第9.5話~それは、優しさがあってこその~
どうもです^^
今回は一連のいざこざを琴音視点でお楽しみください^^
では、どうぞ!
「何だってんだよ、めんどくせぇ。」
そう海兄ぃが呟いた。
エメリィちゃんは、謝るのに必死で気づいていないみたいだ。
だが、真剣に海兄ぃの言葉を待っていた私には、聞こえた。
秋兄ぃも聞こえたみたい。
秋兄ぃが、海兄ぃを叱っている。
しかし、海兄ぃは認めようとはしない。
いや、心では分かっているのだと思う。
でも認めない。
これは、海兄ぃの悪い癖だ。
「そんなもん知るかよ、勝手に謝られて、こっちは迷惑してるんだ」
秋兄ぃが、何度も海兄ぃを叱る。
そんな秋兄ぃの言葉に、出てきた海兄ぃ言葉がこれだ。
言い過ぎているのは、自分でも分かっていると思う。
でも、やっぱりダメだ。
これじゃ、後々損するのは海兄ぃのほう。
しかしそうなってからじゃ遅い。
エメリィちゃんのためにも、海兄ぃのためにも、ここは強く言っておこう。
「エメリィーヌ、泣くなよ………俺が悪かっ『もういいよ。』
そんな、その場しのぎで謝っても、あとでまた同じことを繰り返す。
そんな事の無いよう、海兄ぃには自分で分かってもらわないといけない。
「もう謝らなくていいよ、エメリィちゃん。海兄ぃなんかに謝ることないよ」
海兄ぃには悪いけど、今言っておいた方がいい。
「海兄ぃ。もう帰って、頭冷やしてきなよ」
それで、自分のしたことをよく考えて。
とりあえず、考える時間というものがあった方がいい。
エメリィちゃんを、家に連れて行こう。
「こ、琴音! ちょっと待ってくれよ!!」
「なに」
「あの、悪かっ…たよ……」
海兄ぃなら大丈夫。
ここで謝れるのだから。
「琴音、悪かったから、俺が悪かったから許してくれよ!!」
あとは一人でじっくり悩んで、その答えを私に聞かせて。
海兄ぃなら、大丈夫だから。
第9.5話
~それは、優しさがあってこその~
エメリィちゃんの過去を見た後、私たちはまた、家に向かって歩き出した。
だが、すぐに足の異変に気づく。
「いたっ」
そう言えばそうだった。
私は足を怪我していたんだ。
なぜ今まで普通に歩けたのだろうか。
多分、海兄ぃの事で頭がいっぱいだったからだと思う。
アドレナリンと言うやつかもしれない。
「大丈夫か?」
秋兄ぃが、足を押さえてしゃがみ込む私を心配そうに見ている。
「大丈夫……じゃないかも...っつ」
足を撫でると、激痛が走った。
本格的にヤバいかも知れない。
そんなとき、エメリィちゃんが言った。
「治すことはできないかもなんヨけど、少し良くするだけなら出来るんヨ?」
「マジか? じゃあ頼むよ」
秋兄ぃがエメリィちゃんと何かを話をしているが、痛みでそれどころではなかった。
すると突然、呪文を唱え始めるエメリィちゃん。
「コリクサコサクリエメラルドゥ!!はぁ!!治癒能力 !!」
呪文を唱えたと同時に、温かい光が私の足をつつみこむ。
そして、凄い勢でに痛みが引いていった。
私は立ち上がり、その場でジャンプをしてみた。
「すごい。全然痛くないよ」
どんなに飛んだり跳ねたりしても、全く痛くはない。
正直、驚いた。
「軽い打撲程度になっているけど、無理しちゃだめなんヨ?」
「わかったよ。ありがとね、エメリィちゃん」
軽い打撲?どれどれ。
私はためしに、怪我をしてさっきまでズキズキいたんでいた所を触ってみた。
すこしズキッっとする。
たしかに完全に治ってはいないようだ。
「それにしても、超能力ってすげーな」
たしかに。
効果絶大だ。
「じゃあ、帰るぞ」
「うん」
私たちはまた、歩き出した。
外灯により照らされる道。
そこですれ違う人々にあいさつをかわす。
それから約20後、家に着いた。
「ただいま、お母さん」
「おかえりなさーい」
台所の方で声がする。
玄関のドアを開け、靴を脱ぐ。
続けて、秋兄ぃ、エメリィちゃんも入ってくる。
そういえば、エメリィちゃんの事をどう説明しよう。
全く考えていなかった。
こんな小さい子を勝手に連れて来て、怒られるに決まっている。
説明した所で、宇宙人なんて信じてくれないだろう。
「秋兄ぃ、エメリィちゃんの事、どうしよう?」
一人で考えていてもらちが明かないので、秋兄ぃに聞いてみた。
「あ、そう言えばそうだな、どうするか?」
やっぱり、秋兄ぃも忘れていたらしい。
どうしよう。
悩んでいると、突然秋兄ぃが言った。
「おふくろー!! ちょっと来てくれー!!」
「ちょっと、いきなり呼んでどうするの!? まだ何も考えてないのに!!」
秋兄ぃの思いがけない行動に、思わず大声を出してしまった。
そして、当然のごとく、お母さんの足音が聞こえる。
やばい、こっちにくる。
まぁ、呼んだのだから当然なんだけど。
だんだん近づいてくる足音とともに、お母さんが近づいてくる。
そして、その足音はとうとうこっちまで来てしまった。
「どうしたのよ?」
お母さんに陽気な声。
そして、その目線がエメリィちゃんの方へと向けられる。
「……その子……どこの子?」
エメリィちゃんの姿を見たお母さんが、至極当然の疑問を口にする。
もう、私は知らない。
秋兄ぃが呼んだのだから、秋兄ぃが何とかすればいいんだよ。
そして、その秋兄ぃが答える。
「コイツ、道に迷った俺たちを超能力で助けてくれてさー」
ちょっと!!超能力って言っちゃったよ!?
信じてもらえるわけないでしょ!?
「なに馬鹿なことを言ってるのよ、超能力なんてあるわけないじゃない」
お母さんは信じようとはしない。
まぁ、これが普通の反応だよね。
すると、エメリィちゃんがお母さんに向けて喋る。
「ウソじゃないんヨ、全部本当の事なんヨ」
「コイツ家出してきたみたいでさー、行く所が無いみたいだから、しばらく家で預かっていてくれないか?」
この、アホ兄ー!!家出なんて言ったら絶対だめでしょ!?
絶対怒られるよ!!
「……お父さんや、お母さんは?」
ほらほら、お母さん呆れてエメリィちゃんに聞くことにしちゃったよ!!
『わが子ながらアホだなー』とか思っている顔だよ!?
失望してるよ!?
「両親には、許しを得ているんヨ」
と、エメリィちゃんが言った。
どーすんの!!秋兄ぃのせいでやばい状況だよ!!
ほら!お母さん、無言になっちゃったよ!?
もっと他に言い方あったよね!?もっとうまい言い方が!!
正直者すぎるよー!!!
お母さん考え込んじゃったよ!!
しばらく無言で考え込んでいたお母さんが、とうとう口を開く。
「……そうなの、ならいいわ」
「えぇぇぇ!!!!いーの!?ねぇ!!そんなんでいいの!?」
お母さんの予想外の答えに、私は動揺を隠せなかった。
「だって、親がいいって言ったのなら、私に止める理由はないじゃない?」
「いや、あるよ!!十分あるよ!! そんな簡単に信じちゃだめだよ!!」
はぁ……なぜ私は自分の首を、自分で絞めているのだろう。
だけどお母さん、本当にそれでいいのですか?
私は、少しお母さんが心配です。
「いいのよ、可愛いんだから」
左様でございますか。
なら別にいいです。
もう何も言いません。
気まぐれなお母さんのおかげで、なんとか大丈夫そう。
とりあえず、一番心配していたことが無くなってよかったよ。
「あ、そうだ、お母さん包帯かなんかある?」
私は、足のけがの事を思い出し、お母さんに尋ねる。
「どうかしたの?」
心配そうな顔で、お母さんが私を見ている。
「いや、足捻っちゃったみたいで……今は痛くないけど、一応ね」
凄く心配そうなお母さんを、安心させるように言った。
お母さんは、『ちょっと待ってて』と言って包帯を取りに行ってくれた。
「よし、エメリィーヌ。とりあえず俺の部屋で遊ぶかー」
と、秋兄ぃが言いながら、二階へと上がっていく。。
「やったー、なんヨ♪」
エメリィちゃんが秋兄ぃについて行った。
その顔はとても嬉しそう。
しばらくすると、お母さんが戻ってきて、包帯を巻いてくれた。
「ご飯温めたら呼ぶから、琴音も遊んでいらっしゃい」
そう言って、台所へと戻っていく。
そうだ、今9時ぐらいだった。
夕飯作って待っていてくれたんだ。
お母さんには悪いことしちゃったなぁ。
そう思っていると、突然電話が鳴った。
「琴音ー、出てくれるー?」
「はーい」
電話は、ちょうど玄関の近くだ。
私は立ち上がり、電話の所まで行って受話器を手に取った。
「もしもし、竹田ですが……」
『……もしもし、俺…だけど………』
この声は、海兄ぃだ。
多分さっきのことだろう。
「………海兄ぃ、何か用」
私はまた、怒っている声を作る。
『あの……えっと……さっきの事なんだけどさ』
もちろん、さっきの事とはエメリィちゃんの謝罪の時のこと。
私は、海兄ぃが次の言葉を発するまで待った。
「………」
『その……エメリィーヌはどんな感じだ……?』
海兄ぃが、エメリィちゃんの様子を聞いてきた。
その声は、どこか暗い雰囲気を漂わせている。
さっきの事が、よほど応えたのだろう。
「今は普通だよ。秋兄ぃと遊んでる」
『そ、そうか……。良かった』
私の言葉に、海兄ぃが安息の息を漏らす。
「……それを聞きたくて電話してきたの?」
なかなか話が切り出せない海兄ぃの後押しをする。
『い、いや……それもある……けど…』
受話器越しに、海兄ぃの息を吸う音が聞こえる。
そして、すぐに海兄ぃの声が聞こえてきた。
『琴音………俺が悪かった……ごめん』
海兄ぃが、謝ってくる。
だけど私は、そんな海兄ぃの言葉の真意を確かめるため、聞き返した。
「…………それだけ?」
『……俺、サイクリングとかで疲れてて……それで……本当にごめん!!』
その海兄ぃの言葉には、不思議と、気持ちが感じられなかった。
何と言うか、心の底から謝って言う感じではない。
「………………で、海兄ぃの言いたい事は、それだけなの?」
私は確認のため、もう一度聞き返した。
『えっと……あの時は、俺どうかしてて……だから……その……』
海兄ぃの言葉からは、謝るよりも、私に許して貰う方に力が入っている。
心では本当に悪かったと思っているだろうけど、無意識に内にそっちの考えになってしまっているみたい。
海兄ぃごめん。
ちょっと、きつい言い方をするけど、海兄ぃなら大丈夫だよね?
「……海兄ぃ、私はいい訳が聞きたいわけじゃないよ。」
正直、この時に私は嫌な奴だったとは思うけど。
でもやっぱり、こう言う時はキッチリとしなきゃダメなんだよ。
海兄ぃだって分かっているはず。
海兄が一人で考えたのだから、後は私が後押しをしてあげなくちゃ。
「別に私は怒っている訳じゃない。ただ、海兄ぃの気持ちが知りたいだけ。今の海兄ぃからは、あまり気持ちが伝わらないよ」
そんな私の言葉に、一言だけ聞こえる。
『………ごめん』
海兄ぃはやっぱり凄い。
自分の間違いをすぐに認めた。
声で分かる。
普通なら、そんなすぐに自分の悪い所を認められないよ。
もう大丈夫だとは思うけど、最後に、一つだけ。
「海兄ぃは、一つだけ勘違いしてるよ」
海兄ぃは静かに聞いている。
そんな海兄ぃに、私は続けて言った。
「私に謝ったって、エメリィちゃんの心には届かないんじゃないかな」
私の言葉を聞いた海兄ぃは、言葉を失っているみたいだった。
少し言い過ぎたかも知れない。
私がそう思った時、
『……琴音……ありがとう』
その言葉には、ちゃんと気持ちがこもっていた。
ちゃんと、海兄ぃは分かってくれた。
私の言葉に文句も言わず、静かに聞いてくれた。
海兄ぃ、頑張れ。
「うん。海兄ぃの考えがまとまるまで、私、待ってるから」
私は、海兄ぃにそう告げると、受話器を置いた。
今の海兄ぃだったら大丈夫。
でも、ちょっと偉そうに言いすぎたかもしれない。
海兄ぃ、ごめんね!
そのとき、お母さんの声が聞こえた。
「ごはんよー」
お母さんの優しい声とともに、ごはんのいい匂いが鼻をくすぐる。
私は、お母さんが待っているであろうリビングに向かった。
リビングのドアを開けると、刺激的な匂いが漂う。
そして、テーブルの上にはきれいに並べられたカレーライス。
とてもおいしそう。
そのとき、階段をドタドタと降りてくる音が聞こえ、すぐに秋兄ぃとエメリィちゃんが来た。
「お、今日のはうまそうだな」
食卓に並べられたカレーライスを見て、秋兄ぃが分かりやすいほどに喜んでいる。
まるで子供みたい。
「やったー、カレーなんヨ♪」
エメリィちゃんもとても嬉しそう。
それぞれ、いつもの場所に座り、エメリィちゃんは、秋兄ぃの隣に座った。
なんか、凄い仲良くなっているみたい。
それよりも、今は夕食をたべよう。
「いただきまーす」
私は、両手を合わせながら言い、カレーを食べ始めた。
「そういえばさ、お前、カレー食べたことあるのか?」
とてもおいしそうに食べているエメリィちゃんに、秋兄ぃがきいた。
たしかに、エメリィちゃんの星にはカレーなんてあるのかな。
私も気になってきた。
「食べたことはないけど、本で読んだから知っているんヨ」
「へぇ」
地球の食べ物が書いてある本とかあるんだ。
ちょっと見てみたいかも。
「ずっと前から食べてみたかったんヨ♪」
「味はどうかしら?」
お母さんが、エメリィちゃんに聞いた。
「こりゃたまらんヨ」
「あらそう、なら良かったわ」
エメリィちゃんの言い方に、思わず笑ってしまったお母さん。
もうすっかり馴染んでいる。
……本当にこんな簡単でいいのかな…?
私は少し、どこか納得ができなかった。
でも、まぁ、エメリィちゃんも楽しいみたいだし……まぁいいか。
「おかわりー♪」
すぐに食べ終わったエメリィちゃんが、お母さんにお皿を差し出す。
食べるの早いなぁ。
「はいはい」
差しだされた皿を受け取り、隣の部屋の台所へと向かうお母さん。
お母さんも、もう一人娘が出来たみたいで嬉しいんだと思う。
......そんな事を話しながら、夕飯を食べ終えた。
エメリィちゃんは、あれから五回おかわりをしていた。
あの体のどこに入るのだろうか。
とにかく驚いたよ。
お母さんが、皆の食器を片づけ始める。
「あ、私も手伝うよ」
「あら、ありがと」
自分で食べたものぐらい、自分でやるのが当然だからね。
お母さんと一緒に、食器を持って台所まで行き、二人でそれを洗う。
四人分だけなので、すぐに洗い終わった。
「手伝ってくれてありがと。エメリィーヌちゃんと一緒にお風呂でも入ってらっしゃい」
濡れた手を、白い無地のタオルで拭きながら、お母さんが言った。
「わかったよ」
私は返事をして、二階で秋兄ぃと遊んでいるエメリィちゃんを呼びに行った。
―――――――海兄から電話があってから二時間近くがたった。
「あいつこねぇし、俺は寝るよ」
大きなあくびをして、自分の部屋のベットに横になる秋兄ぃ。
「うん、私はもう少し起きてる」
海兄ぃなら、多分来る。
そんな気がする。
「あまり夜更かしするなよ?エメリィーヌ」
「フッ、それはどうかなんヨかな?」
「あまり遅くならないようにするよ」
さっきまで楽しく遊んでいたこともあってか、どうやら眠れないみたい。
まだまだ元気のエメリィちゃん。
あんなにはしゃいでたら、普通疲れて眠くなると思うんだけど……
まぁいいや。
「じゃあ寝るわ、おやすみー」
「寝るなんヨ!今寝たら蹴るんヨ!!」
……とっても元気。
「まだまだだな、俺の眠りはそんな事では妨げられないぜ!!」
はぁ、眠いんじゃなかったの?
眠いにもかかわらず、エメリィちゃんとふざけあっている秋兄ぃ。
「くそっ、なかなかやるんヨね!なら、今寝たらずっと、ホラー映画の悲鳴の所だけを聞かせ続けてやるんヨ!!!」
「おい、それだけはやめてくれ!マジで死ぬ!!」
秋兄ぃが、慌てて飛び起きてエメリィーちゃんを説得している。
まったく……すごく怖がりなんだから。
まぁ、怖がりじゃなくても嫌だけどね。
「つーか、お前ら早く部屋から出てけよ。俺は眠いんだよ」
「あ、ごめん。おやすみ」
部屋の電気を消し、秋兄ぃの部屋から出て、階段を下りる。
リビングをのぞくと、お母さんが寝てしまっている。
よほど疲れていたのだろう。
お母さんは、内職をしている。
なんでも、『趣味の一つぐらいはあった方がいいらしく、どうせするならお金になる方がイイじゃない?』らしい。
そんな感じで一年前に始めた趣味を、私もたまに手伝ったりしている。
あの飽きっぽいお母さんが、なぜ一年も続くのかと聞かれたら、『お金』と答えることしか出来ない。
だけど、それでも良く続くなぁとは思う。
そんな事もあって、だいぶ疲れているみたい。
「お母さん、ご苦労様です」
私はそんなお母さんに毛布をかけ、台所で海兄ぃを待つことにした。
「エメリィちゃん。眠くないの?」
隣で台所にある椅子に座りながら、足をぶらぶらさせているエメリィちゃん。
「大丈夫なんヨ!」
「そうなんだ」
たしかに、眠そうには見えないね。
見るからに遊び足りない感じ。
元気だなぁ。
それからも、エメリィちゃんと どうでもいいような話をしながら海兄ぃを待った。
しばらくしてから、ふと、時計を見てみる。
時計の針は、11時丁度を指していた。
『ふぁ~』と、エメリィちゃんが大きなあくびをする。
エメリィちゃんも眠たそうだし、どうしようか悩んでいた時。
外で『キィィ』と言う自転車のブレーキの音が聞こえた。
私は、窓から外の様子を確認すしてみた。
そこには、息を切らせて自転車に乗っている海兄ぃの姿があった。
やっぱり、海兄ぃは来た。
少し嬉しくなり、慌てて玄関に走り、ドアを開けた。
ドアをかけた瞬間、海兄ぃが驚いたようにこちらを見る。
そして、海兄ぃが言った。
「琴音、足大丈夫なのか?」
心配そうな顔で、聞いてきた。
足?
そう思いながら、自分の足に目線を落とす。
その足には包帯が捲かれていた。
「ああ、エメリィちゃんの超能力で、なんとか………ね」
すっかり忘れてた。
思い出したら、ちょっと痛くなってきたかも。
「なるほど」
「まぁ、治ったわけじゃないけどね」
完全に治すと、それが癖になって体の抵抗力が弱くなるのだとか。
『だから、本当につらい時ぐらいしか、この超能力は使わないんヨ』と言っていた。
とにかく説得力があったので、あまり頼らないようにしよう。
そのとき、夜中の冷たい風が、体を震わせる。
すこし寒い。
「とりあえず、あがって」
このままだと風邪をひきそうなので、海兄ぃを家に上げる。
そして、台所へと案内した。
台所に着いたとき、海兄ぃがエメリィちゃんを見て言った。
「よく、エメリィーヌに合うサイズがあったな」
「ん? ああ、パジャマの事ね。私のお古だよ」
なんか海兄ぃって、普通の人なら気にならないような事を聞いてくるよね。
確か昔も、『なぜ指って五本あるんだろうな?』とか言っていたような気がする。
まぁ、誰も予想できないような事を普通にするから、海兄ぃは一緒にいて飽きないんだけどね。
そして、海兄ぃは時間の事を思い出したのか、エメリィちゃんに言った。
「エメリィーヌ? こんな時間まで起きていて大丈夫なのか?」
普通は、パジャマよりもそっちが最初だと思うんだけどなぁ。
エメリィちゃんまで起きているのは、思ってなかったみたい。
静かに驚いている。
海兄ぃが来たのが嬉しかったのか、エメリィちゃんは少し嬉しそうに答える。
「ウチは夜行性なんヨ」
「へ、へぇ」
海兄ぃを見ると元気になったのか、すっかり眠気が吹っ飛んだみたい。
また、いつもの調子に戻るエメリィちゃん。
海兄ぃもまた、そんなエメリィちゃんを見て、少し安心しているようだった。
「ごめんね。こんな所で。他の部屋はみんな寝てるから」
せっかく来てくれたのに、台所は無いだろうと思い、とりあえず謝っておく。
「いや、俺のほうこそ夜中に突然……ごめんな琴音。エメリィーヌも起きていてくれてたみたいで」
海兄ぃが言った。
その言葉には、もう前のような感じはしない。
二時間ちょっとで、すっかり変わった。
何と言うか、全体的に優しいオーラが…上手く説明ができないが、雰囲気が変わっている。
そしてとうとう、海兄ぃが切り出す。
「………琴音、エメリィーヌ。話があるんだけど」
その顔からは、真剣さがすごい伝わってくる。
そんな海兄ぃの言葉に、私は優しく答える。
「……なに?」
「……なんヨ?」
エメリィちゃんも、茶化さないで聞いている。
所かまわずふざけている訳ではないらしい。
海兄ぃは椅子から離れると、まず私のほうを向き頭を下げる。
「ごめん!!」
ただ一言だけ。
だけどその一言には、海兄ぃの気持ちのすべてが詰まっていた。
海兄ぃはやっぱり凄い人だ。
秋兄ぃの親友なのが信じられないほど。
そんな海兄ぃの言葉のどこに、許せない部分があるのだろうか。
そんなもの、あるわけ無いに決まっている。
「………うん。許してあげる」
私も海兄ぃに向けて、すべての気持ちを込め言った。
「いろいろありがとうな、琴音」
私の言葉を聞いて、海兄ぃがゆっくりと頭をあげる。
その顔は、とてもスッキリした表情になっている。
だがすぐに、真剣な表情に戻った。
そしてエメリィちゃんに向き合い、また頭を下げる。
それと同時に、エメリィちゃんも凄く真剣な表情になる。
「あと、エメリィーヌ。ごめん。本当に悪かった」
その言葉をきいて、エメリィちゃんは優しく微笑んだ。
「いいんヨ♪」
エメリィちゃんは、いつもの調子で言った。
頭をあげた海兄ぃの表情は、心から安心した表情。
そして、私のほうを見ると、海兄ぃが言った。
「後で秋にも、俺が謝ってたって伝えてくれるか?」
「うん」
私は、力強く頷いた。
そのとき、ふと気配を感じ、ドアのほうを見た。
閉めたはずのドアが、少しあいている。
本当に少しだけだ。
何かと思い見ていると、そのドアがゆっくりと閉まる。
そのあと、ゆっくりと。
そして、静かに階段を上がる音が聞こえた。
――――そのあとは、海兄ぃのおなかの音で、一気に場がなごみ始めた。
そんな海兄ぃに、おにぎりを作ってあげ、色々楽しく話もした。
そして、はしゃぎすぎて調子が悪くなったエメリィちゃんを寝室で寝かせ、その場は解散となった。
そのあと、私は海兄ぃを見送るために、玄関の外についてった。
「おやすみ」
海兄ぃにあいさつをする。
「ああ、おやすみ」
自転車をまたぎながら、海兄ぃもそれにこたえる。
勢いよく漕ぎ出していく海兄ぃに、何も言わず静かに手を振る。
すると、海兄ぃも手を振り返してくれた。
私は、海兄ぃの姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。
その時、突然後ろから声がする。
「あいつ行ったか?」
「うわっ!!」
柄にもなく驚いてしまった。
声のした方を見ると、秋兄ぃが、パックの牛乳を持って立っていた。
「もう、飲むならコップ使いなよ」
「いいじゃねぇか、残り少なくて、全部飲める時しかやってねぇんだから」
「まぁそうだけどさ」
そのまま飲むのはやめてもらいたい。
なぜなら、飲みながら歩き回るもんだから、所々にこぼれているから。
掃除するのは私なんだよ?
というか、いい年してこぼさないでよ。まったく。
「そうそう、秋兄ぃに謝ってたよ。海兄ぃ」
私は、海兄ぃに頼まれた事を伝えた。
「ああ、知ってる」
「やっぱり、秋兄ぃ聞いてたんだ。」
ドアの前で立ち聞きしていた秋兄ぃ。
なんだかんだ言っても、やっぱり気になっていたんだと思う。
でもなんで、陰でこっそり聞くような真似をしたのだろう?
「秋兄ぃも、顔出せばよかったのに」
なんか無性に気になったので、聞いてみた。
「俺は、あの張りつめた雰囲気苦手なんだよ」
そう言うと、牛乳を飲み始めた。
やれやれ。
まぁ、秋兄ぃにも色々考えがあっての事だと思う。
そういうことにしておく。
海兄ぃの事が終わって気が抜けたのか、急に睡魔が襲ってきた。
「とりあえず、眠いから寝るよ」
「おう、おやすみー」
「おやすみなさい」
秋兄ぃと、あいさつをかわし自分の部屋に向かう。
そして、ベッドの布団にもぐりこんだ。
今日は色々あったなぁ。
サイクリングに行って、エメリィちゃんに会って。
海兄ぃとも言い合って。
色々と楽しい一日だった。
明日も楽しくなるといいなぁ。
今日よりももっと――――そう願いながら、私は目を閉じた。
第9.5話 完
追記:
どうもです^^ご愛読ありがとうございました^^
少々長くなってしまいまして^^;
呼んでくれた方々には感謝しています^^ありがとう。
最後の所の、『目を閉じた』は、けしてご臨終したわけではありませんからねw
と、いうわけで、次回は何が起こるのでしょうか?
では、次回をお楽しみに!!!