第二十話~なぜ準備は出来ているのに、出かけるまでにこんなに時間がかかるんだ~
「おい…嘘…だろ…?うわぁぁぁ!!!!!!」
ドゴッ!!。
飛んできた。
そう、それはもうメジャーリーガーの豪速球のようなスピードで。
猛スピードで飛んできたそれは、綺麗に俺の腹に直撃する。
「かはっ!?」
そのあまりの威力に、一瞬呼吸が止まる。
そして俺は、そのまま吹っ飛び、水の中へと落ちて行く。
『バシャン』と軽快な音を立てて、俺を嘲笑うかのように。
苦しい。息が出来ない。
あまりに衝撃の出来事に、一瞬意識を失いかけてしまった。
だがしかし、俺は今年一番の力を出し、水面に顔をを出す。
「ゴホッゴホッ!!」
瞬時に酸素を補給しようと、大きく息を吸おうとした時だった。
どうやら大量に水を飲んでしまったらしく、一気にむせ返る。
そして、それを見て奇妙に笑っている奴が約一名。
そいつは、俺を見て爆笑中。
そう。
弾丸のようなスピードで体当たりをしてきて。
俺を突きとばした犯人とは――――
第二十話
~なぜ準備は出来ているのに、出かけるまでにこんなに時間がかかるんだ~
時は平成。
心身ともにゆで上がるこの時期。
そう、夏だ。
そんな夏の暑い時期に、やる事と言ったらこれしかないだろう。
いや、他にもあるだろうが。
そんなツッコミはおいといて、これしかないだろうと言ってみる。
そう。それは!
「こたつでチゲ鍋!!」
「皆さんもどうですか?ダイエットにはピッタリで……ってなわけあるか!!脱水症状起こすわ!!!」
違うんだ。俺が言いたかったのはこんな事ではない。
そう、夏にやる事と言えば!
「町内を全裸逆立ちで一周!!」
「ひゅー♪こいつは癖になる涼しさだぜ!ってアホか!!周囲の人々の視線で違う意味で寒気がするわ!!露出狂か俺は!!」
だから違うんだって。
夏にする事と言えばあれしかないだろう。
俺はそれが言いたかったんだ。
夏にする事と言えば!!
「カツオの一本釣り!」
「おおっ!きたきた!!ここだぁ!!オエッ……ってふざけんな!!船酔いしちゃってるじゃねぇか!!カツオよりも船に乗ってる仲間の痛い視線が釣れちゃうよ!!!」
いいか?俺が言いたかった事。
それは!!
「海賊になる!」
「そうそう。野郎ども!出航だ!!……って、馬鹿野郎!!海賊になる前に船酔い治せ!!!お前には山賊がお似合いだ!ってなんでやねん!!」
いい加減にしてくれ。
これが最後だ。
いいか?夏と言えば!
「水着を着て!!」
「そうそう」
「北極へ!」
「いやー。ちょっと冷えすぎたぜ!…ってあたりまえだ!!馬鹿かそいつは!?そんなもん自殺願望がある奴に任せとけよ!!」
まったく。
「違うだろ?夏と言えば水浴び。水浴びと言えば?」
「全裸で水族館!!」
「やぁ!そこのハニー達!楽しんでるかい?…って楽しめるか!!ふざけんじゃねぇぞ!!何回このネタやらせんだ!!」
もう疲れたよ。
こんなもん秋にフレや。
秋なら大喜びだぞ。
「違うだろエメリィーヌ。プールだプール」
「あぁ、それは無効なんヨ!反則なんヨ!」
「それはルールだ」
「くそっ!行っても行っても同じ場所に戻ってきてしまうなんヨ!!」
「それはループ」
「ウチの幼馴染の!」
「そりゃルーブだろ」
「かぁ!!たまんねぇー!!」
「そいつぁビールだ」
「きにするな。当然の事をしたまでだ」
「それはクールね」
「まりおブラザーズの最後にある!」
「それはポール」
「チーズ味の!」
「そりゃカールだ」
「夏場に履くとむれるんヨね」
「それはブーツ」
「色々な物を製作したり」
「それはツール」
「馬」
「ホース」
「安いんヨ!!」
「そりゃセール」
「保存するんヨか?」
「セーブね」
「おーっと!?キーパーがボールを止めたぁ!!」
「それもセーブだ」
「ペタリと」
「シール!!」
「盾」
「シールドだ」
「おっと!大きく右方向にそれたーっ!!」
「ファールだろ」
「落ちる球!」
「フォーク」
「インチキ」
「チート」
「仕事なんヨ」
「パート」
「一人暮らしにはいいんヨ」
「アパート」
「とろけちゃうんヨ」
「チーズ」
「はい」
「チーズ」
「月」
「ムーンだ」
「前に歩いているようで実は後ろに進んでいるという」
「ムーンウォークな」
「いちたすいちは?の『は』」
「それはイコール」
「一番早いといわれている泳ぎ方」
「それはクロール」
「画面を上から下へ」
「スクロールだろ」
「かかとだけ高いんヨね」
「それはハイヒールだ!」
「あの輪っかをまわすのが難しい」
「それはフラフープ」
「七つそろえると願いがかなう!!」
「それはド○ゴンボール!!」
「捕まえて逃がす!」
「キャッチ&リリースだろ!!」
「なんという事なんヨ。あのゴミ屋敷だった部屋が…」
「ビフォーアフターだな?」
「とんかつ」
「ソース」
「ピザのお供に」
「チリソース」
「縦のヒント」
「クロスワードパズル!!」
「投手」
「ピッチャーだ!!」
「打者」
「バッター」
「打者の後ろの…」
「キャッチャー」
「ハチミツ大好き」
「プーさんだ」
「カラ」
「ムーチョ」
「ケンタッキーの」
「カーネルサンダース」
「竹田 秋」
「フリーズだろ…って、もはやプールのかけらもねぇじゃねぇか!!」
何で俺がこんな所で、漫才せにゃならんのだ。
しかもどんだけレパートリーあるんだよコイツは。
返すのに必死だったぜ。
どうしてくれる。
これからプール行くってのに、余計な体力使っちまったじゃねぇか。
そんなエメリィーヌの顔は、とても楽しそう。
丁度その時だった。
『ピーンポーン♪』
家のインターホンの音が鳴り響く。
どうやら、誰か来たようだ。
でも誰だかは分かっている。
多分秋達。
もう準備が終わって、俺の家に来たのだろう。
俺は玄関まで行き、ドアを開ける。
「オッス海!なんとか来たぜ!!」
開けたと同時に、陽気にあいさつしてきたのは、みんなも知っていると思う。
知っていると思うが、一応紹介しておこう。
忘れられているかもしれないしな。
この元気な奴は、竹田 秋。俺の親友。
「どうした海?何ボーっとしてるんだよ?」
「いや何でもねぇよ。とりあえず上がってくれ」
俺は、秋達を招き入れる。
そして、秋の隣にいる、ずっと無言状態のこいつが、竹田 琴音。
秋の妹で、普段は明るい性格なのだが。
どうやら、まだオメガを嫌っているらしいな。
覚悟を決めたらどうなんだ。
「ほら、琴音も入れよ。オメガいるけど」
俺は告げた。
すると、無言のまま、重い足取りで部屋に入っていく琴音。
それとは打って変わって、とても図々しく玄関へと乗上がりこむ秋。
とりあえず俺は、そんな二人をリビングまで案内する。
リビングに案内し終わると、琴音の姿を見たオメガが、やはり異常反応し始める。
「琴音ちゃん!!水着持ってきたか?もしあれだったら、これやこれなんかもどうかな?」
そういって、テントから大量の水着を取りだすオメガ。
その姿は、もう変態の象徴と言っていいだろう。
もちろん、琴音がそれを喜ぶはずもなく。
「帰っていいかな」
「おいちょっと待ってくれよ!確かにウザいけどさ。もうちょっとだけ。な?」
俺は必死に琴音を引き止める。
そんな俺の必死の説得に、嫌々だが帰らないでいてくれた。
まったく。これからは毎回説得しなくちゃいけないのかよ。
心が折れるな。
だが、そんな俺の気も知らずに、オメガがまた。
「琴音ちゃん!山空の事よりも、うきわとかいるでしょ?ほら好きなの選んでよ!」
……今琴音じゃなくてもイラッときたぞ。
空気読めよ。こいつの性格をどうにかしないとな。
「おいオメガ。精神安定シール貸せ」
「ん?なぜだ山空」
「お前に付ける。その性格を強制変更してやるよ」
「それは出来ない相談だ。大体、これは精神が安定していない人に付けるのであって、普通の人間に使用しても……あ」
説明の為にひらひらとシールを見せびらかすオメガの手から、俺はシールをひったくる。
「それじゃあオメガ。観念しやがれ」
俺は、シールを一枚だけはがした。
「おう海!やっちまえ!」
「キョウヘイがわるいんヨ!!」
「海兄ぃ!一枚と言わず、全部貼っちゃえ」
それを見ていた皆から、応援の言葉が聞こえる。
やはり、オメガに皆もイラッと来たのだろう。
エメリィーヌにさえ、見捨てられているのだから。
だが、オメガは冷静に言い放った。
「それはやめた方が良いだろう。正常な人間に使用すると、精神破壊が起き、取り返しの付かない事になるからな」
「なに!?」
そんな事を言われたら、使用できないじゃねぇか。
もし嘘だったにしても、本当なら困る。
オメガの一言で、困惑する俺。
だが。
「大丈夫だよ海兄ぃ。鳴沢恭平さんは大変興奮しておいでですから」
「あ、あのなぁ?」
「大体、精神崩壊した人がいたの?その人を見たの?」
「え、どうなんだオメガ?」
「いや、見たことはないし、それ以前に、人に使ったのは、琴音ちゃんが初めてで…」
「まじかよ!?よくそんな状態で使えたな」
「まぁ、僕が作ったんだし。大丈夫なのは分かっていたからね。」
「じゃあ、なんで分かるの?危険だって」
「あくまでその可能性もあるってだけだよ。一応そのような事の無いように作り上げたけど」
「なら平気なんじゃないの?」
「いや、万が一というものが……」
「そうだぞ琴音。作った本人が言っているんだから……」
「なら、本当かどうか試ないとね。今後、そのような事が起きないように。もちろん、作った本人が。」
「いや、しかしだな」
「自分で作ったんでしょ?自分の腕が信用できないの?不安なの?」
「琴音ちゃん。世の中に完ぺきというものはないんだよ」
「そんなものを私に使ったなんて…もしそれで私が変になってたらどうするの!!」
「だ、だからそのような事の無いように設計を…」
「なら使っても大丈夫でしょ。そのような事はないように設計したんだから」
「えっとだな」
「それとも何?人には使っておいて、いざ自分でとなると怖いの?このヘタレ!!最低だよ!!」
「そ、そんなことは……」
「ないって言うの?だったら試してみてよ。大丈夫なんでしょ?ほら、早く!!」
……唖然。
そう。唖然である。
俺だけではない。よく見ると、秋やエメリィーヌも口をあけたまま固まっている。
嘘だろ。
俺でさえオメガのペースに流されっぱなしだったというのに。
琴音は流されるどころか、あのオメガを黙らせていやがる。
しかも、琴音の方が正しく聞こえてしまう不思議。
……しかし、琴音があんなにむきになるとは。
よほどムカついたんだろうな。
あのオメガが、物凄い動揺している。
ちょっとの事では、動じないあのオメガが。
やはり女って怖いね。
うん。女性は怖い。
そんな琴音に対して、オメガが取った行動が。
「……すみませんでした。ごめんなさい」
まさかの謝罪だった。
その意外なる行動に、さすがの琴音も焦り出す。
「ちょっと!!なに謝ってるの!?やめてよ!!怖いから!!」
ああ、確かに怖いな。
こう開き直られると。
と言うわけで結論。
怖いのは、女性だけではなかった。
正直者は救われるとか言うのがあったが、多分それは間違いないだろう。
ほら、現に、琴音の猛攻から逃れかけている。
だが、それよりも。
正直者は怖い。
これに限る。
琴音の慌てっぷりを見たオメガが、ここぞとばかりに反撃に入る。
やはり、自分の研究が馬鹿にされ、むかついたのだろう。
「琴音ちゃん。人の頑張りを馬鹿にするような事はしちゃいけないと思うよ。でもしょうがないよ。僕は弱虫だからね。だから、まずお手本を見せてもらわないと。弱虫で無い琴音ちゃんにね」
そういって、怪しい笑みを浮かべるオメガ。
やっぱこいつ、最低だわ。
「はぁ…。なにいってるの?作った本人が恐れている物なんて、弱虫じゃなくても嫌にきまってるでしょ」
「ですよねー」
オメガあえなく撃沈。
喧嘩吹っ掛けた上に負けるとか。どんだけダサいんだよ。
「もう終了!!終わりにしてくれ!!プール行く時間がなくなるだろ?」
面倒くさくなった俺は、二人を無理やり黙らせる。
ホント疲れる。
とりあえず、そろそろ出発しよう。
これから行く所って、遠いんだよなー。
こういう時は、やっぱりあいつだろ。
「おいエメリィーヌ!超能力で連れてってくれよー」
いまだポカーンとしているエメリィーヌに言った。
「…ヨ!?危ないんヨ。琴音が鬼になっていたんヨ」
「エメリィちゃん。多分夢だよ」
おい。
「なんだ夢なんヨか。よかったんヨ」
納得しちゃってるし。
「なんだ夢かー。よかったよかった」
秋!お前もか!!
「んで、なんだったんヨか?」
「ああ、なんかもうめんどくさいし、超能力で連れてってくれよ。エメリィーヌが大丈夫ならだけど」
「あぁそれなら別にいいんヨ!そのくらいじゃ、全然平気なんヨ」
「そうか、ならよかった。よろしく頼む」
「了解なんヨ!」
そういって、元気良く手をあげるエメリィーヌ。
その言葉を聞き、俺、秋、琴音は、それぞれ準備をした荷物を持ち、エメリィーヌに触れる。
「あ、そうか、オメガは知らないよな。荷物持って、こいつに触れろ」
わけも分からず立ち尽くしているオメガに、俺は言った。
すると、慌てて荷物を持って、エメリィーヌに触れる。
エメリィーヌはそれを確認すると、目を閉じ、神経を集中させる。
それからしばらくして、エメリィーヌが重大な事に気付く。
「場所が分からないんヨ」
「あ、そういえばそうだな」
皆には説明していなかったはずだ。
超能力で移動するにも、場所が分からなくちゃ移動できないのだよ。
なので俺は、大体の方向と場所を、エメリィーヌに教えた。
「んで、大体ここから30分ぐらいの場所だな」
「うん、分かったんヨ!!それじゃ、移動するんヨ!!」
「おう」
「うむ」
「うん」
「ああ」
エメリィーヌの言葉にそれぞれ相槌を打ち、再び触れる。
すると再び、エメリィーヌが神経を研ぎ澄まし始める。
……だが再び、エメリィーヌが重大な事に気付く。
「勾玉を忘れていたんヨ」
「あ…」
そうだった。超能力を使うには、勾玉が必要だったんだ。
俺は引出しから勾玉を取り出し、エメリィーヌに渡した。
エメリィーヌはそれを受け取ったあと、首にかける。
これでよし。
「じゃあ、行くんヨ!」
「おう!」
「はぁー!瞬間移動」
エメリィーヌが唱えた瞬間、勾玉の光が最大となり俺達を包み込む。
そして―――――
――――「っと、ついたみたいだな」
そう、そこはまさしく、俺達が向かおうとしていた目的地の前だった。
俺達が出てきた場所は、あまり人が来なさそうな草むら。
駐車場の一番隅っこだ。
人に見られたりしたら大変だからな。
エメリィーヌもそこは分かっているのだろう。
「カイ。ここで間違いないんヨか?」
エメリィーヌが俺に聞いてくる。
「ああ、大丈夫だ」
俺は答える。
それにしても本当に凄いよなぁ。
っと、とりあえず。
「秋。大丈夫か?」
「な、なんとかな」
出現場所が悪かったらしく、草むらに頭っから突っ込んでいる秋。
突き刺さっている。
そして琴音を見ると、地べたに座り込み、背中をさすっている。
どうやらぶつけたらしい。
そして、瞬間移動初体験のオメガはと言うと。
とても驚いた表情で、何か考え事をしている。
そして、唐突に言った。
「なんだこれは。科学的に物体が移動するなどあり得ない。どういう構造だ?もしかしてあれか。勾玉の力で一時的に物体をパァっと粒子化させて、ビュンっと高速で移動し、そして目的地に到着したと同時に、物体をチュインと再構成させていると考えるのが自然か……」
おいおい、なんか科学者っぽい事言っているが、所々感覚で言ってるじゃねぇか。
なんだよチュインって。
お前はいったいどっちだ?
感覚や勢いタイプか?真面目に分析タイプなのか?
どっちだよ。感覚で分析タイプだろうか。
そういえばこの前も、PCで小説っぽいのを読んでいたっけ。
お前はどっちだよ。PCが好きなのか?小説が好きなのか?
さらにいえば小学校の時も、リレーなんかでもぶっちぎりで一位だったな。
だけど休み時間なんかは、ずっと携帯をいじったり、なんかを組み立てたりしてたし。
やけに機械やアニメの事も詳しかったな。
「ちなみに、研究のための材料は自力で取りに行っている」
ほら。
運動得意なんだよコイツ。オタクのくせに。
理系なのか文系なのかはっきりしろよ。
そして、人の考えを読み取るのはやめて頂きたい。
「いや山空、口に出してるぞ」
「うん。喋ってる」
「しかもさっきからずっとな」
「ばっちりなんヨ」
「おいおい、気付いてるなら教えてくれよ。俺どこから喋ってたんだ?」
「それにしても本当に凄いよなぁ。あたりからだよ」
「そんなに最初から!?」
うそだろ。全然気付かなかったぜ。
「そんなことより、プールなんヨ!」
エメリィーヌが、プールに入る前から楽しそうだ。
それほど楽しみなのだろう。
「わかった。じゃあ行くぞ」
「やったーなんヨ!!」
入り口のドアの前に立つと、勝手に開く。
いわゆる自動ドアだ。
入り口を通ると、目の前には受け付け。
それ以外はほとんどなにもない。
自動販売機と売店。それに休憩用のベンチ。貸し出し用のうきわやら水着やらが置いてあるぐらいだろうか。
結構あったな。
「エメリィーヌ、トイレとか平気か?」
「ウチは平気なんヨ」
「ならいいんだ」
『こちらの方に名前をお書き下さい』
と、受付の若い女性の人が言った。
黄色いTシャツを着て、胸のあたりには『水流鉄道スリーセブン』というロゴが印刷されている。
ちなみに、水流鉄道スリーセブンとは、このプール施設の名前だ。
オメガの情報によると、ここの最高責任者の人が、銀河鉄道スリーナインの大ファンだったそうだ。
そして、ギャンブル好きだったとか。
なので、成功するようにと、スロットの大当たりを示す『777』の意味を持つスリーセブンにしたらしい。
水流は、まぁプールだからだろう。
そんな感じだ。
ちなみに、夏休みとはいえ今は平日なので、人はあまりいない。
その方が琴音的にも嬉しいだろう。
プールは広いに限るしな。
とりあえず俺は、みんなの分も名前を書く。
「皆の名前も書いておいたぞ」
「ああ」
俺が言うと、秋が返事をした。
皆の名前を書き終えると、受付の女の人が言った。
『五名様ですね。なら、料金をお支払いの上、男性なら左。女性なら右へお進みください。』
「はい」
ちなみに、高校生以上は大人料金だ。
大人は五百円。
子供は三百円。
一度入れば、営業終了まで、好きなだけ遊べるってわけだ。
時間制限などはない。
俺達は、受付の人の指示に従う。
謎の高校生差別を受けながらも、それに耐え続け料金を支払う。
地味に結構な出費だ。
エメリィーヌの分も合わせて八百円。
まぁ、その分キッチリ遊んでやるとしよう。
「琴音の分は俺が払うから」
秋は、琴音の分も払うらしい。
良い兄貴だな。
「俺が払うからって……その俺が持っているお金は私から借りているお金でしょ」
前言撤回。ダメ兄貴でした。
「つーか、なぜ妹から金を借りているんだ」
「色々あったんだよ!」
「秋兄ぃの今月分のお小遣いを、全部エメリィちゃんが持ってったんだよ。ラーメンで」
「琴音!!いらん事言うな!!」
ラーメン?あぁ、デパートでか。
なるほど。コイツ大食いだから。
納得だ。
俺が納得をしていると、唐突にオメガが言った
「おい山空。僕の分もよろしくね」
「よろしくね。じゃねぇよ。自分で払えよ」
図々しい奴だな。
「いや違うんだよ。財布を忘れたみたいなんだ。」
「はぁ?何やってんだよ。かばんの中に入れてたろ?俺見たぞ」
「変な事はよしてくれ。かばんの中になんて……」
そういってかばんを調べるオメガ。
すると。
「ありました」
「ほらな?」
あるに決まってるんだよ。
だって俺がこっそり入れておいたのだから。
こっそり隠しやがって。
俺に払ってもらう気満々だったじゃねぇか。
そんな事俺は許さない。
俺の活躍により、オメガは無事支払った。
「じゃあ琴音。エメリィーヌよろしく」
「うん。ほら、エメリィちゃん行くよ?」
「分かったんヨ!」
俺は琴音達に別れを告げ、男だらけのむさ苦しい場所へと踏み込んでいく。
「って、ちょっと待てオメガ。お前カツラなんか被ってどこ行く気だ」
「ちっ」
まったく、油断も隙もない奴だな。
しかも、ここでのぞきなんかしたら犯罪だぞ。
俺はオメガをばっちり連行する。
そして、更衣室の個室へと押し込んだ。
「お前ここから出るな。俺達が着替え終わるまで待っていろ」
「ちっ」
なんか時々舌打ちが聞こえるのだが……気のせいだろう。
俺は服を脱ぎ、ロッカーへと押し込む。
ふふふ。実はズボンの下にもう着て来ていたのさ!!
そんな訳で、着替え終了。
ゴーグル装着!
プールの水は意外と汚いらしいから。
目を守るためにも付けた方がいい。
「じゃあオメガ。俺先行くから」
「うむ」
俺はオメガに言って、先に更衣室を出た。
そのあと俺は、冷たいシャワーやら何やらに耐え、とうとう目的の場所に出る。
と言っても、温水なのでそれほど冷たくなかったのだが。
そしてそこは、とてつもなく広い。
一番大きいのが流れるプール。
水の滑り台。族に言うウォータースライダーもある。
おいおい、飛び込み台までありやがる。
危なくないか?
絶対に秋がみたら、どっちが先に飛びこめるか競走だ。
みたいな下らない度胸試しさせられるな。
どうやって断わろう。
『わりぃ!俺、高所恐怖症だから』か?
いや、そんな事を言ったら最後。逆に意地でもやらせようとするな。
しょうがない。あいつの視界にとらえさせないようにしよう。
それが良い。
あ、ちなみに今準備運動しているからな。
足とかつると痛いし。
それにしても、人いないな。
三十人くらいしかいないだろこれ。
何があったんだ?まぁいいか。
準備運動が完了した俺は、流れるプールに近寄り、手首まで入れて水温の確認。
うむ。わからん。
それにしても皆遅いな。
そう思い、更衣室からこちらに来るための入り口を俺は見る。
するとそこには、俺に向かって突進してくる秋の姿。
「海!始めっから飛ばすぜ!!」
そう、その姿はまるで、バッファ○ーマンがハリケ○ン・ミキサーで突進してきているようだ!!!
え?伝わらない?簡単に言うと、牛が赤い布の見て突進してきているかのようだ……って。
「おい…嘘…だろ…?うわぁぁぁ!!!!!!」
ドゴッ!!。
直撃だ。そりゃそーでしょうよ。
誰だって、不意を突かれれば吹っ飛ぶんですよ。
これはどうしようもない事。
これをかわせって方が無謀だ。
まぁ当然。俺はバランスを崩す。
そして、水の中へとダイブなわけだ。
と言うわけで。犯人は秋なのだった―――――
第二十話 完
今回は長くなったのでバッサリと切りました。