんて。


「あぶねぇっ!!」


俺は間一髪のところで、秋の両手首を掴んで止める。


「なにするんだよ秋!!テメェ落とされてぇのか!!」


俺に手首をつかまれたあとも、必死に抵抗する秋。


その時、俺は秋の顔が視界に入ってきた。


……やべぇ。目が死んでる。


恐怖のあまり、人を陥れるゾンビと化した秋。


そんな秋と、俺は必死に格闘を繰り広げる。


ちなみに、今俺が飛び込み台の端側だ。


ギリギリだ。


「おい秋!!押すんじゃねぇ!!」


「海!お前が先に落ちろぉぉ!!」


そんな事を言って騒いでいるが、秋は俺に両手首をつかまれた状態。


俺の方が力が入り易いわけで。


俺はクルッと秋と入れ替わる。


「形勢逆転だなぁ。秋!!くたばれぇぇ!!」


俺が思いっきりラストスパートをかける。


だが秋もしぶとい、飛び込み台の端で、妙にもちやがる。


「海!!ゆるしてぇ!!」


「うるせぇぇ!!」


「うるさくねぇぇ!!!!」


うお!?


こいつどこからこんなパワーが!!


これが火事場の馬鹿力という奴か。


俺は、なんか覚醒した秋に押しこまれる。


「場所チェンジ!!」


「させるかぁあ!!」


秋と場所をチェンジさせられかけるが、何とか持つ。


二人とも、すぐ真横に飛び込み台の端がある状態となる。


「うおりゃ!!」


秋の力強い一撃で、俺の体がそらされる。


秋の手首を放してしまったのだった。


だが何とか、体を安定させる俺。


バランス感覚がよくてよかった。


そして再び、秋と手を組んで、押し相撲のような形となる。


丁度その時だった。


『危ないから直ちにやめて下さい!!』


先ほどの警備の兄ちゃんが、いつの間にか階段を上って俺達のもとに、たどり着いていた。


いまどき仕事熱心だ。こんな恐怖の場所に足を踏み入れるなんて。


俺は兄ちゃんに気付いたのだが、必死の秋は気付いていないようだ。


警備の兄ちゃんが、駆け寄って、俺達の腕をつかもうとする。


俺は警備の兄ちゃんの声で、一瞬だけ力が抜けていたために、秋の力でバランスを崩されるわけで。


そしてもちろん、体がそれてしまう。


それと同時に、秋と組みあっていた手も離れるよな。


そこで、思い出してほしい。


警備の兄ちゃんは、俺達を止めるために、組み合っている手をつかもうとしたんだよ。


だが、急につかむ所がなくなった兄ちゃん。


そのまま勢い余って……


『うわぁぁぁぁぁ!!!!!『ドッパァーン』


落下。


兄ちゃん落下。


警備の兄ちゃん、無情にも落下。


なにも悪くないのに。

仕事熱心なだけなのに。

俺達の身を案じただけなのに。


その真面目さゆえの、落下。


そこで、ようやく秋が冷静さを取り戻す。


「うわぁ、なんだよ今の」


「おう、秋。もうやめよう。」


「……ああそうだな。」


なぜこんなに素直になったのか。


これも全部兄ちゃんのおかげ。


目の前で落下していく様を見た俺達は。


ぷかぷかとプールに浮いている兄ちゃんを見た俺達は。


リアリティ溢れる人間の落下を目撃し、俺達は素直になれた。


兄ちゃん。お前は自ら落下する事で、俺達を止める事が出来たんだ。


よかったな。警備の兄ちゃん。


しばらくすると、やっと兄ちゃんが陸に上がる。


良かった。生きてた。




――こうして俺達による、飛び込み台の大決戦は、幕を閉じた。


ありがとう警備の兄ちゃん。


凄いぞ警備の兄ちゃん。


俺達は、しばらく飛び込み台の上で、休息を取っていたのだった。

なぜか。神経すり減る戦いの後なので、安心したためか体に力が入らなかったのだ。


だがその時。



『――――んだとコラ!?』


『―――や――放して!!』



この声は琴音だ。


はたして、なにがあったのか。


琴音の運命やいかに!?




第二十一話 完

続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ