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俺の日常非日常  作者: 本樹にあ
◆日常編◆
21/91

第十六話~オメガがいると、朝はこうなる~

 2014/04/18/01:52

 挿絵を追加しました。

八月。


そう、とうとう八月になってしまった。


夏休みになったばかりのころは、色々な期待を膨らませていた。


だが、実際はそうじゃない。


エメリィーヌと出会って、オメガとも出会って。


思い返せば散々な事になっていた。


盛り上がったのはじゃんけん大会ぐらいだろう。

 

これではだめだ。


高校生活二度目の夏休み。


無駄には出来ない。


せめて一度。

一度だけでもいいから、どこか出かけたい。


山か?

いや、エメリィーヌがいては体力的にきつい。


川か?

いや、最近は事故が多いからな。やめとこう。


宇宙?

これは夢があっていい。でも不可能だ。


うーん。分からない。

後でみんなにでも相談しようか。



俺が考えこんでいると、いつの間にやらオメガが完食したようだ。


俺の夕飯なのに。ハンバーグなのに。



第十六話

~オメガがいると、朝はこうなる~



「ごちそうさま」


オメガが、ハンカチで口を拭きながら言った。

こういう事は、無駄に紳士的だ。


すると、オメガが急に立ち上がる。


それと同時に、『ガンッ』という凄い音。


どうやらぶつけたらしい。


オメガが足を押さえて苦しんでいる。


…だっせ。


しばらくもがき続けると、おさまったみたいだ。


ゆっくりと俺を見つめ、唐突にオメガが言った。


「お前の家の庭を借りたいんだが…」


は?なぜだ。


芋でも焼きたいのか?


「何分だ?出来たら俺もいただきたいのだが…」


夕飯食ってないからな。

誰かのせいで。


そういえば、朝食も食ってないな。


遊び過ぎて、昼も食ってなかったような…。


そんな俺たちを見上げながら、静かに食べ進めるエメリィーヌ。


コイツは喧嘩を売っているのだろうか?


すると、オメガが言った。


「何分って…出来れば、無期限で。」


「無期限!?お前、そんなに芋を焼き続けるのか!?」


さすがにやり過ぎだろう。


近所にも迷惑だ。


俺が言うと、オメガは否定した。表情を変えずに。


「何を言っている。僕は芋など焼かない」


芋を焼かないだと!?


なんだよ。オメガにはがっかりだ。


「僕がなぜ芋を焼くと思ったんだ。理解に苦しむよ」


うわぁ!オメガに呆れられた。


心から落ち込める。


てか、芋を焼くんじゃないんだとしたらいったい…


「何のためにだ?」


「住むため」


「ああ、なんだそうか」


住むためねぇ。


住むため…って。


「はぁ!?何言っちゃってんのきみ!!」


住むって、ここ俺ん家だぞ!?


するとオメガは、こんな時まで冷静に答えた。


「安心しろ。食料と寝床は、僕が用意する」


「いやいやいや!?おかしいだろ!!」


「山空に世話になるのは、庭だけだ。…あと、電気と水道とガス。」


「馬鹿野郎!!最後がおかしい!!いや、最初も変だけど最後が特におかしい!!」


「何か問題でもあるか?…まぁ、それらの代金はすべてお前持ちだが…」


「問題しかねぇよ!!もう事件だよこれ!!」


ふざけるなよ!


何で俺がお前の使った、ガス、水道、電気の代金まで払わないかんのだ!!


「あ、やはり食費もヨロ。」


「ヨロ。じゃねぇよ!!軽いなお前!お前が食費まで払わなかったら、お前は寝床だけじゃねぇか!!」


「何を言っている。庭に住むのだから、寝床もお前が用意したようなもんだ」


「なんだ、そうだったのかー!!って納得できるかっ!!」


ゼェゼェと、荒い呼吸をする俺。


くそっ、俺は秋じゃないんだぞ。


何が楽しくて、こんなんになるまでツッコまねばならん。


「しょうがないな。なら僕が、エメルの面倒をみるよ」


「黙れ変態!!ロリコン野郎にエメリィーヌが渡せるか!!」


何されるか分かったもんじゃない。


俺が怒鳴りつけると、オメガが呆れた表情で、静かに言い放った。


「山空。良く言うじゃないか」


「なんだよ?」


「萌えにときめけ!!二次にきらめけ!!って。」


「死にさらせ変態!!」


もうだめだ。


コイツは終わっている。人間として。


しょうがない。


もうめんどくさい。


もう勝手にしろ。


「もういい。その代わりエメリィーヌは置いてけ」


「それは無理だ」


「帰れ。」


「すまん、冗談だ。…今の全部。」


「今の全部?」


「僕は人に迷惑をかけるほど、酷い人間ではない。生活費は僕が払う。」


「なんだよ…。まぁ、それなら許す。」


「だが、風呂と食事はよろしく頼む」


「はぁ!?…くそっ、さっきよりは条件がだいぶ軽くなったからな。許す」


「すまない」


食事と風呂位ならなんとかなるだろう。


風呂は残り湯。


飯は残飯ってところか。



てかそういえば。


「庭ってどうなんだ?」


いくら夏とはいえ、夜中は冷えこむだろう。


風邪でも引いたら困るし。何より、俺の印象がやばい。


人を庭に放置なんて。



するとオメガが言った。


「安心してくれ。ちゃんとテントを持ってきた。毛布もあるぞよ」


「おお、なるほど」


なら大丈夫だな。


最後の『ぞよ』が気になるが、それ以外は問題ない。


「じゃあ、後は適当にやってくれ。俺は寝る」


「うむ」


「ウチもこれ食べたら寝るんヨー!!」


俺はオメガにあいさつをして、二階へと向かった。



一日中動き回って、もうヘトヘトだ。


今にも倒れそう。もちろん、半分は空腹で。


とりあえずあれだな。秋たちにも報告しなくちゃな。


特に琴音。あいつにとって、俺の家は危険すぎる。


そう思いながら、俺はベッドに倒れこんだ。


成り行きとはいえ、凄い事になってしまった。


…まぁ、いいか。


そんな事を考えていたつもりなのだが、俺はいつの間にか眠ってしまった――――



―――次の日の朝。


「カイ!!朝なんヨ!!起きるんヨ!!!」


エメリィーヌに体を揺すられる俺。


うるさいな。

俺はまだ眠いんじゃいボケ。


俺はエメリィーヌを無視して、二度寝を決め込むために布団に深く潜る。


これは意思表示だ。


俺はまだ寝るんだぞアピールだ。



その時、突然謎のセリフが俺の耳に飛び込んできた。


挿絵(By みてみん)

「早く起きないと、お・し・お・き・しちゃうんヨ♪」


「はぁ!?」


今の声はエメリィーヌだ。


きっとオメガが余計な入れ知恵でもしたに違いない。


じゃなきゃエメリィーヌがそんな言葉を言うわけがない。


変な事を教え込んだオメガに頭に来た俺は、オメガに説教するため布団から飛び起きた。


「やっと起きたんヨ!!もう。お寝坊さんなんだから♪」


「やめんか!!」


恥ずかしがる様子もなく、いつもと変わらない感じのエメリィーヌ。


オメガめ、こんなふざけ切ったセリフをエメリィーヌに言わすとは!!


ゆるせん。


少し可愛かったじゃねーか!あんがい悪くないかも…

…っい、いや違う!なんて事を教えてるんだ。


「オメガはどこだ!!」


「僕はここにいるが」


「あ、いたのか!!お前、エメリィーヌに変な事教えるんじゃねぇ!!」


部屋の隅に立ち、PCで何かをしているオメガ。


相変わらずのクールさだ。


俺はそんなオメガに、俺のプライドを守るために言い放った。


するとオメガは。


「コノヤロウ!!こんな可愛い少女と一緒にいて、お前は何も感じなかったのか!!失望したぞ山空。昔はあんなに、気があったというのに」


「やめろ!昔の話を持ち出すんじゃない!!確かに少し可愛かったけども!!」


「っな!何言ってるんヨ!!そそ、そんなことあ、あるわけないんヨからしかし…!!」


俺の言葉を聞き、エメリィーヌが顔を赤らめる。


なんで怒ってんだ?


「どうしたんだよ?顔真っ赤だぞ?」


「そそそそそ、そんな事はないんヨ!!」


「なんだよ、キモいな」


そんな俺の言葉を聞き、静かに呟くエメリィーヌ。


「……カイのアホ」


「ん?なんか言ったか?」


「な、なんでもないんヨ!!!カイのマヌケ!!!」


「は!?なんだよ!!意味分かんねー!!」


なぜ俺がキレられなくちゃいけない。


心配して損したぜ。 


「うむ。山空は鈍感にあたる部類だな」


ん?オメガまで何言ってるんだ。


お前ら二人して意味が分からん。


ずっとPCと向き合っているオメガと、突然不機嫌になったエメリィーヌ。


そんな二人を見て、俺は怒る気が失せたのだった。


とりあえず飯だ。


俺は昨日から食ってないからな。そろそろ餓死する。


てか、この前からずっと、飯のことしか言ってない気がする。


俺は食いしん坊ではないのだが。


俺はとりあえず、二人に問う。


「朝飯。何が食いたい?」


「…ウチは何でもいいんヨ」


まだ不機嫌そうのエメリィーヌ。

 

本当に何があったんだよ。

…まぁいいか。


「オメガは何が食いたい?」


「魔法の城に住んでいるセビィちゃんが作った、かつお節ラーメンがいいかな」


「俺が作る時点で、もうそれは無理だな」


大体、かつお節ラーメンって何だよ。


味が想像できない。


セビィちゃんについては、スルーで行く。

いちいち気にしてられるかってんだ。

 

とりあえず、丼物がいいな。


ガッツリと行きたい。


するとオメガは、俺の考えを読んだかのように言ってきた。


「朝から丼物はないだろう。僕は納豆でいいよ」


「納豆!?お前、意外とあれなんだな。俺は絶対パンかと思ってた」


「日本人は米だろう。セビィちゃんも言っていた。」


またセビィちゃんかよ。いったい誰だ。


しかも、さっきかつお節ラーメンとか言ってたはずだろ。米じゃないじゃん。


まぁ、気にしない方向で行こう。


エメリィーヌは何が良いのだろうか?


そう思った俺は、ずっと顔をそらし、不機嫌そうなエメリィーヌに聞いた。


「エメリィーヌはなにがいいんだよ。」


「ウチは何でもいいって言ってるんヨ!!」


「じゃあ、お前も納豆でいいな?」


「嫌なんヨ!!」


おいおい、どっちだよ。


なんでもいいんじゃなかったのか。


とりあえず、目玉焼きなら食うだろ。


「エメリィーヌには目玉焼き作るから。じゃあ作って来るわ。」


「うむ」


「…分かったなんヨ」


とりあえず俺は、早速準備するために一階へと降り、料理を開始する。


オメガは納豆なので、白米を茶碗に盛り、納豆を置いておく。


これでオメガの分は完成。



次はエメリィーヌだ。


油を敷いたフライパンの上に、卵を綺麗に一つだけ落とす。


後はふたをして放置。


しばらくしたらふたを開け、皿へ。


味付けは、しらん。


あいつに任せる。



続きましては俺だ。


まず卵をスクランブル!!それからどんぶりに白米を山盛り!!


スクランブルしたエッグをかける!!


ひき肉投入!!色が変わるまで炒める!!


程よくなったらそのまま丼へ!!


これが男の二色丼だ!!


たまごとひき肉の二色の併せ持つハーモニー。

これはうまそうだ。


完成したので、二人を呼ぶ。


「できたぞー!!」


すると、階段の降りる音が聞こえ始め、そのあとすぐに二人が下りてきた。



テーブルに並べられたものをみて、オメガが一言。


挿絵(By みてみん)

「納豆だけは寂しいものがある。なにか、もう一つあったらうれしかった」


「うるせぇ!!なら食うんじゃねぇ!!」


ホント、わがままだ。


残飯じゃないだけ感謝しろ。



やれやれ、といった感じで、席につくオメガ。


なんだよその態度。


「…おお!!おいしそうなんヨ!!」


エメリィーヌは、目玉焼きを見たとたん、いつもの調子にもどった。


「違うエメル。昨夜教えただろ?」


は?教えた?


「そうだったんヨ!あら、美味しそうな朝食でございますコト♪」


「やめなさい」


まったく。なんて事を教え込むんだ。


油断も隙もない奴だな。でも、可愛いから許す。


でもまぁ、機嫌が直ってよかった。


それぞれが席に着き、皆が違う朝食を食べ始める。


それは、とても新鮮な光景だった。


その時、オメガが納豆のふた開ける。


そのあと、懐から何かを取り出し始めた。


それは、良くハチミツとかを入れる容器。


ほらあれだよ、先端から出るようになってて、すぐにかけられるやつ。


これで何となく伝わったはずだ。


だが問題なのはそこじゃない。その中身。


ハチミツが入っていても嫌だが、中にあるそれはハチミツとは程遠い色だ。


なんとなく見た目で分かるのだが、信じたくはない。


俺が目を疑っていると、謎のそれを納豆にかけるオメガ。


おい。うそだろ。何で平気な顔してかけられるんだ。


それ…チョコレートだぞ!?


そんな俺の表情を見て、何かを察したのだろう。

オメガが言った。


「いやじつはね。セビィちゃんの姉のサビィちゃんがやっていたんだよ。美味いらしいからね」


おい。正気かよ。大丈夫か?


俺の見る限り、とてつもなくまずそうだぞ。


そんな俺の心配もむなしく、見事に納豆に絡むチョコレート。


そしてそれを、茶碗の中の汚れ無き白米へと…


あー、やっちゃった。これもう人間の食べ物じゃないだろ。


バレンタインとかにこれ貰ったら、100パー嫌われる。


そんな物体を、口の中に運ぶオメガ。


「……」


オメガは無言だが、分かりやすいほど脂汗が噴き出す。



うわぁ…。絶対失敗だよ。拷問だよ。生き地獄だよ。


多分不味いんだろうなーとは思いつつも、オメガに感想を求めてみた。


「オメガ…どうだった?」


「…う、うん。なかなか…美味いと思う…」


「本当は?」


「全力でミスッた……ゴホッ」


だろうな。


そうだと思ったよ。


人間が食えるもんじゃない。見た目で分かる。


ん?人間?


そうだよ。エメリィーヌならもしかして食うかも。



突如そう思った俺は、エメリィーヌに地獄のバトンを渡す。


「……エメリィーヌ」


俺は、とても優しい視線をエメリィーヌに送り続ける。


「な、なんなんヨか…」


「お前。食え」


「ゴメンナサイ」


早いな。だがもしかしたらというものがある。


「頑張れ。お前なら食える」


俺はオメガから茶碗を預かり、そこからこの気色悪いゲテモノをスプーンですくう。


箸は無理だ。汚れる。



そしてすくった物を、エメリィーヌに近づけた。


すると、凄い勢いで拒否し続けるエメリィーヌ。


「無理!!本当に無理なんヨ!!冗談抜きで!!」


「大丈夫だ。味はオメガが保証する。」


「冗談じゃないんヨ!!そこで青い顔している奴なんかに保証されても困るんヨ!!見てみるんヨ!!キョウヘイの状態を!!」


そういって、オメガを指差すエメリィーヌ。


するとそこには、青白い顔し、いまだ苦しそうなオメガ。


「ゴホッ!!オエッ…」


「……大丈夫だ」


「間!!今の間はなんなんヨ!?ちょっとぉ!!」


「すきあり!!」


「ヨ!?」


エメリィーヌのかすかに開いた口に、すかさずチョコ納豆。


エメリィーヌは、半泣きだ。


「…どうだ、エメリィーヌ?」


泣きながらも、しっかりと味わっているエメリィーヌに俺は聞いた。


「……」


やはりエメリィーヌも無言。


そして、大量に脂汗。


その時、やっとエメリィーヌが口を開いた。


挿絵(By みてみん)

「……こんなに簡単に毒を作る方法があったんヨか……ガクッ」


そういって、エメリィーヌは倒れた。


うわぁ、やっぱり駄目だったか。


まぁいいや。その内復活するだろう。


俺は、二色丼を楽しもう。



そういって、俺は二色丼のひき肉の部分を口に運ぶ。


その時だった。


「すきありなんヨ!!」


エメリィーヌの声と同時に、ひき肉ではない何かが俺の口の中へ。


…おい、まじかよ。


「味はどうなんヨか?…ゴホッ」


「……」


とても負傷しているエメリィーヌ。


味なんてものは、分からない。


まだ、来ない。


それ故に、一瞬無言になる。


…あれ?意外と平気。


そう俺が思った瞬間。


!?


来た。来やがった。


そうか。これが皆を苦しめた元凶か。



それを味わった瞬間、望んでもないのに脂汗が吹き出る。


やばい。


もうこれやばい。


味?


言葉に出来ない。


でもあえて言うなら。


チョコレートに納豆のあの嫌な風味だけがしみこんでいる。


そして、納豆の粘り気とチョコレートのとろみが、俺の舌に張り付き逃がしてくれない。


とりあえず、水だ。



俺が水を求め、席を立とうとした。が。


オメガとエメリィーヌに、がっちり捕まり身動きが取れない。


「おい!!何ずんダ!!離せ!!」


涙目の俺。


やばい。とてつもない吐き気が…


本格的にヤバいぞ。



俺を抑え付ける二人の目が、恨みと憎しみにより、とても恐ろしい。


ちょっと待て。エメリィーヌは分かるが、オメガはおかしいだろう。


俺何もしていない。


だがそんな事はどうでもいい。


俺に水を!!


「カイ。貴様だけ逃げるなんてずるいんヨ……ウッ」


「一緒に苦しもうじゃないか……オエ」


お前ら!!


何やせ我慢している!!


ふざけんな。



俺を見つめる皆の顔は、とても人間とは思えないほど。


その口元は怪しくニヤけて、ニタニタと薄気味悪い笑顔を振りまいている。


だれか。俺を解放してくれ!!


「おい!皆で水を飲もう!!そしたら楽になる……うぉえ」


くそっ!皆と同じ症状が現れ始めやがった!!


「そ、そうだな」


「賛成なんヨ!!」


俺の提案に、二人は賛成のようだった。


どうやら、みんな限界らしい。


あの基本無表情なオメガでさえも、苦しい表情をあらわにしている。


それほどに拷問なのだ。


みんなが一斉に動き出す。


台所の水道を、オメガが確保。


くそっ!!あいつ早いな!!


運動苦手そうなくせして。


水を口に含んだオメガは、とても幸せそうな顔だった。


「おいオメガ!!早くそこをどけ!!」


お前のその、開放感に満ち溢れた顔など見たくない。


だがしかし、オメガから衝撃の一言。


「僕が先に取ったんだ。きみに譲る気はないよ」


はぁぁ!?何言ってんだコイツ!!!


「そんな下らない事言ってないで、早くどけよ!!」


「…お願いします…は?」


「ぶっとばすぞ!!」


何でこんな時に、こんな変態に頭を下げなくちゃいけない。


しかも俺の家で。


だがしかし、オメガの裏切りは止まらない。


「ほら、いいなよ。こんな事になって申し訳ありませんってね。」


「ハァ!?それはお前のせいだろ!!」


何で俺が謝らなくちゃいけない。


意味が分からねぇ。


「ふーん。なら別にいいんだよ?」


「こんのっ!!くそ野郎!!!!」


もうしょうがない。


謝れば済む。


納得いかないが、今は水だ。


コイツはそのあとに…。



覚悟を決め、俺はオメガに頭を下げる。


「こんな結果になってしまいすみませんでした!!お願いですからそこを譲ってください!!」


くそっ!!最悪だ!!


何でこんな奴に、自分の家の水道の使用許可を得らなくちゃいけない。


だがまぁいい。これで、地獄から解放されるんだ。


俺のそんな間抜けな姿を見て、オメガが言った。


「なるほど。良く出来ました」


「じ、じゃあ」


「だが…自分が楽になりたいだけで、大事なプライドを捨てるような奴には、この場所は譲れないな。」


「っざけんな!!!」


もうお前には頼らん!!


洗面所だ。



オメガの華麗な虐待に耐えながらも、俺は洗面所に向かった。


だがそこにも…


「エメリィーヌ!!どいてくれぇ!!」


すっかり元に戻っているエメリィーヌ。


ここの存在に誰よりも早く気付き、一人で確保していたのだろう。


そしてやはり、エメリィーヌもあいつと同類だった。


「カイ、ここを貸してほしいなら、今日の事全部謝るんヨ」


ふざけんな。


まぁ、俺も悪かったし。


それなら謝っても気分は悪くない。


「悪かったよエメリィーヌ。本当に悪かった。許してくれ。」


そんな俺の言葉に、エメリィーヌが少々驚いた様子で言った。


「何があったんヨ!?素直すぎて驚いたんヨ!!」


エメリィーヌは、本当に驚いているらしかった。


「まぁ、俺が全部悪かったからな。」


エメリィーヌにこんな物食わせてしまった。


とても可哀そうな事をしたと思う。


「じゃあ、許してあげるんヨ」


そんな俺の言葉を聞き、エメリィーヌはその場所を離れてくれた。


そのエメリィーヌの顔は、とても嬉しそうだった。


俺はすぐさま水を口に含んで、うがいを始める。


すると、すぐにとはいかないがとてもスッキリした。


ふぃー。助かったぜ。


俺はとてつもない開放感に、オメガへの怒りもなくなっていた。


すると突然、エメリィーヌが顔を赤くしながら言った。


「えと、その、カイが朝言っていた事は、本当…なんヨか?」


「朝?何の事だ?」


てか、今も朝だろ。


何言ってるんだこいつは。


「だ、だってさっき謝ってくれたんヨから…本当はどっちなんヨかなって…」


「ん?何言ってるんだよ。どっちもこっちもないだろ。無理矢理食わせてしまったのは俺だしな。」


そんな俺の言葉に、エメリィーヌがとても驚いた様子で聞いてきた。


「ヨ!?じゃあ、朝の事謝ってくれたんじゃないんヨか!?」


「はぁ?何いてるんだよさっきから。俺が謝ってるのは、お前に無理やりチョコ納豆をだな…」


俺が言うと、エメリィーヌがとてもキレる。


「カイのドアホ!!ウチが謝ってほしかったのは…その…」


「どうしたんだよ?」


「う、うるさいんヨ!!なんでもないんヨ!!」


そういってエメリィーヌは、リビングの方向に走って行ってしまった。


いったいなんだったんだ?


最近の宇宙人の考える事は分からん。


昔の宇宙人も知らないけどさ。



とりあえず俺も、リビングへと歩き出した。


するとリビングでは、エメリィーヌとオメガが、朝食の続きを取っていた。


そんなエメリィーヌの後ろ姿は、どこか小さく、寂しそうだった。


そして気になった事が一つある。


「オメガ。それ俺のじゃん」


俺の二色丼だぞ。


するとオメガは真顔で答えた。


「食うものがなかったもんでね」


「もうお前帰れよ!!」


「鈍感なお前には、食うものなど必要ない」


「またそれか!!意味が分からん。さっさと返せ!!」


「ん」


そういってオメガは、空っぽのどんぶりを見せつけてくる。


こいつ、全部食いやがった。



その時、ふと気付いた。


そう、あのエメリィーヌが一言も喋っていない。


ずっと丸くなったまま、何も喋らない。


俺のせいなのだろうか?


…多分そうだろう。


なんでなのか。


何に怒っているのか。


全く分からない。


だけど、あいつが悲しそうにしていると。


エメリィーヌに元気がないと、なんか落ち着かない。


俺は寂しそうなエメリィーヌの背中を見つめ、静かに言った。


「エメリィーヌ。大丈夫か…?」


理由も分からぬまま謝ったとしても、それは本当の意味での謝罪ではない。


だから今の俺には、これしか言えなかった。


だがエメリィーヌはずっと黙ったまま。


その時、俺はエメリィーヌが震えている事に気がついた。


…泣いている。


あのエメリィーヌが。


そう思うと、俺はとてつもなく悲しくなった。


俺は、そんなエメリィーヌを見続ける。


ただそれが辛い。


苦しい。


そう思った俺は、一言だけエメリィーヌに告げた。


「エメリィーヌ、ごめん…」


俺のそんな言葉に、少しだけエメリィーヌの体が動く。


そして。


「――…ヨ」


何かをつぶやくエメリィーヌ。


だがよく聞き取れない。


「エメリィーヌ?ごめん、良く聞こえなかったんだが…」


「―…たんヨ」


エメリィーヌの体が、徐々に震えだす。


そして言った。


「やったんヨ!!カイー!みるんヨ!!出来たんヨ!!」


「……は?」


エメリィーヌの手には、知恵の輪が握られていた。


って事は…え?


ずっと知恵の輪に集中していただけか!?


「ぷっ…フフ…はっはっはっはっは!!!!」


俺の驚いた表情を見て、笑いだすオメガ。


「オメガ!!お前知ってたろ!!!」


「はぁはぁ…いやぁ!わるいわるい。僕がエメリィーヌに渡したんだ。暇みたいだったから。それなのにお前…あんな必死に…ぷっ」


オメガの言葉で、さっき自分が言った事がフラッシュバックする。


その恥ずかしさで、俺の顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかる。


「ふ、ふざけんなお前ら!!いい加減にしてくれ!!」


「いやぁ、すまない。僕とした事が、柄にもなく大笑いしてしまった。山空も必死だったんだよな。エメリィーヌ、ごめん…とか言って…っぷ」


「ヨ?いったいなんの事なんヨ?」


「いやぁ実はね。山空が…」


「黙れ!!それ以上言ったらゆるさねぇぞオメガ!!」




――楽しそうにからかうオメガ。


何の事だか分からず、ずっと『?』なエメリィーヌ。


オメガにからかわれて、顔を真っ赤にして反論する俺。



何年ぶりぐらいだろう…


そんなに朝から賑やかなのは。


騒がしいほど賑やかだ。


でも今の俺には、その賑やかさが…どこか心地よかった。




第十六話 完

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