第十九話~立派だった~
オメガが俺の庭にすむようになって、あれから一週間。
デパート事件の丁度二日ぐらいかな。
時が経つのは早いもので、もうすっかり馴染んでいる。
あ、庭に住んでいると言っても、オメガは犬ではないからな。
ちゃんとした人間だ。いや、ちゃんとしていない人間だ。
そういえば、この前オメガに聞いてみた。
なぜ俺の家に住み着いたのか、気になったからだ。
するとオメガは言った。
どうやら、住む場所がなかったらしい。
両親は事故で亡くなり、ずっと叔母さんと伯父さんに育ててもらっていた。
叔母さんはとても優しかったのだが、伯父さんはとてもひどい奴だった。
だが今年、その叔母さんも病気で亡くなり、当然意地悪なクソ伯父は、お前のせいだと追い出したらしい。それが今年の6月。
その話を聞いた時は、伯父はひどい奴だな!!とムカついていたが、正直そんなんでもない。
オメガは、高校生になってもバイトなどせず、叔父叔母の資金でフィギュアやら何やらを買う。
伯父がキレるのもしょうがない訳だ。
まぁ、自業自得だな。
オメガの性格上、友達などいる訳もなく。
あの公園で、しばらく過ごしていたらしい。
そこに、偶然俺達が来た訳だ。
あいつからしてみれば、俺が唯一の友達だ。
みんなは嫌ってたからな。オタクだし。
まぁ、本人は気にしてないみたいだが。
とまぁ、そんな訳だ。
あ、ちなみに、俺の通っている高校の制服を着ていたのは、夏休み明けに転校するらしかった。
つまり、前の高校から、俺のいる高校に転校してくるわけだ。
どうりで見覚えがなかったはずだ。
そして俺は今。リビングで優雅に毒焼酎だ。
あ、まちがえた。読書中だ。
第十九話
~立派だった~
「カイー!プール行きたいんヨプール!!」
突然エメリィーヌが言い出した。
どうやらテレビでプールの紹介がやっていたらしい。
それを見て行きたくなったのだろう。
「断る」
俺はエメリィーヌに言った。
するとエメリィーヌが、しつこく聞いてくる。
「えー、なんでなんヨー!?楽しいんヨプール!!オススメなんヨ!!」
「うるさいな、俺は今、読書中なんだ」
まったく、集中できないじゃないか。
しつこい。
「カイー!行こうなんヨー。絶対に楽しいんヨからー!」
俺の首元をつかみ上げ、ガタガタと揺らしてくる。
「や、っやめ、や、やめろ!!」
俺は怒鳴りつける。
するとエメリィーヌが、怒ったように言った。
「ぶーぶー!もういいんヨ!!ケチ!ドケチ!ドドドケチ!!」
「うるせぇな!なんだよドドドケチって」
腕を組み、口を尖らせぶーぶー言ってる。
うるさい。そんな顔しても駄目なものは駄目なのだ。
すると、そのやりとりを庭で見ていたオメガが言った。
「山空。プールぐらい連れて行ってあげなよ。」
「キョウヘイの言う通りなんヨ!!!」
まったく。エメリィーヌには甘いんだから。
でもまぁ、オメガの言うとおりだな。
丁度読み終わったし、プールぐらい連れて行ってやるか。
突如気分が変わった俺は、なんとなく連れて行ってあげる事にした。
「じゃあしょうがない、どうせならあいつらも誘うか」
「やったー!!!なんヨ!!カイ。ありがとうなんヨ!!」
目をキラキラさせて、大喜びのエメリィーヌ。
そんなに喜んでくれると、連れて行く方も嬉しいものだ。
そして当然、あいつらとは秋と琴音の事だ。
「そしてオメガ。盗撮は犯罪だ」
行くと決まった瞬間、カメラを手にしたオメガに言い放った。
するとオメガは、冷静に言い放つ。
「僕は盗撮などしない。コソコソせず、堂々と撮影する!!」
「馬鹿野郎。変態丸出しじゃねぇか」
「変態ではない。僕は少女たちにしか興味ないからね」
「それを世間では変態という」
「ちぇ」
そういって、オメガはカメラをテントに戻す。
何がちぇ。だよ。
ある意味エメリィーヌより疲れるな。
っと、秋達に電話しておこう。
そう思った俺は、自分の携帯を手に取り、秋に電話をかけようとした時だった。
チャラリーン♪という、陽気な受信音が響き渡る。
俺はそれを確認した。
…なんと間のいい奴なのだろう。
秋からのメールが届いていた。
俺はそれを確認してみる。
【Title】『暇でくたばりそうだ\(^o^)/』
オワタの顔文字。
正直、暇なだけで終わらないで欲しい。
俺はメールにツッコみながらも、本文を確認する。
【本文】『オッス!秋だ。とてつもなく暇なのだが、俺はどうすればいいだろう。』
知るか!なんだよコイツ。面倒くさいな。
『おい!今、『知るか!なんだよコイツ。面倒くさいな。』とか思ったろ。』
うわぁ!?なんだコイツ!!気持ちわりぃな!
怖い。ホラーだ。
俺は少々驚きつつも、メールの続きを確認する。
『とりあえず、なんかあったら連絡してくれ。俺と琴音は今日暇だからな。まぁ、用件はそれだけだ。じゃあな。>゜))))彡以上。秋でした。』
ここで、秋のメールは終わる。
魚(>゜))))彡←これのことな)についてはスルーで。
とりあえず、メール返しておこう。
丁度プール行くって決まったしな。
俺は、秋あてにメールを作成する。
【本文】『プール。準備。俺家。即集合。オメガ付き。』
それだけを入力し、秋に送信。
そのあと、はしゃぎまわっているエメリィーヌと、PCに向かって話しかけているオメガに言った。
「すぐ行くから、準備しとけよ」
「分かったんヨ!!」
「うむ」
俺の言葉に、そう返事を返す二人。
俺が準備のために自室に向かおうとした時、エメリィーヌが言った。
「ウチは何を準備すればいいのか分からないんヨ」
あー、そうか。
行ったことないのかプール。
水着とか必要だもんな。
「オメガ!お前、エメリィーヌの準備頼んでいいか?」
「任せなさい。じゃあエメル、この中から好きなのを選んでね」
そういうと、オメガは瞬時に大量のプールグッズを出した。
おいこら。まさか本当に持っているとは思わなかったぞ。
しかも何種類あるんだよ。タオルにゴーグル。水着まで。
あいつ、よく捕まらねぇな。
はたから見れば、変態以外の何物でもないぞ。
まぁ、いいや。とりあえず準備するか。
ついでに言っておくと、俺は行動に移すのは早くないと嫌だ。
やると決めたらすぐにやる。先延ばしにして、気分が変わるといけないし。
俺は自分の部屋のタンスをあさる。
確か、一番下の引出しに…お、あったあった。
懐かしの水着!海パン!!
それは、緑迷彩柄のトランクスタイプの物だ。
どうだ?かっこいいだろ?
そんな感じで、タオル。ゴーグルなど、プールに必要なものを用意する。
俺はすべてを用意し終え、エメリィーヌとオメガのいる、一回のリビングへと向かう。
「準備できたかー?」
俺は、そういいながらリビングを覗き込んだ。
そこには、うきわを選び中のエメリィーヌがいた。
オメガはいない。どうやらテントにいるようだ。
両腕を組み、うんうん唸っているエメリィーヌに、俺は声をかけた。
「エメリィーヌ。早く決めろよー。」
「それは分かっているんヨが…うーん」
悩み過ぎだろう。
つーかオメガもオメガだ。
何でこんなにうきわを持っている。
しかも子供用サイズ。
そんな事を考えていると、テントから顔を出し、オメガが言った。
「一応、上に乗る系のもあるのだが…」
「あー、俺がこれから行く予定の所って、そういうの持ち込み禁止だしなぁ」
このあたりでは、一番広いと思うのだが…なぜか禁止だ。
なぜだろう。…まぁいいか。
とりあえずあれだな。
「エメリィーヌだったら、このカバの模様なんか良いんじゃないか?」
そう言って俺は、とても可愛く描かれたカバの絵がプリントされているうきわを指差した。
「カイ。ウチが一番あり得ないのを選んだんヨ」
と、呆れたようにエメリィーヌが言う。
おいなぜだ。一番かっこいいじゃないか。
俺なら真っ先にそれを選ぶんだがな。
とりあえずあれだ。
「カバが嫌なら、お前の好きなこの緑色のうきわでよくね?」
俺は、一番左足に置いてあった、クローバー模様のうきわを指差す。
見事に、この前買ったエメリィーヌ用の布団と、模様が一致していた。
だがしかし、エメリィーヌはまだ悩んでいる。
なんだっていいじゃねぇか。
丁度その時、またしても携帯が鳴る。
秋からのメールだ。
【Title】『プール。準備。俺家。即集合。オメガ付き。とは』
【本文】『プール行くから、準備して、お前の家に、すぐ集合。オメガもおまけで付いてくる。でいいんだな?以上。秋でした。』
おお。お見事。
どうやら伝わったようだ。
ところで秋。
最後に秋でした。なんてつけやがって。
自分の存在を、そんなにアピールしなくても。
俺は少々呆れながらも、『OK』とだけ書き、返信した。
するとすぐに、再び秋からのメールが届く。
【Title】『琴音が嫌がってる』
【本文】『助けてくれ。琴音が凄い拒否しているんだ。『メガ兄ぃが行くなら私は死んでも行かない』って言って、部屋にこもっている。界も南都か一手暮!!異常。臭でした。』
あちゃー。やっちまったな。
そりゃぁ、あれだけの事があったんだ(デパート事件)。嫌がるのも無理はない。
そしてメガ兄ぃって。
恭兄ぃじゃなかったのか。
まあ、名前を呼ぶことすら嫌なんだろう。
琴音に凄いトラウマが作られてんじゃん。
オメガのアホ。そしてなんだ最後の文字。
『界も南都か一手暮!!』ってなに。
海もなんとか言ってくれ!!ってことか?
なぜこんな文字を変換ミスしたんだあいつ。
さらに、異常臭って何。お前そんなに臭いの?
何で間違える。
どんな名探偵でも分からんよ。
しかしあれだな。琴音も面倒くさいな。
まぁ、あの琴音が、人前、しかも変態の目の前で水着姿になれるわけがない。
てか、琴音じゃなくても多分嫌だ。
と言うわけで、俺は秋に提案してみた。
と、その前にオメガにも確認を取っておこう。
俺は、テントの中でせっせと準備しているオメガに聞いてみた。
「オメガー!ちょっといいか?」
「なんだねちみ」
とても陽気なオメガ。
プールが嬉しいのだろう。
だがしかし、俺は無情にも言ってみた。
「お前、留守番でいいか?」
『ガシャン』と、オメガがかばんを落とす。
そして、何かを呟き始めた。
俺はオメガに耳を澄ませてみる。
すると。
『なんでなんだ。僕だけなぜ仲間外れに。何がいけなかった。そうか、山空は僕の事が嫌いなのか。なんでだ。なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだぁぁぁ!!!呪!!!!』
オメガが何かに取りつかれたように、叫び出す。
とても不気味だ。最後の方に呪とかつけちゃったもの。
俺は、発狂するオメガを、慌ててなだめる。
「ちょちょちょ、怖い怖い怖い!!ちょっと落ち着こうね!!もう叫んでるから!!呪わないでね!行っていいから!!!」
「え?いいの?」
「いいよ。いや、是非行ってください!!」
「ふん。そこまで言うなら仕方がない。行ってあげなくもないな」
突然、いつものオメガに戻る。
ヤバい。凄い安心した。
てかちょっと待て。
なぜプールに持っていくはずのかばんから、ガシャンとかいう金属の音が聞こえたんだよ?
オメガは何を持っていく気だったんだ。
俺はとてつもなく気になり始め、ちょっとだけかばん拝借。
オメガのかばんは真っ黒で、外からじゃ中は見えないのだ。
あ、ちなみに、エメリィーヌはまだ困惑中です。
オメガのかばんを拾い上げ、中をのぞいてみた。
すると。
「……え?」
俺が驚いたのは他でもない。
謎。
そう、何なのか理解できなかったからだ。
俺は、大量に入っている中の、一つだけを拾い上げてみる。
俺が手に取ったのは、青い色のレーザー光線銃的なものだった。
たしか、子供の頃アニメかなんかで見たことがある。
確かアニメでは、なんでも溶かしてしまうって代物だ。
でも、だけど違うよな。
いや、まさか。
ああ、水鉄砲か。
オメガも子供らしい所があるな。
……。
おい俺。本当にそんな物で納得してしまっていいのか?
現実を見るんだ。どこにこんな水鉄砲がある!!
明らかに違うだろ!!
なんかメモリついてるもの!!
エネルギー満タンだもの!!
謎の緑の液体が、チャージされているもの!!!
……とりあえず。
見なかった事にしよう。
俺は静かにかばんに戻そうとした時。
「見たね?」
その言葉に驚き、光線銃を落としてしまった。
そう、俺の足の上に。
それは結構な重さなのだよ。
だって、液体が入っているのだから。
『ゴキィ』と、俺の足の上で鈍い音が響く。
その瞬間。
「いってぇぇぇ!!!」
足が痛い。足の甲が痛い。
やばいんじゃね?骨折れたんじゃね?
折れてなかったとしても、打撲だろこれ。
俺が屈んで足を押さえていると、俺の足のそばに転がっている光線銃に、誰かが手を伸ばす。
俺は、手が伸びてくる先に、視線を移した。
それは、オメガだった。
やばい。怪しい物を目撃してしまった。
しかも持ち主にばれてしまった。
だけどしょうがないよ。
だって友人だと思っていた人の荷物の中に、人間を簡単に抹消できるような兵器があったんだもの。
これあれだよ。墓を掘り返している謎の人物を、見かけちゃった時と同じぐらい怖いよ。
っておい。
オメガ、なぜ俺に向けている。
それは、さっきのレーザー光線銃じゃないのかよ?
オメガが、光線銃らしきものを俺に向けている。
いや、正確には紫色に腫れている俺の足だ。
「山空。動くなよ?」
「……へ?」
オメガがそういったと同時に、発射されるレーザー。
そしてそれは、ものすごいスピードで、まっすぐ俺の足へと向かってくる。
……なるほど。目撃者は抹殺というわけか。
逃げられないように足を吹っ飛ばそうって作戦だな。
おいエメリィーヌ。お前逃げた方が良いぞ。
多分俺は、ここで死ぬ。
俺は、静かにエメリィーヌを見る。
すると、エメリィーヌはまだ困惑中。
あーあ。さいなら。現世。
『ビチョン』
俺が現世に別れを告げたとほぼ同時に、レーザー直撃。
……あれ?
当たった所に、スライムっぽいのが張り付く。
そう、俺の足の甲にだ。
すると、そこの部分が焼けるように熱くなる。
「うわぁぁ!!何をしたぁ!!俺は焼いても上手くないぞ!!」
俺は叫んだ。それほどに熱い。
エメリィーヌを見ると、まだ困惑中。
そしてオメガはと言うと、静かにプールの準備を再開。
そうか。俺をプールに沈めようってんだな。
つーか熱い!!大丈夫か俺の足!!
ほら!なんか『シュー』とか聞こえるよ!?
焼けてるよ。こんがり美味しくなっちゃうよ。
俺がパニック状態に陥っていると、だんだん熱さが引いて来て、スライムも消滅していく。
そしてスライムは、謎だけを残して完全に消滅した。
……何があった。
体に異常はない。
足も焼けてないよな……あ。
傷が治っている!
そう、あれだけ腫れていたのが、すっかり無くなっていたのだ。
俺が混乱していると、オメガが説明してきた。
「これは、『スライム型腫れ引きレーザー銃』だ」
「はぁ?スライム型腫れ引きレーザー銃?何言ってんだお前」
「これは、火傷、打撲、捻挫、骨折などによく効くといわれている薬草を、スライムと配合して出来た銃だ。だが、切り傷などには効かないがな。ちなみに、僕が作った」
「……お前すげーな!!!そのネーミングセンスすげーな!!」
って事はあれか?
エメリィーヌなしでも完全治癒が出来るって事やん。
やべぇな!昔と違って、すげぇモン作れるようになってんじゃねぇか!!
昔なんて、強化版パチンコとか。
ハイパワー消しゴムぐらいだったのに。
あ、説明してなかったな。
オメガは二次元を愛するばかりに、アニメの世界に入る機械みたいなのを作るのが夢らしいんだよ。
あとは、人間そっくりの年を取らないロボットとか。いわゆる人造人間にあたるだろう。
あとはえっと、まぁそのくらいだったかな。
それを完成させるために、凄い研究して、昔からいろいろ発明しているんだ。
でもこんなもんまで作れるようになっていたとは。
驚いたぜ。シールやら電動バイクやら。
俺は正直、凄いとは思わなかったんだが。
改造していただけだし。シールだし。
でもこんな光線銃みたいなのなんか、ほぼオリジナルだからな。
かっこいいのは好きだ。
ってか、あれだ。
「こんなに凄いの作ってるんだったら、有名になれるんじゃないか?」
そうしたら、金に困る事もないし。
材料だってたくさん手に入るだろう。
俺はそう思ったので聞いてみたんだ。
するとオメガが言った。
「僕の華麗なる努力の結晶を、そう簡単に他の人に見せられるものか。僕はのんびり生きたいんだよ。そもそも発明だって、暇つぶしのようなものだしね」
「……なるほどね」
ならしょうがないだろう。
俺がとやかく言う事ではない。
それにしても、オメガはすげぇな。
「他にどんなものがあるんだよ?」
もちろん気になるだろう。
新しいもの好きの血が騒ぐ。
この流れで聞かない奴などいない。
だがそこはオメガ。
「そのうち、見せるきっかけでもあれば見せてやる」
だってさ。見せるきっかけ?
今俺が作ったろう。
見せろと言われたんなら、それが見せるきっかけだろう。
ほらエメリィーヌもなんか言ってやれよ!!
「うーん、どれがいいんヨか……」
まだ困惑中でした。
『チャラリーン♪』
俺がとてつもなく落ち込んでいると、またしてもメールが届く。
【Title】『おい!なんとかしてくれ!!』
【本文】『おい!なんとかしてくれ!!』
うるせぇな!なぜにタイトルと本文に同じ文章を。
意味が分からん。
とりあえず、送り返しておこう。
もちろんメールで。
【本文】『琴音も本当は行きたいだろうから、琴音にはエメリィーヌと遊んでもらう形で、オメガは俺と秋が保護する感じでどうだ?オメガを置いて行くのは多分無理そうだから』
送信っと。
うん。これで解決だね。
『チャラリーン♪』
早っ!!まだ10秒も経ってないぞ。
とりあえず俺は、メールを確認する。
【Title】『無理だった』
【本文】『即答で拒否られた。早押しクイズの決勝戦ばりに。以上。秋でした。』
とても分かりやすいたとえをありがとう。アホか。
しかしあれだな。どうするか。
もう仕方がないな。
これだけは使いたくなかったのだが。
俺は覚悟を決め、メールを送る。
【本文】『エメリィーヌが琴音と遊びたいって騒いでる。エメリィーヌの為に来てやってくれないか?』
送信っと。
悪い琴音。お前の良心を騙すような真似をしてしまった。
こんな不甲斐ない俺を許してくれ。
俺が心の中で謝罪を繰り返すこと30秒。
秋からの返信。
【Title】『OKだった』
【本文】『何とか了承してくれた。『嘘かも知れないけど、本当だったら可哀そうだから』って言っていたぞ。どうするんだ。多分嘘だろ。なんて事をしてくれた。お前は俺を許さない。以上。秋でした。』
……やばいな。
ってちょっと待てよ秋。お前の携帯にメールしたんだぞ。
お前も見せたって事じゃねぇか。
なぜ『自分は悪くありません。さーせん』みたいなんだ。
自分だけ逃げようなんて。このひきょう者め!!
そしてもう一つ。打ち間違えには気をつけろよ?
『お前は俺を許さない』になっているぞ。
普通逆だろ。なぜ俺が秋を許さない事になってるんだ。
てかそんな事よりだ。どうしよう。
……そうだ。嘘を本当にすればいい。
エメリィーヌに聞いてみよう。
多分この時の俺は、誰がどう見てもひどい奴だったであろう。
だがまぁ、知らん。
俺は、まだ困惑中のエメリィーヌを利用する。
「おいエメリィーヌ。琴音がプール行きたくないと言っているのだが」
「うーん。どれがいいんヨかね」
って聞いちゃいねぇし。
俺は、エメリィーヌの肩を叩いてみる。
「ヨ?どうしたんヨか?」
どうやら気付いてくれたらしい。
エメリィーヌが俺を見た。
俺は再び告げる。
「琴音がもしプールに来なかったらどうする?」
エメリィーヌの事だ。琴音が大好きだしな。
嫌がるだろう。少しでも嫌がるそぶりを見せれば、俺の計画は成功と見ていい。
そして、俺の人柄が決まる、エメリィーヌの言葉が。
「それはしょうがないんヨね」
えー。皆の期待を裏切らないリアクションしてるな。
俺の期待は思いっきり裏切られたわ。
「おいエメリィーヌ。嫌じゃないのか?琴音に来てほしくないのか!?」
だんだんと、追い詰められていく俺。
こんな事にこんなに必死になるなんて。最低すぎる。
だがしらん。
「そりゃ一緒に遊びたいに決まっているんヨ。でも、琴音にだっていろいろあるんヨ。ウチのわがままで、琴音に迷惑かけちゃ可哀そうなんヨ」
立派でした。
なんだよコイツ。立派じゃねぇか。
俺みたいな、汚い心を持っている奴なんかではなく。
純粋な、やさしい心を持っている立派な人間じゃねぇか。
だがその半面。こんなに小さいのに。
やっぱりあれだな。いじめられていた奴って、人には優しいのかもしれない。
……いや、そんな事で、エメリィーヌの優しさを、一括りにしてはいけない。
これがエメリィーヌなのだ。
これこそが。
こいつはいい奴だな。
俺はお前を尊敬するよ。
俺もお前を見習って、汚い心は捨てよう。
琴音とエメリィーヌを、そそのかそうとして汚い心なんか。
グッバイ。汚い自分。
そしてよろしくな。綺麗な自分。
こうして俺は、とても清らかな人間へとなったのだった―――
「だった―――。じゃないんヨ。すべて口に出していたんヨ」
エメリィーヌが俺を見る目が、とても冷たい。
まるで、可哀そうな人を見るときのように。
なんだよその目は。
「わかったよ。もう分かった!俺が悪いんだろ!?そうですよ!!俺は汚い人間ですよ!!それがなんか問題でもありますかー?」
やけくそだった。
「うわー。逆切れなんヨか。どこまでもちっさい人間なんヨね」
「くっ…、くそったれがぁぁ!!!!」
近寄りがたい人間を見るような目で、エメリィーヌが俺を見ていた。
俺は、そんな現実に耐えきれず。
エメリィーヌの視線に耐えきれずに、その場を逃げるように離れたのだった。
ただその途中。
ドアに左足の小指をぶつけた。
第十九話 完